聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
イナンナはクリスタにサキュバスアイスクリームを「はい、あーん」されながらハーマイオニーから話を聞いた。とぼけているがやっぱりクリスタは考えていたらしい。
「どーにもトーリっていうお嬢が、変なことを企んでいるらしいから相談を受けてたんスよ。おまんら魔竜さまの部下だから、ちゃんと監視してんのかって」
「そんで、おまんらはそん為にここに住んでいるズラか?」
ハーマイオニーは否定した。そんなわきゃないっスよ。表では冷戦状態のホーデンエーネンとアカサカチハヤの、裏の外交口としてこの店はあるのだという。
それからホーデンエーネンにこっそり滞在する魔族の交流場でもある。魔族はニンゲンに化けて生活しているので、ここで情報交換もするのだと。
「正直、商売としてはやっていけてないっスよ。サキュバスアイスクリームは、食通のかたがたには絶品だと褒められているんスけどね、ニンゲンさんで来る客の殆どは、キワモノばっかりで数がそんないやしません」
最近はこういうサービスもつけて顧客開拓をしているのに。ハーマイオニーは店の奥にいた水色の店員に呼びかけた。
安っぽい砂糖菓子のにおいを漂わせ、表情に不幸そうな影をのこす女店員は、3歳ぐらいの童女を連れてきていた。エプロンがついたメイド服を着た娘だ。
「そのコはなにもんズラ? おまんが産んだズラか?」
「いえいえ……ワタシのお友達の子です。もちろんサキュバス。これでもれっきとした店員さんですよ」
「ほうズラか?」
イナンナが女の子に呼びかけると、「はーい!」と元気のいい返事が返って来た。ハーマイオニーが呼びかける。お仕事して。
「わかりましゅたー!」
女の子はハーマイオニーが持って来た牛乳のコップを手に取り、ごくごくと飲むとイナンナに飛び込んできた。
そのまま彼女の肩にまでうまくよじ登ると、スカートをめくって可愛いお尻を出してねだった。
「おちりにぶっちゅしてくだしゃい!」
「イナンナさん。やることはサキュバスアイスクリームの直食いっス」
「ああ、そういうことズラな」
イナンナは愛らしいお尻についた窄まりに口をつけた。小さな店員はふぬぬと気張り、少しずつだがイナンナの口の中に甘くて冷たいものをひねり入れた。
(こ、こりゃあたまげたズラ!)
オーラフの尻からぶりゅぶりゅ出たものより数倍甘い。しかもコクがある。
「このサキュバスのちびっこ、とても良いところのズラか?」
「んっ! ちがうっスよ。これでも下級の出自の子っス」
それでも愛らしくて可愛いことはこの上無い。直食いを終えた後もイナンナはこのサキュバスの子どもの魅力にまいって抱き寄せていた。ハーマイオニーに尋ねた。養っていいズラか。
「お断りっス。ていうかエルフの村に住むと、淫魔として育つのに最低限必要な精液が得られそうに無いっスからね」
「おっしゃるとおりズラな。オラ、しょんぼりズラ……」
育ち盛りの子供サキュバスは、とにかく精液の摂取が必要だ。小さい頃からちんぽをぺろぺろと舐めてびゅっと出たものをすすり、穴にねじ込まれた先っちょから吸い取る必要がある。
人間でも動物でも何でも、1日200ミリリットル以上の精液摂取が必要だという。欠乏すると成長期が長くなる。搾精に最も適したボインでむっちり尻の完成体型になるのに、倍以上の歳月がかかってしまうのだ。
「そんなにか。そりゃあ仕方ねえズラな。特にカントニア大陸じゃあ、オラ達の『姉妹』がいるから、なかなかに精液を得られねえズラ」
サキュバスの話はその辺でいい。かつてあったナントブルグ王国の末裔が裏で、なにか色々とやっている件で話したかった。
その話にはハーマイオニーと共にオーラフが加わった。今現在は『静観』なのが魔竜の意向だという。トーリがホーデンエーネン国内でのみ活動してくれれば見張れるのでかまわない。
「魔竜さま、先祖返りも大いに結構と言ってたわ。大問題が起きない限りは放っておきましょ、という事よ」
ついでながら先祖返りを果たした場合、つまりはトーリがサキュバスそのものとなった時には、魔竜自らが尋ねに来るようにする。
王宮にもコンゴウアミダラデンの協力者を潜伏させていた。先祖返りだが、トーリはあと20年ぐらいで果たせるだろう。
問題はトーリがよくない野心を抱いて海外進出をし始めるか、あるいはコンゴウアミダラデンに攻めてくる場合である。クリスタが首を傾げる。トーリさん、魔竜さまに勝てるんずらか?
「先祖返りを果たして、なおかつあらゆる魔族の魔法を覚えた場合は、さすがの魔竜さまもちょっとやべえことになるかもしんないっスね」
「アナタのお友達のイズヴァルトさんが手を貸したら、それこそコンゴウアミダラデンにまでホーデンエーネン軍が攻めてくるかもしれない」
「その上にエルフやオーガやドワーフの衆でもわるいこをかき集められるんなら、魔竜さまもお城を追い出されるってわけズラな?」
大いに有り得る。ハーマイオニーは過去に1度だけそんな事があったのを体験したことがある。イーズモーの暗黒卿が人生の最後にやった大勝負がそれだった。
万の軍隊ではなく数千程度だったが、どれも選びぬかれた猛者ばかり。更に、サイゴークのドワーフやムーツのオーガ、ミナッカミニアのエルフらが軍隊に加わった。全員が倫理観の無い悪党だった。
この侵攻にアカサカチハヤに住む魔族達は圧倒された。なすすべも無かった。暗黒卿と無双の妃騎士エリザベス以下、その当時の最強の軍勢は、コンゴウアミダラデン付近にまで攻め込んだ。
その頃にもアカサカチハヤにいたハーマイオニーは、一大事ということでサキュバスなのに兵隊に入った。戦ったが捕らえられた。
暗黒卿の陣中で慰安婦として充実した吸精生活を送る最中、彼女はゴブリンとの子を孕んでしまった。産んだ子は現在、魔界に住んでいる。
ハーマイオニーの子はやや鼻が大きな、たばこの栽培と喫煙が大好きなサキュバスだ。その父親だが捕らえられた後に魔王の部下となり、別の世界に飛ばされ、働いていると聞いた。
暗黒卿との戦いに魔竜はかろうじて勝ったが、魔界の調査官から激しく叱責された。こういう事が無いようにもっと監督と指導をきっちりやりなさい。
よって魔竜はもっと目を配るようになったのだが、最近はコーザ=ストーンマウント率いるパラッツォ教の件で頭を悩ませている。
コーザはこの世界の史上最大最高究極の魔道士と恐れられたコージュ=ストーンマウントと、魔界を大混乱に陥れた大淫婦・クラリスの実子。その才能は図りしれず、カリスマはとてつもない。
エチウ諸島を拠点に、サイゴークとホーデンエーネンに手を伸ばしている。亜人の猛者や密航組の魔族を配下に加え、無視できない強大な勢力になりつつある。
そんなのとトーリがもし手を結び、コンゴウアミダラデンを挟み撃ちにすることがあったら、という話も魔族の間に出て来ていた。ハーマイオニーはそれでもいいのではないかと思うが、実際はそうもいかない。
「その通りっス。で、エルフやドワーフ、ゴブリンら『精霊の末裔達』はトーリさんに絶対手を貸すな、というお触れを近々に出すつもりらしいっスね、魔竜さまは」
ただ、トーリがコンゴウアミダラデンに歯向かってくるまでは討伐の対象にしないだろう。それだけは約束できるとハーマイオニーは言った。
クリスタは釈然としなかった。もはや手遅れになった場合はどうするつもりずら。オーラフがどうにもならない、とぼやいた。
「魔界からの監視役はあくまで平和的な予防措置しか取れないの。基本、この世界の事はこの世界の人々が解決するという考え方だから」
「けど、トーリさんはおまんらの……」
イナンナが、オーラフとハーマイオニーの真剣な眼差しを目にしたその時だった。ナントブルグの街の、いくつもある高い物見塔で鐘が打ち鳴らされた。
けたたましく耳障りなその音は大火事か敵が攻め込んで来た時に打ち鳴らされる決まり。オーラフが外に出て転移魔法で空高くあがって確かめる。火事ではない。つまりはもう1つのほうの知らせだ。
□ □ □ □ □
この時、ナントブルグの南東にある丘陵に置かれた要害に、南天騎士団が集結していた。四大大公らは密かに兵を進めていたのだ。
丘の西側に小型の投石砲をずらりと並べ、城市に向けて撃ち始めていた。但し散発的で城壁には届かない。要するに脅しである。
その上で大公らは王宮に使者を送っていた。イズヴァルトに対する弾劾状を持たせてだ。急いでいたのか汚い文字でこう書かれていた。
「騎士イズヴァルトこそがナガオカッツェ公殿下暗殺の首謀者であると確かな情報を得た。よってこちらに身柄を引き渡すか自害させるか選んでいただきたい。さもなくば実力行使だ」
国王や廷臣らはこんな話を聞くつもりは無かった。セイン王は妾との情交中に知らせを耳にすると、すぐさま具足を家来につけさせ、廷臣たちの前に現れた。
「仕方ねえな。俺自らが打って出るぞ」
王都の守備兵力は1万。そのうち3000は国王直属の近衛隊。去年のイーガとの戦いにも加わった猛者ばかりである。
国王が出陣すれば南天騎士団も震え上がる。戦いをやめるだろう。よしんば目論見が外れても周辺の領主達からの援軍が来るはずだ。そうなれば総勢2万は見込める。
セイン王は猛将だ。この頃のホーデンエーネンにおいては5本の指に数えられる武将として、国内外から見られていた。軍を率いれば南天騎士団に負けるはずがなかった。
皆が動き始めた時、イズヴァルトがトーリに連れられて現れた。前に進み出たイズヴァルトを見て国王は苦笑いを浮かべた。
(イズヴァルト、おめえは気にせずトーリとやってりゃ良かったのに。しかしずいぶんやつれたなあ。)
イズヴァルトはセインの想像どおりに進言した。ここは拙者1人が向かうでござる。軍を動かすのは不要でござるよ、と。
「イズヴァルト、そいつはだめだぜ。南天騎士団は俺に対して喧嘩をふっかけた。なら、俺がその喧嘩を買うまでだ」
「ではござるが……そもそもが拙者のおこないが引き起こした事でござる。拙者が説得いたすゆえ、王都でどっしりと構えていただきたいでござる!」
セインは廷臣らとともに説得した。しかしイズヴァルトは考えを変えなかった。仕方がないと嘆いてセインは、一人で門を出るイズヴァルトを見送った。