※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第二十二回

 空中要塞は激しく揺れた。

 

 重心がふらふらとなり、乗る者は悲鳴をあげた。その時の様子を見た者はこぞって記した。東よりムサシノ帝国の目覚めた遺物に、まことの眠りをもたらす大きな翼が飛んできたと。

 

 要塞は巨大な空気の塊を何度もぶつけられていた。東から来たそれが起こしたものだ。外壁がいくつかはがれ、要塞はゆっくりと地上に降りて行った。

 

 相次ぐ衝撃は魔道要塞の動力炉にも損傷を与えた。超魔道技術とはいえ、3000年も経てば劣化が激しくなり、耐えられなかったのだろう。

 

 接地してから動かなくなった。皆が固唾を飲んでいたところにそれはゆったりと要塞の真上に来た。

 

 20メートルほどの体長でその倍ぐらい大きい、蝙蝠の様な姿かたちの翼。鱗に覆われた鮮やかな紫色の身体と長い尻尾を持ち、とかげの様な顎と恐ろし気な牙を生やす生き物だった。

 

 世界最強と言われる魔獣、ドラゴンである。アカサカチハヤのあるじ、サイカノマゴイチに正面きって戦えるのはこの種族しか無いと言われている。

 

 紫色のドラゴンは、戦いを繰り広げていたエルフ達を睥睨(へいげい)し、老婆にも老男にも聞こえる響く声で、ゆっくりとしたカントニアの言葉で呼びかけた。

 

「けんかはもうおしまいだべえよ。ヌマタラシュクのもん、ツックイーのもん。どちらも仲良くせにゃならんべえよ」

 

 最初にダニェルがひざまずいた。それからクリスタが。ツックイーのエルフ達全員が。ヌマタラシュクのエルフ達は仕方なくといった面持ちで武器を置いた。

 

「そうだべえ。そうだべえ」

 

 このドラゴンはこの大陸の亜人らにおいて、崇拝すべき対象であった。これが現れ、調停を呼びかける時には必ず従わなくてはならなかった。

 

 ただのドラゴンではない。ミーナタカトミ。魔界のドラゴンである。コンゴウアミダラデンに御座する魔竜・サイカノマゴイチの右腕だ。

 

 ミーナタカトミは彼女に頼まれカントニア大陸の監視を預かった。理由はこの大陸は凄まじい戦乱が多く、ムサシノ帝国という超規格の魔法文明帝国があり、魔道を扱う種族としては最強ともいえるエルフが多くいたからだ。

 

 元はといえばムサシノ帝国が、エルフ達を征服して束ねて世界統一を目論んだ事があったからだが、ミーナタカトミはそれを止める戦いに身を投ずる機会は無かった。帝国は勝手に滅んでしまった。

 

「ヌマタラシュクの衆、お客さんを連れてきたべえ」

 

 ミーナタカトミが長い首をくい、とする。最初に1人の娘が背中から飛び降りた。ふわりとした長い金髪のエルフで身長が140程。随分と小柄なエルフの少女だ。

 

 暖かい色合いの桃色の服に赤い毛織のマントを羽織り、銀色の腕輪をつけていた。顔立ちは大層愛らしい。

 

 しかし、彼女の顔を知るヌマタラシュクのエルフ達は怯えだした。ダニェルはちらと見たままただただ平伏するのみだった。ツックイーのエルフ達は、パオレッタとマリアも含めてほぼ全員が、敬意のまなざしを向けていた。

 

 エルフの少女ではない。れっきとした大人のエルフだ。しかもヌマタラシュクのエルフらが恐怖を感じる、上位存在(ハイ=エルフ)とも言うべき人物。

 

 彼女はうつろなまなざしを皆に向けた後、瞳に輝きを灯した。この者らに呼び掛ける為にだ。

 

「これは、私とミーナタカトミ様とで取り壊す。ヌマタラシュクの大族長とも、コーガのまことのあるじとも話をつけている。異論は認めぬ」

 

 エルフは振り向いた。ドラゴンの背中からコーガの真の支配者、へファイスティオン=キツレティスが2人の子供らとともに滑り降りた。ドラゴンの背中はなだらかで、意外につるりとしていた。

 

 それから牛の頭の全裸の男と、飄々とした感じの優男が続いた。牛の頭をした男はシャウジャーである。もう1人はヒッターチのミツクニュモスだった。

 

 へファイスティオンは女エルフの隣に立った。その後ろで彼の尻を小突く女の子はツックバーのメルビナ。彼女に付き添っていたのはエドニアのピサロ=アマルフィであった。

 

「さあ、呼びかけなさい。へファイスティオン?」

「ははは……というわけなのだよヌマタラシュクの諸君。君達に面白い趣向のおうちとして差し上げたこのサイコ=ロップスの再起動に物言いがあった。まことにすまぬ。廃棄をお願いしたい」

「そ、そうなってしまったんだべえか……」

 

 ヌマタラシュクのエルフ達は嘆いた。抗えないのだ。サイカノマゴイチの代理人・ミーナタカトミには逆らえない。

 

 逆らえば、このドラゴンが住むテンモーク山地の有翼エルフ達を激怒させる事になる。有翼エルフは厄介だ。空からの攻撃はさることながら喧嘩も強い。戦えば苦戦は必至だった。

 

「ここにおられるミーナタカトミ様、そして……」

 

 ハーフリングの血を濃く継ぐ『大御所』は、隣に立つ愛らしいエルフに好色な視線を向けながら皆への報告を続けた。

 

「カタシナシュフ派の大族長、キファニア様の名において、私は承知することにした。どうしようもないので渋々だがね」

 

 どうしようもなかった、とへファイスティオンは重ねて言った。しつこいとも言えるがこれは彼流の政治的配慮というものであった。

 

 ヌマタラシュクの後見を保ち続ける為に腹を見せる。へりくだる。コーガは弱小国でミーナタカトミやキファニアと戦える軍事力は無いから出来る芸当だった。大国だったら少しぐらいは根性を見せていた。

 

「なに。もしコーガに家が欲しくば、このサイコ=ロップスの代わりに建てておくよ。いつでも遊びに来ておいで。あは。あははは……」

「そういうことだべえ」

 

 ミーナタカトミは目元をほころばせた。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「……と、いうことでござるのか。わかったでござる……などとは納得がいかぬでござる!」

 

 会合があるからとメルビナに呼び出されたイズヴァルトは、『覇王の剣』でバシッ、バシッ、と動かない空中要塞の外壁を殴ってくやしがった。白黒をつけたかったでござる!

 

「おめえさまもそう思うかあ?」

 

 この場で忸怩たる思いだったのは、イズヴァルトだけでない。ヌマタラシュクのミヒャエルもだ。彼はイズヴァルトの肩に手をかけて呼びかける。

 

「だべなあ。だべなあ?」

「さようでござる!」

「うんうん。そうだべえ……」

 

 最前線に立ちたがるイズヴァルトと、部下に全部任せて後方で女とおまんこにかまけっきりのミヒャエルは意外と気が合った。

 

 しかし2人が手を取り合って力をあわせる機会はその後も、ついぞ無かった。それはともかくである。ヒッターチとコーガの休戦はこれで成った。包囲網は瓦解した。

 

 ヌマタラシュクのエルフらは少数を残して引き上げる事になった。ダニェルら七本槍も故郷に戻る事に。

 

 去り際、ダニェルはイズヴァルトに「また会うべえよ」と告げた。妻と義弟を伴って去る背中に手を振りながら、イズヴァルトはこう思った。勝てぬ相手がまた1人増えた。

 

「ヌマタラシュクのダニェルどの。いずれ決着をつけたいでござるよ」

「やめときなよ。あいつ、オクタヴィアさんよりも強いらしいからな」

 

 横にいたマルカスが言った。少なくとも本気になったクリスタに勝てるぐらいでないと、夢で終わってしまう。

 

「で、ござるか。うーむ……」

「それよりもあの捕虜だ。シゲニウス殿下に預けられたあのべっぴん……エレクトラだっけ。あいつをどうするかってヒッターチの武将らが尋ねてきているぞ」

「そ、そうでござったな」

 

 イズヴァルトとマルカスはヒッターチの陣営に向かった。皇太子シゲニウスの天幕に入ると、皇太子当人の目の前に縄で身体をグルグル巻きにされてあぐらをかくエレクトラの姿が。

 

 皇太子は激怒していた。コーガのへファイスティオンからなにとぞ命だけは、とせがまれたのだが、憎しみが勝って約束を果たせそうにもなかった。

 

「やっぱり殺す! 処刑する! 『ふじもとみねこ』!」

 

 エレクトラはにやにやと笑ったまま、無言だった。やって来たイズヴァルトがシゲニウスをとどめ、諫言した。

 

「へファイスティオンどのとの約定があるゆえ、前世の恨みを晴らしてすっきり、にはいかないでござるよ!」

「そ、そうだけど!」

「ここは拙者やエルフどのらの『従者』として扱わせていただきたい……エレクトラどの?」

「えへへ。何でしょうかねえ?」

 

 イズヴァルトはまだ聞いていなかった。エレクトラが最終的に何を為そうとしたのかについてだ。

 

 劣勢だったとはいえ、ダニェルと互角に戦い武名を轟かせた事となった自分に、何を臨むのか。イズヴァルトは改めて尋ねた。

 

「ふふ……このカントニアでも、イズヴァルトさんは『すーぱーすたー』になりましたよねえ?」

「人気者、という意味でござったかな?」

「はい。その通りで」

「ただのへっぽこ若ざむらいでござるよ、拙者は。そんな大仰な呼ばれ方は御免被るでござる」

「ふひひ。ご謙遜を。で、その抜群の知名度がありゃ、だんなはこういう事ができるんですよ」

 

 何を。イズヴァルトとシゲニウスが前のめりになった。この女は何を言い出すのか?

 

「地上に己の天下を築く。王国を建てるのですよ!」

「……!!」

 

 とんでもない大言壮語だ。イズヴァルトは思わず『覇王の剣』を抜き放ってしまった。この女を斬り捨てたかった。

 

 エレクトラはまさか、自分を利用して何かを企てているのではないだろうか。進み出ようとするとシゲニウスが止めた。

 

「……その夢想はなんだ、『ふじもとみねこ』?」

「夢想なんかじゃありませんよ。イズヴァルトさんは王に足る素質をもっておありです……早い話、イーガよりもでっかい国を建ててやろうじゃありませんか?」

「……なに?」

 

 イズヴァルトは目を怒らせながらエレクトラを睨みすえた。しかし聞きたい。この女はどこに己の王国を建てようと言いたいのか。

 

「もし建てるとしたらどこがよろしかろう? もし、でござれば拙者なら、サガミニアの一地方であれば……」

「サガミニアは未開の土地が多すぎますよ。ま、そこに領地を置くのも1つの手ではございますがね、あっしはこう進言いたしますよ」

 

 キンキ大陸北部を奪え。エレクトラははっきりと言った。この女は何て不敬なことをぬかしたか。イズヴァルトは烈火の如く怒り狂った。

 

「北部を! そこは拙者が崇拝すべきホーデンエーネン王家の版図ではござらぬか! 事もあろうに拙者に主君を裏切れと……ただではおかぬ!」

「あはは。その北キンキが今、とんでもないことになっているんですよ。パラッツォ教との戦争で散々な目にね」

 

 エレクトラは語る。キンキ大陸北部は今、エチウのパラッツォ教団との主戦場になっている。戦闘は一進一退を繰り返しているが、徐々にパラッツォ教軍に浸食されつつあるのだと。

 

 理由は明白だった。パラッツォ軍の数だ。弱兵ばかりだが北ホーデンエーネンの全軍の数倍を誇り、しかも寒さに強い。

 

 イズヴァルトがコーガに来ていた頃、既に北部の主要な港はパラッツォ軍に占拠されていた。最北端のツルーガニスクや東部最大の港湾・アヅチハーゲン。西のオバーマゲルクも陥落寸前だったのだ。

 

 北部諸侯は劣勢で意気地が折れかかっているそうだ。そこにカントニアの諸国とエルフ達の支援を受けたイズヴァルトが旗頭として割り入り、いくさをやめさせる。

 

 和睦にはパラッツォ教団には信徒の迫害をやめさせる事を条件とする。当然ホーデンエーネン王家は認めるわけにはいかない。

 

 どうにかしなければ、と北部諸侯思わせたところで北部諸侯を説得し、一緒に新しい国を作るのだ。

 

「その為の王様に、キンキ大陸とカントニア大陸で名が知られているイズヴァルトさんを……というのがあっしの策でしてね?」

 

 イーガ人の女間諜は目を輝かして呼びかける。さて、イズヴァルトはこの申し出にどう答えたのであろうか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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