プロムの準備はすこぶる順調だ。
順調過ぎて来週が本番だというのに概ねやる事が終わってしまっている。
仕事が順調な1番の理由は海浜側の生徒会だ。彼らが想定の倍以上の働きをしてるので、やる事が消滅してしまったのだ。
海浜の生徒会を変えたのは他でもない『生徒会長一色いろは』の存在だ。
玉縄達からしたら、クリスマスの時に会った一色は横文字で頭がパンクしているお飾りの生徒会長だった。
それなのに、数ヶ月ぶりに会った一色は自分達よりも遥かに優れた生徒会長になっていた。
実力は玉縄の方が一色よりも上だろう。
だが、生徒会長としての熱意は一色が遥かに優れていた。
一色の熱意に当てられた海浜側の生徒会を、平塚先生が更に後押しした。
これまで教師に散々抑圧されてきた海浜生徒会は、平塚先生の『全責任は私が持つから好きにやりたまえ』という放任主義により、やる気が爆発した。
それこそ徹夜でもしてるんじゃないかと思うレベルで仕事をこなしていく。本来はお目付け役として海浜に出向いてた俺と一色の仕事は無くなり、俺と一色は総武に戻って校内の仕事を手伝ったのだが、とうとうそれも終わってしまった。暇過ぎる。
「せんぱ〜い、暇ですよ暇〜〜〜!」
「サプライズのイベントをやるとか言ってなかったか?暇ならそれを進めればいいだろ。」
「それも玉縄先輩に頼んじゃってるんですよ。暇だな〜……そうだ、先輩の愛の告白でも聴こっと。」
一色は携帯のスピーカーをオンにして録音データを流し始めた。
『俺がずっと一色の隣にいて、ずっと一色を見ててやる』
「やめろ。恥ずかしい。消せ、今すぐ消せ。」
「嫌です〜。これは生徒会の資産なんですよ。先輩の録音データも増えてきましたけど、私の名前が入っちゃうと次期生徒会長に渡せないのが難点なんですよね。私の名前のところだけ生徒会長に言い直してくれません?」
「嫌に決まってるだろ。マジであの状況でどうやって録音してたんだよ……」
俺の記憶では一色はめちゃくちゃに泣いてたのでそんな余裕は無かったはずだ。もしかして常時録音状態にしてるんじゃないか?一色と話す時は注意しとこう。
「そうだ!ダンス動画撮りましょ!プロムに来たはいいものの踊り方が分からず右往左往する悲しい生徒を1人でも減らすんですよ!」
「ほー、いいんじゃないか?由比ヶ浜、一色を手伝ってやってくれ。俺はちょっとダンスにアレルギーあるなら踊れないんだ、悪いな。」
「私も踊ったことないよ!?ダンスにアレルギーってなんだし!絶対ウソじゃん!」
俺だって踊ったことない。もし来年もプロムをやるとしても俺は絶対出席しない。卒業式が終わった瞬間に雪ノ下と卒業旅行に行くつもりだ。
「ダンスは男女ペアが基本なんですから先輩が居ないとダメなんですよ!生徒会長命令です!副会長は従うしかないんですよ!!もう!仕方ないダメ男ですね!」
「由比ヶ浜……助けて………」
「ヒッキー弱過ぎるよ!あっ、待って〜!」
抵抗虚しく、俺は一色に襟元を掴まれズルズルと引き摺られながら、生徒会室を後にした。同じく暇してる由比ヶ浜に助けを求めてみたが、由比ヶ浜もなんだかんだダンスのPV撮りたいんだろう、全然一色を止めてくれなかった。
体育館でYouTubeのダンス動画を参考に、一色監督の指示のもと俺と由比ヶ浜がステップを踏む。一度家で映像見ながら1人で試した時はそこまで難しく感じなかったが相手がいると勝手が違うな。
「もうちょい俺に近付け。そのままだと次のステップでコケるぞ。」
由比ヶ浜の手を軽く持ちながら誘導する。由比ヶ浜は運動神経はそこまで良くない。そして、頭もそれほど良くない。近付けとは言ったが、密着したらどうやって踊るんだよ。
「離れろ。ダンスでこんなくっ付いてるのなんて見たことないだろ。どうやって踊るんだよ。」
「もぉ!近付けって言ったり離れろって言ったりどっちだし!そうだ!抱き上げたりするのあるじゃん?あれやってよ!」
「むりだ。由比ヶ浜は重そうだし、俺じゃ持てん。」
主に胸が重量オーバーだ。比企谷エレベーターは雪ノ下の胸を基準に重量設定されてるんだよ。
「あっ!ひどーい!持ち上げてくれないとゆきのんに言いつけちゃうからね!ほら!持ってよー!」
由比ヶ浜に手をバシバシ叩かれるので仕方なく背中と脚に手を回して持ち上げてみる。いわゆるお姫様だっこだ。
「……雪ノ下が2人分ってとこかな。」
「え!?いや、そんなわけないし!私ゆきのんの体重知ってるんだからね!!」
「ちょい!暴れんなよ!落ちる落ちる!」
「わわっ!ヒッキーちゃんと掴んでよ!!」
暴れる由比ヶ浜は俺に抱き抱えられたまま首に手を回して俺に抱きつきバランスを取ろうとしてくる。こちらに体重を預けられたため、俺もバランスを崩しかけてしまう。咄嗟に由比ヶ浜を支えようとするが、密着してきた由比ヶ浜を支える場所なんて、お尻しかなかった。しかたない、鷲掴みだ。
「ちょっと!!!ヒッキーどこ揉んでるんだし!!」
「揉んでねーよ!落ちない様に掴んだんだ!!降りろ!!尻でかいからずっと支えてるのキツい!!」
「うわ!!サイテーー!!絶対ゆきのんに叱ってもらうんだから!!!」
ギャーギャーと由比ヶ浜と喧嘩してると、一色が不思議そうな顔でこちらを見ていた。面白い顔してんな。
「一色どうしたんだ?ダンスおかしかったか?」
「いえ、ダンスがおかしいのはおかしいんですけど。先輩って結衣先輩と前から仲良いですよね。」
「そりゃな。雪ノ下を除けば1番付き合いは長いし……不本意だけど。」
不本意という言葉にまた由比ヶ浜がギャンギャンと喚いている。耳元で叫ばれるとうるさいからやめてほしい。
「3人ってどういう関係なんですか?知り合った経緯とか私知らないので教えてほしいです。」
「経緯?そうだな………一番最初って言うと、俺達の入学式だから、丁度2年くらい前だな。」
「え、入学式からなんですね!やっぱり同じクラスがキッカケみたいな感じですか?」
この先は俺だけの判断で言う訳にもいかないよな。由比ヶ浜にアイコンタクトをしてみたら頷いたので話すとするか。
「入学式の日に車に轢かれそうな由比ヶ浜を俺が華麗に助けて、それをたまたま見てた雪ノ下が俺に惚れたんだよ。」
「少女マンガみたいな出会い方してたんですね。」
「全然違うよ!!ヒッキー捏造し過ぎ!!ゆきのんが私の犬を轢こうとして、代わりにヒッキーが轢かれて足折れたんじゃん!」
「先輩めちゃくちゃダサいじゃないですか。じゃぁ病院から仲良くなったって感じなんですか?」
バレてしまった。由比ヶ浜の説明だと雪ノ下が犬を轢こうとした悪党になっているが、訂正するほどでもないか。どっかで誰かが説明してくれるだろうし。
「そういや由比ヶ浜って俺の病室来てたっけ?記憶にないけど。」
「ううん、行こうとしてたんだけど、小町ちゃんからヒッキーが調子乗るから必要無いって言われたし行ってないよ。ゆきのんが毎日お見舞い行ってることも聞いてたし、学校復帰してからでいいかなって思って。」
「それは初耳だ。小町とそんな時から会ってたんだな。」
「結衣先輩は先越されちゃってたんですね。学校復帰してから3人で仲良くって感じですか?」
「いや?由比ヶ浜と初めて話したのは俺達が2年になってからじゃないかな。奉仕部に依頼しにきたのが初めましてだ。」
「え?なんか時間飛んでません?結衣先輩お礼しに行かなかったんですか?」
由比ヶ浜のお礼に時間差があったのは『言い出し辛かった』のが理由とは聞いてるが、詳しくは知らないな。折角なら俺も聞いときたい。
「えっとね……当時のゆきのんとヒッキーって、かなりピリピリしてたんだ。」
「え!?イチャイチャじゃなくてピリピリしてたんですか!?全然想像できないんですけど!」
一色が俺の方を見てくる。俺もそんなの知らない。
俺と雪ノ下がピリピリしてた時期なんてあったっけ??
「2人はイチャイチャしてたよ。けど、周りに対する態度が今と全然違ったんだよね。『誰も近寄るな!』って感じ。」
「………そんな事なかったろ。俺と雪ノ下は穏やかにひっそり暮らしてた筈だぞ。」
全然見に覚えがない。イチャイチャしてた記憶しかないし。
「ヒッキー記憶改竄し過ぎだから!ゆきのんはヒッキーに近づく女は殺すとか言ってたし、ヒッキーは隼人くんとかゆきのん目当ての男と頻繁に言い争いしてたし、校外学習でキレて1人転校させてたじゃん!みんなめっちゃ怖がってたんだからね!」
雪ノ下って俺の知らないところでそんなこと言ってたの?そう言えば記憶を辿ると俺も雪ノ下目当ての男共と色々話した記憶がある様な無い様な………
「私が聞いてたお2人の噂って本当だったんですね。」
「私も怖かったけど、勇気出して奉仕部行って、そこから仲良くなったの。ホントはあの時めちゃくちゃ怖かったんだからね?」
「由比ヶ浜が来てから奉仕部に依頼がバンバン来るようになったからなぁ。三浦や海老名もその流れだし。いやはや、若気の至りだな。」
はっはっはっ!と笑ってみたが2人はドン引きしていた。
記憶にないんだから仕方ないだろ。雪ノ下との記憶以外はノイズだノイズ。記憶しとく価値もないし。
「そういう経緯だったんですね。でも、それにしたって仲良すぎませんか?土日とか遊んだりしてるんですよね?」
「毎週って訳じゃないけどな。留美とか小町と遊ぶ日もあるし、由比ヶ浜も三浦とかと遊んだりしてるし。」
「でも………」
一色が何やら言い淀んでいる。言いにくいことでもあるのだろうか。
「言いたいことあるなら好きに言っていいぞ。由比ヶ浜の悪口は確かに本人には言いづらいだろうけど、俺が暴れない様に捕まえとくから。」
「ヒッキーじゃあるまいし暴れないし!」
さっき殴られた仕返しで後ろから由比ヶ浜を羽交締めにしておく。胸を反らせる体勢になるから、正面から見たらさぞやばいだろう。由比ヶ浜の胸は初めて会った時よりデカくなった。絶賛成長中なのだろう。雪ノ下が不憫だ…。
「それですよそれ!先輩って他の女の人には自分から触らないのに、結衣先輩だけには自分から触ったりするし、結衣先輩相手には基本的に逃げないじゃないですか!」
「一色からも逃げてないだろ。キスされてること忘れてないからな。謝れ。俺の純潔を汚した事を謝れ。」
「雪ノ下先輩から許可貰ってますし合法です。そうじゃなくて、なんというか、結衣先輩とは距離が近いと言うか………もしかして、そういう関係だったりします?」
由比ヶ浜と?想像したことなかったな。由比ヶ浜は雪ノ下の友達だし、俺もそれに合わせて由比ヶ浜とは関係を保っている。胸を見せられればそりゃ興奮はするけど、恋愛対象ではない。
「それは無いな。由比ヶ浜は俺と雪ノ下の友達だ。」
「そーだよ!私はゆきのんとヒッキーの友達!」
一色はまだ首を傾げていた。
俺も雪ノ下も由比ヶ浜の事は好きだ。本人には絶対言わないが、由比ヶ浜には感謝してるし、頼りにしてる。
俺と雪ノ下はインドアで2人の世界に閉じこもりがちだ。小町や留美もどちらかと言えばインドア派なので、外の世界に連れ出してくれるのはいつも由比ヶ浜だった。
そして、由比ヶ浜は誰に対しても平等に接し、空気を和やかにしてくれる。性格のキツい俺と雪ノ下が他のグループと絡む際に由比ヶ浜の存在はかなり頼りになる。
クリスマスでは俺についてきてもらった。
一年生である一色の初イベントだ、必要なのは俺や雪ノ下のような仕事を推し進める人間ではなく、立場を気にせず一色と同じ目線で寄り添える人間だ。それを任せられるのは1人しかいない。
今回のプロムでは雪ノ下についてきてもらった。
保護者や地域の人と挨拶をするのに、雪ノ下はあまり大人受けがよくない。愛想笑いや機嫌取りをするのが苦手な性格だ。俺はそんな雪ノ下が好きだが、みんながみんな好きな訳じゃ無い。みんなに好かれるような人物に心当たりがあるのは、やはり1人しかいなかった。
俺達は由比ヶ浜に頼ってばかりだ。由比ヶ浜は俺達に振り回されているにも関わらず文句一つ言わず、俺たちと一緒に居れるだけで楽しんでくれる。そんな由比ヶ浜だから、俺も雪ノ下も由比ヶ浜には頭が上がらない。
俺も雪ノ下も由比ヶ浜には特に感謝の言葉は言ってない。由比ヶ浜は俺達に感謝されたくて俺達と一緒にいてくれるわけじゃない。由比ヶ浜にとって友達とはそういう関係なのだろう。俺達はそんな由比ヶ浜が好きだから、友達なのだ。
昔話にも一区切りついたのでダンスの練習を再開する。ダンスに慣れてきて、ダンスが上手く出来ない理由が分かった。俺が下手なんだ。
ダンスは男がリードするものだ。女の上手い下手は関係ない。男が女の技量に合わせて踊る。だから俺が上手く出来てないと、意味がない。
素人じゃなくダンスが上手い人に任せるのが一番だな。
「これ、ネットに流すんだよな?俺じゃなくて葉山を呼んでこよう。中学の時に雪ノ下と一緒にダンスパーティで踊ったとか言ってたし多分アイツ踊れるぞ。」
葉山と雪ノ下は陽乃さんにしごかれたらしい。お陰で社交会の基礎ぐらいなら踊れるとか言ってたからプロム程度なら余裕だろう。
「隼人くんなら卒業する先輩達とお別れ会行ってるよ?」
「タイミング悪いやつだな……なら雪ノ下を呼ぼう。ダンスに心得がある人間じゃないとPV作っても逆効果だ。」
「ヒッキーも上手いと思うけどなぁ。分かった、呼んでくるね!」
由比ヶ浜が雪ノ下を呼びに行ってる間に俺はダンスのコツでもググるか。雪ノ下にダサい姿は見せたくないし、付け焼き刃でも無いよりはマシだろう。
"これで君もダンスマスター!"みたいなサイトをググってると一色が近付いてきた。またキスされるかもしれないし一定の距離を保つために後退っておくか。
「逃げなくても、雪ノ下先輩が居ない時にキスはしないですよ。私にだってそのくらいの分別はあります。」
「分別がある人は恋人持ちにキスなんかしないぞ。」
「私は生徒会長だから特別です。それより、動画見ながらでいいので、先輩達の高校での昔話をもっと聞きたいです。」
「そんな面白いものでもないぞ?動画の片手間だから省略して話すから、もし気になるなら関係してるやつに後で詳しく聞いといてくれ。俺が何もしてないような時もあるしな。」
「それでいいですよ、私が聞きたいだけですから。」
どっから話すか。由比ヶ浜が奉仕部にきたタイミングからでいいか。一年生の頃の平塚先生とのやり取りの方が話してて面白いが、平塚先生の株が間違いなく下がっちゃうし。
由比ヶ浜が戻ってくる時間を考慮して掻い摘んで話していると、バレンタインの話の最中に2人が戻ってきた。雪ノ下は由比ヶ浜に走って連れてこられたようで、既に息が上がっている。
「はぁ……はぁ…おど……踊るわよ、比企谷くん。」
「そんな状態で踊れるわけないだろ、休んでろ。由比ヶ浜と一色で踊ってみてくれ。他人が踊ってるとこ見ればなんかコツが分かるかもしれんし。」
「おっけー!いろはちゃん踊ろ〜♪」「了解ですー!」
2人が踊ってる様子を見ると優雅とはいえないな。なんか、雑だ。動きが全体的に勢いだけでダンスというより音楽に合わせて動いてるだけにしか見えない。
「なぁ。あれって雪ノ下から見てどう思う?」
「下手ね。ただ、素人同士ならあんなものよ。踊ってる当人が楽しければダンスは楽しいものよ。プロムは魅せるダンスではなく楽しむダンスだから、あれで充分だと思うわ。撮っておきましょう。」
そういうものか。上手く踊ろうとして緊張して楽しめなければプロムの意味は無い。そういう意味では下手なダンスをPVにしてハードルを下げるべきかもしれないな。
「下手なダンスと上手いダンスの両方の映像流すか。さっき踊ってみたけど、俺はそこまで上手く出来そうにない。なんかコツとかあったりするか?」
「比企谷くんが上手くなる方法はないわ。ただ、映像を撮るなら比企谷くんの一部を隠して私が目立つ動きすれば素人目には上手いダンスに見えると思うし、それでいきましょう。」
2人を撮る雪ノ下の顔は真剣だ。イチャイチャしたかったが我慢しよう。雪ノ下は由比ヶ浜も一色も好きだ。そんな2人が踊ってるのだから本気で撮ってるのだろう。
2人が踊り終わると、一色と雪ノ下がバトンタッチだ。
雪ノ下と由比ヶ浜が踊る。
生徒会室でも二人は一緒なことが多い。
由比ヶ浜も俺と踊ってる時とは違う表情だ。俺も由比ヶ浜と友達だが、一緒にいる時間は雪ノ下の方が圧倒的に多い。きっと俺が知らない雪ノ下との思い出もあるんだろう。
俺がビデオカメラを持って撮っているが、さっき雪ノ下が言ってた様に要所要所で由比ヶ浜のフラついた身体を隠す動きや、雪ノ下が手を広げたりして大きな動きで由比ヶ浜が目立たない様にしてる。
「さっき踊ってる時に結衣先輩とも話しましたけど、結衣先輩はお2人と一緒にいるのが楽しいらしいですよ。」
一色が俺からビデオカメラを奪ってきた。カメラ越しの雪ノ下も趣き深いと思ってたんだけど、取られたものは仕方ない。
「当たり前だろ。由比ヶ浜はそういうやつだ。」
「いいなぁ〜私もそういう友達欲しいです。」
「前に一色のクラス行った時に仲良く話してた奴らいたろ。アイツらは友達じゃないのか?」
「友達ですよ。遊んでて楽しいですし、関係は満足してます。でも、先輩達みたいな関係も憧れるんです。」
「俺達も色々あったからな。友達関係に貴賎はない。一色の関係も俺達の関係と同じくらいの良いものだと思うぞ。」
いじけてる一色の頭を撫でてやると、子供扱いするなと手を払いのけられてしまった。俺からしたら一色は妹みたいな物だから子供なんだけど、どうにも嫌らしい。
雪ノ下と由比ヶ浜が踊り終わった様なので雪ノ下と交代で俺が入る。雪ノ下は一回踊っただけで体力切れらしい。マジで体力無さすぎる。
「雪ノ下とのダンスはどうだった?」
「ゆきのんめっちゃ上手かったよ!ヒッキーの下手さが分かっちゃったし、今は私のが上手いかもだよ!」
ニヤニヤと謎のステップを披露する由比ヶ浜だが、リズムが全く合ってない。才能とは残酷である。
「俺だってさっきYouTube見たし、雪ノ下の踊ってるとこ見たからな。どっちが上手いか勝負してみるか。」
「望むところだし!」
そうは言ってみたものの、やはり付け焼き刃ではお互い無理そうだ。無理してコケそうになったりぐちゃぐちゃだ。
少しして、由比ヶ浜が口を開いた。
「ねぇ、ヒッキー。ゆきのんとキスしていい?」
「とうとう由比ヶ浜が百合ヶ浜になったのか?」
「そうじゃなくて、ほら、外国だと友達にキスしたりするじゃん?普段こんな事しないけど、ゆきのんのこと友達として特別だから、さっき踊ってて何となくキスしたいなーって思って。」
「手でも頬でも口でも好きなとこにしていいぞ。由比ヶ浜がしたいって言えば雪ノ下も嬉しいだろうし、気にせずやりまくれ。」
雪ノ下のことだから照れてやんわり拒否するだろうけど、強くは拒否しないだろうな。キス待ちしてる雪ノ下が容易に想像できる。
「いいの?ヒッキーって嫉妬深いし断られると思った。」
「相手が男だったら断るだろうな。女でも………断るな。由比ヶ浜の言う通り、全員断ってると思う。」
「私はいいの?ゆきのんのこと奪っちゃうかもよー?」
「いいんだよ。由比ヶ浜は俺と雪ノ下の友達だし信頼してる。それに、俺から雪ノ下を奪えると思うなよ。」
由比ヶ浜の額にデコピンをしてやる。
由比ヶ浜は退場の時間だ。
ここから俺と雪ノ下のダンスタイムだ!
雪ノ下のダンスは衝撃的だった。由比ヶ浜とは段違いで、かなり踊り易い。ダンスは男がリードするものだが、雪ノ下は俺がリードし易い様に誘導してくれている。ある意味、男のプライドが傷付くようなダンスだ。
「驚いた。ダンスって綺麗に踊ると楽しいな。」
「そういうものよ。下手なダンスで好き勝手踊るのもいいけれど、正確なステップとリズム、相手と呼吸を合わせるともっと楽しくなるものなの。」
相変わらず雪ノ下の多才ぶりには驚かされる。
雪ノ下とのダンスを楽しんでいたら、ステップが変調し出した。おお、これは付いてくのが難しいな。
「比企谷くん。由比ヶ浜さんのことは好き?」
「好きだな。雪ノ下には遠く及ばないけど。」
「そう。私も由比ヶ浜さんのことは好きよ。」
「だろうな。由比ヶ浜が雪ノ下とキスしたがってたから了承しといた。あの様子だと口にされるだろうから覚悟しといた方がいいぞ。」
「私も比企谷くんとキスしていいか聞かれたわ。嫌がる様なら椅子に縛ってでも無理矢理していいと伝えたから覚悟しておきなさい。」
由比ヶ浜は俺と雪ノ下の両方にキスの打診をしていた様だ。雪ノ下は兎も角、俺の方は陽乃さんや一色が既に無理矢理キスしてるから遠慮していたんだろう。
「由比ヶ浜には気を遣わせちゃったな。」
「比企谷くんが節操なくキスしまくるからよ。」
「いや、俺はしてない。されてるだけだ。一色に関しては止めてくれよ。キスして当たり前みたいなこと言ってたぞ。」
「妹みたいなものじゃない。諦めなさい。」
実の妹の小町だって俺にキスなんてしないのに、なんで偽物の妹のキスを受け入れなければいけないのか……
「ダンス中にキスしたいって雰囲気だったし、雪ノ下が体力限界だったら先に俺が由比ヶ浜と踊るけど、体調はどうだ?」
「微妙ね、倒れるかもしれない。けど、私の方が先に由比ヶ浜さんとキスしたいわ。私の方が仲良いのだし。」
「体力ないんだから無茶するなよ……。それなら、2人同時にしちゃうか。」
「同時?由比ヶ浜さんの頭が一個増えるのかしら。」
「疲れすぎて発想が気持ち悪くなってるぞ。由比ヶ浜がするんじゃなくて、俺達からするんだよ。たぶん、由比ヶ浜は俺達からキスされるなんて思ってないだろうし。」
「比企谷くんにして妙案ね。奥手シャイボーイな比企谷くんらしからぬ案だけど誰かの入知恵?」
「一色が言ってたことを思い出してたな。それの応用だ。」
「ちょっと、自分からするのは恥ずかしいわね……」
「いつも由比ヶ浜からは貰ってばかりだからな。今回は俺達から由比ヶ浜に気持ちをプレゼントしよう。俺達の友達に。」
「そうね。私達の友達だもの。」
「ああ。由比ヶ浜!ちょっと来てくれ!」
呼ぶと由比ヶ浜は犬の様に満面の笑みで走り寄ってくる。
俺も雪ノ下も由比ヶ浜が笑ってる顔が好きだ。
俺も雪ノ下も騒がしいのは好きじゃない。
由比ヶ浜はいつもいつも騒がしい。
けれど、そんな騒がしさが由比ヶ浜の魅力だ。
由比ヶ浜は俺達の関係をずっと見てくれていたし、何回か相談もしている。俺達の関係を1番知っているのは由比ヶ浜だろう。
だからこそ、俺達の気持ちを由比ヶ浜には伝えたい。
駆け寄ってきた由比ヶ浜に顔は紅潮していた。相変わらず隙だらけな由比ヶ浜に俺と雪ノ下はアイコンタクトをしてタイミングを合わせて、由比ヶ浜に近づいた。
俺が右頬に、雪ノ下が左頬に、由比ヶ浜にキスをした。
由比ヶ浜は目を大きく見開き、俺と雪ノ下を交互に見た。そして、満面の笑みで俺と雪ノ下を抱き寄せた。
「ゆきのん!ヒッキー!大好き!!!」
その後、感激した由比ヶ浜によって俺と雪ノ下は押し倒されて、めちゃくちゃキスされた。特に雪ノ下は酷く、顔が由比ヶ浜の涎でベタベタになっていた。犬みたいなキスの仕方してたし。
一色により一部始終が録画された映像は世に出せるわけもなく一旦お蔵入り。後日改めて映像の編集を行い、それっぽいPVに仕上げた。
準備は万端だ。
明日、卒業式が終わったあと、とうとうプロムが始まる。