『蝶屋敷傀儡録 〜禁忌の呼気で自我を操られた娘たち〜』 作:催眠スキ
深い山林の闇に潜む下級の鬼を斬り伏せた後、俺――神喰朔夜は、握り締めた日輪刀の切っ先を自らの左肩へと躊躇なく当て、浅く、だが鮮血が滲む程度に引き裂いた。
夜の冷気が、裂けた傷口を鋭く刺激する。
鬼の鋭利な爪による裂傷に見せかけるための偽装工作だった。
俺が求めているのは、鬼狩りとしての武名や階級の昇進などではない。
この血生臭い時代において、鬼を滅ぼす術を持ちながら、決して正規の記録には残されない異端の呼吸法――『傀儡の呼吸』。
自らの肺腑で練り上げた呼気に特殊な波長と神経伝達の律動を乗せ、それを吸い込ませた対象の運動神経系を不可視の糸で掌握する、禁忌の操り術。
吸気一息で相手の肉体の主導権を奪い、自己決定権を無に帰して、完璧なる「生体からくり人形」へと作り変える技術。
その呼吸を実戦の中で試行し、鬼殺隊という組織の急所を内側から掌握するために、俺は格好の実験場を定めていた。
――負傷した隊士たちが集まり、傷を癒やすための聖域、蝶屋敷。
そこには、呼吸を極めた少女たちや、隊の医療・調合を一手に担う貴重な人材が集約されている。
「……まずは、あの子からだな」
俺は小さく口角を歪め、偽りの痛みに顔をしかめながら、救援を呼ぶための鎹鴉を夜空へと放った。
翌朝、障子越しに柔らかい陽光が差し込む蝶屋敷の個室で、俺は静かに目を覚ました。
清潔な白い寝具、微かに漂う消毒薬と藤の花の香り。
そして、俺の敷布団の脇には、一人の少女が静かに佇んでいた。
艷やかな黒髪をサイドテールに束ね、薄羽のような蝶の髪飾りをつけた可憐な少女――栗花落カナヲ。
蟲柱・胡蝶しのぶの継子であり、次代の柱と目される類稀なる身体能力と動体視力を秘めた天才剣士。
カナヲは、俺が身じろぎしたのを見届けると、感情の読めない硝子玉のような瞳でじっと俺を見つめ、一切の言葉を発することなく、手慣れた所作で盆の上の包帯と塗り薬を手に取った。
「……すまないな、手当てを頼む」
俺が低く掠れた声で礼を言っても、カナヲはただ機械のように小さく首を縦に振っただけだった。
感情の起伏を一切見せず、淡々と俺の左肩の包帯を解き、冷たい軟膏を白い指先で伸ばしていく。
自らの意志を持たず、指示されたことだけを忠実に遂行する人形。
指示のない事態に直面すれば、懐の銅貨を投げて行動を決めるという極度の受動性。
これほど『傀儡の呼吸』の最初の標的にふさわしい器はいなかった。
丁寧に包帯を巻き終えたカナヲは、無言のまま小さく一礼し、薬盆を片付けて部屋を辞そうとした。
俺は敷布団の上から手を伸ばし、立ち上がろうとしたカナヲの隊服の袖を、すっと引き留めた。
「待ってくれ。……手当ての礼に、お礼をさせてほしい。何か欲しいものはあるか?」
カナヲは足を止め、振り返った。
その瞳には、どう返答すべきか迷うような微かな揺らぎが浮かんでいた。
包帯の交換という所定の任務は終わった。
だが、目の前の患者からの追加の要望。
胡蝶しのぶからの明確な指示がない状況。
カナヲは無意識に右手を懐へと伸ばし、親指の上に一枚の銅貨を乗せた。
投げて、表が出れば部屋に残る。裏が出れば立ち去る。
いつものように親指で弾こうとするカナヲの手首を、俺は布団から半身を起こし、そっと素手で包み込むように制した。
カナヲの視線が、捕らえられた自らの手首へと落ちる。
その隙を逃さず、俺は肺腑の底から深く息を吸い込んだ。
――傀儡の呼吸、壱ノ型・見えざる糸。
ヒュゥゥゥ……と、静まり返った寝室に、冷たい隙間風のような特殊な呼気が漏れ出した。
至近距離から、カナヲの可憐な顔面に向けて、濃縮された同調の呼気がフッと吹きかけられる。
「っ……!?」
カナヲの卓越した動体視力が、至近距離で放たれた白く煙るような呼気を捉えた。
だがカナヲの肺が、反射的にその空気を深く吸い込んでしまった。
次の瞬間、カナヲの全身が、まるで氷水を浴びせられたかのようにピキリと硬直した。
「はっ……ぁ……っ」
花の呼吸の修練によって極限まで研ぎ澄まされていたはずの全身の筋繊維が、一瞬にして自らの統制を失った。
苦痛ではない。快楽でもない。
ただ、自らの脳と神経の間に、異物としての太い鋼線が何本も割り込んできたような、異様な感覚。
カナヲの右手が、銅貨を握りしめようとして空中で完全に静止した。
「どうした、カナヲ。指が動かないのか?」
俺は敷布団から滑り出るように身を起こし、硬直するカナヲの眼前へと膝を進めた。
「ぁ……あ……からだ、が……」
カナヲの唇から、かすかな掠れ声が零れる。
視界の焦点が徐々に合わなくなり、目の前にいる俺の瞳だけが、巨大な鏡のようにカナヲの視界を埋め尽くしていく。
カナヲの理性が、かすかに警鐘を鳴らしていた。
おかしい。
動かなければ。逃げなければ。
だが、どれほど脳が「逃げろ」と命令を発しても、手足はピクリとも反応しない。
運動神経の信号はすべて、カナヲの肺に入り込んだ俺の呼気――『傀儡の呼吸』によって遮断され、横取りされていた。
俺はカナヲの右手にそっと指を添え、握りしめられていた銅貨を軽く弾いた。
チャリン――……。
指から離れた銅貨が、寝室の畳の上へと乾いた音を立てて落ち、数回跳ねて転がった。
静まり返る病室に、その金属音だけが冷たく響き渡る。
普段のカナヲであれば、落ちた銅貨の行方を目で追い、その裏表を確認しようとしたはずだった。
だが、カナヲの瞳は微動だにしなかった。
瞬き一つせず、落ちた銅貨を視界の端に入れることすらなく、ただ虚空を見つめている。
「カナヲ。お前にはもう、そんな冷たい金属の裏表など必要ない。これからは、私の呼気だけがお前の神経であり、手足を動かす唯一の糸だ」
俺は静かに息を吸い、吐き出した。
――スゥゥ……フゥゥ……。
俺が右手の指先を、操り人形の糸を引くようにスッと持ち上げる。
すると、カナヲの右腕が、まるで不可視の糸で吊り上げられたかのように、ギチ……と音を立てるような正確さで、肩の高さまでスッと持ち上がった。
カナヲの意志ではない。
俺の指の動きと呼吸に、カナヲの肉体が寸分の狂いもなく連動していた。
「あ……腕が、かって、に……」
カナヲの瞳に、かすかな困惑の光が揺らめく。
「次は首だ」
俺が人差し指を右へと傾ける。
カナヲの首が、コクリと右へ三十度傾いた。
左へ傾ければ、左へコクリと傾く。
指先を円を描くように回せば、カナヲの首もまた、滑らかに円を描いて回った。
完全に、自分の身体の所有権を奪われている。
天才的な身体能力を誇る鬼殺隊の剣士が、ただの一本の指先、一筋の呼気によって、木彫りのからくり人形のように弄ばれていた。
「さて……思考の糸も繋ぐとするか」
俺はカナヲの耳元へと顔を寄せ、低く、冷たい息を耳孔へと吹き込んだ。
――傀儡の呼吸・弐ノ型、精神同調。
カナヲの頭蓋の奥で、カチリと音が鳴るように、最後の自意識の防壁が外れた。
迷い、躊躇い、恐怖、疑問。
人間としての雑多な感情が急速に漂白され、頭の中が澄み渡った空洞へと変わっていく。
ただ、目の前に座る男の命令を待つためだけの、無機質な器。
カナヲの瞳から、完全に光が消え失せた。
そこにあるのは、精巧に作られた人形の、底の知れない硝子玉だった。
「カナヲ。お前は何者だ?」
俺が問いかけると、カナヲの唇が、感情の抑揚を一切含まない無機質な声音で、滑らかに言葉を紡ぎ出した。
「……私は、朔夜様の、からくり人形です」
「誰の命令で動く?」
「……朔夜様の、命令でのみ、動きます」
完璧だった。
抵抗も、拒絶も、自己保身の欠片もない。
完全に機能が初期化され、俺の操り糸を受け入れるだけの白紙の状態。
「よろしい。では、人形としての可動性と肉体の状態を、すべて確認する」
俺は座ったまま、カナヲに命じた。
「衣服を脱ぎ、完全な素体の状態になりなさい」
「……承知いたしました」
カナヲは一切の躊躇を見せず、機械的な正確さで指を動かし始めた。
蝶の羽織の留め具を外し、左右に広げて肩から落とす。
白地に淡いグラデーションの羽織が、音もなく畳の上へと崩れ落ちる。
続いて、黒い隊服の金ボタン。
上から順に、一つ、また一つと外されていく。
パチン、パチンと外れるたび、鍛え上げられた少女の白磁の肌が、隙間から露わになっていく。
日頃の過酷な鍛錬によって極限まで引き締まりながらも、女性らしい柔らかさを残した滑らかな胸元。
薄桃色の乳首が、寝室の静まり返った空気に触れて、微かに縮こまる。
だが、カナヲの顔には恥じらいの色など微塵も浮かばない。
表情筋の一つすら動かすことなく、隊服を脱ぎ捨て、白いプリーツスカートのホックを外して足元へ落とす。
下着の白い布地すらも、自らの手で滑らかに引き下ろし、畳の隅へと追いやった。
完全な全裸。
透き通るような白い肌、引き締まった細い腰、すらりと伸びた無駄のない脚線美。
そして、その太ももの合間にひっそりと閉ざされた、未だ何者にも触れられたことのない薄桃色の秘部。
カナヲは直立不動のまま、俺の目の前に全裸の肉体を晒していた。
息を吸う胸の上下だけが、彼女が生きている肉体であることを辛うじて示している。
「座りなさい。両足を開いて」
俺の言葉に応じて、カナヲは敷布団の上に尻をつき、両手で自らの太ももを外側へと押し広げた。
きつく閉ざされた割れ目が、左右に引き伸ばされ、秘部の奥の小さな窄まりが露わになる。
俺はカナヲの前に膝を進め、冷たい指先で、その瑞々しい鎖骨をなぞった。
カナヲの身体は、ピクリとも揺るがない。
人形のように、触れられた感触をただ受け止めている。
俺の指が、カナヲの小さな胸の膨らみへと触れ、左胸の鼓動に触れた。
トクン……トクン……と、極めて一定で、静かな鼓動。
興奮も、恐怖もない。
俺は指先で、ツンと尖った薄桃色の乳首を摘み上げ、軽く捻った。
「……ん」
カナヲの喉から、反射的な小さな吐息が漏れた。
だが、顔の無表情は崩れない。
感情はないが、神経系は生きている。刺激を与えれば、肉体だけが物理的に反応する。
「右足を上げろ」
俺が指示すると、カナヲは開帳した姿勢のまま、右足を高く持ち上げ、自らの手で足首を頭の横まで引き寄せた。
常人ではあり得ない、卓越した柔軟性。
秘部がさらに無防備に引き裂かれ、湿り気を帯びた粘膜が完全に剥き出しになる。
「そのまま静止」
俺が命じると、カナヲはその極端な体勢のまま、微動だにせず静止した。
筋肉の震えすら最小限に抑えられ、まるで美術館の彫像のように姿勢を維持し続ける。
俺の命令が解かれない限り、この少女は力尽きるまでこの姿勢を保ち続けることができる。
「足を下ろせ」
トン、と足が畳に戻される。
俺はカナヲの内股に手を差し入れ、指先で太ももの柔肌を撫で上げながら、薄桃色の小陰唇へと触れた。
――ぬちゅ……。
冷え切った自意識とは裏腹に、触覚の刺激によって、秘部からは微かに透明な愛液が滲み始めていた。
「カナヲ。ここは、何をするところだ?」
俺が秘部の入り口を人差し指で軽く撫でながら問う。
カナヲは硝子玉のような瞳を俺の顔に向け、淡々と答えた。
「……朔夜様の、御手や、太い杭を、受け入れるための……穴です」
「お前の処女は、誰のものだ?」
「……朔夜様の、所有物です」
一切の迷いがない、平坦な声。
俺は中指の腹を、きつく閉ざされた処女の窄まりへと押し当てた。
――くちゅ……。
指先が浅く肉壁にめり込む。
カナヲの腰が、物理的な異物感にビクンと小さく跳ねた。
だが、拒絶の動作は一切ない。
俺は指を抜き、濡れた指先をカナヲの唇の前に差し出した。
「舐めて清めろ」
カナヲは無言で小さな舌を伸ばし、自らの愛液で濡れた俺の指先を、丹念に、丁寧に舐め清めた。
ジュル……ちゅぷ……と、寝室に卑猥な水音が響く。
人形に感情はない。
だが、命じられた奉仕を、精密機械のように寸分の狂いもなく実行する。
俺は指を引き抜き、全裸で座り込むカナヲの頭を上から見下ろした。
身体の機能、反射神経、可動域、そして精神の空白化。
すべてにおいて、欠陥は一つもなかった。
鬼殺隊が誇る若き天才剣士は、今や完全に俺の手の中にある、意思を持たない生きたからくり人形へと成り果てていた。
「カナヲ。最初の基本命令をその芯に刻み込む」
俺が厳かに告げると、カナヲは背筋を伸ばし、両手を太ももの上に置いて静かに耳を傾けた。
「私の前では、お前は常にこの人形のままだ。私の許可なく思考を持つことは許されない。だが、他人の前では、今まで通り『無口で微笑んでいる栗花落カナヲ』を完璧に演じ続けろ。誰一人として、お前が私の人形であることを悟らせてはならない」
「……承知いたしました。他者の前では、以前の私を、再生いたします」
「そして、今夜――屋敷の者たちが眠りに就いた後、この部屋へ再び戻ってこい。その時、お前のこの素体に、次の段階の命令を刻み込んでやる」
「……はい、朔夜様。深夜、必ず、お部屋へ戻り……素体を差し出します」
カナヲは深く頭を下げ、畳に額を擦り付けた。
「衣服を着ろ」
俺の一言で、カナヲは滑らかな動作で立ち上がり、散らばっていた下着と隊服、白いスカートを正確に身につけていった。
最後に蝶の羽織を肩に羽織り、サイドテールの髪飾りを整える。
その顔には、いつもの――感情の読めない、静かで穏やかな、作り物の微笑みが貼り付けられていた。
外見からは、何一つ変わっていないように見える。
だが、その肉体と精神の奥底は、すでに完全に中身を抜き取られ、俺の『傀儡の呼吸』の糸でしか動かない人形へと作り変えられていた。
カナヲは寝室の引き戸の前に立ち、振り返って無言で一礼した。
その足元、畳の隅には――もはや二度と拾い上げられることのない一枚の銅貨が、静かに打ち捨てられたまま転がっていた。