※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

145 / 767
51 イーガの魔王④

 モモチ高地を制圧したと思いきや、ヨーシハルトスが率いる直属隊は、高地の物陰に伏せていた伏兵部隊の奇襲を受けた。その数おおよそ50。

 

 魔法は使えぬが腕は確かだ。ヨーシハルトスの部下達は苦戦している。とはいえ多勢に無勢で徐々に押しつつあったが、相手方はそう簡単に降参してくれなかった。

 

 仲間達が討たれ、自身が深手を負っても尚も食い下がる。なかなかにしぶとい。ムカリ達は痛みが無くなり興奮する薬を飲まされているのだとヨーシハルトスに助言した。ムーツのニンゲンの兵士が戦うときに飲む薬に似ているそうだ。

 

「ふん。そうまで勝ちたいのか、惰弱な魔道の国の匹夫どもが!」

 

 気合を込めて目の前の兵士の頭蓋を割る。えい! 掛け声をあげると次の兵士に斬りかかった。個人の武勇でならヨーシハルトスはなかなかのものだ。

 

 殿に負けじと配下の護衛らも奮い立った。ゴブリン達は素早くかわして敵をいなした。それをヨーシハルトスの兵士達が止めを刺す。ムカリ達は出世に興味が無かった。

 

 異変に気付いた別部隊が駆けてつけてくれた。ヨーシハルトスの直属部隊は殲滅(せんめつ)せんと押し出した。

 

 イーガの部隊は一人残らず全滅した。返り血がついた鎧を小姓に拭わせながら、なかなかに手ごわかったとヨーシハルトスが笑う。

 

「とりあえずこれで片付いたな。高地奪取は完遂だ!」

 

 モモチ高地はホーデンエーネン軍が占拠した。見張りに東側の平野を確かめさせる。敵軍はどこにも展開されていなかった。

 

「鳥が一斉に空を舞ったりしていなかったか?」

「ございません! 実にありがたい事に、敵軍は二段構えの備えをしていなかった様子です!」

「うむ! よろしい! イーガ軍はやはり、長い平和のせいで惰弱になったと言えよう! 御し安すぎるぞ、ははははは!」 

 

 ヨーシハルトスは勝利を宣言した。通信魔道士を介し、本陣の武将らに「敵の罠は何もなかったぞ」などと伝えた。

 

「伏兵がいない? どういうことだ?」

 

 セイン王は聖騎士団を引き連れて高地へ向かった。ヨーシハルトスは国王を自慢気に国王を迎え入れた。若き王のそれは杞憂だと嗤う為にである。

 

「見たまえ、セイン王。イーガはすっかり惰弱になった。あからさまな罠を張り巡らせる為の策をも仕掛けてこれない怠け者となったのだ」

 

 見下ろす平地には敵軍の姿が見えない。セイン王はため息をついた。俺とライナーは考え過ぎていたのか。ヨーシハルトスは遠くにうっすらと見える摩天楼を指さした。

 

「あそこにイーガ王がいる。これまで和平を結び共に歩んできた友邦だったが、今ここではっきりした」

 

 魔道王国、もはや恐れるに足りず。ホーデンエーネン王国の繁栄の為、長い歴史の中で幾度も我が国を敗退せしめ、歴代の国王達のうち数名を敗死せしめた仇敵の首をあげることも夢では無いのだ。

 

「……んなこと聞いてられっかよ、調子にのっているんじゃねえのか、叔父貴?」

「セイン、お前は若いから怯えているのだ。あの都を落とし、国王の首をあげればお前は、ホーデンエーネン始まって以来の英雄となれる。ははは……」

 

 ヨーシハルトスは甥の肩を叩いた。その伝説をもうそろそろで作れるのだよ。セインは尋ねた。『えくすぷれす』のトンネルは調べたか?

 

「ああもちろんだ。俺は戦争に慣れているからな」

 

 トンネルは入ってから100メートル近くのところで、瓦礫が積まれて塞がれていた。隙間をのぞき込んだり物音を確かめたりしたが、潜んでいるという気配は無かった。

 

「つまりは為す術が無いっていうことだろうな」

「わかった。ライナーとエルヴィンに教えておく。しかし知らんぞ。俺はとんでもねえ伏兵をイーガは既に仕掛けていると見ているからな?」

「怯えすぎだ、セイン。しかし兄上ならここで陣頭に立ち、一気呵成に進撃するだろうな。思えば兄上も若い頃は勇猛果敢であった……」

 

 続けて何かを言おうとし時である。その何もないはずの平野から一斉に何かがこの高地に向けて飛び込んで来た。

 

 弩弓の矢。投石砲用の石の弾丸。魔法の炎の矢。あるいは火球が。事情を呑み込めず、笑うままのヨーシハルトスにセインは苛立ちを覚えた。

 

(何が戦争慣れしている、だ。親父は言っていたな。叔父貴はとんでもねえ馬鹿だって。)

 

 彼はゴブリンたちに目を向けた。この周囲で一番頼りになりだからだ。彼等は既に印を切り、自分達とセインの周囲に防護結界を張っていた。炎の矢や投石が黄色い光の壁で弾かれていた。

 

 しかし、防護魔法に守らていない高地にいる騎士や兵士達は、飛来して来た投射兵器や魔法によって次々となぎ倒される。何もない平野には、まだ着いていないとされていた魔道騎士団の軍勢が、備えを厚くして展開していたのだ。

 

 肉眼では自分達の姿が見えないようにする結界を張り、獣たちをだまくらかす魔法もかけてあった。それゆえにホーデンエーネン軍の、目利きの物見の目をごまかせたのだ。

 

 高地は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。血を噴き出す瀕死者と人型の炭と化す屍ばかりで覆いつくされていく。

 

 一矢報いんと東側の崖を降りようとする騎士や兵士らを見てセインは戸惑った。敵が伏せていたのがわかっているじゃないか。何故ここで死にに行くような真似をする?

 

「セイン王様。いますぐにでも逃げた方がよろしいでしょう」

 

 ムカリが言った。ジェベとチラウンらは長くは保てないと答える、彼等の即席の防護結界はもって3分というところだ。

 

 セインはおののく騎士や兵士達に向けて大声で叫んだ。 

 

「てめえら、ここから退け! イーガ軍の待ち伏せだ! やっぱり魔道の本場はやることが違う! 下手な勇気はさっさと捨てやがれ!」

 

 セインは乗っていた馬に鞭を打ち、後ろに退こうとした。しかし西側の下り坂は急だ。馬は怯んでなかなかに動かなかった。

 

 見かねたゴブリン達が、彼とヨーシハルトスを馬から降ろして背負い込んだ。ムカリがヨーシハルトスを。ジェベがセインを背中に乗せた。

 

 ゴブリン達は小さくとも強靭だった。自分の倍は重いと思われるニンゲンを背負いながら俊敏に坂をくだる。それをホーデンエーネンの騎士や兵士たちが追う。

 

 対してイーガ軍はしてやったり、と満面の笑顔だ。しかしここで止めるつもりはなかった。ここまで略奪を繰り返して侵入してきたツケはきっちり返す。いよいよ反攻作戦だ。

 

 この時こそ気を引き締めなければ。武将達は怒号を放って部下達に指図した。

 

「敵が退いたら前方に潜んでいる部隊に合図しろ!」

「イーガの伝統の戦法をきっちりと堪能させてやれ! ホーデンエーネンの薄ら馬鹿どもにな!」 

 

 高地を攻撃する部隊の隊長らが声をかける。高地にすっかりホーデンエーネン軍の旗が立たなくなったのを見計らうと、前方に展開していた軍勢が炎の矢を放った。

 

 『火竜の遠吠え息』という名前の魔法である。通常の炎矢の魔法よりも飛距離が長い。空高々と放出された魔法矢は坂を下ろうとするホーデンエーネンの兵士らの背後を襲った。

 

 炎に巻かれて悲鳴をあげる者が続出。ムカリとジェベは「なかなかやる」とうめいた。

 

「これがイーガ魔法王国の底力ってやつか!」

「カントニアのエルフほどではないがよくやる! ここまでとはな!」

 

 チラウンは初めての逃げいくさを経験して声を出せなかった。戦いにはこんな局面があったとは。彼の故郷ではたびたび小競り合いが起こっていたが、彼は一度たりとも参加したことが無かった。

 

 死にはしないがびくびくと震えている。早く帰って親しくなった女の子のおまんこを舐めたい。そうすれば心が落ち着くだろうから。

 

「チラウン!」

 

 ヨーシハルトスを背負っていたムカリが彼を呼んだ。

 

「できるところまででいい。常に結界魔法をかけて背中を守ってくれ!」

「あ、ああ!」

 

 チラウンは仲間達とともに印を切った。ジェベの背中のセイン王を穿たんとしていた矢が、ほんの1センチのあたりで弾んで地面に落ちた。

 

 多数の騎士や兵士の断末魔を聞きながら、ゴブリンたちはようやく先手組の本陣に戻った。ヨーシハルトスは口をあんぐりと開けたまま。セイン王は悔し涙をこぼしていた。

 

「く、くそッ……」

 

 言う事を聞いてくれなかったとはいえ、多数の騎士達を失ってしまった。あの高地に昇ったのは5000名ほど。そのうち1000も生きて戻れなかった。

 

 セインに追い打ちをかけるかのように急報が飛び込んできた。『えくすぷれす』のトンネルを塞いでいた瓦礫が突如として崩れ、1000名程の魔法騎士達が先手組の陣に向け駆けているというのだ。

 

 その1000名こそがアドルフが頼みとする魔道騎士団の精鋭・第三軍の選抜部隊だ。エルフやゴブリンのクォーターも多くいるその部隊こそ、イーガ最強の魔法戦士団だった。

 

 炎や氷の魔法でホーデンエーネンの武者達を蹴散らし、手に持った剣で鎧や鎖帷子ごと一刀両断する。立ちふさがる者に生きて戻る者がいるためしは無い。無慈悲な突進は数多くのホーデンエーネン武者を葬った。

 

「守備隊の備えの第一段と第二段、既に突破されました!」

「エルヴィン様とライナー様が全軍を率いて駆けつけておるそうですが、もうこの陣に敵が!」

 

 陣の柵や天幕がいくつも燃え始めた。セイン王とヨーシハルトスを守る為に、いち早く救援に駆けつけた聖騎士団の早馬組が迎撃に出た。

 

 勢いをつけ突貫をかけるイーガの精鋭部隊とホーデンエーネン最強の騎士団が激しくぶつかった。武勇では聖騎士団が上だが、流れは向こうにあった。

 

 エルヴィン団長が手塩にかけて育てた猛者たちが次々と討たれた。中にはイズヴァルトと同年代の若き騎士達も。ナガオカッツェの乱で見習い騎士として参加した少年達の何名かが、イーガの猛者の手にかかって死んだ。

 

 イーガの選抜部隊は続々とやって来る魔道騎士団の武者達を加え、救援の為の迎撃したホーデンエーネン軍に向かう。エルヴィンは相手の勢いが尋常ではない事に息をのんだ。このままぶつかったら負けるのは必至だろう。

 

「陛下をお守りしろ! ホーデンエーネンの武者達よ!」

 

 血で血を洗う激戦が始まる。誰もがそう思っていた。両軍が本格的にぶつかり合おうとした矢先であった。

 

 南側から突如として飛来してくるものが地面に飛び込み、巨大な爆発と轟炎をもたらしたのだ。

 

「な、なんだ!」

「イーガの新手か!」

 

 そのどよめきはイーガ軍の側からも起こった。北側からホーデンエーネン軍に斬り込む迂回部隊は配していたが、南側からの援軍は備えていなかった。 

 

 爆発は尚も続けて音を立てた。想像していた以上に爆風は強く吹きつけ、炎の勢いが強かった。イーガの魔道士でこうもド派手な爆炎を放てるのはなかなかいない。

 

 詳しい者が言うには、このイーガでなら2人はいた。王太子と別れた女魔法騎士・エレクトラ=ガモーコヴィッツか、魔道学問所で教鞭をとるハーフエルフのパルパティアだけだ。

 

「……しかしだ! こうも立て続けに! どこのどいつが潜んでいたのだ!」

 

 戸惑うイーガ軍と怯えきっているホーデンエーネン軍。その両者が向かい合う陣の南側に、馬に乗った1人の若者が姿をあらわした。

 

「何奴(なにやつ)!」

 

 その若者の近くにいた両軍の武者達が声を揃えて叫んだ。若者は恐ろしく長い大剣を手にし、伸ばした銀色の長い髪を風でなびかせていた。

 

「何者だ! 名を名乗れ!」

「これは我が国とイーガとの大事な決戦! なにゆえ邪魔をする!」 

 

 若者は剣を振りあげた。重そうな大剣を片手で軽々と。その剣に炎がまとわりつきだした。魔法戦士だ。

 

「まだわからぬでござるか、ホーデンエーネンのもののふ達よ! 拙者は生きて戻ってきたでござる!」

 

 炎をまとう剣を前に突き出す。刀身から焔が消え、幾本もの炎の矢が飛び、地面に突き刺さって爆ぜた。轟音を立てての土煙に両軍がおののいた。

 

 カントニアの南のエルフの得意な、『爆炎弓箭(ばくえんきゅうせん)』のそれに近かった。但し、彼女達は弓で放った矢にそれを仕込むことが多かった。

 

 地面や人体に突き刺さった直後、半径5メートルを吹き飛ばす爆発が起こるのだ。その後に燃え盛る炎が地面を焦がす。彼女達のその魔法はカントニアでは最強と恐れられていた。

 

「拙者の名はイズヴァルト! シギサンシュタウフェンのイズヴァルトでござる!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。