聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
エレクトラはさささっと語った。6歳の頃から4年間、カントニアの南北のエルフの里で過ごしていたと。
6歳から8歳までは先祖とゆかりの深い、ミナッカミニアのナエバニアで。もう2年は第族長のつてで、ツックイーの森にあるエルフの村のうち1つで暮らしていたのだ。
「魔道の才が計り知れないってことで、あっしは魔道学問所ではなくって、エルフさん達の村で過ごしていたんでさぁ」
「ふーん。ナエバニアにゆかりがあったんだべえな。初めて聞く話だべえ。おれのニナと気が合うかもなあ?」
「いずれ、おうちにお邪魔させていただきますよ……さて」
エレクトラはマリアをねめつけた。ここからはこちらの言い分を通してもらいますよ。随分と妙なことをぬかすズラな、とマリアが返した。
「へへへ。あっしはただ、仕方なくいくさに参加したんでさぁ」
「どういうことズラ?」
「ヌマタラシュクのミヒャエルさまが、こいつを使ってヒッターチをやっつけると息まきましてねえ。その巻き沿いを食ってあっしは無理やり戦ったわけでさぁ」
「この空中要塞、サイコ=ロップスってのはもう、ヌマタラシュクのものになったんですよ。というわけでコーガはこの戦いでの関与は無し。ってことをまずは知っていただきたいんですよ」
コーガは停戦に向けての支度を整えているぞ。遅々として進まないのは何を土産に持っていけばヒッターチは気を鎮めてくれるだろうか、と会議が行われている。そうした嘘をエレクトラはすらすらと述べた。
「……思い出した。小さい頃のおまんのもう一つの仇名、うそつきエレクトラちゃんだったズラな」
「いやいやいや。こりゃ本当のことですぜ。コーガはもう事を荒立てたくありません。ヒッターチが国から去ってくれればいつでも友好条約のお話もいたしますよ、ですよ?」
それからこの要塞は、もともと文化的、学術的な理由で発掘されたものであり、戦争の為に使用することは想定していなかったとエレクトラは言った。これを物好きな富裕そうの住宅施設にしようというのが、そもそもの目的なのだと。
「と、大御所さまも言っておられますぜ?」
「……へファイスティンの二枚舌は、もっと信じられねえズラ」
「いやいやいや。大御所さまは平和を愛するお方なんですよう。こういう戦いよりも、みんなと仲良く、商売をしあって儲けて豊かになりたい。そうおっしゃってましたねえ」
これは半分嘘だった。へファイスティオンは周辺諸国を言いくるめ、戦争を起こそうとした。但し、戦争でコーガの工房の剣や鎧、食料品が他国に高値で売り飛ばせると見込んでやったのだと、エレクトラは本人から聞いていた。
「信じられねえズラ」
そう答えてマリアはレイピアをひったくり、後ろに宙返りした。パオレッタも態勢を整え直してダニェルに斬りかかろうとしている。
「えへへ。困りましたねえ……殺す気でいきますかい?」
エレクトラがにんまりと笑う。彼女も本気を出しての戦いに臨もうとした。
「……ん?」
東の方角から何かが飛んでくるのを感じてちらと見る。物が飛んでくるのではない。大柄な女だった。褐色エルフの。
クリスタだ。彼女はヒッターチの魔道士達や地上にいた仲間達の力を借り、風の魔法を使って飛び上がったのだ。
重いハルバードを抱え、転がりながら着地する。うおらーっ、と大声をあげるとダニェルが振り返った。
「もう1人油断ならねえのが来たべえな!」
「ダニェル! ひっさしぶりずら! 早速だけど、おらと……」
彼女は構えたハルバードの刃に炎をまとわせた。おまんの相手はこのおらずらよ。ダニェルは喜び勇んでこの、かつての学友であり恋人との打ち合いに臨んだ。
「いくずら!」
「よかべえよ!」
エレクトラはパオレッタとマリアを相手にまわす事となってしまった。しかしそこに、再び起き上がったミルコ=シルコップと、部下を鼓舞しながら加勢に来たモレヤン=ショベベヴィッチの助太刀を得て、打って出た。
要塞の屋上でエルフ達の激しい戦いが始まった。ヴァシルとニナはイナンナに封じられたまま。イナンナははいつくばって近づいてきたイズヴァルトに、空いた片手で治癒魔法を施していた。
「炎を巻き起こしながら拙者も治癒できるとは、さすがはイナンナどのでござるな……」
「手痛くやられちまったズラな。『覇王の剣』も落とされちまったし」
「治療が終わったら、拙者についてきて欲しいでござるよ」
中から暴れまわってこの要塞を地に着けたい。イズヴァルトの申し出にイナンナがうなずいた。
「終わったズラ!」
「うむ! ではいくでござる! あちらが入口みたいでござるよ!」
イズヴァルトは中央部分にある透明の円筒を指さした。イナンナは魔法を解き、勢いよく駆けるイズヴァルトとともに向かう。
イナンナの執拗な魔法攻撃が無くなったのに気が付き、ヴァシルとニナが安堵した。ニナはぜえぜえと息をして、顔を真っ青にしていた。
「ちっ。要塞の中に入っていくぜ、あいつら」
「お、追いかけたらどうだべえ。とりあえずミヒャエルさんへの義理ってものがあるし……」
「ま、後からついていくようにするよ。あんな化け物とやりあうつもりなんてないさ」
ヴァシルは「裏切り御免の時」とつぶやいて全速力でイズヴァルト達を追う。2人は円筒の前に立ったが、どこをどういじればいいのかがわからなかった。
「機械か何かがあるのでござろうか?」
「たぶん、そうかもしれねえズラな……」
そこにヴァシルがやって来た。透明な円筒の入り口の横にある、出っ張りに手を当てた。
「こいつの昇降機はこうして動かすのさ」
「貴殿は?」
「ナエバニアのヴァシルさ! 怖い顔をすんなって。これから手を貸してやるよ」
ナエバニアがヌマタラシュクに、ちょくちょく虐められているのはご存じだよね。ヴァシルが問うとイナンナがうなずいた。
「今は信じるズラ。ほう、この円盤みてえなのに乗るズラか?」
「動力炉は底部3階。それと。そこの旦那、こいつを使いなよ」
ヴァシルは腰に差していた2振りの剣のうち、長い物をイズヴァルトに貸した。ムーツのオーガが鍛えた玉鋼の片手剣だ。
「カントニアのヌマタラシュクの奴らのよりかはだいぶ出来がいいぜ?」
「かたじけない。ありがたく使わせていただくでござるよ」
イズヴァルトとイナンナは、ヴァシルを加えて要塞の中へと降りて行った。
□ □ □ □ □
「ひいいい!」
「こんなおっそろしい奴、初めてだべえ!」
機関部の各所で悲鳴があがった。イズヴァルトが暴れまわったからだ。ヴァシルが貸してくれた剣はなかなかのものだ。敵の鎧を斬り裂く事だってある。
計器が並ぶ操縦室にたどり着いた。エルフ達は腕っぷしの無い連中ばかりであった。彼等はどうして、と思っていた。ヴァシルを見てだ。
「なんで、ダニェルさんの弟さんが敵方についたんだべえ?」
「ふん。俺はナエバニアのエルフだぞ? ヌマタラシュクに忠誠を誓っちゃいない。有利と思ったほうに着くんだ」
「こすっからいがきんちょズラな……」
ヴァシルの性格に難色を示し、余り仲良くしないほうがいいとイナンナはイズヴァルトに忠告した。イズヴァルトはどの装置を動かせば要塞は下に降りるか尋ねた。
「イズヴァルト、ここはお前が奪い取った金棒でぶっ壊すほうがいいんじゃないのか?」
「それはまかりならんでござるよ? この要塞は歴史的価値があるものでござろう? 貴重な文化財を壊すのはよろしくないでござる。『ヴァンダリズム』とかいう、野蛮な行いそのものでござるよ?」
「どういう意味ズラ?」
「攻められた国の貴重な文化材を無遠慮にぶち壊してもいいとする思想らしいでござる。マイヤが拙者に教えてくれた。しかしマイヤは……」
これまで彼女に与えた愛情をかなぐり捨てて、お金持ちの大貴族、いや、王家の若者の妾となった。
風のうわさによると、ご側室様就任式では参列者の前で、おまる桶に尻をむけてぶりぶりうんちを披露したそうな。
この様な品の無い行いを、イーガの貴族たちは容認するどころか歓迎した。マイヤが可愛い尻を出し、にゅるっとひねり出す姿を彼等は映像水晶に収めたという。
マイヤが他国の者にも愛される、『ホーデンエーネンのうんちぶりぶり姫』だからである。彼女の人気は今も絶大だ。対してイズヴァルトは彼女に何もかも吸いつくされて捨てられ、皆から忘れ去られつつあった。
「拙者からちんちんから『ざあめんみるく』を搾れるだけ取って、去って行ったでござる。心と大切な思い出を壊したマイヤこそ、『ヴァンダリズム』そのものではござらぬか? うっ……うっ……」
イズヴァルトが泣き出した。ヴァシルが心配になって「みっともないからおよしなさいよ?」とハンカチを手渡す。このぼうずは意外と共感性があるズラな、と感心したイナンナは考えを改めた。
「あのう……要塞の浮遊を止める装置についてですけど……お教えしましょうか?」
3人の背後から声がかかった。なんだか聞き覚えのある女の声だと思い振り向くと、立っていたのはエレクトラだった。
「……エルフどのらの包囲を突破したのでござるか!」
「いやいや、七本槍の皆さんに頼んだだけですよ。ちょいと身体も疲れてきちゃいましたからねえ……」
30過ぎだから自分もそろそろ自重しなければ。エレクトラは腰をたたきながら言った。
「天才と言われていたのは、いくら暴れまわっても疲れることがない幼い頃だし、やっぱり寄る年波にゃかなわないもんですねえ」
「イズヴァルトさん。この嬢ちゃんの言っていることに耳を貸すなズラ。相当に体力がある奴ズラよ、こいつ?」
イズヴァルトは剣を構えた。ヴァシルも鞍替えした以上は助太刀する。イナンナは懐から匕首を手にして、彼等の背後を守ることにした。
「いやいやいや! 3人一斉にかかってこられたらたまったもんじゃないですぜ! あのダニェルさんと互角の戦いを演じたイズヴァルトさんに、正面切って勝てるとは思ってもおりませんですよ?」
「すがすがしいほどに卑怯でござるな?」
「卑怯! 卑怯じゃなきゃやっていけませんよ。『すぱい』ってのはですよ。いひひひ……」
エレクトラは短槍を投げ捨ててその場で平伏した。
「私も今からお味方いたしますぜ。イズヴァルトさんとツックイーのエルフの皆さんの仲間に加えてくださいよ! さあ、共に力を合わせ、戦いましょうや!」
「おまん、とっても美人なのに言う事で台無しズラな?」
「えへへっ。えへっ。前世と違いこの世界は美人さんばっかりですからねぇ。三枚目な台詞を言わないと、個性ってのが見えなくなっちまうんでさぁ」
それに、自分の目的はもう果たしたし。エレクトラがぼそっと言う。
「目的でござるか?」
「へえ。イズヴァルトさんの武名ですよ」
「拙者の?」
「カントニア全土で名高い、ダニェル=イヴァノフさんと互角に戦った。これだけでもとんでもねえ『ねーむばりゅー』になりますぜ? ツックイーとカイロネイアのエルフの姐さまがたはつつましやかな秘密主義者ばっかりで名が知られているのはごくわずか、ってところでやんすが、やたらと自己主張が激しい金色エルフさん達の一番のつわものをうならせたとなると、イズヴァルトさんの名前はこの大陸で広く知れ渡る事になるでしょう」
これこそが自分が目論んでいた事の結果だとエレクトラは言い張った。半分ははったりであったが、策士とは己の企てだけでなく物事の流れも利用するものだと弁じた。
「で、その先にこそあっしには秘めた目的がございます」
「なにが……でござる?」
イズヴァルトが問い、エレクトラが答えようとする。しかしこの時彼等がいた空中要塞は、大きく揺れて落下し始めた。イズヴァルト達はその場ですっころび、エルフ達が悲鳴の声をあげる。
さて、この空飛ぶ巨大な要塞にいかなる事態が起きたのか?
その続きについてはまた、次回にて。