聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ルッソはホーデンエーネン王国中南部の西の端、アジール地方に領地を貰い貴族となった。しかしトーリの意向により彼は国に外交官補佐として外国をまわる日々を送っていた。
トーリは彼の世話係として食いしん坊のヤスミンカを含む数名のサキュバス達をつけさせた。ニンゲンの侍女として化けて彼の船旅に同行するようになった。
ルッソはヤスミンカ達と意思をもって浮気したり、女郎を買う事は無かった。しかし淫魔である彼女達は当然のことながら彼が寝ている時に夜這いをかけた。
彼女達は彼がまだアスカウの村にいた頃から知っていたのだ。ルッソのきんたまの中身から造られるものには、とても優れた魔力を含んでいた事を。しかも質は極上であった。
彼女達は毎晩のようにルッソの寝床に潜り込んだ。ますます育ったおちんぽときんたまに狂い、すっからかんになるまで精を吸いこんだ。
しかし彼女達は避妊魔法をかけたのに次々と孕んでしまった。アスカウ時代にもルッソに夜這いをかけて子を孕んだサキュバスがたくさんいた。その時は、どうせニンゲンの子だと思って油断していたからだと思い対策を講じたのに。
ルッソの精液には、下級の魔族の防護術式をすり抜ける力が帯びている。彼女達がそれを知りうる事は無かった。術式を間違えたのだとしか思えなかった。下等な魔族はそれを読み解けるほどの力は無かった。
ただ、トーリと彼女の腹心であるサキュバスのカミラだけはわかっていた。ルッソが何故その様な力を持つようになったのか。
アスカウはホーデンエーネン王家の創業の地。そこに古くから住む一族に、ルッソ=シュミットが連なっていたからである。
ホーデンエーネン王国暦でいうと350年の3月20日の事である。長らく外交官として国を出ていたルッソ=シュミットは、故国に戻って来た。おおよそ1年ぶりのことだ。
到着したのはアジールの港町。トーリの取りなしによって『貴族』となった彼の領地でもある。厳密に言えばアジールの街の四分の一、街の南側にある港と商業区画がそれにあたる。
それからもう少し付け足して、アジール地方南部にあるいくつかの魚村を封地として貰っていた。ただの牧場の息子であった彼としては大出世だ。トーリとの離婚は地位と経済で彼に見返りを与えていた。
1年ぶりに館に戻って来ると早速、港町の政治を任せていた主席代官より報告を受けた。この1年に領内での収支や主な出来事だ。
「サイゴークとの貿易は平年通り。サカーイやオバーマゲルクからの商船や輸送船から得た港の使用料に関しましては一昨年と比して倍近くになっております」
パラッツォ教団との戦争が続き、物資の需要が増えたからだ。今後はもっと荷の取り扱い量が増えるだろう。輸送船や貿易船がひっきりなしに来るはずだ。もっと収益があがるに違いない。
「……どうしてさ?」
国内、特にキンキ大陸のことに疎くなっていたルッソには意味がわかりかねた。代官が説明した。内陸からアジール大河の川荷船で運ばれるとある工業製品が、海外や北部に向けて輸出されるだろうと。
「話がいまいち飲み込めない。どんな製品が運ばれてくるのか教えてくれないか?」
「イーガで発明されたという、新兵器の鉄砲ですよ」
「てっぽう?」
投石砲や爆雷投擲機のようなものかとルッソは尋ねた。代官は似て非なるものと答え、テーブルの上に置かれた土産物の焼き菓子に手を取った。西のハリマーヌ公国でつくられたものだ。
「ほう、ほう。これはまた甘い。サイゴークは良いサトウキビが生えているようですな」
「サトウキビが育つのはゲースティアの北部までだよ。ハリマーヌは輸入しているんだ。それはそうとてっぽうとはなんだい?」
代官が鉄砲について説明した。2年ほど前からイーガにあるマイヤの工房・マイア=テクニカで製造されている。銃身に火薬と鉛玉を詰めて火をつけて放つ飛び道具である。有効射程距離は最大50メートルぐらい。
『火縄銃』と『火打ち石式銃』とがあり、銃身が長く飛距離があるものは『サーペンタイン』、それの半分以下の短い長さで至近距離を撃つものは『ピストイア』と名づけられている。長筒のは歩兵用、短筒は騎兵用だ。
イーガでは狩猟用、あるいは的あてゲームの道具として売られていた。かの国では金持ちや貴族、あるいはアッパーミドルの階層に、『おもちゃ』として人気を博している。魔法王国ではもっと強力な武器があるからその程度の立ち位置だ。
この珍しい飛び道具は当然、諸外国にも輸出された。ホーデンエーネンにもだ。遊戯用の道具として売りに出されていたが魔法があまり発達していないホーデンエーネンでは違った。兵器としての活用に着目したのだ。
「ぶっ放すとけたたましい轟音ともくもくと立ち込める黒い煙とで、相手にとんでもない威嚇を与えるそうなのです。近くなら防護術式をかけていない鉄板鎧を貫通するほどの威力がありますけど」
「鎧を貫くという話のほうが重要だと思うんだけどね。そいつが、マイヤの工房とやらで造られていたのかい?」
「そうです。マイヤ様はこちらに戻られる前に、工房で新しい様式の鉄砲を発明なさったのです」
火薬と弾を銃口の先から詰めるのまでは同じだが、銃に施条を施し、魔法による発火装置を取り付けた最新式のものがそれである。引き金の側にある安全装置を引くと火をつける魔法が起動する仕組みで、飛距離と精密度がぐっとたかくなったゆえに、狙撃手の間では研究が進められているらしい。
「それがこのホーデンエーネンでも製作されるようになりまして、あまりにも便利なゆえに王国も総がかりで製造し始めたのです」
「危なくないかい!」
ルッソはおののいていた。良質のホーデンエーネン製の武器がサイゴークに出回っている事を思い出してだ。王国の武器鍛冶屋が造った武器は、ドワーフがいないかの大陸の南の諸国の兵士や傭兵が用いていたのだ。ホーデンエーネンの冶金技術は馬鹿にできなかった。
鉄砲もまた外国に輸出がされるだろう。彼は知らなかったがエチウ諸島でも魔法が使えない者の為にイーガから輸入された鉄砲のコピーが製造され始めていた。エチウは良質な鉄と火薬の原料の原産地でもあった。パラッツォ教に入信し、内乱が多いホーデンエーネンから逃げて来た鍛冶師もいた。
最初の鉄砲の工房はオルガスムナ領にあり、ナントブルグにも建てられ始めていると聞いた。戻って来たばかりのマイヤに危ないものを作らせるなんて、トーリは何を考えているんだ?
(ものすごい収益を得るはずだ。カツランダルク家の再興よりもっと大きいことができるはず……天下取りかな!)
それは絶対にやらせてはいけない。ルッソは今すぐナントブルグへの出発の用意を家来達に頼んだ。せめて、国王に直訴して鉄砲の海外輸出だけは取りやめてもらいたい。
戻って来たばかりなのにまた旅に出るという事に家来たちは難色を示したが、ルッソは頑とはねつけて押し通した。準備の最中に侍女のヤスミンカと、褐色肌のワンガリがやって来た。
2人ともトーリがつけたルッソの侍女でサキュバスだ。とても吸い心地がいいおまんこでルッソに数えきれないほど夜這いをかけ、とうとう彼の子を産んでしまってもいた。2人とも半年間の育児休暇を貰ったばかりだった。
出産と育児で食欲が増し、出発前よりもぽちゃぽちゃになってしまった頬を動かしながらヤスミンカが提案する。
「ルッソさま。ここは一度、『お屋形さま』にお話しを通してみてはいかがでしょうか?」
そうですよ。ワンガリはうなずいた。彼女はやせ型だがヤスミンカと同じぐらいに大喰らい。ついでに運が悪いことにルッソのおいしい精液を船の中でいただき、赤ん坊ををまた宿してしまっていた。
「『お屋形さま』の許可をいただき、我々の転移魔法を使えば、1日でナントブルグ入りができます。こちらのほうがよろしいかと思いますがいかがでしょう?」
「君達の話を通したら1か月の旅が1年になるよ。どうせトーリからは俺を止めろと裏で言われているんだろう?」
ヤスミンカとワンガリは答えられなかった。まさにその通りだったからだ。他の数名を含む彼女達サキュバスの侍女の目的は、ルッソの補佐や身の回りの世話もあるが、一番重要なのは彼の監視と保護であった。
ナントブルグに向かうとなれば、ソーロー家とスカルファッカー家の領地を通る。そちらのほうに近道で街道もしっかり整備されていたからだ。しかし両家ともトーリとは裏で敵対していた。
スカルファッカー家はアスカウ=タカイチゲンシュタットからの旅人に対しては関所で長ったらしく止め置いたりしていたし、ソーロー家に至ってはトーリの周辺にスパイを放ったり、ならずものを雇ってアーレント商会の荷馬車を襲わせたりもしていた。
とはいえトーリにはどれもお見通しだった。彼女は黙殺していたが証拠を集めている。セイン王との間に男児が産まれればそれをまとめて突きつけてソーロー家の減封かお家お取り潰しを狙っていた。スカルファッカー家はその後だ。
「ナントブルグからの連絡によれば、カツランダルク庶流の動きが、近頃露骨になっていると聞き及んでおります。ルッソさまが向かわれたらきっと、何かを仕掛けてくるかもしれません」
トーリにはできるだけ早くに許可をもらえるように頑張るが、やはり転移魔法で行くべきだとヤスミンカが諭した。しかしルッソは拒んだ。そんなに言うのならこちらにも考えがある。
「あまり事を荒立ててしまうのは……」
「波を起こさなくちゃならないところに来ているんだ! マイヤを使ってこんな悪いやり方で金儲けをするのは良くないよ! イズヴァルトさんがきっと悲しむだろうに。彼女はもっと別の道具や方法で大金をつかむ事ができるはずだよ!」
ヤスミンカとワンガリに何をするかルッソは言った。アジール港南部を与えられた領主としては、鉄砲を町に入れられない。ルッソには国王に友人として認められていたから、他の領主には無い特権があった。
それを用いてアジールの他の港やその周辺の港湾、軍港に呼び掛けて荷止めができる。セイン王がトーリの頼みでルッソをアジール地方の一領主にさせたのも、好戦的で強欲な人物ではなかったからだ。
それにルッソはこうも恐れていた。最新兵器の輸出は諸外国に野望を抱かせるだけでなく、それを量産する国に対する恐怖や敵意を抱かせる。少年の頃、マイヤから『おしゃぶり』を受けながらその様な話を聞いたからだ。
「俺を止められると思うなよ? 止めたいんなら殺せばいいさ」
ヤスミンカとワンガリは従うしかなかった。ルッソが死ねばトーリはきっと狂うだろう。そもそも彼女達もルッソを害する気持ちは持てなかった。従おう。彼女達はルッソについていくことにした。他のサキュバスらに赤子を預けると、ナントブルグへ向かうルッソに馬車に同乗した。