主人公side
爺さんと話をしたあの日から数日、俺は休む暇も無く車の中に詰め込まれ目的地へと運ばれている。
「あと数分で目的地に到着します」
「了解したよ」
隣に座っている響が返事をする。
「・・・所で、お聞きしたいのですが、彼は何故拘束具をつけているので?」
そう、今の俺は両手両足を縛られ猿轡までかまされてる状態だ。
「おへがひひはいふらいは(オレが聞きたいくらいだ)」
「君が暴れるからだろう?」
「ほんはほほはれはらはれはっへひへふわ!(こんな事されたら誰だって逃げるわ!)」
「何を言ってるか分からないね」
ならせめて猿轡ぐらい外せと視線で訴えるなか、車が止まる。
「目的地に着きました」
「ありがとう」
そう言った響は1人降りると俺のドアを開けて俺を担ぐ。
「ははへ!(離せ!)」
「あまりジタバタしないでくれるかな?持ちづらいよ」
「ウガ〜〜〜〜〜!」
「・・・大丈夫なのか?あの人達」
鎮守府正面入口
「・・・遅いですね」
今日はこの鎮守府に新しい提督が着任する日だ、しかし予定の時刻よりも30分は遅れている。
「トラブルでもあったのでしょうか?」
そんな風に考える中1人の少女が何かを担ぎながらこちらに歩いてくる。
「遅れてしまったみたいですまないね」
「あぁいえご無事なら大丈夫です、それで貴方は?」
「本日からこの鎮守府でお世話になる暁型駆逐艦2番艦響だよ」
「そうですか私はこの鎮守府で提督のサポートをさせてもらっている軽巡洋艦大淀ですよろしくお願いします、響さん」
「ハラショー」
「所でその肩に担いでいるものは?提督の姿め見えませんが一体どちらに?」
「あぁそれなら・・・」
「いいはへんほろひやはれ!(いい加減降ろしやがれ!)」
「え?」
「すまないね、コレが今日からこの鎮守府に着任する提督だよ」
「あのー、何故こんな事に?」
「彼の趣味さ」
「ふはへんは!(ふざけんな!)」
「・・・違うみたいですが」
「恥ずかしがり屋なんだ」
「は、はぁ、と、とりあえず一旦司令を離してもらっても大丈夫ですか?それじゃあ自己紹介も出来ませんし」
「それもそうだね」
響はそう言うと俺を地面に落とし、猿轡をとる、それを大淀は俺の事を心配そうに見てくる。
「ガハッ、お前もう少し優しく降ろせよ!」
「すまないね、ついうっかりだ」
「何がうっかりだ、俺の事を怨んでるのは分かるが、これは違うだろ」
ブツブツ文句を言っていると大淀が俺に話しかけてきた。
「あの〜、よろしいでしょうか?」
「ん?あぁ悪ぃな待たせちまって、こいつ、あっちに行ったりそっち行ったりしやがってな、真っ直ぐ進めば良いものを」
「はぁ」
大淀は困ったような顔をしている。
「ただ歩くだけじゃつまらないからね」
「お前な」
「あ、あのとりあえず提督のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?こちらも新しい提督が着任するとしか聞かされていなくて」
「爺さんの野郎、まぁいい、俺の名前は黒鷹雷牙だ、階級は少尉になる」
「黒鷹司令ですね、先程も説明しましたが、私は軽巡洋艦大淀です、基本的には大本営からの指令伝達を担当しています、本日よりよろしくお願いします」
「・・・あぁ」
「?それでは中を案内しますね」
響が俺の拘束具を外す、俺達は大淀に連れられ鎮守府の中を案内される。
「まずここが工廠になります、艦娘達の抜錨、入渠や装備開発等が行えます」
大淀が説明をしてすぐに1人の女性がこちらに歩いてくる。
「あれ?大淀どうしたの?今日は何か開発あったっけ?」
「もう明石ったら、今日は新しい提督が着任する日でしょう?」
「あ、あれ?そうだっけ?そうだったかも・・」
明石と呼ばれた女はこちらに向き直って自己紹介する。
「初めまして、この鎮守府で装備開発や艦娘の調整を任されている工作艦明石です」
「俺は黒鷹雷牙だ好きに呼べ」
「私は響だよ」
「そう?ならよろしく黒鷹さんに響ちゃん、あれ?でも響ちゃんその格好・・・」
「もう明石ったら!普通そう言われても上官には司令とか提督を付けなさい」
「ご、ごめんって大淀、そんな怒ること無いじゃん」
「俺は別に構わんぞ?」
「ほら黒鷹さんだってそう言ってるもん」
「あーかーし〜!」
「ヒエッ、わ、私やる事思い出したので!また後で!」
そう言って工廠の裏に走って向かう明石、めちゃくちゃ速ぇな。
「ハァ、すいません司令いつもあんな感じですので」
「いつもね・・・」
元気一杯で人懐っこい感じで話かけてきたが、目が笑っていなかった。
「随分めんどくせぇ所に来たみたいだな」
「?今何か?」
「1人言だ、気にすんな」
「そうですか、では次に行きましょう」
少し歩いた俺達は開けた場所に出た。
「ここは食堂になります、基本艦娘達や提督がここで、食事をとります、今は・・誰も居ないみたいですね」
「誰も居ないねぇ」
視線は感じるがな、1人や2人じゃねぇな最低でも10人いやもっとか。
「大淀さんそちらが本日からこの鎮守府に来られた提督さんですか?」
「あ、間宮さん、はいそうなります司令紹介します、彼女がこの食堂で食事を作っている」
「給糧艦間宮です、本日からよろしくお願いします」
「おう、俺は黒鷹雷牙だ好きに呼んでくれ」
「私は響だよ」
「はい、では黒鷹さんと響ちゃんと呼びますね」
「もう、間宮さんまで」
「あら、いけませんでしたか?」
「いや、もう良いです、司令も気にしない方の様ですし」
「なぁ、あそこは何だ?」
俺は今は閉まっている小さな屋台を指さす。
「あぁ、あそこは鳳翔さんが夜になったら居酒屋を経営しているんです」
「居酒屋?」
「はい、艦娘からの強い要望と鳳翔さんからの希望で」
「へぇ、酒が飲めるのか」
「ほう、それはいいな」
「まぁ、最近は忙しいみたいで、中々経営していないのですが」
「そいつは残念」
「それとここから左手にある通路は艦娘達の遼になっておりますのであまり入らないようにお願いします」
「分かった」
視線のほとんどはあちらから感じていたがあっちに遼があるからか。
「では次で最後になります」
また少し歩いた俺達は提督室と書かれた扉の前に来る。
「こちらが提督室になります、司令の執務場所ですね、その隣が司令の私室になっており、両部屋は中で繋がっています」
「まるで働けと言わんばかりだな」
「私からは何とも」
苦笑いする大淀。
「そしてあちらに見えるのが作戦室になります、通常の作戦の他大規模な作戦等の指示や計画をする場所です」
そう説明されると作戦室の中から2人の女性が出てきた。
「む?あぁ、今日は新しい提督の着任日か」
「もう長門ちゃんたら、先に挨拶でしょ?初めまして司令長門型2番艦陸奥よ、一応ビッグ7の一艦よ」
「あぁそうだな、すまない、私は長門型1番艦長門だ、同じくビッグ7のひとつだ、これからよろしく頼む」
長門は俺に向かって手を差し出してくる。
「俺は黒鷹雷牙だ、好きに呼べ」
俺は握手はせずに自己紹介だけすませる、長門の視線が一瞬鋭くなった。
「・・・そうか」
「な、長門さんはこの鎮守府で作戦指揮の補佐や現場での指示を担当してくれています」
大淀は慌てながら長門の説明をする。
「へぇ、なら安心だな」
「・・・何がだ?」
「お前が居るなら俺はお前達に指示だししなくて済むってわけだろ?楽で良いじゃねぇか」
「貴様!それでも提督か!」
「長門ちゃん落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるか!こいつは提督としての職務を放棄すると言っているのだぞ!」
「はぁ?放棄するなんて誰が言ったよ」
「では今のはどうゆう意味だ」
「なに、簡単な事だ、お前に丸投げするって意味だ」
「貴様!それが職務を放棄していると言ってるのだ!」
「別に仕事をサボる訳でもないぞ?書類仕事はやってやる」
「貴様!」
「な、長門さん落ち着いてください、司令もそんなこと言わずに職務を全うしてください」
「・・・長門ちゃんここは一旦、ね?」
「陸奥・・・分かった、だが私はお前を認めんぞ」
長門と陸奥は俺に背を向けここから去る。
「・・・何も言わねぇのか?」
響は先程から何も言わずに黙って聞いていた、てっきり電流を流されるもんだと思っていたんだがな。
「私が決めることじゃないからね」
「そうかよ・・・」
「司令何故あんな事を言ったのですか?」
大淀が困りながら説明を求めてきた。
「別に、今のは本心だ」
「そう、ですか」
「お前も俺に何も言わねぇんだな」
「・・・」
「爺さんか」
「!何故、そう思うのですか?」
「今日会った艦娘は見た所大なり小なり俺に対して警戒をしていた、だがお前は違う、お前は会った時から俺に対して普通に接していた」
「それだけで決めつけるのは随分捻くれた考えだと思いますが?」
「なら、俺からも質問がある、ここの艦娘は提督に対して良い感情を持っていない、いやそれ所か嫌悪すらしている、違うか?」
「・・・誤魔化すことは出来なさそうですね、はい貴方の言う通りです、ここの艦娘達は前提督により不当な扱いを受けてきました、そこで前提督の不祥事を表に出すため私はこの鎮守府に大本営から派遣されました」
「それで?」
「私が派遣されてから前提督は自らの不祥事を恐れ、艦娘を不当に扱うことを止め、ある程度の軌道修正をすることが出来ました」
「そんで、あの大襲撃か」
「はい、大襲撃時前提督は事前に用意していたであろう抜け道を使いこの鎮守府から私達を置いて逃げ出しました、それからは長門さんが指揮をとり何とか誰1人轟沈せずに生き残ることが出来ましたが、あの日以降艦娘の皆さんは提督に対しては嫌悪感を覚えるようになりました」
「ま、当然だな、そんで前の提督は未だ見つからずってか?」
「その通りです、貴方のことは正直詳しくは伺っておりません、ただ訳ありの提督をこちらに寄越す、それだけでした」
「なるほどな、まぁ大体分かったわ」
「なら良かったです、今日はもうお疲れでしょうからお休み頂いて大丈夫です、一応司令の私室には小さいです台所も付いていますので食堂を利用しない場合はお使い下さい、艦娘の皆さんには明日司令を紹介したく思います、それではお疲れ様でした」
ペコリとお辞儀をした大淀はそのまま歩いていく。
「なら、今日はもう寝るかね」
「そうだね」
俺は私室に入り中を見回す。
「盗聴器の類はねぇみたいだな」
「司令私も今日は休ませてもらうよ」
「ん?あぁ勝手にしろ」
そう言った響は俺の部屋のベッドに横になる、は?何で?。
「おい待て、何でここで寝る」
俺は響の顔面を掴みながら質問する。
「乙女にすることじゃないね」
「良いから質問に答えろ」
「何、簡単な事さ、私の部屋が何処か分からないし、君の監視も私の任務の1つだからこの方が楽だ」
「そうかそうか・・・出てけ」
「ふふふ、良いのかな司令、今私がここで悲鳴を上げたら今嫌われている君は更に嫌われるだろうな」
「知らん」
「変態呼ばわりされることになるよ」
「知るか」
俺は響を外に出そうと出口に向かう、しかし次の瞬間。
「お座り」
「ンババババババ!」
響がそう口にだすと俺の身体に電流が流れる、しかも前とは違って痺れるタイプだ。
「ひ、響テメェ!」
「仕方ないね、不可抗力だ」
「ど、どこが不可抗力だってんだ!」
俺はガバッと立ち上がると響に詰め寄る。
「流石司令、普通の人なら指1本動かせないよ?」
「んなもん人に使うな!」
「まぁ、良いじゃないか減るもんでもないだろう?」
「減るわ!主に寿命がな!」
「司令の?有り得ないね」
ヤレヤレと首を横に振る響、殴りてぇ〜。
「とりあえず今日は休もう司令、おやすみ」
ベッドに横になり毛布を被る響。
「クソが、流石に今から大淀呼ぶのはメンドクセェ」
俺は私室から出て提督室にあるソファの上に横になる。
「まぁこっちの方が慣れてるから良いか」
そう言って俺は目を閉じる。