※この作品はR-18です。

温泉旅行   作:姫宮 伽那

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Scene 6: 上になって

 名残のキスを終えても私の腰はまだ彼を離していなかった。彼は私の中で、確かな硬さを保っている。その存在感が私の中の火を消させない。荒い呼吸が少しずつ整ってきて、冷静さが戻ってくるにつれて私はまた別の何かを感じ始めていた。さっきの波は引いたのに、もっと奥の方でまだ火が燻っている。その火が、私に何かを囁いている。

 

「いいよね」

 

 気づいたときにはそう口にしていた。訊ねる形ではあったけれど、返事を待つつもりはなかった。私は両手を彼の胸に当てて、体重をかける。彼が抵抗する間もなくそのまま押し倒す。布団の上に背中をつけた彼の上に、私は跨った。倒れるとき彼は少し驚いた顔をした。その顔が面白くて、私は少しだけ笑ってしまった。でも笑ったのはそこまでだった。

 

 私は両手を彼の胸についてゆっくりと腰を沈める。彼がさらに深く、私の中に入ってくる。角度が変わってさっきまでとは違う場所を彼が押す。その感覚に、私は思わず息を呑んだ。彼の喉からも低い声が漏れる。その声が嬉しかった。私が動かしている。私が彼をそうさせている。その事実が、私の腰を自然と動かした。

 

 前へ、後ろへ。ゆっくりと、確かめるように。自分の体の内側で彼の形をなぞる。どの動きが気持ちいいのか、どこまで動けばいいのか私は自分の体で実験していた。誰に教わるでもなく、体が勝手に答えを出していく。高校までの私なら、こんなこと考えもしなかった。こんな自分がいることすら知らなかった。でも今は、知っている。知ってしまった。

 

 彼の手が、私の腰に触れる。支えるように導くように。その手のひらが熱い。私はその手に少しだけ体重を預けて、動きを速めた。前後に振るたびに彼が私の中で擦れる。その摩擦が、じんじんと熱を生んで体の奥へと伝わっていく。呼吸が浅くなる。背中が反る。汗が、首筋から鎖骨へと流れ落ちる。行灯の光が汗を照らして、私の肌が少しだけ光って見えた。彼が見ている。その視線が、さらに私を燃やす。

 

「気持ちいい」

 

 私は言った。彼にではなく自分に確かめるように。彼は何も言わずに頷いた。その表情は少し苦しそうで、でも嬉しそうだった。私はもっと動いた。速く、深く。腰を振るたびに布団が擦れる音がする。畳の上で、ふたりの影が揺れる。そのリズムが外の虫の音と混ざり合って、この部屋だけが世界のすべてになったような気がした。

 

 私の体の内側でまた波が来始める。今度はさっきよりもずっと早く、ずっと激しく。私はそれを止めなかった。止めたくなかった。彼の上で、私は自分の体のままに動いた。誰のためでもない。私のための快感。自分の体で感じる、自分のための絶頂。それが近づいてくる。私は両手で彼の胸を掴んで、腰を振り続けた。息が上がる。視界が白み始める。

 

「っ、もう」

 

 言いかけて、言葉にならなかった。波が来た。さっきよりも強く、深く。体の芯から何かが弾ける。私は声を上げた。彼の名前を呼んだ。何度も。腰が震えて、動きが乱れる。それでも私は自分で動き続けた。波の頂点で、自分から動いているという感覚が何よりも心地よかった。自分で選んで、自分で動いて自分で達した。その事実が、私の中の何かを確かに変えた。

 

 波が引き始めると、私は糸が切れたように彼の上にもたれかかった。彼の胸に顔を埋める。汗と汗が混ざる。彼の鼓動が、直接私の頬に響く。速い。まだ速い。彼はまだ硬いまま、私の中にいた。彼の手が私の背中を撫でる。何も言わない。ただ、撫でる。その静けさが今はとてもありがたかった。

私は彼の胸の上でしばらくそのまま動けなかった。体の力が全部抜けてしまったみたいだった。でも、心は満たされていた。さっきまでとは違う満たされ方で。誰かに与えられるのではなく、自分で掴み取った何か。その感触を私は胸の奥にしまっておこうと思った。いつか思い出せるように。大学生の、七月の終わり。山あいの宿で私は初めて自分で自分を満たした。

 

彼が私の髪にキスをした。その優しさに私はゆっくりと体を起こす。まだ終わっていない。彼の中の熱が、それを教えていた。

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