※この作品はR-18です。

『偽善の聖剣、背徳の聖杖』  勇者と聖女、実はどちらも悪党でした   作:みなぽん

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人々が勇者と聖女に求めるのは、正義と慈愛に満ちた聖人の姿。しかしクライスト王国の「太陽の勇者」エステバンは、神から授かった勇気と力を私欲のために振るう野心家であり、討伐した魔物の財宝を着服し、救った民から金をせびる男だった。一方、第三王女にして聖女アンリエッタ・エル・クライストは、膨大な魔力と美貌を持ちながら、教会の魔道書を盗み、賭博に興じる性悪令嬢。互いの本性を知る二人は悪友として手を組み、勇者と聖女の仮面を巧みに使い分ける。
人々の尊敬と祈りを背に、二人の偽善に満ちた冒険が始まる。



悪徳の勇者 背徳の聖女 善人の皮を被った悪党達。

 

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⭐️ 勇者と聖女は善人の皮を被る

 

 人々は、勇者を理想の人間だと信じている。

 剣を振るい、魔物を討ち、弱者を救う者。

 クライスト王国では、千年前に天上神エル・クライスが初代勇者へ「勇気」と聖剣を授けたという建国神話が、その信仰を支えていた。

 勇者には、強靭な肉体と魔物への耐性が与えられる。だが何より大きいのは、神に選ばれた者という肩書きだった。王侯貴族は一歩退き、平民は英雄と呼ぶ。子供は姿絵を買い、老人は無事を祈り、娘たちは結婚を夢見る。

 聖女も同じだ。

傷を癒し、病を鎮め、呪いを払い、都市を結界で守る。膨大な魔力を持つ聖女は、国家の財産であり、国民の希望だった。

だから人々は、聖女に善良さを求めた。優しく、慎ましく、欲を捨て、弱者を愛せ。

神に選ばれた者なのだから。

 

 ――だが、神が与えた力と人格は別物だった。

 

 太陽の勇者エステバン。

 クライスト王国第三王女にして聖女、アンリエッタ・エル・クライスト。

 二人ほど愛され、二人ほどその期待を裏切った者はいない。

 

第一章 勇者と聖女は、善人の皮を被る

 王都クライスの大聖堂前には、大勢の民衆が集まっていた。

 白い大階段を、二人の男女が降りてくる。

 一人は長身の青年、エステバン。黒髪に整った顔立ち、白銀の胸当てと赤いマント。その腰には、勇者だけが扱える聖剣《ソル・レイヴァ》があった。

 隣を歩くのは、淡い金髪の少女だった。白い聖衣に王家の紋章をつけ、聖杖《アウレリア》を手にしている。

 アンリエッタ・エル・クライスト。彼女が微笑むたび、歓声が上がった。

「聖女様!」

「アンリエッタ様!」

 子供が花を差し出し、老人が頭を下げる。アンリエッタは花を受け取り、少年の頭を撫で、病気の母を連れた男に慈愛の笑みを向けた。

「どうか神の御加護がありますように」

 聖杖から淡い光が広がり、母親の顔色がわずかに明るくなる。

 大聖堂から王宮へ戻る馬車に乗った瞬間、その笑顔が消える。

「疲れた」靴を脱ぎ捨て、長椅子に身体を投げ出す。

「聖女というのも大変ね。病人、貧乏人、孤児、老人。毎日、同じようなシケた顔ばかり」

 向かいのエステバンが笑った。

「お前が言うな。俺だって何十人に握手したと思ってる」

「あなたは握手だけでしょう?」

「そのたびに『勇者様、お救いください』だ。うんざりする。自分で努力するって言気持ちがないのか奴らは!」彼は懐から袋を取り出した。中には金貨が詰まっている。

 アンリエッタの目が輝いた。

それは英雄活動の報酬ではない。先週、エステバンが討伐した山賊の財宝と、魔物の巣から回収した古代銀貨だった。本来なら国庫へ納めるべきものだが、エステバンは隠していた。

「王宮から給料も出ているのに」

「勇者はとにかく金がかかるんだよ」

「何に?」

「遊ぶのに」

 二人は顔を見合わせ、笑った。

 一方、アンリエッタの武器は魔法と人心だった。

治癒、浄化、結界、生命魔術。攻撃魔法にも長け、本気になれば一個小隊を一人で制圧できる。

だが彼女が最も得意なのは、人間の弱さを見抜くことだった。

彼女は聖女と言う立場の使い方を知り尽くしていた。騎士達は彼女に頼まれれば、女神からの啓示のように言うことを聞いた。彼女好みの美少年の騎士を選んで密かな関係を結ぶことが、彼女の楽しみでもあった。

また、神に仕える教会さえも、彼女は私欲のために利用した。ある夜、教会の地下書庫から魔道書が消えた。古代魔術書、禁呪研究書、失われた王朝の理論書。アンリエッタが持ち出し、古書商へ売ったのだ。その代金は酒と闇賭博に消えた。

 

⭐️エステバンの悪行  ミリス公爵夫人エレノア。

王都の貴婦人たちの間で、彼女の名は羨望と敬愛の対象だった。栗色の髪に琥珀色の瞳。三十路を過ぎた今なお衰えぬ美貌と、晰い品格。夫であるミリス公爵ライオネルは誠実な男だが、戦場より書斎を好む温厚な人物で、社交界では妻の影に隠れがちだった。

エステバンが彼女を見たのは、王宮の晩餐会だった。

大広間の雑踏の中で、エレノアは静かにワイングラスを口元へ運んでいた。華やかなドレスに飾られた貴婦人たちの中で、彼女だけが別世界のように落ち着いていた。目立とうとしない。ただそこにいるだけで、空気の密度が変わる。

 

エステバンは目を細めた。

 

勇者の魅力は、物理的な法則を無視していた。神に与えられたその力は、剣術や体力だけにとどまらない。傍にいるだけで人は安らぎを覚え、その声には人の心を解きほぐす響きがあった。微笑めば敵意が溶け、言葉を紡げば疑念が霧散する。千年前、初代勇者が魔王を討ち取れたのは、剣の腕だけではない。魔族の将軍でさえ、勇者の言葉に一瞬ためらいを見せたと伝えられている。

人間にその効力は絶大だった。

エレノアに目を止めた時、エステバンの胸に鋭い欲が刺さった。

欲しい。理由はなかった。いや、理由など必要ない。勇者は求めたものを手にしてきた。魔物から領地を、山賊から財宝を、民衆から称賛を。そして女から体を!

翌日、エステバンは公爵邸を訪れた。

「勇者様が我が家を訪れるとは、光栄の極みにございます」

ライオネル・ミリス公爵は小柄な男だった。四十がらみ。柔和な顔つきに、学者のような細い目。政務に長け領民の評判は良いが、武人の風格には欠けていた。戦場での武功は家臣に頼り、自身は書類仕事に明け暮れる日々。それを恥とも思っていない穏やかな男だった。

エステバンは完璧に振る舞った。礼儀正しく、謙虚で、明るい。ライオネルが酒をすすめると、最初は遠慮してみせた。

「公爵邸の名酒と聞き及んでおりましたが、まさかいただけるとは」

「どうぞ、どうぞ。勇者様の武勇譚を伺いたい。何度お聞きしても飽きません」

酒宴が始まった。

エステバンは巧みだった。杯を重ねるペースを相手に合わせ、深酔いするふりを見せながら実は水を混ぜて飲んでいた。間に武勇勇譚を織り交ぜ、ライオネルを愉快がらせ、さらに杯をすすめた。

「公爵殿は酒に強い。いや、見直しました」

「いやいや、若い頃はもっと飲んだものです。近衛隊時代には……」

過去の武勇譚が始まる。エステバンは適切な箇所で笑い、驚嘆し、感嘆の声を漏らした。酒が進む。ライオネルの顔が赤くなり、朦朧とし始めた頃、エステバンは静かに杯を置いた。

「公爵殿、そろそろお休みになっては」

「うむ……そうだな。すまぬ、勇者様。見苦しいところを……」

家来がライオネルを支え、客間へ運んでいく。鼾が聞こえ始めるまで、そう時間はかからなかった。

屋敷は静まり返った。

 

エステバンは廊下を歩いた。勇者の足音は猫のように静かだった。周囲の気配を読む力は戦場でのみ役立つものではない。警備の騎士がいる位置、使用人が寝泊まりする棟、主人の寝所への最短距離。すべてを瞬時に把握した。

 

夫人の寝所は、主寝室の隣にあった。夫婦の寝室が別にあるのは貴族の習いだ。エステバンは扉の前で立ち止まり、ノックをした。

 

 

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「……どなたです」

中から声がした。警戒を含んだ、凛とした声。

「勇者エステバンです。公爵殿が深く酔われ、ご容態が少し気掛かりで。お伝えしようかと思案したのですが……」

沈黙があった。

 

「……お入りください」

扉が開いた。

エレノアは寝間着の上に薄いガウンを羽織っていた。夜の灯りに照らされた彼女は、晩餐会で見た時よりも小さく見えた。夫を気遣う表情には焦りがあり、その焦りが無防備さを引き立てていた。

「ライオネルが……大丈夫でしょうか」

「深く眠っておられます。無害な酔いです、ご安心を。ただ、お一人の夜は寂しいかと思い、お声をかけた次第で」

エレノアの眉がわずかへ動いた。

「お気遣い、痛み入ります。ですが、夜分に男性をお招きするのは――」

「外れてしまいますか」エステバンは微笑んだ。

勇者の微笑みには力があった。物理的な説明のつかない、人を安心させる力。恐怖を遠ざけ、警戒を薄れさせ、心の壁に温かい亀裂を入れる力。聖剣《ソル・レイヴァ》が魔を断つ剣なら、勇者の笑顔は人の心を解く鍵だった。

エレノアの表情がわずかに緩んだ。

「……少し、お茶でも」

 

「ええ。喜んで」会話は自然だった。

エレノアは礼儀をわきまえた女性だった。聡明で、控えで、毒がなかった。エステバンが問えば夫の話をし、領地の話をし、子供の頃の話をした。

一時間が過ぎた。エステバンは杯を置き、エレノアを見つめた。

「夫人」

「はい」

「あなたは美しい」

空気が止まった。

エレノアの顔が強張った。

「……勇者様、お戯れを」

 

「戯れではありません」

 

エステバンの声が低くなった。勇者の声には響きがあった。その響きが人の心に染み込む。拒絶しようとする理性の表面を、温かい波が浸食していく。

 

「私が、あなたを求めている」

 

エレノアは立ち上がった。ガウンが揺れた。

 

「お帰りください」

 

「夫人」

 

「お帰りくださいませ。これは――」

 

「あなたの夫は、あなたを愛していますか」

 

エレノアの足が止まった。エステバンは畳んだ。

 

「領地政務に明け暮れ、夜は書斎で書類を片付ける。あなたの寝所を訪れるのは月に何度ある。夫人、あなたは寂しくないのですか」

「……それは」

 

「あなたの夫のことを悪く言う気はありません。だが、夫人。あなたはまだ若く、美しい。その美しさを、誰も讃えていないのではありませんか」エレノアの手が震えていた。

「おやめください」

「肌に触れてもいいですか」

「いけません」

「では、拒んでください。私の目を見て」エレノアはエステバンの目を見た。

それだった。

勇者の瞳には光があった。神に選ばれた者だけが持つ、人を惹きつけてやまない光。見つめられるだけで思考が白濁し、胸の奥が熱くなり、抵御する力が薄れていく。

「い……けません……」声が弱くなっていた。

エステバンが手を伸ばし、エレノアの頬に触れた。

 

指先が温かかった。それが勇者の力なのか、男の体温なのか、エレノアにはもう判別できなかった。ただ、触れられた場所から痺れが広がり、膝から力が抜けていくのを感じていた。

「……夫が、眠っております」

「ええ。あなたの声は届きません」

「これは罪です」

「神が私を選び、私にこの力を与えた。神が望んだことかもしれません」

「詭弁です」

「ええ。詭弁です。だが、心地よい詭弁でしょう?」

エステバンがエレノアの腰に手を回した。抵抗はなかった。いや、抵抗しようという意志が、勇者の魅力に溶かされていた。

 

唇が重なった。

最初は軽く。二度目は深く。三度目には、エレノアの唇が開いていた。

「ん……」

漏れた声は、拒絶ではなかった。

寝台に横たえられた時、エレノアの目は潤んでいた。

エステバンは寝間着の紐に手をかけた。

「やめて」

「あなたの目は、やめてと言っていません」

「私が、言っています」

「声と目が違う。どちらを信じればいいのでしょう」

「……口で、言っています」

「では、もう一度言ってください。私の目を見て、もう一度」

エレノアはエステバンの目を見た。言おうとした。やめて、と。だが唇が動かなかった。勇者の瞳の中で、言葉が溶けた。

寝間着が滑り落ちた。

白い肌が露わになった。 三十路を過ぎた身体は、若い娘の張りはないが、代わりに成熟した女の豊かさがあった。胸の曲線、腰の窪み、腹部の柔らかさ。エステバンはそれを一本ずつ確かめるように撫でた。

「あ……」エレノアが身を縮めた。

「夫人。あなたの夫は、この身体を知っているのですか」

「……なぜ、そのようなことを」

「知らないでしょう。こんなに美しいのに、誰にも見せていない」

エステバンの指が胸を捉えた。エレノアの背が反った。

「いや……」

 

「嘘をついてはいけません。感じているのでしょう」

 

「感じていません」頬を涙が伝っていた。

 

エステバンの指が下へ滑った。

 

エレノアの身体が跳ねた。

 

「いやぁ……!」

 

声は悲鳴に近かったが、拒絶ではなかった。恐怖と快楽の狭間で、身体が判別を失っていた。勇者の魅力は人の心を解く。心が解ければ、身体の防壁も崩れる。理性が許しても本能が逆らう。本能が許しても理性が止める。その二つの境界が、勇者の力で曖昧になっていた。

 

エステバンは顔を寄せた。

 

唇が胸を含んだ。

 

「んんっ……あ……!」

 

エレノアの手がシーツを掴んだ。指の関節が白くなる。夫はこういうことをしなかった。結婚十二年、寝室での営みは形式的で、短く、暗闇の中で行われてきた。夫は彼女の身体を見ようともしなかった。肌に触れることはあっても、愛でることはなかった。自分の身体が、誰かの熱意で蕧かされる感覚。

 

「……あ、あ、だめ、だめ……」

「だめではないでしょう。夫人、素直になりなさい」

 

エステバンの声が耳元で囁かれた。勇者の声は、低く、深く、人の奥底に届く。その声が骨に染み込み、背骨を震わせた。

 

「いけない、いけない、いけない……」

 

繰り返しながら、彼女の脚が開いていた。

エステバンは容赦がなかった。

 

勇者の体力は人外だった。魔物の群れを一日戦い抜いても疲労を感じない身体。その身体が夜の営みに転用された時、相手になる女は例外なく陥落した。

最初はゆっくりだった。エレノアの反応を確かめながら、どこが弱いのかを探る。勇者の洞察力は戦場で敵の隙を見抜くだけのものではない。人間の身体の反応もまた、同じように読み解けた。

 

「ここ、好きですか」

 

「……っ」

 

「答えてください」

 

「……答えられません」

 

「では、身体に聞きましょう」

 

エレノアの腰が跳ねた。声にならない声が漏れた。シーツが湿っていた。

 

エステバンは彼女の全てを暴いた。夫が触れたことのない場所を触り、夫が知らない声を聞き、夫が見たことのない表情を引き出した。

 

「夫人。あなたは本当は、こうされたかったのではありませんか」

 

「……ちが……」

 

「違わない。あなたの身体が言っています」

 

「身体は、嘘です……!」

 

「嘘をついているのは、あなたの理性です」

 

「……あ、あ、あぁっ……!」

 

エレノアの目から涙が溢れた。夫への想いが最後の防壁だった。夫を裏切っている、という罪悪感。夫が隣室で眠っている、という事実。それが彼女を繋ぎ止めていた。

 

だが、その繋にも亀裂が入っていた。

 

十二年の婚姻。夫は優しかった。だが、夫は彼女を欲しなかった。義理としての愛情はあった。情としての優しさもあった。しかし、男として女を渇望するあの熱が、夫にはなかった。

 

エステバンにはあった。

 

彼はエレノアを欲していた。その欲の濃さが、声に、指に、息遣いに満ちていた。それが彼女の乾いた場所に染み込んだ。

 

「……どうして」

 

エレノアが呟いた。声は掠れていた。

 

「どうして、あなたのような人が、私を……」

 

「あなたが美しいからです。ただ、それだけです」

 

「嘘つき……勇者の、くせに……」

 

エステバンが笑った。白い歯が見えた。

 

「勇者だって男です。それに、勇者だからこそできることもある」

 

身体を重ねた。

 

エレノアの目が見開かれた。

 

「あっ……!」

 

衝撃だった。身体の奥に熱いものが入ってくる。夫とは質が違った。夫は彼女の中に来ることはなく、形式的な営みは布越しに行われていた。これが、初めてだった。

 

皮膚と皮膚が触れ合う感覚。体温が直に伝わる熱。相手の形が自分の中に刻まれる圧迫感。

 

「……いや、いや、いや……」

 

エレノアは泣きながら首を振った。だが脚は閉じなかった。

 

エステバンは動いた。

 

最初はゆっくりと。彼は女を知っていた。戦場で命を救った貴婦人が夜に彼を訪ね、宿場町の女将が客としてではなく男として彼を抱き、王宮の侍女が廊下で目を合わせた。勇者としての力は女の心を解く。解けた心は身体に直結する。

 

その経験が、今、全て使われていた。

 

「……ん、あ、あ……だめ、そこ、だめ……!」

 

「ここが、いいのでしょう」

 

「ちが……ちがう……!」

 

「では、ここは?」

 

「あぁっ……!」

 

エレノアの腰が跳ねた。それが答えだった。言葉が否定しても、身体が肯定する。その矛盾が彼女をさらに追い詰めた。

 

「夫人、素直になりなさい。声を出してください。夫が聞こえない距離です。あなたの声は、私にだけ届く」

 

勇者の声が耳元で響いた。その声が背骨を震わせ、身体の奥を震わせた。

 

「……いい、いい……声が、出せない……」

 

「出してください。あなたの声が聞きたい」

 

「聞いて、どうする……」

 

「興奮します」

 

「……最低」

 

「ええ。最低です。勇者が最低で何が悪い」

 

エレノアが笑った。涙の残滓があるまま、笑った。その笑みが崩れた瞬間、最後の防壁が崩れた。

 

「……あ、あ、あぁ、あぁぁっ……!」

 

声が溢れた。

 

エレノアの脚がエステバンの背中に回った。腕が首に巻きついた。自ら、彼を引き寄せた。夫を裏切る行為を、自ら選んだ。

 

罪の自覚と快楽の奔流が同時に押し寄せた。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

呟きながら、彼女はエステバンを求めた。

 

「ごめんなさい、ライオネル……ごめんなさい……」

 

謝りながら、彼女の身体は悦びを叫んでいた

「あぁっ、あぁ、あ、あぁぁぁっ……!」

 

声が限界を超えた。隣室に届きかねない 喘ぎだった。シーツを掴む手が離れた。代わりにエステバンの背中を掻いた。爪が赤い痕を残した。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

謝りながら、彼女はエステバンを求めた。

謝る相手は夫だった。だが、求める相手は勇者だった。

その矛盾が、彼女を壊していた。

 

「あぁぁっ……!」

 

エレノアの背中が大きく反り上がった。限界だった。十二年間の枯渇した砂地に、激烈な奔流が叩きつけられる。勇者の腰の動きは、魔物の群れを薙ぎ払う剣技と同じく、容赦がなく、そして圧倒的に的確だった。

 

「いや、いやぁっ、あ、あぁぁぁっ……!」

 

最後の防壁が崩壊した瞬間、エレノアは絶頂した。全身が痙攣し、シーツを引き裂くほどの力で掻きむしり、彼女自身も信じられないほどの嬌声を夜の寝室に響かせた。それと同時に、エステバンが最奥へと深く潛り込み、躊躇なく熱い粘液を噴き出した。

 

直接注がれる熱。子宮を満たしていく圧迫感に、エレノアは目を見開いたまま硬直した。

 

「……あ……あ……」

 

身体の中で勇者の精が脈打つ。夫の性ですら知らなかった胎内への注湯は、彼女の身体を芯から痺れさせた。

 

エステバンは、息を整える間もなくエレノアの身体から離れた。荒い息を吐く彼女の前に立ち、自身のまだ衰えぬ雄々さを露わにしたままで見下ろす。

 

「夫人、休んでいる暇はありませんよ」

 

「え……?」

 

呆然と天井を見上げていたエレノアは、エステバンの手が彼女の腕を掴み、無理やり上半身を起こしたことで我に返った。

 

「勇者様、もう、許して……」

 

「許す? 俺はあなたを許していませんよ。まだ足りない」

 

エステバンはエレノアの頭を乱暴に掴み、自身の熱く濡れた屹立を彼女の唇へと押し当てた。

 

「舐めなさい」

 

「っ……!? そんな、汚い……自分の……!」

 

「汚くなどない。あなたの愛液で輝いているでしょう。綺麗にしてくれと言っているのです」

 

エレノアは顔を背けたが、エステバンの手は容赦なく彼女の顎を固定し、再び勇者の瞳を覗き込ませた。その瞳に宿る圧倒的な光。拒絶しようとした理性は再び温かい波に浸食され、彼女の唇は否応なく開いた。

 

「んっ……ふっ……」

 

口内に異物が侵入してくる。自分の秘蜜の味と、勇者の雄の匂いが鼻腔を満たした。エレノアは涙を流しながらも、舌を這わせ始めた。勇者の命令は絶対だ。心のどこかでそう刷り込まれていた。

 

彼女が奉仕する様を、エステバンは満足げに見下ろした。聖母のような貞淑な貴婦人が、勇者の男根を口に含み、涙ながらに奉仕する光景。それが彼の征服欲をさらに煽った。

 

「いい夫人だ。上手ですね。夫にはさせていないのでしょう?」

 

「んっ……ふぅっ……」

 

言葉の代わりに喉の奥で鳴らす音が答えだった。エステバンの指がエレノアの栗色の髪を梳き、彼女の口内奥深くへと腰を進める。エレノアはえずきながらも、その全てを受け入れ、舐め清めた。

 

屹立が完全に回復し、再び鉄の硬さを取り戻した時、エステバンはエレノアの口からそれを引き抜いた。

 

「んぁっ……ごほっ、ごほっ……」

 

咳き込む彼女を、エステバンは無造作に寝台に突き倒した。仰向けのまま息をつく彼女の腰を強引に掴み、四つん這いの姿勢にさせた。豊かな尻が月明かりに晒される。

 

「次は、後ろです。夫に見せたことのない背中で、俺を受け入れてください」

 

「いや、もう、限界……壊れてしまいます……!」

 

「壊してあげます。あなたの貞淑という仮面を」

 

エステバンはエレノアの腰を引き寄せ、濡れそぼった秘裂に屹立を押し当てた。前戯など不要だった。すでに彼女の身体は勇者を欲して震えている。

 

ズッ……!

 

「あぁぁぁっ!!」

 

後背位で深く貫かれた瞬間、エレノアの悲鳴が上がった。前の時とは違う角度。より深く、より残酷に子宮を突き上げる角度だった。勇者の腰使いは、ただの快楽を越えた暴力に近かった。鬼のような猛烈なピストン。肉と肉がぶつかる音が寝室に響き渡る。

 

「あっ、あっ、あぁっ、あぁぁっ! いや、いや、いい、そこ、だめぇっ!!」

 

エレノアの言葉は完全に混乱していた。首を振りながらも、自ら腰を動かし、エステバンの硬度を奥へと求めていた。夫のライオネルが隣室で寝ているという事実は、今や背徳のスパイスにしかなっていなかった。

 

「夫人、子宮を開いてください。俺を受け入れろ」

 

「ひっ、あぁっ、あ、ああああっ!!」

 

激しいピストンが最高潮に達した時、エステバンは再び彼女の最奥へと熱い迸りを放った。ドクッドクッと脈打つ精が、抵抗することなくエレノアの胎内へと注ぎ込まれる。

 

「あぁ……あ……」

 

エレノアの身体がガクガクと震え、白目を剥いて絶頂した。エステバンは、その瞬間、自身の精が確実に彼女の卵子へと到達したことを確信した。勇者の生命力に満ちた精だ。受孕しないはずがない。

 

エステバンはエレノアの中からゆっくりと抜き取り、乱れた寝間着を直す彼女を冷ややかに見下ろした。

 

「……忘れないで、夫人」

 

「え……?」

 

荒い息を整えながら、シーツに顔を埋めていたエレノアが力なく顔を上げた。エステバンは服を着けながら、静かに、しかし冷酷に告げた。

 

「もし、あなたのお腹に俺の種が宿ったとしても、今晩のことは絶対に秘密にすること。そして、その子は……ミリス公爵の子供として立派に育てなさい」

 

エレノアの顔が蒼白になった。

 

「勇者様……それ、は……」

 

「神に選ばれた勇者の血を引く子です。公爵家の跡取りとして、これ以上の祝福はないでしょう? あなたが口を閉ざしている限り、誰も疑わない」

 

「……」

 

エレノアは言葉を失い、ただ涙を流した。自らの身体の中で勇の精が生きている感覚。そして、夫を裏切り、その事実を一生隠し通さなければならない絶望。それらが混ざり合い、彼女の心を完全に凍りつかせた。

 

「おやすみなさい、エレノア夫人。神の御加護を」

エステバンは皮肉な祈りの言葉を残し、静かに寝室を出た。勇者の足音は、誰にも気づかれることなく夜の闇へと消えていった。

 

 

 

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⭐️アリエッタの悪行  聖女は純潔を食らう

 

王都クライスの大聖堂には、地下修練場があった。

 

石造りの冷たい空間に、朝から夜まで剣と祈りを捧げる若き聖導騎士たちの姿がある。その中でもミハイル・アルヴァースは際立っていた。

 

十七歳。銀色の短髪に、まだ少年の線の残る顔立ち。だがその目は大人のそれよりも真摯だった。孤児として教会に拾われ、聖導騎士の道を歩んできた。信仰は彼の骨格そのものだった。神の教えに背くことは死ぬことよりも恐ろしい。そう信じて育った。

 

アンリエッタは以前から彼を知っていた。

 

大聖堂の礼拝で、ミハイルは常に最前列にいた。聖女が祭壇に立つたび、彼の目は敬虔な光を宿した。それは崇拝だった。純粋で、穢れのない、子どものような崇拝。

 

アンリエッタは、その目が好きだった。

 

「ミハイル」

 

修練場を訪れたアンリエッタは、汗を拭く少年に声をかけた。聖衣の裾を軽く持ち上げ、石段を降りる。その動作一つにも、計算された優雅さがあった。

 

「聖女様」

 

ミハイルは即座に跪いた。騎士の礼儀として完璧な動作だった。

 

「起立して。楽にして」

 

「はい」

 

ミハイルは立ち上がったが、視線を聖女の顔に直接向けることを憚った。聖女は高貴な方だ。直視するなど不敬に当たる。そう教えられていた。

 

アンリエッタは微笑んだ。

 

「修行、頑張っているわね。教官から話を聞いているわよ。剣術も信仰も、同期の誰よりも優秀だと」

 

「もったいないお言葉です。神の御恵みに過ぎます」

 

「謙「謙遜しなくていいの。あなたは真面目すぎるくらいよ」

 

アンリエッタはミハイルの頬に汗が伝っているのを見た。指を伸ばし、それを拭った。

 

「っ……!」

 

ミハイルの身体が硬直した。聖女の指が自分の肌に触れたことへの衝撃だった。

 

「汗を拭きなさい。風邪を引くわよ」

 

ハンカチを差し出すアンリエッタの笑顔は、慈母そのものだった。ミハイルは震える手でそれを受け取った。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「礼には及ばないわ。あなたは教会の宝だから」

 

その日から、アンリエッタは度々修練場を訪れるようになった。

 

特別な理由をつける。新しい訓練法の視察。騎士たちの慰問。たまに手作りの菓子を持ってきては、修練の合間に休息を取らせた。

 

ミハイルは次第に、聖女との時間を心待ちにするようになった。それは信仰心の延長だった。聖女は神に最も近い者だ。彼女に目をかけられることは、神に愛されていることと同じだった。

 

「ミハイル、あなたはいつも一人で食事を取っているの?」

 

「はい。他の者と一緒だと落ち着かなくて」

 

「まあ。じゃあ今度、私のお茶に付き合ってちょうだい」

 

「え……よろしいのですか?」

 

「何が?」

 

「聖女様のお茶に、私のような者が同席するなど……」

 

「私がいいと言っているのよ。それに、あなたと話してみたいの。神への信仰について」

 

ミハイルの目が輝いた。聖女と信仰について語り合える。これ以上の喜びがあるだろうか。

 

 

数日後、アンリエッタはミハイルを王宮内の自室に招いた。

 

「書庫の整理を手伝ってほしいの。古い文書が多くて、一人では手が回らなくて」

 

書庫の整理。立派な公的な理由だった。聖導騎士が聖女の命に従うのは当然のことだ。誰も疑わない。

 

ミハイルは恭しく部屋に足を踏み入れた。

 

アンリエッタの私室は、王宮の西翼にあった。広い。天井が高い。窓から差す夕陽が、白い壁を橙色に染めていた。家具は上品だが、香料の匂いが微かに漂う。聖女の部屋だ。神聖であるべき場所だ。

 

「ここが、聖女様のお部屋……」

 

ミハイルは緊張していた。呼吸が浅い。聖女の私空間に足を踏み入れたこと自体が、彼にとって人生最大の冒険だった。

 

「硬くならないで。ただの部屋よ」

 

アンリエッタは窓際の長椅子に腰を下ろした。書庫の整理という口実だったが、彼女は着替えていた。

 

礼拝用の聖衣ではない。淡い藍色の部屋着。肌触りの良い絹で、肩が露わになる程度にゆったりとしている。ただの部屋着だ。だが、アンリエッタが着ると、それが制服に見えた。聖女という制服だ。

 

「あちらの棚からお願い。古い写本が年代順に並んでいないの」

 

「は、はい」

 

ミハイルは書架に向かった。背中から聖女の視線を感じる。いや、気のせいだ。聖女が自分を見ているはずがない。

 

だがアンリエッタは、確かに見ていた。

 

ミハイルの背中。修行で鍛えられた薄い筋肉。聖導騎士の白い上衣が汗で微かに張り付いている。若い。清廉。穢れを知らない。そんなものを壊すのが、彼女の悦びだった。

 

「ミハイル、そこの一番上の段、取れる?」

 

「はい」

 

ミハイルは背伸びをして最上段の写本に手を伸ばした。上衣が捲り上がり、下腹部が見えた。

 

「高いわね。脚立を使って」

 

アンリエッタは脚立を持ってくるふりをして、ミハイルのすぐ後ろに立った。

 

「私が支えるわ。登って」

 

「え、聖女様にそんなことをさせるわけには……」

 

「いいから。早く」

 

ミハイルは仕方なく脚立に登った。アンリエッタが下部を支える。近い。彼女の香りが鼻をくすぐった。花と、香木と、女の体温の混ざった匂い。

 

ミハイルは顔が熱くなるのを感じた。写本を取って降りようとした時、脚立が揺れた。

 

「わっ……!」

 

「きゃっ!」

 

バランスを崩したミハイルが落ちかけた瞬間、アンリエッタが彼を支えた。彼女の腕がミハイルの腰を抱き、二人の身体が密着した。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい……すみません」

 

ミハイルは慌てて離れようとした。だがアンリエッタの腕はすぐには放さなかった。

 

「怪我はない? 足首、見せて」

 

「大丈夫です。本当に」

 

「いいから」

 

アンリエッタは長椅子に座り、ミハイルを座らせた。彼の足首を手に取り、確認するふりをした。

 

「少し腫れているわ。治癒魔法をかけるから動かないで」

 

聖杖を取り、淡い光を放つ。その間、アンリエッタはわざと近くに座っていた。膝が触れる距離。部屋着の胸元が、ミハイルの視線の高さにあった。

 

彼は目をどこにやっていいかわからなかった。下を向くとアンリエッタの太ももが見える。横を向くと窓の外。だが聖女の顔を見ないのは失礼だ。上を向くと胸元が——。

 

「どうしたの? 落ち着かないわね」

 

「い、いえ……」

 

「顔が赤いわよ。熱でもある?」

 

アンリエッタは手を伸ばし、ミハイルの額に手を当てた。治癒魔法の手だと。だがその指は額から頬へ、頬から首筋へと滑った。

 

「汗をかいている。暑い?」

 

「聖女様……」

 

「何?」

 

「手が……」

 

「手? あら、ごめんなさい。つい」

 

アンリエッタは手を引いたが、その笑顔には微かな含みがあった。

 

--

書庫の整理は二時間ほどで終わった。だがアンリエッタは帰そうとしなかった。

 

「お茶を淹れるわ。座っていて」

 

「もう戻らなければ……」

 

「もうすぐ宵の祈りの時間でしょう? ここから大聖堂の方が近いわよ。それに、私が引き留めているのだから、他の者も文句は言わないわ」

 

ミハイルは座った。アンリエッタがお茶を淹れる間、彼女の背中を見ていた。

 

部屋着の背中。布が身体の線に沿って落ちている。腰のくびれがわかる。下着の線が見えない。聖女だ。下着などという俗物的なものをつけていないのかもしれない。いや、そんなことを考えてはいけない。

 

ミハイルは自分の思考に恐怖した。

 

「はい」

 

アンリエッタがお茶を差し出した。受け取ろうとした時、彼女の手がミハイルの手の上に重なった。

 

「……!」

 

「温かいでしょう? 特別に取り寄せた茶葉なの」

 

手が離れた。だが残った体温が、ミハイルの指を痺れさせた。

 

アンリエッタは向かいに座り、お茶を飲みながら話した。信仰の話。教会の歴史。騎士としての心得。ミハイルは夢中で聞いた。聖女の知識は深く、言葉は美しかった。

 

だが、途中からアンリエッタは姿勢を変えた。

 

長椅子に足を上げ、横座りになった。部屋着の裾が膝上まで上がり、白い脚が露わになった。ミハイルは視線を逸らした。

 

「ミハイル、聞いてる?」

 

「は、はい! もちろんです!」

 

「顔が赤いわよ?」

 

「部屋が暑いのかと……」

 

「そう? じゃあ窓を開けるわね」

 

アンリエッタは立ち上がり、窓を開けた。夕風が部屋を通り抜け、部屋着が膨らんだ。布が身体から離れ、胸の膨らみと腰の曲線が浮き上がった。風が収まると布が戻る。その一瞬の隙間を、ミハイルは見てしまった。

 

「……」

 

ミハイルは目を閉じた。主よ、試練を与えたまえ。誘惑を打ち払う力を与えたまえ。

 

「ミハイル?」

 

アンリエッタが近づいてきた。長椅子の背後に回り、ミハイルの肩に手を置いた。

 

「疲れた?」

 

「いえ……」

 

「肩が凝っているわ。揉んであげましょうか」

 

「結構です! 自分で……!」

 

「遠慮しないで。聖女の務めは心身を癒やすことでもあるの」

 

アンリエッタの指がミハイルの肩を揉んだ。強さは適切だった。だが指の動きは単なるマッサージではなかった。首筋に触れ、耳の裏をなぞり、鎖骨に沿って滑った。

 

ミハイルの呼吸が荒くなった。

 

「聖女様、本当に、もう結構で……」

 

「硬いわね。修練のしすぎよ」

 

アンリエッタの手が下りた。だが今度は椅子の前に回り、ミハイルの前に立った。彼を見下ろす位置。部屋着の胸元が、見上げたミハイルの目に飛び込んできた。

 

布の隙間。淡い谷間。聖女の肌は魔法で守られ、傷一つない。白磁のような肌が、夕闇の中で仄かに光っていた。

 

ミハイルの視線が、一瞬、そこに留まった。

 

一瞬だった。だがアンリエッタは見逃さなかった。

 

「……ミハイル」

 

声が変わった。柔らかな慈愛の響きが消え、冷たい、鋭い声だった。

 

「どこを見ているの?」

 

ミハイルの血の気が引いた。

 

「い、いえ……! 何でもありません!」

 

「嘘。私の胸を見ていたわね」

 

「見ていません!」

 

「見ていたわ。今の。一瞬だけど、はっきりと」

 

「違います! 聖女様の顔を見ようとして、視線が……!」

 

「視線が滑った? どこに?」

 

「……」

 

ミハイルは答えられなかった。答えれば、認めることになる。

 

アンリエッタは長椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。その動作で胸が持ち上がり、谷間が深まった。無意識の動作に見えるが、全て計算だった。

 

「ミハイル。顔を上げなさい」

 

ミハイルは震えるまま顔を上げた。アンリエッタの目は、以前と同じ慈愛の色だった。だがその奥に、冷たい光があった。

 

「あなたは、私を尊敬していると言ったわね」

 

「はい。神に次ぐ尊敬を」

「なのに、あなたは私の身体をいやらしい目で見た」

 

「意図したことではありません……」

 

「意図していなくても、見た。そして、反応した」

 

アンリエッタの目が下を向いた。ミハイルのズボンの前。上衣の裾で隠れているが、布が微かに持ち上がっていた。

 

若い身体だった。頭で否定しても、身体は正直だった。聖女の肌、聖女の香り、聖女の指。それらが十七歳の身体に与えた刺激は、信仰心では抑えきれないものだった。

 

ミハイルは自分の身体の変化に気づき、顔が焼けるほど赤くなった。

 

「違う……これは……」

 

「言い訳はいらないわ」

 

アンリエッタの声は静かだった。だがその静けさが、怒りの深さを示していた。

 

「私はあなたを信じていたの。純粋で、誠実で、信仰深い騎士だと。他の若い騎士たちのように、女のことで頭を悩ませることのない、清らかな子だと」

 

「……」

 

「なのに、私に対して、劣情を抱いていたのね、その股間のものは何、それでを蹂躙しようと思ったの!」

 

その言葉は、ミハイルの心臓を貫いた。

 

劣情。最も恐れる言葉だった。聖女に対する不純な想い。それは信仰に対する裏切りであり、騎士としての汚点であり、人間としての堕落だった。

 

「ちが……そんな……!」

 

「違うと言うの? では、これは何?」

 

アンリエッタは顎でミハイルの股間を指した。

「聖女様……お許しください……!」

 

ミハイルは膝をついた。長椅子の前に跪いた。騎士の謝罪の姿勢だった。額を床に擦りつけるほど深く、頭を下げた。

 

「私は……汚れた人間です……聖女様に対して、不純な念を抱くなど……神に背く行為です……」

 

「……」

 

「死に値します。信仰を捨て、騎士を辞し、罰を受けるべきです……」

 

ミハイルの肩が震えていた。涙が床に落ちた。本物の涙だった。彼は本当に、自分を堕落した人間だと信じ込んでいた。

 

アンリエッタは、その背中を見下ろした。

 

彼女の口元が微かに歪んだ。それは笑みだった。だが長椅子の影で、ミハイルには見えなかった。

 

完璧だ。

 

これが彼女の狙いだった。純潔な少年を自らの欲望で罪人に仕立て上げ、その罪を握る。罪を握られた者は、二度と逆らえない。騎士団の中に、自分だけの駒ができる。

 

「ミハイル」

 

声は再び慈愛に満ちていた。

 

「顔を上げて」

 

「……お許しください……」

 

「顔を上げなさい。それは命令よ」

 

ミハイルは顔を上げた。涙で濡れた顔。屈辱と罪悪感で歪んだ、少年の顔。

 

アンリエッタは膝を折り、ミハイルと目の高さを合わせた。手を伸ばし、彼の涙を拭った。

 

「あなたを責めているのではないわ」

 

「え……」

 

「あなたは何も悪くない。悪いのは、誘惑した私」

 

「そんな……聖女様が……?」

 

「そうよ。私は気づかなかった。部屋着が乱れていたの。あなたがそれを見てしまったのは、不可抗力だった」

 

「でも、私の身体が……」

 

「身体の反応は自然なことよ。あなたは十七歳。男の子だもの。それを恥じる必要はない」

 

ミハイルは呆然とした。聖女が自分を庇っている。罪を認め、罰を求めたのに、聖女は許し、そして自らを責めている。

 

「聖女様……」

 

「私は聖女、犯した罪は償わなくてはいけないわ。たとえそれが自らの身体を汚すことになったとしても」

アンリエッタの声が低くなった。

そして純白のローブをミハイルの前で脱ぎ捨てた。

「ミハイル、私は私の体を持ってあなたの欲望を救済します。」

 

 

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ミハイルの目の前で、聖衣が床に落ちた。

 

白い絹がさざ波のように足元に広がりその上にアンリエッタが立っていた。裸身だった。夕陽を背に受け、肌は黄金の輪郭をまとい陰影が身体の起伏を彫刻のように際立たせていた。

 

彼は呼吸を忘れた。

 

肩から鎖骨へと流れる線。乳房の丸み。淡い桜色の頂。腰のくびれから腿へと続く曲線。そのすべてが、彼の知る女性の裸体とは次元が違っていた。修練場で仲間たちがこっそり回す猥本の女たちではない。これは聖画だ。大聖堂の天井に描かれた天使ですら、これほど完璧ではない。

 

「綺麗…」

 

言葉が漏れた。祈りの言葉だった。

 

アンリエッタは動かなかった。腕をだらりと下げ、何も隠さず、ただ立っていた。聖女が信徒の前に、贖罪の生贄として差し出される。そんな構図だった。

 

「ミハイル」

 

声だけが、まだ聖女だった。穏やかで慈愛に満ち、少し悲しげな声。

 

「私に触れてもいいのよ。これは贖罪だから」

 

「触れる…?」

 

「ええ。あなたの欲望を清めるために、私の身体を使いなさい」

 

ミハイルの手が震えた。膝をついたまま、目の前の裸身を見上げる。聖女の身体だ。神に最も近い者の身体だ。触れていいはずがない。だが聖女自身が触れていいと言っている。

 

震える手を持ち上げた。

 

指先が、アンリエッタの臑に触れた。

 

「あ…」

 

温かかった。生きている人間の体温だった。大理石の聖像ではない。本物の、血の通った、女の人の身体だった。

 

指が上へと這った。膝の裏。腿の外側。肌は絹よりも滑らかで、触れるたびに微かに弾力があった。腿の付け根に達する前に、指が止まった。

 

「怖いの?」

 

アンリエッタが尋ねた。声は優しかった。

 

「はい…畏れ多いです…」

 

「何が畏れ多いの?」

 

「聖女様は…神に選ばれた方です…私のような者が触れていい身体ではありません…」

 

「でも、あなたはさっきこの身体を見て反応した」

 

「…はい」

 

「その欲望が、あなたの苦しみなら私が清めてあげる。これは神の御心に沿う行為よ。迷うことはないわ」

 

神の御心。その言葉が、ミハイルの最後の躊躇を溶かした。

 

手が腿を越えた。腰のくびれに触れ肋骨の並びを確かめ、そして——乳房に達した。

 

「あっ…」

 

声を漏らしたのはミハイルだった。

 

掌に包み込まれた柔らかさ。指の間からこぼれそうな質量。重力に従って形を変えながら、手のひらに吸い付くような肌の感触。頂点にある蕾が、手のひらの中心で微かに硬くなっていた。

 

「聖女様…聖女様…」

 

名前を呼ぶことしかできなかった。指が勝手に動いた。揉むのではない。撫でるのだ。聖遺物に触れる時のような、恭しい手つきで。

 

アンリエッタは目を閉じた。されるがままだった。胸を揉まれ、蕾を指の腹で転がされ時折、親指で軽く押される。そのたびに、彼女の唇から微かな息が漏れた。

 

「ん…」

 

その声が、ミハイルの背筋を震わせた。聖女が声を出した。自分の触れ方で。

 

「痛いですか…?」

 

「いいえ…気にしないで…続けて…」

 

ミハイルはもう一方の手も持ち上げ、両方の乳房を同時に触れた。交互に揉み時折顔を近づけ、その柔らかさを頬で確かめた。聖女の心臓の鼓動が聞こえる距離だった。

 

「ミハイル…」

 

アンリエッタが目を開けた。その瞳は潤んでいたが、まだ聖女の威厳を保っていた。

 

「次は…下も脱がせてくれる?」

 

ミハイルの視線が下がった。腰を覆っている白い下着だけが、最後の布だった。純白の小さな布が聖女の最も神聖な場所を隠していた。

 

「これは…贖罪の儀式です。怖がらなくていいのよ」

 

ミハイルは両手を伸ばした。指が下着の縁にかかる。腰骨のあたり。布地は温かく、湿り気さえ感じられた。

 

ゆっくりと、下へと引いた。

 

布が腿を通過し膝を越え、床に落ちた。

 

ミハイルは見た。

 

聖女の秘所を。

 

淡い金色の陰毛が逆三角形に整えられ、その下に、閉じられた花弁があった。小ぶりで慎ましく、それでいて確かに存在する割れ目。その奥に、生命の源が隠されている。

 

ミハイルの喉が鳴った。

 

「聖女様…」

 

「これが、私のすべてです。見て。そしてあなたの欲望を清めるために、使いなさい」

 

ミハイルは身を乗り出した。両手をアンリエッタの腰に当て、顔を近づける。聖女の秘所からは微かな香りがした。汗と、女の匂いとどこか甘いような香り。

 

唇を、割れ目に押し当てた。

 

「んっ…」

 

アンリエッタの身体が微かに震えた。

 

ミハイルはそこに口づけた。聖遺物に接吻するような、恭しい口づけだった。唇で花弁の形を確かめ、舌先でそっと割れ目をなぞった。

 

「あ…」

 

アンリエッタの手が、ミハイルの頭に置かれた。拒絶ではない。受け入れだった。

 

「続けて…いいのよ…」

 

ミハイルの舌が、割れ目を割った。閉じていた花弁が開き中の粘膜が露わになる。舌がそこを這った。聖女の味がした。ほんのりと塩味を含んだ、複雑な味。それを嚥下するたび自分の中の欲望が清められていく気がした。

 

舌が奥へと進む。小さな突起を見つけ、そこを舌先で触れた。

 

「ひっ…!」

 

アンリエッタの身体が跳ねた。脚が震え、指がミハイルの髪を掴んだ。

 

「そこ…は…」

 

「聖女様…? やめますか…?」

 

「…いいえ…やめないで…」

 

ミハイルはそこを集中的に舐めた。突起を舌で転がし、吸い、軽く歯を立てる。そのたびにアンリエッタの身体が反応し、声が漏れた。

 

「ん…あ…ミハイル…」

 

聖女が自分の名前を呼んだ。その事実が、ミハイルの頭を白く染めた。もっと。もっと聖女を感じたい。聖女を清めたい。

 

舌がさらに奥へと入り込んだ。蜜が溢れ始めていた。聖女の身体が、自分の奉仕に応えて潤んでいる。そのことが、ミハイルに深い充足感を与えた。

 

「聖女様…聖女様…」

 

彼は夢中で舐め続けた。聖女の秘所に顔を埋め、その味を嚥下しその香りを吸い込み、その声を聞いた。それはもはや贖罪ではなかった。崇拝だった。女神への奉納だった。

 

そして彼は気づかなかった。

 

アンリエッタが自分の頭を押さえつけながら、薄く笑っていることに。

 

ミハイルの舌がアンリエッタの最も敏感な場所を捉え続けた。突起を転がし、吸い上げ時には優しく歯を当てる。そのたびにアンリエッタの腰が浮き、指が少年の髪を強く握った。

 

「あ…あ…ミハイル…そこ…」

 

声が上ずった。聖女の声ではない。一人の女の声だった。

 

ミハイルは夢中だった。聖女の反応が嬉しかった。自分が聖女を癒している。その事実が、彼のすべてを満たしていた。

 

「んっ…あっ…あぁっ…!」

 

アンリエッタの身体が大きくしなった。背中が反り、腿が震え、爪先がぴんと伸びた。ミハイルの口の中に聖女の蜜が溢れ出した。絶頂だった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

荒い息をつきながらアンリエッタはミハイルの頭から手を離した。彼女は床に膝をつき、目の前の少年を見つめた。ミハイルの顔は聖女の体液で濡れていた。口元が光っていた。

 

「ミハイル」

 

「はい…聖女様…」

 

「あなたのおかげで…私は救われたわ」

 

「そんな…私こそ、聖女様の身体を穢して…」

 

「穢してない。あなたは私を清めたの」

 

アンリエッタは手を伸ばしミハイルの顔を拭った。その指が彼の唇に触れ、頬を撫でた。

 

「でも…まだ終わっていないわ」

 

「え…?」

 

アンリエッタの視線が下がった。ミハイルのズボン。すでに限界まで張り詰めていた。

 

「あなたの…これも、清めなければ」

 

「聖女様…そんな…!」

 

「これは儀式よ。あなたの欲望を完全に浄化するためには、最後まで行う必要がある」

 

「でも…聖女様の身体を…私なんかが…」

 

「私がそう望んでいるの」

 

アンリエッタは立ち上がり、ミハイルの手を取った。彼をベッドへと導いた。聖女の寝台。白いシーツ。彼女はそこに横たわり、両腕を広げた。十字架のような姿勢だった。

 

「来て」

 

ミハイルは震える手で自分の服を脱いだ。上衣を脱ぎ、ズボンを脱ぎ下着を脱いだ。十七歳の身体が露わになる。鍛えられた胸。細い腰。そして、反り返った若い男根。

 

アンリエッタはそれを見た。目を細めた。思った通り、綺麗な形をしていた。色も薄く経験の少なさを物語っていた。これを奪う。その快感が、彼女の下腹を熱くした。

 

「ミハイル、私の上に来て」

 

ミハイルはベッドに上がり、アンリエッタの上に覆いかぶさった。膝を彼女の脚の間に置く。彼女の秘所が、彼の先端の真下にあった。すでに潤い準備はできていた。

 

「聖女様…本当に…?」

 

「ええ。入れて」

 

ミハイルは腰を進めた。先端が聖女の割れ目に触れた。柔らかく、温かくそして吸い付くような感触。彼は息を呑んだ。

 

「あ…」

 

ゆっくりと、押し進めた。狭かった。熱かった。聖女の中は、彼のすべてを受け入れようと優しく広がっていった。

 

「ぁ…あ…」

 

アンリエッタが小さく声を漏らした。顔を少しだけ歪め、痛みを堪えるような表情を見せた。演技だった。彼女はすでに何人もの男を受け入れてきた身体だった。処女の痛みなど、とっくに知らない。

 

だがミハイルには、それが本物に見えた。聖女が自分のために痛みを耐えている。その献身に、彼の胸は締め付けられた。

 

「聖女様…痛いですか…?」

 

「平気よ…あなたも…我慢しないで…」

 

「でも…!」

 

「これは儀式。あなたのため。遠慮しないで、ミハイル」

 

ミハイルは腰を進めた。最後まで。根元まで。聖女の中に、完全に収まった。

 

「あぁ…」

 

二人の吐息が重なった。

 

ミハイルは動かなかった。聖女の中の感触に、ただ圧倒されていた。温かく脈打ち、自分を締め付ける。これが女の中。これが、聖女の中。

 

「ミハイル…動いて…」

 

アンリエッタの手が、彼の背中に回された。優しく引き寄せるように。

 

ミハイルは腰を引いた。そして、ゆっくりと押し戻した。

 

「あ…」

 

アンリエッタの声。それが彼を突き動かした。もう一度。また一度。ゆっくりと、確かめるように。

 

「ん…あ…いいわ…ミハイル…」

 

「聖女様…聖女様…」

 

ミハイルの動きが速くなった。若さが欲望が、彼を突き動かす。聖女の中は彼を優しく包み、時に締め付け時に緩めた。まるで、彼のすべてを受け入れそして導くようだった。

 

アンリエッタは下から彼を見上げていた。汗ばむ少年の顔。快楽に歪み、それでも聖女への崇拝を失わない目。その目が、彼女をさらに悦ばせた。

 

彼女は自ら腰を動かし始めた。

 

「あっ…聖女様…?」

 

「私も…動くわ…儀式だから…」

 

アンリエッタの腰が、ミハイルの動きに合わせて浮いたり沈んだりした。彼女は彼のものを、より深くより確実に、自分の奥へと迎え入れた。彼女の内壁が彼の形を確かめるように蠢いた。

 

「あぁ…なにこれ…すごい…」

 

ミハイルはもう夢中だった。聖女が自分を受け入れている。聖女が自分と一つになっている。その事実が、彼のすべてを燃やしていた。

 

「ミハイル…いいわ…あなた、いい…」

 

「聖女様…僕…もう…!」

 

「いいのよ…出して…私の中で…すべて…」

 

ミハイルの動きが激しくなった。腰が打ち付けられる音が、静かな寝室に響いた。聖女の声が彼の名前を呼び続けた。

 

「ミハイル…ミハイル…!」

 

「聖女様…アンリエッタ様…!」

 

初めて、彼は名前を呼んだ。敬称を忘れただ一人の女として。アンリエッタはその瞬間を待っていた。彼女の内壁が、きゅっと締まった。

 

「あぁっ…!」

 

ミハイルの腰が、深く沈んだ。そして彼は果てた。聖女の奥へ、熱いものを放った。初めての精。すべてを聖女の中に。

 

「あ…あ…」

 

射精の余韻で彼の身体が震えた。アンリエッタの中に、確かな熱が広がった。彼女はそれを受け止めながら、彼の背中を優しく撫でた。

 

「よく…できたわ…ミハイル…」

 

「聖女様…」

 

ミハイルは崩れるように、彼女の胸に顔を埋めた。汗と聖女の匂いと、自分の匂いが混ざっていた。彼は泣いていた。感動の涙だった。

 

「聖女様…僕…僕は…」

 

「何?」

 

「僕は…聖女様に…一生を捧げます…」

 

顔を上げ、涙で濡れた目でアンリエッタを見た。その目は、真実だった。

 

「聖女様のために…この命…すべて…。神に誓います。聖女様こそ、僕の神です」

 

アンリエッタは微笑んだ。慈愛の微笑み。だがその目は、獲物を捕らえた獣のそれだった。

 

「ありがとう、ミハイル。私はあなたを信じるわ」

 

彼女は彼の頭を抱き、胸に押し付けた。ミハイルは幸福だった。聖女に認められた。聖女に誓った。聖女のものになった。

 

彼は知らなかった。

 

この日を境に、彼が聖女の駒としてすべてを捧げることになる運命を。

 

そしてアンリエッタは、彼の髪を撫でながら思った。

 

——また一人、手に入れた。

 

聖導騎士団の中に自分の忠実な駒ができた。しかも、将来有望な若き騎士。これは使える。

 

彼女の頭の中では、すでにこの少年を使った計画がいくつも浮かんでいた。情報を流させ、他の騎士を監視させ時には罪を着せる。すべては彼女の権力と快楽のために。

 

ミハイルはその胸の中で、幸せそうに眠り始めていた。

 

無垢な少年の忠誠心。それを握った聖女の微笑みは、暗闇の中でひっそりとしかし確かに、悪魔のそれに似ていた。

 

⭐️悪徳勇者と性悪聖女は酒場で笑う

 

王都クライスの裏通りに、名もなき酒場があった。

 

表通りから路地を三つ曲がり地下へ降りた先。木札も看板もない。知る者だけが知る場所。闇商人と密輸業者と身分を隠したい貴族が集まる場所だ。

 

その奥の個室で金髪の男女が向かい合っていた。

 

「乾杯」

 

エステバンが杯を掲げた。アンリエッタが杯を合わせる。安い葡萄酒がこぼれたが二人は気にしなかった。

 

聖衣も鎧もない。エステバンは黒い旅装束。アンリエッタは男物の外套を羽織りフードで顔を隠していた。勇者と聖女とは誰も思うまい。

 

「で?」アンリエッタが身を乗り出した。「ミリス公爵夫人はどうだった?」

 

エステバンは杯を置き不敵に笑った。

 

「最高だったね。あの貞淑な顔が崩れる瞬間といったら」

 

彼は身振り手振りを交えて語り始めた。公爵邸への訪問。夫を酔い潰す手腕。夫人の寝所への侵入。そして勇者の魅力を使った誘惑。

 

「最初は頑なだったよ。『お帰りください』『いけません』って。でもね俺の目を見た瞬間、もう終わりだった」

 

「目? 勇者の瞳?」アンリエッタがからかうように聞いた。

 

「そう。神に選ばれた者の光だ。見つめられるだけで思考が白濁する。抵抗しようとしてもできない。俺の目を見て『やめて』って言った時もう彼女の唇は開いてた」

 

「最低ね」

 

「お前が言うな」

 

二人は笑った。

 

「でどうだったのその後」

 

「普通の女とは違うね。十二年間夫に愛されてない身体ってのは乾いてる。水が染み込むように俺を受け入れた。最初は痛がるふりしてたけど途中から腰振ってたよ」

 

「あらあら」

 

「最後はね『ごめんなさいライオネル』って泣きながら俺を求めた。夫に謝りながら勇者に抱かれる。その矛盾が彼女を壊してた」

「あなたまた孕ませたの?」

エステバンは杯を空けた。店主に追加を頼む。

 

「ああそうだ。がっつり中に3回出したからな。孕ませたと思う」

 

「え?」

 

「子宮の奥に出した。3回も。あの年齢ならまだ妊娠できる。もし子供ができたら公爵の子供として育てろって言っといた」

 

アンリエッタは目を見開いた。そして高笑いした。

 

「あなたって本当に! 最低ね!勇者様のくせに!」

 

「勇者だからできる芸当だろ」

 

「最高ね。公爵家の跡取りが実は勇者の種。皮肉が効いてて好きだわ」

 

二杯目の酒が来た。エステバンは杯を満たしながら聞いた。

 

「でそっちはどうだった? 聖導騎士の少年」

 

アンリエッタは杯を口に運び目を細めた。

 

「可愛かったわよ。純粋で真面目で不器用で。十七歳のくせに女の肌を見たこともないらしい」

 

「処女厨かよ」

 

「違うわよ。ただ信仰に生きてただけ。聖女に対する憧れが信仰そのものだった」

 

彼女は脚を組み直した。外套の下から部屋着の裾が覗く。

 

「私の部屋に呼んでね。書庫の整理って口実で。部屋着で誘惑したの」

 

「お前な」

 

「最初はただの脚立の事故のふりをして抱きついてあげた。それだけでも硬直してたわよ。可愛かった」

 

「で?」

 

「お茶の時間にね少し露出を増やしただけ。膝とか鎖骨とか谷間とか。それだけで彼の股間が反応した」

 

アンリエッタは笑いながら杯を傾けた。

 

「それを責めたのよ。『私に劣情を抱いていたのね』って。あの子泣きながら跪いたわ。『死に値します』ですって」

 

「ひでぇ」

 

「でしょ? でもそこからが本番よ。『あなたは悪くない私が誘惑したの』って言ってね自分の服を脱いだ」

 

エステバンは口笛を吹いた。

 

「聖女の裸かよ。そりゃ死ぬ気にもなる」

 

「彼ね女神に触るみたいに私の体に触れたわ。乳房を撫でて下着を脱がせて割れ目に顔を埋めて。舐めながら『聖女様聖女様』って呼ぶの。崇拝よ完全に」

 

「で寝たんだろ」

 

「ええ。彼の中を私の中に迎え入れた。初めてだったみたいですぐ果てちゃったけどね」

 

「早漏かよ」

 

「初めてだもの仕方ないわ。でもねその後一生の忠誠を誓ってくれたわ。『聖女様こそ僕の神です』ですって」

 

二人は顔を見合わせそして爆笑した。

 

「神だって! 勇者の女が神だって!」

 

「ああ!このズベ公が聖女だって!性女の間違いだろ。」

 

笑いが止まらなかった。杯をぶつけ合い酒がこぼれ床に染みが広がった。

 

三杯目四杯目と酒は続いた。

 

話は尽きなかった。エステバンは他の女たちの話もした。戦場で救った貴婦人宿場町の女将王宮の侍女。勇者の魅力に屈しない女はいなかった。

 

アンリエッタも負けじと語った。騎士団の若手士官教会の司祭地方領主の嫡男。聖女の権威に逆らえる男はいなかった。

 

「共通点があるわね」

 

アンリエッタが呟いた。

 

「何?」

 

「私たちは与えられた力を最大限に使ってるってこと」

 

「勇者の魅力と聖女の権威か」

 

「ええ。神が与えた力なのに敬虔な者だけが使うなんて不公平だと思わない? 私たちみたいな人間こそ使うべきよ」

 

「全くだ」

 

杯が空になった。五杯目を頼もうとした時二人は互いの目を見た。

 

酔っていた。

 

ぐでんぐでんに。

 

エステバンの目はとろんとしていたがその奥に熱があった。アンリエッタも同じだった。頬が赤く息が荒い。

 

「なあ」

 

エステバンが言った。

 

「俺たち似た者同士だよな」

 

「そうね」

 

「勇者と聖女。神に選ばれた二人。でも中身はクズだ」

 

「最低のクズよ」

 

「それが何だって言うんだろ」

 

「ええ何だって言うのよ」

 

沈黙があった。

 

エステバンが立ち上がった。足元がおぼつかない。壁に手をつきながらアンリエッタの方へ歩いた。

 

彼女も立ち上がろうとしたがよろけた。エステバンの腕が彼女の腰を支えた。

 

「大丈夫か」

 

「大丈夫じゃないわよ酔ってるんだもの」

 

二人の顔が近づいた。

 

酒の匂いと体温と相手の息遣いが混ざった。

 

エステバンの手がアンリエッタの腰を引き寄せた。

 

唇が重なった。

 

激しかった。優しさも慈しみもない。ただの欲望だった。

 

 

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舌が絡み合い歯がぶつかり唾液が混ざった。

 

「んっ…ふっ…」

 

アンリエッタの手がエステバンの首に巻きついた。外套が落ちて部屋着だけになった。

 

「ここでやる?」

 

エステバンが唇を離して聞いた。

 

「ベッドに行きましょうよ…この店二階に部屋があるはず…」

 

「知ってんのかこんな店」

 

「私が来ると思った? 何度も来てるわよ」

 

二人は笑いながら互いに支え合い階段を上った。

 

二階には粗末な部屋があった。狭いベッドと洗面器だけの部屋。

 

ドアを閉めた瞬間エステバンはアンリエッタを壁に押し付けた。

 

「お前さっきから何着てんだその部屋着」

 

「何って聖女の部屋着よ」

 

「誘ってんのか」

 

「あなたこそ何よその目、聖女の服に萌えた?私を見る目が獣みたい」

 

「獣で何が悪い」

 

唇がまた重なった。

 

今度はもっと激しかった。

 

エステバンの手が部屋着の中に入り込んだ。肌に触れる指は熱かった。

 

「あっ…」

 

アンリエッタの声が漏れた。

 

「何だもう濡れてんのか」

 

「あなただって硬くなってるくせに」

 

「当たり前だろ聖女の裸を見て勃起しない男がいるか」

 

「聖女への冒涜ね」

 

「お前ほどの聖女なら喜ぶだろ」

 

二人はベッドに倒れ込んだ。

 

服を脱ぐ動作は雑だった。ボタンを引きちぎり布をまくり上げ肌と肌を直接合わせた。

 

「あ…あなたの体…勇者の体…硬い…」

 

「お前の体も聖女らしくねえなこんなに柔らかいなんて」

 

「何よそれ」

 

言葉は辛辣だったが手つきは貪欲だった。

 

エステバンはアンリエッタの乳房を掴み揉み上げた。先ほどミハイルにされたように恭しくなどしない。欲望のままに力を込めた。

 

「んっ…あっ…粗野ね…勇者様…」

 

「お前にはこれくらいでいいだろ聖女様」

 

アンリエッタの手もエステバンの身体を這った。筋肉の隆起を爪でなぞり腹の割れ目を指でなぞった。そして下へ手を伸ばし勇者の屹立を掴んだ。

 

「でかいわね…さすが勇者…」

 

「さっきの少年よりでかいか?」

 

「比べものにならないわよまだ子供だもの」

 

「なら俺の方がいいだろ」

 

「自尊心だけは強いわね」

 

口ではからかいながらも彼女の手は彼のものを扱き始めた。

 

エステバンも負けじと彼女の秘所に指を伸ばした。すでに濡れていた指が容易く中に入り込んだ。

 

「あっ…! そこ…!」

 

「ここか? さっき少年に舐めさせた場所か?」

 

「そうよ…でもあなたの方が…上手…!」

 

「当たり前だ俺はプロだぞ」

 

二本の指が出し入れされた。親指で突起を擦りながら。

 

「あぁっ…あっ…! 飲み込みがいい…さすが何人も抱いてる…!」

 

「お前も何人も抱いてるだろ聖女様? こんなに上手に締め付けやがって…!」

 

互いに責め合いながら互いに喘いだ。

 

それは愛ではなかった。信頼でもなかった。ただの性欲だった。同類同志の欲望のぶつけ合いだった。

 

「入れるぞ」

 

「来なさいよ勇者様」

 

エステバンはアンリエッタの脚を開かせ一気に貫いた。

 

「あぁぁっ…!」

 

「くっ…! きつっ…!」

 

二人同時に声を上げた。

 

今まで相手にしてきた相手とは違った。勇者と聖女。神に選ばれた肉体同士。その交わりは規格外だった。

 

エステバンの屹立は通常の男より大きく硬かった。アンリエッタの膣内は通常の女より深く熱かった。

 

二人は互いを征服しようとした。

 

エステバンは激しく腰を打ち付けた。鬼ピストン。ミリス公爵夫人にしたように容赦なく。

 

アンリエッタはそれを受け止めながら自らも腰を振った。ミハイルにしたように相手を翻弄するように。

 

肉と肉がぶつかる音が狭い部屋に響いた。

 

「あっあっあぁっ…! すごい…あなたすごい…!」

 

「お前も…くそっ…こんなに締め付けやがって…!」

 

「勇者のくせに…もう限界…?」

 

「誰がだ! 見てろよ!」

 

エステバンはさらに激しくなった。ベッドがきしむ音と二人の喘ぎ声だけが世界のすべてだった。

 

理性などなかった。ただ本能のままに交わった。

 

悪徳勇者と性悪聖女。

 

神に選ばれた二人が神から与えられた肉体を使って快楽に溺れる。

 

それこそが最大の冒涜であり最大の悦びだった。

 

「いくぞ…!」

 

「来て…中に出して…! 勇者の精を…聖女の中に…!」

 

二人は同時に果てた。

 

熱い精がアンリエッタの中に注ぎ込まれ彼女の内壁が激しく収縮してエステバンを搾り取った。

 

「あぁぁぁっ…!!」

 

絶頂の声が重なった。

 

二人はそのまま崩れ落ちた。

 

汗と体液と酒の匂いが充満する部屋で二人は荒い息をついていた。

 

「…はぁ…はぁ…最高だったわ…」

 

アンリエッタが呟いた。

 

「ああ…俺もだ…」

 

エステバンが応じた。

 

二人は天井を見つめたまま笑った。

 

乾いた笑いだった。

 

神に選ばれた者が堕ちる瞬間。

 

それは美しかったし汚らしかった。

 

そして二人はまだ終わらないことを知っていた。

 

夜は長く酒はまだ残っているそして互いの欲望もまだ尽きていなかったから。

 

二度目が始まった時窓の外で月が雲に隠れた。

 

神の目から逃れるように悪徳勇者と性悪聖女は再び絡み合った。

 

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