聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「イズヴァルト=シギサンシュタウフェンとモナファン海賊団の本拠地で私闘。噂通りの強さ。エイオンが苦戦しただけある。特筆すべきはガモーコヴィッツ家の庶流・グリーヴァス家のカイルがイズヴァルト側についたこと」
(ほう。あいつがか。)
アドルフは呟いた。カイルは彼が目にかけ、カントニアに留学させたのだ。エレクトラの手紙では、背後からの炎魔法をしかけたりとだいぶ成長していると記してあった。
それと、モナファン海賊団は彼が入り婿として、引き継ぐ事となったそうだ、とも。そこの『お姫様』であるクリスティーナという娘に惚れられたからだ。カイルもまんざらではない様子だ。
「将来有望な魔道士を1人、イーガは失ったか。仕方あるまい」
カイル=グリーヴァスは、アドルフも婿候補にと考えていた。いずれ自分の娘のうち1人を嫁がせ、親族に迎え入れるつもりであったが。
「イズヴァルトはまさに奇貨。策謀をかけ、イーガに帰属せしめる事を一考願いたい。あれをホーデンエーネンに置いたままではいずれ、イーガと戦端が開かれた時に難敵となる。王家の美しい姫を5~6人つけてでも懐柔はできないか?」
腕も立つなら魔法も扱える。しかも魔剣を使いこなす選ばれた存在だ。そんな人物を放っておくなんてもったいない。是が非でも血を絡ませろ。殿下の姫君全員、かの騎士の胤でボテ腹にしても良いくらいだ。
(期待しているのはわからないでもない。が……)
目をかけ過ぎである。手っ取り早く毒殺してしまえばいいとアドルフは思った。確かに、常々聞いているイズヴァルトの武名は凄まじい。世界の至宝になりうる男だろう。かもしれないが、イーガという国から見れば面倒な邪魔者だ。
マイヤについてはこう書かれていた。可もなく不可もなく。但しイズヴァルトと一緒について回るから、聖騎士を引き抜く時には注意せよ。
(……ふん。ごまかしに来たか。)
手紙の送り主の性格上、こう書く時は大抵は期待を寄せているという意味がある。あからさまに薦める気は無い。言いたいことはわかっているだろう、己の目で見よ、だ。
(『おしゃぶり姫』も興味がわいてきたな。ただの下品な娘だと思っていたが、この書き方を見れば想像がつく……確かめてみろ、という訳か。)
それから、ホーデンエーネンの親パラッツォ派である、カルカド将軍と海洋公の抹殺には成功したと記している文を読む。その命令を下したのは彼だ。
映像水晶にはこの2人が殺された時の姿を記録していた。カルカドはエレクトラの氷の魔法で。海洋公はそそのかしたモナファン海賊団の矢による襲撃だ。
彼はエレクトラにそれを命じたのは、ある目論見があった。親パラッツォ派を排除することでホーデンエーネンとパラッツォ教団の対決を確実にさせ、共倒れを狙っていたのだ。
(我が国はパラッツォに対しては中立……布教と信徒の保護、対教団同盟への不参加を申し出ている。日和見はイーガのお得意芸だからな。)
教主コーザにはひそかに、王家の娘を人質として送っていた。まだ幼い娘が選ばれた。アドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーという人物の娘のうち1人だ。
そしてこのアドルフこそがその本人。イーガ王国の第一位王位継承権所有者であり王太子でもある。祖父ぐらいに歳が離れた父のたった1人の男児であった。
政治や外交には介入せぬ。そう公言する彼こそがパラッツォ教団との折衝を買って出ていた。但し下っ端の外交伯を通しての交渉を守っておる。彼は表だって政治に参加することを好まなかった。
理由は、彼が持ち芸としている謀略をやりやすくさせる為にである。スパイや外交官がもたらしてくれた情報をもとに、分析してどの様な策を張り巡らせるのかは得意だった。
このイーガの王子は多くの妾と娘を得ていたが、元来虚弱で政治の激務に耐えられない身体であった。ゆえにこうした奥に引っ込んでの仕事をしている。自分から進んでそれをやっているのだ。
(エレクトラには引き続き、カントニアの情勢について探らせよう。俺はイズヴァルトとマイヤに取り組むが……父上に気づかれない様にはどうしたらいいか。)
父王はホーデンエーネンに友好的だ。イズヴァルトを闇討ちはおろか、ヘッドハンティングなどもっての他だと思うだろう。
(ならば、イズヴァルトを『病死』させてしまえばいい。マイヤという娘は適当に処置すれば良いだけだ。)
病気と見せかける毒の手配。シマナミスタンかチンゼーあたりが良いだろう。あの辺りには未知の病原菌や生物毒がある。ホーデンエーネンの医療技術や魔道では、なかなかに真実に至れないはずだ。
ではどこで手配をすればよいか、と考えていたところで、扉をノックする音が。入れ、と命じた。入ってきたのは背が高くほっそりとた、巻き毛がちな肩までの髪を生やした金髪の美少年だった。
「オットーか。なんだ?」
「殿下。急ぎの手紙でございます」
「その手紙だな。どこからだ?」
「ホーデンエーネンから。多分ですが、密偵のマリオのものからでしょう」
アドルフは手紙を受け取った。オットーに下がれ、と告げて扉を締める音を聞いた後に手紙を開く。差出人は書いていない。しかし魔法による仕掛けがあることは嗅ぎ取れた。
手紙の中身は、ホーデンエーネンで今話題の精力剤や惚れ薬についての広告が何枚か。こんなふざけたものを寄越すのはマリオではなく、ある一族と連絡をつけさせている女スパイのレスティナだ。そこの新当主の浮気相手も務めている。
(ソーロー家のケノービからだろうな。)
アドルフは印を切る。広告紙の裏側に楔文字がずらりと並んだ。古代カントニアのエルフ文字で書かれていたそれは、レスティナが得意とする隠し文書だった。
「マイヤ=カモセンブルグに関する報告書、か……」
読み始める。それからわなわなと震えだした。
(古代に滅んだナントブルグの女王の直系だと! なんてことだ!)
カツランダルク家からの重要な知らせ、と冒頭にしたためられていたのでうすうすは気づいていた。しかしである。よりにもよって、あの者達とゆかりのある人物だったとは。
イーガ王国はナントブルグにあった、滅びた王国の家臣が建てた国であった。いつの日か女王の王国を卑劣な謀略で滅亡させたかの一族を倒し、主君の仇を晴らさんが為に築き上げたものだ。
しかしそれが呪いとなって子孫たち、つまりは歴代の王を苦しめた。それに打ち勝ったのは150年前になった第二王朝。7代前の国王の時からである。
(マイヤ=カツランダルク! ナントブルグの女王の亡霊め!)
彼は決意した。マイヤが覚醒を遂げる前に亡き者にしてやる。しかしどうにも気にかかる事があった。
(……成長した『おしゃぶり姫』とやらは、いかようなものだろう?)
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アドルフはマイヤをこの目で確かめてみたいと考えた。彼等がイーガに来てから5日目の昼。その機会が訪れた。
街中に放ったスパイから、イズヴァルトとマイヤが街の散策に繰り出していると聞いたからだ。ホーデンエーネンの大使館に近いホテルに居を構えていると聞き、急ぎ馬車に乗り待ち伏せた。
しばらく待っていると、ホテルから2人の少年少女が入口から出て来たのが見えた。蒼にも見える黒髪を揺らし、のびやかな手脚と大きく揺れる乳房を備える快活そうな美少女。
(あれが、マイヤ=カツランダルクか。)
彼女はイズヴァルトとこれから向かうところについて語り合っていた。今日は遠出してトーバコフへ向かいましょうよ。海の見える宿屋がある。そこで海鮮料理をいただいた後に夜中までセックスだ。
「はは。そう致すでござるよ。この街にいると段々と目が疲れてしまうでござる」
「だよね! たまには目に優しいものを見てのんびりしよう!」
「で、ござるな!」
マイヤとイズヴァルトは『えくすぷれす』の駅へと向かう。彼女はこの日、胸元を大きく開けた上着を着ていたから、嫌でも胸の谷間と盛り上がりが目立って仕方が無かった。
遠目で見ただけで、アドルフは胸が高鳴って仕方が無かった。恋心を覚えたのは久しぶりだ。遠目でも一目惚れをさせるような力を備えているとは。
(……私の祖先の血がそうさせるのか。いいや、これはエレクトラと初めて会った時とよく似ている感情だ……恋か。)
徹底的に探らせよう。彼はスパイ達に仕掛けを施すよう即座に命令をかけた。準備が終わりつつあるイズヴァルトとマイヤの下宿にも、盗聴や盗撮の仕掛けを施せと。
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軍港はあるが温暖で風光明媚なトーバコフでの一泊二日を楽しんだイズヴァルトとマイヤは、その翌日に魔道学問所の門をくぐった。
入学式などという大仰なものは無い。ただ、一般の生徒とは違い特別待遇の2人は、その日から特別講師による彼等だけの授業を受けるのだ。
「そういえば、予習はしておりましたか、イズヴァルトさん?」
「ややっ! しまったでござる!」
講師に言われてあわてるイズヴァルトだったが、最初に受けるのは魔法適性の検査であった。講師は水をいっぱいにまで注いだガラスのコップと、そのうえに浮く葉っぱを机の前に出した。
「なんでござろう?」
「魔法の適性をはかる検査のうち1つですよ。葉っぱゆらゆら式です。とある魔道士が考案しました」
その他に指を切って血を垂らし、その血がどの様に凝固するかでわかる方法や、尻を丸出しにしておならを魔道具に吹きかけて色がどう変化するのかでも確認できるという。
「なんだか嘘の様な話ですね?」
「つまりるところすぐに適性は見当つかないんだよ。でもこの葉っぱゆらゆら式判別法は割りとあたっている、とみんなから評判です」
判別の仕方として。両手をかざして何かを念じる。葉っぱが揺れたり浮いたら操作魔法が。水の色が変わったりすると水魔法。水が凍れば氷魔法だし、葉っぱが燃えると炎魔法という具合に。
「なるほど。では拙者が試してみるでござる」
イズヴァルトは言われた通りに手をかざした。コップの中の水が浮き上がり、たぬきみたいな姿になって凍った。
「……これは、氷魔法でござろうか?」
「操作魔法も含まれているようだね。大体はいろんな系統の魔法が混ざるものなんだ。しかし君は、なかなかに良い才能があるみたいだね?」
「は、はあ……」
「ではマイヤさんにも試して頂こう」
マイヤはうなずいた。手をかざして念じる。ぷすう。彼女の尻からおならが出てしまった。かなりにおう強烈なものだが、甘ったるいそれについついイズヴァルトは勃起してしまう。
コップの上に浮かぶ葉っぱに変化は無かった。ただ、なみなみと注いでいた水がほんの5ミリほど減っていた。
「なんでござろう?」
「な、なんだろうね……ううむ」
講師はコップに顔を近づけてみた。すると、かすかにマイヤが先ほど放ったおならのにおいと似たものが漂い出していた。
「ふううむ。これは……」
きんたまに来るにおいだろう。男の勃起と欲情を増大させる類の。しかしそれ以外にも、女を『きゅん♡』とさせる何かがあった。
「特質系かな?」
「なんですかそれ? つまり私はすごいことが出来るってこと?」
「あ、いいや……サキュバスの魔法に近いんじゃないかなあ。例えば誘惑魔法とか」
「……サキュバスさんたちって、おならで男の子を誘うのかしら?」
わからん。講師は腕組みして考え込んだ。とりあえず適性試験は終わった。随分といい加減な気もするけど。マイヤはぼそっとつぶやいた。
「それでは魔法の基礎からいくね。君達は魔法が使えるしある程度の知識を備えているらしいから復習みたいになるだろうけど、一応は聞いてほしい」
魔法の使い方。パターンは3通り。
「念じてぽん」
「印を切ってふぁさっ」
「まじないの言葉を唱えて、どーん」
念じたり唱えたり印を切って体内の魔法回路を活性化させ、為したいことをやる。
「……それだけでござるか?」
「だいたいは呪文を唱えるか印を切るかだよ。印を切って使える人は優秀な人と見ていいよ。大抵の魔道士は長ったらしい呪文を唱えるからね」
それから、魔法は使うと疲れる。精神力を消耗するのだ。眠くなったり何もかもが嫌になると要注意だ。それ以上使うと気を失うか、最悪心臓発作を起こして死んでしまう。
「体内の魔力を消費するからだよ。精霊に呼びかけるのに魔力は必要なんだ!」
「は、はあ……」
「なんとなくだけどわかるでござる」
「とはいえ、適性が高い魔法では消耗が鈍かったり、あるいは、ほぼほぼ無尽蔵に使えたりする。とはいえあまり酷使はいけないよ。精霊が嫌気を起こして協力しなくなるから、要注意だね」
精霊はその術者が蓄えている魔力を引き換えに、いろいろと力を貸してくれる。それがこの世界の魔法というやつだ。ちなみに魔力には貯蔵量というものがある。
「亜人だと使い切っても1日か2日で万全に戻るけど、ニンゲンという種族だと1週間はかかるんだ」
「先生。その間にセックスとかしちゃだめですか?」
「そういうのはいいよ。むしろ回復力を促進させるから。リラックスして身体が喜んじゃう時間を過ごすほうが回復力も早まるんだ」
それを聞いてマイヤは「にひ♥」と笑ってイズヴァルトを見る。つまりはザーメンミルク飲み放題でも問題ないというお墨付きだ。
ただ、その分生命力が削られるのは確実だ。よしていただきたい情報でござったな、とイズヴァルトは内心嘆いていた。
「ちなみにその人が持つ魔力の貯蔵量というのは、数値化できるんだよ」
「なんですって!」
「それを今から器具室から取って来る。ちょっと待ってて」
器具室はこの教室から5メートル離れたところにあった。休憩所の真向いだ。講師は出ていくとイズヴァルトとマイヤは待つことにした。
しかし10分待っても帰ってこなかった。気長に待とうとするイズヴァルトを後目に、いらいらしていたマイヤは教室から出て廊下を出た。
(あの先生、なんで帰りが遅いのかしら!)
器具室はすぐそこ。しかし彼女は休憩所で、その講師がのんきにすぱーっとたばこを吸っているのを見て驚いた。
「ふいーっ……仕事中のいっぷくは、やっぱりたまらないべえなあ……」
(ちゃんと仕事をしてよ、先生!)