聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
ピピン=イザク。シマーヅ国イザク朝の第十八代国王・サンチョス=イザクの第十五子である。『おすもう』の武芸家としても後世に名を遺した彼を記す歴史家は、忘れてはならぬことがあった。
この人物もまた、転生人であった。前世は『にっぽん』なる国がある異世界で、『おすもう』と全く似た武術『おおずもう』の力士だったという。『もんごるじんりきし』という一派で、『おおずもう』で身を立てる為、大草原が広がる土地から『にっぽん』に渡って来たという。
前世では将来を嘱望され天才とたたえられた。『じょにだん』だった18の歳で彼を応援した『こうかくか』と呼ばれるファンの女性と結婚し、半年後に子供が生まれると出世はさらに早まった。
『じゅうりょう』と呼ばれる段位を得てさてこれからという21歳の時、彼は交通事故に遭ってイズヴァルト達の世界に導かれた。シマーヅの王子という生涯を得た。
しかしそのシマーヅ国もまた、『おすもう』に縁が深い国であった。シマーヅ国をまとめた初代国王が、ピピンと同じ世界からやって来た転生人だったのだ。
『いくづきげいたざえもん』。前世はその名であったと言い伝えられている。初代国王もまた前世は『おすもう』の若き武人であった。2メートル以上もあったらしい。遊郭でしつこい性病を患い、早死にしたそうだが。
初代王もピピンと同じく、2メートル近くの大柄な豪傑であった。でっぷりと太っていたのに大病もせず、85の歳まで生きたという。
怪童・ピピンはまさに前世の無念を晴らす為にこの世に産まれて来たのだ。ついでだが今のシマーヅ王はピピン=イザクの血が濃く流れている。
それから、現シマーヅ国王は聖騎士イズヴァルトの子孫であることも余計なことだが明記しておく。
【ここまでの解説はギルバート=カツランダルクによる注である。】
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夜が深まるまでピピンの前世の話を聞いたイズヴァルトは、呆気に取られていた。まさか、マイヤやシゲニウス、エレクトラといった異世界の国、『にっぽん』に深くかかわっていたとは!
「前世の頃、僕と『おすもう』の仲間との間で、『はるひだんす』が流行っていたんです」
「……はるひだんす? なんなんでござるか、それは?」
「前世の僕が『りきしなかま』とよくやっていたんですよ。実は僕、『じゃぱにめーしょん』目当てでおすもうさんになったんですよ」
そう言ってピピンは立ち上がって軽快に躍り出した。地響きがすごかったがなかなかにうまかった。それにデボラとフロウラが加わる。可愛さというものに満ち溢れていた。
「すごいでござる……まあしかし、デボラどのもフロウラどのも、振りつけが上手く決まっていたように思えるでござるな?」
デボラが微笑みうなずいて、フロウラがこほん、と空咳した。
「小さい頃からやらされたからな、ピピンおにいちゃんに……」
「おにいちゃん、でござるか?」
「あ、いや。今のは聞かなかったことにしてほしい。イズヴァルト殿。今のところは魔物が出てこない。貴殿とエレクトラ殿が張ってくれた結界もなかなかに強力だ。礼を言う」
けれども安心はできない。歩哨を立てて交代で寝る事にした。夜を徹して進むのは危険だから尚更できない。イズヴァルトはここでもデボラとフロウラと睦みあうピピンの喘ぎ声に悩まされた。3人とも可愛い声で悶えるものだから勃起してしまうのだ。
翌朝、イズヴァルト達は近くで流れる川で水浴びをした後、森の奥へ進んだ。またも異様な人型の魔物と出くわした。おおよそ50体。イズヴァルトは斬るのではなく殴り飛ばせと皆に呼びかけた。
ピピンは言わずもがな。デボラとフロウラの戦いぶりは凄まじかった。持っていた剣や槍で巨体の魔物を砕いた。戦いを終えて聞いてみると、破砕の魔法を使ったという。
「デボラ姉も私もサイゴークやシマナミスタンのドワーフから習ったのだ。彼等はこういう魔法が得意だそうだ」
「破砕術式でござるか。エルフどのらはあまり得意ではなかったらしいでござる」
「元々は岩を砕く為に使うらしい。イズヴァルト殿。先を急ごう」
森の中をさらに奥へと進んだ。するとあちらこちらで死体がちらほらと目にするようになった。大きい何かで首が潰されたり身体がひしゃげたりするものばかりだ。
朽ち果てた死体もあれば出来たばかりの新しいものもある。新しいのは皆、ピピン王子の兄たちが連れて来た戦士達だった。
「『獅子の爪』や『鷲の嘴』の……兄上がたは相当に苦戦されていたようだ」
「なら、早く向かわねばならぬでござるな。ここから先は拙者が先手をお務め致そう。しかし……」
関節が大きく動くたびに炎をあげる魔物たちは、一体誰の手で造られた『造魔』でござろうか。イズヴァルトはデボラとフロウラをちらと見た。彼女達は知っているかもしれない。
「……」
「つまらん勘ぐりはよせ。私たちもこれは初めて見るものだ」
「似たものを存じておるでござろう?」
デボラはうつむきながら首を横に振った。不審がるエレクトラの肩を叩いて、イズヴァルトは彼女達を信じると告げた。木々は入った時よりも間をあけている。気づけば坂になっていた。
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アソマリア山は今でこそ死火山だが、大昔は何度も大噴火を起こしていたらしい。拝火教の祭壇は山の二合目付近にあった。
そこもかつては火口だったそうだが、それは数万年も昔の話だ。とはいえ、あちらこちらにガスが吹き出る二合目に樹木はおろか、草一本生えていなかった。
イズヴァルトが入ったそこでは既に、過酷極まりない戦いが行われていた。シマーヅの残りの精鋭部隊と魔物たちが殺し合っていたのだ。
いいや、シマーヅ側は負けに傾いていた。王子たち3人は既に討たれ、残りが意地をかけて踏みとどまっている。イズヴァルトは魔物たちの中で一際大きな姿を見て、呆気にとられていた。
「なんと……あれが敵の親玉でござろうか?」
高さ5メートルほどの巨体。一つ目の人型の生き物。サイクロプスと呼ばれる巨人族が存在するとは聞いていた。ただ、この世界にはおらず魔界にのみ生息していると。
「あ、あんなのと戦えというのですか?」
ピピンが弱々し気につぶやいた。デボラとフロウラはおろか、シマーヅの他の戦士達も怯えていた。あんなのと戦えるわけがない。どう勝てばよいのだ、剣や弓で?
「ありゃあ……投石機。大型の投擲兵器がほしいわ」
エレクトラだった。普通の闘い方ではどうにもならぬとイズヴァルトに助言した。それ以前にどこまでやれるか、自分とイズヴァルトとで試す必要もあったが。
「紫電砲や爆炎弓箭を仕掛けてみましょう。そいつがだめなら別の方法で」
イズヴァルトはうなずいた。死に物狂いで戦っている戦士達に退かせる様にピピンに頼んだ。できるだけ生き残らせたい。
ピピンが号令をかける。シマーヅの戦士達よ、私の元に集まれ。第十五王子の呼びかけに他の部隊の戦士達がさっと退き、ピピンの元に集まった。
「ピピンどの! すぐさま森の中へ逃げ、傷の手当を! 動ける者は木を切り倒して丸太にしていただきたい!」
「わ、わかりました!」
ピピンが皆に号令をかける。イズヴァルトはデボラとフロウラに掩護を頼み、単身で魔物の群れに突っ込んだ。単騎ではまわりに気兼ねしなくていい。
巨人に向けて突き進む。それの身体が何でできていたのかようやく見えて来た。土と砂利と岩だ。これもまた何者かに操られたものかもしれない。でもそれは口を開いた。自分の意思を持っていた。
「やるな。小童」
ざらついた声。しかしイズヴァルトの肝を冷やす恐ろしさがあった。けれども怯えてはならない。後をついてきていたエレクトラが印を切っていた。
「貴殿こそがこのアソマリアを乱した元凶でござるか!」
「だとしたらなんだ? 私は火の神の化身。我が領土を思いのままにしてよいではないのか?」
「化身でござるか? なんと!」
「異国の者。ここから去れ。あのシマーヅの者らと共にな。さもなくばこの場でお前を喰ろうてやる……」
イズヴァルトの頭上で紫電が走った。巨人の胸に直撃する。エレクトラの紫電砲だ。彼女は爆炎弓箭の準備に取り掛かっていた。
しかし巨人は倒れなかった。胸に焼け焦げえぐれたところがあっても、それはほんのわずかだった。それでもやれる、とイズヴァルトは思った。
「喰われる前に倒してくれるでござる! 覚悟ォ!」
イズヴァルトは飛び上がった。巨人の身体にしがみつき、駆けあがって首までよじ登った。重圧の魔法をかけた薙刀で首筋をぶん殴る。首を落とせば倒せるはずだ。
だが、砕けなかった。イズヴァルトはとっさに柄を離す。巨人の一つ目が妖しく光ると、柄が刃を残して赤くなったからだ。首筋から炎が吹きあがると、巻き込まれぬようにと飛び降りた。
焔を立てながら薙刀の柄は溶けてしまった。残った刃は形を保ったままだった。これだけはヴィクトリアの形見だから打ち捨ててはならぬとイズヴァルトは拾った。何故か熱くなっていなかった。
疑念を抱いたが、イズヴァルトはそれを抱えてミスリルの剣を抜く。エレクトラが放った渾身の爆炎弓箭が、いくつも爆発を起こして魔物たちをたじろがせた。
「イズヴァルトさん! ここは退きましょう!」
最強の武器である薙刀が使えなくなってしまえば、果たしてこの一つ目の魔物に勝てるかわからない。イズヴァルトはサイクロプスに向けて叫んだ。
「勝負は一旦預けておく!」
脱兎のごとくイズヴァルトは逃げた。サイクロプスと魔物たちは追って来なかった。森までさがるとエレクトラに礼を言った。
「あの魔物、触れたものを燃やす力を持ち得ているでござる。しかし、本物の炎ではなく、魔法の炎に思えたでござる」
「紫電砲が思ったほど効きませんでしたしねぇ……戦い方を練るしかないようですよ」
「大木を飛ばす武器でもあればよいのでござるが。しかしでござる」
ピピン王子らは確かに木を切り倒し始めていたけれど、これで投石機を作るには時間がかかりそうだった。攻城槌も考えたが、車輪を作る器用者は戦士達の中にはいなかった。
他に良い方法があれば是非とも教えを乞いたい。あるいはマイヤをすぐに連れて来て、画期的な投石砲を作ってもらいたいとも思ったが、あいにくだが彼女とは縁を切っている。土下座しても「ばーかばーか!」と罵られるのがオチであった。
「あのう……」
悩むイズヴァルトにデボラが声をかけた。彼女は小さな声で、ぼそりと言った。
「あの巨人、倒せる方法があるかもしれません……」
イズヴァルトは立ち上がった。何故その様なことを思うに至ったのか聞きたかった。
「私、気づいてしまったのです。あの巨人は……」
まるで何か犯してしまった罪を告白するかの様にデボラが言う。さて、この娘が告げたこととはいかなるものだったのか?
その続きについてはまた、次回にて。