高望みしない彼は今日もゴミ女とセックスする 作:しゃしゃしゃ
待合室に戻ると、説明を終えた両親が沈んだ面持ちでベンチに座っていた。卓郎と凛が近づくと、母親が力なく顔を上げる。
「あ、卓郎くん、凛……すみませんね、待たせちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。叔父さん、叔母さん、手術のスケジュールとか決まりましたか?」
卓郎は気遣うような優しい声色で尋ねた。多目的トイレから戻ってきたばかりの凛は、相変わらず口を小さく開けたアホ面のまま、卓郎の隣でぼーっと佇んでいる。
だが、父親から返ってきたのは卓郎にとって完全に予想外の言葉だった。
「……それがね、卓郎くん。今日すぐ手術をするわけじゃないみたいなんだ」
「えっ……今日じゃないんですか?」
「あぁ。先生が仰るには、妊娠5週目だとまだ時期が早すぎるらしくてね。あと数週間待って、超音波で胎嚢がはっきり確認できるようになってからの方が、吸引法でも安全で確実に処置ができる……一番ベストな時期なんだそうだ」
父親の言葉を聞いた瞬間、卓郎の脳内で冷や汗と激しい悪態が渦巻いた。
(はぁ!? マジかよ……ッ! なんだよそれ、早く言えよクソが!)
真面目な顔で頷きつつも、卓郎の腹の底は苛立ちで爆発しそうだった。
(なんだよ……ッ! 今日手術しねぇんなら、さっきのトイレで凛のマンコにぶち込んでハメ倒してても全然問題なかったじゃねぇか! 無駄に我慢して損したわ……ッ!)
便器の上で腰を抜かせるまでハメ倒す絶好の機会を逃した悔しさがこみ上げてきたが、卓郎はそれを完璧に押し殺した。
神妙な、どこまでも親身な表情を崩さずに深く深く頷いてみせる。
「なるほど……そういうことなんですね。でも、凛の体への負担が一番少ない時期を選ぶのが一番ですし、納得できました」
「ありがとう、卓郎くん……君がそう言ってくれると助かるよ……」
悲嘆に暮れる両親は、卓郎の言葉に救われたように何度も深く頷いた。
「じゃあ、今日は初期検査と超音波の確認だけ受けて帰ることになるから。凛、呼ばれたら中に入りなさいね」
看護師から名前を呼ばれ、卓郎は両親と一緒に、相変わらず事態を何も理解していない凛の背中を押して検査室へと向かわせるのだった。
一通りの検査を終え、自動ドアを潜って病院の外へ出ると、どこか重苦しい空気が再び一行を包み込んだ。
内診や超音波の検査中、凛は不慣れな器具の感触に「んー……」と少しだけ眉をひそめてぐずる場面もあったが、暴れるようなこともなく概ねおとなしく指示に従っていた。
診察室を出た今も、自分が何をされたのかすら分かっていない様子で、卓郎の隣でぽかんと空を見上げている。
だが、凛の両親の表情は、病院に来る前よりも一層暗く沈み込んでいた。
「……はぁ。まさか今日終わらないなんてね……」
駐車場へ向かう道中、母親が力なく肩を落とし、潰れそうな声で呟いた。
「数週間待つなんて、そんな……。その間もずっと、凛のお腹の中には……どこの誰とも分からない奴の……くそっ! なんでこんなことになってしまったんだ……ッ!」
父親はやるせない悔しさに顔を歪め、ぎゅっと拳を握りしめる。
犯人の目星すら全く判らず、誰に怒りをぶつけていいかも分からない理不尽な絶望。その正体不明の影に愛娘を弄ばれ、種を宿されたまま手術の時期を焦らされる。親として、これほど辛くやり切れない拷問はないのだろう。
そんな二人の様子を見届け、卓郎はすぐさま「気遣いのできる頼もしい幼馴染」の仮面を装着した。努めて明るく、けれど哀しみに寄り添う絶妙なトーンで凜の父親の肩に手を置く。
「叔父さん、お気持ちは痛いほど分かります。俺だって……こんな酷いことした奴がいるなんて、思い出すだけで怒りでどうにかなりそうです。でも、今は凛の身体を一番に考えましょう」
「卓郎くん……」
「今焦って危険な状態で手術するより、一番安全な時期を待つ方が、絶対に凛の将来のためになります。だから……今は少しだけ、耐えましょう」
「……あぁ、そうだな。君の言う通りだ……。感情的になってすまない」
特定できない犯人への憤りと理不尽さに潰れそうな父親は、卓郎の真っ直ぐな言葉に目頭を押さえながら深く頷いた。卓郎は間髪入れず、隣で涙を浮かべる母親の方へも向き直る。
「叔母さんも、あんまり自分を責めないでくださいね。帰ったら凛に温かいものでも作ってあげて、みんなでゆっくり休みましょう。……大丈夫です、俺もできる限り二人をサポートしますし、凛のことも側でずっと見守りますから!」
陰りのない爽やかな笑みを浮かべ、これ以上ないほど気遣いの行き届いた言葉をかけてみせる。
「卓郎くん……本当に、ありがとう……っ。君がいてくれて、私達がどれだけ救われているか分からないよ……。凛も、こんなに良い幼馴染がいて幸せ者だね……」
母親は込み上げる涙を拭いながら、感謝の言葉を繰り返した。父親もまた、卓郎の手を強く握り返す。
「本当に感謝しているよ、卓郎くん。この恩は一生忘れない。……これからも凛のこと、頼むな」
「はい! もちろんです!」
自分たちの愛娘をこんな目に遭わせた『真犯人』が目の前にいるとも知らず、両親の卓郎に対する信頼と感謝は、より強固で揺るぎないものへと深まっていく。
(フッ……本当、扱いやすいバカな親だぜ。まさか俺が種付けしたとも知らずに、感謝までしちゃってさ)
絶望と感謝に揺れる両親を内心で激しく嘲笑いながら、卓郎はどこまでも親切で頼もしい『好青年』の顔を崩すことなく、二人を促して車へと乗り込み、鈴木家への帰路に着く。
車は重苦しい空気のまま揺られ、無事に鈴木家へと戻ってきた。
「卓郎くん、今日は本当に何から何までありがとうね。お茶でも淹れるから、少し休んでいって」
「あ、叔母さん、お構いなく。それより俺、ちょっと凛を部屋まで連れて行って話をしてきますね。今日の検査で少し疲れてるみたいだし、落ち着かせてあげたくて」
卓郎が気遣わしげに凛の肩へ手を添えながら提案すると、両親は感極まったような表情で何度も頷いた。
「そうかい……ありがとう、卓郎くん。凛も、卓郎くんと一緒なら安心だろうからね。頼んだよ」
「ええ、任せてください」
二人の全幅の信頼と温かい眼差しに見送られながら、卓郎は凛の手を引いて2階にある彼女の部屋へと向かった。