※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

184 / 767
第二十回

 浮遊要塞の四面の側壁と底部とに不気味な姿を見せた魔道兵器。古代ムサシノ人はその名前を『全てを焼き払う神の炎』と名づけた。

 

 古文書のカタログスペックによれば、ガラス体の表面から超極太の熱線を放ち、3キロ離れたものをことごとく焼きつくす。古代ムサシノ帝国と激しく争っていた国々は、これで城や砦を焼かれ、国王も含む貴族たちも焼き滅ぼしたという。

 

 『全てを焼き払う神の炎』は、プロペラをいくつもつけた『空船』というものにも取りつけられた。ニンゲンより遥かに優れたエルフ達でも勝てなかった。

 

 帝国がサガミニアとカイロネイア、ミナッカミニアにまで支配を及ぼしていた頃、美しい女エルフ達は、愛玩道具あるいは家畜の様に扱われて日々種付けをされ、次々とハーフエルフの子を産んだという。

 

 しかしそれが帝国の滅亡のもととなった。女エルフ達は楽しませてくれるちんちんがあるなら、喜んでエルフ牧場の家畜になる。

 

 エルフ達の見事な肢体と床技にのめり込んだムサシノ帝国の貴族達は、その魅力に溺れて鍛錬を忘れ、生業を怠る様になった。

 

 ニンゲンの女よりも孕み辛い彼女達を妊娠させるには、24時間365日戦えるペニスと精巣が無ければまず無理だ。精子を余計に消費し、心身と気力が衰弱していった貴族や政治家達は、エルフの血を引く平民という子孫しか後代に残せなかった。

 

 大帝国を、超魔道文明を滅ぼしたエルフ達の目に、『全てを焼き払う神の炎』が映った。4000歳以上の者は「やべえ!」と叫びおののいた。超文明はヌマタラシュクの連中によって蘇ってしまったかもしれない。

 

「な、何ズラぁかねあれ!」

「ずらかるズラ! あれが光ったらとっとと散らばれ!」

「ね、ねえさんがた。どうしてそんなに焦っているず?」

「あれがオラ達の村を1度か2度焼いたことがあるから驚いたんズラ!」

 

 女エルフ達は馬をけしかけて左右に散らばった。あれから放つ光は直線状だ。しかし要塞が旋回して周囲を焼き払うかもしれない。

 

 できるだけ散らばれ、とイナンナに言われたイズヴァルトとマルカスは、口をあんぐりを空けながら浮遊要塞の兵器を見つめていた。

 

「ど、どうするでござる……」

「どうもしねえだろイズヴァルト! 姐さんがたが慌てふためいていやがるんだ! ずらかるぞ!」

 

 さもありなん。イズヴァルトはマルカスとともに逃げた。しかし破壊兵器が1つのやり方でしか攻撃できない、という隙などあるわけが無い。発掘と整備に携わっていたヌマタラシュクのエルフ達は、きっちり調べていた。

 

「ヒッターチ軍が散らばって逃げているべえ!」

「ムサシノ帝国の魔道兵器の恐ろしさを知らしめてやるべえよ! 焼き払ってやるべえ!」

 

 管制官はレバーを引いた。『全てを焼き払う神の炎』、発射。まぶしい光が起こった。これで全て終わる。一撃で3万のヒッターチ兵は灰となるだろう。

 

 しかし。光は確かにあたりを強く照らしたが、焼き焦がす事は無かった。光はそのまま収縮し、ついにはかき消えた。

 

「どういうことだべえ!」

 

 沐浴場で事態を見物していたミヒャエルが怒った。尻を抱えていた娘を就き飛ばし、湯の中に叩き込むと立ち上がった。

 

「遊んでんのかあ、あいつらは! やっぱりおれが叱咤してやらねえとだめなのかあ!」

 

 具足を持て、とミヒャエルが呼びかける。そこに下の階の者からの報告を伝える役の者が駆け寄り、悩ましい事実を報告した。

 

「魔道兵器、全て故障してしまいましたべえ!」

「なにい! どういうことだあ?」

「どこの部品がなどと報告されましたけど、つまりは経年劣化というお話ですべえよ!」

 

 ミヒャエルは目をつぶった。それから湯にまた浸かり、自分を伺い見ているハーフエルフの娘達を呼び寄せた。

 

 右乳首を潰された娘をまた自分に股がらせ、ゆっくりと腰を動かしてもらう。みずみずしい肌と膣を味わいながら側のエルフ達に命じた。

 

「屋上にありったけ射手や魔法が使える奴を集めろや。高いところから射かけてやっつけてしまうべえ」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 ダニェル=イヴァノフはぞろぞろと弓矢を持ったエルフ達が屋上に出てきたのを見てつぶやいた。あの兵器はだめだったんだなあ。

 

 屋上に出てきたエルフの中に、他の七本槍の面々がいた。第六位に序列されている薙刀使いのミルコ=シルコップと、第七位で大剣使いのモレヤン=ショベベヴィッチだ。

 

 2人ともウツノミーア国に小さな領地を得ている貴族であった。ニンゲンの家に婿入りして、その流れで当主を続けているとダニェルは聞いた。

 

 しかし彼等の弓の腕前はそれ程ではなかった。ごく平均的な金色エルフという意味でだ。弓の名手は七本槍以外にもっとすごいのが大勢いた。七本槍はあくまで、近接戦闘の達人という意味合いだ。

 

「みんな、集まれ!」

 

 ミルコが集まった射手達に命令して並ばせる。指示を始めて射手と矢箱に矢を入れる係とに分けた。矢は念のため1万本近く持って来ている。

 

 ミルコがそうすればモレヤンも指図した。無駄矢は撃つな。良くねらえ。但しツックイーのエルフには矢が当たらないから気をつけろ。モレヤンは南のエルフのことをよく存じていた。狙撃の達人ばかりだ。

 

「コーガの王様から弩も借りておる! 弓矢がなくなったらそいつに切り替えろ!」

 

 全員が持ち場についた。この2人は武勇よりも指揮官としての能力に才があった。

 

「やっぱり人の上に立つ人達だべえな。ニナ、ヴァシル」

 

 ダニェルは呼ばれてやって来た2人にこう告げた。おめさまがたの魔法を使うときだべえ。ナエバニアのエルフはヌマタラシュクのエルフより、はるかに魔法が得意だった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 ヌマタラシュクの高所から放たれた矢は、ヒッターチの騎士や武将らの命を刈り取り始めた。まずい、とイズヴァルトはイナンナに呼びかけた。

 

「早くできぬでござるか! このままではシゲニウスどのの身が危ないでござる!」

 

 彼女は答えなかった。パオレッタとマリアはか斬り込みに向かう女エルフ達とマルカスを周りに集め、久しぶり使う魔法の詠唱の最中だったからだ。

 

 あまり得意でない魔法は印を切るのではなく呪文を唱える。魔力と精神力が必要だ。イナンナは額に汗をこぼしながあら詠唱を続けていた。

 

「……こちらにも矢が!」

「任せろズラ!」

 

 パオレッタがマリアとともに風切りの魔法の印を切った。飛んできた矢がまっつぷたつに折られて吹き飛んだ。イナンナが詠唱を終えた。

 

 足元が揺れ、イズヴァルト達は下から突きあげられる感覚を覚えた後、ものすごい勢いで空を飛んでいることに気が付いた。

 

「イナンナどの!」

「あいにくだけどオラの飛翔魔法は制御が効かんズラ! ただただ上にあがるだけだから、着地には気をつけるズラよ!」

 

 イナンナの呼びかけに皆がうなずく。その間にも新手の矢が飛んで来た。前方に飛ぶパオレッタとマリアが他のエルフ達と共に剣で打ち払った。

 

 イナンナの魔法による急上昇は、ものの10秒で移動要塞の真上に着いた。白エルフ達の姿を見たヌマタラシュクのエルフらがどよめく。

 

「来たかぁぁぁッ!」

 

 七本槍、ミルコ=シルコップが薙刀を構え、射かけろ、と弓兵に叫んだ。しかし剣を持ったパオレッタとマリアではなく、彼等はその背後にいた弓の弦を引き絞る、1人の女エルフに注意すべきだった。

 

 直後に爆風が起こり、弓兵達が弾き飛ばされる。近距離からの『爆炎弓箭』だ。陣形が崩れたところでパオレッタ達はなだれ込んだ。

 

 体付きが細い彼女達よりいかつく、膂力がある男エルフ達が次々と斬り伏せられていく。パオレッタらに続いてイズヴァルトとイナンナが飛び込んだ。イズヴァルトはできる相手のにおいを嗅ぎつけてミルコに殺到した。

 

「視ねえ顔だな! 何もんだべえ!」

「イズヴァルト=シギサンシュタウフェンでござる!」

「なに! 十文字槍のエイオンを苦戦させたという!」

 

 エイオンは序列第4位。ここでイズヴァルトを破ればのし上がるだろうとミルコは期待した。たかがニンゲン風情に負けるエルフではない。

 

「俺はミルコ=シルコップ! ヌマタラシュク七本槍の1人! ウツノミーア国クズールの領主でもある! ウツノミーアの薙刀師エルフとは俺のことよ!」

「承知! いざ、勝負でござる!」 

 

 ミルコ=シルコップはリーチを取ろうと薙刀の柄を端に持ち替えた。彼の薙刀は2メートル半もある。柄は2メートルで刃は50センチ以上。20キロ近くあるそれを彼は軽々と振り回した。

 

「ウラーッ!」

 

 イズヴァルトは目まぐるしく繰り出される薙刀を避け続けた。大きな図体なのに動きが細かい。とんでもない奴だとミルコは思った。

 

「死ねいぃ!」

 

 避けながらイズヴァルトは間合いと相手の技量をはかっていた。戦いの神が決着をつけろと呼びかける。もっと強い相手が待ち構えている、と。

 

 イズヴァルトは気合の声を発さなかった。ミルコが振り下ろした薙刀の柄を避け、それを叩き斬った。

 

 薙刀の柄は鋼鉄でできていた。なのにそれをあっさり叩き斬るとは。こいつはまともではない相手だとミルコは悟った。

 

「エイオンを嘆かせたと聞いたが! ここまでやれるならきゃつを追い込むはずだ!」

「4年前とは違うでござるよ!」

「たった4年ではないかッ!」

 

 エルフにとっての4年はあっという間だが、ニンゲンにとっての4年はまるで違う。ミルコは決して鍛錬をおろそかにしていた訳ではなかった。むしろ、ヌマタラシュクのエルフとして武勇抜群の7人に名を連ねるのに、恥じぬ生き方をして来た。

 

 だが、イズヴァルトの武才は彼を遥かに凌駕していた。イズヴァルトは『覇王の剣』をミルコの胸に思い切り叩きつけた。うめき、嘔吐したところを蹴り飛ばす。

 

 ミルコは喘ぎながらイズヴァルトを見上げた。殺さなかったのはどういうことだ。イズヴァルトは彼をもう見ていなかった。もっと手ごわい新手の攻撃を察したからだ。

 

 足元の草が突如として動き出し、絡めとろうとしていた。魔力の流れに気が付いて拳で草を切り払った。

 

 仕掛けてきたのが誰かはわかっている。美しい顔立ちの少年とその横にいる大きな胸の金色エルフ。ヴァシルとニナだ。

 

「やるねえ! イズヴァルト=シギサンシュタウフェン!」

「とーってもかっこいいお兄さんだべえ♡」

 

 ニナは目を垂らして微笑んでいた。イズヴァルトからとても強い魅力を感じたからである。

 

「……ニナ姉さん。発情する余裕は無いぜ。こいつ、すごい手ごわいかもしれない」

 

 草絡めの魔法はヴァシルが仕掛けたものだ。できるだけ魔力の動きを封じたはずなのだが、気づかれた。故郷では天才と言われる魔法の使い手であったのだが、見切られるとは相当に出来る敵だ。

 

「そなたたち、魔道の使い手でござるか。猪武者の『脳みそ筋肉』の拙者では、辛いところがござるな……」

「そこはオラが引き受けるズラ」

 

 イナンナが前に出た。医者という非戦闘員の役柄であったが、彼女の攻撃魔法は指折りだ。右手で素早く印を切り、ニナとヴァシルに指を突きつけた。

 

「……来る!」

 

 ニナが叫んだ。彼女は胸を揺らして乳首で印を切り、自分とヴァシルの周囲に結界を張った。

 

 直後に2人の四方に炎が起こり草を舐めて焼き払った。ヌマタラシュクのエルフの魔道士ではお目にかかれぬ激しい炎にヴァシルは驚愕していた。結界魔法が得意な姉がいてくれたから良かったものの、1人では火傷をしていたはずだ。

 

「あの白エルフのおばさん、相当にやばいぞ?」

「わかっておるべえ……あのお姉さんもけっこうきれいだべえな♡」

 

 そう言ってニナはぷるんと胸を揺らす。股もちょっとばかり濡らしていた。イズヴァルトはおろか、エルフの中でも絶世の美女であるイナンナを見て惚れてしまったのだ。

 

「……だから発情するなって。また来るぞ!」

「おっ!」

 

 ニナがまた乳房を揺らして乳首で描いたが、最初の衝撃で指でも追加の結界魔法の印を切った。吹き付けて来る周囲の火炎が暴風に乗り、結界を激しく打ち付けたからである。

 

「け、煙が邪魔して見えないべえ! あの2人が!」

「ああもう! やい、雄膣奴隷!」

 

 わかっているべえ。念話魔法による返事を聞いた後、イズヴァルトの雄たけびを耳にした。刃と刃がかちあう、恐ろしげな剣戟の音が響き渡る。

 

 イズヴァルトは勢いよく飛び込んできたダニェル=イヴァノフと戦っていたのだ。ミルコとは動きや力は段違いだ。

 

 片手ずつに持つ、赤く光るミスリルの湾曲刀から打ち出される一撃が恐ろしく重い。最初の受け払いで力負けすると思ったイズヴァルトは、鍛えられた野獣の様に機敏に動くダニェルの連撃をかわしたが、紙一重だった。

 

「ミルコどのとは大違いでござるな!」

「ヌマタラシュクのダニェル=イヴァノフだべえ! ぼっちゃん、ここで往生するべえよ!」

「そなたがあの、でござるか!」

 

 思っていたのとは違う。もっといかめしい、それこそ武人の顔だと思っていたのだが全く違った。田舎の太った若い娘みたいな愛らしい顔立ち。

 

 しかしその巨体から繰り出される一撃は、まさに七本槍最強の男と呼ばれるにふさわしかった。隙も無い。

 

 イズヴァルトは敵との闘いで久しぶりに股間がいきり立ってしまっていた。マイヤとの恋が終わり、意気消沈としていた日々だった。

 

 しかし今まさに、彼の巨根はズボンの中で爆ぜ、精液を垂らしながらこの激闘に臨んでいた。生きる喜びが湧きすぎて漏れてしまったのだ。

 

 それはダニェルも同じだった。ズボンや下着をまとわぬ、ベルトをまわした貫頭衣の下から、ぽたぽたと精液が零れ落ちていた。

 

「面白いお人だべえ! 楽しくなっちゃうなあ!」

「拙者もでござるよ! いささか不利なれど!」

 

 イズヴァルトとエルフのダニェル。一騎打ちで火花散らして勃起した男根から精子を振り散らす。互いに「これは!」と思った一手と、「やるな!」と叫ぶ様な回避の度に、男根が脈打ち、射精をもたらした。

 

 快感の中での死闘だ。2人の金玉袋は通常人の数倍も生産力旺盛だから、射精がなかなか止むことは無かっただろう。

 

 だが、そのイズヴァルトを狙って火炎矢の一撃が放たれた。直前に気づいて『覇王の剣』で払えたが、ダニェルの体当たりを喰らって吹っ飛ばされた。

 

 草むらの上にごろごろと転がり、ぐちゃっとした感触を尻で感じた。ニナがおしっこをしたところが泥となっていたのだ。

 

 身体の痛みに悩まれながら、イズヴァルトは起き上がって治癒魔法の印を切って手当をする。青あざを消すまでは至らなかったが、骨のあたりにまで響く痛みは収まった。

 

 しかし突如の横入りは完治まで待ってくれなかった。ダニェルが突っ込んでくるのを目にしながら、目の前に紫色の光が迫って来る。

 

「これは! 紫電砲でござるか!」

 

 白色エルフのものと遜色無い。油断できぬ雷電をイズヴァルトは転がって避けた。ここまでの使い手は誰か。

 

 その者は前に現れた新たな魔法陣の光によって顔が確かめられなかった。背はそれほど大きくはない。小柄だ。

 

「貴殿、何者でござるか!」

 

 ダニェルの一撃を寸前のところで避けながら叫ぶ。返答は思いもしなかった方角からの光の雨だった。

 

 頭上から雨あられの様に降り注いだそれは、イズヴァルトがかぶっていた兜をへこませ、薄い肩甲や鎖帷子を穿った。深くは無かったが血を流させるには充分だ。

 

「こ、この魔法は!」

「ムーツのゴブリンの『空気針』ってもんですよ。イズヴァルト=シギサンシュタウフェンのだんな?」

「そ、その声は!」

 

 確かに聞き覚えがある声だった。女だ。それから、まさかここまでやれる相手だとも。4年の歳月を経たのは自分だけではなかった。魔道に磨きをかけている。

 

「本当にお久しぶりですねえ? 随分とお姿が変わっちまったみたいですが」

 

 多分、妙な人体改造手術を受けたに違いないでしょうねえ。ねっとりとした言い方をして、魔法陣の光を消して姿を現した。

 

 鎖帷子をまとい、短槍を持ったポニーテールの金髪の女。エレクトラ=ガモーコヴィッツであった。彼女はイズヴァルトをちらと見て、不満そうな目を向けるダニェルに手を振った。

 

「まともに戦っている最中の横槍は卑怯だべえよ?」

「えへへへ……申し訳ありませんねえ、イヴァノフのだんな。で、あっしはダニェルさんを勝たせに来たんですが……なんかやっちゃいましたかね?」

 

 ダニェルはうずくまるイズヴァルトを担ぎ、向かって来るエレクトラに刃を向けた。

 

「勝負はまた後日、ということに致すべえよ。停戦だべえ。ニナとヴァシルは、とってもべっぴんなツックイーのおねえさんに封じ込められて、金色エルフの衆はやらっれっぱなしだべえ」

 

 ダニェルが言った事は事実だった。パオレッタとマリア達の斬り込み隊が弓手衆を突き崩してしまった。

 

 七本槍のもう1人のモレヤン=ショベベヴィッチが、怒号を放って怯える配下をまとめ上げたが劣勢だ。増援が欲しかった。

 

「ふうん。ミヒャエルさんはやる気満々なんですけどねえ?」

「もう、付き合い切れねえべえよ……けど」

 

 ダニェルはイズヴァルトから『覇王の剣』を奪い取り、思い切り空へとぶん投げた。剣は手の届かない遥か下方へと落ちていく。万事休すだ。

 

「これでとりあえずは、ってとこだべえな? 共同戦線だべえよ」

「なるほどねえ。けどその旦那、剣がなくなっても油断はできませんよ? 魔法も達者ですからねぇ?」

 

 エレクトラは印を切った。イズヴァルトの喉に赤い輪っかの様な光が浮かぶと、全身に光がはしった。魔封じだ。強い虚脱感を覚えた彼はがっくりとうなだれた。

 

「これでよし、っと。さて、どの様に致しますかい?」

「……見知った顔が多いから気が引けるべえなあ。けど、こっから落としたって死にゃしねえ連中だろうから、とりあえず叩き落すってことで良いべえよ」

 

 そうしましょうかね。エレクトラは短槍を握りしめてうなずく。ダニェルが深く深呼吸をして闘志をみなぎらせると、気合の声を放って辺りを震わせた。

 

「な、なんズラ! この気はッ!」

「あ、ありゃあダニェルじゃねえズラか! ぽっちゃりダニェル……イズヴァルトさんが負けちまったズラ!」

 

 それを聞いたパオレッタとマリアが目を怒らせ、全速でダニェルのもとに向かう。イズヴァルトを救い出さなければ。

 

「ダニェル! ツックイーのマリア=マツダムルが相手ズラ!」

「同じく! マツダムルのパオレッタズラ!」

 

 パオレッタとマリアが向かってくると、ダニェルとエレクトラも駆けだした。この中で一番の武闘派はあの2人だからだ。まずは一番強いのを潰してうろたえさせる。

 

 イズヴァルトを助けようと必死だったパオレッタとマリアだが、ダニェルの横で走る女の顔を見て、信じられないとつぶやいた。

 

「そこのおまん! こっちに着いたズラか!」

「やっぱり金色エルフに義理を立てるってわけざあな!」

 

 イーガの天才魔法少女、エレクトラちゃん。2人は確かにそう叫んだ。ダニェルが念話魔法でどういう事かと尋ねる。エレクトラはにひ、と笑って左手で印を切った。

 

 パオレッタとマリアの背後数メートルのところで魔法陣が浮かび上がった。そこから激しい紫電が放たれる。パオレッタがくるりと振り返って剣で雷撃を弾き飛ばした。

 

「手ごわいですねえ! パオレッタ姐さんは!」

「エレクトラちゃんこそ姑息極まりない、きったねえ魔道の使い手になったズラな!」

 

 マリアの刃がエレクトラの槍の穂とかちあった。力押しが始まるかと思いきや、エレクトラは槍をくねらせて止めを刃を払った。

 

 エレクトラが短槍をしごいてマリアの右胸を狙う。マリアは間一髪といった様子で避けた。けれども彼女の、懐に入り込んでの斬撃もエレクトラはかわしてしまった。

 

「さっすがイーガの天才魔法少女ズラな! 槍の使い方もなかなかズラ!」

「へへへ。女子、3年したら括目して見よ、ですよ!」

 

 マリアとエレクトラの戦いが始まった。ダニェルもパオレッタの猛攻を2本の湾曲刀で相対する。

 

 パオレッタの方が動きが素早い。けれどダニェルに一撃を食らわせる事は出来なかった。七本槍はやはり手ごわいとパオレッタは唇をかみしめた。ダニェルは彼女達が言ったことが気になって仕方が無い。

 

「エレクトラ、イーガの天才魔法少女ってどういうことだべえか?」

「へへへっ。あっしの昔の呼び名ですよ!」

 

 マリアの猛攻をエレクトラは卒無くいなした。ダニェルが動き出した。彼の重い一撃をロングソードで受け止めたパオレッタがたじろぐと、強い蹴りで彼女を弾き飛ばした。

 

 マリアもまた、エレクトラの自在に動く短槍さばきに押されつつあった。魔法に抜群の才があれば槍さばきも達人の域。

 

 そもそも、ツックイーのエルフの戦士に互角以上の力量を持つ者は、ニンゲンの中ではそうそういなかった。マリアは小手に強い一打を喰らい、レイピアを手放してしまった。

 

「勝負あり、ですかねえ?」

「滅法強くなったズラな……エレクトラちゃん?」

「エレクトラ、だからおめえさまは何者なんだべえか?」

 

 ダニェルに問われてエレクトラは笑う。彼女はそっとこの戦友に自分のもう1つの過去を語った。

 

 さて、この短槍使いの女は自分の、何を語ったのだろうか?

 

 その続きついてはまた、次回にて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。