※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

224 / 767
05 思惑

 王太子妃様は乳児退行プレイにはまるほどに身体と心が疲弊している。あんな状態ではいずれ、王家に見捨てられるだろうとアナキンは兄への手紙に書いた。

 

「正直、側で見ていて辛いものがあります。あんなものは見てはいけないものですよ。見ているこちらがへこまされます。兄上、しばらくマイヤさまと関わるのはやめようと考えております」

 

 ピルリアとの4人目の子の出産準備もある。そっちのほうが大事だ。あと学業も。魔道学問所の留学はもう1年延びる事となっていた。

 

「それと、兄上がマイヤ様とおっしゃられる王太子妃ですが、あれはそもそも偽物です。ローザという漁民の娘で、マイヤ様のそっくりさんですよ」

 

 あんなのと付き合わせる役目を押し付けるよりは、本物のイズヴァルトとマイヤを探す役目を命じてくれるほうが有意義だ。2人とも兄の手紙によりホーデンエーネン国内にはいないと聞かされた。

 

(2人ともいないのか。もしかしたらカントニア大陸にいる可能性があるだろうな。あの戦いでエルフを引き連れていたと聞いたから、今もド田舎カメムシ臭エルフ達の世話になっているだろう、どちらも。)

 

 聞いた話によればツックイーとカイロネイアはとてもいいところらしい。釣りができる森林キャンプや満天のお星さまを拝める山キャンプを楽しめるそうだ。

 

 それからエルフ達は芸術方面で長じている。絵や楽器が得意。エルフ達と通じているサガミニアの自治都市群もそれ相応に面白い町がいくつかあるそうだ。

 

 どうせなら旅をして見聞を得たい。英雄にだってなってみたい。アドルフ様から魔族殺しの剣法も学んだ。転生人の冒険者なんてよくある話じゃないか。俺にもやらせてくれよ。

 

 束縛から解放される期待を込めて書いた手紙の返事はこうだった。俺の頼みを引き続き受けてくれ。今年の9月の末まででもいい。お前がローザと呼ぶその女に近づき、仲を深めて欲しい。

 

「それで10月ぐらいにトーバコフあたりでの旅行を計画してほしい。日帰りで十分だ」

 

 この頼みが理解不能だった。兄は何をのぞんでいるのだろう。旅行ぐらいはマイヤから提案されたぐらいだが、こちらから求めるのはどうにも合点がいかなかった。

 

(まさか……兄さんはローザの秘密を手にいれた?)

 

 それなら合点がいく。ローザはただの漁民の娘にしては頭がよく回りすぎる。前世の出来事、と言う作り話も事細かい。マイヤ本人ではないにしろ、転生人の可能性だってある。

 

(ならば、兄さんの提案に乗ってみるのもいいな。)

 

 その旅行でローザ自身に思い切って聞いてみよう。君はカツランダルク党が送ったスパイじゃないのか。

 

 その時、ホーデンエーネン暦349年の8月半ば。兄のケノービがいう9月末まで1か月ほどだった。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 ホーデンエーネン王国。アナキンの兄であるケノービ=ソーローは計画を立てていた。マイヤ=カツランダルクをさらい抹殺するのだ。病に伏せてしまったナガオカッツェ公ヨーシハルトスとの共謀だ。

 

 マイヤの暗殺。それはセイン王の妾となり権勢を増していたご本家の当主、トーリ=カツランダルクの力を削ぐ為であった。

 

 ただ、おしゃぶり姫はもう対抗馬としては使えなかった。イズヴァルトを捨ててマルティン王子の妻となったことから国内での人気は大いに減じていた。マイヤを見かけたら石や馬糞を投げつけろ、と平民たちの間で言われる程だ。

 

 しかし彼女の知性や知識、特に転生人としてのそれは健在だ。ホーデンエーネンに戻られてしまうと姉のトーリに登用されるはず。文字通りの片腕になるだろう。そうなればご本家はますます栄えてしまう。

 

 そうならないように早めに仕留める計画が立てられていた。しかしマイヤの周りには凄腕の魔道士が張っており、なかなか隙が出来なかった。

 

(ゾウズジャヤのシャジとマァジも「やめとけ」というほどだが、どうしてもマイヤは殺さなくちゃならん。)

 

 あれはマイヤの偽物だ、と盛んに言い張る弟の手紙に眉をひそめながらケノービは部下を呼んだ。イーガにいる刺客達との連絡役だ。

 

「いかなる御用でしょう?」

「ゾウズジャヤのエルフだけでなく、ソゴプールの傭兵エルフを探し出せ。いよいよ取り掛かるつもりだ」

「はい。仰せのままに」

 

 部下は去って行った。ゾウズジャヤのエルフはどうにも突破力がよろしくない。なので武芸に覚えがあるソゴプールのエルフも用いることにした。

 

 近頃の話になるが、トーリが宮廷でろくでもない提案を持ち掛けていた。教団との戦争は休戦にし、北部から軍を引き上げるというものだ。

 

 そうすればパラッツォ教徒のせん滅に活躍してくれたソゴプールの傭兵が余り出す。安値で良い戦士を囲えるはずだ。事実、北部諸侯は雇止めを受けたそれらのエルフを武者として招き入れる動きも出てきていた。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「マイヤの調子はどう?」

 

 イーガの国王との談義から帰って来たサキュバスのカミラは、主であるトーリから真っ先にそう問われた。

 

 ナントブルグの王宮にある彼女の執務室で、カミラは出された麦餅を口に含んだ。トーリに伝える前に甘いものをとって覚悟を決めたい。

 

 はむ。もぐもぐ。甘い。どうやらこの麦餅にはシマナミスタンのサトウキビを用いているようだ。ホーデンエーネンの甜菜や甘い果物では濃厚な甘味は出せなかった。

 

「カミラ、それを食べたら答えなさいよ?」

 

 トーリが急かした。机に向かって書を開いていた。彼女が読むのは戦記物と官能な読み物ばかりだが、これはスケベなほうである。

 

 『世界の美酒』という題名だが内容は違う。飲尿嗜好者が世界各地の老若問わずの女のおしっこの味を比較したエッセイだった。ムーツ人のおしっこはしょっぱくて飲み辛い。各大陸の内陸部の女のおしっこを飲む様にしろ、などと書かれている。

 

「カミラ、私は忙しいの」

「おしっこを飲む本を読んでいるのにでしょうか?」

「これはお勉強よ。おしっこには殿方の精液の成分がいくらか混じっていると聞いたことがあるわ」

 

 マイヤからトーリは聞いた。射精しないとおしっこと一緒に精液が出るらしい。しかし今はサイゴーク人女性のおしっこの味の話よりもマイヤの事が気になった。

 

「……実情をお話いたしましょう。あまりよろしくないようです」

 

 トーリの顔が曇った。それに構わずカミラは語り始めた。マイヤの身体はガタガタになっている。手足を斬られただけでなく卵巣もやられたのが影響しているようだ。

 

 赤ちゃんプレイのことに関しては黙っておいた。トーリが狂乱して強引にマイヤをホーデンエーネンに呼び戻すかもしれなかったからだ。

 

「あと、国王陛下の諜報からなのですが、ゾウズジャヤの『汚なエルフ』どもがトーバコフ近辺でうろうろしているそうです」

「……ああ。年代もののちんかすってどんな味がするのかしら?」

「ニンゲンの身では死にますよ? せめて『先祖返り』していただかないと」

 

 そうだった。トーリはウィンクをして片目をつぶり、自分の頭をこつんと叩いた。

 

「てへっ★」

 

 御戯れに過ぎる。カミラはため息をついた。トーリの身体はいよいよ魔族、つまりはサキュバスに近づいていた。だからお茶目になりだしてもいたのだ。

 

「マイヤさまを狙う刺客はイーガの者で防ぎきれましょう。問題は我らがいつ動くかです。マイヤさまは卵巣を失ってから、サキュバスの力ががっくりと落ちてしまっているようです」

「精液での魔力補給はどう動いていたのかしら、マイヤのは?」

 

 膣と子宮、あるいは口腔や肛門で魔力を効率的に摂取できるはずだ。程度はさがるが皮膚でもいい。魔力は身体の健康にもつながる。

 

 問題はその魔力や栄養をどこに配分し、健康にさせるかという機能についてだ。カミラは私見を述べた。マイヤは卵巣にその作用があったのではないだろうか。

 

「そもそもマイヤさまはトーリ様の影、になる存在として世に生まれ出ました。トーリ様を助ける為の子を産み続ける役目を持っていたかと思われます」

 

 しかし卵巣を失ったことでマイヤは子を産めなくなった。となればもう用済みの存在である。カツランダルクの女王の子孫を作る役割においてはだ。

 

「ずいぶんと惨い話をするのね……」

「致し方ありません。それが宿命なのでございましょう」

 

 それこそが淫魔の女王の子孫として生を受けた存在が享ける呪いであった。産めよ増やせよ。劣性の継承体として産まれたマイヤは、血によってそれだけを期待された。生きながらえたとしても閉経後には儚く消える命だったのかもしれない。

 

「トーリ様とマイヤ様は2人で1人。マイヤ様が女王の力を解放させる鍵でございました。しかし今はそうではございません。トーリ様はある程度、女王の力を扱う事ができております」

 

 鍵がなくてもトーリは力を駆使できるようになった。それがマイヤに新たな役割、女王を守る親族を作る仕事に向かわせたはずだ。

 

 精液の吸収による魔力の補給と身体をすこやかに保つことはできなくなってきている。そうなるとマイヤは急激に衰えてしまう。そもそもマイヤは病気がちだ。ザーメンごっくんを続けていなければ早いうちに亡くなっていただろう。

 

 マイヤの身体状況についてはカミラは知りえていた。マイヤの体調を管理していた医者の書類を漁ったからだ。診断はよろしいものではなかった。腫瘍のはじまりや伝染病に弱くなる因子ができ始めている。

 

 このままでのマイヤの寿命は、もってあと10年だ。『特効薬ザーメン』を放つイズヴァルトが側にいてくれれば、もっと長生きするかもしれない。

 

(マイヤ様がイズヴァルトをはねつけてしまったのが良くなかった……)

 

 カミラは残念に思った。イズヴァルトの精液が特別に上質なのを存じていた。アスカウの村にいた時に何度かいただいていたのだ。

 

 彼がマイヤと素っ裸で寝ていたところで誘惑の魔法をかけ、勃起させた。ものすごく大きいのに恐ろしく硬いペニスだった。マイヤが離したくないのがうなずける名品。

 

 それを咥えたりまたがったりして精を放たせた。味は良く含まれる栄養や魔力は凄まじかった。カミラを夢中になり他のサキュバス達にも教えてやった。

 

 しかしその精液はカミラ達の卵子とあまりにも相性が良すぎた。寝ているイズヴァルトの精液を吸った、カミラを含む全員が子を孕んでしまったのだ。

 

 彼女達が産んだ娘らの存在はトーリも知っていた。トーリはいずれ自分の養女にしたいそうだ。イズヴァルトの遺伝子を持つサキュバスなら、喧嘩だって強いはず。

 

(そう。あの精液があればマイヤ様は救われるかもしれない。しかしあの男もトーリ様から離れて行ってしまった……)

 

 カミラは焦っていた。その理由はトーリがあまりにも強大な才能を見せびらかしてしまったからだ。彼女がイズヴァルトらにかけていた洗脳魔法はうまくいったはずなのに。いや、マルカスというあの男を死なせてしまったのがきっかけだった。

 

「マルカス様が生きていらっしゃったら……」

 

 絶倫ぶりと精液の質は古今の英雄たちみたく特A級だったようだが、一団の中では格落ちの存在。でも、彼の死はトーリから心が離れて行ったきっかけとなった。

 

 生きていればイズヴァルト達はナントブルグにいてくれたかもしれない。トーリが目指す野望に加担し続けてくれたりもしただろう。

 

「そのことは言わないで、カミラ」

 

 トーリがマルカスの男っぷりを一番多く享受していた。とても良い浮気相手だったのに。マルカスは世界と歴史の流れでは小さな存在だったが、トーリにとってはとても大きな存在だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。