※この作品はR-18です。

高望みしない彼は今日もゴミ女とセックスする   作:しゃしゃしゃ

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崩壊の序章




第三十六話 卓郎の受難(三者面談)

 

 

 

重厚な門構えをくぐり、紗羽の邸宅の前に立った卓郎は、玄関前で一度足を止めた。

 

 

乱れた息を整え、制服の襟元を正し、身だしなみを整える。

 

これから対面するのは、いつもの都合のいいセフレ(紗羽)だけではない。普段は何を考えているのかさえ分からない、不気味な紗羽の父親だ。

 

卓郎は心の中でいつもの「好青年」の仮面を完璧に張り直すと、静かにインターホンを押した。

 

 

『ピンポーン――』

 

 

『……開いている。上がりなさい』

 

 

スピーカーから響いたのは、紗羽の甲高い声ではなく、低く冷ややかな中年男性の声――紗羽の父親だった。卓郎は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに表情を消して重厚なドアを開けた。

 

 

静まり返った豪邸を進み、案内された広いリビングへと足を踏み入れる。

 

 

そこには、部屋の中央に鎮座する豪華なガラストップのテーブルを挟み、対面するように椅子に座る二人の姿があった。重苦しい雰囲気を纏う中年男性と、その隣で退屈そうにスマホを弄っていた紗羽だ。

 

 

卓郎の姿が視界に入るなり、紗羽の顔がぱあっと華やいだ。

 

 

 

「タクロー! 遅いじゃない、待ちくたびれちゃったわよー!」

 

 

紗羽は豊満な巨体を揺らして立ち上がると、卓郎に向かってだらしなく甘えた声を張り上げた。その隠そうともしない親密さと、露骨な「私の男」アピール。

 

 

(……チッ! このバカ女が……ッ!)

 

 

卓郎の腹の底で、黒々とした苛立ちが一気に跳ね上がった。

 

 

卓郎にとって、紗羽と陰で肉体関係を持っている(セフレである)という事実は、絶対に周囲や大人に知られてはならない秘密だ。

 

それなのに、父親の目の前でこれ見よがしに距離を詰めてくる紗羽の浅はかさと頭の悪さが、鬱陶しくて腹が立って仕方がなかった。

 

 

だが、卓郎は完璧なポーカーフェイスを崩さない。紗羽の甘えた態度をサラリと受け流し、まずは大人へ向けて丁寧なお辞儀をした。

 

 

「お邪魔します、おじさん。紗羽も、待たせてごめんね。それで……今日は僕に何かご用でしょうか?」

 

 

爽やかで礼儀正しい振る舞い。

 

 

卓郎から挨拶を受けた紗羽の父親は、娘の浮かれた様子には一切視線すら向けず、微動だにしない無表情のまま卓郎を見つめていた。その瞳には感情の欠片も浮かんでいない。

 

 

「……よく来たね、さぁ」

 

 

低い声で短くそれだけ口にすると、紗羽の父親は顎で対面の空いている椅子をしゃくり、卓郎に着席を促した。

 

 

豪華なリビングに漂う異様な静寂。紗羽の呑気な空気とは対照的な、息が詰まるような重圧が、卓郎の皮膚をじりじりと刺し始めていた。

 

 

促されるまま椅子に腰を下ろした卓郎は、浅く息を整えると、目の前に佇む厳格な中年男に向き直った。

 

 

「それで……加賀原さん、お話があるということでしたが……」

 

 

両手を膝の上で揃え、隙のない好青年としての丁寧な口調で切り出す卓郎。

 

 

しかし、紗羽の父親は意外にもすぐには本題を口にしなかった。感情の読めない無機質な瞳を卓郎に向けたまま、静かに昔の思い出話を語り始めたのだ。

 

 

 

「……君には、昔から本当に感謝しているんだよ、卓郎くん。覚えているかね。小学生の頃、紗羽が我儘を言って泣きわめいた時も、君だけは嫌な顔一つせず側にいてくれた。中学に上がってからもそうだ。我が儘で手のかかる娘だというのに、今まで離れることなく、何かと面倒を見て、世話を焼いてくれた……」

 

 

 

低く淡々とした声が、静寂に包まれた広いリビングに響く。

 

 

 

「私や妻は仕事にかこつけて、この子を放置してばかりだった。そんな中で、君が幼馴染として紗羽の隣に居続けてくれたからこそ、この子は歪むことなく……健やかに、まっすぐ育つことができたのだと思っている。君のような誠実な若者が近くにいてくれたことは、我が家にとって大きな救いだった」

 

 

その言葉を聞いた紗羽は、「もう、パパったら急に何言ってるのよー!」と恥ずかしそうに身体を揺らしながらも、うっとりとした表情で両頬を染めた。卓郎からの深い愛を確信したような顔で、「タクローは昔から私の完璧な王子様だもんねぇ〜」と甘い思い出に浸り切っている。

 

 

 

一方の卓郎は、父親の的外れな感謝の言葉を表面上は真面目な顔で深く頷きながら聞きつつも、内心では嘲笑を殺すのに必死だった。

 

 

(……健やかにまっすぐ育った、だ? ハッ、笑わせんなよ。昔からちやほやして甘やかし続けてやった結果、自分の醜さすら自覚できない狂った肉塊に肥大化しちまったじゃねぇか。まあ、そのおかげで俺の言うことなら何でも聞く極上の肉便器として、いつでも好き勝手に抱けるし、日頃の性処理に活用させてもらってるんだから、世話を焼いた甲斐はあったけどな)

 

 

親の知らぬところで自分の手によって歪みきった紗羽の肉体と狂った服従心を思い返し、卓郎は心の中で冷酷に鼻で笑っていた。

 

 

そうして滔々と長めの前置きと感謝を述べ立てた後、紗羽の父親は一呼吸置き、一段とトーンを落とした冷淡な声で一気に本題を切り出した。

 

 

 

「――そして、今日君を呼んだのは他でもない。この報告と、今後のことについてだ。……実は近々、私と妻は離婚することになった」

 

 

 

あまりに感情の籠もっていない、淡々とした口調で告げられた言葉。卓郎の明晰な頭脳をもってしても、その意味を完全に咀嚼するまでに数秒の沈黙を要した。

 

 

(……は? 離婚……?)

 

 

青天の霹靂とも言える重大な報告。しかし、当事者であるはずの紗羽の反応は驚くほどに薄かった。

 

 

「ふーん。まあ、パパとママがずっと家庭内別居状態だったしねー。別にどうでもいいんじゃない?」

 

 

爪を弄りながら、他人事のように鼻で笑う紗羽。

 

 

もとより紗羽にとって、両親など無制限にお金を吐き出すだけの便利な機械に過ぎない。

 

愛情を注がれた記憶もなければ、与えた記憶もない。

 

互いに顔すら合わせない仮面夫婦の崩壊など、彼女の日常にとっては何の痛痒も与えない出来事だった。

 

 

紗羽の冷めた反応にも一切眉を動かすことなく、父親は冷たい口調で淡々と言葉を続けた。

 

 

「……妻はこの子の親権を要らないと言ってね。私の方で引き取ることになったのだが……」

 

 

後半の言葉をあやふやに濁す父親だったが、その意図は隠しようもなく明白だった。要するに、父親もまたこの醜く我儘な娘の面倒など何一つ見たくないのだ。

 

 

 

これまで豪邸に住まわせ、湯水のように金を使わせていたのは、すべて世間体と自身のプライドを保つためだけに過ぎない。

 

親権を譲り受けたのも愛情からではなく、世間に対する最低限の世渡りゆえだということが、その不快な沈黙から痛々しいほど伝わってくる。

 

 

普通ならショックを感じてもおかしくない実の親からの拒絶。だが、紗羽の歪み切った自尊心は微塵も揺らがなかった。

 

 

(親権だかなんだか知らないけど、パパもママも本当に見る目がないわね。でも、そんなのどーでもいいわ)

 

 

紗羽の頭の中にあるのは、目の前で真剣な表情を浮かべる卓郎の存在だけだった。

 

 

 

(私には、世界で一番私を愛してくれてるタクローがいるんだもん! 両親みたいな有象無象に愛されなくたって、タクローが私を愛してくれてるんだから、私の価値は何一つ変わらないわ!)

 

 

 

重度の現実逃避と肥大化した自己愛が、残酷な現実をあっさりと跳ね返していた。

 

 

そして、ようやく事態の全貌を理解した卓郎は、すぐさま表情を作り直した。

 

 

「……っ! おじさん、それはあんまりじゃないですか……ッ!?」

 

 

膝を押しつけ、椅子から身を乗り出すようにして、憤りに満ちた声を上げる卓郎。

 

 

「紗羽だって傷つきます! 親の都合で親権の押し付け合いだなんて……そんなの、ずっと側で紗羽を見てきた幼馴染として、僕は納得できません……ッ!」

 

 

苦渋に満ちた表情で、親の無慈悲さを非難する「親身な幼馴染」のポーズ。

 

 

もちろん、卓郎の腹の中にあるのは紗羽への同情などではなく、「この面倒な家庭環境の変化が、自分にどう跳ね返ってくるか」という冷徹な計算と警戒心だけ。

 

いつも通りのパフォーマンス。

 

しかし今回、それは悪手だった。

 

 

 

 

「君ならそう言ってくれると思っていたよ。安心して娘を任せられる」

 

 

「……は……?」

 

 

 

感情を叩きつけるような卓郎の言葉に対し、帰ってきたのは静かで、どこか心底安堵したかのような父親の声だった。

 

想定していた怒りや弁明とはあまりにかけ離れた返答に、卓郎の頭脳は一瞬でフリーズし、思考が完全に停止した。

 

 

「な、何を……」

 

 

固まる卓郎を余所に、紗羽の父親はテーブルの上で指を組み、心底不思議そうに首を傾げながら言葉を重ねていく。

 

 

「何を、とは……君と娘は将来を誓い合っているのだろう? 高校を卒業したら結婚でもする予定なんじゃないのかね?」

 

 

理解不能な単語の羅列。卓郎の背中に、じわじわと冷や汗が伝う。

 

 

(……待て、どういうことだ……!? どこから漏れた……!?)

 

 

卓郎の脳内で、最悪のシナリオが猛スピードで組み上げられていった。

 

 

 

(このバカ女が……親に俺との『セフレ関係』を喋ったのか……!? いや、それどころか『私たちは将来を誓い合った恋人同士で、卒業したら結婚するの♥』なんて痛い妄言を親に吹聴してやがったのか……!?)

 

 

 

怒りと焦燥で血が上りそうになりながら、卓郎は隣に座る紗羽へ怒声混じりの冷視線を向けた。

 

だが、そこにいたのは「バレちゃった♥」と照れる紗羽ではなかった。

 

 

 

「……え? パパ、急に何言ってるの……? たしかにタクローは私に夢中だけど……け、結婚なんて、まだそんな話……」

 

 

紗羽自身もまた、父親が何を言い出したのかさっぱり分からないといった風に、卓郎以上に困惑した表情を浮かべていたのだ。

 

 

(……嘘だろ、紗羽が吹き込んだんじゃない……!? じゃあ、なんでこの男はこんなことを言い出してやがる……!?)

 

 

意図が読めない不気味さに、卓郎の心臓が早鐘を打つ。だが、このまま黙っていれば、とんでもない既成事実を作られてしまう。

 

卓郎は慌てて仮面を必死に繕い直し、引きつった笑みを浮かべて父親の言葉を否定しにかかった。

 

 

「か、加賀原さん……! それは、その……一体どういうことでしょうか……!? 確かに僕は紗羽の幼馴染ですし、大切に思っていますけれど……それ以上の関係ではありませんし、将来を誓い合っただなんて、そんな事実はありません……!」

 

 

「はて、そうだったのかい? ではこれはどういうことなのかな?」

 

 

 

狼狽する卓郎に向けて、紗羽の父親は感情の籠もっていない声で静かにタブレットを取り出して画面を差し向けた。

 

 

 

 

 

そこに映し出されていた映像を目にした瞬間、卓郎の思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 

液晶の中で繰り広げられていたのは、この豪華な邸宅のあらゆる場所で、全裸で熱く激しく交わり合う紗羽と卓郎自身の姿だった。

 

 

 

いつ撮影されたものかは分からない。だが、リビングの高級ソファの上で、豪華なベッドの上で、広々とした風呂場で、果てはキッチンのカウンターに押し付けて――場所などお構いなしに、避妊具すら着けずに欲望のままヤリまくる二人の淫らな姿が、残酷なまでに鮮明な映像として再生されていたのだ。

 

 

 

「っ……!?!?」

 

 

 

目を見開き、息を呑む卓郎。一瞬で全身の血の気が引き、指先から急速に冷たくなっていく。

 

 

一方の紗羽はといえば、深刻さなど微塵も理解していない様子で、「いやんッ! パパ、ちょっと……! タクローとのえっちなビデオ見ないでよぉ〜!」と、二人だけの秘密の情事が暴かれたことに照れ、むしろ変な興奮を覚えて体をモジモジと濡らして悶えていた。

 

 

(隠しカメラ……ッ!!)

 

 

 

卓郎は絶望とともに戦慄した。

 

 

 

もちろん、この豪邸を溜まり場にし始めた当初は、卓郎とて防犯カメラや隠しカメラの存在を警戒していた。

 

だが、どれだけ好き勝手に紗羽の体を抱き潰しても、両親からお咎めどころか苦言一つ呈されることすら無かった。

 

そのため「この親は娘に無関心だから何も見ていない」と高をくくり、完全に警戒を解いてしまっていたのだ。

 

 

父親は滑らかな手つきで映像をスクロールしながら、戯けたようなトーンで言葉を紡ぐ。

 

 

「ずいぶんと激しいものだね。いやはや、ここまで我が娘を愛してくれるとは……親冥利に尽きるというものだよ」

 

 

 

そう口にする彼の瞳には、娘を男に汚された親としての怒りも、娘を案じる憂いも、何一つ存在していなかった。ただ底知れない冷酷さだけが宿っている。

 

 

しかし、愚かな紗羽はその言葉を真に受け、「でしょー!? タクローってば私に夢中すぎて、いつも激しく愛してくれるんだからぁー!」と激しく同意し、またしても身を捩って歓喜に浸っていた。

 

 

 

(……詰んだ……)

 

 

 

完全にペースを握られ、卓郎は喉を詰まらせて言葉を失った。

 

 

なぜ自分を呼び出したのか。なぜ離婚の話からこの映像を見せてきたのか。父親の真の狙い――この不快な会話の行き着く恐ろしい「終着点」を悟り、卓郎の顔面はいよいよ惨白な土色へと変わっていく。

 

 

 

「これだけ親密にしていて、まさか『ただの幼馴染』『大して親しくない』などと言い出すつもりではないのだろうね?」

 

 

 

静まり返ったリビングに、父親の抑揚のない、けれど逃げ場を完全に塞ぐ冷酷な一言が刺ささった。タブレットの画面の中では、なおも全裸の二人が生々しい体液を撒き散らしながら交わり続けている。

 

 

「それに……周囲からも評判のいい、責任感のある優秀な君のことだ。我が家で、私の娘と避妊もせずにこのような行為に及ぶということは……当然、その先もしっかりと見越してのことなのだろう?」

 

 

(……ッッ!!)

 

 

卓郎の背筋に、氷水を直接流し込まれたかのような激痛に近い寒気が走った。

 

 

つまりは『避妊もせずに子作り同然の生中出しを何度も繰り返していたんだ。まさか遊んで捨てるつもりだったとは言わないよなぁ? 当然、結婚して一生責任を取る覚悟があってやってたんだろうなぁ?』という、退路を全て断つ無言の圧力。

 

 

 

卓郎にとってあまりに酷悪で残酷なことに、その言葉に真っ先に狂喜乱舞したのが隣の紗羽だった。

 

 

 

「ちょっとパパったら! タクローを舐めないでよ! 卓郎が私との将来を考えてないわけないじゃない!! 私たち、心も体もこんなに愛し合ってるのよ!? ねー、タクロー!?」

 

 

 

「あ……、あ……っ」

 

 

 

顔を真っ赤に染め、巨体をすり寄せて卓郎の腕を力任せに抱きしめてくる紗羽。

卓郎の喉からは、引きつった空気の漏れる音しか出ない。

 

 

その絶望的な光景を見届け、父親は満足そうに小さく首を縦に振った。

 

 

「そうか。ならばよかった。いやはや、私もホッとしているよ。君のような誠実な男になら、安心して娘を任せられる。……そうだね、高校を卒業すると同時に届出を出すといい。卒業後は二人で新居を探して一緒に暮らしなさい。紗羽も、卓郎くんと一緒がいいだろう?」

 

 

「うんっ! もちろん!! 私、タクローとならどこまでも一緒に行くわ! パパ、話がわかるじゃない!」

 

 

父親の言葉に、紗羽は自分の理想通りの「ハッピーエンド」が訪れたのだと完全に勘違いし、卓郎の腕にしがみついたまま蕩けた笑顔で歓喜に身を震わせていた。

 

 

卓郎の脳内で、これまでバラバラだった不気味なピースが一瞬で組み合わさり、あまりに最悪な父親の真意が形作られていった。

 

 

 

(……こいつ、自分の娘を……俺に押し付ける気だ……!!)

 

 

 

離婚を機に、自分たちの人生から排除したくてたまらなかった「不細工で我が儘で手に負えない娘」という巨大な不良債権。それを、弱みを握った自分という都合のいい男にすべて擦り付け、合法的に処理しようとしているのだ。

 

 

『卒業までは今まで通り金を出して飼育してやる。だが卒業した瞬間、この女の人生を丸ごと買い取れ。拒否すればこの映像を学校や世間に叩きつけて、お前の人生を完全に終わらせる』――口には出さない残酷な脅迫が、卓郎の首元に冷たい刃として突きつけられていた。

 

 

 

卓郎に、拒否する選択肢など最初から存在しなかった。

 

 

ここで「そんなつもりじゃない」と拒絶すれば、「じゃあこの映像に映っている行為はどういうつもりで行ったことなんだ?」と問い詰められる。

 

 

今まで必死に積み上げてきた「誠実で優秀な好青年」という表の顔が完璧に崩壊するだけでなく、紗羽の中に君臨する「自分を狂おしいほど愛してくれる完璧な王子様」というフィルターまで砕け散る。プライドを打ち砕かれた紗羽が狂乱し、親の力を借りて何を言いがかりにつけてくるか分かったものではない。

 

 

だが、この脅迫を受け入れれば待っているのは――それは文字通りの人生の墓場だ。

 

 

一生、この重すぎる足枷に縛られて人生を台無しにされる未来。

見た目はデブで不細工、頭は破滅的に悪く、性格も我儘で最悪。自分を処理するための都合のいい「肉便器」として以外、何一つ価値のない女を「生涯の妻」として一生背負わされる地獄。

 

 

拒否すれば社会的破滅。受け入れれば一生の奴隷。

 

 

完璧に詰まされたチェス盤の上で、卓郎は惨白な顔のまま、声すら出せずにただ絶望に震えることしかできなかった。

 

 

 

(冗談じゃねぇ……ッ! 誰がこんなデブで頭の悪いブスと結婚なんてするかよ……!!)

 

 

冷や汗が背筋をタラタラと伝い落ち、卓郎の脳内では猛烈な拒絶反応が狂ったように渦巻いていた。

 

 

ただでさえ見苦しい巨体と醜悪な容姿。そのうえ我儘で気まぐれ、掃除も料理も何一つまともにできるはずがない生活能力ゼロの女。そんなものが「妻」として一生自分の隣に居座り、自分の人生を食いつぶしていくなど、想像しただけで吐き気がこみ上げてくる悪夢だった。

 

 

 

今の歪んだセフレ関係が上手くいっているのは、単に「お互いが適度な距離感を保ち、責任を負っていないから」に過ぎない。

 

紗羽は卓郎の本性や冷酷さなど何一つ見抜けず、ただ都合よく理想の王子様像を彼に投影して勝手に浮かれているだけ。

そして卓郎の方も、何の責任も背負わずに済むからこそ、口先だけの無責任な甘い言葉で彼女を持ち上げ、都合のいい性処理用の「肉便器」として好き勝手にご利用できていたのだ。

 

 

 

もしも同棲や結婚などという形になれば、それはきっと破綻する。

 

些細な生活のズレで紗羽はすぐにヒステリックな癇癪を起こし、卓郎も毎日仮面を被り続けられるはずもなく、やがて殺意とうんざりした嫌悪で泥沼の破綻を迎えるのは火を見るより明らかだった。

 

 

 

(なんとか……なんとかしてこの場を誤魔化して断らないと……ッ!)

 

 





★続きます

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