※この作品はR-18です。

依存性ゆきのん   作:葵転青

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新・奉仕部

俺の下駄箱に手紙が入っていた。

 

携帯の発達した時代に手紙とは古風で好感が持てる。

 

 

手紙を開封すると内容は簡素で『今日の放課後に屋上で待っている』という物だった。

 

 

手紙を出した本人は勇気が必要だったろう。

 

俺はその気持ちを汲んであげなければいけない。

 

雪ノ下に事情を伝え、生徒会室には遅れる連絡をした。

 

もしかしたら今日は生徒会室に行けないかもしれない。

 

雪ノ下には寂しい思いをさせてしまって申し訳ない。

 

雪ノ下には俺の人権やら何やらを握られているが、俺は俺なのだ。俺を必要としてくれる人がいるなら俺は行かなければならない。

 

総武高校の屋上は解放されているが、何も置いて無いのでわざわざ階段を登って屋上に来る物好きはいない。

 

故に、誰かとこっそり会うには最適の場所だ。

 

 

屋上の扉を開ける。

 

 

待ち人は既に屋上に来ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと新作ができたか!材木座!!!」

 

「待たせたようだな八幡!!!」

 

材木座義輝。ラノベ作家を目指す同級生。

俺の数少ない友人のうちの1人だ。

 

「今回は自信作である!!!その腐った目を見開き我が力作をとくと見るがよい!」

 

材木座から渡された原稿用紙は200枚くらいあった。古風な奴なので毎回紙で原稿を渡されるが、なんだかんだ手書きというのは味がある。

 

「おお!中々のボリュームだ!大作じゃないか!」

 

「冬休みを利用して仕上げたのだ!是非とも雪ノ下殿にも意見頂きたい!宜しく頼むぞ!」

 

「内容次第だけど前回は高評価だったし大丈夫だろ、また読み終わったら連絡する!」

 

「ならばヨシ!ではサラバだ!!」

 

バタン!!!と屋上の扉を勢いよく閉めて材木座は出て行った。ふむ、せっかくだしこのまま屋上で読むか。どうせ生徒会室に行っても椅子に縛られるだけだし、下校頃に行って雪ノ下と帰ればいいや。

 

今回はタイトルからして学園異能バトル系か。安易な異世界転生物に逃げなかった心意気は認めてやろう。10枚ほど読んでみたが、中々よくできてる。これまで何度も俺と雪ノ下でボロクソに批評してきたのが余程響いたのだろう。文法や読み手の配慮といったところが上手く出来てきているので読みやすい。

 

これなら次の段階に進んでもいいかもしれないな。

 

材木座お手製ラノベを読みながら依頼料代わりに貰ったマッ缶を飲む。これぞ大人の過ごし方だ。

 

しばらくするとキィィィと屋上の扉がゆっくり開く音がして、材木座がこちらを覗き込んできた。デカい図体してるくせに乙女みたいな行動を取るなよ。

 

「………八幡よ。どうだ?」

 

「悪くないぞ。珍しく万人受けする内容だしな。なんか心境の変化でもあったのか?」

 

材木座は筆は早いが内容がとにかく尖っていた。アイデア自体は面白いが、読者が置いてけぼりになる場合が多い。材木座自身も自分のアイデアを活かせれてない事が多いが、今回はかなりマイルドに仕上げて且つ設定の補完もされている。

 

「うむ。奇抜な設定ではなく、王道な設定に奇抜な設定を少し混ぜ込む形にしてみたのだ。我も八幡も奇抜を好むが、雪ノ下殿は王道を好むからな。しかし、王道過ぎて凡庸になり過ぎてないか心配でな………」

 

「確かに何処かで見たような話の展開の仕方はされてるけど、明確に何かのパクリってわけではないしいいんじゃないか?なんというか、読んでて安心感はあるぞ。売ってたとしてもわざわざ買う気にはなれないし、読んだところで毒にも薬にもならないけど。」

 

「ぐふぅ……やはりか。我も書いてて似たような事を思ったが、筆がめちゃくちゃ進むから走り切ってしまったのだ。」

 

王道だからこそ書きやすいのかもしれないな。作家のプライド的には思うところがあるんだろうが、なんにせよ書き切る事は大切だ。

 

「ラノベをそこそこ読んでる俺や雪ノ下にとっては物足りないが、ラノベ読んだ事ない人には刺さるかもしれないぞ。これ、知り合いに読ませてもいいか?」

 

「読んでもらうのは構わんが、おぬしの知り合い?おぬしに我以外の知り合いがおるのか?」

 

「お前と一緒にするな。回し読みも面倒だしコピーするか。とはいえ量が多いとコピーするのも一苦労だな。」

 

「我も時代に合わせてデジタルに移行すべきか。キーボードだと意欲があまり沸かんのだよな……」

 

「俺は材木座の手書きは好きだからこのままでいいと思うぞ。まあコピーは職員室のを借りよう。俺は生徒会副会長だからな。そこそこ融通は効く。」

 

普段は副会長の肩書きを利用したくはないが、使えるものは使って損はない。まともに外でコピーしだすと金が足りんし。

 

「おぬしが副会長というのは未だに慣れんが、最近はどうなんだ?何か手伝う事があれば我が力を貸してやらんでもないぞ。」

 

「順調だから問題ない。来週には俺の拘束が解けるから生徒会室に呼ぶよ。原稿用紙広げたりすると屋上じゃキツいし生徒会室で話そう。」

 

「ふむ。生徒会の邪魔にならぬならお邪魔しようではないか。それで、拘束とは何の話なのだ?」

 

「今週は椅子に縛り付けられてるんだよ。」

 

「縛り…?おぬし、いったい何をやらかしたんだ……」

 

「俺は悪くない。悪いのは雪ノ下以外の生徒会の奴らだ。」

 

 

 

その後も材木座と雑談しながら原稿を読み終わり、コピーも何とか下校時間前に間に合ったので生徒会メンバーに原稿を渡しておいた。

 

「おかえりなさい比企谷くん。今回はそれなりのボリュームなのね。もう読んだの?」

 

「読んだ。雪ノ下に渡したやつは欄外に俺の添削も軽くだけど付けてるから、雪ノ下も気づいた事あれば書き足してくれ。」

 

「分かったわ。やはり手書き原稿というのは味があるわね。」

 

雪ノ下の添削は相当なものでかなり助かっている。俺も出来るだけ添削はしているが見逃しも多い。やはり友人の作品となるとどうしても甘めに見てしまうのだろう。

 

「先輩〜ここは生徒会ですよ?文芸部じゃないんです〜。小説なんて読んでちゃダメなんですよ!」

 

机をバンバン叩いて抗議してくる一色。さっきまでお菓子食ってたやつが何言ってるんだよ。

 

「どうせ暇なんだからいいだろ。来週までに読んどいてくれ。まぁ2〜3時間あれば読める量だ。」

 

「私の生徒会室なのに〜!」

 

一色は文句を言いながらもコピーした原稿用紙を受け取っていた。暇なのは間違いないので読むことにしたのだろう。三浦には断られるかと思ったが、三浦以外の全員が受け取ったので読むことにしたようだ。オタクに優しいギャルが爆誕した。

 

 

 

翌週。

 

無事に俺の拘束も解けて、見たところ全員読了したようなので材木座を生徒会室に呼んでおいた。そろそろ約束の時間だ。時間ピッタシにノックがあった。律儀なやつだ。

 

「入っていいいぞ。鍵は開いてる。」

 

返事をしてやると勢いよくドアが開かれ、材木座の後ろ姿が見えた。なんで後ろ向いてんだこいつ。

 

「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!我こそは 千葉は総武高校の将軍、大剣豪・材木座義輝なり! 盟友・比企谷八幡の命により、ただいま参上!!今宵、この生徒会室は我らの居城となるのだ!!」

 

恐らく生徒会室の外には誰も居なかったのだろう。後ろを向いたまま名乗り口上を上げて、最後に振り向いて決めポーズをした材木座だったが、生徒会フルメンバーを見て固まってしまった。

 

「生徒会室は私の居城ですよ。」

 

一色の冷たい声が生徒会室に響いた。

 

 

 

 

 

「八幡八幡八幡八幡!!話が違うではないか!!!生徒会室にはおぬしと雪ノ下殿だけという話だっただろう!!!」

 

身体を縮こませながら俺に擦り寄り小声で抗議してくる。やめろ。擦り寄るな。同類と思われるだろうが。

 

「知り合いに読ませるって言ったろ?生徒会メンバーだからお前も知ってるだろうし、やっぱ折角なら直接感想貰おうと思ってな。」

 

「知り合いとは戸塚氏と葉山氏ではないのか!?」

 

「戸塚と葉山も3年が部活引退して忙しい時期だからな。生徒会は暇だし丁度いいんだよ。」

 

「ねぇ、あんたがコレ書いたんでしょ?さっきからコソコソとヒキオと話してないで挨拶くらいしろし。」

 

三浦は材木座の態度にイライラしてるようだ。一応、さっき挨拶のような事はしていた筈だが、三浦的には挨拶と呼ばないのだろう。

 

「八幡〜!?三浦殿にも見せたのか!?ギャルに見せる物ではないだろう!?」

 

「材木座落ち着け。三浦はオタクに優しいギャルだ。実在したんだぞ。喜べ。」

 

「おぬしこそ冷静になれ!オタクに優しいギャルは幻想だ!」

 

「アンタらの声聞こえてんだけど。コソコソ話すんなら声小さくしろし。次ギャルって言ったらぶん殴るよ。」

 

実際、三浦はめちゃくちゃ優しい。今回だってちゃんと読んでくれたし、感想会やるって伝えたら出席してくれた。暇なのはあるかもしれんが、三浦がギャルなのは見た目だけなのだ。

 

「八幡よ、三浦殿はギャルではないのか?」

 

「俺からは何とも。材木座はあの髪を見てどう思う?」

 

「ふむ、三浦殿の髪か……………む?」

 

三浦が席を立って近付いてきている。筒状に丸めた原稿を持ってるので、これは殴る気満々だ。材木座が助けを求める目でこちらを見てくるが、俺は首を横に振る。観念しろ。お前が取れる選択肢は一つだけだ。

 

目の前で腕を振りかぶった状態で停止した三浦を見て、材木座は意を決して口を開いた。

 

「三浦殿は金髪縦ロール!間違いなくギャルである!」

 

スパァン!と良い音で材木座は頭を叩かれた。

先週に俺が三浦の金髪縦ロールをギャルだと言った分も含んだ1発だったのだろう。すまんな材木座。

 

「くそぉ……!我の原稿はこんな事をする為に書いたのではないぞ……!」

 

頭を抱えて大袈裟に痛がる姿はまだ余裕がありそうだったのでもう少し材木座で遊ぶとするか。となると次は一色かな。

 

「ちなみに一色にも読ませたぞ。年下からの評価も必要だと思ってな。」

 

「八幡!一色殿にも見せたのか!?あの傲岸不遜の生徒会長殿に!」

 

「聞き捨てなりませんね!私ほど生徒の事を考えてる慈愛溢れる生徒会長なんて総武の歴史上でもいないんですよ!!」

 

慈愛……?ああ、自愛か。言葉の使い方がなってないな。後で教えておいてやろう。一色は『えいやっ!』という掛け声と共に材木座にお菓子を投げつけていた。あざと過ぎて怖い。

 

材木座が一色のお菓子をキャッチして投げ返していると、机をカツカツと指で叩いて鳴らす音が海老名の方から聞こえてきた。音のした方を向くと海老名が目配せをしてくる。『私にも話を振れ』ということらしい。マジで生徒会室は暇人しかいないな。

 

「材木座。海老名にも読んで貰ったぞ。」

 

「海老名殿にも見せたのか!!海老名殿は……海老名殿は、そういう事なのか?」

 

「話すなら早くしろ。でなければ帰れ!」

 

海老名は両肘を机の上に立て、両手を組み合わせて口元を隠すポーズをして碇ゲンドウのモノマネをしている。声真似上手いな。今回の材木座の原稿にエヴァネタがあったので被せてきたんだろう。

 

「海老名はそういう事だ。たぶん1番ノリが合うぞ。」

 

「うむ。批評が楽しみである。後は……」

 

ここまで来ると全員やっておきたいし、残りは由比ヶ浜か。由比ヶ浜を見ると、由比ヶ浜は自分が何言われるのか期待しているのだろう。ツッコミたくてウズウズしてるのが見てわかる。

 

「問題なさそうであるな。挨拶が遅れて申し訳ない!我は材木座義輝である!此度は我が拙作を読んで頂き感謝するぞ!忌憚なき感想をいってくれたまへ!」

 

「私は!?私は!?ちゃんと読んだのに酷い!!」

 

「由比ヶ浜は材木座のボケ待ちが分かりやす過ぎるんだよ。身を乗り出してまでボケ待ちするな。」

 

由比ヶ浜は唸っているが、実際の原因は別にある。身を乗り出した由比ヶ浜の胸がめちゃくちゃ揺れたりして強調されたので材木座が照れて逃げたのだ。正直言って俺も少し照れた。雪ノ下にはバレたと思うので今日帰ったら怒られるだろうなぁ。雪ノ下の胸は好きなのだが、それとは別で大きい胸に反応してしまうのは本能なのだ。

 

 

 

感想会はそれなりに盛況だった。やはりラノベ未読勢からしたら材木座の小説の展開は新鮮味があったらしい。俺が雪ノ下に初めて見せたラノベも王道物だったし、やはり王道は強いな。

 

とはいえ、ラノベ読みからしたら粗が多いし展開も凡庸だ。俺と雪ノ下と海老名で材木座をボロクソに批評して、今回の感想会は終了した。

 

「皆の者!大義であった!!また宜しく頼むなり!!」

 

材木座は綺麗な90度のお辞儀をした。すげぇ、なんでそれでバランス取れるんだよ。テトリスみたいだ。

 

「次は何を書くんだ?」

 

「今までは避けてきたが、異世界転生物を書くつもりだ。流行り物だからな、一度くらいは書いておかねば書く機会が無くなるかもしれんし。」

 

「言われてみれば確かにそうだな……楽しみにしとくよ。」

 

「うむ!!心待ちにしておくがよい!!話は変わるが、奉仕部の仕事は最近やってないのか?おぬしから奉仕部の話を全く聞かんが。」

 

「奉仕部?年末に廃部になってるぞ?」

 

「なにぃ!?じゃぁ我はどうすればいいのだ!!」

 

話を聞くと、どうやら奉仕部はいつの間にか帰宅部勢の受け皿になっていたらしい。やさぐれていた当時の平塚先生の仕業なのだが、材木座が言うには一年生も結構な数が入部扱いになっているそうだ。

 

総武は部活強制。適当な部活に幽霊部員として入り直せばいいのだが、やる方もやられる方も面倒である。仕方ない、奉仕部は残しておくか。

 

「材木座。お前が新しい奉仕部の部長だ。俺と雪ノ下は生徒会で忙しい。頑張れよ。」

 

「え!?我が!?嫌だ!!!おぬしだって生徒会が暇だとボヤいておったろう!おぬしがやれ!!」

 

「そう言うなって。奉仕部はそれなりに人数がいるみたいだし、これなら部費も出る。原稿用紙買うにも金が要るだろ?金を割り振るのは生徒会の仕事だ。会計にも話は通してやるからさ。」

 

会計の海老名の方を見ると、海老名はメガネをめちゃめちゃクイクイクイクイさせている。エヴァにそんなシーンあったか?まあ海老名なら何とかしてくれるだろう。

 

「確かにそれは有難い話だ。原稿用紙だけでなく色々と金は掛かるからな……ふふふ、おぬしも悪よのう。」

 

「伊達に副会長をやっていないさ。それに生徒会の会長はお飾りだ。部費が一つや二つ増えたところでバレやしない。」

 

「先輩方、聞こえてますよ。まぁ予算余ってるからいいですけど、バレても私は知りませんからね。先輩が責任取ってくださいよ。」

 

 

 

こうして生徒会主導のもと、奉仕部は建て直されて生まれ変わった。仕事内容は以前同様にお悩み相談室なのだが、材木座はあくまで窓口で相談自体は生徒会に来る。生徒に更に寄り添った目安箱的な立ち位置だ。材木座が使いきれなかった部費は生徒会のおやつ代となる。

 

材木座の執筆場所は奉仕部の部室となり、定期的に海老名が執筆状況と相談事の確認をしに行くことになった。海老名自身もBL小説を書いてるだけあってやはり相性は良かったようだ。

 

奉仕部の確認に行くとそのまま下校時間まで海老名が帰ってかないこともしばしば。相性が合うとは思ったが、まさか付き合ってるのだろうか。

 

「材木座と海老名、あいつら神聖な奉仕部でイチャイチャしてないだろうな。俺と雪ノ下の思い出の場所を汚してほしくないぞ。校内で破廉恥な行為は生徒会として許せん。」

 

「ヒキオが言っても説得力全くないんだけど。」

 

「三浦さんの言う通りね、比企谷くんは信用ないから何言っても無駄よ。私から海老名さんには伝えておくから安心しておきなさい。」

 

「ゆきのんも説得力ないよ!!」

 

「私の生徒会に入ったと同時に廃部にしてたのに、雪ノ下先輩の思い出の場所なんですか?」

 

「当たり前じゃない。かけがえのない思い出の詰まった素敵な場所よ。」

 

「思い出補正で美化されまくってそう……」

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