陽乃さんと大学見学をした翌日の放課後。
陽乃さんが行っている大学にも興味が出たので、平塚先生にお願いして色々と大学について教えて貰っていた。
あの大学は平塚先生の母校でもあるらしく、なんだか運命を感じてしまう。まあそんな理由で志望するつもりはないが、色々と知っておいて損はないだろうから話を聞いているのだ。
正直、平塚先生に対して恩義を感じることは無い。出会った当初はめちゃくちゃ酷い教師だったし。とはいえ、なんだかんだ奉仕部の顧問として俺と雪ノ下にとっては1番身近にいる教師だ。
特に俺とは漫画等の趣味が合うので、夜中にラーメンに連れて行って貰ったりしていた。色々と悪い所は多い人だが、あそこまでモテなかったのは少し疑問ではあった。
「平塚先生ってなんでモテないんですかね。」
「ん?まあ私は性格が男に好かれないタイプだからな。それに酒やタバコもやっている。こんな女がモテる訳なかろう。」
平塚先生はお酒とタバコを再開した。といっても嗜む程度だ。昔の様に泥酔して俺を恫喝したり、煙草の2本同時吸いをしたりもしていない。健全な飲酒喫煙だ。
「俺は平塚先生が煙草を吸ってる姿好きですけどね。」
「おっと、これはいかんな。生徒にタバコなんて物を好きになられたら困る。吸いたいんだったら20を超えてから吸え。」
平塚先生はまだ吸える長さのタバコを灰皿に押し付けて消した。しまったな、もっと吸ってる姿見たかったんだが。
「俺が好きなのは煙草じゃなくて、煙草を吸ってる平塚先生が好きなんですよ。俺と一緒の時は吸ってていいですよ。」
「ホントに君は変わったな。気持ちを素直に伝えれる様になった。君だけじゃなく雪ノ下もだいぶ変わった。こんな風に君達の成長を見れるのだから教師になって良かったと思うよ。」
「だったらこれからも俺達の事を見ていてくださいね。」
「また随分と甘えたことを言うんだな。素直になったはいいが、最近は私に甘え過ぎじゃないか?」
「生徒が教師に甘えてるんだから、教師だったら俺をもっと甘やかせてくださいよ。」
「君を甘やかし過ぎると雪ノ下に怒られそうだが……そうだな。頭くらいなら撫でてやろう。君はよくやっているよ。」
日曜日に雪ノ下母と会い、次の日の月曜日に陽乃さんと会った。内容はどうあれ、本気で疲れてるのだ。本当なら雪ノ下に甘えたいところだが、生徒会室行ったところであまりイチャイチャできない。
平塚先生の撫で方は雑で、髪をくしゃくしゃにされてしまったが、お陰で少し元気が出てきた。よし、今日も頑張るとしますか。
生徒会室の扉を開くと、材木座が椅子に縛られていた。
こちらを上目遣いで見てくるので非常に気持ちがわるい。
「雪ノ下。これなにやってんの?」
「おかえりなさい、比企谷くん。平塚先生の話はどうだったかしら?楽しかった?」
「ああ、結構参考になったよ。それでこれは?」
いまだに上目遣いで俺を見てくる材木座を指差す。
「罪人よ。さっき有罪が確定して、後ほど処刑が執行されるわ。材木座くんと話したいことがあるなら今のうちよ。」
そうか、材木座は死刑か。短い付き合いだったが楽しかったよ。あの世で会えたらまたお前のラノベ読ませてくれ。
「材木座。達者でな。」
「待て待て待て待て八幡よ!我は無実だ!」
「何やらかしたんだ?」
「うむ、それは………まあ色々あってだな。だが我は無実だ!信じてくれ!助けてくれ!」
海老名がめちゃくちゃ材木座をガン見して、視線で材木座の言い訳を制していた。この2人って付き合ってないはずなんだけど、なんで材木座は既に尻に敷かれてるんだ。
「せめて何があったかくらい言えよ。なんもできんぞ。」
「雪ノ下殿に嵌められたのだ。八幡よ。雄弁は銀、沈黙は金だ!我は詳しく言えんが、察してくれ!我は雪ノ下殿に嵌められたのだ!」
「雪ノ下がそんな事する訳ないだろ。疲れてるんだよお前。ほら、海老名と一緒に奉仕部で休んでこい。」
材木座は海老名から更に首輪を付けられて、両手を縛られたまま首輪を引っ張られて生徒会室から出て行った。ほとぼりが冷めたらまた聞きに行くとしよう。
「次の被告人は比企谷くんね。材木座くんは椅子に座ることを許したけれど、比企谷くんは床よ。早く正座しなさい。」
雪ノ下裁判長のご命令である。俺は床に正座した。
しかしながら、思い当たる節がない。
きっと雪ノ下は何か勘違いしてるのだろう。
「比企谷くんと姉さんが昨日した事について、なにか申し開きはあるかしら?」
めちゃくちゃ思い当たる節があった。
いや待てよ。これは雪ノ下のカマ掛けだろう。いくら陽乃さんだって、妹に対して妹の彼氏とファーストキスをした話なんてするわけがない。
それに雪ノ下は俺の事を罪人ではなく被告人といった。
大丈夫だ、バレてない。
「昨日のことは雪ノ下も知ってるだろ?彼氏役は確かに申し訳ないとは思ったけど、陽乃さんも困ってたらしいから仕方ないだろ。」
「その事じゃないわ。昨日の夜に家族で食事をしていたら、姉さんが言ってたのよ。『まさか比企谷くんがあんな情熱的とは思わなかったな〜♡ごめんね雪乃ちゃん♪比企谷くんに初めて奪われちゃった♡』と何度も煽られたわ。」
流石姉妹だ。声真似が上手い。
そして、陽乃さん自分から話してた。つまり、俺は先ほど身の潔白を証明したつもりが、自分から墓穴を掘っていたのだ。
材木座め、言葉が足りないぞ。雄弁は銀どころの騒ぎじゃないぞこれは。もう何言われても黙っていよう。
「うわ、ヒッキー最低!有罪だよ!死刑!」
「あーし関係無いから帰りたいんだけど……」
「三浦先輩は先輩が逃げた時に捕まえる役ですよ!」
裁判官は全て女性。男女平等な判決は期待できないだろう。
何言われようが俺は黙秘権を行使するまでだ。
「ヒッキー陽乃さんとエッチするなんて最低ー」
「危ない所でした。私も先輩の毒牙に犯される所だったってことですよ。くわばらくわばらですー」
「え?まじなん?流石にそれはまずいでしょヒキオ」
落ち着け俺。これは俺から言葉を引き出す為に煽ってるだけだ。由比ヶ浜の棒演技がそれを物語っている。
「私は比企谷くんを信じてるわ。」
雪ノ下!!!
やっぱり俺には雪ノ下しかいない!!
「ああ、信じてくれ。俺はやってない。」
「ちゃんと避妊はしたのよね?」
「したのはキスだけだ!あっ……」
無事に有罪が確定したので腕と脚を縛られて俺は床に正座させられた。すまない小町。お兄ちゃんはひと足先に天国にいってくるよ。
「さて、比企谷くん。姉さんとは別件で被害届が出てるからそちらについても判決を進めましょうか。」
別件?陽乃さん以外はマジで心当たりはない。これは誓ってそう言える。陽乃さん相手だから俺は流された訳で、陽乃さん以外だったら俺は勝てる自信があるし。
「鶴見さんから先日メールが届いたわ。内容を読み上げるわね。」
留美?留美だったら尚更ありえない。確かに留美とは今も月に2〜3回遊んでいるが、その時は雪ノ下も一緒だ。やましい事は一切無いし、そもそも留美はまだ小学生だ。留美にはそういう事はまだ早い。
「『雪ノ下さん。八幡から "辛い時は俺を頼れ" とか "留美の事は俺が守る" とか少女漫画の主人公みたいな台詞を最近よく言われます。恥ずかしいから辞めさせてください。』
だそうよ。小学生を口説くのは犯罪だからやめなさい。」
俺、そんなテンプレみたいな台詞言ってたの?いや、確かに留美に対してはそんな台詞と同じ事は考えているので、無意識のうちに口に出ていてもおかしくない。留美は俺達のせいで夏休みにトラウマが出来た。その関係で俺も雪ノ下も留美に対してはかなり甘い。
「口説いてない。というかそれ言ったら雪ノ下だって留美からクレーム来てるぞ。留美の家にまた勝手にお菓子を送り付けたろ。友達に渡すにしても高級過ぎるから限度を考えて欲しいって言ってたぞ。送るのは構わないが、今後は俺に一回見せるようにしてくれ。」
留美には俺達以外にも同級生の友達が出来てる。雪ノ下は気を利かせてお菓子を渡しているが、俺が知ってる範囲ですらGODIVAやらラ・メゾンやら渡している。小学生に食わせる物でない。
「…………この件は保留にしましょうか。来週も鶴見さんは来るそうだし、3人で話し合いましょう。」
「そうしよう。留美もあと数ヶ月で中学生だからな。もう俺達が甘やかす事も無くなると思うと感慨深いもんだ。」
生徒会の中で留美のことを知らないのは一色だけなので、話に付いていけてない一色に留美との写真を見せた。見せたと言うか、縛られた時に携帯を強奪されていたので勝手に見られた。
「かっ、可愛過ぎます!!なんですかこの子!!来週は私もご一緒したいです!!紹介してください先輩!!」
出会った時の留美は目が腐っていたが、今ではそれは無くなり、文句のつけようが無い美少女になっている。まだ若いから腐った目は直ぐに治ったのだろう。興奮した一色に詰め寄られて後ろから抱きつく様にして首を絞められた。
「ぐぇ…しょ、紹介するから落ち着け、絞まってる。絞まってる。死ぬ、マジで死んじゃう。」
腕を縛られて抵抗できない状態で首絞められるとメチャクチャ怖い。雪ノ下も見てないで助けてくれ。婚約者が絞殺されかけてるんだぞ。
「あとはそれも問題ね。比企谷くんと一色さんは距離が近過ぎるから離れなさい。くっつき過ぎよ。」
「だそうだ。一色は俺から今すぐ離れろ。裁判長の命令だぞ。生徒会長ごときが裁判長の命令に逆らうんじゃない。」
「え〜!でもでも〜、先輩が私の事を1番近くで見といてやるって言ってくれたんじゃないですか!だから私はこうやって近くにいてあげてるだけなんです!」
「それはどういうことかしら?」
あっ、思い出した。やばい。一色にもなんか言ってた気がする。マジで最近は口が羽毛の様に軽いから思ってること全部口に出ちゃってるんだよな。お口にチャック付けなきゃ。
「ちょっと待って下さいね〜私も声真似します!あっあっ、ん〜、よし。
『ちょっと元気があり過ぎて空回ってるとこもあるけど、俺はお前のそういうとこ好きだぞ。お前のこれからの頑張りも、俺が全部見といてやるから全力で走り抜け。俺は副生徒会長だ、生徒会長のお前の隣には俺がずっと居てやるから安心しろ。』
だなんて、こんな風に頭を撫でながら先週言われまして〜。流石の私もドキドキしちゃいましたよ。」
一色は俺の頭を撫でながら下手くそな声真似を披露していた。似た様な台詞を確かに先週言った。一色の頑張りは確かに認めている。1年生でありながら積極的に新イベントを打ち出して学校を盛り上げようとしてる一色にエールを送った。しかし、こんなラブコメ風には言ってない筈だ。絶対盛られてる。
「いや、もうちょっと雑な感じだったろ。頑張れよ一色!みたいな。嘘ついたらダメだぞ。雪ノ下、一色の言うことを信じるなよ。悪名高い生徒会長だ。どうせこの場のノリで盛って話してるだけだ。」
「……そうね。一色さんは普段から少し話を盛る癖があるから、一色さんの証言だけでは信憑性に欠けるのは確かだわ。そういうことだから、早く比企谷くんから離れなさい。」
よし、流石は雪ノ下だ。一色の普段の行いの悪さが心証に直結している。いくら俺でもあんなキザで臭い台詞言うわけない。一色の捏造に決まってる。
「判決は下った。ここは公平正大な裁判の場だ。証拠も無しに変なこと言っても無駄だぞ一色。早く離れろ、そして縄を解け。」
ついでに拘束も流れで解いて貰おう。陽乃さんの件が有耶無耶のなってきてるみたいだからうまくいけば無罪を勝ち取れそうだ。
「証拠ならありますよ。録音してましたもん。ほら。」
一色は自身の携帯を取り出し、再生ボタンを押した。さっきの一色の声真似と一言一句同じ台詞を俺が言っていた。くそお……なんで録音なんてしてんだこいつ!
「比企谷くんは年下なら見境なく口説くのね。死刑確定よ。一色さん、その音声データを渡しなさい。証拠として押収するわ。元データは消しなさい。」
「これは総武の生徒会長に代々引き継ぐので、生徒会長のものです!三権分立ってやつです!」
そんなもん引き継ぐなよ、次の生徒会長が困っちゃうだろ。
というか死刑が確定した。やばい、どうやって逃げよう。
「……まあ、悪用しないならいいわ。さて、そこの罪人はどうやって懲らしめようかしら。」
「待て!そうだ、弁護人!俺の弁護人がいない!これは不当な裁判だ!」
「比企谷くんを弁護する物好きなんていないでしょ。」
「葉山だ!葉山を呼んでくれ!あいつならこの判決をひっくり返せる筈だ!」
「隼人?隼人ならあーしが呼んどくけど、もう死刑確定してるし無駄っしょ。隼人にも死刑執行の瞬間見せたいなら話は別だけど。」
「いや、俺は葉山を信じてる。なにせ雪ノ下家の弁護士の息子だ。黒を白にするなんてお手のものだろうからな。」
「雪ノ下家は葉山家にそんなこと頼んでないわよ。」
10分後。葉山が来てくれた。
丁度部活の休憩時間だったそうだ。
「比企谷。優美子から内容はメールで聞いたよ。後は俺に任せてくれ。」
流石は葉山だ!!早く俺の無実を証明してくれ!!
「では葉山くん。そこのゴミ……いえ、比企谷くんの死刑判決について、反論があるのかしら?」
「いや、何もない。比企谷は死刑だ。」
爽やかイケメンスマイルの弁護人に即裏切られた。
「何しに来たんだお前!弁護しろよ!」
「まぁ待て比企谷。雪ノ下さん、いくら死刑確定だからといって拘束するのはよくないよ。俺が呼ばれたということはまだ裁判中なんだろう?だったら拘束するのは間違ってる。結衣、比企谷の拘束を解いてやってくれ。」
「え〜、まぁ確かにヒッキーは逃げないと思うからいいけど」
なるほど、つまり由比ヶ浜が俺の拘束を解いたら逃げろということか。俺が逃げた後は代わりに葉山が死刑を受ければ、この件は一件落着だな。
「うぇ……なにこれガッチガチじゃん。いろはちゃん固く結び過ぎ〜。」
一色がガッチリ縄を結んだせいで結び目を解くのに苦労してるようだ。季節は冬だが生徒会は暖房が効いている。由比ヶ浜の額には汗が流れ、由比ヶ浜は汗ばんだ身体を冷やす為に胸のボタンを外した。
俺は拘束されてるから逃げ場はない。由比ヶ浜の汗がその豊満な谷間に落ちて溜まっていく。体勢的に由比ヶ浜が俺を上目遣いで見る形になる。
「もぅ〜ホントにヒッキーの(拘束されてる縄が)固すぎだよぉ〜。(縛ってる時にいろはちゃんが)興奮しちゃったのかな。ヒッキー待っててね。私が楽にしてあげるから。あっ。」
由比ヶ浜も谷間に溜まる自分の汗に気付いたのだろう。恥ずかしがるように咄嗟に胸に溜まった汗を手で振り払った。由比ヶ浜の制服のボタンが更に外れて谷間が露わになり、汗が俺のズボンの股間付近に飛び散った。
由比ヶ浜はマジで天然ゆるふわビッチだ。ふざけないでほしい。拘束されてる俺は床に正座した状態でそのまま後ずさって、上体を折り曲げて土下座のような体勢になった。ならざるを得なかった。八幡の八幡が八幡になってしまったのだ。周りはなぜ俺がこんな態勢になったか気付いてるだろう。
「比企谷。俺はもう部活の休憩時間が終わるから戻る。ここから君を救う手立てはない。明日は俺が君にマッ缶を奢ってやるから諦めろ。頑張れよ。」
地面に頭をつけてる俺を放置して葉山は生徒会室から出て行った。だめだ、万策尽きた。俺に残された手はない。
「ヒキオまじ最低なんだけど。」
「やっぱ胸なんですかね。私ももうちょっとあれば…」
「え?え?何?なんでヒッキー土下座してるの?」
「結衣先輩、それはですね……コショコショ」
「うわ!ヒッキー最低!!」
俺は悪くない。悪いとすればタイミングだ。土曜日留美と遊び、日曜日は雪ノ下母と会い、月曜日は陽乃さん。今日か明日に雪ノ下のマンションに行こうかと思ってたので自分で処理もしてない。健全な高校生が4日もしてなければ、制御しきれないのは仕方ないことだ。
「さてと、それでは比企谷くん。覚悟はいいかしら。」
俺のこの日の記憶はここで途切れている。気付いたら翌日の朝だった。雪ノ下に合気道の技を掛けられた記憶は薄っすらある。
口は災いの元。沈黙は金。
今日から比企谷八幡は無口系男子に生まれ変わるのだ。