一般変態洗脳市民 作:性癖開示ヒーロー
時系列は最低限、ただエロ目的で書いてます。
宜しくお願いします。
この世界に「転生」したと自覚した時、俺は真っ先に自分の頭を疑った。
だって──漫画で読んだのと変わらない世界が現実になっていたのだから。
その作品を僕のヒーローアカデミアという。
主人公である緑谷出久がヒーローになるまでの物語……と聞けば希望に溢れたストーリーを想像するだろうが、実際に世界観を見返してみれば「個性」という異物から生じる差別や争い、人間の醜い面もこれでもかとばかりに目にすることができるだろう。
なにより「個性」があるせいでこの世界は個人で起こせる犯罪の規模が段違いに大きい。
──まぁ、
テレビの向こうで巨大ヴィランをぶっ飛ばす
孤児院にテレビがなかったら現実を受け止めるのはもう少し遅かったろうな。
あと、もうひとつ普通じゃない世界を受け入れる要因はあった。それは、個性だ。
──俺が生まれ持っていた個性は『暗示』というものだった。
ちょっとしたおまじないや思い込みの誘発ができる程度のチンケな個性だ。
俺は本当に個性を持っているのか疑うレベルの貧弱さ。あるいは俺こそ個性持ちだと思い込んでいる一般無個性男児なのでは……?
心操人使のように口先一つで相手を操れるわけでもない。
こんな地味な個性ではとても大それたことなんて出来やしないと。別に大事を起こしたい訳では無いが……
せっかくの第二の人生が、ただのパッとしない凡人で終わる──そう悲観した。
だが、時間が経つにつれて幾つかの気付きが俺を変えた。
『暗示』の個性。
普通に弱い。しかし個性というのは鍛えれば筋肉のように成長するのは原作を読んだとおり。
だから試行錯誤を重ねれば強くなるのではないか?
本当に将来性があるのかという疑問や、生半可な道ではないだろう、面倒な鍛錬への忌避感──それら全てを時間を掛けて『暗示』で塗り潰すことで思考を純化した。
『俺の個性はいずれは最強だ』
『俺は努力の天才だ』
『個性を完成させる為ならなんだって死ぬ気でこなしてやる』
──なんて、四六時中、寝ている間すらも自分の脳にそう刷り込み続けた。
そうして俺は心身ともに生まれ変わった……らしい。
自覚する頃には高校生になっていた。
なんか……ぬるりと個性が成長して、ようやく自己暗示が解ける。
「……は?」
そしてなった頃には肉体も個性も有り得ないほど別物に変わっていた。
俺また死んだ?
哀れトレーニングマシーンと化した
4歳の頃の思いつきを18歳になるまでオートで続けていたってことか。
という記憶はあるのに実感ない。
ひとつひとつの過去をめくるたびに、まるで一度読んだ本を読み返しているかのような退屈さと既視感がある。
我ながら恐ろしい個性に成長してるよな……。
こーれ、いま思い出した全てです。
思い出したというか、これ個性が自己暗示を認識したまま維持できる状態まで成長したお陰で自我取り戻したっぽいな?
下手したら死ぬまでストイックな暗堂少年のまま二回目の人生終わってましたってコトか、えげつねえな。
まあ結果オーライとしよう。
お陰でこれからは好き勝手に動けるのだから。
下手を打てばヴィラン堕ちだろうが……『暗示』を上手く使えば、問題ないさ。
薄味な記憶の濁流のなかで、ひとつだけは確信を持って言えるのだ。
「俺の個性は
……などと振り返りながら、日課と化してしまったランニングの途中。
ふと路地裏へと足を踏み入れた。
男の叫びのような声が聞こえた気がしたからだ。
単に興味が湧いただけ。場合によっては生まれ変わった『暗示』を試せるかもしれない、と。
しばらく進むと、薄暗い空間にはおよそ似合わない、女子高生──いや、よく見るとまだ幼さの残る中学生の少女が、ふらふらと歩いているのが見えた。
ん?
コイツは……。
⬛︎
痛い、痛い、痛い。胸の奥が、焼けつくように熱くて苦しい。
なんでみんな、普通に生きられるの?
「普通に可愛く生きなさい」って、お父さんもお母さんも言う。
だから私は、お面を被るみたいに「普通の女の子」のフリをして毎日を過ごしている。
でも、本当の私は、全然普通じゃないです。
雀を見たとき、あんなに愛おしいと思った。
あの赤い、きれいで、あったかい液体を……もっともっと私の中に閉じ込めたかった。
好き。大好き。大好きな人の血を吸いたい。その人そのものになりたい。
その衝動が、もう我慢の限界だった。
頭の芯が沸沸と熱くて、喉がカラカラに乾いて、まともな思考ができない。
誰でもいい、誰でもいいから、私に血を吸わせてくれる優しい人はいないかな、なんて。
気づけば、足は引き寄せられるように薄暗い路地裏へと向かっていた。
ふらふらと、まるでお酒に酔ったみたいに壁に手を突きながら進む。
「おいきみ、大丈夫か──ヒッ?!」
近寄ってきた男の人はわたしの顔を見たら逃げちゃったのです。
その時、路地の奥からまた一人の男の人が歩いてくるのが見えた。
短い黒髪をさらりとまとめた、清潔感のある男の人。
(あ……)
その瞬間、頭の奥の痛みが、一瞬だけピタリと止まった。
冷たそうなのにどこか優しげな黒い瞳、整った顔立ち、私の琴線に、狂おしいほどにパチンと激しく触れたから。
一目惚れに近い、衝動的な気持ちが湧く。
この人だ。この人の血が欲しい。この人を、この人も! 私の中に混ぜちゃいたい──!
「あの……お兄さん、お願い、お願いです……。私に、あなたの血を、吸わせて、ください……っ!」
「え? ……おっと」
衝動に突き動かされた渡我被身子は、狂気を孕んだ瞳で叫びながら、暗堂の前へ詰め寄った。
いきなりの異常な展開に、暗堂の思考は一瞬だけ真っ白になった。
中学生の少女が、どろりと顔を紅潮させ、過呼吸気味に「血を吸わせろ」と迫ってくるシチュエーション。
常識的に考えれば警察を呼ぶ場面だ。
しかし、この反応は〝何も知らないと仮定した〟人格の暗堂のモノであり……
(切り替え完了)
指先で2度こめかみを叩いた彼は直ぐに自己暗示を外し、まじまじと彼女の様子を見た。
「えへへ、えへへぇ……」
前世の記憶と観察眼が、彼女の顔立ち──特徴的な八重歯と、紅潮した表情と、髪色──をとらえた瞬間、彼の脳内に電流が走る。
(……トガヒミコ、か)
後にヴィラン連合の主力となり、日本を混沌に陥れるはずの猟奇殺人鬼の原石。
しかし今はただの女子中学生に過ぎない。
恐らく、彼女が今、周囲の「普通」の環境に耐えかねて精神的に限界を迎えている時期であることを察した。
思わず空を仰ぐように上を向く。
暗堂の口元が、他人からは見えない角度で、じわりと邪悪に歪む。
(最高だ。いつかはと思っていた獲物が、向こうから飛び込んでくるなんてな)
暗堂は即座に「優しい年上の男」の仮面を貼り付けた。
歩み寄ってきた彼女の華奢な肩を、優しく、しかし拒絶せずに受け止める。その瞬間、暗堂は彼女の瞳を真正面から見つめ返した。
「苦しそうだな、いいよ。俺の血を飲むか?」
彼の瞳の奥が一瞬妖しく蠢く。
穏やかで、心地よく脳に染み渡るような低音の声……それが彼女の耳に届くと同時に、暗堂は『暗示』を発動した。
「ぁ……う、え?」
「『血が欲しいんだよね?』」
「『あげる』」
「『血をくれるのは良い人だろう』」
「『良い人の言うことはちゃんと聞こう』」
「は……ぃ……」
気味悪がられずに、血を飲んでも良いと言われた。初めてのことだ。
彼女にとっては狂喜するほど嬉しいことのはずなのに……何故か言葉が出ない。
声を発せられる度に脳が震える。
自分の中でナニカがゆっくりと歪んでいくのに、それを見ていることしか出来ない。
目の前のひとから、眼が離せない。
暗堂は、渡我被身子の狂気混じりの目の色がとろん……と惚けたのを確認した。
(はい、
瞳の奥から視線が合ったその一瞬で、渡我の精神の深層に、暗示の魔の手が滑り込んでいく。
あらゆる命令を刷り込む準備が出来た。
「さ、ここに座ろうか。『おいで』」
暗堂は近くにあった古びたベンチへと彼女を誘導した。
自分が先に腰掛け、彼女を自分の膝の間にすっぽりと収まるように座らせる。
背後から包み込むような形だ。
一瞬、渡我は野生動物のような鋭さで身体を硬くし、彼を訝しむような目を向けた。
どれほど精神が緩くでも、本能的な警戒心までは死んでいない。
(へぇ、身持ちは固いのか)
(ま、意味ないけど)
だが、暗堂は焦らない。彼は指を立てると、見せつけるように自らの左手首を切り裂くフリをした。
じわり、と溢れ出る赤い血──あるはずの無いものが彼女の目にだけ浮かび上がる。
「ほら、『こんなに血が沢山……欲しいだろう』」
目の前に差し出された、大好きな男の、本物の血。
その強烈な視覚刺激と、先ほど脳に流し込まれた「この人は良い人だ」という初期暗示が混ざり合い、警戒心は完全に溶けて崩壊した。
「あ、あ、ああ……っ!」
渡我は歓喜の声を上げ、暗堂の手首にしがみつくと、貪るようにそこに口を押し当てた。
──実際には、彼女は暗堂の手首を必死に舐めとっているだけだった。
暗堂はすでに『暗示』の出力を強めていた。彼女の認識を誤認させ、実際には傷すらないのに、渡我には心底欲していた血が流れているようにしか見えていない。
望んだものを望んだとおりに感じさせる強烈な錯覚。
「んむ、あはっ……! すき、好き好き、美味しいです……もっと、もっとチウチウさせてください……!」
「うん、そのまま『血を吸うことに集中して』『他のことは何にも考えなくていい』『ただ俺の質問にだけは答えてね』」
偽りの吸血の快楽に身を震わせ、完全に懐に入ったのを見計らい……暗堂は彼女の細い肩を優しく撫でながら、耳元で囁くように彼女の情報を抜き取り始めた。
「『名前は?』」
「『どこに住んでいるの?』」
「『通っている学校は?』」
ひとつひとつ、質問を重ねながらも自由な右手で彼女の体を弄っていく暗堂。
……しゅるっ
「んっ」
器用に服をはだけさせ、柔らかな生肌を指で堪能しても渡我はくすぐったそうに身動ぎしただけで彼の左手に没頭していた。
そう、『ほかのことは考えられない』くらいに。
チウチウと、吸う度に頭の中が蕩けていくのも分からずに。
「いい子だ」
真っ白なうなじに顔を埋めてみればほんのりと甘い少女の香りがして──暗堂の中でぐつぐつと欲求が煮え滾る。
(欲しい)
この猟奇殺人鬼予備軍を、自分用の都合のいい雌として塗り替えて使い潰したいという真っ黒な欲望が。
個性によって人格が狂わされるパターンは幾つかある。この渡我被身子もそうであるし……暗堂啓示もまた、業の深い方向に人格がねじ曲がっていた。
それは『支配欲』。
個性を鍛え、第二次性徴を迎え、自我を取り戻した結果──燃え上がるような性欲と混じり合い、見初めた相手をとことん自分のモノに堕としたくなる。
世界を手中に収めたいなんて大胆なものではなく……もっと身近な、そしてより悪質な方向へ。
暗堂は遊ぶのを辞めた。
「──ん、ふっ……!?」
腹部を撫で上げるようにしてから、下へ。指先が下着の端にかかり、軽くずらす。
布地の感触が太ももを滑り落ちる感触に、渡我の息が詰まった。
「どうした? 『なにか気になる?』」
「い、え……ぁの、下着……」
躊躇いがちに答え、渡我は拒絶するように脚を閉じようと『足の力を抜いて』……迎えるように開いた。
「『そうそれでいい』……へぇ、血を吸うだけでこんなに」
秘部はすでに熱を帯び、湿っていた。
暗堂の指が柔らかな裂け目に沿って、ゆっくりと這う。
外側を撫でるだけの優しい動き。中指の腹で、敏感な部分を円を描くように擦る。
……にゅるるるっ♡♡
彼女の体が小さく跳ねた。
「はひっ……?!」
ゾクリと、胎の奥から滲み出すような快感が広がり、未知の感覚に渡我は戸惑う。
正気も狂気も剥がされた様子に笑みを浮かべ、暗堂は彼女の耳元へ囁く。
ぬちぬち……っ♡
「『気持ちいい?』」
「ぁ──気持ちイイ……で、すっ」
「それは良かった。『血を吸う以外にも気持ちいいことはある』から、これから『沢山お勉強していこう』ね? 『普通になる』為の大事なことだ」
「ふつう、に『成りたいだろう』なりたいです……」
「そうだろう。『その為ならどんな事でも受け入れる』ね?」
「っ……『早く答えて』……は、い」
「なら今の『気持ちいい感覚』を忘れないように」
(なんですか……? わたし、どうなって)
いつの間にか、渡我は暗堂の左手を離していた。弄ぶように弱い暗示を重ねられ、緩やかに思考と行動が切り離される。
恥ずかしいところに触られても気に留めない。異常な自分が作られていくのをうっすらと渡我は自覚していた。
下着の中に手を入れられて、オンナノコの聖域を無断で荒らされる。
変だ、おかしいと思っているのに行動に繋がらない。
衝動的に拒絶しようとした手は暗堂の両手を掴むも、力が入らずに添えているだけになってしまう。
『普通』じゃないコトをされてるのに、『気持ちイイ』を反芻される度に頭の中がふわふわとして溶けていく。
視線だけが、服越しに愛撫する彼の手に釘付けになっていた。
そして、指が少しだけ沈む。
湿った粘膜を、丁寧に、ゆっくりと愛撫する。
入り口を優しく押し開き……指の腹で内側の柔らかい壁を撫でるような動き。
にゅるりと滑り込み、膣壁のざらついた部分をなでなでと舐って来る。
ビクンと渡我の腰が浮いた。
ぞり♡ぞり♡♡
「はひゅ……っ、ぁ♡ だめです、まっへ……」
「『駄目じゃない』よ、こういう時は『気持ちいい』といいなさい」
ぞりぞりぞり……っ♡♡♡
「ぁ──『気持ちイイ』です……っ♡まっ、てこれっ……
ゾクゾクと広がる快感を逃そうと藻掻けば、後ろから力強く抱き締められて逃げられなくなる。
そのうえで耳元へ声を流し込まれ、暗示を重ねられ、快感の逃げ場をとことん塞がれてしまえば。
性的体験の浅い思春期の雌にとって……堪らない快楽が溢れ出してくる。
「───ぁっ!!」
渡我の身体が大きく震えた。
下腹部が激しく痙攣する。膣肉が暗堂の指を締め付け、熱い蜜がどろりと零れ落ちた。
ぱちぱちと、頭の中で弾けるナニカに渡我は困惑しながらも溶ける。
(なんですか……これ……しらない、知らないです……こんな)
──キモチイイこと。
脚がぴんと伸び、つま先が丸まり、太ももが小刻みに震える。背中が弓なりに反り、暗堂の胸に強く押し付けられる。
初めての、それも異性から念入りに注ぎ込まれた快感による絶頂は底が見えないほど深かった。
それこそ、血を吸う悦びを塗り潰しかけるくらいには。
「ひぁ……ん……っ」
「気持ちよかった? 良かったねえ渡我ちゃん。『普通の女の子はこうやって気持ちよく』なるんだよ?」
──覚えておこうね。
余韻に震える渡我へ嗤いながら暗堂が教え込むように指を動かす。
指先で、渡我のキツくも柔らかい雌肉を堪能しながら……『この先』を想像して舌なめずりするも、周囲を見る。
(ここじゃあダメだな)
まあ、致すには場所が悪い。
路地裏とはいえ完全に人気が無いわけではない。例え今、有象無象のヒーローが来ても『問題なく対処出来る』と暗堂は自分の個性に『信頼を置いている』が、『過信はしていない』。
(私が来た! で詰む可能性があるのが怖えよ)
何時どこでオールマイトが現れるのか分からない以上、
(そのためには……)
「なあ渡我ちゃん、この指をよく見て───」
意識が朦朧としている渡我へ、暗堂は幾つかの暗示を重ね掛けして解放した。
とはいえ暫くは動けない様子だったため、この場を去ったのは彼の方が先だったが。
「またね」
暗堂は静かに立ち上がった。足音も立てずに渡我を残して歩み去っていく。
彼女はベンチに座ったまま力なく沈んでいた。
⬛︎
頭の中がぼんやりと霞んでいる。
(あ……れ、?)
渡我はいつの間にか自宅の玄関の前に立っていた。
いつもの道を歩いて帰ってきたことだけは確かだった。しかし実感がない。
内心では「おかしい」という感覚が小さく芽生えていた。
自分の意志で帰ってきたはずなのに、記憶の端がすっぽりと欠けているような、奇妙な違和感。
ただ、頭の中には路地裏での卑猥な体験がくっきりと残されている。
(私、どうすればいいんでしょうか)
簡単に身体を許したり、恋人のように抱き締められたりとあの自分はおかしかった。
確かに見た目は好みで血が欲しかったのは事実だけど、あんなことになるなんて想像していなかった。
思い返すほどに背筋が冷たくなってゆく。
(警察に──『行くのは恥ずかしい』です)
親に相談するのも『恥ずかしい』。
急に湧いてきた羞恥心で渡我は踏みとどまった。そもそも『信じてもらえるはずがない』し、『悪いのは自分』だ。
それに蕩けていた感覚が、まだ胎の奥に残っている。下腹部の微かな疼き、余韻の甘さ、そして幾度も囁かれた低い声。
明らかに性犯罪の被害にあったという認識はある。しかし最初に迫ったのは自分であるし……でも、でも……
意識の底でぐるぐると思考が回り続けていた。気づいた時には、玄関に手を掛けていた。
「あら、おかえり」
「遅かったな、心配したぞ」
母親の声が、意外なほど穏やかだった。
父親もソファから顔を上げ穏やかな笑みを浮かべている。
普段なら渡我が帰宅しても目も合わせず、あるいは遠回しに距離を置かれることが多かった。
自分のことを「気味が悪い」と、陰で囁かれているのを彼女は知っていた。
なのに今は二人とも温かい視線を向けてくる。
今日の朝とはまるで別人。
その変化が、かえって彼女を戸惑わせた。
「ただいま、です」
掠れた声で返事をすると、母親が近づいてきて渡我の肩に軽く手を置いた。
その感触が妙に優しかった。
「疲れたでしょう。ご飯、温めてあるから」
父親も頷きながら立ち上がる。
普段の冷たい空気が嘘のように消えていた。
(なんですか、これ……?)
なぜ、こんなに優しいのか。
自分は家族から疎まれていたはずなのに。
ぼんやりした頭が、さらに混乱していく。
そのとき……母親がふと、奥の部屋を指差した。
「ああ、そういえば。久しぶりに帰ってきたのよ。あなたの兄が」
「え……?」
───兄?
理解し難い言葉だった。
彼女には、兄などいない。
一人っ子として育ってきたはずなのに。
内心で「そんなはずは」と強く否定しようとするが、声は出なかった。
ただ、胸の奥がざわつきが膨らむ。
奥の部屋から、足音が近づいてくる。
ドアが開いた瞬間──彼女の体が固まった。
そこに見覚えのある男が、まるで本当にこの家の住人であるかのように彼女を見つめている。
「や、おかえり。被身子ちゃん」
男は──暗堂啓示は当たり前のように彼女の前に歩み寄った。
両親は何の疑念もなく、その光景を温かく見守っている。
「え──なん、で」
ぐらりと渡我の視界が揺れる。
それはショックか、意味不明な状況に脳が根をあげたのか。
彼女の周囲で何かが静かに、しかし確実に、ねじれている。
「あなたを『普通にするために』兄が戻ってきてくれたのよ」
「良かったな、被身子。『大好きなお兄さん』が帰ってきてくれて」
朗らかに笑う両親の顔が見えない。
まるで親の皮を被った別の生き物のように、注視しようとすると胃の奥から酸っぱいものが込あげようとしてくる。
それは、恐怖だ。
「なんですか……なんなんですか、いや、嫌ぁ」
幾ら狂人の素質を持とうが、今はただの女子中学生に過ぎない彼女には耐え難い状況だった。
理解を拒み、思考を手放そうとする彼女の肩を暗堂が掴む。
「大丈夫か? 『寒いから』身体が震えてるじゃないか。『お腹も空いた』んだろう。一緒に晩御飯を食べよう」
「ぁ……はい」
「『久しぶりに帰ってきたから』忘れちゃったのかな? 『緊張しなくてもいい』。『昔みたいに』仲良くしような?」
あたまの、なか、まっしろに──
『確かにお腹が空いていた』。
『寒さのせいか』震えていた体も『兄に触れると暖かくなる』。
こくりと渡我は頷いた。
恐怖が削ぎ落とされ、違和感は混濁し、存在しない過去を想い、好意が芽生える。
両親との仲は改善し、仲の良い兄が帰ってきた。
渡我被身子の家庭環境は劇的に改善する……ひとりの手のひらの上で。
「便利だねえ、俺の個性」
暗堂のやったことは単純だった。
──ターゲットの家族ごと洗脳し、悠々と躾ける環境を整えること。
女が欲しいならひとり攫うよりも周囲もまとめてしまえばいい。脳筋の理論だが実行可能ならこれ程有用な手もない。
渡我の家庭への侵食はあっさりと完了した。
これから暗堂はしばらくの間、彼女の兄として一家に寄生していく。
彼女の両親では家の中でのみ暗堂を家族の一員として認識し、外には漏れないように細工済み。
渡我は自由意志を持たせているが、致命的な行動には至らないようにセーフティを掛けている。
また、弱めの暗示も幾つか掛けており、新鮮な反応を引き出す為の「練習台」になってもらう。
あとはじっくり、彼女で愉しんでいくだけだと暗堂は嗤った。
【プロフィールメモ】
名前:
個性:暗示
・自分を認識している相手に暗示を掛けることが出来るぞッ!
認識に関しては声でも匂いでも姿を見るでもなんでもいい。
自分に掛ける事もできる。(事前に解除する手順の構築必須)
成長幅が大きい。