高望みしない彼は今日もゴミ女とセックスする 作:しゃしゃしゃ
階段を降り切った卓郎は、リビングのドアを開ける前に一呼吸置き、好青年へと表情を切り態えた。
リビングへ入ると、凛の両親が重苦しい表情でテーブルを挟んで座っていた。初めての受診で突きつけられた現実の重みに、彼らの肩にはズシリとした疲労と不安がのしかかっているのが一目で分かった。
「叔父さん、叔母さん……凛、静かに横になりましたよ」
卓郎が声をかけると、父親は深いため息とともに顔を上げた。
深刻な空気に押し潰されそうな二人を見て、卓郎は親身な表情を浮かべながら、その重苦しい雰囲気を和らげるように思い出話を切り出した。
「叔父さん、そんなに落ち込まないでください。……僕と凛が初めて出会ったときのこと、覚えてますか? 近所の公園でのことです」
「公園……ああ、覚えているよ。あの日のことはよく覚えている」
父親は記憶を手繰り寄せるように目を細めた。あの頃の両親は、凛の障害という現実にまだ向き合い切れておらず、誰とも関わろうとしない娘の将来にすっかり希望を見失っていた。
あの日も目を離した隙にどこかへ行ってしまった凛を、必死の思いで探していたのだ。
「あの時、一人でぽつんとベンチに座っていた凛に卓郎くんが声をかけて、一緒に遊んでくれていたのよね……。誰とも親しくなれなかったあの子に、初めて『友達』ができたんだわ。あの光景を見たとき、胸がすーっと軽くなったのを覚えてる」
母親が感銘深そうに目元を緩める。
「ああ。あの子にとって卓郎くんが初めての友達になってくれたからこそ、私たちも前を向けたんだ。今でも本当に感謝しているよ」
父親も深く頷き、温かい眼差しを卓郎に向けた。
(初めての友達、ね……)
卓郎は表面上、どこまでも控えめで爽やかな笑みを深めた。
本当の出会いの理由など、この両親が知るはずもない。あの時、公園で一人ぼっちの凛を見つけた卓郎は、幼いながらに悟ったのだ。何をされても他人に訴える知能がなく、成長すれば最高に扱いやすい「玩具」になる――将来の絶好のセフレ候補として目をつけて接触しただけに過ぎないということを。
下にいる両親が勝手に自分を善人だと信じ込み、感謝を深めれば深めるほど、先ほどまで上で自分が愛娘に何をしていたかという現実が、卓郎の腹の底で暗く甘美な愉悦となる。
「小学校でも、中学校に入ってからも……卓郎くんはいつだって凛の側にいてくれたわね」
母親はお茶のカップに手を添えながら、噛みしめるように思い出を辿った。
「周りの子が少しずつ離れていったり、関わり方に困ったりする中で、卓郎くんだけはずっと変わらずに凛の面倒を見てくれて……。本当にどれだけ救われたか分からないわ」
「ああ、思春期になれば嫌がる子だって多いはずなのに、卓郎くんは嫌な顔一つせず、いつも登下校も一緒にしてくれた。普通なら投げ出したくなるようなことだよ」
父親もまた、頭の上がらないといった様子で深く頷く。
両親の言葉を受け、卓郎は頭の後ろに手をやり、少し困ったような、照れくさそうな苦笑いを浮かべてみせた。
「やめてくださいよ、叔父さん。幼馴染ですから、当然ですよ。それに凛と一緒にいると、僕も落ち着きますしね」
その完璧な誠実な返答に、両親は感心したように表情を緩めた。
(……まあ、実際問題、言葉も通じねぇアホの世話なんて面倒くさくて吐き気がする作業だったけどな)
卓郎は心の中で冷たく舌を打っていた。
学校で凛が起こすトラブルの宥め役になり、会話にもならない相手の世話を焼き続けるのは、骨の折れる作業以外の何物でもなかった。だが、その膨大なストレスと手間には、あまりにも見合うだけの見返りが存在した。
世話という名目で凛を自分だけの存在として囲い込み、完全に支配できる環境。さらに言えば、凛が年頃になるにつれて肉体的に非常に魅力的で健やかに成長していったことは、卓郎にとっても嬉しい誤算だった。
両親が「無償の優しさ」と信じて疑わない行動のすべては、卓郎にとって自らの歪んだ欲求を満たすための当然の対価に過ぎなかった。
「本当に……卓郎くんには足を向けて寝られないわね」
「卓郎くん……嫌では、無いのかい?」
父親が重い口を開き、消え入るような声でポツリと漏らした。
「凛が、その……こういうことになってしまって……」
その言葉の裏にある「意図」を、卓郎は瞬時に見透かした。
(ハッ、要するにそういうことか)
『君は凛のことが好きだったんじゃないのか? だからこそ、あそこまで身を粉にして世話を焼いてくれていたんだろう?』
『なのに、自分が好きな女が知らない男に汚され、孕まされて……本当は嫌気が差したんじゃないのか?』
『こんな変わり果てた凛に、愛想を尽かして離れていってしまうんじゃないか?』
両親が抱くそんな悲痛な疑念と不安を、卓郎は冷静に読み取っていた。
もし仮に、卓郎が両親の妄想通り「凛を昔から一途に愛し、無償の優しさで支え続けてきた純朴な好青年」であったなら、今回の妊娠発覚は脳が破壊されるほどのショックであり、立ち直れないトラウマになっていたかもしれない。
しかし、現実はあまりにも違う。
凛のお腹に宿った子供の父親――彼女を長年にわたって欲望のままに弄び続けてきた真犯人は、他ならぬ卓郎自身なのだから。痛くも痒くもないどころか、全ては己のシナリオ通りに過ぎない。
卓郎は顔の筋肉を歪め、まるで苦虫を噛み潰したかのような、激しい怒りと悔しさを必死に押し殺す表情を作り上げた。拳をぎゅっと握りしめ、膝の上で微かに震わせてみせる。
「……正直に言えば、許せませんよ。凛をそんな目に遭わせた酷い奴がどこかにいるなんて……考えただけで頭がおかしくなりそうです」
搾り出すような低い声で吐き捨てた後、卓郎は深く息を吐き、静かに首を振った。
「でも……一番辛いのは凛だし、叔父さんたちです。僕が怒ったところで何も解決しない。……僕まで凛から離れたら、凛は誰を信じればいいんですか。僕は……最後まで凛の側にいますよ」
『愛する少女を汚されて激怒しながらも、彼女の幸せのために怒りを耐え忍ぶ幼馴染』。
その演技に、両親の瞳からは溢れ出る涙を抑えきれなくなっていた。
▼ ▼ ▼
卓郎くんを玄関で見送り、重い足取りでリビングに戻ると、部屋の中は耐えがたいほどの静寂に包まれていた。
テーブルの向かいに座る妻は、冷めきった茶碗を両手で包み込んだまま、ピクリとも動かない。その横顔には、今日一日で一気に深くなったような疲労の影が刻まれていた。
「……卓郎くん、本当に良い子だな」
沈黙に耐えかねて私がぽつりと漏らすと、妻はハッとしたように顔を上げ、小さく頷いた。
「ええ……本当にね。普通なら、あんな話を聞かされたら気まずくて逃げ出したくなるでしょうに。あの子にあそこまで言わせてしまって、申し訳ないくらいだわ」
「ああ。凛があんなことになって、本当なら一番傷つき、憤っているのは卓郎くんだろう。あの子のことをずっと大切に思ってくれていたんだからな……。それなのに、私たちの前では怒りを必死に抑えて、凛の心配ばかりしてくれた。本当に頭が上がらないよ」
そこまでは、互いの辛さを分かち合うような穏やかな会話だった。
しかし、話題が避けては通れない「これから」のことに及ぶと、部屋の空気は一変した。
「……それで、あなた。あの子のお腹の子……どうするつもりなの?」
妻の静かな、だが詰問するような問いかけに、私は胃がキリキリと痛むのを感じながら言葉を返した。
「どうするって……選択肢なんて一つしかないだろう。今日、病院で医師からもはっきり言われたじゃないか。凛の身体の負担はもちろん、精神的にも出産なんて耐えられるわけがない」
「そんなの分かってるわよ! でも、あの子の体の中で命が育ってるのよ!? 凛だって、その……何かを感じ取っているかもしれないのよ!?」
妻の声が急激に跳ね上がった。普段は温厚な彼女が、感情を剥き出しにして私を睨みつける。
「命だなんて、そんな感情論で話すな! 誰の子かも分からないんだぞ!? 街の変質者か、それともどこかのろくでなしにかどわかされたか……そんな恐ろしい犯罪者の子供を、あの子に産ませろというのか!?」
「犯罪って決めつけないでよ! もしかしたら、凛だって嫌がっていなかったかもしれないじゃない! あんなに無垢な子が、自分の体の中で起きていることを否定されるなんて……っ」
「嫌がっていなかったなら尚更タチが悪いだろうっ!!」
私は思わずテーブルを激しく叩いた。大きな音が響き、湯呑みが跳ねる。
「凛には善悪の判断も、性行為の意味すら分かっていないんだぞ!? それをつけ込まれたんだ! お前は理解しているのか!? ただでさえ障害があって一生の支援が必要な子なんだ。父親不明の子どもまで抱えて、この先どうやって生きていく!? 私たちが倒れた後、一体誰があの子たちを見るんだ! まさか卓郎くんに一生の負担を押し付ける気か!?」
「そんなこと一言も言ってないでしょう!? 私はただ……凛の母親として、あの子の体を傷つける手術をさせるのが怖いだけよ……っ! あんなに何も知らない子に、痛い思いをさせて、命を奪うような真似をさせて……私たちがやってることは酷いことじゃないの!?」
「じゃあ産ませてどうするんだ! お前に育てられるのか!? 凛も子どもも、共倒れになるのが目に見えているだろうが!」
妻は両手で顔を覆い、激しく肩を揺らして泣き崩れた。
「私だって……私だって分かってるわよ……! でも、悔しいのよ……なんで凛がこんな目に遭わなきゃいけないのよ……っ」
激昂していた私の毒気も抜け、絞り出すような妻の泣き声だけがリビングに響き渡る。
テーブルに拳を押し当てながら、私の胸の中にも、ドロドロとした黒い無力感と絶望が渦巻いていた。愛娘を守ってやれなかった父親としての不甲斐なさ。一体どこで間違えてしまったのか。
「……とにかく、産ませるわけにはいかないんだ」
私は荒くなった呼吸を必死に整え、少しトーンを落とした声で妻に言い聞かせた。
「中絶なんて、私だって本心からやりたいわけじゃない。あの子を傷つけるのも、宿った命を奪うのも……胸が張り裂けそうなくらい苦しいさ。だがな、これが凛を守るための唯一の道なんだ。仕方がないんだよ……」
「ううっ……うあぁっ……っ」
妻は両手で顔を覆ったまま、嗚咽を漏らして泣きじゃくっている。
私はその頼りない肩を引き寄せ、ゆっくりと背中をさすり続けた。手のひらから伝わる妻の震えが、そのまま私の心の揺れでもあった。
涙を流す妻を抱きしめながら、私の意識は自然と過去へと遡っていた。
凛が生まれた時のこと。検査結果を聞かされ、あの子に重い障害があると判明したあの日のこと。
あの時、親として覚悟を決めたつもりだった。どんな障害があろうと生涯守り抜き、この子の人生を支え続けるのだと、全てを理解した気になっていた。
だが――だとしても、こんな惨い仕打ちがあるだろうか。
言葉も届かず、自衛の術すら持たない無垢な娘が、名も知れぬ者に玩具のように扱われ、望まぬ命を宿されるなどと……。自分たちの無力さと甘さに、血を吐くような悔しさがこみ上げてくる。
だが、どん底の暗闇に叩き落とされたこの絶望の中で、私にははっきりと見えている光があった。
卓郎くんの存在だ。
今日の彼の言葉が、態度が、どれほど私の痛む心に染み渡ったことか。世間の偏見や哀れみの目ではなく、凛を一人の人間として大切に思い、昔からずっと変わらぬ温もりで寄り添い続けてくれた少年。
『僕まで凛から離れたら、凛は誰を信じればいいんですか。僕は……最後まで凛の側にいますよ』
あの力強い言葉を思い返すたび、私の胸の奥に確固たる安心感が広がっていく。
もし親である私たちが倒れ、この世を去ったとしても、あの子の傍らには間違いなく卓郎くんがいてくれるのだ。娘のすべてを受け入れ、命がけで守ろうとしてくれる彼がいる。
情けない父親の身勝手な依存かもしれない。
だが、この残酷な世界で、あの子の未来を全幅の信頼をもって任せられる存在が一人でもいるという事実――それだけで、潰れかけていた私の心は大きな救いと安らぎを得ていた。卓郎くんがいてくれるなら、どんな苦難も乗り越えられる。そう確信できることが、今の私たちの唯一の支えだった。
「大丈夫だ……私たちがしっかりしなきゃいけない。卓郎くんも支えてくれる……だから、乗り越えよう」
私は泣きじゃくる妻を強く抱き締め直し、頼もしい青年の顔を心に浮かべながら、深く息を吐き出す。
「……こんなこと、言ったら罰が当たるかもしれないけれど」
私の胸の中で少しずつ息を整えていた妻が、消え入るような声でぽつりと呟いた。
「お腹の子の父親が……卓郎くんだったらよかったのに……」
その言葉が耳に入った瞬間、私の背中に冷たいものが走った。
「馬鹿なことを言うんじゃない……っ! 彼に失礼だろう……!」
思わず声を荒らげてしまった。急な一喝に身をすくませる妻を前に、私は怒りと、それ以上の情けなさで胸が締め付けられる思いだった。
妻が何を言いたいのかは分かっていた。信頼できる卓郎くんの子であれば、これほど苦しむことも、誰かを憎むこともなかったのではないかという、追い詰められた末の浅はかな逃避だ。
だが、もしその願望が事実だとしたらどうなる。
卓郎くんが、言葉も通じない凛を密かに手ごめにした卑劣漢だったということになってしまうではないか。
幼い頃から見返りも求めず凛の面倒を見続け、今日だって自分自身のショックを押し殺して私たちを励ましてくれたあの好青年が、そんな惨い真似をするはずがない。そう考えること自体、彼に対する最大の侮辱であり、冒涜だった。
(あんなに真っ直ぐで誠実な子が、そんな愚かなことをするはずがないだろう……)
心の中でそう激しく否定しながらも、私の思考は皮肉にも、妻の言葉の余韻に引っ張られてしまっていた。
もし……もしも将来、凛と卓郎くんが結ばれ、正式に夫婦となる未来があったなら。
そうなればどれほど救われるだろう。彼なら凛の障害も全て受け入れた上で、生涯を守り抜いてくれるはずだ。
そして、もしそんな日が来るとしても――あの誠実な彼のことだ。結婚するその時まで、清い関係を貫き、決して順序を誤るような真似はしないだろう。
どこまでも真面目で頼もしい青年の姿を脳裏に描き、私は己の身勝手な妄想に深く恥じ入るのだった。
まさか、自分たちが「あり得ない」と切り捨てたその邪推こそが、完璧に隠蔽された唯一の真実であることなど、知る由もなく。
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夫との押し問答を終え、重い足取りでギシギシと音を立てる階段を登る。
二階の廊下は、まるで世間の喧騒から切り離されたように静まり返っていた。私は自分の荒い息遣いを押し殺しながら、静かに凛の部屋のドアを開けた。
薄暗い部屋の中、ベッドの上で凛は横になっていた。
「凛……」
声をかけると、凛は声に反応したのか、寝たままゆっくりとこちらに顔を向け、にへらと緩んだ表情で微笑んだ。
何も知らず、何も理解していない無垢な瞳のまま、心地よさそうに微睡んでいる。
その愛くるしい顔を見つめていると、胸の奥が張り裂けそうなほどの痛みに襲われた。
私の愛しい娘が一体何をしたというのだろう。誰に迷惑をかけることもなく、ただ純粋に生きているだけの凛が、どうしてこれほど酷い悲劇に見舞われなければならないのか。神様はあまりにも不公平で、残酷だ。
凛の身体の布団をそっと直しながら、ふと恐ろしい想像が頭をよぎり、全身の血が引いていくのを感じた。
凛は、その時……苦しかっただろうか。痛かっただろうか。
暗がりの中、見知らぬ男に乱暴に襲われた時、何が起きているかも分からずに泣いただろうか。声を限りに叫んで、私を呼んだのだろうか。
それなのに、私は――。
母親でありながら、凛の一番近くにいたはずなのに、何ひとつ気づいてあげられなかった。傷つけられ、汚されていた娘のSOSに、今日この瞬間まで完全に無頓着だったのだ。
「ごめんね、凛……ごめんね……っ」
布団の上に投げ出された小さな手を強く握りしめ、私は顔を押し当てて声を殺して泣いた。凛はただ不思議そうに私の頭をぽんぽんと撫でるだけで、自分がどれほど酷い運命に巻き込まれているのかも分かっていないようだった。
泣き疲れて少し気持ちが落ち着いた後も、私は凛の寝顔を見つめたまま、その場から動くことができなかった。
暗い部屋の中で、私の頭にはどうしても拭い去れない一つの思いが渦巻いていた。
――卓郎くんのことだ。
さっき階下で夫に「失礼だ」と強く嗜められたばかりなのに、私の浅ましい願望は消えてはくれなかった。一度芽生えてしまった愚かな妄想が、毒のように頭から離れてくれないのだ。
もしも……もしも、この子のお腹に宿った命が、本当に卓郎くんとの子であったなら。
もちろん、そんなことがあれば私は彼に激しく失望するだろう。あんなに信頼していた彼が、判断力のない凛を襲い、手ごめにしていたということになるのだから。
裏切られた怒りとショックで、彼を責め立てずにはいられないはずだ。
けれど――そんな激しい怒りや失望の裏で、私は心の底から安堵し、密かに喜んでしまったのではないだろうか。
だって、あの卓郎くんなのだ。
もし彼が若いゆえの過ちや、衝動に任せて一線を越えてしまったのだとしても……あの真面目で誠実な彼なら、絶対に逃げたりはしない。
己の犯した罪から目を背けず、必ず責任を取って凛と結婚し、一生をかけて支えてくれるはずだ。
見知らぬ悪質な犯罪者に弄ばれ、傷つけられたまま放り出される残酷な現実と比べたら、それはどれほど救いのある未来だろう。
言葉の通じない凛にとっても、ずっと大好きだった卓郎くんと家族になれるのなら、きっと一番の幸せのはずなのだ。
(ごめんなさい、卓郎くん……ごめんなさい……)
自分たちの都合のいい救済のために、何の罪もない好青年に勝手な濡れ衣を着せようとしている自分が、たまらなく情けなかった。
そして何より――。
(ごめんなさいね、凛……こんな勝手な妄想ばかりして。あなたの気持ちなんて、何ひとつ考えてあげられていないのに……)
何も分からずにすやすやと眠る凛の顔を見つめ、胸が押し潰されそうになる。この子が誰を好きで、本当はどう思っているのかすら確かめようとせず、自分たちの安心のためだけに誰かとの未来を決めつけようとしている。
そんな自分勝手な母親である自分が、心底恐ろしかった。
それでも、底なしの暗闇の中で縋れる光を探してしまう私は、母親失格なのだろうか。
凛の柔らかい頬にそっと触れながら、私は消えない罪悪感と浅ましい願望の狭間で、深く重い息を吐き出すのだった