プロムの準備は2月の頃から着々と準備を進めていた。プロム関連の予定は次のようになっている。
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2月上旬
一色がプロムの企画を考え、俺達がダメ出しし、また一色が考える。それの繰り返し。そうして一色は企画を作り上げた。
今回のプロムのテーマは境界だ。結婚式場の内外を貸し切り、式場内はフォーマルな場として大人な雰囲気にし、式場外はインフォーマルな場として砕けた雰囲気を楽しんで貰う。参加者はどちらに参加するか選ぶことができ、区分け自体も気軽に行き来できるようにしている。卒業して大人になる卒業生を想起させる構成になっている。
2月中旬
企画を更に練り上げて海浜へ合同のお誘いし、承諾完了。諸々の規約を再確認し、式場等の仮予約。
2月下旬(これからの予定)
プロムの電撃告知。海浜側でも同日に告知。
生徒・保護者・近隣住民に説明をしていく。
総武のお財布は式場やドレス等のお金で使い切っているので、今後の諸々の経費は海浜のお財布が頼り。海浜のお財布次第では式場やドレスのグレードアップも狙う。
3月上旬(予定)
撮影機器の使い方の確認や、投影する映像・流す音楽等の演出準備。プロム当日を想定した細かい調整。
3月中旬(予定)
卒業式の夜にそのままプロムへ。保護者の方はプロム参加不可。後日ビデオレター送付。
4月入学式(一色の願望)
プロムを成功させた一色いろはは最強の生徒会長として新入生から尊敬の眼差しで見られる。
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現状で場所とドレスは用意してあるので、残りは海浜のお財布でどこまで豪勢にできるかというところだ。
プロムの開催が確定したので、やっと告知ができる。告知役はいつも通り一色による演説だ。
バレンタインイベントが終わり、一息付いた2月20日の全校集会。校長のつまらない世間話が終わると一色の挨拶が始まる。
「みなさん!今日もお日柄です!!
生徒会長の〜〜〜……
一色〜〜……
い⭐︎ろ⭐︎は!です!!
生徒会からのつまんないお知らせは掲示板に貼ってあるので各自見といて下さい!お仕事終わり!
今日はみなさんに朗報がありますよ〜!
聞きたいですか!?
聞きたいですよね!!」
一色は全校集会での挨拶に慣れてきた。就任当初はオドオドしてたのに、今となっては身振り手振りで動き回りながら大声で演説してる。生徒からの評判は上々だが、俺はうるさいのは嫌いだ。聞くに耐えないので耳を塞いだ。
どうやら演説は成功したようで、集会後の校内はプロムの話題でもちきりだった。
そして今日から生徒会は慌ただしくなる。
俺と一色は海浜総武高校側にお出掛け。
これまではメールで連絡取っていたが、進捗確認や海浜のお財布を根こそぎ頂くために乗り込むのだ。トゥゲザーしようぜ玉縄。
残りの生徒会メンバーは校内作業と挨拶回り。主に保護者や近隣への説明をしてもらうのでこちらもバタバタするのだ。
集会の日の放課後
雪ノ下家のリムジンは雪ノ下が挨拶回りで使うので、俺と一色は電車移動だ。そういえば雪ノ下が電車乗ってるとこ見た事ない気がするな。たまには電車で遠出してみるか。
「先輩〜。今回は結衣先輩は来ないんですか?」
「由比ヶ浜は校内組と一緒に近隣住民やら保護者への説明をして貰うからな。こればっかりは人海戦術だから人手が足りん。」
「うぅ〜大丈夫かなぁ〜。玉縄先輩にまた横文字で捲し立てられたら私だけじゃ勝てそうにないですよ。」
前回の玉縄語録には随分と苦労したのだろう。一色は玉縄に苦手意識が埋め込まれているようだ。俺も玉縄の横文字は苦手だから、横文字使ったら1発ビンタするって約束でも取り付けておくか。玉縄を往復ビンタできそうだ。
そんな馬鹿みたいな事を考えていたら海浜総合高校についた。海浜総合は俺の中学の同級生が多い高校だ。最近は記憶容量が雪ノ下でいっぱいなので、関係ない中学の記憶はなくなり気味だから顔見ても名前思い出せるか怪しいな。まぁあっちも俺のことは覚えていないだろう。
………なんかフラグが立ってしまった気がするから隠れながら向かうか。
途中で折本を見かけたが、隠れてたおかげで見つからずに済んだ。フラグ回避成功!今日は調子いいかもしれんな。
隠れながらソソクサと入門受付に行くと、玉縄が受付で待ち構えていた。こいつ、出待ちなんて洒落たことができるのか。
一色と玉縄の2人の会話を横で聞きながら、海浜の生徒会室へ向かう。俺は今回もあくまで一色の補佐だ。よっぽどのことがなければ口は出さないし、仕事はしない。疲れるから働きたくないし。
海浜と話す内容自体は既に決まっている。
「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「何を」「どのように」「いくらで」
いわゆる5W1Hを少し改良した。「なぜ」は今回入れてない。海浜に「なぜ」を考えさせると話が進まないので、海浜がやるべきだけを伝え、それを実行させる。今回は総武が主導なのでこちらが全て決めていても何も問題はない。
合間合間で玉縄は横文字を使っていたが、玉縄が横文字を使うたびに俺が日本語に訂正しまくってたら途中から横文字を使うのをやめてくれた。そして、横文字無しでも玉縄は普通に話せていた。最初からこうしとけば良かったな。
一色は練習していたプレゼンを終えて大変満足げな様子だ。生徒会や家で何度も練習したらしく、その甲斐あってよくできていた。帰りに何か奢れと強請られそうだな。
海浜側も内容には概ね納得していたが、どうにも雰囲気がおかしい。海浜側にクリスマスの時と同じ様な変な緊張感がある。
一色はどうやら気付いてないので、俺が言うしかないな。不安の芽は摘み取っておこう。
「玉縄会長。気になる点はありそうか?」
「いや、ないよ。そもそもメールで連絡してくれてたからね。僕達は大丈夫だ。これから宜しく頼むよ。」
ん?僕達は?気になる言い方だな。
「今日の告知はどうだった?」
「それも問題無かったよ。やる事は決まってるからね。急に発表したからみんな驚いていたけど、生徒はみんな楽しみにしてるようだったよ。」
生徒はって、もしかして………
「一応確認なんだけど、教師への説明……いや、承認って取れてるよな?」
「……実は半々なんだ。大丈夫、必ず承認は取る。」
やっぱりちゃんと取れてなかったのかよ。
玉縄と話しながら海浜の会計報告を読んでいたが、話に聞いていた通り予算を余らせているようだ。
金はあった。ただ、気になる点がある。
今年やっていた筈のクリスマスイベントに関して、予算案自体が通っていない。
かかった費用が全て臨時の雑費として処理されていた。
「これ、今年のクリスマスイベントの時の承認はどうなってたんだ?」
仕事したくはないが、これは一色には任せきれないな。玉縄はヤル気だけはある男だ。俺はてっきり予算案で枠を取り過ぎて怒られてると思っていたが、まさか予算案すら通してないのは予想外だった。
「海浜は教師承認が難しい。特に新しいイベントに対しては。クリスマスは僕達も色々と教師に案を提示していたんだが、全て却下されていたんだ。」
「だから毎日毎日ブレストして案出してたのか…」
「最終的には全案却下の時間切れで強制的に打ち切りされ、参加自体を禁止された。それでもなんとか雑費という形でお金は工面して総武に貢献できたが………あの時はすまなかった。」
海浜の生徒会メンバーが立ち上がって頭を下げてきた。クリスマスの時は逃げ出した割に、掛かった費用を気前よく全額出してくれていた理由はそれか。
「気にするな、教師に禁止言われたら仕方ないだろ。そっちの教師は随分頭が硬いんだな。」
「ああ、保守的といえば聞こえはいいが、生徒からの意見などはあまり聞かないんだ。」
もしかして海浜メンバーが横文字使いまくってるのは保守的な教師に対する反抗なのだろうか。とはいえ、理由が分かったしこれで前に進めそうだ。
「総武とは大違いだな。」
「まったくだよ。そっちの生徒会顧問はさぞかし理解ある教師なんだろうね。羨ましいよ。」
平塚先生のことだろうか。せっかくだから平塚先生の株でも上げておいてやろう。
「ああ。うちの顧問は胸がデカいからな。」
「やっぱりか。………ん?胸?器じゃなくてか?」
「ああ。胸がデカい。」
「胸の話はしてないが。」
「後は態度もデカいな。」
「それは良い点なのか……?」
「ちなみに彼氏募集中だ。」
「僕たちは何の話をしてるんだ……?」
平塚先生の株上げは失敗してしまった。
すみません、平塚先生。無理でした!
ともあれ、前回同様に海浜が参加禁止になってしまうのは困る。金は兎も角、合同なのは告知しているのだ。卒業イベントが失敗したなんて、卒業生に変な思い出を付けさせるわけにはいかない。
「とりあえず今から教師に承認取りに行くか。説明はどうする?一色がまたしてもいいが。」
「え!?嫌です!疲れました!先輩がして下さい!先輩何もしてないじゃないですかー!」
疲れた〜と小芝居しながら俺にもたれ掛かってくる一色を引き剥がす。一色は小町と絡んでるせいで小町みたいな甘え方を覚えてきている。妹は2人もいらない。マジで会うの禁止にしてやろうかな。
「一色さん。これは海浜の仕事だから海浜の会長である僕がやるよ。ただ、詳しい説明は出来ないからもし説明不足だったら助けて欲しい。お願いできるかな?」
「それならいいですよ!いろはちゃんにお任せ☆!」
玉縄に慣れたのか一色のノリが軽くなってきた。どうせ海浜の教師が来たらビビるんだろうしほっとくか。人見知りするくせに、一度舐めるととことん軽くなるからな…。
生徒会室で10分ほど待つと海浜の生徒会顧問と生徒指導とよくわからん先生が何人か集まってきた。自己紹介をすると、一色が生徒会長ということに驚いていた。海浜でも一年生で生徒会長というのは過去にないらしい。
自己紹介が終わると玉縄によるプロムの説明が始まる。
玉縄によるプロムの説明は充分な物だった。
一色の説明には及ばないが、さっき一色から聞いたばかりだと言うのに要点は押さえてあって、わざわざこちらが説明を加える必要はないほどだった。なんだかんだで玉縄も能力高いんだな。
しかし、教師陣の顔は険しい。正面に座ってる生徒会の顧問の中年男性が口を開いた。
「玉縄君。合同プロムの内容は分かった。ただ、前にも言ったが順番を守るべきだ。今日だって私達の許可なく生徒にプロムの告知をしただろう?」
「プロムの告知を今日する事は伝えていました。タイミング的に今日告知しなければ準備に遅れが出てしまいます。先生方には何度も相談はしていましたが、それでも先生方から返事がないので、告知を優先しました。」
「優先すべきは生徒への告知ではなく私達教師への報告だろう。私達だって反対するつもりはないんだよ。ただ、順番を守って欲しいだけなんだ。教師の中には内容を正確に把握できてない人もいるかもしれない。それを先ずは確かめるべきだろう?」
「しかし、先生方はみな忙しいので、一人一人全てを話していては時間がいくつあっても……」
その後も玉縄と海浜教師陣との話し合いは続くが、一向にプロムの中身の話をしない。ずっと朝に告知を強行した事に対する話だ。
ダメだなこれは。
こんなのとマトモに相手にしてたら企画が通るのは1ヶ月後とかになる。無理矢理進めるしかない。一色は海浜の教師陣にビビってるし、俺がやるしかなさそうだ。
「お話の最中に横から失礼します。玉縄会長、プロムの説明ありがとうございました。それと、先生方、告知に関しては俺達の配慮が足らず申し訳ありません、今後気を付けます。」
玉縄は言い返すから時間を食われてる。こんなの頭下げてしまって言い訳を全くしなければ直ぐに終わる話だ。
「いや、君達は悪くない。これは玉縄君の問題だ。」
なるほど、あくまで玉縄とだけ話を続けたいのか。
「そうですか。では、俺からも玉縄会長にはキツく言います。プロムの告知を失敗した罪を糾弾する必要がありますからね。先に先生方が玉縄を説教しますか?それとも私が先にやりましょうか?
それと、海浜の書記さん。議事録の作成をしてくれ。他校の俺が話し合いに関わるなら、議事録ないと後から問題になる。」
「待ちなさい。議事録の必要はない。ただの話し合いだ。それに説教ではない。すこし指導に身が入っていただけだ。玉縄君も反省してるみたいだし、君も説教なんてしなくていいだろ?」
「玉縄会長が反省してるなら問題ないです。それでは、プロムの内容について質問ありますか?折角なのでこのまま私がお話しさせていただきます。」
プロムについては案の定根掘り葉掘り聞かれた。
そして、そのすべてに完璧に答えた。
一色がプロムの企画を作っているが、作り込んでいるのは俺と雪ノ下だ。懸念になりそうな点は全て洗い出して改善案は出しているし、懸念が解消できないなら違う手段で解決する案も作っている。俺と雪ノ下がチェックしてる以上、この企画に穴なんてない。
「他に質問ありますか?なければ今日から予定通り進めていきます。」
「………今日はダメだ。君の話が本当かの確証がない。総武の規約を私達は知らないからね。明日、そのあたりの資料を持ってきてくれ、それを見て話し合おう。そうじゃなければ良いか悪いかの判断はできない。」
「分かりました。ではまた明日お願いします。」
教師陣は俺らに聞こえない様にブツブツと何やら話し合って生徒会室から出て行った。玉縄はこれと毎日やりあってたのか。大変だな。
「比企谷君、凄いな。全部覚えていたのか?」
「懸念になりそうなところだけだ。とりあえず今日は解散するか。無視して動いてもいいが、それをネタにまた説教されるのは面倒だ。」
「そうだね。予定を見る限り、今日明日が潰れてしまっても巻き返すのはそれほど大変じゃないし、そうしよう。」
「玉縄会長。明日で決めきれないと首が絞まるってことだから、気を引き締めてくれよ。元々はこんな説明のために余裕を持たせた日程じゃないんだから。」
今日で説明自体はほぼ完璧に終わってる。
何かあるにしても、資料を見せるだけで終わる筈だが、わざわざ、また話し合いをしようと言ってきた。資料を見せるだけでは終わらないんだろうな。
仕方ない残業しよう。
校内組は挨拶回りした後にそのまま家に帰ってるはずだから、総武の生徒会室に戻って可能な限りの準備を整えておくか。