聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
その黒い影をかつて、イズヴァルトは見たことがあった。
2メートル以上の体躯。衣と鈍色の鉄甲に覆われた丸太の様に太い腕。黒装束と黒い服に身をまとっているが、あの日見たあの男だとすぐに思い出した。
相手は黒マントのフードを脱いだ。茶色い毛に覆われた猪の様な顔。魔界のオーク族のそれである。物静かなままでちらとイズヴァルトを見る。感情はうかがえなかった。
「ヤギウセッシウサイ……」
女戦士ヴィクトリアを圧倒し、絶望させた魔界の剣聖。ヴィクトリアから借り受けた『姫竜の牙』と『覇王の剣』で辛うじて追い返したが、絶対に勝てない相手がこの世にいるとイズヴァルトに知らしめた最初の人物であった。
しかし、成長した今なら勝てるかもしれない。イズヴァルトの身体の中で闘志が爆発を起こした。全身の血の巡りは早くなり、目の前の敵を討てと骨と肉に心が命じる。
「拙者の邪魔をするつもりかあぁぁッ!」
聖騎士が咆哮する。ヤギウセッシウサイはやっとの事で口を開いた。
「頭を冷やすのだ!」
しかしイズヴァルトの身体は抑えが効かなかった。持ちうる最高の力で跳躍し、餓狼のごとくオークの男に攻めかかる。太陽の光に照らされた覇王の剣の刀身がきらめく。光の精霊達が飛び回るかのような動きだった。
常人、いや、そこそこの亜人の戦士でもただでは済まされない斬撃である。しかしヤギウセッシウサイは呼吸を乱すことなく黒い刃で受け止めた。
刃が衣に届く事は無かった。それぐらいにヤギウセッシウサイの身の動きは俊敏だった。これにクリスタとイナンナが助太刀する。『つらぬきちんちん丸』と重いハルバードが、魔界の戦士に襲い掛かった。
3対1。ヤギウセッシウサイも流石に防ぎきれなくなった。マントが切り裂かれ、手甲と刃が火花を散らす。やれる、とイズヴァルトは確信した。この男を討ち果たせる。
しかしクリスタとイナンナは心の中で悲鳴をあげていた。魔界で最強と言われる男と戦うなどというハメになるとは。彼女達もヤギウセッシウサイを知っていた。
魔竜の側近であり武勇比類無しと言われる恐るべき猛者。イズヴァルトにさがれと叫びたかったが、そうもいかなかった。深入りし過ぎている。念話魔法で呼びかけていたが、聞いてうなずいてくれる状態ではないと気づいた。
それにしてもがセッシウサイだ。3人の猛攻をことごとくかわし、打ち払っている。底知れない強さ。それ以上に。
(……やっぱし、おまんこで勝負したいズラ。)
(孕まされたくなるぐれえにいい男なのに、もったいねえ!)
この男に魅了されていた。猪の頭と武骨そうな姿に、濃い色気を感じていた。とてつもなく強い男は気の強い女エルフを雌にさせてしまう。2人の股は余計に濡れ、ズボンの内股にシミを作っていた。
その欲情が彼女達を本気にさせた。ひっとらえて一週間犯してやるズラ。イナンナとクリスタは理性を失い、狂ったようにかみついた。イズヴァルトが餓狼なら2人は貪狼。取り巻いて見守る兵士達は最強の亜人と魔族の戦いに固唾をのんだ。
ヤギウセッシウサイが声を発した。待て。でもそれはいよいよ追い詰める状態になったのだとイズヴァルトらに思わせた。しかし違った。ここからが彼の本気だった。
マントをひるがえしながら身をかわすセッシウサイの左手に、いつの間にか真っ白な刃の幅広の剣が握られていた。彼は黒い刃の剣と重ね構え、十字になったのをイズヴァルト達は見た。
「仕方が無い。『黒の忠節』と『白の反逆』。この二本を抜かせた君達に……」
言い終わる前にイズヴァルトが突っ込み、クリスタとイナンナが側面から襲い掛かる。しかしセッシウサイは動かなかった。
「圧倒という言葉を、その身でもって知っていただこう」
静かに言った。それでも周囲の者は耳に出来た。笑わせる。今絶対絶命なのはお前の方だろうが。嘲笑した兵士達だが瞬きする間に恐ろしい物を見てしまった。
白と黒の刃が軌跡を描き、イナンナとクリスタを弾き飛ばしたのだ。『つらぬきちんちん丸』とハルバードの刃がこぼれ、空中で舞った。
ヤギウセッシウサイの剣は、まだとどまらなかった。2人をやられたイズヴァルトが怒号をあげ、上段から振り下ろした『覇王の剣』を白い刃で受け止め、もう1本の黒いのでたたき割ったのだ。
「イズヴァルトの剣が!」
「なんてやつなんだ!」
剣は真ん中で叩き割られた。切り離された片方はヤギウセッシウサイの足元で刺さった。しかし1メートル半ある剣だ。半分の長さになってもまだ使える。イズヴァルトはイナンナとクリスタと共に斬りかかった。
が、それも無駄なあがきというものだった。クリスタのハルバードは粉砕され、イナンナの両手首に深い一撃を喰らって退いた。
イズヴァルトは黒い刃の切っ先で右肩を突きえぐられた。激しい痛みが起こる。引き抜かれた刃はイズヴァルトの眉間を裂いた。
イズヴァルトは止まらない。力を失った右腕を諦め、剣を左腕のみで持つ。負傷する前と変わらぬ動きで舞う。けれどもヤギウセッシウサイには届かなかった。
ことごとくが払われ、かわされた。出血し、焦るイズヴァルトのみぞおちにヤギウセッシウサイは強い蹴りを入れた。吹っ飛ばされて転がされたイズヴァルトだがまた立ち上がる。
「イズヴァルト! 君は何のために戦う! 殺そうとする敵はどこにいる!」
「そこにいるでござる、ヤギウセッシウサイ! そなたが拙者を邪魔だてする敵にござる!」
「馬鹿を言うな! 俺は君達を止めに来たのだ!」
セッシウサイはオーラフの名を呼ぶ。乳房がとても大きな裸身のサキュバスがイナンナの前に現れた。羊のそれの様なツノと蝙蝠の様な羽根が生えた魔族の女。
オーラフの同僚であるハーマイオニーもまた、一糸まとわぬ姿でヤギウセッシウサイの横に。現れたのは2人だけではない。オーラフによく似た裸のサキュバスがもう2人。
金髪で乳房の小さなエルザと、茶髪で乳房はほどほどのもう1人。アナという名前のサキュバスだった。オーラフの姉2人である。
「セッシウサイ様。次はどうするっス?」
「幻惑魔法で南天騎士団を足止めしろ。俺もにらみを利かす。イズヴァルトはもう、手を出せないだろう」
イズヴァルトは治癒魔法で手首の応急処置を施してたイナンナに、もう少し戦えるかと尋ねた。二度と医者の仕事ができなくなるのを覚悟すれば、とイナンナが答えた。
「クリスタさんは無理させちゃなんねえズラ。お腹にマルカスさんのあかちゃんがいるみてえズラよ」
「……ならば、拙者一人で何とかするでござる」
イズヴァルトは右手で印を切る。重圧の魔法でオーラフを叩きつけ、爆炎弓箭をヤギウセッシウサイに食らわせるつもりだった。
しかし、背後に音を立てずにジェベが立っていたことに気づけなかった。首筋にしびれ吹き矢を受けてよろめいた。身体の自由が利かない。イズヴァルトは右膝をついて伏した。
「……すっかり、忘れていたでござる」
「イズヴァルトさん、あきらめな。あんたじゃヤギウセッシウサイさんには勝てないよ。それと取り巻いているサキュバス達。あいつらは魔竜様の側近たちだぜ?」
「サイカノマゴイチの?」
イズヴァルトの頭の中に、その声が届く。
「せやで、あんさん」
おもてをあげればそこに、紅い衣に身をまとった、くどい顔のシマーヅ人みたいな顔立ちの浅黒い肌の美女が立っていた。
この女の顔こそイズヴァルトは忘れられなかった。9年前に会った魔族の女王。サイカノマゴイチだ。
彼女はいつの間にか、彼の目の前にいたのだ。
「魔竜……ここで何を為そうとするつもりでござるか?」
「あたしゃなーんもたくらんじゃおりまへん。あんさんと南の領主さんらの和議の仲立ちに来ましたさかいに」
「なにゆえ、でござるか?」
「教えんでも想像つきまっしゃろ? そもそも、あたし直々に出張ったんは、昔の部下の子孫ちゃんが絡んどるから来たんやで?」
魔竜は言う。あんさん、侵されてますなあ、あの嬢ちゃんに。イナンナをちらと見て「あっちはちょびっとばっかし」とぼやいた。
「トーリというお嬢ちゃん、やっぱり手ごわいわあ。けど、少々イキり過ぎてんのとちゃいますやろか?」
「心理操作? その魔法をかけられている? トーリどのに? 拙者が!」
「ホンマやで。あ、この術式そーとーに強烈やわ。たぶん……困りもんのクラリスとええ勝負の洗脳術式やで。オーラフ?」
「はーい! なんでしょう?」
「けがを治して服を破っとくから、あんさんはこのボウヤの洗脳術式を解いてやって。あっちのエルフの……ようわからん魂のかたちしておるけど……あのイナンナっちゅうのは時間がたてばどうにかなるから、怪我だけ直して放っておくわ」
あっという間だった。イズヴァルトの眉間と右肩の傷は塞がれた。ズボンの股間のあたりに紅い光の線が走ると、ぱっくりと空いてイズヴァルトの陰茎が露出してしまった。
それを見たオーラフは目を輝かせてイズヴァルトに飛びついた。さっきまでは血と埃に包まれていたのに、今は淫魔の甘い香りに圧されている。
「さあ、しゃぶって?」
オーラフが右乳を差し出した。淫欲をかきたたせるにおいで理性を失ったイズヴァルトは、桜色の乳首を口に含んだ。甘ったるい味が口の中で広がった。
力を失っていた陰茎は、たちまち怒張してそそり立った。オーラフは乳房を含ませながらイズヴァルトにまたがる。股間の奥で力強いものに喰らいつくと、乳房と尻を揺らせて気持ちよさそうによがり始めた。
「う、ああ~ん! きもちいい♡」
イズヴァルトも深めのヴァギナを持ち、濃厚な女陰臭を放つサキュバスとの交合が始まると腰を動かして貪り始めた。両者が気持ちよさげに喘ぎ始めると、魔竜とヤギウセッシウサイはそっぽを向いてイナンナに近づいた。
「何を聞きたいズラ?」
「ちょっと聞きたいんやけど、あんさん。ほんまにツックイーの白エルフかいな?」
ヤギウセッシウサイは目を見張った。主は何を聞きたいのだ?
「この見てくれは誰がどう見ても、ツックイーのエルフズラよ!」
違うわけあるもんか。イナンナが否定すると魔竜は腕を組んでイナンナの瞳をのぞき込んだ。
(この世界の精霊の加護っていうのが、どうにもうかがえへんな……。)
何かを探られている。イナンナはクリスタがエルザとアナの2人に介抱され、こっちを見てないのに気づくと瞳を輝かせた。
エルフの緑や青ではなく、金色の瞳だ。途端、彼女の頭に2つの白い毛に覆われた出っ張りみたいなもが生えてきたのを、魔竜は目にした。
(ツノ……いや、これ、耳やで!)
幻覚ではなくまさに本物だろう。そう思った時にイナンナは姿を消していた。ヤギウセッシウサイが悲鳴をあげる。右脚に深い斬撃を受けて血を流していた。
「なんやねん!」
「魔竜さま! あぶのうございます!」
「わかっとるわ! ハーマイオニー、オーラフとエルザとアナを守りなはれ!」
そんなことはやっているっス。ハーマイオニーははるか上空で、見えない敵と漆黒のダガーで斬り合っていた。ヤギウセッシウサイがやられたのを見てすぐさま、相手とともに転移魔法で自分ごと大空に飛ばしたのだ。
彼女はすでに、右のツノと左手の小指と薬指を深く切り裂かれていた。淫魔の中でも戦士としての特性に優れ、本業の雑誌のレイアウトデザイン以外には、義勇兵として数々の戦いに参加してきた猛者だった。
たびたび平和な魔界を襲う、『ゆうしゃ』と呼ばれるならず者の集団と激戦を繰り広げたこともあった。彼女はナイフや小剣を呼び出して周囲に飛ばす。
姿が見えなくなった。しかし、上からの気配が。
ハーマイオニーは漆黒のダガーで受け止めた。目の前には憤怒の形相の4つの耳の何かが、刃こぼれした剣を握っていた。この世のものとは思えない美貌。サキュバスの中にもいるとは思えぬ程のだ。
「あんた、なんなんスか!」
「うるせえなあ。正体をのぞこうとしたからこうするだけ……」
それは背後を振り返った。いくつも巨大な火球が飛んでくる。魔竜か。そうつぶやいただけで雄たけびをあげた。火球は雲散霧消した。
けれども火球は隙を作る為の罠だった。ハーマイオニーが、いつの間にか上空に来ていた魔竜とヤギウセッシウサイが羽交い絞めにしていた。
「ハーマイオニー、こいつを眠らせるんやで!」
わかっている。ハーマイオニーは4つの耳を持つ頭をつかみ、魔力の波動を送り込んだ。もがいていた者はすぐに大人しくなった。