※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第三十四回

 チクゼニアの豪族たちの軍船からまたも、炸裂と轟音が起こった。なにかが当たって音や木屑が飛びはねた。

 

 そんな中でも帆柱に穴を開け、うがったものをほじくり出した者が持ってきた。鉛の玉だった。

 

「これは……」

 

 またも炸裂音が鳴り響いた。しかしイズヴァルトはこれ以上、やらせるつもりは無かった。

 

 弓矢を取り、鏃で印を切って放つ。狙った敵船の舳先にあたった矢は爆発を起こした。船に炎があがり船員達は飛び込んだ。

 

 敵方から悲鳴があがった。イズヴァルトは隙を与えなかった。たちまち5隻の船を沈めさせると敵方の指揮官たちから大声で和議を持ちかけられた。イズヴァルトは側にいた部下に言った。

 

「ミツクニュモスどのを連れてきていただきたい。交渉のお仕事と言ってほしいでござるよ」

 

 和議やご相談になると、外国語と損得勘定が得意なミツクニュモスの出番である。話はすんなりとまとまった。イズヴァルトらがシマーヅ王国の代理であれば丁重にお迎えするしか無い。

 

「しかしいきなり攻めかかって来たのは酷でござるよ。拙者の部下が、しかもシマーヅの戦士が命を落としたでござる……」

 

 戦死者は5名。しかも全員がタネガシマスカル島移住に付いて来てくれたシマーヅ国の精鋭の古豪達だった。

 

 イズヴァルトは冥福を祈った。とはいえ死んだもの全員は50近くの老齢。それから4人以上の妻妾を持ち、20人以上の子を授かった。おまんまに困らない以上の給与をもらっていた。

 

「こちらは戦死者も出たし負傷者もいる。そちらさんは船が5隻壊れただけで死傷者はいないじゃないですか。仕掛けたのはそちらさまです。要するにシマーヅ国の船を襲って5人も殺害した。これは外交問題にも発展しますよ?」

 

 それからもっと有利な条件を引き出せないかとミツクニュモスが押して出ると、チクゼニアの武者らは困り果てた。

 

「仕方がない。大公殿下をお呼びするほかないか……」

「そうだな。なにせ、シマーヅの使者でもあるわけだし、ぞんざいに扱ったら本当に外交問題になってしまうだろう」

 

 かくしてイズヴァルト達は島にとどめ置かれた。とはいえ島の中であれば自由に歩けるのでその間にこの戦争に非があることをまくし立てることにした。

 

 女を口説くぐらいに論破が得意なミツクニュモスにレクチャーを受けながら、この侵略行為がどれほど卑怯で倫理的によろしくないかとイズヴァルトは叫びちらした。

 

「貴殿らチクゼニア人は間違っているでござる! 海域の支配権を独占して利を得るのはムナカッタほか数名の大豪族だけ。兵士としての仕事を終えれば地元に戻り、漁師や荷運びの仕事につく貴殿らには一銭も還元されぬでござる!」

「大義の無い戦いはごろつきの喧嘩と同じ蛮勇そのものでござる! この戦いに加わることでもし心が痛むのであれば、今すぐに船を奪って地元に戻るか、ゲースティアやスーエイニアの義勇軍に加わるかするべきでござる!」

「全チクゼニアの労働者人民は決起せよ! 侵略という名の暴虐行為を行う旧支配層を打倒し、チクゼニア王機関論による人民議会制国家を目指して邁進せよ!」

 

 多量のアジテーションが入っていた。チクゼニアの武将らは放っておくことにした。ミツクニュモスが素案を出したイズヴァルトの演説に賛同する兵士は、一割にも満たなかったからである。

 

【ギルバート=カツランダルク注:この箇所は真実。実際はイズヴァルトの演説後に一般兵士による暴動が起きたらしい。この5年後にムナカッタ家は大規模一揆に遭って当主が処刑され、家族は国外へと追放された。首謀者はこの演説を聞いた下士官達だったと言い伝えられている。】

 

 それからイズヴァルトは炎の剣に生まれ変わった覇王の剣を用いて、いろんなことに挑戦したりもした。

 

 小石を集めて穴に埋め、その中に覇王の剣を差し込む。それから石をどけて魚や甘藷を入れる。1時間後には魚もお芋も程よくあたたまる。それもただ焼いただけのものよりも、数倍旨味が増していた。

 

「ほく、ほく……アソマリアの炎の神様、とても便利な力を覇王の剣に注いでくれたなあ」

「ビアンカさまがおっしゃった言い伝えによれば、アソマリアの女神様は石焼料理が大好きらしいでござる」

「そういや、羽根妖精たちも石焼料理を作ってたよな……カブトムシの幼虫とかそうやって食うみたいだけど……」

「アソマリアカブトムシは下に落ちた果物ばかりを食べるそうでござる。案外、甘いらしいでござるよ?」

 

 美味しい焼き魚をかぶつきながらミツクニュモスはげっそりした。カントニアの昆虫料理は、エルフの里で食べたもの以外、何もかもが重罰みたいなものだったからだ。飢餓の時、ヒトの死体以外に食べる代物である。

 

【サイゴークの戦史家の談:1年以上の篭城戦になると、戦闘は起きないのに必ず子供や老人の数が減る。そういうことである。それに目をつけたイーズモーの暗黒卿は、籠城側の内通者として必ず子供や老人を選んだ。城内戦闘が起きた場合、死ぬ確率が高くなるのは『食べる側』だからである。】

 

 それから10日経った。イズヴァルトが島の者がやっている畑を手伝い、お礼にみかんの酒をたくさんもらって宿舎でミツクニュモスらと酔っ払っていた夕べであった。

 

「イズヴァルトさん! ムナカッタ公様がお目見えになられました!」

 

 部下たちの他にチクゼニアの兵士らも交えて気持ちよく飲んでいたのだが、無理やりに引っ張り出された。謁見の場は大会議室。

 

 初めて見るムナカッタ公は浅黒く精力的そうな太り方をしていたが、表情は疲れ切っていた。連日荒淫にふける男の様な目元だった。

 

「お初にお目にかかる。イズヴァルト=シギサンシュタウフェンでござる」

「その腹心で通訳で軍師で世話係のミツクニュモス=ミートパトロスでございます。ヒッターチにお寄りの際は、ぜひともミートパトロス家にもお越しください」

「ムナカッタ当主のマフド=ムナカッタである。ホーデンエーネンの『麒麟児』にお会いできて光栄だ。はあ……」

 

 マフド=ムナカッタは浮かない顔のままだった。チンゼーの男は大概が感情的で、表情でごまかすことが苦手な者が多い。

 

「なにか、お困りごとでもござるか? そもそもこのようないくさを……」

「そのいくさに負けたのだよ、我らは、ゲースティアに」

 

 信じられぬといった顔のイズヴァルトとミツクニュモスを前に、マフドは背後の家来に命じる。彼が短槍の代わりみたく携えていた棒のようなものを、テーブルの上に置かせた。

 

 50センチほどの細い鉄の筒と木でできた持ち手。持つところの側に引き金があった。

 

「これがわかるかね?」

「さあ? 穴が空いているようでござるが、なんなのでござろう?」

「イーガ産のサーペンタインだ。長鉄砲という通称があるそうだな、貴殿の大陸では。マイア=テクニカが発明したそうだが」

 

 その名前を聞いてイズヴァルトは一瞬だけ眉間にシワを寄せた。マイア=テクニカが利益を得るため、輸出してはならぬような代物までも海外に売り飛ばしている噂をちらと聞いたことがあったのだ。

 

「使い方は鉛玉と火薬を銃口から押し込み、火縄や火打ち石で中の火薬を爆ぜさせて飛ばす……のが初期型らしいが、これは最新式のものだ」

 

 今では魔法の発火装置が銃の穴の奥にあり、上部にある安全装置を外してから引き金をひけば、弾が飛ぶ仕組みになっているという。

 

 イズヴァルトの船に鉛玉をぶちまけ、5人の戦士の命を奪ったのがこの鉄砲だった。初めて見る武器を手に取るイズヴァルト(注1)に、マフド=ムナカッタは暗い目を向けてこう言った。

 

「鉄の鎧を貫通する凄まじい威力。それと轟音のけたたましさ。破壊よりも恐怖を巻き起こす新兵器だと、我々は目を輝かせていたよ。亜人にはほんの小さな打撲傷しか負わせなかったがな」

 

 それでもこの新兵器は、オグラーヤとチクゼニアの武者や豪族達に夢を抱かせた。かねてから揉めていた海域諸島の領有争いに決着をつけるための軍を起こした。鉄砲はその緒戦で威力を見せつけてくれた。

 

 島どころかスーエイニアやゲースティアの沿岸部にも船を繰り出した。いくつかの海軍の基地に火を掛け、オグラーヤ=チクゼニア連合軍は得意の頂点にあった。

 

 とはいえ、ゲースティアとスーエイニアの反抗が緩慢だと諌める武将も中にはいた。しかし戦争とは勝てばいい程度の認識しか無かった総大将らは、その諫言を黙殺した。

 

「が、我々は勝ちすぎて敵が誰だったかをすっかり忘れてしまっていた。もう北に向かっていないとばかり思っていたのだよ。あのショージュ=オーウェンが……」

 

 罠にはめていたのだとマフドは言った。10日前に起きた連合軍とゲースティアの海戦で起こったことは、こうだった。

 

 ゲースティア沿岸部から数十隻の船団がオグラーヤが占領した諸島に向けて進発。連合軍がそれと対峙した。

 

 船の数は連合軍が上だった。しかしその諸島の南側の海域から、突如として100隻以上の船が攻めかかったのだ。この海域の流れをよく知っているようで、島々の隙間を通って挟み撃ちとなった。

 

「見事な挟撃だった。オグラーヤ軍の総大将ら、主だった武将らは全員が海の中。我らは命からがら逃げてきた。ここまでな……」

 

 その背後からの船団は、外洋向けの輸送船や交易船ばかりであった。しかし甲板に小型の投石砲や爆雷砲を積んでいた。

 

 そして、ゲースティア海軍の中でも最も恐ろしい軍団の旗をなびかせていた。老提督・ショージュ=オーウェンが出陣する時に必ず掲げさせるものだ。

 

 三本の太い矢を背に刺す、くじらが描かれているのがそれである。徹底的に簡略化されたくじらは可愛らしくもある。しかし、そのくじらは船ごと人を飲み込む人食いクジラと恐れられていた。

 

 ショージュ=オーウェンは昔から、もしもの時の為にゲースティアの外洋船に投石砲を積むように義務付けていた。

 

 また、ゲースティアの軍記によれば連合軍の進行を聞いてすぐ、ショージュはゲースティアの北にあるハリマーヌ公国の港より密かにゲースティアへ戻ったそうである。

 

「ゆえに我らはこれよりこの島を撤退する。イズヴァルト=シギサンシュタウフェン、我が国にこれ以上用事が無ければここを去れ。いずれゲースティアとスーエイニアの船がやってくるだろう」

 

 かくしてチクゼニアの軍はその島から去っていった。島に取り残されたイズヴァルトは、ミツクニュモスらとこれからどうするかを尋ねてみた。

 

「ここまで来たんだし、この手勢で義勇軍として加わるのはどうかな?」

「さようでござるな。シマーヅまで戻るのもまた一苦労。ゆえにここは……」

 

 いよいよおおいくさで名をあげ、世界に名を轟かす大将軍になるのだとイズヴァルトは意気込み、ぼろぼろになった船に乗った。力自慢の部下たちとともに、えっさほっさと櫂を漕ぎはじめた。

 

 さて、イズヴァルトが漕ぐ船が向かう先はどこであったか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

 

 

 

【注1:ロンディニウム版はおろか、その他の版でもイズヴァルトが鉄砲と出会ったのがこれが最初だとしているが、彼と同行した者達が残した日記によれば、この頃すでにイズヴァルトは鉄砲を知っていた、あるいは用いていたと書かれている。また、ホーデンエーネン王国歴350年には、チンゼーの各地で火縄銃や火打石銃の工房が出来始めていた。(ギルバート=カツランダルク)】

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