※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第三十三回

 ホーデンエーネン王国暦では352年の10月頃の事らしい。

 

 ヨシヒロブルグの都にいたシマーヅの王子ピピン=イサクは、アソマリアにいるデボラとフロウラからの手紙を読んだ。

 

 来月には子供の顔を見にアソマリアに来て欲しい。それとビアンカ様がそろそろご出産なされる。娘というお告げが出たので、タバシャと名づけることにした。

 

 手紙の最後にフロウラによる直筆の文があった。

 

「けれども、エレクトラさんは連れて来ないでいただきたい。聞くところによると身重だとか。妊婦にアゾズアベバへの道のりは厳しいでしょう」

 

 ピピンはすぐに返事を書いた。あの手紙を破り捨てたかったという気持ちを文に託す。僕もすぐに会いたい。だからそれまで期待して待っててね。甘ったるい恋の文であった。

 

 書いた手紙を家来に手渡すと、彼はヨシヒロブルグ宮にいるエレクトラの部屋へ向かった。エレクトラはオルタンスと一緒に、下半身丸出しでお互いのあそこを太ももで擦りあう『なかよしこよし』の真っ最中であったエレナとオリガをみてにこにこと笑っていた。

 

 ピピンはエレクトラを見るなりその場で土下座した。

 

「エレクトラさん! もうしわけございません!」

 

 また僕は浮気をしてしまいます。あなたを置いてアソマリアに半年ぐらい戻らないでしょう。お許しください。

 

 エレクトラは苦笑した。浮気者の妾に慮ることはありゃしませんよ。エレクトラは今年の初めにピピンの求愛を受けて妾となった。転生者同士気が合ったのと、ピピンがエレクトラの色香に惑ったからだ。

 

「あ、ありがとうございます! これで心置きなく、アソマリアに向かう事が出来ます。ということでごめんなさい! 今から行ってきます!」

 

 ピピン王子は走って出ていった。子供同士がうひゅう、うひゅう、と悶えるのを眺めながら、オルタンスがエレクトラに抱き着いた。

 

「エレクトラさん、あんなやつの子を産んで本当にええんズラか?」

「いやいや、むしろあたしがのめり込んでいるところもあるんですよ……とっても優しいボウヤですからねえ。それと、あのぽっちゃりぶりが抱かれて心地いいんですよ」

「それは同感ズラね」

 

 オルタンスもピピンと何度も寝た。最近はミツクニュモスやチンゼーの男ととばかりであったが。イズヴァルトはイナンナが独り占めして、オリガと父を同じくする弟妹をこさえる機会が無かった。

 

 この2カ月後、エレクトラはピピンとの間に男児を産んだ。ウーゴ=イサク=ガモーコヴィッツと歴史書に記され、シマーヅ国南部に浮かぶタネガシマスカル島の太守となった人物である。

 

 そのタネガシマスカルはこの頃から、イズヴァルトが島の半分を領地として得ていた。シマーヅ王にピピン王子の武術の教育役を任されたのと、アソマリアの戦いで大いに活躍した功を賞されたからである。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 タネガシマスカル島はヨーシデン地方とほぼ同じぐらいの面積の島である。ヨシヒロブルグから船でおよそ4日程で行ける距離にあった。

 

 住民はそれほど多くは無かったが、水と肥えた土に恵まれて農業に適していた。イズヴァルトはそこに、イナンナの手助けで田畑を開いたり薬草園を作ったりしていた。サイゴークでのいくさに備えての地盤造りである。

 

 島の南側の半分が彼の領地であった。スミジアとヨシヒロブルグ、それからタネガシマスカルを行き来するのが彼の1年だった。

 

 この時、彼は薬草園を広げる為にタネガシマスカルに滞在していた。暑くてものんびりとした島の生活を続けていると戦いのことを忘れてしまう。常夏の島で青々と茂った草を見てイズヴァルトは嬉しさがこみあげていた。

 

「よしよし。そろそろ刈り取って売りに出す時期にござるな」

 

 戦に出た時の傷薬の原料ともなるが、それ以上にこの薬草園で栽培したものは大事な資金源となった。イナンナがもう詰める草があるぞと教えに来た時、ヨシヒロブルグにいたはずのミツクニュモスがやって来た。

 

「1カ月ぶりでござるな、どうしたでござる!」

「アソマリアからの手紙を持ってきたんだ! イズヴァルトさん、大陸の北部できな臭い動きが始まっているそうだ!」

「どういうことでござるか!」

 

 ミツクニュモスが持って来たのは、デボラとフロウラの筆によるものだった。手紙には北部の情勢についてこう書かれていた。

 

「大陸北部のチクゼニア、オグラーヤが密に軍を起こした。標的はスーエイニアとゲースティア。海域に浮かぶ諸島の強奪を狙っているようだ」

 

 青天のへきれきとも言うべき急報だった。ゲースティアとスーエイニアは今、いよいよ激化しつつある対パラッツォ教団の戦争の為にイーズモーに向けて大軍を派遣したばかりであった。

 

 チクゼニアとオグラーヤの目的はその海域の漁業権と航行権。特に貿易船からあがる収益は莫大だった。スオニアの大貿易港・アカマガ=ナガトラルタルを目指す船からの税は馬鹿にできなかった。

 

 海域は潮の流れが急だ。他の大陸からの船はよく、この海域で座礁したり難破をしたりと苦労した。その為、潮の流れや浅瀬をよく知る諸島の水先案内人らを頼らなければならなかった。

 

「ぼやぼやとしていられないでござる!」

 

 イズヴァルトはすぐさま、島にいる義勇兵とシマーヅの戦士達を呼び集めた。シマーヅの戦士たちは『獅子の牙隊』以外の、アソマリアで一つ目巨人と戦った者らの生き残り。シマーヅ王がイズヴァルトにつけれくれた武者達だ。

 

「急ぎ船を出す! ヨシヒロブルグのシマーヅ王様には代理の者を送り、後付けでこのたびの出兵を認めていただくでござる!」

 

 イズヴァルトは正式なシマーヅの家臣ではない。ゆえに国王の許可を得なくても自由に出兵することができる。知らせを聞いてから3日でイズヴァルトはタネガシマスカルを出発した。

 

 戦乱を望む世界は、英雄であり救世者でもあるイズヴァルトを安逸な暮しを続けさせてくれなかった。シマーヅに戻るのは6年近く後の事になる。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 ホーデンエーネン王国暦の352年11月半ば。イズヴァルトは長い航海の果てにチクゼニアの地を踏んだ。この辺りになるとチンゼー大陸でも文化はがらりと変わっていた。気候や植物がいくらか冷涼になり、サイゴーク南部とあまり変わらぬのだ。

 

 イズヴァルトは早速、シマーヅ王が早船で与えてくれた証書を携えてチクゼニアの王を尋ねた。単刀直入に問う。侵攻を目的とするサイゴークへの派兵を目論んでいるのは本当でござるか?

 

「是非ともお答えいただきたいでござる」

「噂にたがわず無礼千万な物言いをするさむらいだな。えっらそうに……こほん。失礼。これはあくまで余の至らぬ心が口に出してしまったことじゃ」

 

 ここでイズヴァルトと戦う事になれば、シマーヅとスミジアに敵対する事となる。しかもアソマリアとヒューガスタンでもイズヴァルトの名は広まっていた。特にシマーヅは南の大国。戦争になるかもしれぬと国王は恐れ、言葉を選びなおした。

 

「サイゴークのスーエイニアとゲースティアへの侵攻は確かに計画、いや、もうすでに始まっておる」

「なんと! では、急ぎ停戦を求めていただきたいでござる!」

「いやいや……それがならんのだよ。余にはそのような力が無い。オグラーヤの王もな」

 

 国王は嘆いた。この頃のチクゼニアとオグラーヤの両国は大豪族の合議制によるまつりごとが行われていた。王家はあるがしょせんはお飾り。チクゼニア王は都を中心とした小さな地方を治めるだけの神輿に過ぎなかった。

 

「ホーデンエーネンの仕組みをもっとひどくした形でござるな……」

「というわけなのだよ。実質、我が国では沿岸部のムナカッタ家が、オグラーヤではクロッタル家がこの侵攻を指揮している。他の豪族の当主らと結託してな。余とオグラーヤの王はハンコを押したりこさえtて育てた姫を下賜するぐらいしか仕事ができん」

 

 都の兵士の半分は豪族たちの私兵であった。ゆえにつまらぬ動きをするとすぐにとおせんぼをされてしまう。ならばとイズヴァルトは侵攻軍がどのあたりを攻めているのか尋ねた。

 

「詳しいことは教えてくれぬが、既に沿岸部付近にまで迫っている様だ」

「おおざっぱで役に立たぬと思えど、その情報はありがたいでござるよ!」

 

 頭をさげるイズヴァルトに、国王は胸をなでおろした。それから誘いをかける。年頃の姫を紹介しよう。15になる。貴族達の子息の間で評判の美人だ。仲良くしていただけないかね?

 

「申し訳ござらぬ! 先を急いでいるゆえ、すぐに出発するでござるよ!」

「あはは……ご運をお祈り申しておるぞ。せめて子供だけでも宿していってもらいたいのだが……」

「それよりも平和が大事でござる! それでは御免!」

 

 イズヴァルトはミツクニュモスらと共に急ぎ港に向かった。飲み水と食料を詰んだ後、出港して北へ。目指すはスーエイニア王国の南海群島である。

 

 南海群島は漁場でもあるが同時に海軍の拠点としての役目もあった。かつてのスーエイニア=ゲースティア戦争では僭主・ハースティンの敗死後、彼の部下がゲースティアの軍の侵攻に頑強に抵抗した事があった。

 

 出港から2日目に見えてきた群島の最初の島は、既にチクゼニアの豪族衆の旗がなびいていた。交渉に来たと知らせる為にイズヴァルトは花火を打ち上げて島の軍に知らせた。

 

 しかし相手は友好的ではなかった。島の港からすぐに十隻の突撃船が現れて交戦の合図を示す、3度の花火を打ち上げた。

 

「あの花火は……なんでござろう?」

 

 この海域の花火信号について、イズヴァルトはよくわかっていなかった。ついつい勢いで出発したものだから知る余裕も無かった。

 

【ギルバート=カツランダルク注:この海域の花火信号は独自基準を用いている。イズヴァルトの時代よりもっと昔に策定された、他の海域が採用している共通基準があるのだが未だ用いられていない。】

 

 船団は銅鑼を打ち鳴らしつつ槍と鏃を馳走しに襲い掛かって来た。

 

「有無を言わさずでござるか!」

 

 ならばそれに応ずるのみ。イズヴァルトは弩弓兵らに連弩の準備をさせた。ミツクニュモスは戦いが終わるのを待つ為に船室に籠った。指揮するイズヴァルトは、敵兵に新しく生まれ変わった覇王の剣の力を見せてびびらせようと考えて印を切った。

 

 しかしである。距離があと100メートルというところで、聞いたこともない激しい轟音がチクゼニアの軍船から一斉に鳴り響いた。けたたましい連続する炸裂音の後に、船の舷が木くずを散らし、弩台にいたシマーヅの戦士がばたばたと倒れていった。

 

「な、何が起きたでござるか!」

 

 一瞬音が鎮まった後、黒い煙をもうもうと立たせる敵方の船から、またも破裂音が次々と。帆柱の表面が爆ぜ、舵をにぎった船乗りが血を噴きながら後ろに倒れた。

 

 さて、チクゼニアの海軍がいかなる技を用い、イズヴァルトの船を襲ったのであろうか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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