高望みしない彼は今日もゴミ女とセックスする 作:しゃしゃしゃ
瞼を透かして届く夏の強い光が、休日特有の緩やかで退屈な朝の訪れを告げていた。
今日は珍しく野球部の練習も休みで、正午過ぎまで泥のように眠りこけるつもりだった卓郎は、枕元で激しく振動し始めたスマートフォンに眉をひそめた。
枕元から手を伸ばし、液晶画面に目をやる。ディスプレイに表示された名前は『加賀原 紗羽』。
一瞬、面倒くささに舌打ちしそうになったが、画面を指でスワイプして耳に当てた瞬間、受話器の向こうから粘り気のある甘ったるい声が鼓膜を撫でてきた。
「ねぇ、卓郎ぉ……? 今、起きてた……? ふふ、まだベッドの中だったのかな……?」
語尾に絡みつく不自然な吐息と、隠しきれていない発情した声色。単に電話を掛けてきただけではないことなど、嫌というほど伝わってくる。
「ん……少し寝てたよ。どうしたの、紗羽? 朝から電話なんて珍しいね」
卓郎は少し寝ぼけたようなフリを交えつつ、柔らかい声で応じる。すると電話の向こうで、紗羽が身をくねらせるような衣擦れの音が聞こえてきた。
「あのね、卓郎……。今日は朝からお父さんもお母さんもお仕事で居なくて、私お家でずーっと一人なの……。誰もいないから、すっごく寂しくて……♥ だからさ、卓郎……私のところに来てくれないかな……? 私のお部屋で、二人っきりでお話ししたいの……♥」
「一人で寂しいのか。そっか……ごめんね、気づいてあげられなくて」
「ううんっ! 卓郎が謝ることないよぉ! でもね、私、朝起きた瞬間から卓郎のことばかり考えちゃって……。卓郎が来てくれたら、私、なんでもしてあげるのに……♥ 卓郎だって、私と二人きりになりたいでしょ……?」
甘ったるい妄想と誘惑が混ざり合った言葉が、次々と受話器越しに溢れ出てくる。
本来なら休日の朝から呼び出されるなど鬱陶しい限りだが、今日の卓郎は違っていた。
昨日、クラスの女子に現場を感づかれそうになり、間一髪で言い逃れたあのスリルと緊迫感。その緊張が解けた反動で、卓郎の腹の底では普段以上の支配欲と興奮がドロドロと渦巻いていたのだ。
(……はぁ、相変わらず分かりやすい豚だ。こっちもいい刺激を求めてたところだ)
卓郎は布団から起き上がると、電話越しにこれ以上ないほど甘く優しい、王子様そのままのトーンで語りかけた。
「もちろん、僕も紗羽に会いたいよ。そんなに寂しがらせちゃったら、王子様失格だよね。準備してすぐに行くから、お部屋で可愛くして待っててくれる?」
「本当っ!? 嬉しい……っ! うん、卓郎のためにすっごく可愛くして待ってるね……♥ 早く来てね、私の王子様……♥」
うっとりとした喜びの悲鳴を聞き届け、通話を切る。卓郎はすぐにく私服に着替え、鏡の前で軽く整えて自室を出た。
階段を下りて玄関に向かおうとしたその時、リビングの扉が開き、妹の結衣がジュースのグラスを手に現れた。
「あれ、兄貴? 今日部活休みでしょ。こんな朝からどこ行くの?」
出かけようとする兄の姿に、結衣は意外そうな顔をして首を傾げた。卓郎は瞬時に「面倒なことに巻き込まれて辟易している兄」の表情を作り上げ、大袈裟に深い溜め息をついて見せた。
「……また紗羽だよ。親が留守で暇だからって呼び出されたんだ」
「えぇー……出たよ、またあのデブ。休みの日にまで呼びつけてきたの?」
結衣は心底嫌そうな顔で鼻を鳴らすと、整った顔立ちをニヤニヤと歪めて卓郎をからかい始めた。
「ていうかさぁ、いくらあのデブでも、親がいない家に男子を呼ぶとか度胸あるよね。もしかして兄貴、狙われてんじゃないの? 童貞の兄貴が仮にも女子と部屋で二人きりとか危ないんじゃないの〜? 我慢できるの~?」
「バカなこと言うなよ。あいつは昔からの幼馴染だし、ただの暇つぶしに付き合わされるだけだよ。変な妄想すんなって」
「あはは! 冗談だって! でも兄貴、ホントお人好しすぎてウケるわ。食べられたりしないように気をつけて行ってきなよね!」
結衣の無邪気で浅はかな捨て台詞に、卓郎は困ったような苦笑いを返し、玄関のドアを開けた。
卓郎はポケットに手を突っ込み、紗羽の待つ家へと足早に歩き出した。
インターホンに指を掛けるより早く、重厚な玄関のドアが内側から勢いよく開いた。
「卓郎ぉ〜っ♥ 待ちきれなくてドアの前で待ってたわよ〜っ!」
目の前に広がったのは、薄手の生地を限界まで引っ張られたネグリジェ姿の肉塊だった。パンパンに肥え太った体が勢いよく飛び出し、卓郎の胸元へ倒れ込むように抱きついてくる。
ドスン、という重い衝撃とともに、はち切れんばかりの脂肪の圧迫感が全身を襲った。むせ返るようなきつい香水の匂いが鼻腔を刺し、卓郎は思わず顔を背けそうになるのを必死で耐えた。
「ちょっと、外で抱きつくなんて危ないよ。誰かに見られたら」
「いいじゃない、私の家なんだから! さあ、早く入って入って!」
「近所の目もあるんだからさ。まぁ、中に入ってからゆっくりしよう」
卓郎は苦笑いを張り付けながら、背中に回された太い腕をそっと外すフリをして、紗羽の巨体を屋敷の中へと押し込んだ。
重厚な玄関ドアが閉まり、カチリと鍵が回った瞬間、外の世界から完全に遮断された密室が完成する。
ひんやりとした冷気が漂う広い玄関で、紗羽はすでにウットリとした瞳で卓郎を見上げていた。
薄い生地越しにあふれ出る太ももや腹の肉を揺らしながら、デレデレとした笑みを隠そうともしない。
「えへへ……本当に来てくれた……♥ 卓郎ってば、口では『外で見られたら』なんて冷たいこと言うくせに、ちゃんと私のお願い聞いてくれるんだから……そういう意地悪で優しいところ、だぁい好き♥」
紗羽はパンパンの頬を真っ赤に染め、太い指先を自分の唇に当てながら、うっとりと身をくねらせた。
「お父さんもお母さんも夜まで帰ってこないの。今、この大邸宅には私と卓郎の二人きりなんだよ……? ねぇ、卓郎……二人で何して過ごす……? 私、卓郎となら……なんだって、してあげる準備できてるんだからね……♥」
自分の容姿に対する不都合な事実をすべて都合よく塗り替え、「王子様に愛されるお姫様」になりきっている紗羽。
その肥満体から溢れ出る生々しい執着心と発情した声色に、卓郎の胸の奥では激しい不快感と、それを上回る暗い悦びが同時に渦巻いていた。
(……相変わらず、吐き気がするほど馬鹿な豚だ)
卓郎は表情一つ変えず、優しい王子様の仮面を被り直すと、紗羽の太い肩をそっと抱き寄せるようにして微笑みかけた。
「そっか。両親がいないなら、誰にも邪魔されないね。……じゃあ、まずは紗羽のお部屋に行こうか。下で立ち話もなんだしね」
「うんっ……♥ 卓郎の意地悪……私を焦らそうとしてるでしょ! でも、そういうのも好き……♥」
甘え声を上げ、ドシン、ドシンと床を揺らしながら階段を上っていく紗羽の背中を見上げ、卓郎は冷ややかに口元を歪めた。