「お兄ちゃん!そこ!早く!もぉー!」
「お兄ちゃんホント使えない!バカ!ゴミ!八幡!」
高校受験を終えた我が妹の小町は家で遊んでばかりだ。
今日も俺をお供にしてテレビゲームのクリアを目指し、俺の下手くそなプレイにお怒り中。小町は総武に絶対受かったと自信満々で、最近は一色とも遊んでいるらしい。
最悪な組み合わせだ。
無限に調子に乗る2人組が出来上がってしまった。
一色は留美にも会いたがっていたがホントに会わせたくない。悪影響しかない。俺は留美には健やかに育って欲しいのだ。あんなノリと勢いだけで生きてるような人間にはなって欲しくない。
ユーガッタメール‼︎
ん?この時間にメールって事は平塚先生か?
送り主を確認するとやはり平塚先生だった。
今の時間は夜9時。中身を読もうと思ったが相変わらずの長文なので読むのはやめた。どうせラーメンのお誘いだろうし、中身は読まずに『行きます』とだけ返信した。
「これから散歩してくるから後は小町1人で頑張れ。俺は忙しいからゲームなんかしてる暇ないんだよ。」
「どうせまた平塚先生でしょ??先週も行ってたじゃん。浮気してるって雪乃さんに言いつけちゃお〜」
「ちがう。散歩だ。たまたま知り合いと会うかもしれないけど、あくまで散歩だ。」
平塚先生はラーメンを奢ってくれるし、なんだかんだ話してて楽しい。生徒を夜中に連れ回してるのがバレるとクビになるかもしれないので、あくまでたまたま出会って奢って貰ってる設定なのだ。
いつもの待ち合わせ場所の公園に着き、平塚先生の愛車に乗せてもらう。めちゃくちゃカッコいいスポーツカーだ。俺が免許を取ったら運転させて貰う約束も取り付けている。
ラーメン屋に行くかと思ったら夜景が綺麗な場所で降ろされた。ロマンチックな景色だ。もしかしたら告白でもされちゃうのだろうか。
「ラーメン食べに行かないんですか?」
「メール読んでなかったのか?今日は話だけだよ。食べ物は…….飴くらいしかないな。舐めるか?」
「せっかくならいただきます。」
渡されたのは焼肉屋とかで貰う安っぽい飴だった。
口に入れると安っぽいジュースを固めたような味がする。
「不味いですねコレ。それで、話ってなんですか?」
「不味いなら吐き出せ、その辺の草の栄養になるだろ。話というのは生徒会のことだ。」
平塚先生はマトモにはなったけど、時折こんな感じで倫理観が欠如したような事を平気で言う。去年とかと比べたら全然マシだから俺は気にしてないが。ポイ捨てはダメですよ。
「生徒会ってことは、プロムのことですか?」
「そうだ。君の話を聞く限りでは動く金額が大きい。今回は何かあってからでは遅いから、一色には内緒で私に情報を逐一報告して欲しい。」
平塚先生は生徒会の顧問だが、基本的には全く関与していない。だが、定期的にこんな感じで生徒会の様子は気にしてくれている。本当にマトモになった。
「直接一色に言ったらどうですか?平塚先生、一色に舐められてますよ?ガツンと殴りましょうガツンと!」
一色は自分こそが生徒会の主だと王様気分でいる。平塚先生はお飾りで役に立たないと思ってるようだが、バレンタインイベントだって平塚先生が陰で教師に根回ししたお陰ですんなり通っていることに気付いていない。俺の言葉を真に受けて、チョコだけで教師を懐柔できたと思い込んでるので詰めが甘い。
「構わんよ。一色はまだ一年生だ。君も大目にみてやれ。」
「平塚先生がいいならいいですけど。平塚先生から見て、プロムはどうなると思いますか?」
「成功はするだろうな。だが今回みたいな……いや、やめておこう。今回も君達が主導だ。私のような部外者は黙ることにするよ。」
「懸念点あるなら先に教えて欲しいんですけど。」
俺も懸念点はいくつか思いついてはいる。ただ、確証はない。上手くいけばいいし、上手くいかなければ都度対処する。それで何とかなる程度って認識だが、平塚先生の口振りだとどうやら違いそうだ。
「今年の生徒会はうまく行きすぎてる。たまには失敗したまえ。その為に私に逐一報告しろと言っているんだ。」
「スパルタですね、時代錯誤ですよ。」
「ははは、そうかもしれんな。……つまらん時代だ。」
煙草を片手につまらなそうに夜景を眺める平塚先生の姿は、見た目だけでいえば本当にカッコいい。
やはり、ちゃんと聞いてみるか。
「なんで平塚先生って彼氏いないんですか?」
「やめろ。人が感傷に浸っているというのに現実に引き戻すな。そんなの私が知りたいくらいだ。」
「顔は良い。スタイルもいい。車の趣味もいい。酒も煙草も元々はほどほど。性格は………今はマトモですもんね。」
「去年のやさぐれていた時は君にも迷惑掛けてすまなかったな。私の元々の性格は今みたいな感じだ。」
「俺は今の平塚先生なら好きになる男がいてもおかしくないと思ってますけど。」
「自分でも顔とスタイルが良いのは自覚してるから、君がそういうならいてもおかしくはないと思うが……単に出会えなかっただけということか、他に原因があるのか。」
「今は生徒会も暇ですし、奉仕部に依頼したらどうですか?生徒会メンバーで色々考えますし、答え見つかるかもですよ。」
「随分と優しいな。大学の話の礼か?」
「いえ、ほんとに暇なんですよ。」
「教師の恋愛事情を暇潰しに使うな。まったく………仕方ない、せいぜい君達の暇潰しになってやるとしよう。」
放課後の奉仕部。
本日の生徒会はお休み。
懐かしの奉仕部部室で平塚先生がモテない理由を生徒会with奉仕部で解き明かす。平塚先生は中央の椅子に座らせて縛りつけておいた。
「私を縛る必要はないだろ。」
「内容的に平塚先生の悪口になるかもしれないですし、暴れれた時の為の保険です。それと、生徒会室では縛るのが流行ってるですよ。」
「なんでそんな事が生徒会室で流行るんだ。私が見てないからって好き放題し過ぎるなよ。」
「俺も知りませんよ、気付いたら縛られてるんですから。それよりも話を進めましょう。まずは雪ノ下から行くか。平塚先生がモテない理由は何だと思う?」
雪ノ下は呆れたと言わんばかりの表情だ。俺の次に親交が深いとしたら雪ノ下だし、雪ノ下はどう思ってるんだろう。同性だから視点が違うかもしれん。
「性格ね。良くも悪くも気分で性格が変わってるから、男の方が平塚先生についていけないのよ。今は大人しく縛られてるけど、本来はそんな人ではないでしょ。」
おお、的確な意見だ。確かに平塚先生は気分の上がり下がりが激しい。雪ノ下の的確な分析に感心している俺を尻目に、図星を突かれて焦ったのか平塚先生がソワソワしている。この人、俺と2人でいる時は立派なのに何で他の人の前ではこうも情けないんだろう。
「ぎゃ、ギャップ萌えということにはならないのか?」
生徒に何を聞いてるんだこの教師は。目の前の惨めな教師を見て、雪ノ下は相変わらず呆れたような顔をしている。
「アラサーに萌え要素があるんですか?」
平塚先生は何も反論できずに項垂れた。流石に可哀想すぎる。言っていいことと悪いことがある。雪ノ下には人の心が無いのだろうか。俺が叱らないといけない。
「雪ノ下!こらっ!人の心の傷を抉るんじゃない!」
「現実を見せただけよ。」
「平塚先生、気にしないでください!雪ノ下は錯乱してるんです!先生はまだピチピチな20代ですよ!」
「すまないな、比企谷。よし、元気が出てきた。そう、私は20代だ。雪ノ下の嫌がらせには負けない。」
「小町さんから比企谷くんと平塚先生が会ってるって連絡があったけど、わざわざ夜に会ってまでこんな小芝居の練習してたの?こんな事してる暇があるなら本気で相手を探すべきよ。それをしないっていうことは「よし、次行こう次!次は一色だな!一色は平塚先生のことどう思う?」
雪ノ下は火力が高過ぎる。このままだと平塚先生が黒焦げになってしまう。雑魚の一色を倒して平塚先生には勢いを付けてもらおう。
「え、仕事して欲しいです。生徒会の仕事なにもやってないじゃないですか。」
「めっちゃやってる!平塚先生めっちゃやってるから!」
「例えば何ですか?」
「それは………その、筋トレとかさ。」
「筋トレは生徒会の仕事じゃないですよ。」
「一色は見てないからそういう事言えるんだぞ、平塚先生に謝れ!一色は知らないだろうけど、平塚先生は走り込みもしてる!」
「走り込みも生徒会の仕事じゃないんですよ。あれ?平塚先生が何か言ってますけど何て言ってるんですか?小声すぎて聞こえないですけど。」
「………ボソボソ」
「ちょっと待ってろ。平塚先生、なんですか?」
俺は平塚先生の口元の近くに耳を近づけて、小声でボソボソと呟く声を聞く。なるほど。そういうことか。
「最近はヨガも始めてるそうだぞ!!」
「だから生徒会に関係ないんですよ。なんなんですか。」
一色め。普段仕事してないくせにこういう日に限ってまともだ。後は……三浦と海老名は材木座の小説読んでてこっちを見向きもしてないから無理か。由比ヶ浜は雪ノ下と遊び始めてしまったし。仕方ない。
「材木座。オチはお前だ。」
「待て八幡!嫌な予感がするのだが!!」
「前に俺に言ってたよな?平塚先生は美人だから殴られるのはご褒美だとかなんとか。」
「言ったことはあるが我は痛いのは苦手だ!」
「まあまあ、平塚先生は殴ると胸が揺れるから見放題だぞ。」
「なるほど………?イタッ。海老名殿!違う!今のは八幡が言ったことだ!!我は言ってない!!」
海老名が材木座に消しゴムを投げ付けていた。消しゴム、定規、赤ペンと次々と材木座に投げ付けられていく。やばい、筆箱まで投げようとしてる。巻き添えはゴメンだ。撤退しよう。
ワイワイ騒いでる奉仕部を残して俺と平塚先生は外に出て行った。
「平塚先生、真相は闇の中でした。残念です。」
「まあなんだ。君達が楽しそうにしてるようで何よりだ。」
「だいたいいつもあんな感じですね。」
「そうか。それなら安心だな。比企谷。ありがとうな。」
「どういたしまして。これからもよろしくお願いします。」