聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
エレクトラの進言をイズヴァルトは自分だけでは考えないことにした。エルフ達に意見を伺う事にした。
「どう思うでござるか?」
あらましを聞いたパオレッタが即答した。
「無理……とはいかないまでも、上手くはいかんズラよ」
「姉ちゃんはそう思うズラか? オラはいい考えかと思ってるけど……」
「マリア。ニンゲンの政治ってのは面倒くさいもんズラ。オラ達みたくなあなあでやれる連中では無い。やれ王様だの貴族様だの、国の仕組みだの権威がどうのこうの……いくらイズヴァルトさんが人気者でも超えられない壁ってもんがあるズラよ」
エルフ達の集落は長こそいれどただのまとめ役。集会の時の議長という役割ぐらいしか権限が認められていない。
代わりにニンゲンがよくやらかす悪手の様な意見や決議は為さないし取り決めたものはうまくやる。それから、保守的な気風が強いから進んで難儀な行いに突っ込むことはしなかった。
「特に『うそつきエレクトラちゃん』が言う事は信用ならないズラ」
「そのう、うそつきエレクトラちゃんというのは、なんでござる?」
「あの嬢ちゃんの昔の仇名ズラ。あのがきんちょは時たまとんでもねえ、うわっついたホラを吹く癖があったズラよ」
イナンナが煎じた茶を飲みながらパオレッタは言う。サガミニアとカイロネイアのエルフが作った美術品を海外に輸出してがっぽりもうけたいとか、イーガにエルフ達を多く永住させ、魔道王国の名を永遠のものとしたい。
「そ、そんなことをでござるか?」
「ほうズラ。んなことやるとアカサカチハヤの魔竜さまに目を付けられるようなことを平気で。オラ達エルフはニンゲン達と、すみわけしながら仲良しこよしを求めているズラ。なのにあいつはニンゲンの面倒事を持ち込もうとする。迷惑極まりねえズラよ」
しかしイズヴァルトに王国をというのは面白い考えだとパオレッタは笑った。オラ達を後宮に入れて沢山子造りするズラか?
「おまんが声をかければ、里の女どもが100人ぐらい集まるズラよ?」
「そ、それは拙者の命が縮むゆえ、お断りいたそう……」
「つれねえズラな。ああそっか。マイヤちゃんが正妻の地位という訳か。だったらイズヴァルトさんのちんちんを巡って、女同士のきったねえ争いが起こりそうズラ」
その計画は止めておこう。とにもかくにもこの30年は、略奪したマイヤが閉経になるまでイズヴァルトとの子をばんばか産むほうが物事としては正しいだろう。パオレッタはそうぼやいた。
「で、オラはエレクトラちゃんのまわりくどい作戦を取るより、さっさとイーガに突っ込んで強盗をやったほうが手っ取り早いと思うズラ」
「そ、それはならぬでござるよ!」
「どうしてズラ? あいつらがイズヴァルトさんからマイヤさんを奪い取った様なもんズラ。やられたらやり返せ、というのが流儀ズラよ?」
それはできない。イズヴァルトはこう説明した。自分はいまだホーデンエーネンの騎士である。その自分が王子の妾を略奪したとなると、イーガとホーデンエーネンの関係が悪くなるだろう。
「うげっ……めんどくせえ」
マリアが舌を出して吐く真似をした。しかし面倒なことが何かと多いのがニンゲンの社会である。
決めた。イズヴァルトはこの様に事を為す事に決めた。
「まずはイーガの家臣になるでござる」
「またまた面倒なことを考える……」
「パオレッタ姉ちゃん。イズヴァルトさんは面倒なことを考えるお人ズラよ?」
「うっさいだまれ。イズヴァルトさんのおまんこのいじり方で充分わかるズラ」
「……で、拙者はイーガの武者としてひと働きするでござるよ。パラッツォとホーデンエーネンのいくさに割り入る。喧嘩両成敗のおしりぺんぺんで矛を降ろさせ、ついでにパラッツォの信徒どのらをいじめるのもやめさせる。それで平和になったら、拙者はマイヤ付きの家来に取り立ててもらうでござるよ」
パオレッタとマリアは呆れていた。おまん、その程度の見返りでええズラか?
「もうちょっと、欲深でいてもよくねえズラか?」
「姉ちゃんの言う通り。イズヴァルトさんは変につつましやかなのがよくねえズラ。それだったらマイヤさんの『精液蛇口係』で最初から仕官すれば……」
「それはもう出来ぬでござろう。しかし拙者はどんな形あれ、マイヤを見守りたいのでござる。愛するご婦人に陰の様に従う。もう拙者はそのぐらいで良いと思っているでござる」
護衛としてマイヤの人生を見守りたい。あの様に行動力があって頭の回転が速いおなごであれば、ただの妾では終わらない。いずれは大きなことを為すだろう。
しかもイーガの王子の妾でかつ、ホーデンエーネン王家にゆかりを持つ出自である。イーガとホーデンエーネンの良き架け橋になるに違いない。両国の未来を思えば自分の恋慕などささいなことである。
「そっか……」
「どうする、姉ちゃん?」
パオレッタは冷たく言い放った。少なくとも自分とマリアは手を貸さねえズラ。
「……それはいかなる理由でござる?」
「自分の本能のまま生きるエルフから見りゃ、そういう生き方は不健康そのものに見えるズラ。そんなんだったらエレクトラちゃんの無謀な博打につきあったほうが、まだましズラ」
「ちゅうこん、イズヴァルトさん。オラとパオレッタ姉ちゃんは手を貸さねえ事に決めたズラ。おまん、もてもてなのに女心に鈍いところがあるズラな。そんなんだからマイヤちゃんに捨てられちまったんズラよ?」
イズヴァルトは深く傷ついた。ついでだが1晩姉妹とやっていくかとパオレッタに問われると、うなだれたまま無言で天幕から出て行ってしまった。
パオレッタとマリアに断られたイズヴァルトだが、めげるつもりは無かった。イナンナとクリスタに聞いてみよう。2人は同じ天幕で薬の調合を行っていた。コーガのこの辺りで生える薬草を使って腰に効く薬を作るだという。
「腰にでござるか? どなたに?」
「シゲニウスさんズラ。ホージュリアさんがああなっちまったから毎日朝晩とおまんこの相手をして、つかれちまっているらしいズラよ」
「あと、おら達エルフとおまんこをしている男の子みんなにも飲ませてあげるずらよ」
「……拙者も欲しいでござるな」
ともかく相談だ。2人は「まあまあいい考え」だと答えた。しかしイズヴァルトが王様、あるいはマイヤを女王にという計画は寂しくなるから嫌だと笑った。
「そうズラなあ。オラならそのトーリっていう姉ちゃんに女王様の王冠を押し付けて、イズヴァルトさんとマイヤさんにはツックイーでのんびりと暮して欲しいズラよ」
「王様になって何かをしたい、というのが叶えればいいけど、やっぱりどうにもならんというのが世の中の常ずらよ」
「拙者も、ちやほやされるのは性に合わぬでござる」
とはいえイナンナとクリスタは手を貸そうと返事した。シゲニウスやツックバーのメルビナに声をかければ兵士を貸してくれるだろう。
翌日の昼、イズヴァルトは当のシゲニウスに呼び出された。一緒にいたエレクトラは解き放たれてホージュリアに懐かれ抱き着かれていた。
にこにこと笑うエレクトラのお尻に腰をすりつけ、「うひー」と漏らすホージュリアの顔は、だらけきって凛々しさはみじんも無かった。
「手を貸すよ、イズヴァルト」
「どうしてホージュリアどのが……」
「エレクトラを信用してホージュリアに夜伽話をさせたのがいけなかった……藤本峰子は女も篭絡できる奴だったことをすっかり忘れていた」
場にはツックバーの武将もいた。シゲニウスが言う。ウマヤーノに協力してもらって西海岸地方から船を出す。ホーデンエーネンに渡れる。数十名の武芸者を連れて。ヒッターチとツックバー、両方から集まった者達だ。
「数十名、というのが数が少なくて心もとないが、イズヴァルトがあのダニェル=イヴァノフと互角の猛者だと聞き慕った者たちだ。あと、君の美男子ぶりに惚れた者もいる」
「おしりが痛くなる旅路になりそうでござるな。まあ、男色は騎士のたしなみゆえ、拙者は構わぬでござるよ」
「……僕はちょっと遠慮するよ」
後から来たイナンナとクリスタからも返事があった。エルフの衆の何名かが手を貸してくれる。ざっと10人はいる。
その中にはもちろん、2人が含まれていた。イズヴァルトの事を深く心配しているマルカスもついていくらしい。
「と、なればどうするか……藤本峰子」
「へへ。なんざんしょ、シゲニウス殿下?」
「今回はお前を信じる。イズヴァルトさんにマイヤさんを取り戻させろ。出来なければ……僕の手で打ち首にしてやる。覚悟しておけ」
「ふふ。ご厚情、ありがたいこって」
エレクトラはその場で跪いて頭を深く下げた。シゲニウスはもう1人、イズヴァルトにつけることにした。
「あいつを呼べ。どうせサガミニアに帰っても博打にうつつを抜かすだけだろう」
やって来たのはミツクニュモス=ミートパトロスという男。ヒラッカの町でホージュリアと合流し、エルフ達の捕虜となった者のうち1人となった。
イズヴァルトの7歳年上で無精ひげを生やし、飄々とした様子の色男。かつてはサガミニア地方の各自治都市と関係を結ぶ役を担っていたが、博打や女遊びにうつつをぬかしていたのでお役御免となった。やればできる子の類なのだが。
「お久しぶりですな、騎士イズヴァルト」
「あまりかたっ苦しい言い方は抜きにしていただきたい。拙者は貴殿より年下でござる」
「ま。そうだったな。じゃあこれからはよろしく! 通訳として手を貸すよ」
ミツクニュモスはそもそもがヒッターチの外交官で貴族だ。剣は期待できないが国際情勢に詳しく、海の外も巡ったりもしていた。
「正直、刺激の無いサガミニアでぼんやりしていたのに飽き飽きしていたんだよ。この旅はなかなかに楽しめそうだね」
「あまり気楽に考えないでいただきたいでござるよ?」
かくしてイズヴァルトはエレクトラらと共に西へ向かった。コーガのへファイスティオンに用意させた河船に乗り、おおよそ10日。ウマヤーノ共和国に入った。
ウマヤーノはカントニア大陸で一番人口が多い。人口は8000万人ほど。ホーデンエーネンの倍以上だ。
国土の半分くらいが広大なミナッカミニア山地でエルフ達が住んでいる。残りの平野部や丘陵部でニンゲン達が暮していた。
水が多く土地質も決して貧しくはないのだが、寒冷で実る作物は限定される。北地麦やこうりゃん、蕎麦やコンニャクイモがおもな穀物であり栄養源だ。
立ち寄った街の食堂で蕎麦入りパンと芋のシチューを食べて難しい顔をするイズヴァルトに、ミツクニュモスは苦笑しながら語った。
「ヒッターチやウツノミーアに比べて寒いんだよ。だからこんなもんしか食べられない」
「なのにカントニア大陸で一番の人口が、でござるか?」
「まあな。寒くて喰いもんはまずいが、土地は広くて大陸の歴史では割と平和な地域だったんだ。それと何より、この国の人々はとても頑健なんだ」
理由だが、エルフとの混血がそれだ。古くからこの地方の民はエルフと血を通じ合わせていた。金色エルフは南のエルフ達よりも多産。男の精液とニンゲンの女の卵子との相性もいい。
医療が進んでいるのもある。ウマヤーノはカントニアの他の国と比べて病院が充実していた。ホーデンエーネンでは見捨てられる貧民もある程度の治療を受けることができた。
「おまけにこの気候だね。毎晩誰かと肌を重ね合わせてないとやっていけないだろうよ。空っ風が吹くから子だくさんになるわけさ」
「寒いと妙に、寂しさが募るからでござろうかな?」
「それもあるだろうね」
ウマヤーノは売春が、有り余るほど盛んだと言われている国でもある。立ち寄ったその町の門の付近で娼婦たちを見かけた。
エルフの血を濃く継いでいる様な美人で若い娘が、前と後ろに穴があいていて丸見えのズボンを履いていた。投げキッスをイズヴァルト達に施していた。
ウマヤーノの娼婦の中では下層に位置するハーフエルフの売春婦だ。股を丸出しにする者はまだ上等な部類だとミツクニュモスは言った。
「ひとつ注意だ。ああいう手合いのは気をつけろよ?」
「……買うつもりはござらぬが、何故でござる?」
「絶対に性病を抱えているからだ。安全に抱けるのは娼館付近にしかいない。俺のダチ公も何人か、安いからってお土産もらって苦しめられた」
ウマヤーノ人はエルフの血が濃いから性病にかかりにくいが、病原菌はしっかりと保有している。特に性が安値で買えるから、まん延しているのだとミツクニュモスは言った。
「この国がやばいのは、何もあれだけじゃないぜ?」
イズヴァルトが驚かされたのは、その街の食堂だった。便所の前にぼろが目立つ服を着た、10才にもならぬ娘が椅子に座っている。
「あれが便所で相手をする便所娼婦だ。最底辺のうちの1つさ」
スカート丈がとても短い。かろうじて太ももの付け根を覆っているぐらいだ。手っ取り早く股を開けるようにである。顔かたちは決して悪くはなかったが、手足がやけに細っていた。
ちょうど用を催してきたのでイズヴァルトは便所に入ろうとした。すると娘が上目遣いで声をかけて来た。
「お金さえくれりゃ、口でもべっちょででも相手するべえよ。けつのあなだけはかんべんな。おれ、あったかいメシと服が欲しいべえよ」
イズヴァルトは慈悲心を起こして銀貨を1枚与えようとすると、後ろにいた男にどやされた。この娘の商売の邪魔をするな。
「こいつは春をひさいで社会勉強をしているんだべえよ!」
「さ、さようでござったか……あいすまぬ」
「わかったか! それと銭は返させるな。おめえさまからのおごりつてことで、授業料だべえ」
男は娘の手を引っ張って便所に入ってしまった。それから男のうめき声があがり、女の子の喘ぎ声が耳に入って来た。
(これがウマヤーノでござるか……。)