※この作品はR-18です。

転移事件が起きない世界   作:葵転青

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ロキシーミグルディア_その1

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俺の前世は碌でもなかった。

 

異世界で前世の記憶を使って無双するような事は俺には出来てない。碌でもない人生を反省して、2度目の人生を必死に生きてきているだけだ。今度こそはマトモになれるようにと。

 

その中でも、ロキシーの教えは俺の基礎になっている。

 

外に出る。人と話す。

誰とでも偏見なく仲良くする。

いつでも一生懸命頑張る。

 

当たり前の事ではあるが、そんな当たり前のことを前世で俺は出来ていなかった。正しい姿をロキシーは俺に見せてくれて、ロキシーが背中を押してくれた。

 

ロキシーがいなければ、きっと俺はまた間違えていたと思う。

 

だからこそ、ロキシー・ミグルディアは俺の師匠だ。

 

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ロキシーからの手紙を読んだ。

 

なんて事はないただの手紙だ。冒険者が迷宮に挑む。

 

冒険者としての経歴が長いパウロも『おっ、ロキシーちゃん迷宮に挑むのか〜』と言って特に気にしていない。

 

俺は………ロキシーが死んでしまうと思った。

 

理由はわからない。今までこんな予感じみた事を覚えた事はなかった。考え過ぎかもしれない。ロキシーだって安全マージンは取った上で挑戦している筈だ。

 

ロキシーとのこれまでの手紙のやり取りで、ミリス大陸に居たことは知っている。ミリス大陸からフィットア領に帰る道を考えた時、迷宮のある都市ラパンは遠回りにはなるが通り道だ。

 

この手紙、ロキシーとのやり取りは魔術指南書を同封している関係で特別な速達便を使っている。普通は1年掛かる手紙も半年以下で届く。手紙が届くまでの時間を考えると、既にロキシーは迷宮に挑戦してるか、その直前だと思う。そんな予感がする。

 

人は手紙とは違う。フィットア領から迷宮都市ラパンまで移動するとなると、甘く見積もっても1年は掛かる。

 

 

移動か……そうだ、ペルギウスの転移魔法陣だ。

ラパン、或いはベガリット大陸に直通の転移魔法陣があれば間に合うかもしれない。

 

 

運が良かった。ペルギウスはサウロスに会うためにフィットア領に来ていた。すぐに空中城塞に向かい、謁見の場で俺はペルギウスに事情を話した。大丈夫だ、ペルギウスとは友好な関係を築けている。これくらいの我儘なら通る。

 

 

 

「無理だ」

 

当たり前のように拒否されてしまった。いや、それなら力づくででも使わせてもらえばいい。時間がないんだ。交渉などしてる暇はない。杖に魔力を込めようとした時、ペルギウスが話を続けた。

 

「勘違いするな。使わせないと言ってるわけではない。無いのだ。ベガリット大陸にも我の転移魔法陣はあるが、お前の言うラパンからはかなり離れている。大陸の端と端だ。ラパンまで3ヶ月は掛かる。間に合わんだろう」

 

3ヶ月…………ペルギウスの言う通りだ。間に合わないと思った。最低でも2ヶ月、いや、出来れば一ヶ月で着きたかった。しかし最短はこれしかない。いや、待てよ。先ほどのペルギウスの言葉を思い出す。

 

「ペルギウス様、『我の』と仰いましたが、もしかすると、他にも転移陣を持つ方がいるのですか?紹介して頂きたいです」

 

「紹介はできん。奴は我の紹介など気にも留めんだろうからな。だが、居場所は分かる。つい先日に我の転移魔法陣を使って移動した痕跡が出た。忌々しい奴だ」

 

「どのような方なのですか?それとどちらに」

 

「龍神オルステッドだ。七代列強第二位とでも言った方が伝わるか?魔大陸でウロウロしておる」

 

「オルステッド様の行き先に心当たりはございますか?」

 

「貴様が魔力を使って近くで暴れれば寄ってくるだろう、そういう奴だ」

 

七代列強第二位。あのガルファリオンが第六位だとすると、力づくで聞くのは無理だろう。しかし、頼るとしたらそこしかない。

 

ペルギウスに魔大陸への転移魔法陣を繋げてもらい、魔大陸に降り立った。ペルギウスが言うにはこの近くにいる筈。俺は少し先の平原に雷光を撃ち込んだ。撃ち込んだ。撃ち込んだ。

 

3発撃ち込むと、地面にはクレーターが出来ており、雷の熱で岩は溶けてマグマのようになっていた。

 

 

少し経つと銀髪で金色の瞳をした男が現れた。ペルギウスから聞いた特徴と一致する。これが龍神オルステッドか。隣には緑の髪で額に宝石?が付いた男がいる。スペルド族か…?いや、今は隣の男は関係ない。オルステッドが口を開いた。

 

「驚いたな。これは雷光……いや、それ以上か。魔力量が桁違いだ。ラプラス並みの魔力を感じたから急いで来てみたが、ラプラスとは比にならんな。誰だお前は」

 

「ルーデウス・ボレアス・グレイラットです。龍神オルステッド様にお願いがあり、お呼びしました。」

 

「お前がルーデウスか………エリスとの子はできたのか?」

 

「……?エリスのことをご存知なのですか?」

 

「俺が一方的に知っているだけだ。まあいい。それで、何の用だ」

 

「ベガリット大陸、迷宮都市ラパンの近くにある転移魔法陣を貴方が知っていると聞きました。それを使わせていただきたいです」

 

土下座した。勢い余って頭を地面に打ち付けてしまったようで、額から血が出てる感覚がある。

 

「それは誰から聞いた?お前、誰に言われてここに来た」

 

「甲龍王ペルギウス様です。ここへはペルギウス様の転移魔法陣で来ました」

 

ペルギウスは自身の名は交渉に使えないと言っていたが、言うなとは言われていない。それに嘘はダメだ。

 

「やはり奴の転移魔法陣を使ったのは失敗だったか。それで、なぜ俺の魔法陣を使うんだ」

 

「俺の師匠、ロキシー・ミグルディアが迷宮に潜っています。それを助ける為に、今すぐ向かいたいのです。使わせて下さい、お願いします!!」

 

ロキシーは世界でも数えるくらいしか居ない水王級魔術師だ。七代列強なら知っててもおかしくないはず。

 

「ロキシー・ミグルディアが今、迷宮に潜っているのか?」

 

「おそらくは。ですので時間がありません。」

 

オルステッドが何か考え込んでいる。やはりロキシーの事を知っているようだ。流石はロキシーだ。

 

「………なるほど、そういうことか。ルーデウス。転移魔法陣は使わせてやる。ただし1人では行くな。だれか、そうだな、アイシャは生まれているか?」

 

「……?アイシャのことを知ってるんですか?」

 

「俺が知ってるだけだ、ではアイシャと向かえ。それと、ロキシー・ミグルディアを助けたらラパンに留まれ。お前にして貰うことがある。それが条件だ」

 

「分かりました、俺ができることなら何でもします、宜しくお願いします!!」

 

オルステッドは不思議な男だったが、ともあれ転移魔法陣の地図を手に入れた。確認すると急げば1ヶ月で着きそうだ。間に合う……気がする。少しだけ希望が見えた。

 

急いで家に戻り、事情をエリスとシルフィに説明した。

 

2人ともロキシーの事は知っている。魔術に関しては俺は2人の師匠に当たるからロキシーは師匠の師匠だ。

2人とも付いてくると言ってくれたが、今回は遠慮してもらった。戦力としては2人がいれば当てになるが、今回は何よりも速さが重要になる。身重の2人には厳しい。迷宮攻略ではなく、旅路の話だ。人が増えれば、その分無茶な移動方法が取りづらくなる。

 

アイシャは俺が頼むまでもなく付いてくると言ってくれた。俺に頼まれてナナホシの転移魔法陣の研究を手伝ってくれていた時に、この転移迷宮の本を読んだ事があるらしい。本では6階層までの記載があり、そこまでであれば道案内はできる筈だと。

 

そして、俺とアイシャは2人でその日のうちに出発した。

 

 

馬を走らせる。馬車だけではない。起きてる時間は馬に乗って突き進み、馬車に乗ってる時間は寝る。時間が惜しい。

 

 

「すまないなアイシャ、辛いかもしれないがアイシャが頼りだ」

「いいよ、お兄ちゃんの為だもん、もっと頼ってよ!」

 

実際、アイシャが居なければここまでスムーズには移動出来ていない。馬の手配、馬車の時間、その他の交渉も俺と一緒にこなしている。本当に頼りになる妹だ。

 

出発してから25日。

転移魔法陣を使って迷宮都市ラパンに着いた。

予定よりも5日以上も早い。

 

着いたのは深夜だが、構わずそのまま直ぐに迷宮に潜った。

 

迷宮に入ると不思議な感覚がした。

 

感覚が研ぎ澄まされていく。

 

声が聞こえた。

 

子供の頃、幾度も聞いたロキシーの声が聞こえた気がした。

 

転移罠で分断されるのを防ぐ為にアイシャを背に乗せて迷宮を走り抜ける。

 

シルフィから教えてもらっていた索敵魔法で戦闘になる前に敵は全て殲滅する。俺は走り抜けていくだけだ。

 

1階層…………踏破。ここじゃない。

 

2階層…………踏破。ここも違う。

 

3階層…………踏破。違う。

 

4階層…………踏破。感じない。

 

5階層…………踏破。声が聞こえない。

 

6階層…………ここだ!感じる!

 

声も聞こえる!ロキシーの声だ!!

 

崩落を気にしている暇はない。

 

壁をぶち破りながら突き進む。

 

広い空間に出た。ここは転移罠の狩場なのだろう。

6階層の魔物・イートデビル(Aランク)が壁や地面にワラワラと湧き出ている。

 

広場の奥に、魔術師が戦闘する時に作る土塁が見えた。

 

イートデビルが土塁を超えて侵入しては撃ち落とされてるのが見える。良かった、まだ戦闘中だ。生きているんだ。

 

俺はそこ以外の場所を水帝級魔術・絶対零度で凍り付かせた。凍結系魔術は加減が出来ないため普段使わないが、範囲指定ができる場合に限っては威力は絶大だ。

 

魔物の鳴き声はもう聞こえない。凍てついた洞窟内からは氷が軋み割れる音だけが響いている。

 

間に合ったんだ。

 

土塁に近づくと、懐かしい青い髪が動くのが見えた。

頬は少しこけて服は泥まみれになりながらも、そこに居たのは紛れもなくロキシーだった。

 

「無事で何よりです……!!!」

 

俺はロキシーに駆け寄り、抱きしめた。

 

ロキシーの感触。ロキシーの匂い。久しぶりだ。

 

ロキシーの全てを堪能していると、ロキシーに突き放されてしまった。

 

「すみません……ちょっと臭いので……」

 

しまった。ずっと走りっぱなしで俺も汗だくなのを忘れていた。ロキシーだって汗臭い男に抱き付かれたら嫌だろう。

 

「あ、いえ……そうじゃないですね。その、助けてくださりありがとうございました。初めまして、私はロキシー・ミグルディアと申します。その、お名前を教えていただけませんか?ぜひお礼がしたいです」

 

「……………」

 

「え!?あの!?大丈夫ですか!?」

 

全速力で走って酸欠の中、ロキシーを見つけられた安心感と、ロキシーに臭いと言われたショックと、ロキシーに忘れられたショックで、俺は気絶するようにぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きたらベッドの上にいた。………知らない天井だ。

 

気絶した俺をアイシャがせっせと地上に運んだらしい。

オルステッドが1人で行くなと言ったのはこういう事だったのだろうか。ベッドの横にはロキシーが座っていた。

 

「あっ、起きましたか?びっくりしましたよ、急に倒れてしまって……」

 

「すいません、ロキシー師匠に忘れられたショックがあまりにも大き過ぎたので意識が飛んでしまいました……」

 

「忘れていた訳ではありませんよ!その、5歳の頃のルディとあまりにも雰囲気が違っていたので」

 

「師匠はお変わりないですよね。あれ?師匠!左手!!」

 

「恥ずかしながら迷宮で魔物に食べられてしまいました。ルディが助けに来てくれなければ魔力が足らずに負けていたかもしれませんね」

 

ロキシーの左手は肘から先が無かった。洞窟ではローブで気付かなかった。神の左手を食べるとは許せん。あの迷宮、帰り際に土魔術流し込んで埋め立ててやるから覚悟しとけよ。

 

「すいません、僕がもっと早く助けに行けていれば……」

 

「いえ、ルディは充分早かったですよ。むしろ早過ぎます。私が手紙を出してからそんな時間経ってなかった筈ですが、ルディもこの近くに居たんですか?ラノア魔法大学にいると思ってましたが」

 

俺はロキシーにオルステッドの話をした。ロキシーから教えて貰ったスペルド族も一緒にいた事を話すとめちゃくちゃビビってたけど、『命の恩人だから怖がっちゃダメですよね!』と心を入れ替えていた。そういうとこ好きです。

 

そういえばラパンで待てと言われたけど、どこで待ってればいいんだ?目立つ二人組だから近くにいればわかりそうだし一旦待ってみるか。

 

 

 

3日後。

 

買い物から宿に帰ってきた俺たちをオルステッドとルイジェルド(スペルド族)が待っていた。

俺たちが泊まってる宿全体を貸し切ったのだとか。

 

というのも理由があって、2人とも他人から嫌悪される呪いを掛けられているから街中を自由に歩き回れないらしい。ロキシーもアイシャも嫌悪感を抱いてるようだ。俺はそんなの感じないけど。

 

ともあれオルステッドのおかげでロキシーは助ける事ができた。オルステッドからの条件を聞くことにしよう。

 

「俺からの条件だ。ルーデウス。俺の配下になれ」

 

それは実質、願い事を無限に要求しているのと同じで卑怯だと思ったが、恩は恩だ。報いる必要はある。

 

「俺には家族がいます。俺の家族が不幸にならないのでしたらその条件、受けさせてもらいます」

 

オルステッドが難しい顔をしている。俺が条件を付けれる立場ではないのは承知だが、この条件だけは外す事はできない。

 

「そうか。それだと……厳しいかもしれんな」

 

厳しいだと?

 

「……俺の家族が不幸になるような命令をするつもりだったのですか?」

 

正直、戦いたくはない。

まず負けるだろう。

しかし、妻や生まれてくる子供達、親と妹。

どれも捨てる気はない。

俺はこの2度目の人生で、家族を幸せにするために努力してきたんだ。

相手が七代列強だろうと関係ない。

それが家族の不幸になるのだとしたら、戦う覚悟はある。

 

 

オルステッドが口を開いた。

 

 

 

 

「お前に、ロキシー・ミグルディアとの子供を作ってもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

「子供だ。お前が助けた、そこのロキシーとお前との子供だ」

 

2回言われた。

 

ロキシーも何が何だか分からない顔をしている。

 

「すいません、ちょっと意味が分からないというか…」

 

「お前達、ヒトガミという存在を知っているか?」

 

オルステッドからヒトガミの説明を受けた。

 

 

 

 

 

荒唐無稽な話だと思った。

 

しかし、オルステッドは真剣そのもの。

 

未来を予知して行動を誘導する存在。

 

しかし、通常は認知できない。

 

どうやってそんな物を信じればいいのか。

 

すると、アイシャが夢で似た存在が昔から話しかけてきていると言い出した。

 

アイシャちゃん!?お兄ちゃん初耳なんだけど!?知らない人と話しちゃダメでしょ!!

 

しかし、ヒトガミの助言はアイシャからしたらゴミ同然らしい。今回の旅にしても、ヒトガミの助言を聞いていたらおそらく3日は旅程が延びていた筈とのこと。アイシャなら25日。ヒトガミ助言なら28日。通常経路なら30日以上。

 

アイシャは未来予知する神様?相手に知恵比べで勝っているのだ。この子まだ9歳なんだけど……。

 

「例外はあるが、ヒトガミは未来予知による助言を使って人を操り不幸へ導く。奴と接触した者は皆悲惨な運命を辿る」

 

しれっとアイシャは例外扱いされた。しかし、アイシャが知っているとなるとヒトガミは実在するのだろう。

 

そして、そんなヒトガミを倒すためにはロキシーの子供が重要になるので、ロキシーを助けたついでに子供を作れということらしい。

 

「ルーデウス。お前がロキシーと子を作らないというのであれば、俺はロキシーに他の男と子を作るように命令する。命を助けたのだ、それくらいはしてもらうぞ」

 

オルステッドがロキシーを見る。

ロキシーは俯いている。

 

こんな事が許されていいわけがない。

 

「それだとロキシーが不幸になります!ロキシーも俺の家族と同じくらい大事で!ロキシーが不幸になるなら配下にはなりません!」

 

ロキシーの身体を物みたいに扱っていいわけがない。

 

隣に座るアイシャも何か言いたげだ。

 

 

よし、言ってやれ!!お兄ちゃんが許す!!

 

 

罵倒してしまえ!!

 

 

「お兄ちゃんの奥さんには3人目が増える事は了承貰ってるので大丈夫です!あと、ロキシーさんもお兄ちゃんのこと好きなので大丈夫です!子供もオッケーです!」

 

「そうか、なら問題ないな。俺は帰る。まだ魔大陸でやる事があるから、それが終わったらフィットア領に行く。配下としてやってもらいたい事はその時にまた伝える」

 

オルステッドは席を立って宿から出ていった。

 

「お兄ちゃん!私今日はオルステッド様に聞きたいこととかあるからオルステッド様のところに泊まってくるね!ロキシーさん、お兄ちゃんのこと宜しくお願いします!」

 

アイシャもそれに続くように俺たちに挨拶して出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?なにこれ??

 

 

ロキシーを見る。

さっきと同じで俯いているが、顔は真っ赤だ。

 

ロキシーが俺の服の裾を掴んで引っ張ってくる。

 

 

「ルディ……子作り、しませんか?」

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