外道勇者と性悪ビッチ聖女『偽善の聖剣、背徳の聖杖』 作:みなぽん
クライスト王家には、国王アウグスト・フォン・クライストと王妃マルグリットの間に生まれた子供たちがいた。
第一王子レオニード。王位継承者として軍部と保守派貴族から支持される長男。
第二王子カシウス。兄とは対照的に、都市の商人や官僚、新興貴族を後ろ盾とする野心家。
第一王女イザベラ。社交界で大きな影響力を持つ美貌の王女。
第二王女セレネ。頭が切れ、政治的な駆け引きに長けた王女。
そして、第四王女アンリエッタ。
ただし、アンリエッタだけは母親が違った。
彼女の母、リゼットは貴族でもなければ、王族の血を引いているわけでもなかった。
孤児として聖クラリス修道院に引き取られ、そのまま修道女となった女性だった。
彼女は修道院で多くの孤児を保護していた。戦争や疫病で親を失った子供たちを引き取り、自分の食事を削ってでも彼らを養おうとした。
しかし、貧しい修道院だけでは子供たちを養えない。
そこでリゼットは、貴族たちの慈善会や教会の祭礼に出向き、古びた笛を吹いた。
華やかな衣装も、高価な楽器もない。
粗末な修道服のまま、彼女は一生懸命に笛を吹く。
演奏が終われば深々と頭を下げる。
「どうか、子供たちのためにお力をお貸しください」
貴族から施された銀貨を受け取れば、それを自分のためには一枚も使わず、孤児たちのパンや薬、冬服に変えた。
そんな彼女の姿に好意を抱いたのが、国王アウグストだった。
最初は慈善活動に励む修道女への純粋な興味だった。
だが、何度か顔を合わせるうちに、アウグストはリゼットを一人の女性として愛するようになった。
身分など関係ない。
王と修道女。
本来なら交わることのない二人だった。
だが、アウグストは彼女を愛し、リゼットもまた王を愛した。
そして二人の間に生まれたのがアンリエッタだった。
しかし、リゼットは出産直後に亡くなった。
アンリエッタには母親の記憶がない。
残されたのは、母の肖像画と、あの古びた笛だけだった。
アウグスト王は、その娘を心から愛した。
王宮の誰よりもアンリエッタを可愛がった。
幼いころから彼女の誕生日を欠かさず祝い、欲しい本があると聞けば王国中から探させた。
アンリエッタが病に倒れれば、国王自ら寝室を訪れた。
彼女が初めて聖魔法を発現させたときには、王は涙を流して喜んだ。
「お前は私の誇りだ、アンリエッタ」
その言葉だけは、偽りではなかった。
だからこそ、兄と姉たちはアンリエッタを疎んじた。
特に、第一王女イザベラと第二王女セレネは、父王の愛情を奪う妹を快く思わなかった。
イザベラはアンリエッタの席だけを晩餐会から外し、後になって「手違いだった」と笑った。
セレネは母リゼットのことを「孤児院育ちの修道女」と嘲り、あるときはアンリエッタが大切にしていた母の笛を床に落として踏みつけた。
「あなたが王女でいられるのは、お父様の気まぐれのおかげよ」
そう言われても、アンリエッタは反論しなかった。
ただ、笑った。
父王の前では、姉たちにされたことを一切訴えなかった。
なぜなら幼いアンリエッタは、すでに理解していたからだ。
父が自分を愛してくれている。
しかし、父の愛だけでは王宮では生きていけない。
兄たちは王位を争っている。
姉たちは自分を疎んじている。
自分には高貴な母親の血がない。
ならば、自分自身が誰にも手を出せないほどの価値を持つしかない。
その答えが、聖女だった。
十二歳の冬、アンリエッタに巨大な聖魔法の力が宿った。
病を癒し、穢れを浄化し、強大な結界を張る奇跡。
神殿は彼女を「聖女」と認めた。
その瞬間から、アンリエッタの人生は変わった。
彼女は誰よりも美しく、誰よりも優しく、誰よりも慎ましい聖女を演じるようになった。
困っている者には微笑む。
侮辱されても怒らない。
貧しい者には自ら手を差し伸べる。
誰かに感謝されれば、必ず「私は神の御心に従っただけです」と答える。
それは信仰であると同時に、生存術だった。
母親の血筋が低いからこそ、聖女としての力を身につける。
王女としての気品を徹底的に身につける。
誰からも愛される存在になる。
誰かが彼女を傷つければ、その者の方が悪く見えるようにする。
そうしてアンリエッタは、自分自身を守るための「聖女の仮面」を完成させていった。
やがて彼女は、人の心を読むことを覚えた。
何を欲しがっているのか。
何を恐れているのか。
どんな言葉をかければ喜ぶのか。
どんな涙を流せば、相手が罪悪感を抱くのか。
善人でなければ生き残れない場所では、
善人に見える人間が、最も強い。
だからこそ、後に神父ザビエルが彼女の罪を追及したときも、アンリエッタは動揺しなかった。
彼女には、十五年以上かけて磨き上げた「聖女」という鎧がある。
そして彼女は、彼女を支持する者たちから、ある有益な情報を得る。ーーザビエルの背後に、第二王女セレネがいることだった。
|第一章:聖女の微笑み
クライスト王家の第四王女アンリエッタは、誰よりも美しく微笑んだ。
その微笑みは、春の陽光のように人々の心を温め、聖女としての彼女の絶対的な象徴であった。貧民街の子供たちの手を取り、傷ついた兵士の額に聖水を滴らせ、病に伏した老女の手を握りしめる。そのすべての瞬間において、彼女の唇には慈愛に満ちた弧が描かれていた。
しかし、その弧の深さを測れる者はいない。
「アンリエッタ様、お顔がお疲れですわ」
侍女が心配そうに声をかける。アンリエッタは小首を傾げ、無邪気に笑った。
「いいえ、皆様のお役に立てていることを思うと、この上ない喜びです」
その言葉に嘘はない。ただし、その「喜び」の正体を侍女は知らない。人々が彼女に向ける敬愛の眼差し、それが彼女の心を満たす何よりの糧なのだ。身分の低い母から生まれたこの身が、誰にも侵せない聖域にいることの証明。それが彼女の喜びだ。
夜、自室に戻ったアンリエッタは、窓枠に頬杖をつき、冷たい月光を浴びていた。その瞳に浮かぶのは慈愛ではなく、氷のように冷徹な光。
「セレネ姉様…」
その名を口にするときだけ、彼女の声は甘い蜜を含んだ毒のように変わる。
ザビエル神父の背後にいるのがセレネであることを知った日から、アンリエッタの中で眠っていた復讐の炎が静かに、しかし確実に燃え上がり始めた。かつて母リゼットを「孤児院育ちの修道女」と嘲笑い、あの古びた笛を床に踏みつけた女。父王の寵愛を奪う妹として忌み嫌った女。
「あなたが私の王女としての地位を『お父様の気まぐれ』と言ったその唇を、二度と軽率な言葉を紡げないようにして差し上げますわ」
アンリエッタは手元の笛を愛おしげに撫でた。母の形見。かつてセレネに踏みつけられたが、修復し今も肌身離さず持っている。この笛が奏でるのは、もはや慈愛の調べではない。破滅の序曲だ。
彼女の計画は水面下で着々と進められていた。手駒はすでに揃っている。一つは彼女を狂信的に支持する人々。彼らはアンリエッタの聖女としての仮面を信じ込み、彼女のためなら火の中水の中と動く。そしてもう一つは、「勇者」エステバンだ。
「よう、聖女様。今日はまた一段とお美しい」
庭園で「偶然」出くわしたエステバンが、気さくに声をかけてきた。大柄で豪快な彼は、聖女の聖域に似つかわしくない異質な存在だが、アンリエッタにとっては唯一の「悪友」であり、共犯者であった。
「エステバン様、お戯れを。それよりも…」
普段の砕けた口調ではなくて聖女の立ち居振る舞い。
アンリエッタは周囲を見渡し、声を潜めた。
「例の件、進んでおりますか?」
「ああ、セレネ王女の取り巻き連中の酒の席だろ? 任せとけ。あいつら、俺の手柄話には目がないからな」
エステバンはニカっと笑い、親指を立てた。
「ありがとうございます。でも、決して無理はなさらず」
心配そうに見上げる瞳。その奥で計算高い光が瞬くのを、エステバンは決して見ない。
第一の罠は、セレネの政治的生命線を断つことから始まった。
セレネは官僚や新興貴族を後ろ盾とし、商業都市の発展を標榜して王位継承権の強化を図っていた。彼女が推進している新商税法は、一見して国庫を潤す良法に見える。しかし、その法の裏には商人たちが法の抜け穴を利用して不当な利益を得る仕掛けが隠されていた。
アンリエッタはそれを知っていた。支持者である敬虔な財務官が「偶然」古い帳簿を見つけ、「聖女様にご相談申し上げてもよろしいでしょうか」と涙ながらに訴えてきたのだ。
「なんと恐ろしいこと…。姉上はきっと、そのような不正の存在をご存知ないに違いありませんわ」
アンリエッタは悲しげに眉を寄せた。
「ですが、このままでは民に重税が課されることになります。どうか、神の御心に従い真実を明かしてくださいませ」
財務官は聖女の言葉を神託と受け取り、翌日の政務会議でその不正を告発した。セレネは完全に意表を突かれた。彼女自身もその抜け穴に気づいていなかったのだ。否、気づくはずもなかった。それはアンリエッタが支持者を使って巧妙に作り上げた「偶然の発見」だったのだから。
「姉上の御名において法は作られましたが、姉上の御心は民を思う慈愛に満ちているはず。きっと側近の者たちが姉上を利用したのですわ!」
アンリエッタはそう声高に主張した。表向きはセレネを庇う言葉。しかし、「セレネは自分の法の内容も把握していない」「側近に利用されるほどの器量がない」という疑念を人々の心に植え付けるには十分な一撃だった。
セレネの政治的影響力は翳りを見せ始めた。
第二の罠は、セレネの名誉を泥に塗ることだった。
王宮では怪しげな噂が囁かれ始めた。セレネが特定の貴族と不貞の関係にあるという噂だ。根拠のない噂ならすぐに消える。しかし、この噂には「目撃情報」がついていた。
「夜更けに姉上の居室を訪れる男がいるとのこと…。まさか、政務の相談ではありませんわよね?」
アンリエッタは侍女たちに漏らすように言った。その顔には「信じられない」という純粋な悲しみが張り付いている。しかし侍女たちの耳には、「聖女でさえ否定できないほどの疑いがある」として響いた。
さらにエステバンが火に油を注いだ。
「おいこの間王宮に行ったら、 セレネ王女の部屋から出てきた男がいたんだよ。しかも3人だぜ。それがよ、色街の男娼だから驚きだぜ!あの王女さんカスバの宿の男娼を部屋に呼んでいいことしてるらしいぜ!」
酒場で酔った勢いに話す勇者の言葉は、尾ひれがついて瞬く間に広がった。「聖女の姉君が不貞を」「男漁りをしてるらしい。…」と。
セレネは激怒し、噂の元凶を探そうとしたが見つからない。彼女を庇う者もいたが、「聖女アンリエッタが心配している」という事実が、噂に信憑性を与えてしまった。
「あの方はご自身の潔白を証明する機会を持てばよろしいのですわ。真実は必ず神の御心によって明らかになります」
アンリエッタは公の場でそう述べた。セレネの潔白を信じるという体でありながら、「証明する必要がある」こと自体が既に汚点であることを示唆する言葉。セレネの名誉は地に落ちていった。
そして最後の罠。父王の愛を奪うこと。
アウグスト王は最愛の娘アンリエッタの聖女としての評判をこの上なく喜んでいた。彼にとってアンリエッタは亡きリゼットの面影そのもの。彼女の存在こそが自身の罪深い愛の証であり救いだった。
ある日、王が病に倒れた。
高齢の王には珍しいことではないが、アンリエッタは即座に王の寝所に駆けつけた。聖魔法で病を癒やし、昼夜を問わず看病する聖女の姿は、王宮中の涙を誘った。
第三章:聖なる房中術
夜の帳が下りた王の寝所は、重苦しい沈黙に包まれていた。
アウグスト王の呼吸は浅く、時折咳き込むたびに老いた体が震える。傍らには第四王女アンリエッタが座し、その白魚のような指で父の額の汗を拭っていた。彼女の纏う聖女としての光は、部屋の薄暗がりの中で一層神々しく輝いて見える。
「お父様……」
アンリエッタの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。それはまるで聖女の慈愛そのもののように見えたが、その奥にあるのは冷徹な計算だけだった。王の病は重い。だが聖魔法で治癒できないわけではない。要は、それをいかに高く売り付けるかだ。
「お父様、どうか……どうか私にすべてをお任せくださいませ」
アンリエッタは震える声で訴えた。その声は看病に疲れた娘の切実な響きを帯びていた。
「聖典には……古来より伝わる秘術が記されております。『房中術』と呼ばれるものです」
王の濁った瞳がわずかに開かれた。「房中術……?」
「はい。それは聖女の魔力を直接的に患者の体へ注ぎ込むための……肉体的な結合を伴う儀式でございます」
アンリエッタは言葉を詰まらせた。その仕草は初々しく、恥じらいに満ちていた。王の視線が彼女の胸元に吸い寄せられる。聖女の純白の法衣は控えめだが、その曲線は隠しきれない。
「私は…お父様の娘です。本来ならば許されない行為。しかも…私は聖女として守られるべき身でありながら、そのような穢れた行いに身を染めるなど……神への冒涜にございます」
彼女は顔を両手で覆い、嗚咽した。
「ですが! お父様がこのままお亡くなりになるのを見過ごすことなど……私にはできません!」
彼女は顔を上げた。その瞳は決意と悲しみに揺れていた。
「もしこれが私の恥知らずな振る舞いであるというのなら……どうか神よ私をお罰めください! 私は愛するお父様を救うためなら、この身を汚すことすら厭いませぬ!」
王の心は激しく揺れた。最愛の娘が自らの身を犠牲にしてまで父を救おうとしている。なんとけなげな娘なのだろう。王の目からも涙がこぼれた。
「アンリエッタ……お前は……」
「お父様!」
アンリエッタは王の手を両手で包み込んだ。
「今宵だけ……今宵だけは私を『アンリエッタ』と呼ばないでくださいませ。私を…母の名で…私を『リゼット』だと思ってください」
その言葉は王の理性を完全に崩壊させた。リゼット。愛してやまなかった女。失ってなお魂に刻み込まれた名前。
「リゼット……」
王はうわごとのように呟いた。その目には今の娘の姿ではなく、かつての愛しい修道女の幻影が映っていた。
アンリエッタはゆっくりと法衣の紐を解いた。衣が滑り落ちると、その下から現れたのは聖女とは思えないほど艶めかしい白い肌だった。月明かりに照らされたその肢体は美しくも妖艶だった。彼女は王の視線を受け止めながらも、恥ずかしそうに身を縮めてみせた。
「見ないでくださいませ……こんな姿……」
王の手が震えながら伸び、その肌に触れた。温かい。柔らかい。これは夢ではない。
「リゼット……私のリゼット……」
王はアンリエッタを抱きしめた。その力は病人とは思えないほど強かった。
「ああっ……お父様……いえ……アウグスト様……」
彼女の声は甘く痺れるようだった。王は狂ったように彼女の名を呼び続けた。
「リゼット! リゼット!」
その間もアンリエッタは冷静だった。王の背中に手を回し、聖魔法の回路を開く。魔力が王の体内に注ぎ込まれ、病を蝕み始める。王が彼女を求め、彼女がそれを受け入れたという事実。王のアンリエッタへの愛はもはや揺るぎないものとなる。
王の手がアンリエッタの豊満な乳房に伸びそのピンク色のつぼみに唇を寄せた。
舌先で乳房のつぼみを舐めてから強く吸った。
アンリエッタの白い肌が紅潮した。王はアンリエッタの股間に顔を埋め少女の陰核を舌で嬲り吸った。
「ああっアウグスト様❤️」
少女の股間から芳醇な乙女の液が溢れ出し王の顔を濡らした。
王は激しく指を入れ搔きまわした。少女の肉芽が勃起してきた。
王は獣の如く息を荒げながら一物を抜き出した。太く反り返り亀頭は膨らんでいた。
「お父様が元気になられて、アリエッタはうれしうございます。。」
アンリエッタは王の剛直を口に咥えた。舌を這わせ吸った。
口の中に先走り汁が出た。
「さぁ私の純潔を奪ってください!お父様、あああっいぎっ!お父様ぁぁーー!」
アンリエッタは王を仰向けにすると天を衝いている男根を白桃の如き股間に導き腰を沈めた。王の一物が花弁を割り裂いて侵入した。ズブズブと音を立てて飲み込んでいく。
アンリエッタは爪先でわざと女陰を傷つける。
少女の股間から処女を貫通した証の鮮血が流れた。
「あああ、、お父様が入ってくる!」
「ああああ、、リゼット、、いや、、アンリ アンリエッタ❤️お前は天使だ、天が私に遣わした天使だ!」
王はピストン運動を開始した。
パンパンパンと激しい音が鳴り響いた。
少女の尻は波打ち双乳は踊り跳ねた。
アンリエッタは喘ぎ叫んだ。
「ああっお父様!!」
王も限界に達した。「出すぞっ!全部受け止めろっ!」ドピュッドピューーーッドクンドクンビューーーーッビチャチャ!
大量の精液が膣内に放出された。熱い奔流を感じたアンリエッタは絶頂を迎えた。
「お父様 私の魔力をお受け取りください。イックゥーーーーッ!」ビクビクビクンッ
みずみずしいエネルギーが王の体に宿る。王は元気を取り戻した。
一度の激しい情交の後に、王は枕に沈み込むように荒い息を吐いていた。年老いた体には、先ほどの狂奔がこたえたはずだった。しかし、その濁った瞳にはまだ衰えない情念の火が燻ぶっている。
アンリエッタは王の胸に頬を寄せ、汗ばんだ肌に指を這わせた。聖女の魔力はすでに王の体内に満ち、病魔を駆逐しつつある。だが、王はただ癒やされるだけでは満足しなかった。執着。渇望。失った愛を、目の前の幻影に重ねて貪り尽くそうとする、哀れな老いの業。
「リゼット……もう少しだけ、私のそばに……」
王の手が震えながらアンリエッタの滑らかな背を這い、白い肩を引き寄せる。
「お父様……まだ、ご所望されるのですか?」
アンリエッタは小首をかしげ、恥じらいるように身を縮めた。その仕草は、昨晩初めて身を委ねた乙女そのものであった。褪せた寝衣の裾から覗く足の 間の割れ目、白濁を打ち込まれて花園が、月光の下で白く光る。
「お父様……いえ、今宵だけは」
アンリエッタは王の耳元に唇を寄せ、甘く囁いた。
「今宵だけは、お父様の『リゼット』にしてくださいませ。あなたが愛した女のように、あなたのすべてを私に注いでください」
王の理性は、その言葉によって完全に崩壊した。
「ああ、リゼット……!」
王は老いた体を起こし、再びアンリエッタに覆い被さった。先ほどの余韻に浸る間もなく、王の唇は彼女の首筋を貪り、乾いた手はその豊満な曲線を愛撫する。
「んっ……お父様、ああっ……!」
アンリエッタは演技めいた嬌声を漏らしつつ、王の白髪混じりの頭を自らの胸に抱き寄せた。その手は母親が我が子をあやすように優しく、一方で王を深淵へと突き落とす蜘蛛の糸のように残酷だった。
(この人は、母を愛していたのではない。母という存在にしがみついていただけ。孤独を恐れる臆病な老人よ)
王の情欲が再び燃え上がり、二人の肉体は再び交わった。月光だけが無言でその光景を見下ろしていた。
「ああ、ああ! リゼット、愛している、愛しているぞ……!」
王の悲痛な叫びが夜の寝所に響く。それは愛の言葉であると同時に、自身の罪悪感への懺悔であり、現実からの逃避だった。彼は現実の王位も、他の子供たちのことも忘れ、ただこの「リゼット」の中に抱かれている時だけ、生きている実感を得ているのだ。
アンリエッタはそんな王を抱きしめ返し、その背中を撫でながら、心の中で冷ややかに計算していた。
(この人が私に注ぐ愛の深さだけ、セレネ姉様への絶望も深くなる)
二度目の交わりが終わり、王は今度こそ深い眠りについた。その寝顔は、数日前の病に苦しむ老人のものではなく、満足げな赤子のようだった。
アンリエッタは静かに王の腕から抜け出し、乱れた寝衣を整えた。窓の外に目をやると、夜明けが近かった。
彼女は手元の古びた笛を取り出し、唇に当てた。音の出ない静寂の中で、彼女は心の中でその笛を鳴らしていた。それは復讐の歌だった。
「おやすみなさい、お父様。愛していますわ」
王の額に口づけを落とすその顔は、聖女そのものだった。
⭐️セレネ陥落
不祥事と悪評の嵐がセレネを苛んでいた。
新商税法の不正発覚以来、彼女の政治的影響力は見る影もなく縮んでいた。官僚たちは続々と距離を取り、かつて泣いて頼み込んできた新興貴族たちは会う約束すらくれなくなった。さらには不貞の噂。根も葉もない話だと百回は否定したが、否定すればするほど泥沼に沈んでいく。大臣たちの視線はどこか冷たく、侍女たちは目を合わせない。
「どうしてこうなった……」
セレネは自室の椅子に深く沈み込み、爪を噛んだ。
焦燥が判断力を蝕んでいた。
父王が病に倒れて十日。王宮中の関心は王の容体に集中している。だが、セレネには見舞いに赴く余裕などなかった。不貞の噂で顔を向けられない日々、政務会議での発言力の消失、支持者たちの離反。怒りと屈辱でまともな思考などできなかった。
そして十日後、王は回復した。
聖女アンリエッタの献身的な看病と聖魔法の賜物である、と王宮中に宣言された。王は自ら政務に復帰するや否や、病床で自分を救ってくれた末娘をこれまで以上に讃えた。
「アンリエッタは我がクライスト王家の宝である。神が我が家に遣わされた天使だ」
王の声は力強く、日々の政務会議で繰り返された。
「病に伏せている間、誰が私のそばにいたか知っているか? アンリエッタだ。私の額の汗を拭い、昼夜を問わず祈り続けてくれたのは、あの娘だけだった」
その言葉は、他の子供たちへの無言の叱責として響いた。
第一王子レオニードは軍務で遠征中だった。第二王子カシウスは商業都市の視察に出ていた。第一王女イザベラは同盟国を訪問中だった。そして第二王女セレネは、噂の件で王の顔を見るのが恐ろしかった。まともな理由の立たないセレネが、最も批判の矢面に立たされた。
事実、セレネは病の間一度も王を見舞っていなかった。
「……見舞いすらできない不孝な娘」
王はセレネの面前でそう吐き捨てた。
「父上……! 私は決して不孝など……!」
「言い訳は聞かぬ。お前は最近何をしておったのだ。法の不正は発覚した、不貞の噂は飛び交う、その上父の看病すらせぬ。お前に王家の誉などあるのか」
セレネは言葉を失った。否定したかった。法の不正は知らなかったことだ。不貞の噂は根も葉もない。看病は、ただ、怖かっただけだ。
だが、そんな言い訳が通用するはずもなかった。
セレネの政治的生命は、この時すでに終わっていた。
ーーだが、彼女はそれを受け入れるほど賢くはなかった。
セレネの館に三十人の影が集った。
夜風に揺れる蝋燭の灯りが、剣を帯びた男たちの顔を照らす。全員が傭兵だ。正規軍の制服など着ていないが、その体には歴戦の傷が刻まれている。
「ようございますわね、皆揃ったようですこと」
セレネは椅子に腰掛け、三十人の傭兵を見下ろした。かつての政治的叡智は失せ、その瞳には狂気が宿っていた。
「依頼は一つ。第三王女アンリエッタを排除すること」
「排除、とは殺せということで?」
傭兵の隊長格が問うた。
「ええ。聖女とて所詮は小娘。聖魔法とやらで結界を張ろうとも、三十人の剣で斬り殺せば死にます。寝室は夜の闇に紛れて襲いなさい。聖女の警備など高が知れているわ」
セレネは冷笑を浮かべた。計画は綿密だった。アンリエッタの寝室の位置、侍女の交代時間、巡回する衛兵の人数。すべてセレネの情報網が掴んでいた。
「成功すれば報酬は三倍にする。ただし、生きて返すな。目撃者が出たら皆殺しね」
「承知した」
隊長が頷き、傭兵たちが一斉に立ち上がったその時。
館の扉が、蹴り開けられた。
いや、正確には吹き飛んだ。
巨大な樫の扉が木片となって宙を舞い、その中から一つの影が飛び込んできた。
「よお、セレネ王女。こんな夜に賑やかな集まりだなぁ」
エステバンだった。
夜風に揺れる黒髪 輝く聖剣、その体躯は小柄なセレネの館の天井に届きそうなほど大きかった。
「なっ……! あなたはエステバン……!? なぜここに!?」
セレネが立ち上がった。
「なぜって? そりゃあ俺は聖女のイロでね。あいつに頼まれてちまったんだよなぁ。姉さんをぶち殺してくれって。」
エステバンは聖剣を肩に担いだ。
「あいつを殺そうとする奴は、全員俺が殺す。それだけの話だ」
「可笑しなことを! 私は王女ですよ! 王女の命令に逆らうつもり!?」
「王女様だろうが女王様だろうが、あのアバズレを傷つける奴は許さねぇ。」
エステバンはニカリと笑った。その笑顔は、子供のようで純粋で、しかし野生動物のそれでもあった。
「さぁて。お前ら三十人、運が悪かったな。ーー帰りたければ今のうちに跪いて許しを乞うがいい。アンリエッタ様は寛大なお方だから、本気で反省して土下座すれば許してくれるかもしれんぞ」
傭兵たちは顔を見合わせた。三十対一。数では勝っている。エステバンが勇者と呼ばれる実力者であることは知っているが、所詮は人間だ。三十人の剣士が束になってかかれば、いくら勇者でも勝てるわけがない。
隊長が剣を抜いた。
「ふん、御託はそれまでだ。ただの腕自慢だろ。三十人相手に勝てるわけがーー」
言い終わらぬうちに、エステバンは動いた。
速過ぎた。
ただそれだけだった。一瞬で目の前から消え、次の瞬間には隊長の胴体が両断されていた。
上体がゆっくりと滑り落ちる。下から溢れ出る鮮血が床に広がる。隊長の口から「ぐぶっ」という声が漏れ、それが最後だった。
「二十九人」
エステバンは大剣を振って血を払った。
「さぁて、次は誰だ?」
傭兵たちが一斉に剣を抜いた。怒号とともに殺到する三十人の剣士。だが、エステバンの聖剣はそのすべてを凌駕した。
横薙ぎの一振りで三人が吹き飛ぶ。返しの一振りで二人の首が飛ぶ。蹴りで一人の胸郭を粉砕し、背撃で背後から斬りかかった二人の首を砕く。
「はっはっは! これじゃあ練習にもならねぇぞ!」
エステバンは笑った。
豪快に、無邪気に。まるで子供が雪を蹴立て遊ぶように、彼は三十人の命を奪っていった。
「お前ら、剣がなってねぇな! 俺の師匠の剣舞を見習え!」
大剣が風を切るたびに、血飛沫が舞った。悲鳴が上がる。助けを求める声が上がる。だが、その声は次の瞬間には永遠に途絶える。
「ひっ……ひいいっ……!」
セレネは椅子の裏に隠れ、頭を抱えて震えていた。彼女の視界に映るのは、部下たちが次々と切り殺されていく光景だった。腕が飛び、足が砕け、頭が割れ、内臓が溢れ出す。床は血の海となり、エステバンの大剣は紅く染まっていった。
五分も経たなかった。
三十人の傭兵は、全員が動かなくなっていた。
床には四肢が転がり、天井には血飛沫が飛び散り、空気には鉄の臭いが充満していた。まだ生きている者もいたが、呻き声を上げるのみだった。
「ーー全員、終わっと」
エステバンは大剣を床に突き立て、血に濡れた手で顔を拭った。その笑顔には返り血がへばりついていたが、不思議と恐怖感はなかった。ただ、太陽のような明るさで立っているだけだった。
「さてと」
エステバンはゆっくりと歩き出した。血の海を足音も立てずに、まるで草原を散歩するように歩いていく。その先にあるのは、椅子の裏で震えるセレネだった。
「いや……来ないで……来ないで……!」
セレネは腰を抜かし、椅子から転がり落ちた。スカートに血が滲む。恐怖で失禁していた。
「セレネ王女」
エステバンの声は、不思議と穏やかだった。大剣を背負い直し、老いた王女の前にしゃがみ込む。
「あんたさぁ、どう落とし前つけたらいいと思う?」
「お願い……! お願いします……!」
セレネは血に濡れた床に手をつき、懇願した。かつて王宮で冷徹な政略家として君臨した第二王女の面影はどこにもない。あるのは死の恐怖に支配された一人の女だけだった。
「何でもするわ……! 何でも! お金ならいくらでも払う! 王室の金庫を開けてもいい! 領地でも爵位でも、望むものをすべて与你えます!」
エステバンは血に濡れた大剣を背に背負い直し、しゃがみ込んだ。その巨体が近づくだけで、セレネの体は小刻みに震えた。
「金か。まぁ悪くねぇな。だがよ、俺はあの金持ち貴族たちからも散々褒美を渡されてきた。金で命が買えるなら、俺はとっくに億万長者だ」
エステバンは血の海に片肘をつき、無造作にセレネの顎を持ち上げた。その手はまだ三十人の傭兵の血で濡れていた。赤黒い血液がセレネの白い顎を伝い、滑り落ちる。
「ひっ……!」
「だがよ、あんた面白いこと言ったな。俺の夫になって王族になれ、だっけ?」
エステバンはニカリと笑った。その笑顔には残酷な童心があった。
「あんた、自分が今どんな立場かわかってんのか? 三十人の傭兵に妹を殺させようとして、それがバレて、部下は全員死体。王女の威光なんてとっくに終わってんだぞ」
「でも……でも私は王女よ……! まだ……」
「まだ何だ?」
エステバンはセレネの顎を離し、代わりにその乱れた髪を一束指に絡めた。ゆっくりと引き寄せる。セレネは顔を近づけられ、恐怖に目を固く閉じた。
「なぁセレネ王女。俺さ、あんたのこと嫌いじゃないんだよ」
セレネは目を開けた。
「あんたは頭がいい。計算高い。俺には真似できねぇ。そういう女は嫌いじゃない」
エステバンの声は低く、唸るような響きがあった。
セレネの瞳に微かな希望の光が宿った。
「じゃあ……」
「ただよ」
エステバンはセレネの耳元に唇を寄せた。血の臭いと男の熱気を帯びた吐息が、白い耳朶を這った。
「俺は勇者だ。剣も強いが、女を抱くのも強い。ーーそうだなぁ、抱いてみて情が沸いたら考えてやるよ」
その言葉の意味を理解するのに、三秒かかった。
セレネの顔が紅潮した。羞恥と恐怖と、そして微かな安堵が入り混じった表情。
「あなたは……私を抱くの……?」
「あんたが望むならな。俺は優しくもできるし、優しくなくもできる。どっちがいい?」
セレネは震える手で自分のドレスの裾を掴んだ。
血と尿で汚れた高価な絹の布。かつて王宮で他の貴族女性たちを見下ろしていた華やかな衣装が、今はただの汚れ布に成り下がっていた。
ーー生き延びなければ。
セレネは震える指でドレスの紐を解いた。その手は恐怖で殆ど感覚がなかったが、解くべき動作は体が覚えていた。紐が解け、絹が滑り落ちる。白い肩が露わになり、続いて胸元のレースが覗いた。
「まぁ待て。ここじゃ血の臭いがすげぇ。奥の寝室でやろうぜ」
エステバンはセレネの腕を掴み、立たせた。足腰が立たないセレネを軽々と抱き上げ、血の海を越えて寝室へと運んだ。
寝室はまだ無事だった。蝋燭の灯りが柔らかく揺れ、天蓋つきの寝台が白いリネンに覆われている。王女の寝室にふさわしい優雅な空間。だがその静寂は、隣室の惨劇とは対照的だった。
エステバンはセレネを寝台に降ろした。シーツの冷たさが背中に伝わり、セレネは息を呑んだ。
「さぁ、続けて」
エステバンは壁に寄りかかり、腕を組んだ。その姿はまるで観客だ。血に濡れた鎧を着たまま、寝台上の王女を見下ろしている。
セレネは震える手でドレスを脱ぎ続けた。腕が袖を抜け、腰のベルトが外れ、残りの布が滑り落ちた。白い肌が蝋燭の光に照らされ、その滑らかな曲線が浮かび上がる。
四十を超えた女の体には、若いアンリエッタのような初々しさはない。だが、成熟した女の肉体が持つ深い艶があった。豊かな乳房、くびれた腰、女性らしい丸みを帯びた臀。それは王宮で多くの男の目を惹きつけてきた体だった。
「下もだ」
エステバンは短く言った。
セレネは目を閉じ、最後の布を脱ぎ捨てた。生まれたままの姿が露わになる。足を閉じ、体を縮めて隠そうとするその仕草は、王女ではなくただの女だった。
エステバンはゆっくりと近づいた。寝台の縁に腰掛け、セレネの顎を再び持ち上げた。
「目を開けろ」
セレネは言われた通りにした。目の前にエステバンの顔があった。返り血がへばりついたその顔は、醜くもあり、同時に奇妙な男らしさがあった。
「恐怖だけじゃ抱けねぇよ。お前が俺を欲しいって言うなら、そう言え」
「……」
「言え」
「……私を抱いて。お願い。あなたを欲しいの……!」
セレネの声は震えていたが、その中に切実な響きがあった。生きるためなら何でもする。それが嘘であっても、今この瞬間だけは本音だった。
エステバンは血に濡れた鎧を脱ぎ捨てた。一つ一つの留め具を外すたびに、その鋼のような筋肉が露わになっていく。傷だらけの体。傭兵として、勇者として、無数の戦場を生き抜いてきた男の体。
最後に下帯を解いたとき、セレネの目は大きく見開かれた。
「っ……!」
そこに現れたのは、人間のものとは思えないほど巨大な男の証だった。太く、長く、鎌首をもたげて脈打つその姿は、まさに猛獣のそれだった。英雄の肉体にふさわしい、破壊的な一物。
セレネは本能的な恐怖を覚えた。あのようなものを受け入れるなど、体が裂けてしまうのではないかという原始的な畏怖。
だが同時に、別の感情が腰の奥から湧き上がってきた。
熱い。
体の芯が熱くなる。太ももの内側が湿り気を帯び始める。
セレネは自分の体の変化に戸惑った。恐怖の中に混じるこの感覚は何なのか。
「ほう。俺のを見て、顔が赤くなったな」
エステバンは笑った。セレネの視線がそこから離せないことを察したのだ。
「いや……! そんなことは……!」
「嘘つけ。目が釘付けだぞ。お前、こういうのが好きなんだろ」
「違うわ……!」
「じゃあなんで濡れてんだ?」
エステバンの指がセレネの太ももを這い、その中心に触れた。指先に粘り気のある液体が絡みつく。
「あっ……!」
セレネは体を跳ねさせた。声が裏返った。
「ほら、ここが。嘘つきな王女様だなぁ」
エステバンは濡れた指をセレネの目の前にかざした。蝋燭の光に照らされた指の先には、透明な糸を引く愛液が絡んでいた。
「いやぁ……! 見ないで……!」
「見てほしいんだろ? 俺のを見て濡れたくせに」
エステバンは寝台に上がり込み、セレネの両脚を強引に開いた。王女の最も秘められた部分が、蝋燭の光の下で晒された。茂る陰毛の間から覗く秘裂は、すでに濡れて光っていた。
「やめて……! そんな……王女の私に……!」
「王女の前で三十人斬った男だぞ。王女とか関係あるかよ」
エステバンの顔がセレネの股間に埋められた。舌が秘裂をなぞり、花弁を割ってその奥へと潛り込んだ。
「ああっ……! あああっ!」
セレネは背を反らせた。エステバンの舌は荒々しかった。丁寧な愛撫などしない。獣が獲物を貪るような、本能的な舌使い。だがそれが、セレネの体の奥で眠っていた何かを叩き起こした。
「いや……いやぁ……! こんな……王女の私が……こんな野蛮な男に……!」
口では拒絶するが、体は拒絶しなかった。腰が無意識に揺れ、エステバンの舌をより深く求めていた。太ももがエステバンの頭を挟み、指がその黒髪に食い込む。
「はっはっは! 口では嫌がってるが、体は正直だな!」
エステバンは舌を離し、代わりに太い指を二本、秘所に挿入した。肉壁がきつく指を締め付ける。
「あぐっ……! あっあっあっ……!」
「けっこうきついな。王女様は使ってなかったのか?」
「うるさい……! うるさいわ……! ああっ! そこ……そこは……!」
エステバンの指が肉壁の内側をかき回すたび、セレネの口からは王女らしからぬ卑語が漏れ始めた。
「ああっ! あっ! いい……! そこ……そこがいい……!」
セレネの体が跳ね上がった。エステバンの指が敏感な場所を見つけ、執拗に攻めたてたのだ。親指で陰核を擦りながら、二本の指で内部を掻き回す。その手つきは荒っぽいが、的確だった。
「いや……! いく……! いくわ……! こんな男に……! 王女の私が……! あああああああっ!!」
セレネが絶頂した。背を反らし、太ももを震わせ、盛大に潮を吹いた。液体がエステバンの胸を濡らす。
「はっはっは! すげぇ潮だな。王女様は豪快だ」
エステバンは笑いながら立ち上がった。その巨体が寝台の上に覆い被さる。セレネは絶頂の余韻で朦朧としながらも、目の前に迫る巨大な男の証に再び戦慄した。
「さぁて。本番だ」
エステバンはセレネの両脚を肩に担ぎ、猛々しい一物を秘裂にあてがった。亀頭が濡れた花弁を押し広げ、ゆっくりと押し込んでいく。
「あぐっ……! ああっ……! 大きい……! 大きすぎる……! 裂ける……! 裂けちゃう……!」
「まだ先端だぞ。お前の中、きつすぎるわ。使ってなかったのは本当だな」
エステバンは腰を進めた。太い男根が肉壁を押し広げ、深く深く侵入していく。セレネの内部は未経験に近いほどきつく、エステバンの巨物を受け入れるには狭すぎた。
「いや……! 入らない……! 入らないわ……! ああっ! ああああっ!」
「入る。入れてやるよ」
エステバンは一気に腰を沈めた。セレネの体が弓なりに反り、口から悲鳴がほとばしった。
「ああああああああああああっ!!!」
完全に埋まった。エステバンの男根は子宮の入り口まで到達し、セレネの内部を完全に満たしていた。セレネの腹がわずかに膨らんで見えるほどだった。
「どうだ? 入ったぞ」
「ああ……! ああ……! 大きい……! おおきい……! こんな……! こんなの入ってる……! お腹が……お腹がいっぱい……!」
セレネは涙を流していた。痛みと、そして痛みを超えた快楽。これまで一度も知らなかった感覚に、王女の理性が溶け始めた。
エステバンはゆっくりと腰を動かし始めた。最初は優しく。だが次第に速度を上げ、深く、激しく。
「あっあっあっあっあっ……!」
セレネの声がリズムを刻む。寝台がきしむ音、肉がぶつかる音、液体の音が交じり合い、淫らな交響曲を奏でる。
「お前、意外といい声で鳴くな。王女様の喘ぎ声ってのは初めて聞いたが、最高だぞ」
「いや……! 悪口を……! 悪口を言わないで……! ああっ! あっ! そこ……! そこを擦って……!」
「ここか?」
エステバンはわざと敏感な場所を亀頭で押した。セレネは悲鳴にも似た嬌声を上げた。
「あああっ! そこ……! そこがいい……! そこが一番いい……!」
「素直じゃねぇか。さっきまで嫌だ嫌だと言ってたのにな」
「だって……! だってこんな……! こんなの知らなかった……! ああっ! おおきい……! おおきすぎる……! お腹が……お腹がぐちゃぐちゃにされる……!」
セレネの言葉はもはや王女のものではなかった。目は潤み、口元には涎が伝い、豊満な乳房は激しいピストン運動に合わせて波打ち揺れた。エステバンの手がその乳房を掴み、乳首を指で弾く。
「ああっ! 乳首……! 乳首もいじらないで……! あああっ! だめ……! だめぇ……! 両方されたら……! だめになっちゃう……!」
「だめになるのがいいんだろ?」
エステバンは腰の動きをさらに加速させた。肉がぶつかる音が激しくなり、寝台が軋み、セレネの嬌声が高くなる。
「ああっ! あああっ! だめ……! だめ……! いく……! またいく……! こんな野蛮な男に……! 王女の私が……! いく……! いくうううううううううううっ!!」
二度目の絶頂。セレネの体が痙攣し、内部がエステバンを激しく締め付けた。
エステバンもその締め付けに耐えかね、低く唸った。
「くっ……! きついな……! 出すぞ……!」
「だめ……! 中には……! 中には出さないで……! 王女なのに……! 子が……! 子ができたら……!」
「できるかよ。お前の身体は俺ので遊ぶためのものだ」
エステバンはセレネの腰を強く掴み、最奥に向けて一気に突き入れた。セレネの口から声が出なかった。あまりの深さに、息が止まる。
そしてエステバンが放った。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
ドピュッドピューーーッ
熱い奔流がセレネの子宮を満たした。今まで味わったことのない熱さ。セレネはその熱に触れた瞬間、三度目の絶頂に達した。
「ああ……! あああ……! 熱い……! 熱いわ……! おなかに……おなかに精が入ってくる……! ああああああっ!!」
二人の体が重なり合ったまま、荒い息を吐いた。セレネの目から涙が溢れ、その表情は快楽に溶けていた。王女の仮面も、冷徹な政略家の顔も、すべてが砕け散った。あるのはただ、男の腕の中で震える一匹の雌だった。
「はぁ……はぁ……! あなたは……あなたは化け物だわ……!」
「お褒めの言葉として受け取っとくぜ」
エステバンは寝台に横たわったまま、天井を見上げた。セレネはその胸にすがりついていた。その手はもう震えていなかった。代わりに、エステバンの筋肉に指を這わせ、その温かさを貪るように触れていた。
「……抱いてみて、情は沸いた?」
セレネは上目遣いで問うた。その目には、恐怖ではなく、別の光が宿っていた。執着。依存。そして微かな欲望。
「さぁな。まぁ、悪くはなかったぜ」
エステバンはニカリと笑った。
「あんたに提案がある」
エステバンは寝台の上で腕枕をしながら天井を見上げていた。セレネはその胸に頬を寄せ、汗ばんだ肌の温もりに本能しがみついていた。恐怖は消えていない。だが恐怖の隣に、得体の知れない安堵が生まれていた。この男の腕の中にいる限り、死ぬことはない。その事実だけがセレネの世界を繋ぎ止めていた。
「提案?」
「王女をやめろ」
セレネは体を起こした。シーツが滑り落ち、白い胸が露わになる。だが今のセレネにはそれを隠す羞恥心すら残っていなかった。
「どういう意味……?」
「言葉通りの意味だ。セレネ王女は父王への謀反を企て俺様に成敗されて死んだことにする。代わりに新しい女になる。名前も、身分も、過去も全部捨てる」
セレネは呆然とエステバンを見つめた。
「新しい……女?」
「カスバの宿って知ってるか?」
セレネの顔が強張った。カスバの宿。王都の裏通りにひっそりと佇む、悪名高き紳士の社交場。表向きは高級料理屋だが、裏では身分を隠した貴族や富裕層の商人が女を買う場所として知られている。王宮の者なら誰でも知っている。そして誰もが蔑む場所。
「そこで娼婦になれ。名前はセレーヌ。俺の女だ。俺に貢げ。」
「あなた……正気……?」
セレネの声が震えた。「私は王女よ……! クライスト王家の第二王女……! そんな場所で……そんな……」
「あんた王女じゃないだろ。もう」
エステバンは淡々と言った。
「三十人の傭兵に妹を殺させようとした。部下は全員死体。王宮に戻れば反逆罪で処刑だ。父王はもうあんたを見限ってる。兄たちも助けない。あんたに残されてるのはこの命だけだ」
その言葉は一つ一つが刃だった。セレネは唇を噛み、何も言えなかった。だからエステバンの言う通りだったから。
「生きたかったら、生きる手段を選べ。カスバの宿なら身分を隠して働ける。あそこは客人の素性を詮索しない。顔も知られてない。あんたの顔を知ってるのは王宮の連中だけだ、裏通りの奴らは王女の顔なんて見たこともない」
「でも……娼婦なんて……!」
「昨日、俺に抱かれて何度もいったくせに何を今更」エステバンは鼻で笑った。「あんた、王女のプライドより生きてる方が大事だろ。それに」
エステバンはセレネの顎を持ち上げ、覗き込んだ。
「あんた、俺に抱かれて嫌だったか?」
セレネは目を逸らした。嫌ではなかった。あれは恐怖だけの行為ではなかった。体の奥底で何かが目覚めた。王宮で一度も知らなかった感覚。純粋な肉体の快楽。政治的駆け引きのない、ただの肉と肉のぶつかり合い。
「……嫌では、なかったわ」
「だろ。だったら問題ない」
エステバンは潔かった。
「俺はあんたを守る。誰にも手出しさせない。その代わりあんたは俺に貢げ。それが条件だ。生きたかったら受けるんだな」
セレネは長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「分かったわ……。セレーヌになるわ」
その瞬間、セレネ王女は死んだ。
カスバの宿は、期待していたよりはましだった。
王都の裏通り、古びた石造りの建物の地下。入り口は目立たないが、内装は意外と清潔だった。赤い絨毯、重厚な家具、柔らかな照明。娼館というよりは秘密の社交サロンの雰囲気がある。
女将ドナ・ロザリアは五十代の太った女で、元は旅芸者の踊り子だったという。化粧の濃い顔には人生の苦労が刻まれているが、目は温かかった。
「あんたがエステバンの連れてきた子かい?」
ロザリアはセレーヌ——元セレネ王女を頭の先から足の先までじろじろと見た。
「いい体してるねえ。肌も白い。どこのお姫様だい?」
「……ただの女よ」
「はいはい、ここに来る子はみんなそう言うんだよ」
ロザリアは笑った。
「名前は?」
「セレーヌ」
「ふん。いい名だ。洒落てる。ーーよし、今日からあんたはうちの子だ。最初は客の相手ができるようになるまで、見習いだ。掃除、洗濯、料理、全部やってもらう。文句は言わないよ」
セレネ——セレーヌは黙って頷いた。
最初の三日は地獄だった。
掃除。洗濯。厨房の下働き。王宮で一度も自分の手を動かしたことのない女にとって、すべての作業が苦行だった。手は荒れ、腰は痛み、夜にはベッドに倒れ込むように眠った。
だが不思議なことに、心地よかった。
王宮では常に誰かの目があった。侍女の視線、貴族たちの評価、父王の期待。すべてが重かった。だがカスバの宿では誰もセレーヌの過去を知らない。彼女はただの新人の娼婦見習い。誰も彼女に王女らしくあれと言わない。誰も彼女の背後の陰謀を探らない。
ただ働き、ただ食べて、ただ寝る。
それはセレーヌにとって初めての自由だった。
四日目にロザリアが言った。
「今日から客の相手をしな。あんたの体ならすぐに人気が出る」
セレーヌは小さく息を吸い、頷いた。
最初の客は太った商人だった。年は六十に近い。禿げ頭に汗ばんだ顔。高価な絹の服を着ているが、動作は粗野だった。
「ほう、新顔か。いい女だな」
商人はセレーヌの体を舐めるように見た。その視線に、かつてのセレネ王女なら嫌悪で顔を歪めただろう。だがセレーヌは微笑んだ。
「ようこそお越し下さいました。私はセレーヌと申します」
その微笑みは作り物ではなかった。不思議なことに、セレーヌはこの瞬間に安らいでいた。王宮での作り笑いとは違う。
客の欲望に応えるという単純な行為は、政務会議での駆け引きよりはるかに分かりやすかった。
「名前なんてどうでもいい。さぁ、服を脱いでくれ」
「はい、承知いたしました」
セレーヌはゆっくりと服を脱いだ。商人の目が彼女の体に釘付けになる。その視線を感じながら、セレーヌはふと思った。
王宮では、誰も私を見なかった。
父王はアンリエッタしか見なかった。兄たちは王位しか見なかった。姉たちは自分の敵でしかなかった。貴族たちは私の背後の権力しか見なかった。
だがここでは、男たちが私そのものを見る。
私の肌を。私の匂いを。私の温もりを。
それは原始的ながら、確かな実感だった。私は一人の女として見られている。
商人はセレーヌを寝台に押し倒した。セレーヌは目を閉じ、エステバンに教えられたことを思い出した。客を満足させる。それが仕事だ。そしてその仕事は、かつての政務よりはるかに単純で、はるかに正直だった。
商人の手がセレーヌの体を這った。決して器用ではない手つきだが、そこには純粋な欲望があった。嘘も策略も計算もない。ただ「女が欲しい」という直線的な渇望。
「ああ……セレーヌ……いい体だ……」
「ありがとうございます……あなた様も……とても熱いですね……」
セレーヌは声を弾ませた。商人は嬉しそうに笑い、セレーヌに覆い被さった。
事後、商人は満足げに服を着ながら言った。
「また来るよ。次はもっと長く楽しませてくれ」
「お待ちしております」
セレーヌは寝台の上で微笑んだ。商人は銀貨を三枚枕元に置いて出て行った。
ロザリアが部屋に入ってきて、銀貨を確認した。
「いい仕事ぶりだ。あの客、ここ三年で初めてリピートを約束したよ」
セレーヌは驚いた。「三年も?」
「ああ。あの男は特に味がうるさいんだ。今までどの娘にも満足しなかった。あんた、才能あるよ」
ロザリアは笑いながらセレーヌの頭を撫でた。その手は粗いが温かかった。
「これからが楽しみだねえ」
一ヶ月が経った。
カスバの宿でセレーヌの名前は広まり始めた。
噂は口から口へと伝わった。「王女のような気品がある娼婦がいる」と。
客たちは競ってセレーヌを指名した。最初は近隣の商人や職人、小規模な貴族の次男たち。だが次第に、身分を隠した高位の貴族や、遠方からわざわざ足を運ぶ富裕層まで現れた。
「あの女はただの娼婦じゃない。どこかの貴族の娘だという噂だ」
「王女に似ているという話だ」
「まさか本物の王女なわけがないだろう」
噂は尾ひれがつき、やがて一つの都市伝説になった。「カスバの宿には、落ちぶれた王女がいる」
もちろん誰も本気で信じはしなかった。王女が裏通りの娼館で働くなどあり得ない。だが「あり得ない」からこそ面白い。客たちはその妄想を楽しんだ。
セレーヌ自身はその噂を聞いて苦笑した。彼女の肌に触れ、彼女の声を聞き、彼女の温もりを感じた男たちは、知らず知らずのうちに本物の王女に抱かれていたのだ。
その事実はセレーヌだけの秘密だった。
エステバンは相変わらずセレーヌに貢がれていた。稼いだ銀貨の半分をエステバンに渡す。エステバンはそれを当然のように受け取る。エステバンの女。その言葉は裏通りにおいて最強の護符だった。
「おいセレーヌ、今月の分だ」
セレーヌは布袋に銀貨を詰め、エステバンに渡した。エステバンは中身を確認せず懐に放り込んだ。
「ありがとよ。ーーで、お前、元気そうだな」
「ええ、おかげさまで」
セレーヌは微笑んだ。その微笑みには王宮時代の冷徹さはなかった。代わりに、日々の労働と人との触れ合いの中で培われた、自然な温かさがあった。
「お前さ、最初は嫌がってたのに、今は結構楽しんでるだろ」
「……バレてる?」
「バレバレだ」
エステバンは笑った。
「お前の声、前よりずっと明るくなった。カスバの宿がお似合いだったんだな」
「そうね。意外だけど」
セレーヌは窓の外を見た。裏通りの狭い空。王宮の庭園とは比べ物にならない。だがこの空は、王宮の空よりずっと広く感じられた。
「王宮ではね、常に誰かの目があったの。誰かが私を評価していた。私の言葉、私の服装、私の行動、すべてが政治的な意味を持っていた。笑うことも、泣くことも、怒ることも自由じゃなかった」
「ここでは?」
「ここでは、ただ私が私でいいだけ。客が喜べばそれでいい。簡単で、正直で、楽だわ」
エステバンはニカリと笑った。
「お前、変わったな。いい方向に」
「あなたのおかげよ」
「はっ、礼なんていいよ。俺はただ俺の都合であんたをここに置いただけだ」
エステバンは照れ隠しのように鼻をこすり、立ち上がった。
「じゃあな。また来月」
「ええ。また」
エステバンが去った後、セレーヌは寝台に腰掛け、手鏡を取り出した。鏡に映る自分の顔。王宮時代の冷たい美貌は、日々の労働と規則正しい生活で健康的な輝きを取り戻していた。頬が赤みを帯び、目に活気が宿る。
「セレーヌ……」
自分の新しい名前を口にする。かつてその名を告げたとき、喉の奥から苦いものが込み上げた。だが今は違う。その名は今の自分にしっくりと馴染んでいた。
セレネ王女は死んだ。だがセレーヌは生きている。
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三ヶ月後、セレーヌはカスバの宿の売れっ子になっていた。
指名は毎晩埋まり、予約を取るのに一週間待たなければならない日もあった。客たちはこぞって彼女を褒め称えた。
「あの気品はどこから来るのだ?」
「まるで王女に抱かれているようだ」
「目が違う。他の娘とは違う。深い悲しみと、それを乗り越えた強さがある」
セレーヌは客の言葉に笑顔で応じた。その笑顔は、かつて王宮で披露した冷徹な計算の笑みではない。日々の生活の中で自然に生まれた、本当の笑みだった。
ロザリアはセレーヌを自信を持って「うちの看板娘」と呼ぶようになった。
「あんたのおかげでうちの宿の売上が三倍になったよ。感謝しなくちゃならないね」
「そんな、私こそここに置いてもらえて感謝してます」
「いやねえ、あんたは特別だよ。あんたの客はみんな幸せそうに帰る。ただ体を売ってるだけじゃない。心も売ってるんだろう?」
セレーヌは少し考えてから答えた。
「……そうかもしれません。お客様の話を聞くのが好きなの。誰も聞いてくれない話を、私にだけ話してくれる。それが嬉しいの」
「あんた、本当は娼婦じゃなくて聴き上手なだけなんじゃないかい?」
ロザリアは大笑いした。
セレーヌもつられて笑った。
その笑い声は、王宮の華やかな晩餐会で響いたものとはまるで違った。軽く、温かく、どこまでも澄んでいた。
その日もセレーヌはいつも通り、午後の準備をしていた。
髪を整え、薄化粧をし、客を迎えるための衣装を選ぶ。赤のドレスか、それとも青のドレスか。客の好みに合わせて選ぶ。それは王宮で政治的な意図を込めて衣装を選んだこととは違う。ただ相手を喜ばせるための、純粋な気遣いだった。
「セレーヌ、今日の最初の客は予約なしの飛び込みだよ」
ロザリアがのれんの向こうから声をかけた。
「名前は?」
「マチュー。職人の親方だってさ。大工らしいよ。初めてだって」
「分かったわ」
セレーヌは鏡の前で最後にもう一度自分の顔を確認し、部屋を出た。
受付の部屋で待っていたのは、三十代半ばほどの男だった。がっちりとした体格、日焼けした肌、節くれだった大きな手。大工職人の手だ。服装は質素だが清潔。髪は短く刈り込まれ、髭はきちんと整えられている。どこにでもいそうな、ごく普通の職人だった。
「ようこそお越し下さいました。私はセレーヌと申します」
セレーヌは微笑んで挨拶した。男は慌てたように立ち上がった。
「あ、あの、俺、マチューです。大工の……あの、こういう場所は初めてで……」
「緊張しないでください。ゆっくりしてお寛ぎくださいませ」
セレーヌの言葉にマチューはほっとしたように肩の力を抜いた。
「あの、実は俺、ここに来る勇気がなくて三ヶ月も前からこの前の通りをうろうろしてたんです」
「三ヶ月?」
「はい。仕事仲間に連れて行かれたのが最初で、その時は別の娘だったんですけど……その、俺、女が苦手で……」
マチューは照れくさそうに頭をかいた。
「でも今日、セレーヌさんの話を聞いて、思い切って……」
「ありがとうございます。その勇気を無駄にしないようにいたしますわ」
セレーヌは微笑んだ。その微笑みに、マチューの顔が真っ赤になった。
寝室に入り、セレーヌはいつも通り服を脱ごうとした。だがマチューは手を振って止めた。
「あの、待ってください。その……すぐにそういうことをするのは、俺、その……」
「慌てなくていいのですよ」
セレーヌは寝台の縁に腰掛け、マチューの隣に座った。マチューの体からは木屑と汗の匂いがした。決して上品な匂いではない。だが、不思議と嫌ではなかった。嘘のない匂いだと思った。
「マチュー様は、どうしてここに?」
「……話相手が欲しかったんです、正直に言うと」
「話相手?」
「はい。俺、ずっと一人で暮らしてて。仕事は好きです。木を切って、削って、組み立てて、家を作る。それは幸せです。でも夜帰ると、誰もいなくて」
マチューは膝の上で手を組んだ。その大きな手が微かに震えていた。
「女が苦手で、知り合うきっかけもなくて。三十半ば過ぎて、このままずっと一人なのかなって」
「寂しかったのですね」
セレーヌは言った。その言葉は演技ではなかった。王宮で誰にも理解されなかった孤独。カスバの宿に来てようやく消えたその孤独を、セレーヌは知っていた。
「……はい。寂しかったです」
マチューは小さく頷いた。
「ここに来れば、誰かが話を聞いてくれるって聞いて。でも、ただ話を聞いてもらうだけじゃ申し訳なくて、だから……」
「何も申し訳なくなんてないですわ。話を聞くこと、それが私の仕事の一部ですから」
セレーヌはマチューの手にそっと触れた。その手は大きく、粗く、木屑が食い込んでいた。だが温かかった。
「何でも話してください。私は聞きますから」
マチューはその夜、語った。
幼い頃に両親を疫病で失ったこと。大工の親方に拾われて弟子入りしたこと。親方が死んだあと工房を継いだこと。弟子が二人いること。最近手掛けた家の梁が美しく仕上がって嬉しかったこと。好きな酒の銘柄。朝の散歩で見かけた野良猫。
セレーヌは黙って聞いた。相槌を打ち、時折微笑み、時折質問をした。それだけだった。
夜が更け、マチューはふと我に返った。
「……あの、俺、お金を払って話をしてるだけなんですね。すみません」
「何も謝ることありません。嬉しかったです、私も」
セレーヌは微笑んだ。
「また来てくださいますか?」
「いいんですか?」
「ええ。次は大工の話をもっと聞かせてください。興味があるのです」
マチューの顔がぱっと明るくなった。それは子供のような、純粋な喜びの表情だった。
「はい! また来ます!」
マチューは銀貨を三枚置いて帰って行った。寝室には何も起きなかった。ただ話をして、笑って、別れた。それだけの夜だった。
---
マチューはその後、毎週木曜日にカスバの宿を訪れるようになった。
毎回、セレーヌの部屋に一時間ほど滞在し、仕事の話をし、近所の猫の話をし、最近作った家具の話をした。そして毎回、銀貨を三枚置いて帰った。
セレーヌは他の客の相手も変わらず続けていた。だが木曜日だけは、なぜか心が浮き立った。
三ヶ月が経ったある木曜日。
マチューはいつも通り話を終え、立ち上がった。だがドアの前で足を止めた。
「セレーヌさん」
「はい?」
マチューは振り返った。その顔は真剣だった。
「俺、あなたのことが好きです」
セレーヌは息を止めた。
「俺、あなたをここから連れ出したい。俺の妻になってほしい」
「マチュー様……」
「俺は金持ちじゃない。大きな家も建てられない。でも、小さくても温かい家は作れる。ご飯も俺が作れるし、冬は暖炉の火を絶やさない。あなたを幸せにできるかは分からないけど、少なくとも一人にはさせない」
マチューの言葉は拙かった。だが、その一言一言に嘘はなかった。王宮で聞いたどの言葉よりも、カスバの宿で聞いたどの甘い言葉よりも、真っ直ぐで、温かかった。
セレーヌの目から涙がこぼれた。
「私……私、言わなきゃいけないことがあるの」
「何ですか?」
「私はね、本当は……王女だったの」
沈黙が落ちた。
マチューは目を丸くした。だが、すぐに表情は戻った。
「王女?」
「クライスト王家の第二王女、セレネ。あなたが知っているセレーヌは作られた名前なの。私は本当は王女で、でも……妹を殺そうとして、失敗して、ここに逃げてきた」
マチューは黙って聞いていた。
「私の過去は汚れているわ。人を殺そうとした。権力争いに明け暮れた。あなたが知っている私の気品は、王宮で育ったからなの。でもそれは同時に、私がどれだけ残酷な人間だったかの証でもある」
「……それで?」
マチューは静かに問うた。
「それで? だけ?」
「え?」
「俺はあなたに過去を聞いてない。俺はあなたが好きなんだ。セレーヌさん。過去がどうあろうと、今のあなたが好きなんだ」
「でも……」
「王女だろうが娼婦だろうが、俺には関係ない。俺はあなたと話してる時が一番楽しい。それだけで十分だ」
マチューは大きくて粗い手を差し出した。
「俺と一緒に帰ろう」
セレーヌはその手を見つめた。木屑の食い込んだ、節くれだった、温かい手。
この手は、王冠を捧げたことがない。領地を約束したことがない。権力も地位も約束できない。
だがこの手は、誰よりも真っ直ぐに差し伸べられていた。
セレーヌは泣きながら笑った。
「はい」
意外にもエステバンは彼女が宿を抜けることを止める事はなかった。むしろずっしりと銀貨の入った皮袋を選別として渡してきた。それは今まで彼に貢いできた金だった。
カスバの宿を去る日、ロザリアはセレーヌを抱きしめた。
「あんた、幸せになりなよ」
「ありがとう、女将さん。あなたのおかげで私、生きられたわ」
「ばか。あんたの才能だよ」
ロザリアは涙を拭き、背中を叩いた。
「マチューによろしく。あいつがまた来たら追い出してやるから」
セレーヌは笑った。そしてカスバの宿を出た。
王都の郊外、職人街の小さな家。
マチューが自ら設計し、自ら建てた家だった。決して大きくはない。二部屋と台所、小さな庭。だが梁は美しく、窓は風通しがよく、冬は暖炉が温かい。
「ただいま」
「おかえりなさい」
セレーヌはエプロンをつけ、台所から出てきた。手には小麦粉がついている。
「今日はパンを焼いてみたの」
「おお、すごいな。俺の嫁は料理もできるのか」
「……昨日初めて成功したのよ。それまで三回失敗したけど」
「はっはっは! 俺の弟子にも負けない努力だな」
二人は笑い合った。
庭には小さな菜園があった。
セレーヌが春に植えた野菜が育っていた。隣の家からは猫が遊びに来る。かつて裏通りの宿で客に囲まれていた女は今、小さな家で夫の帰りを待つ妻だった。
夜、セレーヌはマチューの腕の中で眠る。
かつて彼女は王宮で権力に翻弄された。父王の愛を求め兄たちの陰謀に巻き込まれ、妹を憎んだ。そして妹を殺そうとした。彼女の過去は確かに暗く穢れている。
だが今は違う。
彼女はセレーヌとして生きている。
誰も彼女の過去を知らない。知っているのはマチューだけ。マチューはすべてを知った上で、それでも好きだと言った。
「幸せ?」
マチューが眠る直前に問う。
「ええ、とても」
セレーヌは答える。
それは本当だった。
数年後。
職人街に「マチュー工房」の看板を掲げた家があった。二人の弟子を抱え、質の高い家具を作っていると評判の小さな工房だ。
その工房の隣にはいつも花が咲いている。
朝になると、その家の女主人が市場へ買い物に出かける。彼女はいつも微笑んでいて、近所の子供たちに菓子を配る。
「おはよう、マチュー夫人」
「おはようございます」
セレーヌは笑顔で挨拶する。
その顔には、かつての王女としての冷徹な影は微塵もなかった。あるのはただ、小さな幸せを守りながら生きる一人の女性の顔だった。
かつてカスバの宿では「王女のような娼婦」と噂された女。
今では「マチュー夫人」とだけ呼ばれている。
それでよかった。
それがセレーヌの選んだ道だった。