※この作品はR-18です。

温泉旅行   作:姫宮 伽那

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Scene 7: 後ろから

彼の手が私の腰を掴む。今度はさっきまでとは違う力強さだった。もたれかかっていた私の体を、彼はゆっくりと起こす。その動きに逆らわずに体を浮かせると、彼が私の中から抜けていく。急に空いた感覚に、私は小さく息を漏らした。彼はそれには答えず、私の腰を支えながら体の向きを変えさせる。彼が後ろに回る。その意味を、私は体で理解した。

 

畳の上に手をつく。布団の縁が指先に触れる。四つん這いの体勢になると、浴衣はもう完全に腰のあたりに落ちて背中が夜の空気に晒された。行灯の光が背中を撫でる。彼の気配が、すぐ後ろにある。その気配だけで私の背筋が震えた。彼の手が、私の背中をゆっくりと下る。首の付け根から背骨を辿って腰へ。その手のひらが熱い。汗ばんだ肌に、彼の指が吸いつくように触れる。

 

「大丈夫?」

 

彼の声は、さっきより少しだけ掠れていた。私が頷くと、彼の手が私の腰を掴む。両手でしっかりと。その力強さに、私は自分の体が彼のものになりそうな感覚を覚えた。いや、違う。彼のものになるのではない。彼と私が、ひとつの形になっていく。そんな感覚。

 

彼が入ってくる。さっきまでとは違う角度で。私の内側の、まだ触れられていなかった場所を彼が押し広げる。私は息を呑んだ。声にならない声が喉の奥で詰まる。今まで感じたことのない圧迫感。それが痛みではなく、もっと深い何かとして私の体の芯に届く。彼がゆっくりと動き始める。その動きは、さっきまでのどのリズムとも違っていた。

 

前から抱かれているときは、彼の顔が見えた。彼の目が見えた。でも今は見えない。彼の呼吸だけが、背中のすぐ後ろで聞こえる。その見えないという事実が、私の感覚を研ぎ澄ませていく。皮膚の一枚一枚が、彼の動きを感じ取ろうとしていた。彼の腰が私に当たる音。布団が擦れる音。ふたりの呼吸。そのすべてが、私の中で混ざり合う。

 

彼の片手が私の腰から離れ、背中を伝って前へ回る。私の胸に触れる。その手のひらに体重を預けるように、私の背中が反った。角度が変わる。さっきよりもずっと深い場所を彼が突く。私は声を上げた。抑えることを忘れていた。もう、抑える理由がなかった。誰も聞いていない。この山あいの宿で、今この部屋にいるのは私と彼だけだった。

 

彼の動きが速くなる。腰を掴む手に力がこもる。その力強さが、私の体の内側の何かを呼び覚ましていく。私は畳に手をついたまま、彼のリズムに合わせて腰を動かした。前後に、彼の動きに応えるように。汗が額から落ちて、布団の白いシーツに小さな染みを作る。その染みをぼんやりと見ながら、私は自分の体がまた波を打ち始めるのを感じていた。

 

今度の波は、前の二回とは違う。もっと内側からもっと深いところから。彼が私の内側の、一番奥の場所に触れるたびにそこが小さく痙攣する。私はそれを感じながら、ただ彼を受け入れた。彼の名前を呼ぶ。さっきよりも、ずっと自然に。その声に応えるように彼がさらに深く私を抱く。片手は胸に、片手は腰に。その二つの手が私の体を確かに彼のものとして支えている。

 

最初の波が来た。前から抱かれたときとは違う、内側からせり上がるような絶頂。私は背中を大きく反らせて、声を上げた。彼の手が私を支える。その支えがなければ、崩れてしまいそうだった。波が引く間もなく、次の波が来る。二度目。さっきよりも早くそして深く。私はもう声も出せなかった。ただ、彼の手の中で震えていた。

 

「すごい」

彼が後ろで呟く。その声が遠くで聞こえる。私の意識は、まだ波の中にあった。彼がまだ動いている。その動きが、私の波をさらに長く引き延ばす。私は畳に額をつけた。もう体を支えていられなかった。彼の手だけが、私をここに繋ぎ止めている。その手のひらの熱さが、今の私のすべてだった。

やがて、彼の動きもゆっくりになる。彼の呼吸が私の背中に当たる。荒くて、熱い。私はまだ震えていた。体の内側がまだ痙攣している。彼がゆっくりと私から抜ける。その瞬間の感覚に、私は小さく息を漏らした。彼の手が私の背中を撫でる。汗を拭うように、労わるように。私はそのまま、畳の上に崩れるように横たわった。体の力が、全部抜けていた。でも心は今までで一番満たされていた。見えない場所で、見えない形で私は彼と繋がった。その感覚が、体の奥にまだ残っている。彼が私の隣に横たわる。天井を見上げる。ふたりの呼吸が、少しずつ同じリズムになっていく。外では虫の音がまだ続いていた。夜は、まだ終わらない。

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