聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
これは、サーガには無い真実の話。エレクトラがイズヴァルトに語った話の続きである-
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マイヤを北部の王国の女王に! 恋に破れたとはいえ、未だマイヤを強く思うイズヴァルトにとって、なんと甘く聞こえた策謀か!
「……女王に。マイヤを?」
「そう。女王にです。もし、スオニアのキッカワンテス家という他国の大貴族もつばを飲み込む家柄では足りないのなら、それならいっそマイヤさんを奪い返しなさい。そして王冠を彼女の額に載せてあげるのです。本当の夫として」
「本当の夫? ばかな! 今やマイヤは……貴殿の子息たるマルティン王子の愛妾ではござらぬか?」
拙者は知っている。エレクトラ=ガモーコヴィッツ。貴殿こそがイーガ王太子マルティン=トードヴェル=キョウゴクマイヤーの実母。
「そんな人物の妄言など聞いていられる訳がなかろう! まさに甘言でござる!」
「甘言だの戯言だの考えてから申しなさい! 聖騎士イズヴァルト。今の時代にあなたの様な英雄が梟雄となり、天下万民のための国を打ち立てるのです!」
その剣こそが何よりの証拠。暗黒卿の遺品、『ソード=オブ=ブロント』こそが覇王の宿命を持つ者の為の、王者の剣である、と。
「イズヴァルト! もはやキンキ大陸は新たな局面に向かいつつあります。ホーデンエーネンは老い始め、かつての勢いがなくなりつつある!」
「痴れたことを!」
「イーガはあれ以上大きくはなれない。大陸の端にあるという立地的な弱点もある。北部諸侯が不満を抱き、イーガに鞍替えしようともアカサカチハヤが邪魔をして上手く治める事は無理でしょう! ゆえに、王国を作るのです! 大きな、大きな国を!」
その国のあるじにマイヤを。イズヴァルトは後見役でいい。傍で聞いていたシゲニウスはわからなかった。
「……カツランダルク? なんだ、それは?」
「キンキ大陸戦国時代のナントブルグ一帯にあった国の王家の名前ですよ……前世では何てお名前でしたっけねえ?」
「忘れたか、藤本峰子? 渋川啓介だ。関東軍参謀本部第二部の渋川啓介。最終的な階級は大尉だよ」
「ふふ。本当は『辻機関』の工作員だったんじゃあ? 特務機関と共産スパイの仇敵の名前を忘れてませんかねえ?」
「……忘れちゃいない。蒋介石との和平工作を踏みつぶしやがって。ソビエトの淫らな混血児め」
シゲニウスは汚く罵ったが、エレクトラは動じなかった。エレクトラの前世、藤本峰子の母親はロシア革命から逃げてきた貴族の娘だった。とある好色な日本人実業家に飼われ、16の歳で峰子を産んだという。
「そのカツランダルクに、ホーデンエーネン王家の血が混じっている」
「……聞いたでござるよ。1年前に。イーガで」
「つまりはですよ、イズヴァルトさんの奥方のマイヤさんと、その姉のトーリさんならば錦の御旗となる資格がある……これについては急がねばなりません」
こんな話を仕入れたとエレクトラは言った。セイン王の側近や廷臣らは、トーリ=カツランダルクを国王の正妻に据え置こうと画策しているらしい。
「な……に……!」
「これはあくまで計画段階だそうです。カツランダルク御三家が強く推しているらしいですよ、この案は。あの人たちも王族みたいなものですが、どうやら本当の王家に入りたがっているようですね」
トーリと国王セインとの婚儀が成れば、今度は次の段階としてマイヤを何らかの方法でホーデンエーネンに呼び戻し、そのままセインの第二夫人にするかもしれない。
そうなれば錦の御旗として担ぎにくくなる。その前にマイヤだけでも手中におさめ、この建国の計画に担ぎ上げたい。エレクトラはそう告げた。
「し、しかしマイヤは今……」
「気にすることはありません。マルティンぼうやにはもう子供がいます。その子だけでもイーガにとどめてくれれば、母である私としてはなにも言いませんよ」
「エレクトラどのではなく、マルティンどののお心がどうかと気になっているのでござるよ」
あの場、イズヴァルトは確かにマイヤの意志を聞いた。
「もうマルティン王子と一緒にいたい。イズヴァルトとはもうお別れだよ?」
馬車による事故で両腕両脚を喪い、お腹の赤子も亡くしてしまった。そんな辛い出来事があったから、彼女は自分を遠ざけたのだろう、ともイズヴァルトは考えていた。
マルティン王子は、彼女を救ってくれたのだろう。ああそうだ。だからこそマイヤは自分を捨てて、マルティンにすがったのだ。
「マイヤは馬車の事故で身体を……」
「違います」
「なに?」
「それはあくまで、イーガ王国の公式発表。真実ではございません。イズヴァルトさん、本当のところは……」
エレクトラは知っている限りを全て話した。元夫であるアドルフが懸想し、暴走して為した事。3年間ずっとマイヤを囲い物にしたのだと。
「……で、ござるか?」
イズヴァルトの冷え切った声。
「はい。これはあくまで、知っている限りですが」
「決めたでござる。拙者はマイヤを奪い返すでござるよ……よくぞお申しくだされた、エレクトラどの」
敵対もしてかつ捕虜として目の前にいるエレクトラだが、よく申されたとイズヴァルトは思った。彼女も覚悟はできているのだろう。亡き元夫の、息子の落とし前をつける為に。
肚は決まった。イズヴァルトは口にこそ出さなかったがこう思った。奪還の折にマルティン王子と、マイヤが産んだ赤ん坊を討ち滅ぼしてやる。
この女を絶望させ、嘆かせた後で斬り殺してやる。それでマイヤの悲しみが癒える事は無いだろう。むしろ、産んだ子を殺されて恨みに思うはずである。
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コーガでのこの一幕と同じ頃、いいや、それよりもう少し前。イーガ東部にあるその港町の、パラッツォ教徒ばかりが住む内陸側の北の街区での出来事である。
その日の夜明け前である。まだ町は寝静まっていた。とはいえこんな朝早くに起きて、子供達が寝ている横で本日最初のセックスに明け暮れる夫婦もちらほらといたが。
それは突然起こった。各家屋の中に何かが次々と投げ込まれ、瞬く間に燃え上がった。炎は家の中にいた者らを残らず焼き払った。
悲鳴も物音も無かった。ただただ次々と投げ込まれては焼くだけ。その処理は驚くほど手早く、淡々と行われていった。
中には全身を焼かれながらも家から出た者もいた。しかし外に出た瞬間、刃が急所を貫いた。子供にも容赦無かった。
夜明けになると、街区の全てが炎に包まれていた。港町の他の地区の者達は、その時になってようやく気が付いた。
鐘が鳴り、消防の任に就いた兵士や魔道士達が馬に乗って向かって行った。その時には既に襲撃者の姿は無かった。
この事件の2日後。ホーデンエーネン中南部にあるナガオカッツェ公領のヨーシハルトスの館にて。
大公・ヨーシハルトスは来訪した1人の若者の顔を見た。カツランダルク党のうち1つ、ソーロー家の当主のケノービである。
「作戦は大成功だ。ゾウズジャヤのシャジとマァジによれば、町の住民全員を殺しつくしたそうだ」
「おめでとうございます。これでイーガは申し開きが出来なくなりましたね?」
「宣伝の手も打ってある。アヅチハーゲンにイーガ王の仕業だと広める者を向かわせた。コーザは騙せんだろうが、教団幹部らは信じるだろう」
若者はテーブルに置いてある焼き菓子を手に取り取った。ヨーシハルトスの手作りだが上手に焼けていてうまかった。
「なんという美味! 名のある職人に作らせたかと思う程でございますよ!」
「ふふ。シャジとマァジに学んだのだ。ゾウズジャヤのエルフは焼き菓子も得意だからな」
「サトウキビがございますからな。さて、私からも……」
ホーデンエーネンの廷臣のうち何名かが計画しているトーリ姫とセインの婚姻の事と、『おしゃぶり姫』の拉致奪還計画について。
廷臣らは国王とトーリの長子・オルフレッドの仲がとても良い事を利用し、王の養子にしようと謀っている。
アスカウ公でもあるトーリから物言いが来るだろうが、強引に取り決める。さらにトーリは築城での縄張り決めもなかなか得意な才人でもあると知った。
「あの美貌。王家に近い血筋ということで、陛下の正妻にして欲しいそうです。陛下は笑ってはねつけておりますがね」
「知っておる。何なら、俺の妾にならどうだ?」
「……難しいところですな。それともう一つ。マイヤ様もいずれは陛下の第二夫人に、と考えているそうですよ」
イズヴァルトはフラれたのだから気にしなくていいだろう。拉致奪還計画はトーリを国王の正妻にと願っていた廷臣らから持ち掛けられた。
「で、マイヤのほうの首尾は?」
「コーヅケーニッヒに潜入させました。弟のアナキンに手伝わせております。もっとも、あいつはイズヴァルトをイーガに定住させる計画だと信じているようですがね」
ケノービの弟・アナキン=スカルファッカーはまだ、イーガの魔道学問所で学んでいた。そろそろホーデンエーネンに帰らせたい。自分の手としてやって欲しい事がいっぱいあったからだ。
「マイヤの奪取はいつぐらいになるだろうな?」
「早くても今年の9月には。きっとホーデンエーネンの皆に喜んで迎え入れられる事でしょう。ふふふ……」
ケノービはほくそ笑みながら焼き菓子をもう1枚。うまい。ナガオカッツェ公にこの様な才能があったとは。
そのホーデンエーネンであるが、今やマイヤの人気はがた落ちだ。理由はイズヴァルトを振り、マルティン王子に嫁いでなおかつ子供も産んだからであった。あの『おしゃぶり姫』は苦労するに違いない。