四ヶ月前 第三週目 春 畔柳《あぜやなぎ》 柊《しゅう》
凍える寒さの中、数ある避難スポットで群を抜いて安心できる場所で優雅に睡眠をとっていた。
だが、その睡眠を脅かす存在が音を立てて鳴り始める。こいつとは、小学校からの仲でノイローゼになりそうなほどに鳴き声を聞いている。
高校に入学してから、かれこれ二週間が経過していて、正直身の周りが変われば、ある程度楽しい学校生活を送れて、何なら入学マジックで彼女ができちゃうかも。なんていう淡い期待を持っていたが、今はもう消え去っていた。それもそうだろう、結局中学校からやることは大して変わっていないのだから。
変にバカまじめで容量が悪く、顔も中の中。―よくて中の上―その上自らコミュニケーションも取れず基本受け身。結局高校デビューしてるやつらを見下して、なんも変わろうとしなかった俺は、新しい環境になっても何も成し得れるわけはないのだ。
知り合いのいない教室へ足を入れ、何事もないように自分のために用意された机にバックを置き、自席へ座り朝の準備をする。
チャイムが鳴り教師の川西先生が教壇に立った音で本をしまう。聞きなれた挨拶を挟みつらつらと数分話を続ける。
「それじゃあ最後に今日から二週間、このクラスでお世話になる教育実習生を紹介します!岡崎先生どうぞ!」
そういうと、扉を開け胸を張る、ショートヘアで七三分けの体躯のいい男性が入ってきた。
先生が退き、教育実習生が教壇に立つ。
「はい。皆さんおはようございます。教育実習で一の二に配属されました。岡崎《おかざき》伸也《しんや》と言います」
さわやかな声でいて良く通る声だ。黒板に書いた字も綺麗でかなり好感が持てる。
「二週間しかありませんが、みんなと思い出を作れたらなと思います!よろしくお願いします」
そういうと岡崎先生は、川西先生へ目配せをして後ろへ立った。
授業が終わり、テニスラケットをグラウンド横にあるテニスコートへ向かう。
部活では、親密とまではいかないが、仲の良い友達が一人居る。名は八尋《やひろ》柚希《ゆずき》といって、一度県大会で顔を合わせたことがあることから、最近仲良くなった。
コート外にはベンチがあり、柚希と話していると隣から聞き覚えのある声がした。
「あ!畔柳君?」
その声の主は、岡崎先生だった。
「あ、岡崎先生...こんにちは」
その後柚希のカバーもありながら岡崎先生と話していると、なんとテニス部で一時の顧問も一緒に請け負うことになったらしい。
僕は会話を終えると、微妙な空気感から逃れるように柚希と練習を始めた。
四ヶ月前 第二週目 春 増田《ますだ》 辰木《たつき》
部活の勧誘シーズンが爆速で走り去っていったかのような早さだった。
これでもう放課後に一年の教室へ行ったり、勧誘をしなくて済む。そう思ったらどっと疲れたのと同時に肩の荷が下りるのを実感した。
正直今はもうテニスラケットを振る気力すらない。はじめは楽しくて体を酷使した日でもラケットを振っていたが、今はもう面倒なだけで何の面白みもなくなってしまい、一週間に一度行けば良い方だ。
最近は何に対してもイラつくし、学校そのものがだるく、行く気力すら失せる。ギリ友達が居るから行ってはいるものの、授業中はあいつらと外でサボるようになっていた。
家に帰ると母親の声がする。飯を催促する声だ。その声を聴くと無性にイライラして仕方がない。原因はある程度目星がついてる、多分反抗期ってやつだろう。
高校に入ってから急に芽生えて今は立派に実ってる。
そのせいで、好きだったゲームをやってもいちゃもんを付けられてイラつき、モノにあたる頻度が格段に増えた。
普通に通りすがりの人にもイラつくようになった。つい手を出しそうなときは、想像でぼこぼこにして気持ちを鎮めてた。そんな惰性とでもいえる日々を足りない...埋まらない何かを抱えて過ごしていた。
四ヶ月前 第三週目 春 岡崎《おかざき》 伸也《しんや》
今日から慶西《けいさい》高校で、教育実習生として二週間お世話をさせてもらうことになっている。
数日前に、クラスの名簿を貰い前日にはなんとか覚えれた。
過去に何度か教育実習生が、学校に来たことがあったが教壇に立った時、えも言えぬ謎の感覚に襲われた。
きっとこれは、これからの期待と夢にまで見た景色を見れたことへの高揚感からなのだろう。挨拶を済ませ、私の受け持つ教科を見て勉強しながら、生徒たちへ交流していった。
私は、いい先生を演じられているのだろうか。授業中に何度も頭の中を反芻した言葉。鼓動が速くなっているのを悟られないように、自然にすべて対応する。何度チャイムが鳴っただろうか、高校の頃は退屈な時間も今となっては、新しい気持ちをくれる時間になった。
ホームルームが終わり、川西先生の後をつけながら教員室へ入る。
「いやー、一日目お疲れさまでした。岡崎先生」
「先生なんてやめてくださいよ、私なんてまだまだですよ」
謙遜してはいるがその言葉は、とても気持ちが良い。
その後、川西先生が相槌を打ち話す。
「そういえば岡崎先生、今週の授業資料は作ってありますか?」
「はい。もちろん作ってますよ」
「それはよかった。前に来た教育実習生は直前になって作ってないなんて言うもんだからびっくりしちゃって。ホントよかったです」
そんな気持ちで教師になろうとするなんてなんて腑抜けた人なんだ、と声に出そうになったが何とかとどめれた。さすがに早速相手を詰る
二週間のうち三日授業を聞き、四日目から授業をするそうだった。
時刻を見るとホームルームから三十分経っていたので、川西先生に一言云い急いで職員室を出た。
テニスコートが見えるところまで急ぎ足で行ったが、その心配はなかったようで、待っている生徒はあまりいないようで一安心した。
臨時でテニス部の顧問になったことをすっかり忘れていたのだ。
確かベンチがあったからそこで一休みしようと近づく。だが二人の影がある。おそらくテニス部なのだろう。
話しかけに行くと、なんと部活に入部してなそうな畔柳《あぜやなぎ》君がいた。
驚いて咄嗟に声が出てしまう。
「あ、畔柳君?」