聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
この封書は、チンゼー南部をさぐるイーガの諜報がエレクトラに与えたものだった。こう書かれていた。
「シマーヅの北にあるアソマリアで異常な気候が続いている。商品となる高原野菜や薬草が全く取れない。その理由がキクーチの森にある怪物のせいだと知り、アソマリアは内外から勇者を募っている」
シマーヅはスミジア国の西。チンゼー国南部で最大の国土と豊かさを誇っていた。その都のヨシヒロブルグは、大陸最大の港町ともたたえられている。
「イズヴァルトさん。一気に武名をあげる絶好の機会じゃあないんですかい?」
「さようでござるな。急ぎ勇者を集めて出発するでござる」
イズヴァルトは部下のうち最も勇猛な10人とエレクトラを連れていく事にした。スミジア王には手紙を送った。
それから回虫がまだ退治しきれず、姫達の前でお尻の穴から糞かすがついた白い虫をにゅるっと出して笑わせているエレナに、行って来ると告げて出港した。
アソマリアへはシマーヅの沿岸をぐるりとまわって向かうことになる。その旅にはなぜかミツクニュモスがついて来ていた。武勇は期待できないのだが、アソマリア地方の言葉も少々かじっているから通訳として連れて来たのだ。
イズヴァルトは甲板で釣りをしていたミツクニュモスに尋ねた。この友人はすっかり旅行気分である。
「アソマリアというのはいかなる国でござろうか?」
「西側の沿岸部以外はぜーんぶ密林に覆われた山か高原らしい。人口もそんなにいない。けれども、キクーチの森はチンゼー大陸ではある一派の聖地でもあるんだ」
チンゼー大陸はマハラ教を源流とするメシェイド教が広まる前は、アソマリアの大火山の精霊を主神としてあがめ祀っていた。その祭壇が置かれていたのがキクーチの森である。
その火山が死火山となり、すっかり冷え切った頃にメシェイド教が入って来た。今から1000年程前の事らしい。それまで部族衆が勝手に土地の権利を主張して離合集散を繰り返していたチンゼーの地に、国という概念ができたのも、メシェイド教のおかげである。
「純白の衣で素足以外全てを隠すメシェイド神は知恵と正義の神。それがもたらした教典がチンゼーの民を啓明した。まあ、その教典とやらがまんまマハラ教のそれなんだが、男子が割礼し、女子が両耳の耳たぶに切れ込みをいれるところがちと違う。そいつはメシェイド教においての神との契約なんだが……」
そもそもはチンゼー土着の風習だという。割礼はとかく大きくなりがちなチンゼー人の陰茎の先端を包皮で不潔にさせない為。耳たぶを切るのはそもそもが既婚女性であることを示す為だという。
「ただ、北部の部族にあった、前歯を抜いたり女の子のさねを切り取ったりする余計な風習は、神に反逆する行為だということでメシェイド教は禁じているんだ。アソマリアの拝火教も火の神が怒るからということで、認めてなかったんじゃなかったっけ」
「ミツクニュモスどのは物知りでござるな。ルッソどのもその様なことを教えてくれたでござるよ?」
「ルッソ……イズヴァルトさんのあっちでの親友か。なかなか見込みあるな。羊の世話だけじゃもったいない逸材になると思うよ」
そのルッソだが、トーリと離婚しアジール市の代官となった後はいい評判を聞かなかった。街のギャンブルに耽溺し、モナファン海賊団に船をこがせて美女たちとおまんこしながらの贅沢なクルーズを楽しんでいると聞かされた。(※注1)
イズヴァルトはため息をついた。トーリがもっとしっかりしていればこんなことにはならなかっただろうに。どうせならルッソを説得して連れていこうと考えたのだが、アジールまでは遠かった。
船旅は1週間ほどで終わった。アソマリアの港町・ミナータに着き海鮮料理で体力をつけると、長い長い山道を登り始めた。アソマリアの首都・アゾズアベバに着くにはおおよそ3日の行程だ。港町からそれほど離れていなかったが、とにかく坂がくねりまくっていた。
「ふえええ。ひでえなこの山道。しかも寒くなって来たどころか暑いぞ?」
ぜえぜえと息をしながらミツクニュモスは嘆いた。他の戦士たちもだ。イズヴァルトとエレクトラがすいすいと登るのとは真逆だった。
「確かに異様ですねえ。アソマリアっていうと、チンゼーの『ちべっと』と言われるぐらいにとっても寒いと聞いちゃいるんですがね」
「『ちべっと』ってなんでござる?」
「あっしの前世の世界にあったんですよ。そりゃあとても高いところにある土地で、息も凍るぐらいに寒いとか言われてましたよ」
しかしアソマリアで氷点下になるのはまれなことだった。普段は10℃から15℃のはずである。アソマリアは地熱が高かったからだ。しかし湾岸みたくじわっと暑いから、確かに高原野菜がだめになるのは想像に難くなかった。
戦士達のほぼ全員が高原病にかかってしまった。エレクトラはまずいことだと思い近くの村で看病してもらう様に頼んだ。彼等を置いてアゾズアベバに向かう。この中で一番身体が弱いはずのミツクニュモスは、意外とタフだった。
たどり着いたアゾズアベバは思ったほど大きな都ではなかった。猫の額ほど狭い盆地にちょこんとあるだけ。人口は5000にも満たぬ。その代わりに街中いたるところに温泉が湧いていた。
南の門の入口付近にある足湯につかりながら、イズヴァルトは街の者らから様々なことを聞いた。魔物退治のために各国から武芸自慢が集まり来ているのだという。しかし誰も、未だ魔物をたおせずにいた。
「それほどまでに強いということでござろうか。果たして、名を挙げることができるやら」
愛用の覇王の剣は折れたまま。エルフの郷の鍛冶師でも直せなかった。ゆえに切っ先のほうは薙刀として造り替えて背負っている。もう片方は刃こぼれしているままだった。
「とにかくどんなのが出て来るか、行って見なけりゃわかりませんよ。それと聞いた話によると、魔物を退治した者はこの国のえらい巫女さんをお嫁さんに迎えられるようですねえ」
エレクトラが言う巫女というのは拝火教の最高の位。アソマリアの火山神に仕えるという。不作がはじまった去年までは、歴代最高の巫女と言われたビアンカ媼(おうな)が就いていたが、今はデボラとフロウラという姉妹が就いているらしい。
「結婚はどうでもいいでござるよ。拙者は有名になる為に魔物退治をするのでござる」
「けど、アソマリアの巫女さまがたの夫となればもっと有名になりますぜ?」
「拙者のちんちんにも限度というものがあるでござる。それはそうとエレクトラどの、そろそろ2人目をつくろうでござらぬか?」
イズヴァルトは昨晩のエレクトラの熱い肌を思い出して彼女の左手を握った。しかし膣内射精を何度施しても彼女は孕まなかった。避妊の為の魔法を仕掛けていたのである。旅の邪魔になるからとエレクトラは防護を怠らなかった。40に近くなり孕み辛くなったのもあるが。
魔物退治の受付は城で行われていた。ホーデンエーネン王国の中くらいの砦みたいなそれを見て、イズヴァルトは考え込んでしまった。アソマリアは大きくはなく小さな国だ。ここで勇名をあげても評価されないのではなかろうか。
「イズヴァルトさん。権威と実際の実力というもんは大概差が開いているってもんですよ。ここで魔物を退治してチンゼー全土に名をとどろかせてしまいましょうや」
かくしてイズヴァルトはアソマリアの王に会う事となった。70過ぎの高齢で歯が全部抜け落ち、ふがふがとしゃべることしかできなかった。
「ふがふが。 (けれども念話魔法で語ることができるのですじゃ。)」
「なるほど、アソマリア王陛下は魔道士でもござったか!」
「ふがふがふが。 (魔道士というほどじゃありませんて。さて。ホーデンエーネンのイズヴァルトといえばこのチンゼーでも有名人でございますよ。おしゃぶり姫という仇名の姫様の侍従で、ちんぽをしゃぶられながら世直しの旅を為されたとか。天下無双の少年剣士で、ちんぽにつけた刃でならず者を切り裂いたというそうですな?)」
それは違うとイズヴァルトは断った。かくしてエレクトラとともに魔物退治に加わる事となったが、条件があった。先に申し出てきたとある兵団の協力者になれというのだ。
「兵団でござるか? どこの国の方々でござろう?」
「ふがふが…… (それはですな……)」
まずは会って話をしていただきたいと国王は部下に命じて案内させるが、さて、イズヴァルトが手助けすることとなる兵団とはいかなるところからの者らであったのか?
その続きについてはまた、次回にて。
(※注1:研究家による議論)
【歴史研究家アネモネ=リットフェンテルトによる注:ルッソ=シュミットは我が国では無能な姻戚としての代名詞となっております。王国に取り立てられたのに身をもち崩した。悪しき姻戚登用の最たるものですね。】
【ギルバート=カツランダルクによるリットフェンテルトに対する反論:サーガでのこのようなルッソ=シュミットの記述は事実無根。実際は外交官に抜擢され、見習いの使節として各国を回ったという。】
【歴史研究家アネモネ=リットフェンテルトによる反論:その文献は?】
【ギルバート=カツランダルクによる返答:『王国誌』の第15巻120頁とナントブルグ公文書館にある王国時代外交官たちの日誌を読めばわかる。】
【歴史研究家アネモネ=リットフェンテルトによる返答:どちらも偽りだらけの書籍と授業で教えてもらいましたけど。そんな偽文献を信頼しているのでしょうか?】
【ギルバート=カツランダルクによる返答:『王国誌』はホーデンエーネン王国時代末期に書かれたもので資料的価値が充分にある。しかも著者は王家の祐筆、アルフ=ガロンドロフだ。外交官の日誌は業務の記録にもなり国王に提出するものだった。嘘偽りはなかなかに書けない。】
【歴史研究家アネモネ=リットフェンテルト:だから信用がならないのです。とかく権力者というのはきれいごとばかりを連ねるものでしょう。特に王国時代はその度合いが強いはず。そんなものを一次資料にして良いのでしょうか。ギルバート先生の歴史家としての見識を疑ってしまいます。】
【ギルバート=カツランダルクによる返答:だからナントブルグ大学の非常勤講師は……】
【歴史研究家アネモネ=リットフェンテルト:トリシア大学歴史学科の『お荷物』のくせに!】
(※歴史研究家アネモネ=リットフェンテルト;ギルバート=カツランダルクと同じ頃に活躍したホーデンエーネン人の歴史学者。ナントブルグ大学講師。サキュバス排斥思想家。ナントブルグ矯風会初代会長。主に著書に『女たちのホーデンエーネン王国史』と『貴婦人たちの反逆~王国時代の女権主義思想』、『そのサキュバスを今すぐ遠ざけなさい!』などあるがどれも絶版。)