グレイラット家一行は、現在ロアの街に来ている。
ロアの街がお祭り騒ぎな理由が判明した。
ペルギウスがロアの街を友好都市とし、守護する宣言をしたんだそうだ。ロアの街の人気は急上昇。そして、その領主の娘の成人祝いに顔を出すという噂が出たのだ。
ここ数年、フィットア領内で目撃情報が多い空中城塞。実はラピュタというロボットが住んでいるという、男ならワクワクしてしまう噂まで広まっている。吟遊詩吟には、最終決戦ではペルギウスが空中城塞と合体変形して戦うという歌を広めてもらおう。天元突破な歌も教えれば完璧だ。
街の祭りを楽しんだ後、久々にボレアス家に帰ってきた。みんな、元気そうでなにより。パウロはサウロスにブン殴られている。ほんといったい何をやらかしたんだ?リーリャとアイシャはボレアス家の獣メイドに興味深々で早速情報交換をしている、仕事熱心なことだ。ゼニスとノルンはパウロに連れ添って挨拶周り。自由を得た俺は調理場を覗いたり執事さんと話したり、メイド部屋を覗いたりしていた。
そういや、ギレーヌとエリスが居ないな。庭で稽古でもしてるんだろうか。ひと通り挨拶は済ましたから、休憩がてら前に住んでた自分の部屋に行ってみると、2人が居た。
ギレーヌは変わってないな。エリスは別れてから1年。腕を組み、ツンとした態度は変わらない。しかし、体付きは出るとこ出て、締まるところは締まっている。いわゆるナイスバディになっていた。この様子じゃ、明日の成人式のダンスは長蛇の列が出来ることになるだろう。今夜は整理券でも作って準備しておくとしよう。
「ルーデウス!ひさしぶりね!」
「お嬢様、お久しぶりです。そして、成人おめでとうございます」
「前みたいにエリスでいいわよ。ルーデウスは13歳よね?」
「ではお言葉に甘えて。はい、13歳になりました。エリスからしたらまだまだ子どもですね」
「………約束、覚えてる?」
約束?何のことだろう?13………不吉な数字ってくらいしか思いつかないが、覚えていないというのは良くないな。
「すいません……物覚えが悪くて。宜しければ何の約束か教えていただけませんか?」
「………ルーデウスが10歳の時のよ。覚えてないの?」
あれか!卒業確約のプレミアムチケット!え?有効だったの?ペルギウスのせいで有耶無耶になって、改めて聞くことも出来ないし、忘れることにしてたやつ!
「あれは、僕が15歳になったらって事だと思ってましたが」
「たいして変わらないわよ!……私じゃダメなの?」
全然ダメじゃないです!むしろお願いしたい!
ただ、俺はもうシルフィと付き合っている。シルフィは裏切れない。それに、言い方は悪いが、これは身体の関係の約束だ。こんな約束、最初から成立させちゃダメなのだ。とは言え、エリスから言い出した約束。貴族が約束を破るわけにはいかない。ならどうするか。貴族の娘と、田舎出身の家庭教師では、立場が違う。つまり、約束自体を無効にしてしまえばいいのだ!
「僕とエリスじゃ、釣り合いが取れません。申し訳ありません」
深々と頭を下げた。俺の意図は伝わったと思うが、恥をかかせた事に変わりはない。殺されても文句はない。
「そう……よね。ルーデウスは凄いもの。仕方ないわ」
いつものエリスとは違う、弱々しく、聞き取れないほど小さい声だ。隣にいた獣人のギレーヌは耳がピコピコ動いてるから聞き取れてるのだろう。
「ルーデウス師匠。挨拶が遅れました。ギレーヌです。ますます腕を上げられたようで。」
「ルーデウスでいいですよ、ギレーヌ。剣術では父様には勝てませんでしたが、魔術では完勝しました。ギレーヌのおかげです」
「ふっ…パウロの情けない姿を見れないのは残念だな」
「まぁ、魔術を使っても紙一重でしたけどね。大見得切って負けでもしたら、ずっと頭が上がらなくなるところでしたよ」
「魔術師が剣士に負けても恥ではないだろう、パウロも気にしないと思うが」
「僕の意地のような物です。父様の事は尊敬してるからこそ対等で居たいんですよ」
「剣ならともかく、魔術師のルーデウスか。私でも勝つのは難しそうだが……仮に私が勝ったらルーデウスは私の下になるのか?」
「僕はギレーヌの魔術の師匠ですし、その点では下になるつもりはありませんよ、ただ、もし負けたら……下になっちゃうでしょうね」
「そうか。話は変わるが、明日の朝、武術大会が開かれるんだ。私は出ないが、お嬢様は剣聖になった腕前披露を兼ねて出場する」
「そうなんですか!エリス、僕も応援していますね!」
「ルーデウスも出てみないか?元ボレアス家専属家庭教師だ。ボレアス家の名声は上がるし、優勝賞金も出るぞ」
ふむ、悪くない。ボレアス家もそうだが、今後ブエナ村で暮らすにあたり、ブエナ村のグレイラット家の名声も上げておきたいところだったのだ。パウロはなんだか最近頼りないし、よし、やる気出てきた。
「ぜひ出場させてください。あっ…でも、エリスには勝たない方がいいんですかね?誕生日の主役ですし」
「ルーデウス。真剣勝負の場で、手を抜くような事を私は教えてないぞ。それとも、お嬢様相手では手を抜かないと勝ってしまうとでも言いたいのか?」
背筋が凍るとはまさにこの事だ。
特大の地雷を踏んだ。ギレーヌの毛が尻尾の先まで逆立っている。ブチ切れだ。そりゃそうだ。俺はギレーヌからそんな事は教わってない。
「すいません、失言でした。全力で戦います。エリス。そういうことだから、もし当たったら、俺は全力で戦う事を約束します。どんな結果でも言い訳しないし、全力全開で戦います。魔術師ルーデウスとして、エリスに勝ってみせます」
エリスの剣士としてのプライドを傷つけてしまったかもしれない。これはダメだ。何の為の家庭教師だったんだ。思い出せ。
「それじゃぁ、私が勝ったら……私が上って事よね?」
「はい。だから、絶対負けません。師匠としての意地があります」
数分間の沈黙。エリスと目を合わせ向かい合う。家庭教師をしていた頃、俺の本気を示すために、よくしていた行動だ。目は口よりも物を言う。俺は水聖級魔術師だ、水聖級魔術師として認めてくれたのは、他でもないロキシー師匠だ。これで負ければロキシー師匠の名誉にも関わる。魔術師として本気を出す以上、エリス相手だとしても負けるつもりはない。
「わかったわ!!!釣り合わないって言った事!!後悔させてあげるんだから!!ギレーヌ!手伝いなさい!」
「はい、お嬢様!!」
エリスはサウロス並みの大声で叫んだかと思うと、ギレーヌと共に窓を突き破って庭に飛び出していった。あれ?ここ3階じゃなかったっけ?
ドスン!!という鈍い音と共に2人は着地し、そのままダッシュでどこかに行ってしまった。やっぱ聖級以上の剣士の肉体はイカれてるな。
にしても、釣り合わないって言った事を後悔させるってどういう意味だろうか。あ、そうか。田舎者の俺を、大会で目立たせてくれるって事か。肩書きは水聖級魔術師とはいえ、肩書きは肩書き。実際魔術を見ないと人は中々信じれない物だしな。
魔術師として本気を出すと言った手前、もう後には引けない。とりあえず、魔術師っぽいローブを買っておいた。グレイラットにちなんで、灰色のローブだ。ロキシー師匠みたいに帽子を被ろうかと思ったが、今回は顔を売るのも目的の一つなのでやめておいた。
翌日。武術大会の会場は天下一武道会のような見た目だった。もしかしてこの世界にはドラゴンボールの漫画が売ってるのかもしれない。
エリスとは反対ブロックの組み合わせとなり、仮に当たるとしたら決勝か。当然、こんな狭いリングでは魔術師は勝てない。詠唱してる間に近づかれてお終いだ。まあ、無詠唱の俺には当てはまらないけど。
出場してるのは中級〜上級が大半。聖級とも当たったが、土槍で押し込み、岩砲弾で気絶させた。聖級でもピンキリあるとはいえ、中級魔術に負けるとはな。修行し直したまえ。
エリスも順当に勝ち進んでいる。エリスも聖級と当たったようだが、斬り合ったにも関わらずエリスは無傷だった。試合を見たが、エリスの剣筋は俺の目では追いきれない。パウロ(上級)でさえギリギリだったのだ。やはり間合いが重要になるな。エリスには悪いが、たとえ泥臭い勝ちになろうとも、今回は負けるわけにはいかない。
決勝戦。開始前。
会場の上だけ、もっといえばリングの上だけに雷雲が発生している。明らかに異常事態だが、水聖級魔術師が天候を操れるのは有名な話だ。誰も文句は言っていない。リングの上は、さっきまでの石畳ではなく、泥と化していて、お互いに靴が泥に埋もれる程だ。これでは早く動けないだろう。エリス、これが魔術師の戦い方だ。勝負とは戦う前に既に勝敗は決まっているのだ。
エリスが何やらブツブツと言っているが、雷雲で良く聞こえない。卑怯だなんだと言うつもりなのか?失望させてくれないでくれ。
「ー・ーーー・ー。ファイアーボール!!」
は????
試合開始前にエリスから火球弾が飛んできた。
ちゃんと詠唱をした、良い火球弾だ。魔術の練習もサボらずやっていたことが分かる。しかし、試合開始前の明らかな攻撃魔法。反則だろう。何のつもりなんだ?
「試合はじめ!!!」
審判もグルかよ!別にいいけど!
間合いからして、火球弾をレジストしてもお釣りが来る距離を取っている。予測不能な事にも対処してこそ魔術師なのだ!
火球弾をレジストして消し飛ばすと、火球弾の影から剣が飛んできていた。パウロは言っていた。剣神流は剣を手放さない、と。剣を離したら負けだと。エリスも剣神流だ。流石に、これは予想外過ぎだ。間に合わない。
綺麗な投剣の軌道で、俺の右腕は肩からバッサリと落とされた。聖級治癒術ならくっつけれるが、迫るエリス相手にそんな暇はない。左手でキュムロニンバスを発動する。ギリギリ間に合った!エリスに雷が直撃する。俺の勝ちだ!
だが、エリスは止まらない。
え!?嘘だろ!?雷が直撃したよな!?
結局、最後はグーパンチで場外に叩き落とされて、俺の意識は途切れた。
俺が気絶している内に、エリスは優勝。優勝スピーチで『勝てば結婚できる約束だから、ルーデウスは私の夫よ!
文句あるならルーデウスに勝ってみなさい!』と、腕を斬り飛ばされ、その上ぶん殴られて気絶している男に挑戦する者がいるはずもなく、『やったわ!』と言って俺はエリス抱えられて屋敷に連れ込まれたらしい。
起きたら腕がくっ付いていた。聖級使える人が居たのかと思ったら、ペルギウスが居たらしい。久々に見応えのある試合だったと、エリスをベタ褒めし、ボレアス家の評価は鰻登り。
それを聞いて、分かった。ペルギウスが犯人だ。いくらエリスでも雷の直撃喰らって動けるわけがない。ペルギウスは俺が空中城塞に雷を撃ち込んだ事を根に持っていて、俺が雷を撃った瞬間にエリスが動けるギリギリの威力にレジストしたのだ。性格悪すぎるだろあのオッサン!!!
しかし、負けは負け。雷の件は抜きにしても、腕を斬り飛ばされて肉薄した所まではエリスの実力なのだ。ペルギウスとて、そこまでされたのなら、お前の負けだと、そう言いたいのだろう。これは、、、仕方ないな。
申し訳ありません、ロキシー師匠、負けてしまいました。
ごめん、、、、シルフィ。
久しぶりにエリスと部屋でゆっくり話した。釣り合わない云々をお互いに誤解していた事が分かった時は2人で笑ってしまった。とはいえ、シルフィと結婚したい俺を説得など出来ないだろうから、結局エリスは力づくで同じ結果にしていたのかもしれない。それに、ここまで俺の事を好きだと言って行動してくれたエリスの事を、俺だって好きなのだから、やはり同じ結果になっていただろう。
エリスは『好きならシルフィとも結婚すればいいじゃない』と言っていた。それはエリスに悪いだろうと思ったのだが、『お祖父様は妾が何人もいるし、メイドに手も出してるわ!』との事で気にしないらしい。そうだとしても……シルフィに何て切り出せばいいんだ。絶対泣かれる。
そのまま新婚初夜かと思ったら、成人したことのお役所仕事で体が空かないらしい。それが終わったらブエナ村に来るからその時にと言われた。え?オラの村でやるんですか?土魔術でラブホ建設しておこうかな。防音耐震の高級仕様で!
ブエナ村への帰り道。
パウロは『お前これからシルフィちゃんと修羅場だぞ』とニヤニヤして煽ってくる。ぶっ飛ばしてやりたい。リーリャの時は手伝ったというのに恩知らずな親である。
空中城塞が見えた。ペルギウスがこちらを煽ってるように見えたので、ありったけの魔力を込めて雷を撃ち込んだが、完璧にレジストされて雷雲ごと霧散されてしまった。やっぱ試合でもレジストしてたなジジイ。ドヤ顔してるのが目に浮かぶ……!
なんで俺の周りには碌な男がいないんだ!!!