※この作品はR-18です。

外道勇者と性悪ビッチ聖女『偽善の聖剣、背徳の聖杖』    作:みなぽん

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エルフの森の国エルディア デビルベアパニック

 

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第一章 涙と喝采の旅立ち

 

 クライスト王国の王都は、その日、朝から祭りのような賑わいに包まれていた。

 

 石畳の大通りには色鮮やかな花が撒かれ、王宮から伸びる大通りの両側には、何千という人々が詰めかけている。商店の軒先には国旗が掲げられ、教会の鐘楼からは祝福の鐘が鳴り響いていた。普段ならば荷車と馬車が行き交うだけの道も、今日は人々の熱気によって埋め尽くされている。

 

 その誰もが、道の先を見つめていた。

 

 太陽の勇者エステバン。

 

 そして、第三王女にして聖女、アンリエッタ・エル・クライスト。

 

 二人がこれから、大陸諸国の救済を目的とした長い旅に出るのである。

 

 王宮の正門が開かれた瞬間、歓声が空気を震わせた。

 

「勇者様!」

 

「聖女様、どうかご無事で!」

 

「アンリエッタ様、私たちのことは心配なさらないでください!」

 

 人々の声に包まれながら、アンリエッタはゆっくりと姿を現した。

 

 淡い金色の髪は朝日に透け、純白の聖衣には銀糸で精緻な紋様が刺繍されている。胸元には王家の紋章が輝き、手には透明な魔石を戴く聖杖《アウレリア》。彼女が一歩踏み出すたび、衣の裾が柔らかく揺れた。

 

 その顔には、慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいた。

 

 だが、その微笑みを見た者の多くは知らない。

 

 彼女が幼いころ、王宮の廊下で何度も嘲笑され、母親の身分を理由に侮辱され、それでも決して怒りを表に出さなかったことを。

 

 泣きたいときに微笑み、腹が立つときに頭を下げ、相手が最も喜ぶ言葉を選ぶことを、彼女がどれほどの年月をかけて身につけたのかを。

 

 今のアンリエッタにとって、慈愛に満ちた微笑みは、もはや仮面であると同時に、最もよく使いこなせる武器でもあった。

 

 もちろん、彼女の善行がすべて演技というわけではない。

 

 貧しい子供たちに食事を与え、病人を癒やし、災害に遭った村々へ赴いて治療を施したことは事実だった。孤児たちが働きながら学べる仕組みを作り、商人たちと協力して仕事と住居を用意したのも彼女である。

 

 その結果、救われた命があり、再び笑えるようになった家族があり、明日を信じられるようになった人々がいた。

 

 彼女の胸の内にどれほどの打算があろうとも、彼女が人々に与えたものまで偽物になるわけではなかった。

 

「皆様」

 

 アンリエッタは立ち止まり、沿道に集まった人々へ向かって頭を下げた。

 

「このたび、私と勇者エステバン様は、周辺諸国を巡り、各地で苦しむ人々を救う旅に出ることとなりました。遠く離れた国々にも、助けを求める声があります。私は聖女として、その声を無視することはできません」

 

 柔らかな声が、魔法によって広場の隅々にまで届く。

 

「この旅は、決して私一人の力で成し遂げられるものではありません。皆様の祈りと、クライスト王国の皆様の温かな心が、私たちの支えとなります。どうか、皆様もお健やかに。そして、困難に直面したときには、互いに手を取り合ってくださいませ」

 

 アンリエッタの瞳が潤んだ。

 

 もちろん、涙を流すべき瞬間は心得ている。

 

 あまりに早すぎればわざとらしい。遅すぎれば感動が薄れる。言葉を終え、ほんの一呼吸置いたところで、目元に浮かぶ涙をそっと指先で拭う。

 

 その仕草を見た沿道の婦人たちが、次々とハンカチを目に当てた。

 

「なんとお優しい……」

 

「ご自分だって危険な旅に出られるのに、私たちのことまで……」

 

「聖女様!」

 

 人々の感動が波のように広がっていく。

 

 アンリエッタは心の中で、そっと息を吐いた。

 

 うまくいった。

 

 そして、その隣では、白銀の鎧に身を包んだエステバンが、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

  漆黒の髪に、整った顔立ち。肩から流れる赤いマントが風を受け、腰には聖剣《ソル・レイヴァ》が輝いている。鍛え抜かれた身体と、隙のない立ち姿は、まさしく物語の中から現れた英雄そのものだった。

 

 エステバンは人々に向かって右手を上げた。

 

「皆さん、安心してください。聖女様は私が命に変えてもお守りします。必ず帰ってきます。それまで、どうかこの国を守っていてください」

 

 短く、力強い言葉。

 

 その一言だけで、沿道の若者たちが歓声を上げた。

 

 彼は実際に強い。灰狼傭兵団を壊滅させ、竜を討ち、数多くの人々を救ってきた。聖剣の力だけではなく、剣術、反射神経、戦場での判断力も一流である。

 

 ただし、彼が戦いのあとに何を持ち帰るかについては、あまり知られていなかった。

 

 傭兵団の隠し財産。討伐した魔物の希少素材。救助した貴族からの謝礼に、英雄の名声を利用して得た数々の贈り物。

 

 それらを自分の懐へ入れることに、エステバンは一切の罪悪感を覚えていなかった。

 

 世の中は公平ではない。

 

 ならば、力と知恵を持つ者が利益を得るのは当然だ。

 

 少なくとも、彼自身はそう考えていた。

 

「アンリエッタ様を、どうかお守りください!」

 

 沿道の若い女性が叫んだ。

 

 エステバンはその声の主へ、眩しいほどの笑みを向けた。

 

「もちろんです。俺の命に代えても」

 

 女性はその場で卒倒しそうになり、周囲の友人たちに支えられた。

 

 その様子を横目で見ていたアンリエッタは、笑顔を崩さずに小さく囁いた。

 

「ずいぶんといいことをおっしゃいますのね。その口で、昨日は酒場の給仕を口説いていたでしょう?」

 

「記憶力のいい聖女様だな」

 

「あなたのような人間の不良品を相棒にしていると、自然と身につくのです」

 

 二人の微笑みは、沿道の人々には、互いを信頼し合う英雄と聖女の美しい交流にしか見えなかった。

 

 やがて、王宮の階段にアウグスト王が姿を現した。

 

 年齢を重ねた王の顔には、威厳とともに深い寂しさが浮かんでいる。

 

「アンリエッタ」

 

「はい、お父様」

 

 アンリエッタは父王の前に進み出た。

 

 王は娘の両肩に手を置き、その顔を見つめた。

 

「お前は、私の誇りだ」

 

 その声には、演技ではない愛情がこもっていた。

 

「幼いころから、どれほど苦しい思いをしてきたか。私はすべてを知っているつもりだ。それでも、お前は人々を恨まず、困っている者に手を差し伸べてきた。お前の母リゼットも、きっと天上から喜んでいるだろう」

 

 母の名を聞いた瞬間、アンリエッタの胸に小さな痛みが走った。

 

 リゼット。

 

 貧しい孤児たちのために生涯を捧げ、古い木笛を吹いて貴族たちから寄付を集めた修道女。

 

 アンリエッタは母の記憶をほとんど持っていない。残されているのは肖像画と、古びた木笛だけだった。

 

 それでも、父が母を愛していたことだけは知っている。

 

 そして、父が自分を愛してくれていることも。

 

 それは、王宮の中で何よりも貴重なものだった。

 

「お父様……」

 

 アンリエッタは父の手をそっと握った。

 

「必ず、無事に帰ってまいります」

 

「うむ。決して無理はするな。お前が傷つくことを、私は望んでいない」

 

「はい」

 

 その返事に嘘はなかった。

 

 父を悲しませたくないという気持ちだけは、アンリエッタの中に確かに存在していた。

 

 だからこそ、彼女は旅立つことを断れなかった。

 

 王国の威信を高めるため。

 周辺諸国を救うため。

 そして、何より父が期待しているから。

 

 そういう理由を並べれば、自分自身の本音を覆い隠すこともできた。

 

 もっとも、彼女にはもう一つ、別の理由があった。

 

 国外には、まだ自分の名声が届いていない。

 

 知らない土地。知らない人々。新しい利権、新しい人脈、新しい機会。

 

 そう考えると、胸の奥が少しだけ弾んだ。

 

 旅とは、存外、悪くないものかもしれない。

 

 やがて二人は馬車に乗り込み、王都の門へと向かった。

 

 沿道には、いつまでも人々が残っていた。

 

 子供たちは花を投げ、老人たちは祈り、商人たちは二人の名前を叫んだ。若い娘たちはエステバンの姿が見えなくなるまで手を振り、教会の鐘は二人の出立を祝福するように鳴り続けた。

 

 馬車の窓からその光景を眺めながら、アンリエッタは小さく息を吐いた。

 

 王都の門が、ゆっくりと遠ざかっていく。

 

 そして、門の上に掲げられたクライスト王家の旗が見えなくなった瞬間、彼女の微笑みが消えた。

 

 同じころ、王宮の高い回廊から、第一王子レオニードと第一王女イザベラが旅立ちを見下ろしていた。

 

「これで、しばらくは静かになるな」

 

 レオニードが言った。

 

 イザベラは扇を広げ、口元を隠した。

 

「ええ。あの子の人気がこれ以上、王都で膨らむ前に、外へ出てもらう必要がありましたもの」

 

「五カ国すべての問題を解決できると思うか?」

 

「さあ。魔物の群れも、奴隷制度も、他国の政治も、そう簡単ではないでしょう」

 

 イザベラの目は、すでに見えなくなった馬車の先を追っていた。

 

「失敗すれば名声に傷がつく。成功すれば成功したで、国外の勢力と結びつき反乱を企んでいると噂を流します。ともあれ今までのように父上のすぐそばで影響力を伸ばすことはできなくなります」

 

 レオニードは頷いた。

 

「なるほど。聖女追放か。」

 

「追放ではありませんわ。栄誉ある使命です」

 

 イザベラは優雅に笑った。

 

「私たちは、あの子のためを思っているのですから」

 

イザベラの目には涙など一滴も浮かんでいなかった。

 

第二章 王都の外では、いつもの二人

 

 クライスト王国の国境を越えて半日。

 

 王都からの街道は、緩やかな丘陵地帯を抜け、やがて広大な草原へと続いていた。

 

 沿道に集まった人々の姿は、もうどこにもない。

 

 聞こえるのは馬の蹄の音と、車輪が土を踏みしめる音、そして遠くで鳴く野鳥の声ばかりだった。

 

 街道脇の林を抜けたところで、エステバンは馬車の御者台から飛び降りた。

 

「よし。もういいだろう」

 

 彼は首を回し、凝り固まった肩をほぐした。

 

「いやあ、疲れた。あれだけの人間の前で笑い続けるってのは、魔物を百匹斬るより疲れるな」

 

 馬車の中から、冷たい声が返ってきた。

 

「何を言っているの。自分で格好をつけておいて」

 

 アンリエッタが窓から顔を出した。

 

 そこには、つい先ほどまでの慈愛に満ちた聖女の面影はなかった。口元は歪み、目つきは鋭く、金色の髪を無造作にかき上げてワインをラッパ飲みしている。

 

「このビッチの腹黒聖女が、いつまでも聖女ぶっているから、こういうことになるんだよ。足元をすくわれやがって」

 

「はあ? あんたの女癖の悪さ噂になってたのよ。それなのに沿道の女の子たちに流し目を送って、投げキッスまでしていたじゃない」

 

「ファンサービスだよ、ファンサービス。勇者の人気を維持するためには必要な営業努力だ」

 

「営業努力ねえ。だったら、旅先で女の子を口説くのも外交活動というわけ?」

 

「お前だって、聖女のお守りとかいう怪しげなものを売りつけていただろうが!」

 

「失礼ね。あれはちゃんと聖なる祝福を込めたお守りよ」

 

「あれ孤児院でお前が一つ銅貨1枚で作らせてるやつだろう。その祝福、一個につき金貨一枚も取る必要があるのか?」

 

「必要があるの。材料費、製作費、祈祷料、運営費。ブランド代 分かる? 目に見えないところでかかってるのよ。それに慈善事業も維持にも経費はかかるのよ。ちゃんと儲けなきゃ善行なんかできやしないのよ。

 

「祈祷している時間より金数えている時間の方が長かっただろうが!」

 

 エステバンは頭を抱えた。

 

 アンリエッタは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。

 

「だいたい、あんたこそ何人の女に手をつけたのよ。あのまま王都にいたら、あんたが不倫してきた女たちから、ミートゥー運動が起こるわよ」

 

「何だそれは?」

 

「女たちが集まって、あなたにされたことを告発するの。あの貴族夫人も、あの商人の娘も、あの酒場の看板娘も、みんなあなたの名前を掲げてね」

 

「やめろ! 具体的に想像できるからやめろ!」

 

 エステバンは思わず叫んだ。

 

 アンリエッタは満足そうに笑った。

 

「そういうところだけは、想像力が豊かなのね」

 

「お前にだけは言われたくない!」

 

 しばらく二人は、互いの悪行を数え上げるように罵り合った。

 

 しかし、それも長くは続かなかった。

 

 エステバンは馬車の荷台から干し肉入りの黒パンを取り出すと、アンリエッタへ放り投げた。

 

「そろそろ腹が減ったろう?」

 

「……ありがとう」

 

 アンリエッタは受け取り無邪気な顔でかぶりついた。

 

 彼らは互いを罵倒しながらも、相手が本当に疲れているときにはいたわり、危険が迫れば背中を預ける。

 

 そういう奇妙な関係だった。

 

 友情と呼ぶには遠慮がなさすぎる。敵同士と呼ぶには、互いの秘密を知りすぎている。

 

そして、お互いの性癖もベッドの中で知り抜いている

 

 盟友であり、恋人であり セフレであり、。金儲けのパートナーであり、

 

 つまりズブズブの悪友。それが二人の関係を表す、最も適切な言葉だった。

 

「ところで、今夜はどこに泊まる?」

 

 エステバンが街道の先を指差した。

 

 丘の向こうに、宿場町らしい屋根の群れが見える。

 

「旅籠街ね。大陸を行き来する商人や冒険者が集まる場所。宿も酒場も、賭場もあるわ」

 

「賭場も?」

 

 エステバンの目が輝いた。

 

「あなた、まさか……」

 

「いやいや、違う。俺は今、勇者としての責任ある旅をしているんだ。民衆の信頼を損なうようなことはしないさ」

 

 アンリエッタは無言で彼を見つめた。

 

「……少しだけだ」

 

「少しだけ?」

 

「勝てそうな勝負を、少しだけ」

 

「この救いようのない博打狂い!」

 

 宿場町に着くと、二人は目立たないように別行動を取った。

 

 アンリエッタは旅装に着替え、聖女の衣装の上から地味な外套を羽織った。もっとも、どれだけ服装を変えても、彼女の容姿と気品は隠しきれない。

 

 彼女は宿の主人や商人たちに、聖女としての正体を少しだけ明かした。

 

「実は、私は聖女アンリエッタ様の一行に仕える者でして」

 

 自分自身のことを「仕える者」と呼ぶあたり、なかなかの厚かましさだった。

 

「こちらは聖女様から特別に祝福を受けたお守りでございます。旅の安全、病魔の退散、商売繁盛。もちろん、信じる心が何より大切ですが、持っているだけでも心が落ち着きますよ」

 

 彼女が微笑みながら小さな布袋を差し出すと、商人たちは目を輝かせた。

 

「聖女様の祝福が?」

 

「ええ。数に限りがありますので、どうぞお早めに」

 

 実際、その布袋には浄化の魔法が込められていた。

 

 毒や病気を完全に防ぐものではないが、軽い魔力の乱れを整え、持ち主の気分を落ち着かせる程度の効果はある。

 

 だから、詐欺と断じるには微妙なところだった。

 

 ただし、原価は銅貨1枚。

 

 売値は金貨1枚。

 

 利益率については、およそ100倍!聖女本人が計算しているのだから、文句のつけようがなかった。

 

 一方、エステバンは古びた外套をまとい、顔を布で覆って地下闘技場に潜り込んでいた。

 

 宿場町の地下には、非公式の闘技場がある。

 

 そこでは冒険者や傭兵、腕自慢の旅人たちが賞金を賭けて戦っていた。

 

 エステバンは狼の覆面をかぶり、登録名を「黄金狼のバン」とし、剣の腕を隠す気などほとんどないまま、次々と対戦相手を打ち倒していった。

 

 彼の剣は速く、正確で、相手の動きを読む能力に優れている。さらに聖剣を持たずとも、勇者として授かった身体能力は常人を大きく上回っていた。

 

 観客席から歓声が上がる。

 

「黄金狼! 黄金狼!」

 

 エステバンは内心でほくそ笑んだ。

 

 聖剣も王家の後ろ盾もない場所で、己の実力だけで稼ぐ。

 

 そう考えると、なかなか気分がよかった。

 

 もっとも、彼は自分の実力が一般の冒険者とは比較にならないほど高いことを、十分に理解していた。

 

 公平な勝負かと問われれば、答えに困るところである。

 

 その夜、宿の食堂で再会した二人は、互いに稼いだ金貨を机の上へ並べた。

 

「金貨三十七枚」

 

 アンリエッタが得意げに言った。

 

「お守りの売り上げよ。旅費の心配はなくなったわね」

 

「俺は金貨五十二枚だ」

 

「……は?」

 

「闘技場でな」

 

 アンリエッタはしばらく黙っていた。

 

 やがて、深々とため息をつく。

 

「本当に、あなたと組んでいると自分がまともな人間に思えてくるわ」

 

「奇遇だな。俺もお前といると、自分が善人に思えてくる」

 

 二人は顔を見合わせ、同時に笑った。

 

 翌朝には、宿場町のあちこちで奇妙な噂が広がっていた。

 

 聖女の祝福を受けたお守りが売られている。

 

 正体不明の剣士が闘技場で連戦連勝している。

 

 その二つの出来事に関係があることを知る者は、まだ誰もいなかった。

 

 クライスト王国の外へ出ても、二人の本質は何も変わっていなかった。

 

 むしろ、監視する宮廷の目が届かなくなった分だけ、彼らは自由に、そして大胆に振る舞うようになっていたのである。

 

第三章 森の国エルディア、血に濡れた歓迎

 

 森の国エルディア。

 

 大陸東部に広がるその国は、古代から続く巨大な森林に抱かれていた。

 

 天を覆うほどに枝葉を広げた大樹。苔むした岩の間を流れる清水。陽光を受けて金色に輝く木漏れ日。樹上に築かれたエルフたちの住居は、木々と一体化するように造られ、地上には精巧な木橋や蔓を編んだ階段が張り巡らされている。

 

 人間の国では、木材は建築資材であり、燃料であり、商売の品だった。

 

 だが、エルフたちにとって森は単なる資源ではない。

 

 彼らの歴史そのものであり、祖先の記憶であり、神々の息吹が宿る聖域だった。

 

 その森の中を、二人の旅人が歩いていた。

 

「……いつまで歩けばいいのよ」

 

 アンリエッタが、うんざりした声を上げた。

 

 王都を出てからすでに十日以上が過ぎている。

 

 街道を離れた森の道は狭く、馬車が通れる場所も少なかった。二人は途中で馬を手放し、徒歩で進むことになっていた。

 

 足元には湿った落ち葉が積もり、木々の間には薄い霧が漂っている。頭上からは鳥の声が聞こえるものの、地上の景色はどこまでも似通っていた。

 

「地図によれば、そろそろ村があるはずだ」

 

 エステバンは地図を広げた。

 

「その地図、三十年前のものじゃないでしょうね?」

 

「……二十年前だ」

 

「捨てなさいよ、そんなもの!」

 

「仕方ないだろう。森の中は道が変わるんだ」

 

「道が変わるんじゃなくて、あなたが迷っているの!」

 

 言い争いながら進んでいた、そのときだった。

 

 森の奥から、悲鳴が聞こえた。

 

 人間のものではない。

 

 甲高く、鋭い声。恐怖と絶望が入り混じった叫びだった。

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「魔物ね」

 

 アンリエッタの表情が変わった。

 

「行くぞ」

 

 エステバンは剣の柄に手をかけ、音のした方向へ走り出した。

 

 木々の間を抜けた先に、小さなエルフの村があった。

 

 しかし、その村はすでに地獄のような光景に包まれていた。

 

 木造の家屋が倒れ、畑が踏み荒らされ、細い煙があちこちから立ち上っている。

 

 その中央に、巨大な獣がいた。

 

 デビルベア。

 

 通常の熊よりも遥かに大きく、肩までの高さは人間の背丈を大きく上回る。全身を覆う黒い毛並みには、ところどころ赤黒い魔力の筋が走っていた。口元から伸びる牙は剣のように鋭く、爪は太い丸太さえ切り裂きそうなほど長い。

 

 一頭ではなかった。

 

 五頭、六頭、いや、それ以上。

 

 デビルベアの群れが村を取り囲み、逃げ惑うエルフたちを追い詰めていた。

 

 戦う者もいた。

 

 弓を構え、魔法を放ち、槍を突き出す者たち。

 

 だが、矢は硬い毛皮に弾かれ、魔法は怒り狂った獣の突進を止められない。

 

 若いエルフの男が、家族を逃がすために盾を構えた。

 

 次の瞬間、デビルベアの巨体が彼を弾き飛ばした。

 

 別の場所では、老人が孫を抱えて物陰へ逃げ込もうとしていた。だが、獣はその気配を嗅ぎつけ、家屋の壁を破壊して迫ってくる。

 

 悲鳴が森に響き渡った。

 

 

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デビルベアはただの捕食者ではなかった。

彼らはオスのみで構成された魔獣であり、その捕食対象は肉のみならず異種族の雌そのものだった。捕らえた雌を腹の下に押さえつけ、暴力的なまでの繁殖欲で孕み袋とする。それがデビルベアという魔獣の忌まわしい生態であった。

 

「やめて! 娘には触れないで!」

主婦のアンリが叫んだ。彼女は震える娘のフィナを背に庇い、割れた皿を握りしめて立っていた。

しかしデビルベアにとってそれは何の脅威にもならない。巨体は軽く腕を振るい、アンリを家屋の残骸へと弾き飛ばした。背中を強打し、息が詰まるような苦痛の中で視界が滲む。

「お母さん!」

フィナの叫び声が聞こえた。すぐに立ち上がらねばならない。だが身体が言うことを聞かない。

薄れゆく意識の中で、アンリは見た。娘の細い腕を黒い毛並みの塊が掴み上げるのを。

 

デビルベアはフィナの服をその鋭い爪で無造作に引き裂いた。上等な刺繍の施されたブラウスが布切れとなって散り、白磁のような肌が露わになる。フィナは必死に身を捩って逃れようとしたが、人間以上に巨大な魔獣の前では子供のようなものだった。

獣は荒い鼻息を吐きながら、フィナの胸をその巨大な舌で舐め上げた。ザラザラとした舌の感触が肌を這い、唾液が肌を濡らす。フィナは屈辱と恐怖に震え上がった。

「いやぁっ! 離して!」

フィナの抵抗など意に介さず、デビルベアは彼女のスカートをも引き裂いた。下着が露わになり、彼女の秘所が白日の下に晒される。獣はその鼻先をフィナの股間に押し付け、その匂いを嗅いだ。そして、その忌まわしい繁殖器をフィナの身体に押し当てた。

フィナの目が見開かれた。人間のそれとはあまりにも異なる、異形のモノ。太く、熱く、脈打つその楔が、彼女の身体を切り裂かんばかりに押し入ってくる。

「あぐっ! あああああっ!」

処女でキスさえ知らなかったフィナ。幼い膣は、その異物を受け入れることができずに悲鳴を上げた。しかしデビルベアは容赦しない。彼女の腰をガッチリと掴み、一気に根元まで突き上げた。

内臓がかき回されるような激痛と圧迫感。フィナの口からは言葉にならない悲鳴が溢れ出た。獣は律動を開始する。激しく、容赦のないピストン運動。そのたびにフィナの細い身体は揺さぶられ、小さな胸が震えた。

 

アンリはその光景を呆然と見つめていた。娘が獣に犯されている。信じられない光景だった。しかし現実は残酷だ。目の前で娘が陵辱されている。

「フィナぁぁぁっ!」

アンリは這うようにして立ち上がろうとした。だがその肩を別の影が押さえつけた。

「ひっ!」

振り返ると、そこには別のデビルベアがいた。その目は欲望に染まり、口元からは涎を垂らしている。

「私まで…! いやぁっ!」

アンリは必死に抵抗した。拳で獣の毛並みを叩き、足を蹴り上げた。しかしデビルベアにとってそれはただの虫刺されのようなものだった。獣はアンリの服を引き裂き、成熟した肉体を露わにした。

アンリは夫以外の男に肌を晒したことなどなかった。ましてや獣になど。羞恥心と恐怖で顔が歪む。

獣はアンリの豊かな胸を鷲掴みにし、その乳首をきつく噛んだ。

「あぐっ! 痛いっ!」

痛みと快楽が入り混じった感覚が脳を貫く。そして獣はその凶器をアンリの秘所に押し当てた。

「お願い…やめて…!」

アンリの懇願も虚しく、デビルベアは一気に貫いた。

「ああああああっ!」

出産を経験したとはいえ、人間と魔獣のサイズ差は歴然だった。膣壁が極限まで引き伸ばされ、悲鳴を上げる。しかしデビルベアは構わず激しく腰を振った。

グチュッ、グチュッという濡れた音が響く。獣の精液が混じり合い、白濁とした泡がアンリの股間から溢れ出した。

「ダメぇ…こんなの…こんなの…!」

アンリの目から涙が溢れた。隣では娘が同じように獣に犯されている。母娘揃って魔獣の慰み者にされるという地獄。アンリの心は少しずつ崩れ始めていた。そして身体は悲しいことにその異形の楔に適応し始めていた。膣肉は吸い付くように獣のモノを締め付け、奥を突かれるたびに快楽の火花が散る。

「ああっ! ダメ…! そんな…!」

自分の身体が感じている。この地獄のような状況で。そのことがアンリをさらに絶望させた。

 

村の中央広場では祭りの最中だった場所が屠殺場と化していた。

純白の婚礼衣装に身を包んだ花嫁のキリーは血の海の中に立ち尽くしていた。その手は今はもういない新郎の手を探していた。

たった一撃だった。新郎の上半身は熊の前脚によって千切れ飛びその温かい血がキリーの白い顔とドレスに赤い花を咲かせた。

「あ…ああ…」

言葉を失ったキリーの目の前で、新郎の遺体が別の熊に踏み潰される。

その瞬間、キリーの喉から金切り声がほとばしった。だがその叫びも長くは続かない。背後から忍び寄った別のデビルベアが、花嫁の豊かな髪をその巨大な顎で噛み砕くように掴み上げた。

 

デビルベアはキリーの純白のドレスを引き裂いた。まるで邪悪な征服者が汚れなき花嫁を穢すように。

キリーは激しく抵抗した。しかし、獣は彼女の腕を反対側にねじ上げ、その華奢な身体を地面に押し付けた。白い背中が男たちと獣の足跡にまみれた大地に押し付けられ、土と血で汚れていく。

「いやっ! 助けて! 誰か!」

彼女の悲鳴は、すでに絶望しきった村の空気に吸い込まれていった。

デビルベアはキリーの顔に自分の繁殖器を突き付けた。目と鼻の先にまで迫る異形のモノ。その粘膜からは濃厚な雄の匂いが漂っていた。

「やめて…! お願い…!」

キリーは首を振って拒否した。その仕草が逆に獣の征服欲を煽った。デビルベアはキリーの頭を掴み、無理矢理その口に凶器を押し込んだ。

「んぐっ!」

口の中に広がる苦くて生臭い味。喉の奥まで突っ込まれ、キリーはえずいた。獣は容赦なく腰を動かし彼女の口を犯す。顎が外れそうなほどの圧迫感。涙と鼻水と涎が混ざり合って、白い肌を伝った。

やがて獣は満足したようにキリーの口からその凶器を引き抜くと、今度は彼女の腰を高く上げさせた。四つん這いの格好にされた花嫁。純白のドレスは腰回りまで捲り上げられ、美しい脚と丸い尻が露わになる。

「まさか…! そこは…!」

キリーは尻に押し当てられた熱い塊に気づき、恐怖に叫んだ。しかし獣は構わない。彼女のアナルにその凶器を強引に押し込んだ。

「ギャアアアアアッ!」

内臓を直接焼かれるような激痛。人間のものとは比にならない巨大な異物が彼女の肛門を裂きながら侵入する。出血しながらも獣は腰を振り始めた。キリーの絶叫が村中に響き渡る。

新郎に捧げる予定だった秘所も、唇も、今や獣の欲望に蹂躙される場所と化した。純潔の証は血と涙と共に奪われ、白いドレスは赤く染まっていった。

 

「下がれぇッ!」

鋭い叫び声と共に、銀の矢が空を切り裂いた。

エルフの貴族の娘セレスティアだった。彼女は銀の弓を構え、誇り高き戦士の表情で群れの中に立っていた。矢は正確にデビルベアの眼球を貫き、一匹を倒す。

「森の民の誇りを舐めるな! この汚らわしい獣め!」

セレスティアは次々と矢を放った。しかし、数が多すぎた。矢筒が空になる頃には、すでに三匹のデビルベアが彼女を取り囲んでいた。

彼女は短剣を抜き放ったが、それは悲壮な抵抗に過ぎなかった。

一匹の爪が彼女の腕を砕き銀の弓が地に落ちる。苦痛に顔を歪める間もなく、別の獣が彼女の長い足を払い泥の中に叩きつけた。

「離せ…! 離しなさいッ!」

 

デビルベアたちは一斉にセレスティアに群がった。三匹以上の獣が貴族の娘を取り囲みその身体を押さえ込む。一匹が彼女の両腕を固定し一匹が両足を開かせ最後の一匹がその身体を犯す。まさに輪姦だった。

「くっ…この下衆が…!」

セレスティアは最後の抵抗を見せた。しかし獣の腕は鋼鉄のように強く彼女の抵抗を許さない。

デビルベアはセレスティアの下着を引き裂いた。エルフ特有の白い肌と銀色の陰毛が露わになる。彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。

「やめろ! 貴様のような獣に…!」

その言葉は獣を興奮させるだけだった。デビルベアはセレスティアの秘所にその凶器を押し付けた。入口に当たる生々しい感触。セレスティアは息を呑んだ。

「我が父の仇…! 我が民族の誇りのために…!」

彼女は最後にそう叫ぶと目を閉じた。そしてデビルベアは一気に貫いた。

「あああっ!」

貴族の娘にとって初めての性交が魔獣による凌辱となる。それは耐え難い苦痛だった。膣壁が引き裂かれ内臓が押し上げられる感覚。しかしセレスティアは歯を食いしばり叫び声を上げなかった。彼女の誇りがそれを許さなかったのだ。

獣は激しく腰を振る。結合部からは処女の証である血液が流れ出した。泥と汗と血にまみれながらもセレスティアは意識を保とうと努めた。

 

やがて一匹目の獣が射精すると別の獣が交代した。休む暇もなくセレスティアの身体は貪られ続ける。三匹のデビルベアは交互に彼女を犯した。前から後ろから角度を変え場所を変え飽きることなく嬲る。

「…っ…ぅ…」

もはや抵抗する気力もなくなっていた。セレスティアの口からは喘ぎ声にも似た吐息が漏れるばかりだった。意識は朦朧とし視界はぼやけている。

「魔獣の慰み者になり孕むぐらいなら自害をして果てるしか、、」

彼女は、隠し持った短剣に手を伸ばした、。

「呪われた獣め!…許せない…っ!」

 

 アンリエッタの顔から血の気が引いた。

 

 彼女は聖杖《アウレリア》を掲げた。

 

「大地に眠る聖なる光よ! 命を守る盾となり、傷つきし者を包みなさい!」

 

 白い光が広がり、逃げ遅れた村人たちの周囲に半透明の障壁が生まれた。

 

 デビルベアの爪が障壁にぶつかり、激しい火花を散らす。

 

 その隙に、エステバンが飛び込んだ。

 

「こっちだ、化け物!」

 

 聖剣《ソル・レイヴァ》が鞘から抜かれ、黄金の光を放った。

 

 エステバンは最も近くにいた一頭の前脚を斬りつけた。硬い毛皮の下に刃が食い込み、獣が怒りの咆哮を上げる。

 

 その巨体が彼へ向かって振り下ろされた。

 

 エステバンは横へ跳び、倒れた家屋の柱を足場にして、獣の頭部へと斬撃を叩き込んだ。

 

 黄金の剣光が走る。

 

 デビルベアが地面に倒れた。

 

「一頭!」

 

 彼は叫び、すぐさま次の敵へ向かった。

 

 アンリエッタは障壁を維持しながら、傷ついた村人たちを癒やしていく。

 

 折れた腕を元に戻し、裂けた傷を塞ぎ、呼吸の弱まった老人の胸へ両手を当てる。

 

「大丈夫です。もう大丈夫ですから」

 

 その声は、いつもの聖女の声だった。

 

 けれど、彼女の額には汗が浮かんでいた。

 

 魔獣の群れは、予想以上に強かった。

 

 しかも、獣たちは異様なほど興奮していた。通常ならば人間やエルフを襲うにしても、これほど統制された動きはしない。完全に人間を獲物として見ている動きだ。

 

「こいつらエルフたちが恐ろしくないのか?」

 

 エステバンが叫んだ。

 

「分からないわ! でも、今は目の前の相手をどうにかしないと!」

 

 アンリエッタは障壁を一度収束させ、エステバンの身体へ強化の光をまとわせた。

 

「右から二頭!」

 

「分かってる!」

 

 エステバンは一頭の突進を避け、その勢いを利用してもう一頭の側面へ回り込んだ。剣を振り抜き、獣の首元に深い傷を刻む。

 

 デビルベアが倒れた。

 

 残った個体が怒り狂い、二人へと迫ってくる。

 

 アンリエッタは杖を地面へ突き立てた。

 

「聖なる炎よ!」

 

 白金色の炎が地面を走り、獣たちの足元を包み込む。

 

 魔獣の動きが鈍った瞬間、エステバンが一気に踏み込んだ。

 

 最後の一頭が倒れたとき、村には不気味な静寂が訪れた。

 

 風が吹き、燃え残った木材の間から煙が立ち上る。

 

 倒壊した家屋。

 荒らされた畑。

 地面に散らばった弓や槍。

 

 そして、戻らない者たち。

 

 二人は息を整えながら、周囲を見回した。

 

 助かった村人もいた。

 

 アンリエッタの障壁に守られた者たちは、互いに抱き合いながら泣いている。傷を負った者たちは、彼女の治癒魔法によって少しずつ起き上がり始めていた。

 

「終わった……のか?」

 

 エステバンが呟いた。

 

「ひとまずはね」

 

 アンリエッタは、血と泥に汚れた聖衣を見下ろした。

 

「これだけのことをしたんだもの。感謝されるくらいはしてもらわないと」

 

 彼女は疲れた顔で笑った。

 

 だが、二人が村人たちへ近づくと、予想とは違う反応が返ってきた。

 

 村人たちは、確かに助かったことを喜んでいる。

 

 アンリエッタに治療された者は、深く頭を下げた。

 

 エステバンの剣によって命を救われた若者も、感謝の言葉を口にした。

 

 それなのに、村全体を包む空気は重かった。

 

 誰もが二人を警戒している。

 

 感謝よりも、恐怖と不安が勝っているようだった。

 

「……何か、おかしくない?」

 

 アンリエッタが小声で言った。

 

「俺たちが人間だからか?」

 

「エルフだって、命を救われたらお礼くらい言うでしょう。たぶん」

 

「たぶん、って何だよ」

 

 そのとき、村の奥からエルフの少女が歩いてきた。

 

 長い淡緑色の髪。透き通るような肌。尖った耳。若いエルフ特有の整った顔立ち、先ごろデビルベア相手に奮闘していた娘だが、その表情には疲労と悲しみが刻まれていた。

 

 彼女は二人の前で立ち止まった。

 

「あなたたち……人間なの?」

 

「そうだけど?」

 

 エステバンが答えた。

 

 少女は周囲を見回し、声を潜めた。

 

「お願い。今すぐ、この村から逃げて」

 

「……は?」

 

 エステバンが目を丸くした。

 

 アンリエッタも眉をひそめる。

 

「私たちは、あなたたちを助けたのよ?」

 

「分かっているわ」

 

 少女の声が震えた。

 

「分かっているから、言っているの。ここにいたら、あなたたちは殺される」

 

「どうして?」

 

 アンリエッタが尋ねた。

 

 少女は答えようとした。

 

 だが、その瞬間だった。

 

 森の奥から、角笛の音が響き渡った。

 

 低く、長く、森全体を震わせるような音だった。

 

 村人たちの顔色が変わった。

 

 少女は目を閉じ、唇を噛んだ。

 

「……もう、遅い」

 

 木々の間から、緑色の鎧に身を包んだエルフの騎士たちが姿を現した。

 

 弓兵が左右へ展開し、長槍を持った兵士たちが二人を取り囲む。

 

 先頭に立つ騎士が、冷たい声で告げた。

 

「人間の侵入者だ。両名を拘束しろ」

 

「おい、待て! 俺たちは村を救ったんだぞ!」

 

 エステバンが叫んだ。

 

 だが、騎士たちは答えなかった。

 

 アンリエッタは杖を握りしめ、周囲の兵士たちを見渡した。

 

 彼女の笑顔は、すでに消えていた。

 

 森の国エルディアで、勇者と聖女は歓迎されるどころか、犯罪者のように拘束されようとしていた。

 

第四章 自然と共に生きるということ

 

 エルディア王国の王都は、巨大な樹木の上に築かれていた。

 

 地上から数十メートルの高さに広がる樹冠の間を、幾重にも重なる木橋がつないでいる。家々は生きた枝を傷つけないように組まれ、建物の壁には苔や蔓が美しく這っていた。

 

 夜になると、樹木の幹に埋め込まれた発光性の鉱石が淡い緑色の光を放つ。

 

 人間の王都が石と鉄によって威厳を示す場所だとすれば、エルフの王都は森そのものが王権を支えている場所だった。

 

 ただし、その美しい景観の裏側には、奇妙な緊張感が漂っていた。

 

 街路を歩くエルフたちは、外から来た人間を見かけると、露骨に顔をしかめる者もいれば、遠巻きに眺める者もいた。

 

 アンリエッタとエステバンは、両手を拘束され、騎士団に挟まれながら王宮へ連行されていた。

 

「……ねえ」

 

 アンリエッタが小声で言った。

 

「何だよ」

 

「あなた、何か心当たりは?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「本当だ。俺はこの国に来たのは初めてだぞ」

 

「私もよ」

 

 アンリエッタはため息をついた。

 

「せっかく魔物を退治したのに、どうしてこんなことになるのかしら」

 

「お前が聖女の威光を振りかざして、森の神聖な樹木を勝手に切ったとか?」

 

「切ってないわよ!」

 

「じゃあ、俺がデビルベアを倒したことが問題なのか?」

 

「……まさか」

 

 アンリエッタは考え込んだ。

 

 あの村の様子を思い出す。

 

 助けた者たちの顔に浮かんでいた、あの複雑な表情。

 

 感謝しているのに、何かを恐れているような顔。

 

 その理由が分からなかった。

 

 やがて二人は、王宮の広間へ通された。

 

 そこは生きた大樹の幹をくり抜くように造られた広大な空間だった。天井は高く、枝の隙間から自然光が降り注いでいる。壁面にはエルフの歴史を描いた織物が飾られ、床には柔らかな苔が敷き詰められていた。

 

 玉座には、一人の男が座っていた。

 

 セルフィン・グリーンラント。

 

 エルディア王国の国王である。

 

 長い銀緑色の髪に、年齢を感じさせない若々しい顔立ち。だが、その瞳には数百年を生きた者だけが持つ、深い静けさが宿っていた。

 

 彼は二人を見下ろし、ゆっくりと口を開いた。

 

「クライスト王国の勇者と聖女、であるそうだな」

 

「はい。太陽の勇者エステバンです」

 

 エステバンは、拘束されたままでも堂々と名乗った。

 

「そして、聖女アンリエッタ・エル・クライストです」

 

 アンリエッタも優雅に頭を下げる。

 

「このたびは、森の民を救うために力を尽くしていただいたそうだな」

 

「はい。村がデビルベアの群れに襲われていましたので、見過ごすことができませんでした」

 

 アンリエッタは穏やかに答えた。

 

 王はしばらく彼女を見つめていた。

 

 そして、驚くべき言葉を口にした。

 

「だが、君たちは自然の摂理を乱した」

 

「……はい?」

 

 エステバンの顔から笑みが消えた。

 

 セルフィン王は、まるで子供に教え諭すような口調で続けた。

 

「デビルベアもまた、森に生きる命の一つである。彼らが村を襲ったのは、森の生態系が変化しているからだ。魔獣が人里へ降りてくることも、自然と共に生きる上では受け入れなければならぬ試練なのだ」

 

「……つまり、村人が襲われていても、放っておくべきだったと?」

 

 アンリエッタの声が、わずかに低くなった。

 

「人間の尺度で物事を判断してはならぬ。森には森の理がある。強い命が弱い命を捕食することも、また自然の一部なのだ」

 

「なるほど」

 

 アンリエッタは微笑んだ。

 

 ただし、その微笑みは、王都で人々へ向けるものとは違っていた。

 

「では、王陛下。もしデビルベアが王宮へ入り込み、陛下の寝室を襲った場合も、自然と共に生きるということで、そのまま受け入れられるのでしょうか?陛下の王妃が犯されてもですか?」

 

 広間の空気が凍りついた。

 

 エステバンは思わず横目で彼女を見た。

 

 この女、いきなり王様に喧嘩を売りやがった。

 

 だが、セルフィン王は怒らなかった。

 

「それは極端な例だな」

 

「そうでしょうか?」

 

 アンリエッタは穏やかに首を傾げた。

 

「村人たちにとっては、家を壊され、家族を失い、命を脅かされることも同じように極端な出来事です。彼らにとって家は、王宮と同じほど大切な場所なのではありませんか?」

 

 王は沈黙した。

 

 アンリエッタは続ける。

 

「自然を尊重することと、目の前で苦しんでいる人々を見捨てることは、同じではないと思います。魔獣が人里へ降りてきた原因を調べ、森と人々の暮らしが両立する方法を探す。それこそが、森と共に生きるということではないでしょうか」

 

 その言葉に、広間のエルフたちがざわめいた。

 

 セルフィン王の眉が、わずかに動く。

 

「……君は、自然を理解しているつもりか?」

 

「いいえ。私は森の専門家ではありません」

 

 アンリエッタは即座に答えた。

 

「だからこそ、原因を調べるべきだと申し上げているのです。何も分からないまま、苦しんでいる人々に我慢を強いるのは、あまり賢明な方法とは思えません」

 

 エステバンは心の中で感心した。

 

 こいつ、こういう場面では本当に口が回る。

 

 しかも、相手を正面から侮辱するのではなく、相手自身が掲げた理念を使って、逃げ道を少しずつ塞いでいく。

 

 政治家も、商人も、聖職者も。

 

 アンリエッタは、相手の言葉の中に潜む矛盾を見つけるのが得意だった。

 

 ただし、王を説得できたかどうかは別問題である。

 

 セルフィン王はしばらく考えたあと、静かに手を上げた。

 

「君たちの考えは聞いた。だが、エルディアにはエルディアの法がある」

 

 その言葉と同時に、左右に控えていた騎士たちが進み出た。

 

「両名を地下牢へ」

 

「ちょっと待て!」

 

 エステバンが声を上げた。

 

「俺たちは村を救ったんだぞ! 何が罪だ!」

 

「王国の許可なく、森の守護獣を殺害した罪だ」

 

「守護獣だと?」

 

 エステバンは目を見開いた。

 

「デビルベアが守護獣? あれは村人を襲っていたんだぞ!」

 

「その判断を下すのは、エルディア王国である」

 

 騎士は冷淡に答えた。

 

 アンリエッタは額に手を当てた。

 

 この国の問題は、どうやら魔獣だけではないらしい。

 

 自然への敬意を掲げること自体は、間違いではない。

 

 森を守り、命を尊重し、長い時間をかけて築かれた生態系を大切にする。それは人間の国が見習うべき部分もあるだろう。

 

 だが、理念が制度となり、制度が権力を守るための言い訳になったとき、それは別のものへ変わる。

 

 アンリエッタは、王の目にその兆候を見た。

 

 彼は森を愛している。

 

 だが、森の中で暮らす者たち一人ひとりの苦しみまで、同じように見ているとは限らない。

 

 そう考えると、少しだけ興味が湧いた。

 

 この国をどうすれば動かせるのか。

 

 誰が利益を得て、誰が犠牲になっているのか。

 

 王宮を追い出された王女にとって、これは面倒な事件であると同時に、新しい政治の舞台でもあった。

 

 やがて二人は、王宮の地下深くへと連行された。

 

 石造りの階段を下りるにつれて、空気は冷たくなり、湿った土と苔の匂いが強くなる。壁には魔法の灯りが浮かび、牢獄の鉄格子が薄暗い通路に並んでいた。

 

 その一室に押し込まれ、扉が閉じられた。

 

「……最悪だ」

 

 エステバンは壁にもたれ、深々と息を吐いた。

 

「竜を倒したときは、街中から感謝されたんだぞ。それが何だ。今度は熊を倒したら牢屋行きか」

 

「少しは頭を使いなさい。ここはエルフの国なのよ」

 

「使っているさ。だが、あの王の頭の中は理解できない」

 

「私もよ」

 

 アンリエッタは鉄格子の向こうを眺めた。

 

 牢獄には、ほかにも囚人がいた。

 

 その中に、森の村で出会った銀色の髪の少女がいた。

 

 少女は粗末な服を着せられ、壁際に座っていた。隣には、腕に包帯を巻いた年配のエルフがいる。少女の父親らしかった。

 

 さらに数人の若いエルフたちが、暗い表情で床を見つめている。

 

 アンリエッタは鉄格子へ近づいた。

 

「あなた、村にいた子ね」

 

 少女が顔を上げた。

 

「……セレスティアです」

 

「セレスティア。どうしてあなたたちまで捕まっているの?」

 

 少女はためらったあと、答えた。

 

「私たちも、デビルベアを駆除しようとしたからです」

 

「あなたたちも?」

 

「はい。村を襲う魔獣を放っておけなかった。でも、王宮はそれを許さなかったんです」

 

 彼女の父親が、苦い表情で口を開いた。

 

「デビルベアの異常発生は、もう何年も前から続いている。最初は森の奥で数頭が見つかっただけだった。しかし、少しずつ数が増え、やがて村を襲うようになった」

 

「それで、駆除を?」

 

 エステバンが尋ねた。

 

「そうだ。だが、王は森の命を奪うことを禁じた。騎士団は魔獣を殺すことを許さず、村人には森を離れるよう命じた。しかし、何代もそこで暮らしてきた者たちに、簡単に故郷を捨てられるはずがない」

 

 男の声には怒りと疲労がにじんでいた。

 

「私たちは、森を守りたいからこそ、異常を正さなければならないと考えているのだ」

 

 セレスティアが父親の手を握った。

 

「でも、王宮の人たちは聞いてくれない。魔獣を殺した者は、森の理を乱す罪人だって……」

 

 アンリエッタは静かに息を吐いた。

 

 なるほど。

 

 問題は、単に王が頑固だというだけではないらしい。

 

 自然との共生という理念を掲げた結果、現場で暮らす者たちの判断が否定され、被害を受けた村人が救済されず、問題を解決しようとした者まで犯罪者として扱われている。

 

 そして、誰もがその制度に逆らえずにいた。

 

 アンリエッタは、鉄格子の向こうの囚人たちを見渡した。

 

「……ひどい話ね」

 

 その声には、珍しく本物の怒りが混じっていた。

 

 彼女は王宮で、弱い立場に置かれた者がどのように扱われるかを知っている。

 

 身分の低い母を持つ王女として、何度も軽んじられ、侮辱されてきた。

 

 だからこそ、権力者が美しい理念を掲げながら、その陰で弱者に負担を押しつける構図には敏感だった。

 

 アンリエッタはセレスティアに向かって微笑んだ。

 

「安心して。何とかしてみせるわ」

 

 セレスティアは驚いたように彼女を見た。

 

「でも、あなたたちも捕まっているのに……」

 

「ええ。だから、まずはここから出る方法を考えましょう」

 

 アンリエッタは、牢獄の通路に目を向けた。

 

 見張りのエルフ兵が二人、交代で歩いている。

 

 彼らの顔には疲労が浮かび、腰の剣は使い込まれていた。

 

 アンリエッタは鉄格子の近くへ寄った。

 

「失礼ですが、あなた方は、この牢獄で何日勤務されているのですか?」

 

 若い兵士が振り向いた。

 

「囚人が兵士の勤務を気にする必要はない」

 

「もちろんです。ただ、ずいぶんお疲れのようでしたから」

 

 兵士は一瞬、言葉に詰まった。

 

 アンリエッタは続けた。

 

「森の守護に携わるお仕事は大変でしょう。魔獣の被害が増えているのなら、騎士団の皆様もお忙しいはずです。夜も十分に眠れないのではありませんか?」

 

「……それは」

 

「私も治癒魔法を扱います。もし疲労による魔力の乱れがあるようでしたら、少し整えることもできますよ」

 

 兵士の目が揺れた。

 

 聖女アンリエッタの名は、国外ではまだ十分に知られていない。

 

 しかし、彼女の魔法は本物だった。

 

 それに、相手を褒め、相手の苦労を理解しているように話すことは、彼女にとって呼吸をするのと同じくらい自然なことだった。

 

「……本当に、治癒魔法を?」

 

「ええ。もちろん、王陛下のお許しが必要でしょうけれど」

 

 その言葉に、年配の兵士が小さく笑った。

 

「許可など必要ない。疲労を癒やすだけなら、問題にはならんだろう」

 

 アンリエッタは微笑み、鉄格子の隙間から手を伸ばした。

 

 淡い光が兵士の手を包み込む。

 

 それは大きな治癒魔法ではなかった。肩のこわばりを和らげ、魔力の流れを整える程度のものだ。

 

 だが、兵士の顔から疲労の色が少し薄れた。

 

「……これは、すごい」

 

 若い兵士が呟いた。

 

「ありがとうございます、聖女様」

 

「いいえ。皆様のお仕事が少しでも楽になれば、私も嬉しいです」

 

 アンリエッタは優しく答えた。

 

 その様子を見ていたエステバンが、呆れた顔をした。

 

「おい。まさか、こんなところでも信者を増やすつもりか?」

 

「失礼ね。私は困っている人を助けているだけよ」

 

「はいはい」

 

「あなたも少しは見習ったらどう?」

 

「俺は剣で人を救うのが仕事だ」

 

「その剣で賭け金を巻き上げるのも仕事でしょう?」

 

「……お前、本当に口が悪いな」

 

 アンリエッタは笑った。

 

 牢獄の中に、久しぶりに明るい空気が流れた。

 

 セレスティアも、父親も、ほかの囚人たちも、二人のやり取りを見て、ほんの少しだけ表情を和らげた。

 

 彼らはまだ知らなかった。

 

 この聖女が、相手の心をつかむことにかけては、王宮でも指折りの策士であることを。

 

 そして、彼女が一度「何とかしてみせる」と口にした以上、簡単には諦めないことを。

 

 その夜、牢獄の見張りたちは、アンリエッタの話を聞くために少しずつ足を止めるようになった。

 

 彼女は森の美しさについて尋ね、兵士たちの家族の話に耳を傾け、彼らの仕事をねぎらった。

 

 囚人たちには、これまで王宮の役人に聞いてもらえなかった事情を話すよう促した。

 

 誰かが話せば、別の誰かが頷く。

 

 やがて、牢獄の中には小さな輪ができていた。

 

 アンリエッタはその中心で、静かに微笑んでいた。

 

 彼女の目は、鉄格子の向こうにある鍵を見ていた。

 まだ扉は開かない。

 

 だが、人の心には、すでにいくつかの隙間が生まれ始めていた。

 

 森の国エルディア。自然を愛する美しい国。

 その深い森の底で、聖女アンリエッタは、新たな戦いの準備を始めていた。

 

⭐️牢獄の聖女、エルディアを掌握する

 

 最初に変わったのは、見張りの兵士たちだった。

 

 それは、ほんの些細な変化から始まった。

 

 アンリエッタが牢獄へ入れられてから三日目の朝。

 

 いつものように若いエルフ兵が交代のために地下牢へやってきた。彼は昨日まで、アンリエッタの前では緊張した顔を崩さなかった。聖女という存在そのものに畏敬の念を抱いている一方で、王命によって拘束している以上、余計な接触は避けるべきだと考えていたのだ。

 

 ところが、その朝。

 

「聖女様、おはようございます」

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

 たったそれだけの挨拶で、青年の頬がわずかに緩んだ。

 

「……はい。昨日、治癒魔法をかけていただいてから、身体がずいぶん軽くなりまして」

 

「それはよかったです」

 

 アンリエッタは微笑んだ。

 

「ですが、少し顔色が優れませんね。夜勤が続いているのでしょう?」

 

「ええ……」

 

「それでは、こちらへ」

 

 彼女が手を差し出す。

 

 青年は一瞬ためらった。

 

 だが、すぐに鉄格子へ近づいた。

 

 淡い光が指先から広がり、兵士の手を包み込む。

 

 冷たい地下牢の中に、春の日差しのような温もりが生まれた。

 

「ああ……」

 

 青年の肩から力が抜けた。

 

 長い夜勤で凝り固まっていた筋肉がゆっくりと緩み、頭の奥に残っていた疲労まで薄れていく。

 

 アンリエッタの治癒魔法は、傷を塞ぐだけではない。

 

 魔力の乱れを整え、疲労を和らげ、精神的な緊張を落ち着かせる。

 

 強力な魔法だからこそ、使い手には相応の負担がかかる。

 

 だが、アンリエッタはそれを惜しまなかった。

 

 少なくとも、表向きには。

 

「無理をなさらないでくださいね」

 

「……はい」

 

 青年は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます、聖女様」

 

 その日の昼には、彼は別の兵士へその話をしていた。

 

 さらに翌日には、その兵士が別の同僚へ話した。

 

 そして一週間もしないうちに、地下牢の警備兵たちの間では、奇妙な共通認識が生まれていた。

 

 アンリエッタの牢獄勤務は、悪くない。

 

 むしろ、少し楽しみですらある。

 

 彼女は誰に対しても分け隔てなく声をかけた。

 

 夜勤の兵士には「お疲れでしょう」と労い、若い兵士には家族の話を聞き、年配の兵士には昔の森の話を尋ねた。

 

 疲れている者には癒しを与え、怪我をしている者には治癒を施す。

 

 そして、話を聞く。

 

 ただそれだけだった。

 

 しかし、人は自分の話を聞いてくれる相手を、簡単には嫌いになれない。

 

 ましてや、日々の疲労を取り除いてくれる相手ならなおさらだった。

 

「聖女様のところへ行くと、気持ちが落ち着くんだ」

 

 そんな言葉が兵士たちの間で囁かれるようになった。

 

「王都の医師に診てもらうより楽になる」

 

「それに、あの方は我々の話を聞いてくださる」

 

「囚人にまで優しい。あれほどの方がなぜ牢獄に……」

 

 誰かがそう言ったとき、別の兵士が周囲を見回してから小声で答えた。

 

「王命だからだろう」

 

「……王命なら、仕方ないな」

 

 その声には、以前にはなかった戸惑いが混じっていた。

 

 やがて、変化は牢獄の外へも広がった。

 

 最初にやってきたのは、騎士団の副長だった。

 

「聖女様に、少し相談したいことがある」

 

 そう言って牢獄へ入ってきた彼は、最初こそ職務上の訪問を装っていた。

 

 しかし、アンリエッタと一時間ほど話したあと、表情が変わった。

 

「……なるほど」

 

 副長は腕を組み、何度も頷いた。

 

「貴殿の考えは理解できた。森を守ることと、村人を守ることは両立できる。そういうことですな」

 

「私は、その方法を探すべきだと思っているだけです」

 

 アンリエッタは穏やかに答えた。

 

「私が正しいとは限りません。ですが、違う意見を聞くことは、悪いことではないでしょう?」

 

 副長は苦笑した。

 

「まったく……不思議な方だ」

 

 彼は帰り際、アンリエッタへ深々と頭を下げた。

 

「また、お話を聞かせていただいても?」

 

「もちろんです」

 

 それが始まりだった。

 

 次に訪れたのは、騎士団長。

 

 その次には、地方を治める貴族。

 

 さらに、その貴族から話を聞いた別の貴族。

 

 彼らは最初、エルディアの国策について話し合うために来た。

 

 しかし、いつしか目的が変わっていった。

 

「聖女様、少しお時間をいただけますかな」

 

「もちろんです」

 

「最近、どうも眠りが浅くて……」

 

「まあ。それでは少し診てみましょう」

 

 淡い光が広がる。

 

 貴族は目を閉じ、深々と息を吐いた。

 

「ああ……これは……」

 

 数分後。

 

 彼はまるで長年抱えていた荷物を下ろしたかのような表情になっていた。

 

「これほど心が軽くなるとは」

 

「疲れを溜め込んではいけませんよ」

 

 アンリエッタは優しく微笑んだ。

 

「国を支える方なら、なおさらです」

 

 その言葉を聞いた貴族は、感動したように胸へ手を当てた。

 

「……あなたは本当に、聖女なのですな」

 

 アンリエッタは何も答えなかった。

 

 ただ、微笑んだ。

 

 彼女自身は、自分が聖女という肩書きをどのように利用しているのか、十分すぎるほど理解している。

 

 しかし、同時にこうも思っていた。

 

 人を癒やす力がある。

 

 困っている人を助けられる。

 

 話を聞いてやれる。

 

 ならば、それを使って何が悪いのだろう。

 

 権力を握っている者が剣を使うのと、聖女が微笑みを使うのと、いったい何が違うのか。

 

 アンリエッタには、その答えがまだ分からなかった。

 

 ただ一つ確かなのは、彼女の周囲に人が集まり始めているということだった。

 

 そして、その中心が牢獄であることが、エルディアでは何よりも異様だった。

 

 牢獄には囚人がいる。警備兵がいる。そこへ騎士が来る。貴族が来る。

さらには役人までやってくる。

最初は重苦しい空気に満ちていた地下牢が、少しずつ変わっていった。

 

 囚人たちは粗末な食事をしている。警備兵たちは硬い椅子に座っている。貴族たちは豪華な服を着ている。それでも、アンリエッタを中心にして会話が生まれた。

 

 ある日、アンリエッタは看守へ尋ねた。

「この方たちの食事は、これだけなのですか?」

 

「規定です」

 

「病人にも?」

 

「……規定では」

 

「では、規定を変えましょう」

 

 看守は困惑した。

 

「そんな権限はありません」

 

「ええ。私にもありません」

 

 アンリエッタは微笑んだ。

 

「ですから、皆さんにお願いしているのです」

 

 翌週。

 

 囚人の食事に、野菜と果物が少し増えた。

 

 次に、重傷者の治療が優先されるようになった。

 

 さらに、家族との面会時間がわずかに延長された。

 

 アンリエッタは要求を一度に出さなかった。

 

 一つ改善されれば、次の一つ。

 

 それを繰り返した。要求するたびに、彼女はこう言った。

 

「囚人だからといって、苦しめてよい理由にはなりません」

 

 その言葉は、少しずつ牢獄に染み込んでいった。

 

 やがて、囚人たち自身が変わった。

 

「聖女様、聞いてください」

 

「どうしました?」

 

「昨日、娘が面会に来てくれたんです」

 

「まあ……よかったですね」

 

「ありがとうございます」

 

「私は何もしていませんよ」

 

「でも、あなたが言ってくれなければ、会えませんでした」

 

 そんな会話が増えていった。

 

 そして、ある夕暮れ。

 

 牢獄の一角には、簡素な木製の机が置かれていた。

 

 誰が持ち込んだのか、湯気の立つ茶まである。

 

 騎士が椅子に座り、囚人が向かいに座る。

 

 その隣では若い貴族がアンリエッタの話を聞き、その後ろでは看守が静かに笑っている。

 

 牢獄というより、サロンだった。誰もがその異様さに気づいていた。

 

 しかし、誰も止めようとはしなかった。

アンリエッタはその光景を眺めながら、カップを口元へ運んだ。

 

「……妙なことになりましたね」

 

 隣でエステバンが苦笑する。

 

「お前がやったんだろう」

 

「私は、みんなが仲良くできる場所を作っただけですわ」

 

「牢獄で?」

 

「場所がどこであろうと、人が話し合えるなら、それでいいじゃない」

 

「お前、本当に怖いな」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 そのときだった。

 

 通路の奥から、これまでとは明らかに違う気配が近づいてきた。

 

 兵士たちが一斉に姿勢を正す。

 

 騎士団長も立ち上がった。

 

 貴族たちの表情が変わる。

 

 誰もが、その人物を知っていた。

 

 エルディア王国宰相。

 

 ペルギウス。

 

 王に次ぐ政治的権限を持ち、国内の行政、財政、外交、司法の大部分を取り仕切る男だった。

 

 白髪交じりの長い髪。細身の身体。穏やかに見える顔立ち。

 だが、その瞳だけは鋭かった。

 彼は牢獄の中へ足を踏み入れると、しばらく何も言わずに周囲を見回した。

 

 囚人。兵士。騎士。貴族。そして、その中心にいる聖女。

 ペルギウスは小さく笑った。

「聖女か、、これは、面白い」

 

 アンリエッタは立ち上がった。

 

「宰相閣下にお越しいただけるとは、光栄です」

 

「こちらこそ。まさか、エルディア王国で最も警戒されている外国人が、国内で最も多くの人間を魅了しているとは思わなかった」

 

「魅了だなんて、大げさです」

 

「そうかな?」

 

 ペルギウスは一歩近づいた。

 

「騎士団長が君の話を聞き、貴族が君の助言を求め、看守が君を慕い、囚人まで君を信頼している」

 

 彼は牢獄の奥を見た。

 

「そして、王宮の外では、君が魔獣問題について語った内容が、すでに噂になっている」

 

 アンリエッタは黙っていた。

 

 ペルギウスの目が細くなる。

 

「君と二人っきりで話がしたい」

 

 その問いに、アンリエッタは静かに微笑んだ。

 

「光栄ですわ」 ペルギウスも笑った。

 

 王に次ぐ実力者。

 

 国内の権力構造を誰よりも理解している男。

 

 その男が、ついに自分へ興味を示した。

 

 アンリエッタは、それを理解した瞬間、心の奥で小さく笑った。

 

 ようやく来た。その一人が、今、自分の前に立っている。

 

第五章 宰相の屈服

 

ペルギウスの私室は、王宮の中でも一際静かな場所にあった。

壁には古い森の絵画が掛けられ、重厚なデスクには書類の山が積まれている。窓からは夕暮れの森が見え、遠くで鳥の声が聞こえるだけだった。

宰相はデスクの向かいの席を勧めた。

「座りたまえ」

アンリエッタは優雅に腰を下ろした。

二人の間には、香りの強い茶が淹れられていた。

「単刀直入に言おう」

ペルギウスは茶を一口飲み、静かに切り出した。

「君の主張は理解できる。森の理と民の命を天秤にかける今の国策は、いずれ破綻する。現場の声を無視した理想論が、国を蝕んでいることもな」

アンリエッタは黙って聞いていた。

相手が本題に入るのを待っていた。

「だが」

ペルギウスは言葉を続けた。

「理解できることと、それを実行に移すことは別だ。私は王に仕える身。王の理念を覆すことはできない」

「できないのですか? それとも、しないのですか?」

アンリエッタの声が鋭くなった。

ペルギウスは目を細めた。

「どういう意味だ?」

「あなたは現実が見えている。だからこそ、今の国策がいかに無謀かも分かっているはず。それなのに『できない』と言う。それはただの言い逃れですわ」

部屋の空気が張り詰めた。

ペルギウスは沈黙した。

アンリエッタは彼の目を見据えた。

この男は頭が良い。だからこそ、理想と現実の矛盾に苦しんでいるはずだ。王への忠誠と国への責任。その板挟みの中で身動きが取れなくなっている。

だが、それだけではない。

アンリエッタは見抜いていた。

彼が王に従う理由は忠誠だけではないことを。

ペルギウスの瞳の奥には、ある種の飢えがあった。

権力への飢えでもなければ名誉への飢えでもない。

もっと根源的な何か。

支配されることへの渇望。

長年頂点に立ち続けた男が抱える孤独と疲労。その尽きることのない責任の重圧に押しつぶされそうになりながらも誰にも弱音を吐けない。そんな男が心のどこかで求めているもの。

それは絶対的な支配者だった。

誰よりも強く誰よりも残酷で誰よりも美しい支配者。

 

 

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アンリエッタはゆっくりと立ち上がった。

「ペルギウス」

彼女は名を呼んだ。

宰相は顔を上げた。

「あなたは無能ね」

その言葉はまるで鞭のように響いた。

ペルギウスの身体がわずかに震えた。

「…何だと?」

「無能よ。一国の宰相でありながら目の前の現実に目を逸らし王の機嫌を伺うばかり。自分の無力さを王の命令のせいにして逃げているだけじゃない」

アンリエッタの声は冷たく容赦がなかった。

「民が死んでいるのに。森が壊れているのに。あなたは何もしない。ただ書類に判を押すだけの役立たずね」

ペルギウスの顔から血の気が引いた。

怒りではない。

まるで電流が全身を駆け抜けたような感覚。

心臓が激しく打ち呼吸が荒くなる。

この聖女は知っているのだ。

自分が心の奥底で何を求めているかを。

「本当に無能な豚ね」

アンリエッタは冷酷に言い放った。

「豚には豚の使い方があるわ」

彼女はゆっくりと足を前に出した。

聖衣の裾が捲れ白い足首が露わになる。

「舐めなさい」

その命令は絶対だった。

ペルギウスの理性が崩壊した。

彼はデスクから飛び出すようにしてアンリエッタの足元へ跪いた。

長い指が白い足首に触れる。

震える舌が足の甲を這った。

「ああ…」

ペルギウスから熱い吐息が漏れた。

数百年生きてきたエルフの宰相。

王国の全権を握る男。

その男が今聖女の足に縋りつき必死に舌を動かしている。

アンリエッタは見下ろした。

その表情には慈悲のかけらもなかった。

「そうよ。それでいいのよ豚」

彼女は足を少し上げた。

ペルギウスは追うように顔を上げた。

舌は足首からふくらはぎへそして膝の裏へと這い上がっていく。

アンリエッタは聖衣の裾をさらに捲り上げた。

白い太ももが露わになる。

「ここもよ」

ペルギウスは夢中で太ももに顔を埋めた。

肌の柔らかさと香りが脳を痺れさせる。

彼は太ももに舌を這わせながら手でアンリエッタの腰を抱き寄せた。

「許してください…聖女様…」

嗚咽のような声が漏れた。

「許しを求める資格などないわ」

アンリエッタは冷酷に言った。

「豚はただ奉仕するだけ」

彼女は聖衣を脱ぎ捨てた。

純白の下着だけが残る。

ペルギウスの目が釘付けになった。

「ご褒美をあげるわ」

アンリエッタは下着をずらし秘所を露わにした。

ペルギウスは獣のように顔を埋めた。

舌が割れ目を割り開き奥へと侵入する。

「んっ…」

アンリエッタは眉をひそめた。

テクニックとしては及第点だが彼女を感じさせるには足りない。

だが今はそれでよかった。

相手を屈服させ服従させることが目的なのだから。

「んあっ…そこ…そう…」

アンリエッタは適度に声を漏らした。

それはペルギウスをさらに興奮させるための演技だった。

ペルギウスは夢中で舌を動かし続けた。

愛液を啜り陰核を吸い立て膣口に舌を挿入する。

やがてアンリエッタが小さく震えた。

「十分よ」

彼女はペルギウスの頭を押しやった。

唇と顎は愛液で濡れていた。

「次は…」

アンリエッタは聖杖《アウレリア》を手に取った。

透明な魔石が薄明かりの中で妖しく光る。

「これを受け止めなさい」

彼女は杖を振り下ろした。

「ぐあっ!」

ペルギウスの背中に激痛が走った。

だがそれは苦痛ではなかった。

至福だった。

聖女による罰。

それは彼にとって何よりも甘美な報酬だった。

「もっと…もっと…!」

ペルギウスは四つん這いになり背中を晒した。

アンリエッタは容赦なく杖を振るった。

一回。二回。三回。

背中には赤い痣が浮かび上がった。

「ああっ!聖女様ぁっ!」

ペルギウスは悶絶した。

肉体的な苦痛と精神的な至福が入り混じり彼の中で爆発した。

「さあ豚。最後のご奉仕よ」

アンリエッタはペルギウスを仰向けに倒した。

そしてその腰に跨った。

彼女の手がペルギウスのズボンを緩め硬くなった男根を露わにする。

「小さいわね」

冷酷な評価だった。

だがペルギウスにはそれが称賛のように聞こえた。

アンリエッタは自ら腰を沈めた。

異物が膣内に侵入してくる感覚にペルギウスは声にならない悲鳴を上げた。

「んっ…ああっ…」

アンリエッタは動き始めた。

激しく容赦のないピストン運動。

彼女は自分の快楽ではなく相手を支配することに集中していた。

上から見下ろし相手を犯す行為。

それが彼女の支配欲を満たしていた。

「どう?豚。聖女に犯される気分は?」

「ああっ…素晴らしい…です…聖女様…!」

ペルギウスは涙を流していた。

長年求めていたものをようやく手に入れた喜びに震えていた。

アンリエッタはさらに激しく腰を振った。

膣壁が男根を締め付け先端を刺激する。

「んっ…くっ…!」

ペルギウスの限界が近づいていた。

「許してください…イかせてください…!」

「許さないわ」

アンリエッタは冷酷に言った。

「豚には勝手にイく権利はないわ」

彼女は動きを止めた。

寸止めだった。

ペルギウスは苦悶の声を上げた。

「お願いします…!お願いします…!」

「じゃあ言って。あなたは誰のもの?」

「聖女様の…です…!アンリエッタ様の…豚です。奴隷です!所有物です…!」

「そうよ。忘れないで」

アンリエッタは再び動き始めた。

一気に最奥まで沈み激しく腰を回す。

「ああああっ!」

ペルギウスは絶叫した。

精液が勢いよく放たれアンリエッタの子宮へと注ぎ込まれた。

アンリエッタは静かに腰を上げた。

膣内から男根が抜かれ精液が太ももを伝って流れ落ちる。

彼女はペルギウスを見下ろした。

宰相は床に横たわり荒い呼吸を繰り返していた。

その顔には恍惚と疲労が混じっていた。

アンリエッタは聖衣を拾い上げた。

そしてゆっくりと身につけながら言った。

「約束しなさい。あなたは私に従うと」

ペルギウスは震える手で床を掻きながら上体を起こした。

そして深々と頭を下げた。

「誓います…アンリエッタ様…この命ある限りあなたに忠誠を誓います…」

その声には迷いはなかった。

長年探し求めていた主君を見つけた家臣のような響きだった。

アンリエッタは満足そうに微笑んだ。

ようやく一番重要な駒を手に入れた。

これで盤面は大きく傾くはずだ。

窓の外ではすっかり日が落ち暗闇が森を包んでいた。

 

⭐️スタンピート

 

 

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その夜、森が叫んだ。

 

最初は遠くの木々が揺れる程度だった。

風ではない。

地面から伝わる振動。

規則的で重く、絶え間ない足音。

 

エルディアの王都を支える大樹が、夜明け前に微かに震えた。

 

「…何か来る」

 

夜勤の見張り台に立っていた若い騎士が呟いた。

彼の銀色の瞳が捉えたのは、月明かりに照らされた森の出口から溢れ出す黒い波だった。

 

デビルベア。

 

数百頭。

 

いや、一千頭を超えていたかもしれない。

黒い毛並みの塊が森の木々をなぎ倒し、土を掘り返し、川をせき止めながら押し寄せてくる。赤黒い魔力の筋が体表を走り、その目は飢えと欲望に爛々と輝いていた。

 

彼らはすでに獣ではなかった。

繁殖と捕食に突き動かされる、欲望の津波だった。

 

「緊急警報!スタンピードだ!」

 

角笛が鳴り響いた。

一つ、二つ、三つ。

夜の森に警告の音が重なり合う。

 

だが王宮の反応は遅かった。

 

 

城下町のパン屋、トール工房の裏手では、パン職人のローエンが壁に背を預え座り込んでいた。デビルベアの前脚が彼の左肩を砕き、鎖骨を折っていた。血が染み出した包帯を右手で押さえながら、彼は必死に妻のエルに声をかけようとしていた。

 

「エル…逃げろ…窓から…」

 

だが窓枠はすでに粉々だった。

 

三頭のデビルベアが工房の壁を破壊して侵入したのだ。

石と漆喰の破片が散乱し、焼きたてのパンの香りと獣の獣臭が混ざり合う。

 

エルは夫の前に立っていた。

小麦粉まみれのエプロン。豊かな褐色の髪。パン屋の妻として二十年、毎朝四時に起き炉を焚いてきた女である。

彼女は鉄の焼き網を握っていた。武器にはならない。だが離せなかった。

 

「来ないで…!」

 

一頭が鼻を鳴らした。

匂いを嗅いでいる。

人間の雌の匂いだ。

 

二頭目が低い唸り声を上げ、一歩踏み出した。

その巨体が埃を巻き上げる。

 

三頭目が最も早かった。

鋭い爪がエルの腕を払いのけ、焼き網が床に落ちて金属音を立てた。

次の瞬間、毛むくじゃらの前脚が彼女の腰を掴み上げていた。

 

「ひっ…!」

 

巨体に持ち上げられ、彼女の足が床から離れた。

デビルベアは彼女のエプロンの紐を爪で引きちぎった。布が裂ける音が工房に響く。続いてブラウス。下着。

白い肌に小麦粉の白が残ったまま、彼女の身体が露わになる。

 

「いやっ…いやぁっ!ローエン…!」

 

夫の名を叫んだ。

だがローエンは動けなかった。砕かれた肩が悲鳴を上げ、彼は歯を食いしばることしかできなかった。目の前で妻が獣に辱められている。それを見ていることしかできない。男にとってそれ以上の地獄があろうか。

 

デビルベアはエルを作業台の上に押し付けた。

小麦粉の袋が破裂し白い粉が舞った。

その白い霧の中で、獣の赤黒い舌がエルの胸を舐め上げた。

 

「あぐっ…!」

 

ザラザラとした舌の感触。圧迫感。獣の息がかかる熱さ。

エルの肌に鳥肌が立ち、乳首が痛いほど硬くなった。恐怖のせいだ。そう思い込もうとした。だが身体はすでに獣の熱に当てられ反応を始めていた。

 

二頭目がエルの両脚を押し広げた。

太い爪が内腿に食い込み、血が滲む。

エルの秘所が露わになった。

 

「やめて…お願い…夫が見ているの…!」

 

その言葉は獣には届かない。

三頭目が先に腰を進めた。

凶悪な繁殖器がエルの股間に押し当てられた。

人間のものとはあまりにも異なる。太く、長く、節くれだった異形の楔。

 

「いやぁぁぁっ!」

 

一気に貫かれた。

膣壁が極限まで引き伸ばされ、内壁が悲鳴を上げる。

出産を二度経験したエルの身体でさえ、魔獣のサイズには耐えられなかった。

 

「ああっ!あぐっ!痛いっ!痛いぃっ!」

 

エルの口から絶叫がほとばしった。

作業台がきしタ音を立てる。

獣は容赦なく腰を振った。

グチュッ、グチュッという濡れた音が工房に響き渡る。

 

ローエンは見ていた。

妻が獣に犯されている。夫の目の前で。

妻の表情が苦痛から別のものへと変わっていくのを、彼は見ていた。

 

「あっ…あっ…なっ…なん…これ…」

 

エルの声が変わった。

痛みの中に別の波が押し寄せていた。

膣内を擦り上げられるたび、子宮口を突かれるたび、身体の奥から痺れるような感覚が広がっていく。

それは人間の夫が決して与えられなかった刺激だった。

 

「いや…感じたくない…こんなの…感じたくない…!」

 

エルの目から涙が溢れた。

夫の前で獣に犯され、しかも身体がそれに反応している。それ以上の屈辱はなかった。

 

一頭目が射精した。

熱い精液が膣内を満たし、子宮へと流れ込む。

エルの腹がわずかに膨らんだ。

 

すぐに二頭目が代わった。

休む間もない。

新しい楔が別の角度から膣内をこじ開ける。

 

「あああっ!」

 

別の場所を突かれた。

そこはエル自身も知らなかった敏感な場所だった。

背中が反り、足の指が丸まる。

 

「ダメ…ダメ…そこ…そこは…!」

 

二頭目が激しく腰を振る。

愛液と獣の精液が混じり合い、結合部から白い泡が溢れ出した。

エルの抵抗が弱まっていた。

身体が獣のリズムに合わせて揺れ始めていた。

 

三頭目がエルの口元に繁殖器を突き付けた。

生臭い雄の匂い。

彼女は首を横に振ったが、獣は容赦なくその口をこじ開けた。

 

「んぐっ!」

 

口の中に異物が侵入する。

苦くて生ぬるい味。

喉の奥まで突っ込まれ、えずきながらも獣の動きに合わせて舌が動いてしまう。

 

三頭のデビルベアに前後から嬲られるパン屋の妻。

その光景を夫はただ見つめていた。

 

「ごめん…ね…ローエン…」

 

エルの呟きは獣の動きにかき消された。

 

城下町の中央広場では大道芸人のアイーダが笛を吹いていた。

父の代から三代続く芸人一家の娘。

十六歳。栗色の髪を一本の三つ編みにまとめ、素足に鈴を付けた軽装だった。

 

彼女は避難する人々の道案内をしていた。

笛の音で人々を導き、広場から安全な小道へ誘う。

父の教えだった。「芸人は人を笑顔にする。そして危険なときこそ先頭に立て」と。

 

だがその勇敢な行動が、彼女を危険に晒した。

 

広場の噴水の陰から二頭のデビルベアが現れた。

人々は逃げた。

だがアイーダは逃げなかった。

足首を噛まれた老女が倒れていたからだ。

 

「こっちよ!早く!」

 

彼女は老女の手を引いた。

その背後に獣の影が伸びる。

 

一頭の爪がアイーダの腰を薙ぎ払った。

服が裂け、細い腰の肌が露わになる。

彼女は老女を突き飛ばした。

 

「走って!」

 

老女が路地へ転がり込む。

その間にデビルベアがアイーダの身体を地面に押し付けた。

 

石畳の冷たさが背中に伝わる。

獣の重さが彼女を押しつぶす。

息が詰まるほどの圧迫感。

 

「離して…!離しなさいっ!」

 

アイーダは足を蹴り上げた。

鈴が鳴る。

だが獣は意に介さない。

 

爪が残りの服を引き裂いた。

十六歳の肢体が月明かりの下に晒される。

まだ発育途中の小さな胸。細い腰。僅かな陰毛。

獣の赤い舌がその未成熟な身体を舐め上げた。

 

「いやっ!」

 

舌が乳首をこすり、脇腹を這い、へそを越え、下腹部へと降りていく。

アイーダは身をよじって逃れようとした。

だが獣の前脚は鉄のように重かった。

 

二頭目が割り込んできた。

二頭の獣がアイーダの両脚をそれぞれ押し広げた。

彼女の秘所が完全に露わになる。

 

「見ないで…!誰も見ないで…!」

 

広場にはもう誰もいない。

ただ噴水の音と獣の荒い息遣いだけが響く。

 

一頭目が腰を進めた。

楔がアイーダの入口に押し当てられる。

処女の証を破る鋭い痛みが走った。

 

「あああああっ!」

 

アイーダの絶叫が夜空に響き渡った。

血が流れた。

白い太ももを赤い筋が伝う。

だが獣は止まらない。

むしろ血の匂いがさらに興奮させたかのように、激しく腰を振り始めた。

 

「あぐっ!あぐっ!あぐっ!」

 

言葉にならない声が漏れる。

内臓をかき回される感覚。

身体が二つに割れるような激痛。

涙が止まらない。

 

二頭目が割り込んできた。

一頭目の下から無理やり楔を差し込もうとする。

二本の異形がアイーダの狭い膣内を争うように押し合い、広げ合う。

 

「いやぁっ!無理…!無理よ…!裂ける…!裂けちゃう…!」

 

アイーダの目が見開かれた。

限界を超えて引き伸ばされる膣壁。

痛みを通り越し、感覚が麻痺し始める。

その麻痺の向こう側で、暗い波が押し寄せていた。

 

「あ…あ…あ…」

 

声が細くなる。

抵抗が止まる。

獣の動きに合わせて身体が揺れ始める。

 

三頭目が現れた。

今度は口元に繁殖器を突き付けられる。

アイーダは目を閉じた。

開けた口に異物が押し込まれる。

 

「んぐっ…んんっ…」

 

三頭の獣に前後から嬲られながら、アイーダの意識は少しずつ遠のいていった。

最後に彼女の脳裏に浮かんだのは、父の笛の音だった。

 

 

王宮に最も近い城門の前では、三人の女騎士が最後の防衛線を張っていた。

 

エリス・シルヴァン。

騎士団第三小隊長。銀色の髪を短く切り、鋭い目つきの女騎士。剣の腕は騎士団でも五位に入る実力者。

 

マチルダ・オークウッド。

同じく第三小隊所属。赤褐色の髪を後ろで縛り、大柄な体格の女騎士。槍の使い手。

 

アイリス・フィルノーラン。

新人騎士。淡い金色の髪を持ち、まだ騎士になって三年目の若手だが、魔法の剣技に優れ将来を期待されていた。

 

三人は王の命令に背いていた。

 

「住民の避難を最優先せよ」

それが王宮から下った命令だった。だが城下町にはまだ逃げ遅れた人々がいた。三人は城門を閉じず、住民の避難を誘導し続けていた。

 

「あとどれくらい?」

エリスが叫んだ。

「十分もあれば…!」

マチルダが答えた。

「間に合わない!来るぞ!」

 

城門の向こうから黒い波が押し寄せていた。

デビルベアの先遣隊。数十頭が城門を目指して疾走している。

 

「城門を閉めろ!」

後方から誰かが叫んだ。

だがエリスは首を横に振った。

 

「まだ人がいる!閉めない!」

 

「しかし…!」

 

「閉めないと言っている!」

 

エリスの剣が抜かれた。

マチルダが槍を構える。

アイリスが剣を握り直した。

 

三人の女騎士が城門を背に横一列に並んだ。

城門の向こうでは、最後の避難民たちが城壁の内側へ走り込んでくる。

 

「絶対に通さない」

 

エリスが言った。

 

最初のデビルベアが城門に飛び込んできた。

エリスの剣が走り、獣の肩を斬り裂く。

獣が咆哮を上げて倒れた。

 

二頭目。

マチルダの槍が獣の口を貫く。

三頭目。

アイリスの剣が獣の脚を斬り飛ばす。

 

だが四頭目、五頭目、六頭目。

次から次へと押し寄せてくる。

 

「きりがない…!」

マチルダが叫んだ。

「持ちこたえろ!あと三十人だ!」

 

避難民の流れが続いている。

城門の幅は四人分ほど。その狭い入口を人々が必死に駆け抜けていく。

 

七頭目がエリスの左脇をかすめた。

剣が空を切り、獣の爪が彼女の鎧を引き裂いた。

胸当てが外れ、下の鎖帷子ごと肌が露わになる。

 

八頭目がマチルダの槍を弾き飛ばした。

武器を失った彼女は素手で獣の牙を押し返そうとしたが、前脚の一撃で地面に叩きつけられた。

 

九頭目がアイリスの剣を噛み砕いた。

魔法の剣が根元から折れ、アイリスは残骸を握ったまま後ずさった。

 

「くそっ…!」

 

十頭目がエリスの脚を払った。

地面に倒れた彼女の上に獣が跨る。

鎧が引き剥がされ身体が露わになる。

 

「離せ…!この獣…!」

 

エリスは必死に抵抗した。

だが押さえつけられた腕は動かない。

獣の爪が彼女のズボンを裂き、下着を引きちぎった。

 

「いやっ…!」

 

十一頭目がマチルダに跨った。

赤褐色の髪が泥にまみれる。

大柄な身体が獣の前脚の間で小さく見えた。

 

十二頭目がアイリスの上に乗った。

淡い金色の髪が広がり、若い肢体が獣の重さに押しつぶされる。

 

三つの悲鳴が同時に響いた。

 

エリスの秘所に獣の楔が押し当てられた。

「殺すなら殺せ…!こんな屈辱…!」

 

一気に貫かれた。

「あああっ!」

 

騎士としての誇りが、肉体的な激痛の中で砕かれた。

膣壁が引き裂かれ、血が流れる。

獣は容赦なく腰を振った。

激しく、深く、容赦のないピストン。

エリスの鋭い目が見開かれ、口から唾液が垂れた。

 

「あぐっ…あぐっ…ああっ…」

 

マチルダは二頭の獣に同時に襲われていた。

一頭が前から、もう一頭が後ろから。

前の穴と後ろの穴を同時に貫かれ、彼女の身体は板挟みのように揺さぶられた。

 

「ひぃっ!ああっ!ダメ…ダメ…二本は…ダメ…!」

 

大柄な身体が小さく震えた。

前の獣が子宮口を突き上げ、後ろの獣が腸壁をこすり上げる。

二つの刺激が同時に脳を焼き尽くす。

 

アイリスは最も若かった。

そして最も激しく嬲られた。

三頭の獣が交代で彼女の身体を犯した。

前から、後ろから、口から。

三つの穴を同時に埋められ、アイリスの意識は何度も白く弾けた。

 

「ダメ…ダメ…もう…壊れ…ちゃう…」

 

若い騎士の声は次第に弱々しくなっていった。

抵抗する力が消え、身体が獣の動きに合わせて無抵抗に揺れ始める。

 

城門の前で三人の女騎士が獣の慰み者になる光景を、最後の避難民たちが城壁の上から見ていた。

誰も助けに行けなかった。

ただ泣きながら見守ることしかできなかった。

 

城下町のあちこちで悲鳴が上がり続けていた。

男たちは獣の牙と爪で殺され、女たちは獣の欲望の下に押し潰された。

パン屋の妻も、芸人の娘も、女騎士たちも。

そのすべての悲鳴が夜の森に吸い込まれていった。

 

その頃王宮の最上階では、セルフィン王が玉座に座っていた。

彼の隣には王妃カミーラが立っていた。

 

「陛下…そろそろ騎士団を出動させてください」

 

宰相ペルギウスが必死に懇願した。

いや、それは演技ではなかった。

彼の目には真の焦りがあった。

 

「城下町が壊されています。住民が…!」

 

「ペルギウス」

 

王は静かに手を挙げた。

「落ち着きたまえ」

 

「落ち着いている場合では…!」

 

「落ち着くのだ」

 

王の声は変わらなかった。

穏やかで、静かで、揺るがない。

 

「デビルベアが街に来ているということは、彼らの生息地が変化したということだ。これは自然の摂理が働いている証拠なのだ。そして彼らはメスが目的だ。何人かさらったら山に帰っていくだろう。」

 

「陛下…!人が死んでいます!」

 

「死は自然の一部だ」

 

王は目を閉じた。

 

「我々は森と共に生きる者。自然の意志に逆らってはならない。デビルベアが人里に来たのには理由がある。その理由を理解し、受け入れることこそが真の共生なのだ」

 

ペルギウスの拳が震えた。

だが彼はそれ以上言えなかった。

言えば自分がどうなるかを知っていたからだ。

 

王妃カミーラが扇を開いた。

「宰相殿、あなたも分かっているでしょう?自然の理を尊重するのがこの国の根本ですわ。人間の都合で魔獣を殺すなど、もってのほかです」

 

その声には優雅さとともに冷酷さがあった。

「被害に遭った者たちは残念です。ですがそれは彼らが森の奥に住みすぎた結果です。自然に近づきすぎた者の責任でもあるのですわ」

 

「しかし…!」

 

「ペルギウス」

 

王は目を開いた。

「お前の言いたいことは分かっている。だが、答えは変わらぬ。騎士団は出さない。城門を閉め、王宮を守れ。それだけでよい」

 

「城門を…閉めろと?」

 

「そうだ。王宮さえ無事なら、国は続く」

 

ペルギウスは絶句した。

 

王宮の外では住民が死んでいる。

女たちが犯され、男たちが殺され、町が燃えている。

だが王は城門を閉めろと言う。

 

王宮さえ無事なら国は続く。

それは正しいのかもしれない。

だがそれは同時に、見捨てられた者たちの命の上に成り立つ言葉だった。

 

ペルギウスは深く頭を下げた。

その顔は影に隠れて王には見えなかった。

だがその唇は微かに笑んでいた。

 

今の彼には王への忠誠など残っていなかった。

あるのはただ一つ。

アンリエッタへの忠誠のみ。

 

彼は心の中で聖女に呼びかけた。

今ですか、アンリエッタ様。

動くべきは今ですか。

 

その頃地下牢ではアンリエッタが立ち上がっていた。

 

城下町の悲鳴は地下牢にも届いていた。

壁の向こうで何が起きているか、彼女には分かった。

デビルベアのスタンピード。

ついに来た。

 

エステバンが剣を握った。

「行くぞ」

 

「ええ」

 

アンリエッタは鉄格子を見つめた。

もう鍵は問題ではなかった。

見張りの兵士たちが自分の言葉を聞くようになってから久しい。

今や彼らはアンリエッタの指示を待っていた。

 

「開けて」

 

その一言で鉄格子の扉が開いた。

 

アンリエッタは地下牢の通路を歩き出した。

その後ろにエステバンが続く。

「皆の者!聖女アリエッタ様に続け!」

セレスティアが凛とした声で叫んだ。

さらにその後ろに、解放された囚人たちが続いた。

そしてその後ろには、見張りの兵士たちが続いた。

 

聖女が牢獄から出る。

勇者が剣を抜く。

囚人たちが続く。

兵士たちが続く。

 

その行列は王宮の階段を上り始めた。

 

上からの命令を待つ者はもういなかった。

アンリエッタは階段を上りながら静かに言った。

 

「森を守る。人を守る。その両方をやる。誰の許可もいらないわ」

 

その声は静かだった。

だが地下牢の全員に届いた。

 

誰もが知っていた。

この聖女が本気であることを。

そして彼女が一度決めたことは、決して覆らないことを。

 

 

第七章 聖女の剣、森の逆襲

 

王宮の中庭に月明かりが降り注いでいた。

 

石畳の広場に整列したのは、エルディア騎士団の全戦力だった。

 

騎士団長を先頭に、各小隊長、副長、そして百名を超える騎士たちが整列している。その装備は夜の月光を浴びて銀色に輝いていた。

 

彼らの正面には宰相ペルギウスが立っていた。

 

白髪交じりの長い髪が夜風に揺れる。その背筋はこれまでにないほど伸びていた。数百年間王に仕えてきた男の背が今、別の主君のために伸びていた。

 

地下牢の鉄扉が開いた。

 

アンリエッタが姿を現した。

 

聖衣は泥に汚れ金色の髪は乱れている。だがその瞳は澄んでいた。聖杖《アウレリア》を右手に握り左手を静かに挙げる。

 

その後ろからエステバンが続く。聖剣《ソル・レイヴァ》が黄金の光を放ち、白銀の鎧が月明かりを受けて輝いていた。

 

さらにその後ろからセレスティアが続く。銀色の弓を背負い短剣を腰に帯びた彼女の目には戦意が燃えていた。

 

そして解放された囚人たち。森の村から来たエルフたち。農民も猟師も木こりも。それぞれが手に手に武器を取っていた。

 

最後に地下牢の見張り兵士たちが続いた。彼らは正規の騎士団の列に加わり静かに整列した。

 

ペルギウスが一歩前に出た。

 

「騎士団!」

 

その声は夜空に響き渡った。

 

百名以上の騎士が一斉に直立の姿勢を取った。

 

「我らエルディア騎士団は今この瞬間をもって王命を覆す!」

 

その言葉は反逆だった。

だが誰も躊躇しなかった。

 

「城下町は壊滅寸前。住民は虐殺され凌辱されている。王は軍を出さず王妃はそれを正当化している。もはや王命に従う理由はない!」

 

ペルギウスはアンリエッタの方を向いた。

 

そして膝をついた。

 

「聖女アンリエッタ様。どうか我らを導きたまえ!」

 

騎士団長が続いた。

「騎士団長ヴァルガスが申し上げる!我ら騎士団は聖女アンリエッタ様の指揮に従います!」

 

「我ら騎士団!聖女アンリエッタ様の導きのままに!」

 

ペルギウスが叫んだ。

 

「聖女アンリエッタと共に!」

 

騎士団が一斉に叫んだ。

 

「聖女アンリエッタと共に!」

 

「聖女アンリエッタと共に!」

 

三唱された声は王宮の大樹を揺らし夜空へと突き抜けた。

 

アンリエッタは静かに手を下ろした。

 

そして整列した騎士たちを見渡した。

 

一人ひとりの顔を見た。

恐怖している者もいた。決意に燃える者もいた。怒りに震える者もいた。

 

彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「皆さん」

 

その声は静かだった。

だが魔法の補助なしでも中庭の隅々にまで届いた。

 

「城下町では今この瞬間も人々が苦しんでいます。デビルベアの群れが家を壊し家族を傷つけ命を奪っている。今すぐ助けに行かなければならない」

 

彼女は一呼吸置いた。

 

「皆さんは恐れているでしょう。王命に背くことになる。罪に問われるかもしれない。それは怖いことです」

 

その言葉に何人かの騎士が目を伏せた。

 

「ですが今城下町で起きていることはもっと怖いことです。人々が死んでいる。女たちが犯されている。子供が親の目の前で食い殺されている。それを見過ごして後で『王命だったから仕方がなかった』と言って済むでしょうか」

 

誰も答えなかった。

答える必要もなかった。

 

「デビルベアを討ち人々を守るのです。神は皆さんの勇気を祝福しています」

 

アンリエッタは聖杖《アウレリア》を高く掲げた。

 

透明な魔石が白い光を放つ。

その光が中庭全体を包み込み、騎士たちの武器と鎧に薄い銀色の膜のように張り付いた。

 

聖なる加護。

戦いの祝福。

恐怖を和らげ力を増す魔法。

 

「進め!」

 

アンリエッタの号令とともに騎士団が動いた。

 

王宮の正門が開かれた。

何十年も開かれたことのない巨大な木の扉が軋みながら左右に開いていく。

 

その向こうには地獄が広がっていた。

 

城下町のあちこちから煙が上がり炎が燃え広がっている。家屋が倒壊し石畳が砕かれている。あちこちに倒れた住民の姿が見える。生きている者もいれば動かない者もいた。

 

そして黒い毛並みの塊がまだそこら中にいた。

 

デビルベアの群れは城下町を占領していた。

数十頭が街路を徘徊し残った建物を壊し逃げ隠れる住民を引きずり出している。

 

「全隊展開せよ!前衛は私に続け!後衛は住民の救助を最優先に!」

 

騎士団長ヴァルガスが号令を下した。

 

騎士団が四つに分かれて城下町へとなだれ込んだ。

 

エステバンは先頭に立った。

聖剣《ソル・レイヴァ》が黄金の軌跡を描く。

 

最初のデビルベアが彼に向かって突進してきた。

巨体が地面を震わせる。

牙が月光を反射して鋭く光る。

 

エステバンは一歩踏み込み剣を横に振った。

 

一閃。

 

デビルベアの首が空中に飛んだ。

黒い毛並みの塊が二つに分かれ地面に転がる。

 

「次だ!」

 

彼は駆けた。

聖剣が次々と光を放つ。

 

二頭目は横薙ぎの一撃で腹部を裂かれた。

三頭目は上段からの一撃で頭蓋を砕かれた。

四頭目は突きで心臓を貫かれた。

 

エステバンが走る跡には倒れたデビルベアの屍体が転がっていった。

 

アンリエッタは後方から騎士団を支援していた。

聖杖を振り白い障壁を展開する。デビルベアの突進を防ぎ騎士たちの反撃を助ける。

 

「右翼三頭接近!弓兵射撃用意!」

 

アンリエッタの指示が飛ぶ。

エルフの弓兵が一斉に矢を放つ。

銀色の矢が夜空を切り裂き三頭のデビルベアを射抜いた。

 

「前衛前進!住民の救助を!」

 

アンリエッタは倒れた家屋のそばに駆け寄った。

瓦礫の下から呻き声が聞こえる。

彼女は瓦礫を持ち上げた。聖杖の光が暗がりを照らす。

 

「大丈夫です。もう大丈夫です」

 

中から老人と子供が出てきた。

老人はアンリエッタの手を握り泣き崩れた。

 

「聖女様…聖女様が来てくださった…」

 

「泣いている場合ではありませんよ。まだ戦いは終わっていません。安全な場所へ」

 

アンリエッタは老人を騎士に預け次の救助へ向かった。

 

セレスティアは銀の弓を構え城下町の東側で戦っていた。

 

彼女の矢は正確だった。

一本目がデビルベアの左目を貫く。

二本目が喉を射抜く。

三本目が心臓を射抜く。

 

三頭が同時に倒れた。

 

「次!」

 

彼女は矢筒から矢を引き抜き放った。

だがそのとき矢筒が空になった。

 

「くっ…!」

 

四頭目が突進してくる。

矢がない。

セレスティアは短剣を抜いた。

 

「来い!」

 

短剣を逆手に持ちデビルベアの突進をかわしながら腹部を切り裂いた。

血飛沫が彼女の頬を濡らす。

 

五頭目。

六頭目。

次から次へと現れる。

 

セレスティアは戦い続けた。

だが数が多すぎた。

 

七頭目の爪が彼女の左腕を掠めた。

短剣が手から弾け飛ぶ。

 

八頭目の体当たりを受け彼女は地面に倒れた。

 

「ぐっ…!」

 

息が詰まる。

背中を強打し視界が揺れる。

 

九頭目が彼女の上に跨った。

鋭い爪が彼女の鎧を引き裂いた。

胸当てが外れ白い肌が露わになる。

 

「離せ…!」

 

セレスティアは拳で獣の鼻を殴った。

獣がわずかによろめく。

だがすぐに体勢を立て直した。

 

十頭目が割り込んできた。

二頭の獣が彼女の両脚を押し広げようとする。

 

「いや…!」

 

セレスティアの抵抗が空しく獣の爪が彼女のズボンの腰紐を引きちぎった。

 

その瞬間だった。

 

黄金の光が夜空を切り裂いた。

 

一頭のデビルベアの頭が空中に飛んだ。

正確に首の付け根から一刀両断されていた。

 

二頭目は次の瞬間には胴体を縦に斬られていた。

悲鳴を上げる間もなく二つの肉片になって倒れる。

 

三頭目は恐怖に後ずさりした。

だが後ろから第四の光が走り背中を貫いた。

 

エステバンがそこに立っていた。

 

聖剣《ソル・レイヴァ》が黄金の光を放ち彼の周囲に倒れた獣の屍体が散乱している。血まみれの剣を片手に彼はセレスティアに手を差し伸べた。

 

「大丈夫か?」

 

セレスティアはその手を見た。

血にまみれた荒っぽい手だった。

だが温かかった。

 

「…助かりました」

 

彼女は手を取って立ち上がった。

 

「礼は後だ。まだ残っている」

 

エステバンは城下町の奥を指差した。

そこから最も大きな咆哮が響いていた。

 

デビルベアのボスだった。

 

通常の個体の二倍はある巨体。肩高は人間の三倍を超える。全身の毛並みは深紅に染まり魔力の筋が血管のように脈打っている。目は赤く爛々と光り口からは紫色の魔力の息が漏れていた。

 

ボスは城下町の中央広場に陣取り周囲に十数頭の親衛隊を従えていた。

 

「あれがボスか」

 

エステバンは剣を構えた。

 

「やつを倒せば群れは崩れるはずだ」

 

「でも周囲に数十頭も…」

 

セレスティアが言いかけたときアンリエッタの声が響いた。

 

「エステバン! ボスはあなたに任せます! 周囲の個体は私たちで抑えます!」

 

アンリエッタは騎士団を再編制していた。

弓兵を前方に配置し槍兵を両翼に展開する。聖杖の光が騎士たちの武器を強化し士気を高める。

 

「全軍展開!ボスへの道を開け!」

 

アンリエッタの号令とともに騎士団が動いた。

 

弓兵が一斉に矢を放つ。

銀色の矢の雨が親衛隊のデビルベアを襲う。

数頭が倒れた。

 

槍兵が続く。

長槍の壁が突進する獣を阻止する。

 

その隙にエステバンが走った。

 

聖剣を振りながらボスの前まで駆け抜ける。

親衛隊の獣が彼に襲いかかるが一撃のもとに斬り捨てる。

 

「お前がボスか」

 

エステバンはボスの前に立った。

 

ボスはゆっくりと顔を向けた。

赤い目がエステバンを捉える。

巨体が立ち上がった。

地面が震える。

 

咆哮。

 

空気が震えるほどの咆哮が城下町を揺らした。

窓ガラスが割れ瓦が落ちる。

 

エステバンは一歩も引かなかった。

 

「でかい口を開くんだ。ならその口を閉じてやる」

 

ボスが突進した。

巨体が暴走列車のように迫る。

 

エステバンは横へ跳んだ。

ボスの爪が石畳を砕く。

地面が爆ぜて瓦礫が飛び散る。

 

エステバンは着地と同時に剣を振った。

黄金の刃がボスの前脚を斬りつける。

だが硬い毛皮と魔力の層が刃を弾いた。

 

「硬いな」

 

ボスが振り返り再度突進してくる。

エステバンは後ろに跳び距離を取った。

 

ボスは止まらない。

三度目の突進。

その巨体が広場の噴水をなぎ倒し水が噴き出す。

 

エステバンは水を蹴り跳んだ。

空中で剣を構える。

聖剣《ソル・レイヴァ》が通常の三倍の光を放った。

 

「 Solar Lance !!」

 

黄金の光が剣先から放たれた。

光の槍がボスの胸を貫く。

 

ボスが咆哮を上げた。

胸に風穴が開き血が噴き出す。

だが倒れない。

 

赤い目がさらに激しく光る。

魔力が暴走しボスの身体が膨張した。

 

「くそっまだ動くか!」

 

エステバンは着地し再度構えた。

 

ボスが突進してくる。

傷口から血を噴きながらも速度は落ちない。

 

エステバンは正面から受けた。

剣と爪がぶつかり火花が散る。

力比べ。

だがサイズが違う。

エステバンは押し返され足が石畳にめり込む。

 

「ぐっ…!」

 

ボスがもう一方の爪を振り上げた。

エステバンの頭を狙う致命的な一撃。

 

その瞬間アンリエッタの声が響いた。

 

「エステバン! 今!」

 

白い光がエステバンを包んだ。

聖なる強化魔法。

力が倍増する。

 

エステバンはボスの爪を弾き飛ばした。

そして一歩踏み込んだ。

 

聖剣を上段に構える。

黄金の光が夜空を切り裂くほどに輝く。

 

「これで終わりだ!」

 

一閃。

 

聖剣がボスの首を一刀両断した。

 

巨大な頭が空中に舞い上がり回転しながら地面に落ちた。

胴体が数秒間立ち尽くしたあとゆっくりと倒れた。

地面が震えるほどの重い音が響いた。

 

デビルベアのボスが倒れた。

 

その瞬間残った個体が一斉に恐慌に陥った。

ボスの死を感知した親衛隊が逃げ出し他の個体も続いた。

 

「逃げるぞ!追え!」

 

騎士団長の号令とともに騎士団が追撃を開始した。

 

だがそれだけではなかった。

 

城下町の住民たちが立ち上がった。

 

パン屋のローエンが片手に焼き網を持って現れた。

妻のエルが夫の支えになりながら一緒に歩いてくる。

二人の目には怒りが燃えていた。

 

大道芸人の父が娘のアイーダを抱きかかえて現れた。

アイーダは足が震えていたが手には拾った鉄の棒を握っていた。

 

老人が。子供が。女が。男が。

それぞれが手に手に武器を取って通りに出た。

 

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

 

住民たちの叫びが城下町に響き渡った。

 

デビルベアは逃げた。

だが住民たちは許さなかった。

 

逃げる獣を囲み棒で叩き石を投げ鍋で殴り包丁で刺した。

 

パン屋のエルは夫の焼き網でデビルベアの頭を何度も殴った。

「これ夫の前で私を…!」

一撃ごとに叫んだ。

獣はついに動かなくなった。

 

アイーダは鉄の棒でデビルベアの脚を打ち砕いた。

「私の…私の大事なものを…!」

 

住民たちの怒りは止まらなかった。

一頭また一頭。

残ったデビルベアはすべて駆除された。

 

夜明け前。

戦いは終わった。

 

城下町の中央広場には倒れたデビルベアの屍体が山のように積まれていた。

血の匂いと獣の臭気が充満している。

だが空には朝日が昇り始めていた。

 

アンリエッタは広場の中央に立った。

聖衣はボロボロだった。

金色の髪は血と泥で固まっている。

だがその顔には微笑みが浮かんでいた。

本物の微笑みだった。

 

「終わりましたね」

 

隣に立ったエステバンに彼女は言った。

 

「ああ。だが後片付けが大変だな」

 

エステバンはデビルベアの山を見上げた。

 

「ちょうどいいじゃない。これだけの肉があるのですもの」

 

アンリエッタは言った。

 

「焼肉にするのよ」

 

朝日が城下町を照らし始めた頃広場にはいくつもの焚き火が点火された。

 

デビルベアの肉が串に刺され火にかけられていた。

香ばしい肉の匂いが広場に広がる。

 

騎士たちが円になって座り住民たちがその間に混じった。

パン屋のローエンが焼いたパンを持ち寄った。

エルが皿を配った。

アイーダが父の笛を吹いた。

 

戦いの後の食事は何よりも美味かった。

 

デビルベアの肉は案外美味だった。

魔力を含んだ肉は少し辛味があり噛むほどに旨味が出た。

 

「うまい!」

 

騎士の一人が叫んだ。

 

「これは猪肉よりいいぞ!」

 

「また狩りに行こうぜ!」

 

笑い声が広がった。

 

アンリエッタも一口食べた。

口いっぱいに広がる肉の味。

彼女は小さく頷いた。

 

「悪くないわね」

 

エステバンはすでに五人前を平らげていた。

 

「保存がきくから干し肉にもできる。旅の食料にもなるしな」

 

「あなたはいつもそういうことばかり考えているのね」

 

「生きていくためには必要なことだ」

 

セレスティアが隣に座った。

彼女の左腕には包帯が巻かれている。アンリエッタの治療を受けた後だった。

 

「聖女様…いえアンリエッタ様」

 

「アンリエッタでいいわ」

 

「アンリエッタ様。一つ聞いてもいいですか?」

 

「何?」

 

「あなたはなぜ私たちのために戦ったのですか? 他国の者であるのに」

 

アンリエッタは肉を咀嚼しながら考えた。

 

「正義のためとかそんな立派なことは言わないわ。ただ放っておけなかっただけ」

 

「それだけですか?」

 

「それだけよ。私、意外と面倒くさがりなの」

 

セレスティアは目を丸くした。

そしてふっと笑った。

 

「嘘つきですね」

 

「そう?」

 

「顔が笑っていました。戦っているとき。楽しんでいたでしょう?」

 

アンリエッタは黙った。

そして小さく笑った。

 

「バレた?」

 

「ええ。私と同じ目をしていました」

 

そのとき広場の端が騒がしくなった。

 

王宮の正門から二つの人影が飛び出してきた。

 

セルフィン王と王妃カミーラだった。

 

王の銀緑色の髪は乱れ衣装も着崩れていた。

王妃のドレスはしわくちゃだった。

二人の目は異様だった。

狂気だった。

 

「何をしている!」

 

王が叫んだ。

 

「何をしているのだお前たちは!」

 

広場の笑い声が止まった。

全員が王を見た。

 

「デビルベアを殺しただと!? 守護獣を殺しただと!? お前たちは何をしたのか分かっているのか!」

 

王は叫びながら広場へ降りてきた。

 

「森の理を乱した!自然の摂理を破壊した!お前たちは罪人だ!罪人なのだ!」

 

王妃カミーラが続いた。

 

「野蛮な人間の真似事を!エルフの誇りはどこへ行ったのです!自然を尊重するのがこの国の道ですのに!」

 

二人は広場の中央まで来ると倒れたデビルベアの屍体の山を見た。

 

「ああ…ああ…なんということを…」

 

王は頭を抱えた。

 

「殺された…守護獣が殺された…森が泣いている…森が泣いているのだ…」

 

カミーラは叫んだ。

 

「お前たち全員罪人です!処罰します!全員処罰します!王命です!」

 

広場は静まり返った。

 

騎士たちは顔を見合わせた。

住民たちは怒りに震えた。

パン屋のエルは焼き網を握りしめた。

 

「黙れ」

 

その声は静かだった。

だが誰の声よりもよく通った。

 

エステバンが立ち上がった。

 

彼は肉串を置き聖剣を拾い上げた。

だが剣は使わなかった。

 

大股で王の前に歩み寄った。

 

「なんだその野蛮人は!」

 

カミーラが叫んだ。

 

エステバンは無言で王の首根っこを掴んだ。

 

「何をする!離せ!」

 

王が暴れた。

だがエステバンの腕は鋼鉄のように動かなかった。

 

王妃カミーラも同じように掴まれた。

 

「きゃっ!離しなさい!私は王妃ですよ!」

 

「知るか」

 

エステバンは二人を引きずって広場の端へ向かった。

 

そこにはデビルベアの骨や内臓を入れるために作られた粗末な檻があった。戦闘後に住民たちが作ったものだ。

 

エステバンは檻の扉を開け二人を放り込んだ。

 

「お前たち何をする気だ!」

 

王は檻の中で叫んだ。

 

「王を拘束する気か!反逆だ!」

 

「反逆?」

 

エステバンは檻の鍵を閉めながら首を傾げた。

 

「城中の騎士団も宰相も国民も全部お前を裏切ったんだ。それを反逆って言うのか? それとも革命って言うのか?」

 

「何を…!」

 

「あとでゆっくり考えてろ」

 

エステバンは振り返った。

 

広場の隅で手負いのデビルベアが一頭見つかった。

傷だらけで足を引きずっている。

戦闘から逃げ延びたが重傷を負い動けなくなっていた。

 

エステバンはその獣の首根っこを掴み引きずった。

獣は抵抗したが傷の痛みに弱っていた。

 

エステバンは獣を檻の前で止まった。

 

王と王妃が檻の中で獣を見た。

 

「や…やめろ…!」

 

王の顔から血の気が引いた。

 

「お前まさか…!」

 

エステバンは獣を檻の中へ放り込んだ。

 

「王よ」

 

エステバンは静かに言った。

 

「お前も自然の一部になる時だ」

 

檻の中で悲鳴が響いた。

 

王と王妃が獣から逃げようと檻の中を走り回った。

手負いのデビルベアは恐怖と痛みで荒れ狂った。

 

「助けてくれ!助けてくれ!」

 

王が叫んだ。

 

「自然の摂理だろ?」

 

エステバンは背を向けた。

 

「強い命が弱い命を捕食する。お前の言葉だ。享受しろ」

 

檻の中で悲鳴が続いた。

カミーラは犯され 王は食い尽くされた。

だが広場の誰も助けようとはしなかった。

 

アンリエッタは肉を一口かじりながらその様子を眺めていた。

 

「少し残酷じゃない?」

 

セレスティアが小声で言った。

 

「自然の摂理よ」

 

アンリエッタは答えた。

 

「彼がそう言っていたわ」

 

朝日が完全に昇った。

森の国エルディアに新しい一日が始まった。

王は変わった。

だが森は残った。

人々も残った。

 

⭐️セレスティアとエステバン

 

戦いの翌日、城下町の復興は驚くほど早く進んだ。

 

デビルベアの肉は保存食として加工され、皮は革にされ、骨は道具の材料になった。無駄になるものは何一つなかった。エルフたちは森の民らしく獣のすべてを利用することを知っていた。

 

アンリエッタは宰相ペルギウスと共に王宮の政務を取り仕切り始めた。実権はすでにアンリエッタへ移っていた。ペルギウスが書類に判を押し、騎士団長ヴァルガスが軍を動かした。誰も王の命令を待たなかった。

 

アンリエッタは牢獄で培った人脈を活かし、被災した村々への支援を即座に実施した。食料、薬、住居の修復。すべてが組織的に動き始めた。

 

「さすがですね。手際が違います」

 

ペルギウスが感心したように言った。

 

「当たり前よ。人が死んでいるのに書類の判を待つ必要なんてない」

 

アンリエッタは書類にサインをしながら答えた。

 

「でも、形式的な手続きは大切ですわよ。後で誰かに文句を言われないためにも」

 

「…あなたは本当に聖女なのですか?」

 

「聖女よ。一応」

 

ペルギウスは小さく笑った。

 

その笑みには、かつて王に仕えていたときには決して浮かべなかった親しみがあった。

 

一方エステバンは城下町の復興作業に加わっていた。

 

倒れた家屋の木材を持ち運び、壊れた壁を直し、住民たちと一緒に汗を流す。聖剣は置いて素手で働いた。

 

「勇者様、こちらの柱お願いします!」

 

「あいよ」

 

エステバンは巨木を一人で持ち上げた。

 

住民たちが目を丸くする。

 

「すげえ力だ…」

 

「さすが勇者様だ」

 

だがエステバンは手伝いながらも、常に周囲を観察していた。

 

復興作業に紛れて物資を盗む者がいないか。怪しい動きをする者がいないか。そして何より、デビルベアの生き残りがいないか。

 

その目は休まらなかった。

 

「エステバン様」

 

背後から声がかかった。

 

振り返るとセレスティアが立っていた。

 

銀色の髪を後ろで一つに縛り、軽装の革鎧を着ている。左腕の包帯は外され、代わりに銀の弓が背負われていた。アンリエッタの治癒魔法のおかげで傷はすでに完治していた。

 

「セレスティア。傷はいいのか?」

 

「はい。アンリエッタ様の治療のおかげで」

 

彼女は少し頬を染めた。

 

「あの…もしよろしければですが、復興作業を手伝わせていただけませんか?」

 

「俺に? いや俺は別に構わないけど」

 

「あ、いえ…その…あなたの手伝いをしたいというか…」

 

言葉がしどろもどろになる。

 

エステバンは少し首を傾げたが、すぐに頷いた。

 

「じゃあこっちの木材運びを頼む」

 

「はい!」

 

セレスティアは嬉しそうに駆けていった。

 

その後ろ姿を見ながらエステバンは小さく笑った。

 

素直な子だ。

 

それから三日間、セレスティアは毎日エステバンのそばにいた。

 

朝早くから現れ、夜遅くまで残った。木材を運び、壁を直し、水を運び、時にはただ黙って隣で働いた。

 

エステバンが気付かないはずがなかった。

 

「ねえ、アンリエッタ」

 

その夜、二人きりのときエステバンが言った。

 

「あのエルフの娘、ずっと俺のそばにいるんだけど」

 

「セレスティアのこと?」

 

アンリエッタはワインを飲みながら答えた。

 

「ああ。三日間ずっとだ」

 

「気付かなかった? あなたに惚れてるのよ」

 

「…俺が?」

 

「そう。二度も命を救われたからでしょうね。乙女心としては王道の展開だわ」

 

エステバンは腕を組んだ。

 

「で、どうする?」

 

「どうするって…」

 

「あの子、あなたのことが好きなのよ。あなたがその気持ちに応えるか、利用するか、それとも無視するか。あなた次第でしょう」

 

アンリエッタは悪戯っぽく笑った。

 

「食っていいのか?」

 

「あなたのことだからどうせそうするでしょう。だったらきちんと向き合ってあげなさい。責任を持って」

 

「責任ねえ…」

 

「嫌なら手を出さないことね。それが一番いい」

 

アンリエッタはワイングラスを置いた。

 

「でもあなた、こういうのは得意でしょう?」

 

「…嫌な言い方だな」

 

「事実を言っただけよ」

 

翌日の夕暮れ。

 

復興作業が一段落した後、セレスティアは城壁の上に座っていた。夕日に染まる森を見下ろしている。

 

エステバンが隣に座った。

 

「きれいだな」

 

彼が言った。

 

「はい。エルディアの夕日はどこよりもきれいです」

 

セレスティアは微笑んだ。

 

「子供のころ、よく父とここから夕日を見ました。森が金色になる時間が好きでした」

 

「いい場所だ」

 

沈黙が流れた。

 

風が吹き、セレスティアの銀色の髪が揺れた。

 

「エステバン様」

 

「エステバンでいい」

 

「…エステバン」

 

彼女の声が少し震えた。

 

「あの…一つ聞いてもいいですか?」

 

「何だ?」

 

「あなたは…どうしてあのとき私を助けてくれたのですか?」

 

「どうしてって…危なかったからだ」

 

「それだけですか?」

 

「それだけだ」

 

シンプルな答えだった。

 

セレスティアは少し笑った。

 

「あなたは不思議な人ですね。何でもないことのように言います。でも私にはそれが…」

 

彼女は言葉を止めた。

 

「それが?」

 

「…かっこよく見えるのです」

 

最後の言葉はほとんど息のような声だった。

 

エステバンは横目で彼女を見た。

 

夕日に照らされた横顔。白い肌がオレンジ色に染まっている。長い睫毛が微かに震え、尖った耳がわずかに赤くなっていた。

 

彼女は必死に平静を装っていたが、手が膝の上で握りしめられていた。

 

「セレスティア」

 

エステバンが彼女の名を呼んだ。

 

彼女が顔を上げた。

 

その瞬間、エステバンの手が彼女の頬に触れた。

 

「え…?」

 

セレスティアの目が丸くなった。

 

「お前、俺のことが好きか?」

 

直球だった。

 

セレスティアの顔が一瞬で真っ赤になった。耳まで赤くなり首筋まで染まった。

 

「そ…それは…」

 

「嘘をつくなよ。俺には分かる」

 

エステバンの目が彼女を見つめた。

 

「俺にお前の気持ちが分からないとでも思ったか?」

 

「…分かって、いたのですか?」

 

「最初からな」

 

セレスティアは下を向いた。

 

「…はい。好きです」

 

小さな声だった。だがはっきりとしていた。

 

「あなたが助けてくれたとき、私は自分が死ぬと思いました。でもあなたが来た。光みたいに。あの瞬間、私は…あなたしか見えなかったのです」

 

彼女の手が胸を押さえた。

 

「それからずっと…あなたのことが頭から離れない。あなたの声が聞こえるだけで胸が苦しくなる。あなたが笑うと世界が明るくなる。あなたが他の女性と話すと…胸が痛くなる」

 

彼女は涙ぐんだ。

 

「こんな気持ち初めてです。何て言えばいいか…」

 

「言わなくていい」

 

エステバンが彼女の顔を上げさせた。

 

「俺もお前が好きだ 」心の声 アンリエッタの次の次の次ぐらいに

 

その言葉は嘘だった。

 

少なくとも完全な真実ではなかった。

 

だが、それは残酷なことではなかった。

 

少なくとも彼はそう思っていた。

 

セレスティアの目が潤んだ。

 

「本当ですか…?」

 

「ああ」

 

「嘘じゃないですか…?」

 

「嘘ついて何になる」

 

「でも…でも…」

 

彼女の声が震えた。

 

「私、エルフです。あなたは人間です。それにあなたは勇者で私はただの騎士で…」

 

「関係ない」

 

エステバンは彼女を引き寄せた。

 

「関係ないことなんてない」

 

セレスティアは彼の胸に顔を埋めた。

 

「私…あなたにふさわしいかどうか…」

 

「そういうのは後で考えろ」

 

エステバンは彼女の顔を上げさせ、唇を重ねた。

 

セレスティアの目が見開かれた。

 

初めてのキスだった。

 

唇に触れる温かさ。彼の手が腰に回る感触。彼の匂い。汗と鉄と革の匂い。男の匂い。

 

彼女の体が強張った後、ゆっくりと力が抜けた。

 

腕が彼の背中に回る。

 

指が服を掴む。

 

キスが深くなる。

 

舌が彼女の唇を割り開き中へ侵入する。

 

「ん…」

 

セレスティアから小さな声が漏れた。

 

舌と舌が絡み合い、唾液が混ざる。

 

長いキスが終わったとき、セレスティアは息が上がっていた。

 

「エステ…バン…」

 

「部屋に行こう」

 

その言葉の意味が分かるまで数秒かかった。

 

セレスティアの顔がさらに赤くなった。

 

「あ…あの…」

 

「嫌ならいい」

 

「嫌じゃないです!」

 

彼女は慌てて叫んだ。

 

「嫌じゃ…ないです。ただ…その…初めてで…」

 

「俺が導いてやる」

 

エステバンは彼女の手を取って立ち上がらせた。

 

「怖いか?」

 

「…怖いです。でも」

 

セレスティアは彼の手を握り返した。

 

「あなたとなら…怖くない」

 

城壁の上から階段を降り、復興作業に使われていた小屋へ向かった。人影はなかった。夜になり作業員は皆帰っていた。

 

小屋の中は粗末だったが、清潔だった。新しい木材の香りがした。

 

エステバンは扉を閉め、ランプに火を灯した。

 

 

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薄暗い光の中で二人が向かい合った。

 

「来い」

 

彼が手を開いた。

 

セレスティアは一瞬ためらった。

 

だが、その手を取った。

 

エステバンは彼女を抱き寄せ、再びキスをした。

 

今度はもっと深く、もっと丁寧に。

 

唇から頬へ。頬から耳へ。耳から首筋へ。

 

「あ…」

 

首筋に唇が触れた瞬間、セレスティアの体が跳ねた。

 

「敏感だな」

 

「だって…そこ…初めて…」

 

エステバンは彼女の革鎧の留め具を外した。

 

一つずつ、丁寧に。

 

革鎧が床に落ちた。

 

下には白い麻のシャツがあった。

 

「脱がせていいか?」

 

「…はい」

 

シャツが引き上げられ、白い肌が露わになった。

 

エルフ特有の白い肌。滑らかで、ほっそりとした身体。胸は小さかったが形が美しかった。淡いピンク色の乳首が夜の空気に触れて硬くなった。

 

「きれいだ」

 

エステバンの正直な感想だった。

 

「そ、そんな…」

 

セレスティアは腕で胸を隠そうとした。

 

エステバンはその腕をそっとどけた。

 

「隠すな。見せろ」

 

「でも…恥ずかしい…」

 

「恥ずかしがる必要はない」

 

彼は彼女の胸に手を当てた。

 

「あ…」

 

心臓の鼓動が早いのが分かった。

 

「すごい音だ」

 

「だって…あなたに触られて…」

 

エステバンは乳首を指でつまんだ。

 

「んっ!」

 

セレスティアの腰が揺れた。

 

初めての感覚だった。自分の手で触れたことはあったが、他人の手で触れられるのは全く違った。電気が走るような刺激が胸から全身へ広がる。

 

「気持ちいいか?」

 

「わ…分からない…」

 

「嘘をつくな」

 

エステバンは乳首に舌を這わせた。

 

「ああっ!」

 

セレスティアの背中が反った。

 

舌が乳首を円を描くように舐め、時々軽く吸った。もう片方の手でもう一方の胸を揉んだ。

 

「あ…あ…エステバン…そこ…」

 

彼女の指が彼の髪に食い込んだ。

 

「ん…何これ…変な感じ…」

 

「変じゃない。気持ちいいんだろ」

 

「気持ち…いい…かも…」

 

「素直だな」

 

エステバンは唇を下へ移動した。

 

胸から肋骨へ。肋骨から腹部へ。腹部からへそへ。

 

へそに舌を差し込んだとき、セレスティアがくすぐったそうに身をよじった。

 

「あはっ…くすぐったい…」

 

「ここもか」

 

彼は彼女の腰に手をかけ、ズボンを下ろした。

 

長い脚が露わになった。

 

エルフの脚は細く、しかし引き締まっていた。弓を引き、森を走り抜けて鍛えられた脚だ。

 

白い下着が最後の一枚。

 

「脱がせていいか?」

 

セレスティアは目を閉じた。

 

「…お願いします」

 

下着が下ろされた。

 

薄い銀色の陰毛がランプの光に照らされた。秘所は閉じた花びらのように閉じていたが、すでに少量の愛液が滲んでいるのが分かった。

 

「濡れてるな」

 

「あ…言わないで…」

 

「恥ずかしがるな。これは俺が好きだからだ」

 

エステバンは彼女の脚を開かせた。

 

「や…開かないで…」

 

「見せろ。全部」

 

セレスティアは両手で顔を覆った。

 

脚は震えていたが抵抗しなかった。

 

エステバンは彼女の秘所に顔を寄せた。

 

「いい匂いだ」

 

「…嘘」

 

「嘘じゃない」

 

彼は割れ目に舌を当てた。

 

「ひっ!」

 

セレスティアの腰が跳ねた。

 

舌が割れ目を上下になぞり、小さな芽を見つけ出した。

 

「あっ!あっ!何…何これ…!」

 

初めての感覚だった。

 

自分でも触れたことのない場所を他人の舌が舐める。温かく濡れた舌が敏感な芽を刺激するたび、頭の中が白く弾けた。

 

「いやっ…変な…変になる…!」

 

「変になれ」

 

エステバンは舌の動きを速くした。

 

芽を吸い立てながら指を一本膣口に挿入した。

 

「あうっ!」

 

指が処女の入口をこじ開ける。狭い。熱い。濡れている。

 

「痛いか?」

 

「少し…でも…痛くない部分もある…」

 

「慣れてくれば痛くなくなる」

 

指をゆっくり動かしながら舌で芽を刺激し続けた。

 

「あ…あ…あ…何か…何か来る…!」

 

セレスティアの体が反った。

 

脚が閉じようとするのをエステバンが押さえた。

 

「力を抜け。そのまま行け」

 

「ああっ!ああっ!ああぁぁっ!」

 

セレスティアの体が激しく震えた。

 

膣壁が指を締め付け、愛液が溢れ出した。

 

彼女の初めての絶頂だった。

 

「はあ…はあ…はあ…」

 

息が上がっている。

 

目は潤み、頬は赤い。

 

「大丈夫か?」

 

「…何…あれ…」

 

「気持ちよかっただろ」

 

「…はい」

 

彼女は袖で顔を覆った。

 

「でも…まだ…」

 

「まだ何だ?」

 

「まだ…あなたは…」

 

彼女はエステバンの服を見た。

 

「私だけ…脱いでいる」

 

「じゃあ俺も脱ぐか」

 

エステバンはシャツを脱ぎ捨てた。

 

鍛え抜かれた身体が露わになった。傷跡がいくつも走っている。戦士の身体だ。

 

セレスティアは息を呑んだ。

 

「すごい…」

 

「何が?」

 

「身体。傷がいっぱい…でも…強い」

 

彼女は震える手で彼の胸に触れた。

 

「温かい…」

 

エステバンはズボンも脱いだ。

 

下着だけになった彼の身体を見て、セレスティアは目を逸らした。

 

「見ろ」

 

「…見てます」

 

「嘘だな。顔が赤いぞ」

 

「だって…」

 

エステバンは下着を脱いだ。

 

硬くなった男根が露わになった。

 

セレスティアは一瞬それを見て、すぐに目を逸らした。

 

「…大きい…」

 

「お前が濡らしてくれたからだ」

 

「そんな…」

 

「触ってみろ」

 

「え…?」

 

「手でいい。触ってみろ」

 

セレスティアはおずおずと手を伸ばした。

 

指先が男根に触れた。

 

「あ…熱かった…」

 

彼女は驚いたように手を引っ込めた。

 

「大丈夫だ。噛まないぞ」

 

「…噛むって…噛むんですか?」

 

「冗談だ」

 

セレスティアは再び手を伸ばした。

 

今度は握った。

 

「硬い…でも…肌は柔らかい…」

 

「お前の手も柔らかい」

 

「弓を握る手ですよ」

 

「弓より気持ちいい」

 

「…比べないでください」

 

彼女は少し笑った。

 

その笑みは初めて見るものだった。緊張の中にも楽しさが混じっている。

 

「セレスティア」

 

「はい」

 

「寝ろ」

 

ベッドに横たえた。

 

銀色の髪が枕に広がる。白い肌がランプの光で金色に染まる。

 

エステバンは彼女の上に覆いかぶさった。

 

「痛いかもしれない。でも我慢しろ」

 

「はい」

 

「最初は動かない。慣れるまで待つ」

 

「…優しいのですね」

 

「俺は優しくない」

 

「嘘。優しいです」

 

エステバンは男根を彼女の秘所にあてがった。

 

入口が熱い。

 

「入れるぞ」

 

「はい」

 

ゆっくりと腰を進めた。

 

入口が抵抗した。

 

「あ…あ…」

 

「力を抜け」

 

「抜いてる…でも…」

 

「息を吐け」

 

セレスティアは長く息を吐いた。

 

その隙にエステバンが一気に進んだ。

 

「ああっ!」

 

痛みが走った。

 

処女の証が破れる感覚。熱いものが中を満たす感覚。

 

「痛いか?」

 

「痛い…です…でも…」

 

「でも?」

 

「温かい…」

 

エステバンは動かなかった。

 

彼女の体が慣れるのを待った。

 

「動いてもいい?」

 

「…はい」

 

ゆっくりと腰を動かし始めた。

 

最初は小さく浅く。

 

「あ…あ…」

 

「まだ痛いか?」

 

「少し…でも痛くない部分も…増えてきた」

 

「なら少しずつ速くする」

 

ピストンの速度が上がる。

 

「あっ…あっ…あっ…」

 

セレスティアの声が変わった。

 

痛みの中に別の波が混じり始めた。

 

「何か…また…来る…」

 

「来い」

 

「でも…今度は…もっと…」

 

「もっと何だ」

 

「もっと…奥…」

 

エステバンは腰を深く沈めた。

 

「ああっ!」

 

子宮口に先端が当たった。

 

「そこ…そこ…変な感じ…」

 

「気持ちいいか?」

 

「…はい…」

 

エステバンは彼女の脚を持ち上げ、より深く侵入した。

 

「ああっ!あっ!あっ!」

 

声が大きくなる。

 

「エステバン…エステバン…」

 

彼女は彼の名を繰り返した。

 

「好き…好きです…あなたが好き…」

 

「俺も」

 

嘘ではない。完全な真実でもない。だが完全に嘘でもなかった。

 

この瞬間、この場所、この少女の温かさは確かに彼に何かを与えていた。

 

「ああっ!来る…また来る…!」

 

「一緒に行こう」

 

「はい…一緒に…!」

 

二人の体が同時に弾けた。

 

セレスティアの膣内が男根を激しく締め付けた。

 

エステバンは最奥で精を放った。

 

熱い液体が子宮に注がれる。

 

「あ…あ…温かい…」

 

セレスティアは目を閉じた。

 

体の中が満たされる感覚。

 

夢を見ているような、現実ではないような。

 

「エステバン…」

 

「何だ」

 

「ずっと…こうしていたい…」

 

「無理だ。俺たちは旅に出なきゃならない」

 

「知ってます。でも…今だけは」

 

「ああ。今だけは」

 

エステバンは彼女を抱き寄せた。

 

セレスティアは彼の胸に顔を埋めた。

 

心臓の音が聞こえる。

 

速く、力強い音。

 

「あなたの心臓…早いですね」

 

「走ったからな」

 

「嘘つき。走ってないくせに」

 

「分かるのか」

 

「あなたと一緒にいると…分かるんです」

 

エステバンは小さく笑った。

 

「寝ろ。明日も早い」

 

「はい…」

 

セレスティアは目を閉じた。

 

温かい腕の中で、彼女はまもなく眠りに落ちた。

 

夢を見た。

 

金色の光の中で誰かが手を差し伸べている夢。

 

その手を握った。

 

温かかった。

 

翌朝。

 

アンリエッタは小屋の前で待っていた。

 

セレスティアが出てきた。

 

髪は少し乱れ、首筋に赤い跡が残っていた。

 

アンリエッタは一瞬で理解した。

 

「おはよう」

 

「お…おはようございます」

 

セレスティアは真っ赤になった。

 

「いい天気ね」

 

「はい…」

 

アンリエッタは微笑んだ。

 

「昨夜は楽しかった?」

 

セレスティアは黙った。

 

「…はい」

 

「ならいいわ」

 

アンリエッタは何も言わなかった。

 

責めもしない。からかいもしない。

 

ただ「いいわ」と言っただけ。

 

セレスティアは不思議に思った。

 

「…怒らないのですか?」

 

「何に怒るの?」

 

「私…あなたの仲間と…」

 

「エステバンは私のものじゃないわ。彼が誰と寝ようと彼の勝手よ」

 

「でも…」

 

「ただし」

 

アンリエッタは目を細めた。

 

「彼に捨てられたら泣きに来ないことね。あいつはそういう男よ」

 

「…知っています」

 

「知ってていいの?」

 

「はい。知ってても…好きなのです」

 

アンリエッタは少し驚いた。

 

そして笑った。

 

「強い子ね。好きにしなさい」

 

「ありがとうございます」

 

セレスティアは深く頭を下げた。

 

そのとき小屋からエステバンが出てきた。

 

「何の話だ?」

 

「女同士の話よ」

 

「…分かったふりをするよ」

 

アンリエッタは笑った。

 

セレスティアも笑った。

 

朝日が森を照らしていた。

 

三人の影が並んで城壁へ向かって歩いていく。

 

その光景はどこから見ても奇妙な一行だった。

 

腹黒聖女と金食い勇者と純粋なエルフの娘。

 

だが不思議と嫌な感じはしなかった。

 

森の国エルディアは新たな朝を迎えた。

 

人々は前を向いて歩いていた。

 

その先頭には聖女がいた。

 

微笑みながら、計算しながら、前を向いて。

 

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