「おかえり、ルディ」
「ボク、たった5日会えなかっただけなのにすごい寂しくなっちゃってたんだ。ごめんね、寂しがりやで」
「でも、こうやってルディはちゃんと帰ってきてくれて、それだけですっごい幸せな気持ちになるんだ」
「ね、今日はルディもお仕事休んで一緒にいつもの丘でたくさん話さない?会えなかった日のこと、たくさん話したいし、たくさんルディから聞きたいな」
「えへへ…ほらっ、いこ。ルディ」
シルフィに腕を引っ張られながら、俺はシルフィとの思い出の丘に来た。ダメだ!言えないぃ!言える訳ないぃ!
「実は今日ね、お弁当も作ってきたんだ。ゼニスさんやリーリャさんほど美味しくはないと思うけど、ルディに喜んで貰いたくて頑張ったから、その……食べてくれると嬉しいな」
俺は一心不乱に食べた。美味すぎる。美味すぎる。
「良かった、ルディの口に合って。もし結婚したら、毎日食べて貰いたいから、これからもお料理がんばるね!」
時間が経てば経つほど言いづらくなる!!!むりだ!
結局その日、俺はシルフィとイチャイチャするだけして、エリスの事は言えなかった。言えない……。パウロよ、こういう事だったのか………。
パウロ、ゼニス、リーリャの3人は、頭を抱える俺を暖かく見守ってくれている。自分達の修羅場を収めたルーデウスなら今回も大丈夫だろうという顔をしている。使えない親どもめ!!!
リビングに居ても意味がなさそうなので、ベッドの上で芋虫のように悶えていると、妹達が部屋に入ってきた。
「兄さん……何してるんですか」
「お兄ちゃんが気持ち悪い動きしてる〜」
ノルンとアイシャだ。今の俺の部屋には、土魔術で作った手のひらサイズのポケモン151種が棚に並べてある。妹達はポケモンゲットしに部屋に侵入してくるのだ。ポケモンはあげるから、お兄ちゃんそろそろ思春期だしノックして欲しいよ。
「何でも………ない!!!」
ウネウネと動きながら返事をする。
ノルンはドン引きし、アイシャはケラケラと笑っている。
「今日はこれ貰いますね」
ノルンはカメックスとカビゴンを両手に装備して部屋を出ていった。ノルンはデブ専なのかもしれない。トトロとか好きそうだから今度作ってあげよう。
「お兄ちゃん、もしかしてシルフィ姉にエリスさんの事言えなかったの?ふーん……手伝ってほしい?」
聡明なアイシャにはすぐ看破されてしまった。しかし兄の威厳がある。妹の世話になるわけにはいかない。
「お願いしますアイシャ様」
土下座した。もはや頼れるのは妹しかいない。
「えっへへ〜、じゃぁ次はお礼に何して貰おっかな〜♪」
アイシャは俺を神格化し過ぎてる節があったので、定期的に俺の弱い部分をわざと曝け出して調整している。そう、これはわざと曝け出しているだけで、切羽詰まって妹に助けを求める無様な兄の姿ではないのだ。
妹の助力を得た俺は、翌朝、約束の地へ旅立った。
丘には既にマイスイートハニーのシルフィがいて、隣にはエリスが居た。
エリスには俺からシルフィに話すと伝えていたが、『やっぱり私が直接話した方が早いわね!』ということで、仕事ほっぽり出して来てしまったそうだ。oh.修⭐︎羅⭐︎場⭐︎!
「あっ、えっと、シルフィ、こちらはボレアス家の
「ルディ?誰が話して良いって言ったのかな?ちょっと黙っててね、私がこの人と話すから」
悪戯されてプンスカしてるシルフィではなく、目がキリッとしたお怒りモード。しかも杖構えてる。魔術の威力や制御は俺が上だが、速度だけで言えばシルフィのほうが俺より早い。つまり、シルフィに杖向けられた時点で俺は詰んでるのだ。
「それで、あなたはルディのなんなのかな?」
「私はエリス・ボレアス・グレイラット!ルーデウスの婚約者よ!」
「嘘だね。ルディがボクを裏切るはずないもん」
あっ、心が痛い。ごめんなさい!俺の懐刀であるアイシャに助けを求めると、優雅に水筒からお茶を出して飲んでいた。昼ドラ見てる主婦かお前は!
「ホントよ!武術大会でルーデウスに勝って、ルーデウスは私のモノになったのよ!」
「野蛮だね。強いってだけで、弱い人の気持ちを踏み躙って、強制して、それで満足なの?」
「ルーデウスは弱くない、強かったわ!だけど、私の方が強かった!だから、私はルーデウスと結婚するのよ!」
「そっか、話が通じないね。いいよ、あなたの考えを認めてあげる。強ければ何しても良いって言うなら、私が潰せば納得するでしょ。ルディを誑かしたんだから、タダでは帰さないよ」
エリスの手が腰に携えた木刀の柄にかかる。
「はいはーい、シルフィ姉もエリスさんもスト〜ップ!これより先は、兄の専属メイドである私アイシャにお任せください!」
一触即発。コンマ何秒後には血の雨が降ろうという直前に、アイシャが割って入った。
「アイシャちゃんは関係ないよね?どかないと怒るよ?」
「どきませーん。兄の不始末は、妹が責任持って片付けるのがグレイラット家の家訓なのです」
「……どう片付けるつもりなの?やるしかないじゃない」
シルフィさん?その「やる」はもしかして「殺る」ってことじゃないですよね?恐らく喧嘩しに来ただけのエリスも、ビビって少し後退りしてるじゃん
「まぁまぁ、シルフィ姉、エリスさんは交渉しに来てくれたんだよ。交渉。このままじゃ2人とも不幸になるよーって」
「不幸?私とルディは一緒にいるだけで幸せになれるよ」
「ちがいまーす。ボレアス家はお兄ちゃんとエリスさんの婚約を発表しちゃってるんだよ。しかも甲龍王ペルギウス様のお墨付き。これを撤回なんてしちゃったらお家取り潰しもあり得る話なの。そうなったら私たちの住むフィットア領全体が不幸になっちゃう。親戚友人村の人たち、みんな不幸にしてでも、2人だけは幸せになれる?無理だよ。シルフィ姉もお兄ちゃんも優しいもん。絶対不幸になる」
「……………」
「エリスさんは、5年もお兄ちゃんと一緒に暮らしてたんだよ。シルフィ姉は確か2年だよね。倍以上だよ。そりゃ好きになっちゃうよ。でも、エリスさんは武人だし、お兄ちゃんも魔術師のくせに武人みたいな考え方だから、こんな不器用なやり方しか出来なかったんだよ」
シルフィは黙ってアイシャの話を聞いていた。アイシャが言っていることは、シルフィも何となく分かっていたんだろう。分かっているからこそ、認めたくなかった。認めてしまうくらいなら、暴れて全部無かったことにしてしまおうと考えたのかもしれない。杖を下ろしたシルフィの目には涙が溜まり溢れ出していた。
「でも、ボクだって、ボクだって、ルディを諦めきれないよ。アイシャちゃんだって、分かるでしょ、もう、ルディと離れたくないよ……ぅ……ぅ」
「シルフィ姉、泣かないで。エリスさんもそれが分かってるから交渉なんです。女たらしなお兄ちゃんは頼りにならないから、私達が頑張るしかないんです」
俺は女たらしなんかしてない!なんて台詞を入れたいが、マジで何も言えなかった。あ、すごい!正座した状態から1ミリも動けない!金縛りだ!助けてパウロ!
「そうよ!私のボレアス家なら、正妻を1人付ければ、妾は何人でもいいの!誰にも何にも言われない!ルーデウスから幼馴染のあなたの事を聞いて、会ってみて正解だったわ!肩書きは妾になっちゃうけど、私はシルフィさんとどっちも正妻として、ルーデウスを一緒に支えていきたいの!」
「うぅ………エリスさん……ボグも……がんばる……ぐすっ…ありがどぉ……」
「エリスでいいわよ、これからよろしく頼むわ!」
「はい!これにて解決〜!じゃぁウチでパーティやるからシルフィ姉もエリス姉もレッツゴーだよ〜!」
アイシャを真ん中にして3人仲良く手を繋いで我が家に帰っていく。
俺は丘の上で正座をしながら遠ざかっていく3人を眺めていた。まだ身体は動かない。ふと隣を見ると、アイシャが置いていった水筒に紙が挟まっていた。気力を振り絞り紙を取り出す。
『お兄ちゃんへ。私たちはゆっくり帰るので、ダッシュでケーキとジュースを買い揃えておいてね。私たちより遅かったら次は助けてあげないよ』
生涯でこれほど全力で走った事は無かっただろう。
走りながら思った。アイシャはまだ7歳だ。
そういえば俺がパウロを救ったのも7歳だった。
グレイラット家の男は7歳の子供に救われる運命なのかもしれない。俺に男の子供ができたら伝えなきゃいけないことができたな。パウロよ。俺とお前の屍を糧に、次の世代はきっと間違えないだろう。困ったことが起きたら、7歳の子供を頼る。これがグレイラット家の家訓だ!!
「すいません!!ケーキとジュースをありったけください!!」
ギリギリ間に合った。危なかった。死にそうだ。
ダッシュで走る俺を見つけたアイシャが、負けじとダッシュを仕掛けたからだ。気付いたことがある。全力疾走を続けて息も絶え絶えだと、無詠唱魔術が使えないのだ。いや、詠唱こそ無理だろうけど。最後はヤレヤレって顔したアイシャにゴールを譲ってもらえて、事なきを得た。兄のメンツは守られたのだ。
「ルディ、おつかいありがとうね」
「流石ね、今度私とも走りましょう!」
「お兄ちゃんはやっぱり私が居ないとダメダメだね〜」
玄関で汗だくになって燃え尽きダウンした俺を尻目に、3人は我が家へ入っていき、パーティが始まった。アイシャが家を出る前に家族にパーティする事を伝えていたらしい。シルフィの家族もいる。フィリップもいた。忙しいのに来てくれたのか。
ホントに疲れた………………
しかし、しかし、しかし!何がともあれ大団円なのだ。
そして、今夜はお楽しみだ!!!
やはり最初はシルフィから頂こうかな?
エリスが先だとシルフィ嫉妬しちゃうだろうし。
いや、待て待て、落ち着け、嫉妬したシルフィ?
最高じゃないか。
『ボクの方がルディを気持ちよくできるんだもん』だなんて言われたら俺の聖剣エクスカリバーがエクステンションしてエクゾダズフレイムになりそうだ!!帝級魔術師の血が騒ぐぜ!!
夜も更け、ノルンとアイシャが眠そうにしている。よし、ガキども散れ!ここからは大人の時間だ!どっちから頂こうかな〜と思ったらエリスは帰るらしい。ホワイ!なぜ!?お仕事ほっぽって来たから強制帰宅だそうだ。せめて、せめて一晩だけ……!
「ルーデウス。君はパウロの息子とは思えないくらい立派だ。まさか15歳になるまで我慢するだなんて」
何の話だフィリップ!エリスを置いてけ!お前は帰れ!
「そうよ!私が誘っても、15歳の約束を優先するって言ってたもの!普通とは違うんだから!」
えっ!?あれはエリスが『13でも15でも変わんなくない?』って言ってただけだろ!記憶改変してるじゃん!ばか!
「ボクも、エリスが我慢するなら我慢するよ。ボクはルディもエリスも裏切りたくないから」
シルフィさん!!我慢しなくて良いよ!隠れてやっちゃお?それはそれで興奮するから!!我慢したく無い!!
「流石ルディだぜwwっwww」「ルディ立派…!」「ルーデウス様。やはり貴方は…」
父様と母様とリーリャは俺の貞操観念の高さに感激し、顔に手を当て感動で涙している。パウロは笑い声漏れてんだよ、殺すぞ!!
「これなら娘を安心して嫁に出せるな」「ええ。そうね」
シルフィの義父さま義母さま!はい!幸せにします!任せてください!だから明日の朝まで娘さんと一緒に居させてください!!
そして、みんないなくなってしまった。
くそぅくそぅ……俺は不貞寝した。
とってもエッチな夢を見た。
エッチすぎだった。
起きたらパンツがカピカピだった。
そういえば、まだだったな。
そうか、俺もこれで大人の男の仲間入りか。
「ってことがあったんだよ。ナナホシはどう思う?」
空中城塞ケイオスブレイカーのナナホシの部屋に俺はいる。ナナホシは暇人だから、俺の愚痴を聞く義務があるのだ。
「どう思うって言われても、話が長すぎでどこから突っ込めばいいのか迷うわ。あなた普段から下ネタ多いし、てっきりもう精通してるものだと思ってたけれど、まだだったのね」
「いや、初体験の話は尊い物だろ。下ネタじゃない。」
「精通を初体験とは言わないわ。それに、あなたは前世で精通経験してるんだから、初体験じゃないでしょ」
「魂はさておき身体的には初体験なんだよ。前世は小学生くらいの時だったんだよな。だから焦っててさ。異世界だから遅いのかな?みたいな。エルフだと寿命数千年!とかありえそうじゃん?エルフだと精通するの100歳とかになるんかね?」
「種族の違いは私達には分からない領域よね。ペルギウスなら詳しいんじゃ無い?確か龍族って話だし、長生きしてるみたいよ」
「確かに…………龍か。何万年とかありそうだもんな。もしかしてペルギウスってまだ精通してないんじゃねぇかな?ちょっと聞いてくるわ」
『ルーデウスは空中城塞へ1年間出禁』
と連絡があった。馬鹿なんじゃないの。