※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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ギルバート=カツランダルクのエピソードです。


27 女子学生 (インターミッション)

 一冊の本がある。

 

 イズヴァルトが老境にあり、復讐とわずかな望みを叶える為の戦いに出ていた頃に、イーガの女宰相が記したとある人物の伝記である。

 

 『脚斬られ姫の物語』。その女宰相の若くして死んだ親友の、少女時代について書かれている。内容は今ここで語るべきものではない。

 

 後の世の歴史家であるギルバート=カツランダルクはこれを参考にとある研究を学会に発表した。学者達からは猛反発を喰らった。なにゆえこの様なえげつない研究をしたのか。

 

 しかしギルバートの研究により、とあるもう1人の人物の存在が浮き彫りになった。その者は死後、国王自らが国の恥と斬り捨てて遺体をトーバコフの沖合に投げ捨てる様に命じた。

 

 その時の国王の発言がイーガの公式文書に記されていた。国王は激しく怒り狂い、こう嘆いたという。

 

「朕の子、しかもたった1人の男児であったがゆえに甘やかしすぎた。姑息な悪さをするのは目をつぶってやっていたが、これはどうにも許せぬ。悔やんでも悔やみきれない……」

 

 この時国王は65。10の頃から妾や子を産むための女をあてがわれた彼は、生涯に50人の子を得た。しかしたった1人を除いて子供の誰もが姫だった。

 

 息子は30過ぎに産まれた。しかもたった1人。かわいいにも程があった。だからあらゆる事を許してしまった。しかしその王子は物事を隠すのが得意だった。明るみになった悪事はほんの一部でしか無かった。

 

 ただ、女宰相の親友の件については明るみに出た悪事のうちの1つだ。隣国との外交問題にまで発展した。

 

 一時はホーデンエーネンに会戦の機運が高まっていたらしい。しかし当時はパラッツォ教軍の本格的な侵攻が開始した時期でもある。イーガへの出兵は見送られた。

 

 同時にホーデンエーネンの国王の代替わりがあったのも、イーガとの戦争が起きなかった要因でもある。ホーデンエーネン王国暦346年6月、ジュンケイン王が急死する。

 

 息子のセインが王位を引き継いだ。同じ頃、『脚斬られ姫の物語』で記されるその娘が、赤ん坊を産んだ。誰の子かもその手記には書かれていた。

 

 『脚斬られ姫の物語』はいわば王族のスキャンダル告発本でもある。しかしイーガの王家は否定しなかった。この書は同時に、イーガとホーデンエーネンが強く結びつくきっかけにもなったからである。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「この著を我が友、ホーデンエーネンの美しく清らかな、かの賢女にささぐ」

 

 『脚斬られ姫の物語』の、その最初の書き出しをオリビエ=パーヴェルは目にすると、おおよそ300ページにも及ぶその本を一気に読んだ。いくらか飛ばし読みもしていただろうが、一晩でだ。

 

「どうかね?」

 

 戻ってきた初老の男がオリビエに問いかける。トリシア大学の歴史学の教授、ギルバート=カツランダルクだ。

 

「……どうって?」

「君のお母さん、カチュアさんは読んでて何度も泣いてしまったと手紙に書いてくれたよ。では娘さんである君はどうかなと思ってね」

 

 オリビエはところどころがはげた革表紙のそれをろくに読まずに机の上に投げ出すと、鼻で笑った。

 

「趣味の悪い悲劇そのものね。私には興味が持てないわ。それとこの女。よくもまあ節操が無いっていうか。ただの色情狂よ。アタマ狂ってるわ」

 

 糞アマオブ糞アマ。実際相当に感じやすい内臓をしていたらしいが、このビッチ。

 

 とはいえオリビエとて、色街の事情は知っている。そこで立ちんぼの商売をするサキュバスについても。

 

 あの種族はアホみたいに感じやすい。ヤリマンを毛嫌いしていたオリビエだが、サキュバスたちは別だった。朝っぱらから商売する頑張り屋だったからだ。友達にもなった。

 

 一度彼女達の魔法でどのくらいの感度か。魔法で快感中枢を鋭くさせてもらった。安物のハリガタと相手のクンニリングスで身をもって知った。16の時に。

 

 エルフとドワーフの性感は、ニンゲンが覚醒剤をキメてのレベルだと聞いた事はあるが、淫魔族のはそれよりも強烈だった。あれはやばい。本当にイキ死ぬ。

 

 だいいち魔族がそのぐらいすごいらしい。とりわけサキュバスは感じやすい。聞けば魔界で愛と生殖の女神的存在に仕える魔族の巫女が起源だったらしい。一応は理解できた。

 

「……サキュバスの子孫だったからそうかもしれないけれど」

 

 とはいえ、である。彼女がこの春から通い始めたトリシア大学の創立者こそが、そのヤリマンの色情狂であった。

 

 もちろん知性や学識はあっただろう。ただオリビエは断じきる。そりゃあの時代は日常的に本を読む奴がごく少数だから天下取れたんでしょ。

 

「今の時代に生まれてたら絶対留年生よ。大学の講義についていけなくて恋人とやりまくっているだけの馬鹿女学生だったはず」

 

 そんな事を吐く彼女にギルバートは苦笑いだった。古の時代の者達も読書をしている。娯楽にあふれた現代よりも多いだろう。読むものの質は別として。

 

「ははは。かもしれないな。けれども彼女とその曽孫がいなければ、ホーデンエーネンはいつまでも軍事馬鹿だった可能性があるのだよ」

「そうですか? 他の教授はこう言っていますよ。国を捨てた裏切者のあの女達がいなくても、ホーデンエーネンは今の様に発展できたはずだって」

 

 大体この本を経営学部の私に読ませようだなんてどういう理由ですか。そう愚痴りながらオリビエは服を脱ぐ。ここは図書館でも教室でもなく、ギルバートの家である。

 

 窓の外は街灯と星空だけが輝いていた。隣の若夫婦の喘ぎ声も聞こえる。もうそんな時間だ。オリビエは鶏がらみたいな裸体を顕わにすると、ギルバートにしなだれる。

 

「つまらない口説き文句や夢を語らうのが面倒くさくて、私を発情させる為に読ませたんでしょ?」

 

 オリビエは馴れた手つきでギルバートの股間を触る。生真面目だと周りから言われる彼女だが、この春から毎週、この教授との逢瀬に親しんでいた。

 

「そうじゃないさ。僕は歴史学者で伝記家だ。自分がやりたいことを君にしただけさ」

「ギルバートせんせ、ここ、硬くなってきたよ……」

 

 ベッドの上のオリビエは熱心だった。前戯でもかなり感じて乱れたが、挿入でも激しくよがった。男はギルバートが初めてであったが挿れ慣れた膣をしていた。模造品でだいぶ仕込んだのだろう。

 

 もっとちょうだい。せんせいのはとても強くて硬い。オリビエのねだりかたはしつこかった。19の少女だから無理もないと思わせる。若い彼女に合わせられるギルバートは相当の熟練者だ。

 

 口では色情狂を口汚く罵るが、彼女にはその適性があった。色街のサキュバスと仲がいいから先祖はもしかしたら彼女達かもしれない。多分、父親の方にその血が流れているのだろう。

 

「せ、せんせ!」

 

 挿入の最中、オリビエはアクメの叫び声を放って身をよじらせた。その仕草が何度も続いて彼女は眠りについた。

 

 若い娘との性交を終えたギルバートは細くて温かいオリビエの裸体から離れ、机に向かう。彼女が下品とさげすんだその書を手に取って読み始めた。

 

(この本も若干、脚色が加えられているとマルティン王の日記には書いてあったな……)

 

 『脚斬られ姫の物語』はこういう面もあると、イーガの歴史家から聞いたことがあった。書かれたその人物に対する世間からの同情を集める為にだ。いわば名誉回復の為の本。その人物の母国・ホーデンエーネンでは悪い評価だけが残った。彼女のせいで人々は税を搾り取られたからだ。

 

「騎士を捨てて権力と寝た女」

「下剋上の悪女」

「財布の中身までも吸い取る吸精の鬼」

 

 マイヤ=カツランダルク。

 

 幼い頃は『おしゃぶり姫』と呼ばれ、王国のアイドル的存在だった彼女は、残りの後半生ではこう呼ばれた。

 

「イーガの魔王の怨霊が乗り移った毒婦。『芋虫女』」

 

 あくまで、ホーデンエーネン南部地域でつけられたあだ名だ。彼女が為した偉業を理解しない、無知蒙昧な連中がつけたものだとギルバートは思っている。

 

 その証拠に北のオーミゲニアや東のイーガでは、後の世である今もこう讃えられている。

 

 ホーデンエーネンが産んだ至宝の賢才。『碩学姫』であると。

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