高望みしない彼は今日もゴミ女とセックスする 作:しゃしゃしゃ
基本彩綾視点で進みます。
導入なのでエロはないです。
暗い水底へゆっくりと沈んでいくような、生温かい感覚の中で、私はまたあの日の夢を見ていた。
昔の記憶だ。幼かった頃の私。公園の隅っこ、赤錆の浮いたベンチの横で、一人ぽっちで膝を抱えて丸くなっていた小さな自分。
鏡を見るのが大嫌いだった。周囲の大人や同年代の子供たちが私に向ける、どこか哀れむような、あるいは関心を払わない冷ややかな視線。不器用で、器量も良くなくて、何をやってもどんくさい。自分でも「私なんてどうしようもない不細工なんだ」って思い知らされていたから、誰の輪にも入れず、ずっと世界から取り残されたような深い孤独に怯えていた。
そんな、真っ暗で閉ざされていた私の世界に、すっと光みたいに手を差し伸べてくれたのが卓郎くんだった。
『こんなところで一人で何してるの? 一緒に行こうよ』
まぶしいくらいの爽やかな笑顔と、どこまでも優しい声。
周りの誰もが私を鬱陶しがったり無視したりする中で、卓郎くんだけは違っていた。私みたいな不細工でどうしようもない女子を見捨てることもなく、あの日から今日まで、ずっと私の側にいてくれた。卓郎くんだけが、私という存在をあたたかく認めてくれた。
(卓郎くん……私を暗闇から救い出してくれた、私の世界でたった一人の特別な人……)
夢の中で、過去の色々な出来事が激しい濁流みたいにフラッシュバックしていく。
出会った日のこと。
学校の帰り道に二人で歩いた夕暮れの風景。
何気ない日常の会話。
そして――私と卓郎くんの関係が決定的に変わった「あの日」の記憶。
誰にも邪魔されない密室で、卓郎くんと初めて結ばれた、あの奇跡みたいな時間。
正直、最初は怖かったし、体も強張ってすごく痛かった。だけど、そんな痛みの何百倍も、胸の奥から溢れ出す感情の方が勝っていたんだ。
私なんかの「初めて」を卓郎くんが奪ってくれた。私みたいな価値のない女の体を、卓郎くんがその手で抱きしめてくれた。
痛みなんてどうでもよくなるくらい、ただただ愛おしくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。こんな私が卓郎くんのものになれたんだって思ったら、脳みそがトロトロに溶けてしまいそうなくらい幸福で、まるで夢を見ているみたいだった。
あの日を境に、卓郎くんは私を何度も求めてくれるようになった。
卓郎くんが私のことをどう思っているのか、どういう位置付けにしているのか……そんなの、私にはどうだっていい。卓郎くんが私を必要としてくれて、都合よく使ってくれる。それだけでいいんだ。
卓郎くんの大きな手で触れられ、求められるたびに、私の全身は狂おしいほどの愛おしさと快感で満たされていく。卓郎くんのために私の全部が存在しているんだって、肌で感じることができるから。
(好き……好き、卓郎くん。好きで、好きで、もう頭がおかしくなりそうなくらい大好きなの……)
私なんかの体をこんなにも何度も使ってくれる卓郎くん。そんな卓郎くんが、愛おしくてたまらない。ずっとずっと一緒にいたい。お願いだから、これからもずっと、私を見捨てずに使ってほしい。
(ずっと……ずっと私を卓郎くんの玩具にして……)
熱っぽい思考の渦に呑み込まれながら、胸を押し潰すような激しい好意と依存心に震える。
「……ん、ぁ……っ……」
かすかな息遣いと共に、私はゆっくりと瞼を開けた。
カーテンの隙間から差し込む白い朝の光が、見慣れた私の部屋を薄明るく照らしていた。
夢から覚めた後も、胸の奥には卓郎くんへのどろどろとした情愛の熱が残っていて、心臓がトックン、トックンと大きく脈打っている。
掛け布団を跳ね除けて、カレンダーに目をやる。真っ赤な丸印がつけられた今日という日付。
今日は待ちに待った、卓郎くんとの「休日デート」の日だ。
「卓郎くん……今日、会えるんだよね……♥」
私はベッドから跳ね起きると、卓郎くんに少しでも可愛いって思ってもらえるように、期待と歓喜に胸を躍らせながら洗面所の鏡の前へと駆け出していった。
「彩綾、顔を洗い終わったら早く座りなさい。朝ごはん冷めちゃうわよ」
お母さんの長年聞き慣れた声が台所から響き、私は「はーい!」と元気よく返事をして食卓へとついた。
我が家は決して裕福ではない。お父さんは私が幼い頃に出ていってしまってから、お母さんがパートをいくつも掛け持ちしながら、女手一つで私を育ててくれた。
古いアパートの小さなリビングに並ぶ朝食は、焼き鮭のほぐし身と、お味噌汁、それに少し焦げた玉子焼き。質素そのものだけど、そこにはいつもお母さんの温かい愛情が詰まっていた。
「今日の玉子焼き、ちょっと火が強すぎちゃったわね。ごめんね」
「ううん、私はこのくらいカリッとしてる方が好きだよ。美味しい」
お味噌汁の湯気を挟んで二人で笑い合う。貧乏だけど、お母さんとの朝食の時間はいつも穏やかで、和気藹々としていた。
……もちろん、お母さんは何一つ知らない。
私と卓郎くんが、本当はどんな関係になっているのか。私が卓郎くんの部屋や密室で、どんな顔をして彼に抱かれ、どんな言葉を囁かれているのか。そんな生々しい現実を、お母さんは夢にも思っていないのだ。
「今日は卓郎くんとお出かけなんでしょう? ふふ、朝から気合が入ってると思ったわ」
お母さんが嬉しそうに目を細めて言った。
「う、うん……まあね。ただの幼馴染のお出かけだよ」
私は少し慌ててお味噌汁を口に運んだ。本当の理由――卓郎くんに呼び出され、彼に一日中都合よく使われるためだなんて、口が裂けても言えない。
昔から、厳しく口止めされている。『二人の関係は絶対に秘密だよ。もし誰かに言ったら、もう二度と会ってあげないからね』って。
だから私は、お母さんの前でもずっと「仲の良ただの幼馴染」という設定を完璧に演じ切らなければならないのだ。
お母さんはトーストにマーガリンを塗りながら、どこか遠い目をして呟いた。
「でもねぇ……卓郎くんみたいな男前で賢い人と、彩綾が本当のお付き合いをしてくれたら、お母さん安心なんだけどな。彩綾には、絶対に幸せになってほしいから……」
私を心から愛してくれているお母さんの本音。けれど、お母さんはすぐに寂しそうな、申し訳なさそうな苦笑いを浮かべて言葉を続けた。
「……でも、まあ。卓郎くんは学校でもすごく人気があるんでしょう? うちの彩綾じゃ、流石に釣り合わないわよね……」
「お母さん……」
「ごめんね、彩綾。もっと可愛く産んであげられたらよかったのに。こんな顔に産んじゃって、本当にごめんね……」
お母さんは申し訳なさそうに私の顔を見つめ、小さく頭を下げた。
お母さんは昔から、事あるごとにこうやって謝ってくる。自分が不器用で、見た目も決して良くない不細工な人間だということは、私自身が一番よく分かっていた。
鏡を見るたびにガッカリするし、街の可愛い女の子たちと比べたら溜め息しか出ない。
だからお母さんが私を不細工だと思って謝るのも、卓郎くんと私が釣り合わないと思うのも、ごく当たり前のことだった。
(私みたいな不細工な女が、卓郎くんと一緒にいられるだけでも奇跡みたいなものなんだから……)
――お母さんや私自身が自分の顔に強いコンプレックスを持ち、「相原彩綾は不細工で卓郎とは釣り合わない」という認識が完全に固定されていること。……それが実は、幼い頃から卓郎くんが言葉巧みに我が家へ刷り込み、裏で密かに仕組んでいた冷徹な作戦の結果だなんて、私やお母さんが知る由もなかった。
卓郎くんが周囲の認識まで完璧にコントロールしていることなんて夢にも思わず、私はただ、自分を拾ってくれた卓郎くんへの感謝で胸がいっぱいだった。
私は不細工に笑ってみせ、お母さんの手を優しく握り返した。
「何言ってるの、お母さん。気にしないでよ。私、お母さんの子供に生まれて今とっても幸せだよ?」
「彩綾……ありがとうね」
お母さんは安心したように目元を緩めた。
そう、私は幸せなのだ。お母さんには優しくされて、そして世界で一番大好きな卓郎くんには、どんな形であれ全身全霊で愛され、必要とされているのだから。
時計の針が約束の時間を指し示そうとしている。
私は急いで残りのご飯を口に押し込むと、大好きな卓郎くんのもとへ向かうために立ち上がった。