※この作品はR-18です。

外道勇者と性悪ビッチ聖女『偽善の聖剣、背徳の聖杖』    作:みなぽん

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名誉の代償 策謀渦巻く

ルイカザーワから戻ったアンリエッタを待っていたのは、王都中から寄せられる称賛だった。

 

ドラゴン討伐。

 

焼け落ちた街での救助。

 

負傷者への治癒。

 

孤児たちへの支援。

 

商人たちへの慈善事業。

 

それまでにもアンリエッタは幾つもの善行を積み重ねてきた。

 

だが、ドラゴンという人智を超えた災厄から一国の民を救ったという事実は、それまでとは比較にならないほど大きかった。

 

王都の新聞には、連日のように彼女の名前が載った。

 

『聖女アンリエッタ、山岳国家を救う』

 

『太陽の勇者と聖女、ドラゴンを討つ』

 

『聖女、焼け跡に立ち民を癒やす』

 

教会では彼女のために祈りが捧げられ、王都の市場では彼女を描いた小さな聖像まで売られ始めた。

 

子供たちは木の枝を杖に見立てて遊び、

 

「聖女様ごっこ!」

 

などと言って笑った。

 

アンリエッタが街を歩けば、人々は頭を下げる。

 

商人たちは彼女の慈善事業への参加を申し出る。

 

貴族たちは彼女との面会を求める。

 

教会関係者は彼女を称賛する。

 

そして王宮では――。

 

国王アウグストが、娘の帰還を自ら出迎えた。

 

「よく戻ったな」

 

「ただいま戻りました、お父様」

 

アンリエッタは深く頭を下げた。

 

アウグストはその肩へ手を置いた。

 

「聞いたぞ。ルイカザーワで多くの民を救ったそうだな」

 

「私一人の力ではありません。エステバン様がドラゴンを討ち、現地の方々も最後まで戦いました」

 

「それでも、お前は最後まで民のそばにいた」

 

国王は微笑んだ。

 

「私の娘が、これほど立派に成長したことを誇りに思う」

 

アンリエッタは顔を上げた。

 

「お父様……」

 

「お前は私の誇りだ、アンリエッタ」

 

その言葉に、彼女の胸がわずかに熱くなる。

 

それは演技ではなかった。

 

父に愛されること。

 

母を失った自分を、父だけは見捨てなかったこと。

 

それだけは、彼女にとって本物だった。

 

だからこそ。

 

父の信頼を失いたくない。

 

その思いは、彼女の中に今も残っている。

 

「これからも民のために尽くします」

 

アンリエッタは微笑んだ。

 

「聖女として」

 

国王は満足そうに頷いた。

 

その姿を見ていた者の中には、エステバンもいた。

 

彼は王宮の広間で跪き、静かに頭を下げていた。

 

「勇者エステバン」

 

国王が声をかける。

 

「そなたにも礼を言わねばならぬ。ドラゴンを討った功績は大きい」

 

「私は当然のことをしたまでです」

 

エステバンは穏やかに笑った。

 

アンリエッタが横目で彼を見る。

 

完璧な勇者の顔だった。

 

謙虚。

 

誠実。

 

礼儀正しい。

 

だが、彼女だけは知っている。

 

その笑顔の裏で、ドラゴンの素材をいくらで売るか考えていることを。

 

そしてエステバンも知っている。

 

聖女の微笑みの裏側で、アンリエッタが次に誰を利用するか考えていることを。

 

二人は互いの本性を知っていた。

 

だからこそ、奇妙な信頼があった。

 

「アンリエッタ」

 

「はい?」

 

「今回も見事だった」

 

「ありがとうございます、エステバン様」

 

二人は人々の前で微笑み合う。

 

それは、誰が見ても麗しい光景だった。

 

太陽の勇者と聖女。

 

正義と慈愛を象徴する二人。

 

王宮の者たちは、その姿を称賛した。

 

だが、二人だけは知っている。

 

その笑顔の意味を。

 

「今度、時間があれば食事でもどうです?」

 

エステバンが言う。

 

「ええ。ただし、賭け事はほどほどになさってくださいね」

 

アンリエッタが微笑む。

 

「君こそ、教会の古書庫には近づかないことだ」

 

「まあ。何のことでしょう?」

 

二人は笑った。

 

傍から見れば、ストイックで礼儀正しい友人同士の会話。

 

しかし互いの秘密を握っている二人にとっては、軽い牽制でもあった。

 

それでも。

 

アンリエッタにとってエステバンは貴重な存在だった。

 

自分を聖女としてではなく、一人の人間として見る数少ない人物。

 

エステバンにとっても同じだった。

 

彼女の前では、英雄を演じ続ける必要がない。

 

その奇妙な関係は、王宮では「麗しい友情」として受け止められていた。

 

だが。

 

その光景を、快く思わない者たちがいた。

 

第一王子レオニード。

 

そして第一王女イザベラ。

 

二人は王宮の上階から、庭園を歩くアンリエッタを見下ろしていた。

 

「……まただわ」

 

イザベラが呟いた。

 

レオニードは答えなかった。

 

庭園には貴族たちが集まっている。

 

アンリエッタが通るたびに、人々が頭を下げる。

 

「聖女殿下」

 

「素晴らしいご活躍でした」

 

「ルイカザーワの民も、殿下を生涯忘れないでしょう」

 

アンリエッタは、その一人一人に笑顔で答えている。

 

少し離れた場所にはエステバンがいる。

 

「勇者様!」

 

子供たちが駆け寄る。

 

エステバンは笑って頭を撫でる。

 

絵画にしたくなるような光景だった。

 

イザベラは扇を閉じた。

 

「お父様は、あの子をますます信用している」

 

「……ああ」

 

レオニードの声は低かった。

 

「以前は、ただの妹だった」

 

「ええ」

 

「だが今は違う」

 

レオニードは庭園を見下ろした。

 

「聖女だ」

 

その一言には、警戒が滲んでいた。

 

王国の民から愛される聖女。

 

教会から支持される聖女。

 

商人たちから信頼される聖女。

 

そして、国王から深く愛される王女。

 

それだけではない。

 

太陽の勇者エステバンまで、彼女と行動を共にしている。

 

レオニードは腕を組んだ。

 

「もし、アンリエッタが政治に口を出すようになったらどうなる?」

 

イザベラは黙った。

 

答えは分かっていた。

 

彼女には人を動かす力がある。

 

命令ではない。

 

恐怖でもない。

 

人々が自ら彼女の言葉を信じ、従う。

 

それは王族にとって、非常に厄介な力だった。

 

「お父様が彼女を王位継承争いから外しているからこそ、まだ問題になっていないだけよ」

 

イザベラが言った。

 

「でも、民衆が彼女を支持し始めれば……」

 

「王位継承順位など、民衆には関係ない」

 

レオニードが答えた。

 

「人々が『あの方こそ国を導くべきだ』と言い始めれば、それだけで政治になる」

 

イザベラは黙り込んだ。

 

しばらくして、彼女は小さく言った。

 

「……怖いわ」

 

レオニードが妹を見る。

 

イザベラはアンリエッタを見つめていた。

 

「昔は、あの子を馬鹿にできた」

 

幼い頃。

 

低い身分の母親から生まれた妹。

 

宮廷では、どこか異質な存在だった。

 

だから嫌味を言っても。

 

服を汚しても。

 

仲間外れにしても。

 

大きな問題にはならなかった。

 

だが今は違う。

 

「今、あの子を傷つければ……」

 

イザベラは言葉を止めた。

 

王が怒る。

 

教会が騒ぐ。

 

商人たちが離れる。

 

民衆から批判される。

 

そして、何より。

 

勇者エステバンが黙っていない可能性がある。

 

レオニードは静かに言った。

 

「アンリエッタは、もう昔の妹ではない」

 

その頃。

 

庭園では、アンリエッタが花を摘んでいた。

 

その隣にはエステバン。

 

「見られているな」

 

彼が小声で言った。

 

アンリエッタは振り返らなかった。

 

「ええ」

 

「兄上と姉上か」

 

「おそらく」

 

「どうする?」

 

アンリエッタは一輪の白い花を手に取った。

 

「何もしません」

 

「本当に?」

 

「ええ」

 

そして微笑んだ。

 

「何もしていない人間ほど、怖いものはありませんから」

 

エステバンが吹き出した。

 

「アンリは本当に聖女らしくなったな」

 

「あなたも、すっかり勇者らしくなりましたね」

 

二人は顔を見合わせた。

 

そして、誰にも聞こえない声で笑った。

 

庭園の向こうでは、第一王子と第一王女が二人を見ている。

 

王宮の権力構造は、少しずつ変わり始めていた。

 

アンリエッタ自身が望んだかどうかとは関係なく。

 

善行を積み重ねるほど。

 

人々を救うほど。

 

父王から信頼されるほど。

 

彼女の存在は大きくなる。

 

そして。

 

その大きさが、王家の中に新たな恐れを生み始めていた。

 

聖女アンリエッタ。

 

彼女はまだ、王位を望んではいない。

 

だが――。

 

王位を望まない人間に、王位以上の影響力が集まることほど、王族にとって恐ろしいことはなかった。

 

 ――アンリエッタ。

 

 イザベラは唇を噛んだ。

 

「……本当に、厄介な子になったわね」

 

 以前なら、簡単だった。

 

 粗末な母親の血を引く妹。

 

 王女とはいえ、母親の身分は低く、宮廷内で味方も少ない。

 

 少し嫌味を言えば黙る。

 衣装を汚しても泣くのを我慢する。

 宴席から外しても、笑顔を作って頭を下げる。

 

 それがアンリエッタだった。

 

 ところが今は違う。

 

 王都の民衆は彼女を「聖女」と呼ぶ。

 

 教会は彼女を称える。

 

 商人たちは彼女の名前を商売の信用と結びつけ始めている。

 

 そして何より――。

 

「父上が、あの子を信頼しすぎている」

 

 それがイザベラには恐ろしかった。

 

 アンリエッタ自身が王位を望んでいないことくらい、彼女にも分かっている。

 

 だが、政治とは本人の意思だけで決まるものではない。

 

 人々が望めば、権力になる。

 

 民衆が彼女を慕い、教会が彼女を支持し、商人が彼女を頼り、父王が彼女を愛している。

 

 その状況が続けば、アンリエッタは王位を望まずとも、王国そのものを動かせる存在になってしまう。

 

 イザベラは振り返った。

 

 部屋には第一王子レオニードがいた、

「アンリエッタを潰すのか?」

 

 イザベラは首を横に振った。

 

「いいえ」

 

 その目には、かつてないほど静かな光があった。

 

「表立っての対立はいけません」

 

「では?」

 

「もっと遠くへ行ってもらうのです」

 

 レオニードが眉を動かした。

 

「遠くへ?」

 

「ええ」

 

 イザベラは机の上に置かれた大陸地図を広げた。

 

「アンリエッタは聖女。そしてエステバンは勇者です」

 

 地図の上にはクライスト王国を中心に、五つの国が記されていた。

 

「だったら、その肩書きに相応しい仕事をしてもらえばいい」

 

 イザベラの指が、クライスト王国の東側へ伸びていく。

 

「大陸諸国の救済です」

 

 レオニードはしばらく地図を見つめていた。

 

 やがて、理解したように目を細める。

 

「……国外派遣か」

 

「そうです」

 

 イザベラは微笑んだ。

 

「父上にはこう申し上げます。クライスト王国が誇る勇者と聖女を、周辺諸国へ派遣してはいかがでしょう、と」

 

「名声を広げるため?」

 

「それだけではありません」

 

 イザベラの笑みが深くなる。

 

「クライスト王国の威信を、大陸中に知らしめるためです」

 

 それならば父王も反対しない。

 

 むしろ喜ぶだろう。

 

 アンリエッタの名声が国外で高まる。

 

 エステバンの英雄譚が各国に広がる。

 

 クライスト王国の国威が上がる。

 

 一見すれば、これ以上ない外交政策だった。

レオニードが地図を覗き込む。

「どこに行くかは彼らに任せましょう。近隣諸国は問題を抱えた国ばかりです。例えば森の国エルディア」巨大な古代森林に囲まれた、長命種エルフたちの国。

 自然との共生を重視する一方、近年は森林の奥から異常発生した魔獣群が村々を襲っている。

 次に指が南へ移動する。

「次はドワーフの国、グランベルク」

豊富な鉱山資源と鍛冶技術を誇り、大陸中に武器や農具を輸出している。

鉱山労働者たちの待遇を巡って、職人組合と王政府が激しく対立している。

三つ目。砂漠の王国、ザハール。

 そこでは古代から続く獣人への奴隷制度が問題になっている。

 王家は制度を維持しようとし、一方で解放を求める都市民や宗教勢力が反発している。

 四つ目は海洋国家。

 港湾国家、ヴァルグレア。

そこでは海から現れる巨大海獣によって交易路が寸断されている。

 北方の小国。氷雪に閉ざされた魔法国家、ノルディア。

今やこの国は、魔族の支配下にあると言う。

「聖女と勇者は救世の旅の途中で非業の最後を遂げる❤️よくあることですわ。レオニードお兄様。」

「ふふふ、俺のためとは言っても、お前はほんとに恐ろしい女だよイザベラ❤️」

「ええ、私が王として服従するのはイグニートお兄様だけです❤️お兄様の覇業を邪魔するものは、このイザベラが許しません。」

 

「ふふ……俺のためとは言っても、お前はほんとに恐ろしい女だよイザベラ」

 

レオニードはそう吐き捨てると同時に、地図の上を滑っていたイザベラの細い手首を乱暴に掴み上げた。強引に引き寄せられたイザベラはバランスを崩し、よろめきながらも兄の広い胸元へと倒れ込む。硬い軍服のボタンが彼女の柔らかな頬を掠め、男の荒い熱気と皮革の匂いが鼻腔を満たした。

 

「……お兄様」

 

イザベラは潤んだ瞳で見上げた。その瞳の奥には、先ほどまで地図上に敵国を落とさんとしていた冷酷な知性とは全く異なる、熱に浮かされた麻薬のような渇望が揺らめいていた。

 

「私が王として服従するのはイグニートお兄様だけです。……でも今の私は、ただの兄に弄ばれる可哀想な妹ですわ❤️」

 

その言葉は、明確な挑発だった。イグニートという絶対的な支配者の影をちらつかせながら、目の前の男の支配欲を煽る。それは彼女が最も好む、支配されるための甘い前戯だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「口の減らない妹だ」

 

レオニードは低く唸るように笑い、イザベラの滑らかな顎を強い力で持ち上げた。肉に食い込むような圧力。痛みに近い感覚に、イザベラの唇から甘く湿った吐息が漏れた。背筋を快感の電流が駆け抜け、太ももの奥が熱く疼く。普段は冷徹な策士の顔を持つ彼女の内側には、強者に蹂躙され所有されることでしか満たされない深い泥沼のような性癖が棲みついていた。彼女の目が「もっと痛くして」と物語っていた。

 

「イグニート兄上には及ばないかもしれないが、お前を壊してやることくらいはできるぞ」

 

「ああっ…! ほんとうに、壊してくださいませ…っ!」

 

レオニードの大きな手がイザベラの王女としての威厳を飾る高級なドレスの襟を強引に掴み、横に引き裂いた。繊細なレースと高価な布地が悲鳴を上げ、白磁のような肌が露わになる。彼は容赦なくその豊かに膨らんだ胸を鷲掴みにし、荒っぽく揉みしだいた。指が食い込むたびに、形が変形し、白い肉の間からはみ出る。

 

「んっ、ああっ…! お兄様、もっと…もっと乱暴に…!」

 

身分を捨て、理性を捨て、ただの肉の塊として扱われること。イザベラはそれを求めてやまなかった。レオニードの指が乳首を捉え、爪を立てて強く摘み上げる。鋭い痛みが胸の奥へと突き抜け、イザベラは悲鳴にも似た甘い声を上げた。

 

「ひゃあっ! あっ、あっ…!」

 

「見ろ、こんなに硬くなってる。高貴な王女様は痛めつけられるのがお好きらしいな」

 

レオニードは冷ややかに嘲笑いながら、片方の胸を平手で打った。パァン、と乾いた音が書斎に響く。白い肌に赤い手形が浮き上がり、イザベラの体がビクンと跳ねた。

 

「はいっ…っ! 私は…お兄様に痛めつけられるのが好きですわ…っ! ああっ、もっと…!」

 

レオニードはイザベラの体を机の端に押し付けた。政略を練るための地図や書類が下敷きになることなど気にも留めない。彼はイザベラのスカートを乱暴にまくり上げ、豪華な刺繍が施された下着を一息で引き裂いた。布が肌を擦る摩擦が、彼女の粘膜をさらに濡らした。

 

「俺の計画のために、こんな体を差し出すのか。淫らな妹だ」

 

「はい…っ! 私は、お兄様の道具ですわ…っ! どうか、この汚れた体に罰を…!」

 

レオニードは自身のベルトを解き、厚い革の帯を引き抜いた。それを振るった乾いた音と共に、イザベラの白い太ももに赤い筋が刻まれた。

 

「ひゃあっ!」

 

鋭い痛みが脳髄を走り抜け、イザベラは背を反らせた。痛みが快楽へと変貌する瞬間、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。それは屈辱の涙ではなく、至福の証だった。

 

「いい声だ。宮廷の者たちに聞かせてやりたいくらいだな」

 

レオニードは冷酷に笑いながら、次々に打撃を加えていく。太もも、尻、そして背中。赤い筋が交差し、白い肌が染め上げられていく。イザベラは痛みに身をよじりながらも、そのすべてを快楽として受け入れていた。

 

「あっ、ああっ! お兄様、お兄様っ! もっと、もっと痛くして…! 私を壊してください…!」

 

「お前は本当にどこまで堕ちれば満足するんだ」

 

レオニードは革の帯を投げ捨て、今度は自身の熱く滾る欲望を彼女の秘裂に押し当てた。十分に濡れていたとはいえ、容赦のない太さと硬さだった。

 

「い、いやっ、おおきすぎ…っ!」

 

「嘘をつくな。こんなに締め付けてきやがって」

 

ズブリ、と亀頭が入り込むと、イザベラの体が跳ねた。レオニードは容赦なく一気に最奥まで貫いた。

 

「あああっ!!」

 

甲高い悲鳴が部屋中に響き渡る。子宮を直接突かれたような衝撃。イザベラの目から涙が溢れ、爪が机の縁に食い込んだ。だが、その声の響きには明らかな快感が混じっていた。

 

「いい泣きこえだ。もっと叫べ」

 

レオニードは容赦なく腰を打ち付け始めた。愛撫も気遣いもない、ただの欲望の捌け口としての行為。肉と肉がぶつかる湿った音が、静かな書斎に響き渡る。

 

「あっ、あっ、あっ! お兄様、お兄様っ! もっと、もっと奥まで…!」

 

激しいピストン運動に、イザベラの意識は白濁していく。首を絞められ、息が苦しくなるほどの苦痛と、子宮を突き上げられる絶頂が同時に襲ってくる。レオニードの片手がイザベラの喉元を締め上げ、もう片方の手は彼女の胸を鷲掴みにしている。痛みと快感の境界が溶け合い、彼女は狂ったように首を振った。

 

「くっ、くるっ、くるうっ! お兄様、私、おかしくなっちゃいますっ!」

 

「壊れるまで使ってやる。お前はそれを望んでいるんだろう?」

 

「はいっ、はいっ! ああっ! 壊してください、壊して、おかしくして…っ!」

 

机の上の地図がくしゃくしゃになりインク瓶が倒れる。政略を練るための書斎が、二人の獣のような交わりの場と化していた。レオニードはイザベラの髪を掴み顔を上げさせ、乱暴に唇を重ねた。舌を絡ませ、相手の息を奪うような痛みを伴う口づけ。

 

「んっ、んぅっ…!」

 

息ができない。苦しい。でも、この苦しみさえも愛おしい。イザベラは兄の唇に吸い付き、舌を絡ませ、すべてを委ねた。

 

「イグニート兄上の代わりだとしても、お前は俺に従うんだ。体も心も、そしてこの王国の策略もな」

 

「はいっ、ああっ! すべてお兄様の思い通りに…っ! 私を、私を支配してくださいっ!」

 

レオニードはイザベラの体を机から引き剥がし、床に押し倒した。冷たい石の床に背中が打ち付けられ、痛みが走る。だが、レオニードは構わずに彼女の上に跨り、再び激しく腰を打ち付け始めた。

 

「あっ、ああっ! お兄様、そこ、そこは…っ!」

 

「黙れ。お前の口が勝手なことを言うからだ」

 

レオニードは片手でイザベラの口を塞ぎ、もう片方の手で彼女の足を大きく開かせた。正常位から深く貫かれ、イザベラの奥底が露出する。彼女の秘部はひくひくと痙攣し、レオニードの欲望を締め付けて離さない。

 

「くっ、締め付けが強くなってきたぞ。イキそうか?」

 

「んっ、んんっ…!」

 

口を塞がれたまま、イザレータは必死に頷いた。目から涙が溢れ、頬を伝って床に落ちる。レオニードは指を少し緩め、彼女に呼吸を許した。

 

「あっ、ああっ…! お兄様、私、もう…もう限界です…っ!」

 

「なら、イケ」

 

その一言が契機となり、イザベラの全身が激しく痙攣した。子宮が収縮しレオニードの全てを貪り喰らうかのように締め付ける。

 

「ああっ! イクっ! イキます…っ! お兄様…!」

 

イザベラは全身を弓なりにして絶頂を迎えた。膣が収縮を繰り返しレオニードの欲望を更に刺激する。レオニードは歯を食いしばり耐えようとしたが彼女の締め付けの前に敗北した。

 

「くっ…!」

 

短く呻きレオニードは最奥に熱い飛沫を放った。灼熱の精液がイザベラの胎内を満たし彼女の全身を貫く衝撃となって駆け抜けた。それは二度目の絶頂だった。

 

荒い息遣いが部屋に満ちる。

 

汗と体液にまみれたイザベラは乱れたドレスのまま床に崩れ落ちた。しかし彼女の表情は恍惚とした安堵に満ちていた。頬に残る涙の跡首に残る赤い指の跡太ももに残る鞭痕そして胎内の温もり。それらすべてが彼女を「完全に所有されている」という至福で満たしていた。

 

レオニードは乱れた服を整えながら冷ややかな目で妹を見下ろした。

 

「計画は決まったな。アンリエッタを大陸へ追いやり消す」

 

「ええ…っ」イザベラは床に這いつくばったまま熱っぽい目で兄を見上げた。「私たちの愛の巣を邪魔する者は…誰であろうと消し去りましょう…❤️」

 

道ならぬ血を分けた兄妹の歪んだ愛と欲望それこそがクライスト王国の闇を牛耳る原動力だった。

二人の視線の先にはまだ見ぬ大陸の地図が血と欲望にまみれて横たわっていた。

イザベラはゆっくりと体を起こすと乱れたドレスを直しながら熱い眼差しで兄を見上げた「お兄様…もう一度…お願いします。アンリエッタを処分したらきっと私達の時代が始まる…だからもう一度…私を…徹底的に犯してください…もっともっと壊れさせて…」

レオニードはその要求に戸惑いを見せつつもやがて不敵な笑みを浮かべた「まだ足りないのか?」「はい…もっと…もっと私をお兄様の色に染め上げてください…」レオニードは彼女の懇願を受け入れると再び覆いかぶさり床に押し倒した「わかったよ淫乱な妹め存分に苦しんでくれ」

 

「あぁっ! お兄様…っ!」

 

イザベラは歓喜の声を上げた。再び与えられた苦痛と快楽。兄の大きな体に押さえつけられる圧迫感。彼女は両手を伸ばしレオニードの首に腕を回した。引き寄せられた唇が再び重なる。

 

「んんっ…! ふぅっ…!」

 

今度は優しさのかけらもなく激しく求め合う口づけだった。互いの唾液を貪り合うような激しさにイザベラの呼吸は早まり興奮は増すばかりだ。レオニードは再び硬くなった己をイザベラの股間に押し当てる「準備万端か?」「はい…っ! お兄様…っ! どうか…どうか存分に…!」

 

ズリズリと亀頭が濡れた秘裂を上下に擦り上げる。クリトリスが擦られイザベラの腰がピクンと跳ねる。

 

「あっ…! そこ…そこは…!」

 

「まだ入れてもいないのにこんなに濡らして。やっぱりお前は淫乱だな」

 

「はい…私…淫乱です…っ! お兄様に使われるのが嬉しいんです…っ!」

 

レオニードはイザベラの耳元に唇を寄せ低い声で囁いた。

 

「これから毎晩こうやってお前を犯してやる。アンリエッタが大陸へ旅立つまで。そして旅立った後も。お前が俺の計画のために動く限り、俺はお前のこの体を存分に使ってやる」

 

「ああっ…! うれしい…! ああっ、お兄様…!」

 

その言葉はイザベラにとって何よりも甘美な約束だった。計画の成功と兄からの報酬。それこそが彼女が生きる意味だった。

 

レオニードはイザベラの両足を肩に担ぎ上げた。M字開脚の無防備な姿勢。彼女の赤く腫れた秘部が露わになりひくひくと震えながら兄の侵入を待っている。

 

「ひっ…! 恥ずかしい…っ!」

 

「さっきまであんなに叫んでいたくせに今更何を言っている」

 

レオニードは一気に最奥まで貫いた。奥まで入る角度。子宮口を直接突く角度だった。

 

「あああっ!! そこ、そこはだめぇっ! お兄様…おかしくなる…!」

 

「いいぞその声だ。もっと叫べ。誰も聞きつけない」

 

レオニードは激しく腰を振り続けた。子宮口を何度も何度も突き上げ、イザベラの理性を削り取っていく。彼女は涙を流し首を振りながらも腰を自ら動かして兄に合わせていた。

 

「あっ、あっ、あっ! お兄様、お兄様っ! 気持ちいい…! 気持ちいいですっ! もっと、もっと奥…!」

 

「くっ…! また締め付けが強くなってきたぞ。本当にメスだなお前は」

 

「はいっ! 私はお兄様のメスですっ! だから…だからもっと…!」

 

レオニードはイザベラの足を肩から下ろし、彼女の腰を抱え上げた。体を起こし、向かい合った体勢で再び貫く。対面座位。イザベラは兄の首に腕を回し、汗ばんだ胸を押し付け合う。

 

「んっ…お兄様…愛しています…っ!」

 

「俺もだイザベラ…!」

 

愛の言葉が交わされるが、それは一般的な意味での愛ではない。共犯者としての愛。支配と服従の愛。歪んだ絆の愛だった。レオニードはイザベラの腰を激しく上下に動かし、彼女の最も敏感な場所を擦り上げる。

 

「あっ、ああっ! そこ…そこ擦られて…ああっ!」

 

「イザベラ、俺と一緒にイくぞ」

 

「はいっ! はいっ! ああっ! お兄様…!」

 

二人は激しく唇を重ね合い、互いの吐息を貪り合った。そして、共に絶頂へと駆け上がっていく。イザベラの膣が収縮し、レオニードの全てを搾り取るかのように締め付ける。

 

「いくぞ…!」

 

「ああっ! 私も…私もイキます…っ! お兄様…!」

 

レオニードは再び最奥に精を放った。イザベラはその熱を胎内に受け止め全身を震わせて絶頂を迎えた。二人はしばらくそのままの体勢で荒い息をついていた。やがてレオニードはゆっくりと体を離した。

 

「…計画通りに進めろ」

 

「はい…お兄様」

 

イザベラは乱れた髪をかき上げながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「アンリエッタ…今に見ていなさい」

 

二人の視線の先には大陸の地図が横たわっていた。それは彼らの欲望と野望が染み込んだ地図だった。聖女アンリエッタと勇者エステバンを巡る運命は彼らの知らぬところで暗い方向へと動き始めていた。

 

-

翌朝。

 

 王の執務室には、アンリエッタとエステバンが呼ばれていた。

 

 国王アウグストは、二人を前にして、誇らしげな表情を浮かべている。

 

「私は、ある提案を受けた」

 

 その隣にはレオニード。

 

 少し離れた場所にはイザベラ。

 

 そして複数の貴族たちが控えている。

 

「周辺諸国から、我が国への支援要請が届いている」

 

 アウグストは続けた。

 

「そこで、お前たち二人に大陸を巡ってもらいたい」

 

「大陸を?」

 

 アンリエッタが目を丸くする。

 

「そうだ」

 

 王は笑った。

 

「勇者エステバン。そして聖女アンリエッタ。その二人が各国を救えば、クライスト王国の威信は大きく高まるだろう」

 

 アンリエッタは黙っていた。

 

 その横で、エステバンがゆっくりと微笑む。

 

「……面白そうですね」

 

 その目が、ほんの一瞬だけイザベラを見る。

 

 彼女も微笑み返した。

 

「もちろん危険な旅になります」

 

 イザベラは穏やかに言った。

 

「ですが、お二人ならきっと成し遂げられるでしょう」

 

 アンリエッタは、その言葉の奥にあるものを探るようにイザベラを見た。

 

 姉は笑っている。

 

 完璧な王女の笑顔だった。

 

 優しく。上品に。そして、何の悪意もないように。

 

 だがアンリエッタには分かった。

 

 これは善意ではない。

 

 罠だ。

 

 彼女は一瞬だけ考えた。

 

 断ることはできる。

 

 しかし、父王の期待を裏切ることになる。

 

 そして何より――。

 

「お引き受けします」

 

 アンリエッタは微笑んだ。

 

 イザベラの瞳が、ほんのわずかに細くなる。

 

「私たちにできることがあるのなら、力を尽くします」

 

 その言葉を聞いたエステバンも頷いた。

 

「俺も同じです」

 

 王は満足そうに笑った。

 

「さすがは私の娘だ。そして勇者よ」

 

 部屋に拍手が起きる。

 

 誰も気づいていなかった。

 

 いや――。

 

 二人だけは気づいていた。

 

 これは栄誉ある使命であると同時に、王都から二人を遠ざけるための策だということを。

 

 部屋を出た後、長い廊下を並んで歩きながら、エステバンが小声で言った。

 

「随分と親切な姉上だな」

 

「ええ」

 

 アンリエッタは笑った。

 

「私たちを五カ国も旅行させてくださるそうですよ」

 

「しかも国難つき」

 

「ええ。素敵な贈り物です」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 そして、ほとんど同時に笑った。

 

「罠ですね」

 

「罠だな」

 

 アンリエッタは窓の外を眺める。

 遠くには王都の街並みが広がっている。

 アンリエッタは、静かに微笑んだ。

 

「では、参りましょうか、いろいろ女性問題もこじれてるよですし、良い機会じゃないですか。」

 

 エステバンも笑った。

 

「性悪聖女、お前と付き合っているとほんとに退屈しないぜ」

 二人は何も知らない者から見れば、まさに理想の英雄と聖女だった。

 

 だが彼らを送り出したイザベラも知らなかった。

 この旅が、アンリエッタとエステバンを王都から遠ざけるどころか――。

 二人の名前を、大陸そのものに轟かせる旅になることを。

 

 

 

聖女、王宮を揺らす

 

ルイカザーワから戻ったアンリエッタを待っていたのは、王都中から寄せられる称賛だった。

 

ドラゴン討伐。

 

焼け落ちた街での救助。

 

負傷者への治癒。

 

孤児たちへの支援。

 

商人たちへの慈善事業。

 

それまでにもアンリエッタは幾つもの善行を積み重ねてきた。

 

だが、ドラゴンという人智を超えた災厄から一国の民を救ったという事実は、それまでとは比較にならないほど大きかった。

 

王都の新聞には、連日のように彼女の名前が載った。

 

『聖女アンリエッタ、山岳国家を救う』

 

『太陽の勇者と聖女、ドラゴンを討つ』

 

『聖女、焼け跡に立ち民を癒やす』

 

教会では彼女のために祈りが捧げられ、王都の市場では彼女を描いた小さな聖像まで売られ始めた。

 

子供たちは木の枝を杖に見立てて遊び、

 

「聖女様ごっこ!」

 

などと言って笑った。

 

アンリエッタが街を歩けば、人々は頭を下げる。

 

商人たちは彼女の慈善事業への参加を申し出る。

 

貴族たちは彼女との面会を求める。

 

教会関係者は彼女を称賛する。

 

そして王宮では――。

 

国王アウグストが、娘の帰還を自ら出迎えた。

 

「よく戻ったな」

 

「ただいま戻りました、お父様」

 

アンリエッタは深く頭を下げた。

 

アウグストはその肩へ手を置いた。

 

「聞いたぞ。ルイカザーワで多くの民を救ったそうだな」

 

「私一人の力ではありません。エステバン様がドラゴンを討ち、現地の方々も最後まで戦いました」

 

「それでも、お前は最後まで民のそばにいた」

 

国王は微笑んだ。

 

「私の娘が、これほど立派に成長したことを誇りに思う」

 

アンリエッタは顔を上げた。

 

「お父様……」

 

「お前は私の誇りだ、アンリエッタ」

 

その言葉に、彼女の胸がわずかに熱くなる。

 

それは演技ではなかった。

 

父に愛されること。

 

母を失った自分を、父だけは見捨てなかったこと。

 

それだけは、彼女にとって本物だった。

 

だからこそ。

 

父の信頼を失いたくない。

 

その思いは、彼女の中に今も残っている。

 

「これからも民のために尽くします」

 

アンリエッタは微笑んだ。

 

「聖女として」

 

国王は満足そうに頷いた。

 

その姿を見ていた者の中には、エステバンもいた。

 

彼は王宮の広間で跪き、静かに頭を下げていた。

 

「勇者エステバン」

 

国王が声をかける。

 

「そなたにも礼を言わねばならぬ。ドラゴンを討った功績は大きい」

 

「私は当然のことをしたまでです」

 

エステバンは穏やかに笑った。

 

アンリエッタが横目で彼を見る。

 

完璧な勇者の顔だった。

 

謙虚。

 

誠実。

 

礼儀正しい。

 

だが、彼女だけは知っている。

 

その笑顔の裏で、ドラゴンの素材をいくらで売るか考えていることを。

 

そしてエステバンも知っている。

 

聖女の微笑みの裏側で、アンリエッタが次に誰を利用するか考えていることを。

 

二人は互いの本性を知っていた。

 

だからこそ、奇妙な信頼があった。

 

「アンリエッタ」

 

「はい?」

 

「今回も見事だった」

 

「ありがとうございます、エステバン様」

 

二人は人々の前で微笑み合う。

 

それは、誰が見ても麗しい光景だった。

 

太陽の勇者と聖女。

 

正義と慈愛を象徴する二人。

 

王宮の者たちは、その姿を称賛した。

 

だが、二人だけは知っている。

 

その笑顔の意味を。

 

「今度、時間があれば食事でもどうです?」

 

エステバンが言う。

 

「ええ。ただし、賭け事はほどほどになさってくださいね」

 

アンリエッタが微笑む。

 

「君こそ、教会の古書庫には近づかないことだ」

 

「まあ。何のことでしょう?」

 

二人は笑った。

 

傍から見れば、ストイックで礼儀正しい友人同士の会話。

 

しかし互いの秘密を握っている二人にとっては、軽い牽制でもあった。

 

それでも。

 

アンリエッタにとってエステバンは貴重な存在だった。

 

自分を聖女としてではなく、一人の人間として見る数少ない人物。

 

エステバンにとっても同じだった。

 

彼女の前では、英雄を演じ続ける必要がない。

 

その奇妙な関係は、王宮では「麗しい友情」として受け止められていた。

 

だが。

 

その光景を、快く思わない者たちがいた。

 

第一王子レオニード。

 

そして第一王女イザベラ。

 

二人は王宮の上階から、庭園を歩くアンリエッタを見下ろしていた。

 

「……まただわ」

 

イザベラが呟いた。

 

レオニードは答えなかった。

 

庭園には貴族たちが集まっている。

 

アンリエッタが通るたびに、人々が頭を下げる。

 

「聖女殿下」

 

「素晴らしいご活躍でした」

 

「ルイカザーワの民も、殿下を生涯忘れないでしょう」

 

アンリエッタは、その一人一人に笑顔で答えている。

 

少し離れた場所にはエステバンがいる。

 

「勇者様!」

 

子供たちが駆け寄る。

 

エステバンは笑って頭を撫でる。

 

絵画にしたくなるような光景だった。

 

イザベラは扇を閉じた。

 

「お父様は、あの子をますます信用している」

 

「……ああ」

 

レオニードの声は低かった。

 

「以前は、ただの妹だった」

 

「ええ」

 

「だが今は違う」

 

レオニードは庭園を見下ろした。

 

「聖女だ」

 

その一言には、警戒が滲んでいた。

 

王国の民から愛される聖女。

 

教会から支持される聖女。

 

商人たちから信頼される聖女。

 

そして、国王から深く愛される王女。

 

それだけではない。

 

太陽の勇者エステバンまで、彼女と行動を共にしている。

 

レオニードは腕を組んだ。

 

「もし、アンリエッタが政治に口を出すようになったらどうなる?」

 

イザベラは黙った。

 

答えは分かっていた。

 

彼女には人を動かす力がある。

 

命令ではない。

 

恐怖でもない。

 

人々が自ら彼女の言葉を信じ、従う。

 

それは王族にとって、非常に厄介な力だった。

 

「お父様が彼女を王位継承争いから外しているからこそ、まだ問題になっていないだけよ」

 

イザベラが言った。

 

「でも、民衆が彼女を支持し始めれば……」

 

「王位継承順位など、民衆には関係ない」

 

レオニードが答えた。

 

「人々が『あの方こそ国を導くべきだ』と言い始めれば、それだけで政治になる」

 

イザベラは黙り込んだ。

 

しばらくして、彼女は小さく言った。

 

「……怖いわ」

 

レオニードが妹を見る。

 

イザベラはアンリエッタを見つめていた。

 

「昔は、あの子を馬鹿にできた」

 

幼い頃。

 

低い身分の母親から生まれた妹。

 

宮廷では、どこか異質な存在だった。

 

だから嫌味を言っても。

 

服を汚しても。

 

仲間外れにしても。

 

大きな問題にはならなかった。

 

だが今は違う。

 

「今、あの子を傷つければ……」

 

イザベラは言葉を止めた。

 

王が怒る。

 

教会が騒ぐ。

 

商人たちが離れる。

 

民衆から批判される。

 

そして、何より。

 

勇者エステバンが黙っていない可能性がある。

 

レオニードは静かに言った。

 

「アンリエッタは、もう昔の妹ではない」

 

その頃。

 

庭園では、アンリエッタが花を摘んでいた。

 

その隣にはエステバン。

 

「見られているな」

 

彼が小声で言った。

 

アンリエッタは振り返らなかった。

 

「ええ」

 

「兄上と姉上か」

 

「おそらく」

 

「どうする?」

 

アンリエッタは一輪の白い花を手に取った。

 

「何もしません」

 

「本当に?」

 

「ええ」

 

そして微笑んだ。

 

「何もしていない人間ほど、怖いものはありませんから」

 

エステバンが吹き出した。

 

「君は本当に聖女らしくなったな」

 

「あなたも、すっかり勇者らしくなりましたね」

 

二人は顔を見合わせた。

 

そして、誰にも聞こえない声で笑った。

 

庭園の向こうでは、第一王子と第一王女が二人を見ている。

 

王宮の権力構造は、少しずつ変わり始めていた。

 

アンリエッタ自身が望んだかどうかとは関係なく。

 

善行を積み重ねるほど。

 

人々を救うほど。

 

父王から信頼されるほど。

 

彼女の存在は大きくなる。

 

そして。

 

その大きさが、王家の中に新たな恐れを生み始めていた。

 

聖女アンリエッタ。

 

彼女はまだ、王位を望んではいない。

 

だが――。

 

王位を望まない人間に、王位以上の影響力が集まることほど、王族にとって恐ろしいことはなかった。

 

 

 ――アンリエッタ。

 

 イザベラは唇を噛んだ。

 

「……本当に、厄介な子になったわね」

 

 以前なら、簡単だった。

 

 粗末な母親の血を引く妹。

 

 王女とはいえ、母親の身分は低く、宮廷内で味方も少ない。

 

 少し嫌味を言えば黙る。

 衣装を汚しても泣くのを我慢する。

 宴席から外しても、笑顔を作って頭を下げる。

 

 それがアンリエッタだった。

 

 ところが今は違う。

 

 王都の民衆は彼女を「聖女」と呼ぶ。

 

 教会は彼女を称える。

 

 商人たちは彼女の名前を商売の信用と結びつけ始めている。

 

 そして何より――。

 

「父上が、あの子を信頼しすぎている」

 

 それがイザベラには恐ろしかった。

 

 アンリエッタ自身が王位を望んでいないことくらい、彼女にも分かっている。

 

 だが、政治とは本人の意思だけで決まるものではない。

 

 人々が望めば、権力になる。

 

 民衆が彼女を慕い、教会が彼女を支持し、商人が彼女を頼り、父王が彼女を愛している。

 

 その状況が続けば、アンリエッタは王位を望まずとも、王国そのものを動かせる存在になってしまう。

 

 イザベラは振り返った。

 

 部屋には第一王子レオニードがいた。

 

 そして、その周囲には王都の有力貴族たちが数名。

 

 軍務を司る侯爵。

 財務に影響力を持つ伯爵。

 外交に長けた老公爵。

 

 いずれも、王太子レオニードを支持する者たちだった。

 

「妹を潰すのですか?」

 

 老公爵が尋ねた。

 

 イザベラは首を横に振った。

 

「いいえ」

 

 その目には、かつてないほど静かな光があった。

 

「潰してはいけません」

 

「では?」

 

「もっと遠くへ行ってもらうのです」

 

 レオニードが眉を動かした。

 

「遠くへ?」

 

「ええ」

 

 イザベラは机の上に置かれた大陸地図を広げた。

 

「アンリエッタは聖女。そしてエステバンは勇者です」

 

 地図の上にはクライスト王国を中心に、五つの国が記されていた。

 

「だったら、その肩書きに相応しい仕事をしてもらえばいい」

 

 イザベラの指が、クライスト王国の東側へ伸びていく。

 

「大陸諸国の救済です」

 

 レオニードはしばらく地図を見つめていた。

 

 やがて、理解したように目を細める。

 

「……国外派遣か」

 

「そうです」

 

 イザベラは微笑んだ。

 

「父上にはこう申し上げます。クライスト王国が誇る勇者と聖女を、周辺諸国へ派遣してはいかがでしょう、と」

 

「名声を広げるため?」

 

「それだけではありません」

 

 イザベラの笑みが深くなる。

 

「クライスト王国の威信を、大陸中に知らしめるためです」

 

 それならば父王も反対しない。

 

 むしろ喜ぶだろう。

 

 アンリエッタの名声が国外で高まる。

 

 エステバンの英雄譚が各国に広がる。

 

 クライスト王国の国威が上がる。

 

 一見すれば、これ以上ない外交政策だった。

レオニードが地図を覗き込む。

「どこに行くかは彼らに任せましょう。近隣諸国は問題を抱えた国ばかりです。例えば森の国エルディア」巨大な古代森林に囲まれた、長命種エルフたちの国。

 自然との共生を重視する一方、近年は森林の奥から異常発生した魔獣群が村々を襲っている。

 次に指が南へ移動する。

「次はドワーフの国、グランベルク」

豊富な鉱山資源と鍛冶技術を誇り、大陸中に武器や農具を輸出している。

鉱山労働者たちの待遇を巡って、職人組合と王政府が激しく対立している。

三つ目。砂漠の王国、ザハール。

 そこでは古代から続く獣人への奴隷制度が問題になっている。

 王家は制度を維持しようとし、一方で解放を求める都市民や宗教勢力が反発している。

 四つ目は海洋国家。

 港湾国家、ヴァルグレア。

そこでは海から現れる巨大海獣によって交易路が寸断されている。

 北方の小国。氷雪に閉ざされた魔法国家、ノルディア。

今やこの国は、魔族の支配下にあると言う。

「聖女と勇者は救世の旅の途中で非業の最後を遂げる❤️よくあることですわ。お兄様ですわお兄様。」

 

翌朝。

 

 王の執務室には、アンリエッタとエステバンが呼ばれていた。

 

 国王アウグストは、二人を前にして、誇らしげな表情を浮かべている。

 

「私は、ある提案を受けた」

 

 その隣にはレオニード。

 

 少し離れた場所にはイザベラ。

 

 そして複数の貴族たちが控えている。

 

「周辺諸国から、我が国への支援要請が届いている」

 

 アウグストは続けた。

 

「そこで、お前たち二人に大陸を巡ってもらいたい」

 

「大陸を?」

 

 アンリエッタが目を丸くする。

 

「そうだ」

 

 王は笑った。

 

「勇者エステバン。そして聖女アンリエッタ。その二人が各国を救えば、クライスト王国の威信は大きく高まるだろう」

 

 アンリエッタは黙っていた。

 

 その横で、エステバンがゆっくりと微笑む。

 

「……面白そうですね」

 

 その目が、ほんの一瞬だけイザベラを見る。

 

 彼女も微笑み返した。

 

「もちろん危険な旅になります」

 

 イザベラは穏やかに言った。

 

「ですが、お二人ならきっと成し遂げられるでしょう」

 

 アンリエッタは、その言葉の奥にあるものを探るようにイザベラを見た。

 

 姉は笑っている。

 

 完璧な王女の笑顔だった。

 

 優しく。上品に。そして、何の悪意もないように。

 

 だがアンリエッタには分かった。

 

 これは善意ではない。

 

 罠だ。

 

 彼女は一瞬だけ考えた。

 

 断ることはできる。

 

 しかし、父王の期待を裏切ることになる。

 

 そして何より――。

 

「お引き受けします」

 

 アンリエッタは微笑んだ。

 

 イザベラの瞳が、ほんのわずかに細くなる。

 

「私たちにできることがあるのなら、力を尽くします」

 

 その言葉を聞いたエステバンも頷いた。

 

「俺も同じです」

 

 王は満足そうに笑った。

 

「さすがは私の娘だ。そして勇者よ」

 

 部屋に拍手が起きる。

 

 誰も気づいていなかった。

 

 いや――。

 

 二人だけは気づいていた。

 

 これは栄誉ある使命であると同時に、王都から二人を遠ざけるための策だということを。

 

 部屋を出た後、長い廊下を並んで歩きながら、エステバンが小声で言った。

 

「随分と親切な姉上だな」

 

「ええ」

 

 アンリエッタは笑った。

 

「私たちを五カ国も旅行させてくださるそうですよ」

 

「しかも国難つき」

 

「ええ。素敵な贈り物です」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 そして、ほとんど同時に笑った。

 

「罠ですね」

 

「罠だな」

 

 アンリエッタは窓の外を眺める。

 遠くには王都の街並みが広がっている。

 アンリエッタは、静かに微笑んだ。

 

「では、参りましょうか、いろいろ女性問題もこじれてるよですし、良い機会じゃないですか。」

 

 エステバンも笑った。

 

「性悪聖女、お前と付き合っているとほんとに退屈しないぜ」

 二人は何も知らない者から見れば、まさに理想の英雄と聖女だった。

 

 だが彼らを送り出したイザベラも知らなかった。

 この旅が、アンリエッタとエステバンを王都から遠ざけるどころか――。

 二人の名前を、大陸そのものに轟かせる旅になることを。

 

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