外道勇者と性悪ビッチ聖女『偽善の聖剣、背徳の聖杖』 作:みなぽん
山岳国家ルイカザーワの悲劇
第一章 誰もドラゴンとは戦わない
クライスト王国の東。
幾重もの険しい山脈を越えた先に、山岳国家ルイカザーワは存在していた。
空を突く岩山。
雪に覆われた峠。
切り立った谷底を流れる激流。
平地が少ないため、街は山肌にへばりつくように築かれ、石造りの家々が斜面を埋めている。
鉱山と鍛冶、山道を行き交う商人たちによって栄えてきた、強い国だった。
少なくとも、人間同士が戦う限りは。
ルイカザーワの冒険者ギルドにも、オーガやワイバーンを倒した腕自慢は揃っていた。中には、キガンテスを討伐したという男もいる。
だが、その日の朝。
掲示板に貼られた依頼書を見た瞬間、誰もが口を閉ざした。
――ドラゴン討伐。
報酬は金貨数百枚。王侯貴族ですら簡単には用意できない大金だった。
それでも、依頼書に近づく者はいなかった。
「……誰か、いませんか」
受付嬢のアリサが声を張った。
彼女はクライスト王国から派遣されたギルド嬢で、ルイカザーワの人間ではない。だからこそ、国境を越えて届いた緊急依頼を冷静に処理しなければならなかった。
だが、依頼書を握る指は震えていた。
「ドラゴンが出たんです。南東部の街が襲われています。軍も動いていますが、被害が広がっている。街にはまだ、多くの住民が取り残されています」
沈黙が落ちた。
「討伐隊に参加してくれる方はいませんか?」
一人の中年冒険者が酒杯を置いた。
「嬢ちゃん。それは討伐依頼じゃない」
男は乾いた笑みを浮かべた。
「自殺志願者の募集だ」
誰も責めなかった。
ドラゴンは、人間が剣や盾、魔法を身につけたところでどうにかなる相手ではない。硬い鱗、巨大な翼、山を崩す膂力、そして炎や雷などの超常の力。
「俺は行かない」
「俺もだ」
「俺たちは英雄じゃない。生きて帰るために冒険者をやってるんだ」
その言葉は冷たかった。
しかし、正しかった。
アリサにも分かっている。ドラゴンと戦えば死ぬ。だからこそ、誰も動かない。
それでも、彼女には諦められなかった。
家族が、その街にいる。
父親も。
母親も。
そして――妹のエルザも。彼女は、ルイカザーワの街でギルド嬢をしている
最後に届いた手紙は、昨日の朝だった。
雪が降る前に薪を買わなければならない。
母が風邪を引いた。
父が新しい鉱山の仕事を探している。
そんな、どこにでもある家族の日常。
そのすぐ近くに、今、ドラゴンがいる。
「……お願いします」
アリサは冒険者たちに頭を下げた。
「誰か、力を貸してください」
返ってくるのは拒絶ばかりだった。
「クライスト王国のギルド嬢なら、王国に救援を求めればいい」
「俺たちを巻き込むな」
彼らにも家族がいる。帰りを待つ人がいる。死にたくないという、当たり前の願いがある。
それでもアリサは顔を上げた。
「私は行きます」
「受付嬢が何をするんだ」
「戦えなくても、行きます。妹を見捨てることはできません」
そのとき、ギルドの扉が開いた。
冷たい風とともに、一人の男が入ってくる。
漆黒の髪。背中には大剣。
胸元には太陽を象った紋章。
冒険者、太陽の勇者エステバン。
魔王軍の幹部を討ち、数々の死地から生還した男として、誰もがその名を知っていた。
「ドラゴン討伐?」
エステバンは依頼書を見て鼻で笑った。
「ギルドの依頼など知ったことか!」
アリサの胸が沈む。
だが、彼は彼女へ歩み寄った。
「だがアリサ、、俺は俺の女からの頼みなら、断らない」
ギルド内が凍りついた。
「……え?」
「お前が俺に頼むなら、行ってやる。さあ、頼め」
アリサは唇を噛んだ。
妹の顔が浮かぶ。
父と母の顔が浮かぶ。
彼女は深く頭を下げた。
「お願いします、エステバンさん。私の妹を……家族を、助けてください」
エステバンは満足そうに笑った。
「その頼み、確かに聞いた」
彼は大剣に手をかける。
「行ってくるぞ。ドラゴンを殺しに」
第二章 ドラゴン襲来
その日の夜。
山の向こうから、咆哮が響いた。
巨大な翼が夜空を覆い、月が消える。
街の人々が空を見上げた。
そこにいたのは、家々を覆い尽くすほどのドラゴンだった。岩山のような胴体、鋼鉄より硬い鱗、長い首と巨大な角。
その瞳に、人間への憎しみも殺意もない。
ただ、そこに存在するだけで災害だった。
ドラゴンが口を開く。
喉の奥に赤い光が灯った。
「逃げろ!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、夜が赤く染まった。
炎が街路を走り、家々の屋根を焼き、石壁を弾けさせる。眠っていた人々が悲鳴を上げ、母親は子供を抱き、兵士たちは盾を構えた。
弓が放たれる。
数十本の矢がドラゴンに当たった。
しかし、硬い鱗に弾かれて地面へ落ちる。
「効いていない……」
兵士の呟きに、ドラゴンが首を向けた。
次の瞬間、その兵士のいた場所が炎に包まれた。
圧倒的な熱に人間が一瞬にして、黒い炭の塊になる
尾が振られ、街壁が崩れる。
瓦礫が逃げる人々を押し潰し、炎がその上を覆った。
ドラゴンは怒っているわけでも、楽しんでいるわけでもない。
ただ、邪魔なものを踏み潰すように街を壊していく。
そして、時折、逃げるものをつまみ上げては、口の中に放り込み咀嚼する。
男も女も子供もまるで鳥に啄まれる蟻のようにシャクシャクと食われていく。
翼が一度振られるだけで、屋根や馬車が吹き飛び、人々が宙を舞う。
ドラゴンは空へ舞い上がり、二度目の炎を街へ降らせた。
家も、道も、そこにあった生活そのものが赤い光の中で失われていった。
「俺たちの街を守るんだ。みんなが逃げる時間を稼ぐんだ!」
ルイカザーワ冒険者ギルドには、十二人の冒険者が集まっていた。
彼らは英雄ではない。この土地を愛して、この土地に暮らすもの。
ただ、街に家族や友人を残してきた者たちだった。
戦士ガルドは大盾を構えた。
「俺は前に出る。誰かが逃げる時間くらいは稼げる」
女魔術師リーナが続く。
「火が効くかは分からない。でも、何もしないよりはいい」
弓使いトーマは目を狙うと言い、双剣士ミラは翼を狙うと答えた。
槍使いバルドは街の人間を逃がすことを最優先にし、治癒術師ノアは負傷者を治すと誓った。
斥候レオンは罠を仕掛け、斧戦士ドランは「俺の故郷だ。俺が守る」と拳を握った。
風魔術師セシルは炎の向きを変えると約束し、盾騎士エドガーは古い友人のガルドに言った。
「お前を一人で死なせはしない」
十七歳のユナにも家族がいた。
そして、二十八歳の剣士カイルはエルザの幼馴染だった。
「帰ってこよう」
彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
「全員で」
誰も返事をしなかった。
十二人は街へ向かった。
焼けた街路。
崩れた家。
黒く焦げた石壁。
道の端では、男が瓦礫を掘り続けていた。
「妻が中にいるんだ。まだ、生きているかもしれない」
ノアが近づこうとしたが、バルドが腕を掴んだ。
「行くぞ」
「でも……」
「早く食い止めなければ、もっと被害が広がる」
その直後、遠くで地鳴りが響いた。
ドン。
ドン。
ドン。
山の向こうから、ドラゴンが現れた。
街の建物が、脚元の石ころに見える。
「……これが、ドラゴン……」
ガルドが盾を構えた。
「全員、散れ!」
十二人が一斉に走る。
矢、炎、風、罠。
あらゆる攻撃がドラゴンへ向かった。
だが、鉄杭は脚に触れた瞬間に折れ、火球は鱗を焦がすことすらできない。
ドランが斧を振り上げた。
「俺の故郷だ!」
斧が鱗に当たり、砕けた。
ドラゴンが脚を動かす。
それだけで、ドランの身体が地面に叩きつけられた。
「ドラン!」
ガルドが叫ぶ。
その直後、ドラゴンが翼を広げた。
風圧が爆発し、隊列が崩れる。
ガルドの巨体が石壁へ叩きつけられ、エドガーは盾を地面に突き立てた。
「ガルド! 立て!」
ドラゴンの前脚が振り下ろされる。
エドガーの盾がひしゃげ、身体が地面へ押し込まれた。
ガルドは這いながら手を伸ばした。
「エドガー……!」
返事はなかった。そこには砕け散った肉塊があるだけだった
「撃て!」
トーマが叫び、矢筒が空になるまで射続けた。
矢はすべて弾かれた。
彼は短剣を抜き、ドラゴンの目へ走る。
だが、刃は届く前に鱗に弾かれた。
「なんでだよ……!」
炎がトーマを包んだ。体はマッチ棒のように一瞬で燃え尽きた。
リーナは魔法を撃ち続けた。
火球、氷槍、雷撃。
魔力が尽きても詠唱をやめなかった。
「お願い……少しでいいから、効いてよ……」
ドラゴンの尾が地面を薙ぎ、彼女の姿が瓦礫の向こうへ消えた。
セシルは風を起こして炎を押し返そうとした。
しかし、ドラゴンの翼が一度動いただけで風は逆流し、彼は地面を転がった。
「みんな、走って……!」
逃げ道は炎と瓦礫で塞がれていた。
ドラゴンの咆哮が空気を震わせる。
ノアは倒れた仲間に治癒魔法をかけ続けた。
「治れ……お願い……」
誰も起き上がらなかった。飛び出た内臓、下半身そのものがないものもいる。
ドラゴンの力は圧倒的だった。
「私、治癒術師なのに……」
巨大な影が彼女を覆う。
カイルが駆け寄った。
「ノア!」
炎が地面を走り、ノアの姿が小さな悲鳴を残して赤い光の中へ消えた。
「うわあああああっ!」
カイルは折れた剣を握り、ドラゴンへ突っ込んだ。
「返せ!」
刃は鱗に当たるたび砕けていく。
「俺たちが何をした! ただ、街を守りたかっただけだ!」
ドラゴンが首を下げる。
カイルは後ずさった。
「来るな……」
炎が彼を包んだ。
ミラは瓦礫の陰に隠れていた。
仲間が倒れていくのを見ながら、震える手で短剣を握る。
「私、まだ死にたくない……」
彼女は走った。
だが、ドラゴンの尾が地面を薙ぎ、瓦礫の中へ叩き込まれた。
「誰か……助けて……」
返事はなかった。
最後まで立っていたのは、バルド、レオン、セシル、ユナだった。
「撤退する!」
バルドが叫ぶ。
「もう戦うな! 逃げろ!」
「逃げ道がない!」
レオンが答えた。
バルドは崩れた石壁を槍で叩いた。
一度。
二度。
三度。
穂先が折れても、柄で石を殴り続ける。
「開けろ……!」
レオンは罠を探した。
使える道具も、策も残っていない。
「何もない……」
セシルは杖を握った。
「まだ風を起こせる」
「無理だ!」
バルドが怒鳴った。
「俺たちの力じゃ、あれには届かない!」
その言葉を認めた瞬間、彼の顔が崩れた。
ユナは震える手で弓を引いた。
「私、怖い……死にたくない……」
矢が落ちる。
ドラゴンが翼を広げた。
バルドは槍を拾い、ユナを押し出した。
「走れ!」
ユナは瓦礫の向こうへ走った。
だが、翼が振られ、身体が宙に舞う。
「いやあああああっ!」
バルドが手を伸ばす。届かなかった。
空に巻き上げられたユナは、そのまま地面に激突して、動かなくなった。
「よくもユナを!」
バルドは槍を構えた。
「俺たちは……冒険者だ。この街を守るんだ!」
ドラゴン罪が彼の体を両断した
レオンは逃げようとした。
「俺はまだ……死にたくない!」
その叫びは、誰にも届かなかった。
街に残ったのは、炎と瓦礫と、消えない悲鳴だけだった。
十二人の冒険者は、ドラゴンに傷をつけることも、街を救うことも、仲間を守ることもできなかった。
ただ足掻き、泣き、叫び、逃げようとして、それでも届かず、一人ずつ奪われていった。
⭐️エルザの戦い
教会の聖堂は、恐怖と絶望で満ちていた。
石造りの壁に反響するのは、幼子の泣き声と、神にすがる弱々しい祈りだけ。
冒険者たちがドラゴンに屠られた知らせは、すでにここへも届いていた。外で燃え盛る炎の赤がステンドグラス越しに不吉に明滅し、彼らの運命が秒読みであることを告げていた。
「もうだめよ……ドラゴンが来る……私たち、食われるの……」
若い母親が我が子を抱きしめ、慄えながら呟く。その声は伝染病のように広がり、千人を超える避難民の間に泣き崩れる者が続出した。
祭壇の前に立つギルド嬢のエルザは、その惨状を唇を噛み締めて見つめていた。
彼女の脳裏には、全滅した冒険者たちの無残な死に様が焼き付いている。剣も魔法も、あの怪物には玩具にすらならない。
だが、姉のアリサが何とかしてくれる。助けが届くまで、あと少しでも時間を稼がねばならない。たとえそれが、死よりも酷い辱めを受けることになろうとも。
エルザは懐から、小さな黒い玻璃の瓶を取り出した。
ギルドの奥深くに保管されていた禁忌の薬。サキュバスの体液から抽出されたという『発情の秘薬』。魔物の情欲を逆撫でし、捕食本能を交尾本能へと歪める呪われた代物だ。
「皆さん、聞いてください」
エルザの声が、泣き声を切り裂いて響いた。
「このままでは、私たちは皆殺しにされます。ドラゴンは人を食らい尽くすでしょう。でも……もし、ドラゴンの興味を別の方向へ向けさせることができれば」
彼女は瓶の封蝋を剥がした。甘く腐ったような濃厚な香りが立ち込める。
「これはサキュバスの秘薬です。これを体に塗り……ドラゴンの欲望を受け止めれば、奴は私たちを食べるより、犯すことに時間を割くはずです」
聖堂が静まり返った。あまりにも冒涜的で、狂った提案だった。
しかし、我が子を抱いた母親たちの目が変わっていく。守るべきものがある者たちの目は、絶望の淵で異常な光を宿した。
「……やります」
村の若き母親ルイーズが立ち上がった。その隣でアリスとリリーも無言で頷く。
「私も」
鎧を脱ぎ捨てた女騎士イライザが剣を床に投げ捨てた。「剣では勝てないと知った。だが、女として戦う道があるなら、それに賭けるのみ」
エルザは薬液を手に取り、自らの肌に塗りたくった。
粘り気のある黒い液体が白い肌を滑り落ちる。冷たい感触が神経を逆撫でするが、すぐに体の奥底から身を焼くような熱が湧き上がってくる。
ルイーズたちも互いに薬を塗り合う。恥辱に頬を染めながらも、彼女たちは聖堂の扉へと向かった。
教会の重い扉が軋みながら開かれた。
外の世界は地獄だった。焦熱の熱波と血の臭い。そして、瓦礫の山を越えて迫る絶対的な死の具現。
ドラゴンの巨大な瞳が、教会を見下ろした。喉の奥で灼熱の炎がくすぶる。
食料庫の扉が開いたと認識したのか、怪物が首をもたげた瞬間――風に乗って濃密な秘薬の香りがドラゴンの鼻腔を突き刺した。
ドラゴンの動きが止まった。
殺意に満ちていた瞳が、どこかうつろに歪む。
そして、常識ではあり得ない変異が起きた。
鋼鉄の鱗に覆われた下腹部の隙間から、ヌルリと粘液にまみれた肉の塊がいくつも隆起し始めたのだ。それはまるで独立した生き物のように脈打ちながら伸びていく。
太く、長く、先端が花のように開いた触手。ドラゴンの凶悪な性器が、発情と捕食の衝動をねじ伏せられ、無数の触手となって暴れ出した。
「来なさい!!」
エルザが叫び、自らの服を引き裂いて露わになった胸を掲げた。
ドラゴンが咆哮を上げた。それは炎を吐くためのものではなく、屈服と支配を求ける獣の鳴き声だった。
ズシリと地面が揺れ、最初の触手がエルザの細い体を絡め取った。
「くっ……あぁぁっ!」
粘液にまみれた太い触手が、エルザの身体を締め上げる。鱗の粗い感触が肌を擦り上げ、同時に別の触手が彼女の股間を強引にこじ開けた。
秘薬によって過敏になり切った秘所に、先端の開いた肉棒が容赦なくねじ込まれる。
「ああっ! 裂けるっ! おおきいっ……来るっ! 来てるうぅぅっ!!」
処女ですらなかったエルザの膣内を、ドラゴンの触手が暴力的に押し広げる。内臓をかき回すような異物感と圧倒的な質量に、彼女は悲鳴を上げながらも逃げようとはしなかった。
触手は奥の子宫口をこじ開け、子宮内へと侵入してくる。ピストン運動のように激しく抜き差しされ、秘薬の効果でドロドロに溶かされた彼女の肉壺は、悲鳴を上げながらも怪物の欲望を受け入れ続けた。
「私も……私もやるわ!」
イライザが飛び出した。屈強な女騎士の肉体に触手が絡みつき、前後の穴を同時に貫く。
「ぎぃっ! あぐぅっ! くそっ……こんな……こんな屈辱っ……!」
口を塞がれ言葉を失いながらも、イライザは自ら腰を振った。一秒でも長くこの怪物を留めるために。
ルイーズたち母親たちも駆け出した。
「子供たちを……逃がすためにぃっ!」
アリスが背後から触手に貫かれ、リリーは両脚を絡め取られ無理やり開脚させられる。
彼女たちの秘所にも次々と太い肉棒が突き刺さり、教会の前に広がる石畳の上で、白濁とした粘液と鮮血が混じり合う凄惨な輪姦が始まった。
ドラゴンの触手は無慈悲だった。
人間の身体など壊れても構わないとばかりに激しく揺さぶり、子宮の奥底へと大量の魔獣の精液を注ぎ込む。
ブシュッ! ブシュウウウッ!
エルザの腹が異常に膨らむほどの量が注がれ、彼女は白目を剥いて痙攣した。
「あっ……ああっ……おなか……壊れる……熱いのが……入ってくるぅぅっ!」
だが、秘薬の効果は凄まじく、彼女たちを快楽の淵へと突き落とす。
破壊的な痛みがいつしか脳髄を焼き切るような悦楽へと変わり、彼女たちは自ら怪物に抱きつき、「もっと」と懇願する淫らな牝へと堕ちていった。
それは地獄か天国か分からない狂宴。
ドラゴンは獲物を食うことを忘れ、ただひたすらに目の前のメスを犯し続けた。
その足は止まっていた。
教会の中で震える千人の人々はまだ生きていた。
エルザは口から泡を吹きながらも、言葉を絞り出した。
「助けて 早く……」
ドラゴンの咆哮と肉と肉がぶつかる水音が夜空に響き渡る中、彼女たちはただの肉便器としてドラゴンを繋ぎ止め続けていた。一分一秒でも多く。愛する者の命のために。
意識が白濁していく中で、エルザは聞いた。
笛だ。
どこからともなく聞こえる、純白の旋律。言葉を持たない音の奔流が、夜空を切り裂いて降り注いでくる。
灼熱の痛みと快楽に蝕まれた身体の中で、その音だけが鮮明だった。細胞の隅々にまで染み渡るような、聖なる響き。
エルザは虚ろな目を空へ向けた。
そこに、扉があった。
夜空の中央に、光の粒子が集まり、渦を巻き、一つの巨大な門を形作っていく。純白の光を放つアーチ。その向こう側には、緑の大地と金色の塔が見えた。
クライスト王国。
人類の盾と呼ばれる王国の風景だった。
扉の向こうから、一人の少女が歩み出た。
素足が虚空を踏む。一歩ごとに光の階段が生まれ、夜の闇を白く染め上げていく。
銀に近い淡い金髪が風に揺れ、白と蒼の聖衣が夜星の光を受けて輝く。手には聖杖。胸元には太陽の紋章と同じく、しかし一段深い光を帯びた聖印が掲げられていた。
クライスト王国の誇る聖女にして第三王女
アンリエッタ・エル・クライスト。
彼女が空中に立った瞬間、世界が変わった。
聖女の瞳が、地獄を見下ろした。
犯され続けるエルザ。貫かれたまま失神したイライザ。腹を膨らませて痙攣するルイーズ、アリス、リリー。砕けた冒険者たちの遺体。炎に包まれた街。
そのすべてを一瞥し、アンリエッタは聖杖アウレリアを振り上げた。
「Leig le Dia a ghlòir fhoillseachadh.」
彼女が何かを唱えた瞬間、白い光が放たれた。
触手を焼くのではない。切り裂くのでもない。光は触手と、人間の体の境界にだけ作用し、肉と肉を分離していく。
ドロリとした粘液と共に触手がエルザたちの身体から引き抜かれた。
エルザは崩れ落ちた。石畳の上に横たわりながら、空を見上げる。
そこにいたのは、光そのものだった。
アンリエッタの周囲には無数の光の粒子が舞い、夜空にあって昼間のように明るい。彼女の存在そのものが照明であり、闇を許さない絶対的な光だった。
教会の中から、人々が見上げていた。
「天使だ…」
誰かが呟いた。
「お母さん、あれ天使?」
子供の問いに、母親は涙を流して頷いた。
「そうよ…天使様よ、お前を助けに来てくれたのよ」
人々は跪いた。祈りではない。ただ、その光景に圧倒されたのだ。人間が見てはいけない神聖なものを見てしまったかのように、顔を伏せ、涙を流した。
ドラゴンは自分の触手を切断されたことに気づいた。ゆっくりと巨体を回転させ、新たな侵入者へと顔を向けた。
喉の奥で赤い光が灯る。
ドラゴンが聖女へ向けて炎を吐こうとした、その瞬間だった。
雷が落ちた。
違う。雷ではない。
一筋の銀光が夜空を突き抜け、ドラゴンの右翼を根本から切り裂いたのだ。
数十メートルある翼が、音を立てて地面へ墜落する。岩山のような胴体がよろめ、街の城壁を圧し潰した。
ドラゴンが初めて、悲鳴を上げた。
人間に痛みを与えられたことなどなかっただろう。初めて感じる激痛に、怪物の瞳が歪む。
そして、誰もが見た。
光の扉から、一人の男が降り立った。
漆黒の髪が夜風に舞う。背中には巨大な大剣。胸元の太陽の紋章が、聖女の光を受けて黄金に輝く。
太陽の勇者、エステバン。
歩いていた。ただ、歩いていた。
ドラゴンが目の前にいる。炎を吐き、爪を振り上げ、触手を暴れさせる怪物が。だがエステバンはそれを見ず、倒れているエルザたちの方へ歩み寄った。
「おい、生きてるか」
声は短く、ぶっきらぼうだった。
エルザは焦点の合わない目で、男の顔を見上げた。
「…あなたは」
「助けに来た。アリサに頼まれた」
エルザの瞳から涙が溢れた。姉の名前が出たからだ。
「お姉ちゃんが…」
「ああ。泣きながら頼まれた。あの女が泣くと面倒だからな」
エステバンは大剣を抜いた。
刀身が光を反射し、銀の軌跡を描く。その剣は普通の鉄ではなかった。柄にはルーン文字が刻まれ、刀身にはクライスト王国の聖職者が祈りを込めた聖別が施されている。魔王軍の幹部を討った剣。人類が鍛えた最高の武器。聖剣《ソル・レイヴァ》
エステバンは振り返った。
ドラゴンと、対峙した。
「おいトカゲ!お前がドラゴンか」
怪物は男を睨み下ろした。先ほどの悲鳴などなかったかのように、再び殺気が立ち込める。
エステバンの口元が歪む。
笑っていた。
「デカいな。だが」
大剣を肩に担ぐ。
「俺は魔戦将軍の右腕を斬ったことがある。お前よりは硬かったぞ」
ドラゴンが咆哮した。衝撃波が走り、家々の屋根が吹き飛ぶ。
エステバンの髪が逆立ち、聖衣が激しく煽られる。だが足は動かなかった。一歩も。
「うおおおおおおお!」
エステバンが踏み込んだ。
石畳が砕け、地面に亀裂が走る。人間とは思えない速度で、ドラゴンの脚元へと突っ込んでいった。
ドラゴンが前脚を振り下ろす。家屋を一撃で粉砕する一撃が、エステバンの頭上に降ってきた。
エステバンは大剣を横に払った。
剣と爪がぶつかり合った瞬間、金属音が夜空に響き渡った。衝撃波が周囲の建物を薙ぎ倒す。
だが、弾かれたのはドラゴンの脚だった。
怪物が初めて、人間に力で拮抗させられた。
「ほら」
エステバンがさらに踏み込む。
大剣がドラゴンの脚を斬り上げた。鋼鉄の鱗が裂け、黒い血が噴き出る。
ドラゴンが後退った。初めて感じる痛みと、初めて遭遇する脅威に、怪物の瞳に明確な恐怖が浮かんだ。
ドラゴンが炎を吐く。
灼熱の火炎がエステバンを包み込もうとした、その瞬間。
「聖なる盾よ」
アンリエッタの声が響いた。
純白の光が盾となり、炎を二つに分ける。数千度の熱波が両側を掠め、エステバンの髪を焦がす。だが、本体には届かない。
聖女の魔法は攻撃ではない。守護と浄化。それがアンリエッタの領域だった。
「おゆきなさい勇者エステバン。私は盾となる」
「悪くない」
エステバンが笑った。
ドラゴンが再び炎を吐こうとした。しかしアンリエッタが聖杖を振り、聖なる光をドラゴンの喉元へ放った。炎の生成を阻害し、ドラゴンの口から白い煙が漏れる。
怪物は炎を吐けなくなった。代わりに翼を広げ、飛翔しようとした。
「飛ばせるかよ」
エステバンが地面を蹴った。
人間の跳躍力を凌駕する高さへ舞い上がり、ドラゴンの左翼へと大剣を叩き込む。
断末魔の轟音。
翼の付け根が斬り裂かれ、巨大な翼が地面に墜落した。バランスを失ったドラゴンが、街の建物を巻き込みながら倒れ込む。
粉塵が舞う中、エステバンは着地した。
ドラゴンがのたうち回る。尾が振られ、街壁を粉砕し、地面を叩き潰す。その一撃一撃が人間を殺す威力だ。
しかしエステバンは止まらない。
砕けた石畳を蹴り、崩れた家屋の壁を足場にし、瓦礫の山を駆け上がる。倒れたドラゴンの胴体へと一気に接近した。
ドラゴンが首を振り、角でエステバンを突き刺そうとする。
エステバンは大剣を地面に突き立て、身を沈めて回避した。頭上を巨大な角が通り過ぎ、風圧が頬を切る。
「遅い」
エステバンが跳ねた。
大剣を逆手に持ち、ドラゴンの首筋へと斬りかかる。鱗が割れ、肉が裂け、黒い血が弧を描いて飛び散った。
ドラゴンが叫ぶ。
だが、まだ死なない。怪物は触手を再生し、エステバンに向けて放った。数十本の肉の鞭が、あらゆる方向から迫る。
「浄化の光」
アンリエッタが祈った。
光が触手を焼き尽くす。一本、二本、三本。聖女の光は、穢れた肉体を清浄化し、怪物の触手を次々と灰に変えた。
エステバンは迷わなかった。
触手が灰に変わる一瞬の隙に、ドラゴンの胸元へと飛び乗った。鱗の表面を足場にし、心臓の位置へと駆け上がる。
ドラゴンが暴れる。胴体が揺れ、エステバンは何度も振り落とされそうになった。だがそのたびに足場を見つけ、食らいつき、進んだ。
そして、心臓の真上に立った。
大剣を両手で握り、頭上へ掲げた。
「ここが心臓か。分かりやすいな」
エステバンは剣を突き立てた。
鱗が抵抗する。硬い。人間の武器では傷つけられない鋼鉄の鱗。
しかしエステバンの剣は、人類最高の鍛冶師が鍛え、聖女が聖別し、勇者の魔力が込められた一振りだった。
鱗が割れた。
刃が肉に食い込む。
ドラゴンが全身を痙攣させた。口から血と炎が混じった吐瀉物が溢れ出す。
エステバンはさらに力を込めた。
「お前はでかい。強い。人間には手も足も出ないだろう」
剣がさらに沈む。
「だが俺は人間だ。人間は、あきらめない生き物だ」
エステバンは叫んだ。
「この一撃に、すべてを込める!」
大剣がドラゴンの心臓を貫いた。
衝撃波が放たれ、街の残りの建物が軒並み倒壊する。アンリエッタが盾を展開し、教会を守った。
ドラゴンの瞳から光が消えていく。
巨大な体が、ゆっくりと崩れ落ちていった。
地響きが止まる。
炎が消える。
静寂が戻った。
エステバンはドラゴンの死骸から降り立った。
大剣にこびりついた黒い血を一振りで払い、背中に戻す。
倒れているエルザたちに歩み寄り、一本ずつ、触手の残骸を引き抜いた。
「おい、起きろ。死ぬなよ」
エルザが目を開けた。
ドラゴンが動かない。触手が消えている。男が立っている。太陽の紋章が、夜空の下で淡く光っていた。
「助かった…の?」
「ああ。助かった」
エルザの目から涙が溢れた。
声にならない声が喉から漏れ、彼女は泣き崩れた。
教会の扉が開いた。
千人以上の人々が、外へ出た。
ドラゴンの死骸が横たわる焼けた街。瓦礫の山。崩れた家々。
だが、人々は生きていた。
「生きてる…私たち、生きてるの!」
母親が叫び、子供を抱きしめた。
「お母さん、天使は?」
「あそこにいる」
アンリエッタが静かに降り立った。聖女は倒れたエルザたちに手をかざし、聖魔法を注ぎ込む。傷ついた身体が癒え、汚れた肌が清められていく。
「皆様、無事ですか」
その声は静かで、優しかった。
人々は跪いた。祈りではない。感謝だった。
そしてエステバンは、空を見上げた。
夜が明け始めていた。
東の空が白く染まり、雪を頂く山々の稜線が浮かび上がる。
ルイカザーワの山々だ。
焼けた街、崩れた家、失った命。
だが、朝は来た。
「嬢ちゃん、起きろ」
エステバンがエルザに手を差し出した。
「夜は終わったぞ」
エルザはその手を握った。
震える手だった。だが、確かに握り返した。
空に輝く扉は、まだ開いていた。
その向こうで、アリサが泣きながら待っているはずだ。
エルザは立ち上がった。
足が震えていた。身体中が痛んだ。だが、立った。
「ありがとうございます…勇者様」
エステバンは鼻で笑った。
「礼はいい。俺の女に言え。お前の姉さんだ」
そしてアンリエッタが静かに微笑み、空に向かって聖杖を掲げた。
朝の光が、ルイカザーワを照らした。
⭐️追悼 十二の星
ルイカザーワの中央広場。
かつて市場が開かれ、人々の笑い声が響いていた場所は、今や瓦礫の山と化していた。
その瓦礫の上に、十二の寝台が並べられていた。
白布に覆われた亡骸。
ドラゴンとの戦いで散った十二人の冒険者たちの成れの果て。
白布の下から覗くのは、焼け焦げた防具の切れ端や、砕けた武器の破片だけだった。
広場には千人を超える人々が集まっていた。
誰も言葉を発さない。
ただ、沈黙の中で涙を流していた。
アンリエッタは十二の寝台の前に立っていた。
聖衣は煤で汚れ、金髪には灰が絡みついている。徹夜で負傷者を癒し続けた彼女の顔には疲労の色が濃く刻まれていた。
だがその瞳だけは揺るぎなく、真っ直ぐに十二の亡骸を見つめていた。
「……彼らは英雄ではありませんでした」
アンリエッタの声が広場に響いた。
静かだが力強い声。一人ひとりの心に直接届くような声。
「英雄ならば、あの怪物を倒せたでしょうか。おそらく無理だったでしょう。ドラゴンは人間の力の及ばぬ領域の存在です。剣も魔法も届かない。それがドラゴンです」
人々は顔を上げた。聖女が何を言おうとしているのか分からなかった。
「彼らは英雄ではありませんでした。冒険者として名を馳せていたわけでもありません。ただの街の人でした。鉱山で働き酒場で笑い家族のために生きていた普通の人たちでした」
アンリエッタは一つ一つの寝台を見つめた。
「戦士ガルドは大工でした。腕は確かで家を建てるのが得意だったと聞いています」
「魔術師リーナは薬屋の娘でした」
「弓使いトーマは猟師でした」
「双剣士ミラは宿屋の看板娘でした」
「槍使いバルドは農夫でした」
「治癒術師ノアは修道院のシスターでした」
「斥候レオンは行商人でした」
「斧戦士ドランは石工でした」
「風魔術師セシルは羊飼いでした」
「盾騎士エドガーは退役した兵士でした」
「ユナはパン屋の娘でした」
「剣士カイルは鍛冶師でした」
アンリエッタは言葉を続けた。
「彼らは知っていました。自分たちではドラゴンに勝てないことを。矢は弾かれ魔法は届かず剣は砕ける。それが分かっていても彼らは立ち上がりました」
彼女は空を見上げた。
「なぜか。家族がいたからです。友がいたからです。守りたい日常があったからです。彼らは英雄になろうと思って戦ったのではありません。ただ愛する者たちのために足を前に出しただけなのです」
アンリエッタの声が震えた。
「人々を救うのは聖者や勇者ではありません。神の御使いでもありません。一人ひとりの勇気ある市井の人たちなのです。何も持たない者が命を懸けたときその光はどんな闇をも打ち払い輝くのです」
彼女は聖杖アウレリアを掲げた。
「神よ。どうか彼らの勇気を祝福してください。彼らの命を無駄にしないでください。彼らの想いを永遠に刻んでください」
アンリエッタが祈りを捧げた瞬間彼女の体から光が溢れ出した。
先ほどまでの疲労が嘘のように聖女は輝いていた。淡い金色の光が広場全体を包み込み瓦礫の山を黄金色に染め上げていく。
光は十二の寝台に降り注いだ。
白布が光り輝き始める。
すると白布の下から微かな光の粒子が立ち昇り始めた。
それは蛍のようであり星屑のようでもあった。
人々は息を呑んだ。
光の粒子は形を成していく。
ガルドの姿。リーナの姿。トーマの姿。ミラの姿。バルドの姿。ノアの姿。レオンの姿。ドランの姿。セシルの姿。エドガーの姿。ユナの姿。カイルの姿。
十二人の姿が光となって蘇った。
彼らは傷一つない姿だった。
ドラゴンに砕かれ焼かれ食われた身体ではない。生前の健やかな姿そのままに彼らは光の中に立っていた。
ガルドは大盾を構えリーナは杖を握りトーマは弓を背負っていた。
ミラは双剣を腰に差しバルドは槍を持ちノアは聖印を掲げていた。
レオンは短剣を手にドランは斧を担ぎセシルは風を纏っていた。
エドガーは盾を構えユナは弓を持ちカイルは剣を佩いていた。
十二人は互いに顔を見合わせそして静かに微笑んだ。
「見てくれ俺たち光ってるぞ」
ガルドが言った。
「格好いいじゃない」
リーナが笑った。
「これなら英雄って言ってもらえるかな」
トーマが肩をすくめた。
「ふふっ……私たち英雄になれたのかな」
ミラが目を潤ませた。
「英雄か……悪くないな」
バルドが空を見上げた。
「神様が迎えに来てくれたのね」
ノアが手を合わせた。
「もう痛くないな」
レオンが自分の体を見下ろした。
「俺の故郷だ……守れてよかった」
ドランが拳を握った。
「風が気持ちいい」
セシルが目を閉じた。
「ガルド一緒だな」
エドガーが親友に微笑んだ。
「みんな……ありがとう」
ユナが涙を流した。
「エルザ……無事でよかった」
カイルが遠くを見つめた。
十二人の光はゆっくりと空へ昇っていく。
夜空に向かって光の軌跡を描きながら彼らは天へと還っていく。
人々は見上げた。
涙を流しながら。
手を合わせながら。
彼らの名前を呼びながら。
「さようなら」
「ありがとう」
「忘れない」
「永遠に」
十二の光は夜空に溶けていった。
星となって輝き始めた。
ルイカザーワの夜空に新しい十二の星が生まれたのだ。
アンリエッタは聖杖を下ろした。
光は消えたが彼女の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「彼らは星になりました。これからは夜空を見上げればいつでも彼らに会えます。彼らはルイカザーワを見守り続けるでしょう」
人々は跪いた。
聖女に対してではなく十二人の勇気ある魂に対して。
そしてその魂を天に送った聖女に対して。
「聖女様」
誰かが呼んだ。
「聖女様万歳」
別の声が続いた。
「聖女アンリエッタ万歳」
声が広がっていく。
「アンリエッタ様万歳」
「クライスト王国万歳」
「聖女万歳」
それは叫びではなかった。祈りだった。
感謝と尊敬と愛情のこもった祈り。
アンリエッタは静かに首を振った。
「私ではありません。彼らに声をかけてください。彼らこそがこの街を救ったのですから」
彼女は空を見上げた。
十二の星が瞬いている。
まるで答えるように。
その光を見て人々は思った。
聖女とは特別な存在ではない。
神に選ばれた特別な人間ではない。
ただ人の痛みを知り人の勇気を信じ人のために祈ることのできる人なのだと。
アンリエッタ・エル・クライスト。
彼女は聖女だった。
そしてこれからも聖女であり続けるだろう。
人々と共に歩み人々と共に泣き人々と共に祈る聖女として。
夜空には十二の星が輝いていた。
ルイカザーワの永遠の守り神として。
⭐️ルイカザーワ温泉
ルイカザーワ温泉の夜は静寂に包まれていた。
窓の外には雪が舞い、山の稜線が月光に白く浮かび上がっている。だが室内は湯気と熱気に満ちていた。
「エステバンさん……」
アリサは湯船の縁に手をつき、潤んだ瞳で男を見上げていた。普段の真面目で厳格なギルド嬢の面影はない。そこにあるのは、ただ一人の男に全てを委ねようとする一人の女性の顔だけだった。
「妹を……エルザを救ってくれて、ありがとうございました。あの子が無事でいてくれたのは、あなたのおかげです」
アリサは震える手でエステバンの頬に触れた。その指先は冷たい湯に濡れ、熱を帯びていた。
「礼なんていいと言ったろ? 俺の女が頼むから行っただけだ」
エステバンは荒っぽく笑い、彼女の手を取り指先に口づけた。
「でも……私もあなたに触れたいのです。体で……感謝を伝えたいのです」
真面目な彼女が自ら求める言葉。アリサの頬は羞恥で赤く染まっていたが、その瞳には揺るぎない決意があった。エステバンはその瞳を見つめ、満足げに頷いた。
「いいだろう。お前のその気持ち、体で受け止めてやるよ」
エステバンはアリサの手を引き、湯船の中へと抱き寄せた。水音が響き、二人の肌が重なる。アリサは彼の広い胸に顔を埋め、男の熱と匂いに包まれた。
エステバンの手がアリサの背中を滑り降り、豊かな曲線を愛撫する。指先が敏感な部分を的確に捉え、彼女の体に震えが走った。
「んっ……ああっ……」
アリサの唇から甘い吐息が漏れる。彼の手つきは荒々しくも的確で、女性の快楽のツボを熟知していた。クライスト王国随一の勇者である彼は、戦いだけではなく夜の営みにおいても熟練の技を持っていたのだ。
「エステバンさん……お願いです……私を……」
アリサは自ら脚を開き、エステバンを誘いた。湯の中で揺れる彼女の秘所は、期待と羞恥で潤んでいた。
エステバンは己の屹立した欲望を彼女の秘所に押し当てた。それはただの男根ではなかった。聖女アンリエッタの祝福を受けたかのように輝きを放つ「聖なる槍」。魔を祓い穢れを清める聖剣ソル・レイヴァと同じく触れるだけで女性の魂を浄化し快楽の極みへと導く神聖な男根だった。
「入るぞ」
エステバンは一気に腰を進めた。
「あああっ!!」
アリサの背中が反り返る。聖なる男根が彼女の最奥を貫き内壁を激しく擦り上げた。それは単なる物理的な挿入ではなかった。彼女の中に眠っていた全ての不安や恐怖が浄化され純粋な快楽へと変換されていく感覚。
「すごい……熱い……おおきい……! 魔法みたい……!」
アリサはエステバンの首に腕を絡め自ら腰を振った。真面目な彼女が自ら快楽を貪る姿は背徳的で美しかった。
「もっと……もっと深く……! 私のすべてを……あなたに捧げますっ!」
激しいピストン運動が繰り返される。湯飛沫が上がり肉と肉がぶつかる音が響く。アリサはこれまで味わったことのない快楽の波に翻弄されながらもエステバンへの感謝の念を胸に抱き続けていた。この快楽こそが彼への感謝の証なのだと。
その時浴室の扉が静かに開いた。
「お姉ちゃん……」
そこにはエルザが立っていた。湯上がりの肌は上気しタオルを体に巻いているだけの無防備な姿。姉が勇者に抱かれている光景を見て彼女の瞳は揺れていた。
「エルザ……」
アリサは恥じらうことなく妹に手を差し伸べた。
「あなたも……一緒に感謝しましょう? この方に……命を救っていただいたことに」
エルザは一瞬躊躇したが姉の温かい眼差しとエステバンの逞しい姿に導かれるように歩み寄った。タオルが床に落ちる。雪のような白い肌が露わになる。
「エステバンさん……私も……お礼がしたいです」
エルザは震える声で言いエステバンの背中に抱きついた。妹の肌の感触にアリサが微笑みエステバンは喉の奥で笑った。
「欲張りな姉妹だ。だが嫌いじゃないぜ」
エステバンはアリサへのピストンを緩めることなく片手でエルザの体を引き寄せた。彼女の胸を鷲掴みにし乳首を指で弾く。
「あんっ! ああっ!」
エルザは甘い声を上げて身をよじった。姉のすぐ横で犯される背徳感と快楽が彼女を支配していく。
「見ろよエルザ。お前の姉貴がこんなに俺のチンポを悦んで飲み込んでるぜ」
エステバンはアリサの最奥を激しく突き上げた。
「ひいいっ! 来るっ! そこっ! すごいっ! あああっ! お姉ちゃん見てっ! 私イッちゃうっ!」
アリサは妹の手を握りしめながら絶頂へと達した。聖なる男根が子宮口をノックしその子宮奥深くへと熱き精を放ち彼女の魂を天へと弾けさせた。
「俺も限界だ……受け取れ!」
エステバンは咆哮とともにアリサの中へ大量の精を注ぎ込んだ。それは灼熱の聖水のように彼女の子宮を満たし浄化した。
「あついっ! きてるううっ! おなかいっぱいっ! 感謝しますっ! エステバンさあああんっ!」
アリサは白目を剥きながら絶叫した。エステバンはまだ萎えない聖なる男根をアリサから引き抜くと今度はエルザの方へ向き直った。
「次はお前だ妹よ」
エステバンはエルザの脚を持ち上げ湯船の縁に座らせるとその秘所へと猛然と襲いかかった。
「あああっ! おおきいっ! 姉ちゃんの中に入ってたのがくるううっ!」
エルザは姉の愛液とエステバンの精液が混じった男根を受け入れ激しく責め立てられた。アリサは余韻に浸りながら妹の喘ぎ声を聞き自らも胸を愛撫し始めた。
「エルザ……気持ちいいでしょう? これが彼への感謝の証なのよ」
「んんっ! はいっ! きもちいいっ! あたしいきますっ! エステバンさん大好きいいいっ!」
姉妹の嬌声が重なり合い浴室に響き渡る。エステバンは二人の美姉妹を交互に貪り尽くした。時には二人同時に責め時には一人ずつ丁寧に味わった。彼のテクニックと体力は底なしであり聖なる男根は朝まで萎えることはなかった。
何度も何度も中出しされ二人は快楽の海に溺れていった。意識が飛びそうになるたびにエステバンのキスと愛撫で現実に引き戻されさらなる絶頂へと押し上げられる。
やがて窓の外が白み始めた頃三人は湯船の中で寄り添っていた。
「ありがとう……エステバンさん」
アリサは満足げに男の胸に頬ずりした。
「私も……です」
エルザも姉に寄り添い幸せそうに微笑んだ。
「礼には及ばねえよ。俺の女たちだ」
エステバンは二人を抱き寄せその唇にキスを落とした。
朝日が雪景色を照らし始める中、ルイカザーワ温泉には静かな幸福が満ちていた。
⭐️エピローグ 勇者と聖女の稼ぎ
ドラゴンの死骸は広場に横たわっていた。
巨大な胴体。折れた翼。砕かれた角。黒い血が固まり周囲の瓦礫を黒く染めている。
朝日が当たり始めたその時。
「よし、やるか」
エステバンは手斧を取り出しドラゴンの死骸に近づいた。
「ええ、やりましょう」
アンリエッタも聖杖を置いて腰に短剣を差し近づいた。
二人の顔に浮かんでいたのは聖女の慈愛でも勇者の覚悟でもなかった。
商人の顔だった。
「角から行くぞ。あれが一番高い」
エステバンは手斧でドラゴンの角の付け根を叩き始めた。鋼鉄より硬い鱗に覆まれた角だが死骸となれば話は別だ。聖剣で傷つけられた亀裂から刃が入りやすくなっている。
「待ってください。角は私が半分もらいます。聖別されたドラゴンの角は聖具の最高級品です。教会に売れば金貨百枚は堅い」
アンリエッタが手を出した。
「百枚だと? ふざけんな。俺が殺したんだぞ」
「私が聖別しました。私の魔法がなければあなたも炎で焼かれていました」
「シールド張っただけだろうが」
「命を救ったんです。命の値段は金貨百枚では済みませんが角半分で許してあげます」
エステバンは舌打ちした。
「…ちっ。仕方ねえ。角は半分だ。だが牙は俺だ」
「牙は私は要りません。代わりに鱗をいただきます」
「鱗だと? あんな硬い石ころ何に使う」
「防具の素材です。ドラゴン鱗の鎧一着は金貨二百枚で取引されます。胸部と腹部の鱗だけで四着分は取れます」
アンリエッタは既に計算を終えていた。
「四着だと?」
エステバンの目が光った。
「待て。鱗も半分だ。俺が殺したんだ」
「あなたが殺しましたが剥ぎ取るのは私がやります。労働の対価を考えてください」
「労働だと? 俺だって剣振り回して死闘したんだ。あれは労働じゃねえのか」
「戦闘はあなたの本分です。剥ぎ取りは私の本分です。各自の本分に従って分配するのが合理的です」
「…聖女のくせに合理的すぎるだろう」
エステバンは悪態をつきながら角の解体を続けた。
一時間後。
二人はドラゴンの解体を終えていた。
広場には角二本牙四本鱗数百枚肉数百キロ内臓一式が整然と並べられていた。
「肉はどうする」
「ドラゴン肉は滋養強壮の最高級食材です。王都の料理人に売れば金貨十枚」
「内臓は錬金術師の材料だ。心臓なんて金貨三十枚は下らない」
「肝臓は薬の材料。金貨二十枚」
「血液は染料と魔術素材。金貨十五枚」
「骨は杖と装飾品の素材。金貨二十五枚」
二人は石畳の上に座り込み木切れで地面に計算式を書き始めた。
角二本 金貨二百枚
牙四本 金貨六十枚
鱗 金貨八百枚
肉 金貨百枚
内臓 金貨百枚
骨 金貨二十五枚
血液 金貨十五枚
合計 金貨千百六十枚
「千枚超えた…」
エステバンは唾を飲み込んだ。
「クライスト王国の教会費に匹敵します」
アンリエッタの目も輝いていた。
「さて分け前だ」
エステバンが口を開いた。
「基本的には半分。ただし私の聖別技術がなければ角の価値は半減しますので角については六割を」
「なぜ六割だ。俺が殺したんだぞ」
「殺したのはあなたですが価値を生み出したのは私です」
「価値を生み出したのは俺の剣だ。お前の援護がなけりゃ死んでただけだがな」
「死んでいたら価値どころか何もありません。つまり私の援護があってこその価値です」
「そういう論法なら俺の剣がなけりゃドラゴンは死んでない。死体すらない」
二人は顔を突き合わせて睨み合った。
「…あとで決めよう」
「ええあとで」
二人は素材を麻袋に詰め込み広場を後にした。
宿屋の一室。
テーブルの上には極上の葡萄酒とチーズそしてドラゴン肉のステーキ。
暖炉の火が部屋を暖めている。
エステバンは杯を上げ一気に飲み干した。
「うまい」
アンリエッタも優雅に杯を傾ける。
「ドラゴン肉のステーキ。滋養強壮効果抜群です。明日は筋肉痛になりませんよ」
「俺は筋肉痛なんかならねえよ」
「ではもっと食べましょう。金貨十枚分ですから」
「十枚だと? この肉だけでか」
「王都の料理人なら金貨二十枚で買います。自分で食べるのは贅沢です」
「贅沢か。悪くねえな」
エステバンは骨付き肉を齧りながら計算を始めた。
「角百枚。牙三十枚。鱗四百枚。肉五十枚。内臓五十枚。骨十二枚。血液七枚。合計六百四十九枚。お前の分も同じで六百四十九枚。端数の二枚は」
「一枚ずつ」
「そうだな」
アンリエッタは頷いたがすぐに眉を寄せた。
「待ってください。角の六割の件は」
「ああはあ。うるせえな。角は半分だ。それ以上は譲らねえ」
「では代わりに鱗を六割に」
「鱗も半分だ」
「では心臓を私に」
「心臓は俺だ。あれは俺が突き刺したんだ」
「心臓を刺したのはあなたですが心臓そのものは私が摘出しました」
「摘出しただけで所有権が移るか」
「労働の対価です」
「さっきもそれ言ったな」
二人は睨み合った。
杯を置きテーブルに身を乗り出す。
「…こうなったら力で決めるか」
エステバンが立ち上がった。
「力ですか。私の聖魔法に対抗できますか」
「ベッドでだ」
アンリエッタの動きが止まった。
「…何ですって」
「分かりやすいだろう。ベッドで勝負だ。俺が勝ったら角も鱗も心臓も全部俺。お前が勝ったら全部お前のでいい」
アンリエッタは杯を置いた。頬が赤く染まる。酒のせいではない。
「…受けて立ちます。聖女として負けるわけにはいきません」
「へえ聖女がベッドで勝負するのか」
「聖女も女です。私は負けません」
エステバンはニヤリと笑いアンリエッタの手を引いた。
「来い」
暖炉の火が揺れた。
ベッドに押し倒されたのはアンリエッタだった。
聖衣の紐が解かれ白い肌が露わになる。エステバンの手がその滑らかな肌を這い胸の膨らみを包み込んだ。
「んっ…」
アンリエッタが小さく声を漏らす。
「聖女様お感じですか」
「…生意気な口を」
アンリエッタはエステバンの首に腕を絡め引き寄せた。唇が重なる。深く長い口づけ。聖女の唇は甘く勇者の唇は熱かった。
「負けません」
アンリエッタは自らエステバンの衣服を脱がせた。逞しい筋肉の胸板が露わになる。戦いで傷ついた傷跡に指を這わせ唇を寄せた。
「傷を癒して差し上げます」
聖女の唇が勇者の体を巡る。首筋に鎖骨に胸板に腹に。一つ一つにキスを落とし舌で愛撫する。
「くっ…」
エステバンが息を呑む。聖女の愛撫は祈りのようで背徳的だった。
「お前そっちの方面も修行したのか」
「聖女には密教の修行があります。あなたには想像もつかないでしょうけど」
「想像できるさ。こうだろ」
エステバンはアンリエッタの脚を開きその秘所に指を滑らせた。濡れていた。聖女の秘所は聖水で潤っていた。
「あっ…だめっ…」
「だめじゃないだろう。お前から誘ったんだ」
指が秘所を弄り花弁を開き敏感な珠を弾く。アンリエッタは甘い声を上げて身をよじった。
「んあっ…そこ…ああっ…」
「ほら聖女のくせにこんな声出して」
「うっ…聖女だって…感じますっ…あんっ…」
エステバンは指を二本増やし激しく動かした。聖女の聖水が溢れ出し指を濡らす。アンリエッタは腰を浮かせ自ら快楽を貪ろうとする。
「もっと…」
「何がもっとだ。言え」
「…もっと触ってください…エステバン…」
エステバンは笑いながら舌を秘所に這わせた。聖女の甘い蜜を舐め取り敏感な肉芽を吸い上げる。
「あああっ! だめっ そこだめえっ!」
アンリエッタはエステバンの頭を抱え自ら腰を振った。聖女の理性が快楽に溶けていく。
「…もう我慢できない」
アンリエッタは自らエステバンを押し倒し上に跨った。屹立した聖なる男根を手で握り自らの秘所に導く。
「私が…決めます」
アンリエッタは腰を落とした。
「ああああっ!!」
聖なる男根が聖女の秘所を貫く。傷ついた膣壁が癒されながら同時に快楽の極みへと導かれる。聖女と勇者の聖なる結合。
「すごい…あなたのが…入ってくる…おおきい…ああっ」
アンリエッタは自ら腰を振った。騎乗位で聖女が勇者を犯す。上下逆転の光景。聖女が勇者の上で快楽に溺れる。
「おいおい聖女様が乗ってるぞ。すげえ光景だ」
エステバンは下からアンリエッタの胸を揉み乳首を弄る。
「んっ あっ ああっ! あなたのせいです こんなことさせるのは…あなたが悪いんですっ!」
「俺が悪い? お前が乗ってきてるだろうが」
「だって…だって…ああっ! そこっ! そこすごいっ!」
アンリエッタは腰の動きを速めた。聖なる男根が膣内を激しく擦り上げ最奥の子宮口をノックする。
「来るっ! また来るっ! ああっ! エステバンっ! だめっ! イッちゃうっ!」
「イけよ。何回でもイかせてやる」
エステバンは下から激しく突き上げた。聖女の体が跳ね上がり快楽の波に飲み込まれる。
「あああああっ!! イくっ! イくううっ!! ああああああっ!!!」
アンリエッタは絶頂に達し体を弓なりに反らせた。聖女の聖水が噴き出しエステバンの腹を濡らす。
だがエステバンは止まらない。まだ精が出せていない。
「お前の負けだ」
エステバンは体位を変えた。正常位に戻しアンリエッタの脚を肩に乗せ深く突き入れた。
「あぐっ! ああっ! まだっ? まだなのっ?」
「俺がイくまで終わらねえぞ」
激しいピストンが続く。アンリエッタは何度も絶頂し意識が白濁していく。聖女の理性は完全に崩壊し彼女はただ快楽に溺れる一匹の牆になった。
「エステバンっ! エステバンああっ! だめっ! もう無理っ! ああっ! あああっ!」
「俺も限界だ。一緒にイくぞ」
エステバンは最後の突き上げを放った。聖なる男根が聖女の子宮奥深くへと熱き精を注ぎ込む。
「あついっ! きてるっ! あついのがきてるううっ!! ああああああっ!!!」
二人は同時に絶頂した。
聖女と勇者。光と太陽。二つの体が重なり合い一つになる。
やがて激しい動きが収まり二人はベッドの上で寄り添っていた
アンリエッタは悪戯っぽく笑った。
窓の外には朝日が昇っていた。
ルイカザーワの山々が黄金に輝いている。
夜空には十二の星がまだ微かに光っていた。
「なあアンリエッタ」
「何ですか」
「この金で街を直そう。ドラゴン素材を売った金で」
アンリエッタは目を丸くした。
「あなたが全部取るんじゃなかったんですか」
「俺の取り分は半分でいい。残りは街にやる」
アンリエッタは驚いた顔をした後静かに微笑んだ。
「あなたという人は…何か悪いものでも食べたんですか?」
「うるせえ。一度しか言わねえぞ」
エステバンは毛布を頭まで被った。
アンリエッタはその毛布の上から抱きついた。
「大好きですエステバン」
「聞こえねえ」
「大好きです」
「うるせえ」
「大好き」
「…お前もだよ」
毛布の中からくぐもった声が聞こえた。
朝の光が部屋一杯に広がり二人を照らした。
窓の外では人々が瓦礫を片付け始めていた。
十二の星が空に消え代わりに太陽が昇る。
ルイカザーワは焼かれた。
だが人は生きている。
明日は来る。
そしてまた街は動き出す。
それが人間だから。
山岳国家ルイカザーワの悲劇。
それはドラゴンの襲来によってもたらされた絶望の記録であり、同時に一人の勇者と一人の聖女そして名もなき十二人の冒険者と一人のギルド嬢の勇気によって刻まれた希望の記録である。
街は再び建てられる。
山にへばりつくように。
石造りの家々が斜面を埋めるように。
そして人々は生きる。
愛する者たちを守るために。
物語は終わった。
だが十二の星は永遠に輝き続けるだろう。
ルイカザーワの夜空に。