聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
触手姫は語った。
ウラスコーではイズヴァルトが去ってから1年してイズヴァルトが病気で死に、マイヤが葬式からすぐに他の男と結婚し、子供を儲けたと耳にした。皆が悲しんだと。
「しかもイズヴァルトちんとの間の赤ちゃんをシギサンシュタウフェンに預けて、新しい男とずっこんばっこんを繰り返してたと聞いたでち! ろくでもないくそあまになったらしいでちね!」
「……少々違うでござる。拙者はあの頃病気がちになって、お給料がだいぶ減ってしまった。愛想をつかしたマイヤは、知り合ったイーガのやんごとなきお方に言い寄られて、拙者を見捨てたのでござるよ」
マイヤに捨てられた本当の理由を話したイズヴァルトは、とても心苦しそうだった。そしてブランカ達に衝撃的な事実を語った。
「その者と一緒になるために、間引いたのでござるよ。生まれてすぐの子を……」
それこそが、このイズヴァルトの青年編のサーガまでの空白に隠された真実であった。姦婦・マイヤ=カモセンブルグはイズヴァルトと別れた後に赤ん坊を出産した。しかし忌まわしき前の恋人の子は邪魔だった。
産婆に頼み、生まれ出た赤ん坊を縊り殺させた。自分の明るい未来と家族計画の為にである。その時マイヤは13歳。幼女の頃から頭脳明晰な天才児は同時に、謀略の使い手のごとき冷酷さを身につけていたのだ。
【ギルバート=カツランダルク注:伝承歌や講談ではマイヤがイズヴァルトの子を堕ろしたとあるが、事実や史料と違うので要注意。】
「しかし子を捨てたのは、拙者の稼ぎが悪かったがゆえのこと。それから、『こぶつき』を結婚相手のご親族が気になされたらしいでござる」
「そうでちか。もうマイヤちんは契約の相手とは認められないでち。マイヤちんだけは……」
ブランカは契約者の変節に心を痛めた。けれども語り合うにも苦しい話を続けなければならない。
もっとひどい話を聞いた、と、触手姫やウラスコーの若者たちがイズヴァルトに教えた。この集落と水産工場を造ったドワーフの手伝いに来ていた、ジェイムズ=ヒューレットという大工から聞いた話だ。
「ジェイムズ=ヒューレットでござるか? 初めて聞く名前でござる」
「戦争を避けてイナーヴァニアからイーズモーに移住した大工さんでち。イーズモーも危ないからと家族を連れてスーエイニアにやって来たでちよ」
ものすごく腕がいい。将来は大建築家になるだろうとドワーフ達も言っていた。そのジェイムズは去年、ホーデンエーネンでとある仕事をしたという。
「その仕事というのが……マイヤちんのお屋敷を建てるというお仕事でち」
イズヴァルトとミツクニュモスらは、ポーラらが作ってくれた『てっちり』なる料理を食べながら触手姫の話を聞いた。『てっちり』とはこの養殖場でとれる、ふぐの鍋である。
「ところでこのふぐ鍋、肝みたいなものが入っているでござるがなんのふぐでござろう?」
「殺人フグという猛毒のフグのお肉でち」
「……イズヴァルトさん、解毒魔法」
「だいじょぶだいじょぶ。養殖場にいる触手ちんたちの力で解毒されているでちよ」
なるほど。イズヴァルトは初めての美味に感激しながら、ホーデンエーネンのマイヤの新宅についての話を続けてもらった。
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マイヤは王国の経済長官となった立場から、国の予算を自由にでき、様々な国家事業を始めていた。
イーガの魔導交通網『えくすぷれす』をホーデンエーネン国内に伸張する工事や、国内の街道を整備・拡張する事業など。武器ばかりを作るマイア=テクニカの第2工房の建設と運営もそれである。
そのせいで税金が倍近くに膨れ上がったという。民衆の恨みの声が聞こえるようになった。
「おしゃぶり姫はきんたまや子袋の汁だけでなく、自分たちの財布も吸い取ろうとするのか!」
しかし彼女はすべての訴えを退けた。屈強でちんぽが大きな愛人兼護衛の武者達に囲まれながら、もっと世の多くの人々を怒らせる事業を開始した。
彼女が封地として与えられたヨーシデン南部、その沿岸部の北側にある平野部に、新たな都市を築く計画を始めたのだ。
今はまだ土地を慣らして土台を固めている最中だが、たくさんの人夫を集め、イーガの最新鋭の魔法土木建築技術を用いて急ピッチで進められている。
マイヤの新宅、つまりはヨーシデンの屋敷もまた建設が始まった。屋敷というよりもちょっとした城であった。ジェイムズ=ヒューレットはその邸宅の、三番目の館の設計を任されたという。しかしその建設現場は過酷だった。
疲れてへたれたり、さぼったりする人夫を見つけたマイヤは、自慢のでかでかおっぱいを用いたおちんちん介護で『忠犬』に仕立てた武者に命じ、殴る蹴るなどのリンチを加えたという。
それを恐れたジェイムズ=ヒューレットは工事を急かした。彼が設計した館が先に完成した。それにマイヤは集めた調度品や自分の肖像、しかもあられもない下品でいやらしいポーズのそれを飾り、近隣の領主らを招いて豪勢なパーティを毎晩開いた。
そのパーティにジェイムズもくわえてもらったが、マイヤは大事なところがレースになっていて見えるか見えないか、みたいな扇情的なドレスをまとい、2時間毎にたくさんの客人と皆が見てる前で媾わったそうである。
【ギルバート=カツランダルク注:サーガでのジェイムズ=ヒューレットのこの語りは間違っている。実際マイヤは手伝ってくれた人夫全員におしゃぶりを施して慰労し、皆の前でけつあなを見せて、おなら芸で和ませたとジェイムズ本人の手記は書いている。】
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「奢侈で淫ら。それでいて傲慢で冷酷。この世にできぬことは無いとうそぶき、自分が出来ないことは空に浮かぶ月をこちらに呼び寄せることぐらい、と、ばかちんなことをほざいているそうでち!」
触手姫は怒って床を踏み鳴らす。裸足だったので、べちっ、べちっという可愛い音だった。しかしマイヤの暴虐ぶりはますますとどまることを知らなくなっているという話は続いた。
「マイヤちゃん、そのヨーシデンの都のおっきな建物の中に、人柱というものを入れたらしいけえのう」
「ひ、人柱でござるか!」
人柱。
要するに、建築物の工事の成功と末永い維持を願って生きた人間を土に埋める生贄である。ホーデンエーネンのあちこちでたまに行われていた。迷信深い貴族は税金を払えぬ農民の子や孫を、それに用いたりしていた。
「パラッツォ教団の捕虜を、それに使ったらしいって聞いたけえ……」
「噂によると1000人ぐらい人柱になったらしいけえ。マイヤちゃん、おっそろしい子になっちまった……」
イズヴァルトはもう何も言えなかった。マイヤはとうとう悪魔道に魂を売ったらしい。いずれこの手で討ち果たすべき相手になるかもしれぬ思うと、心が痛んだ。
「なのであたちはマイヤちんをもう、契約者から外したでち。つまりは自由意志というやつで動くということでちよ。というわけで自分勝手にやらせていただくでち」
触手姫はイズヴァルトに手を差し伸ばした。これからウラスコーを奪い返す旅に、自分も加わると呼びかけた。
「ブランカどの……」
「ウラスコーを奪ったのはサート鉱山が目的だと聞いたでち。ジョナサンちんの生まれ故郷を好き勝手にしようとするなんて非道にもほどがあるでち。てなわけでイズヴァルトちんはあたちと一緒にパラッツォのばかちんどもめをコテンパンに叩きのめして、心を入れ替えさせるためのおしりぺんぺんをやってやるでちよ!」
「うむ!」
イズヴァルトと触手姫は手をしっかりと握りあった。この2日後、イズヴァルトはブランカを連れてトクボンの城へ向かった。
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トクボンにゲースティアの大将・ショージュ=オーウェンが訪れていた。事もあろうかとんでもない護衛を引き連れてだ。
カイロネイア=エルフのオクタヴィア=アーマリクと、ツックイーの森のパオレッタとマリアの姉妹。それから彼女たちの同郷の男エルフが数名。
もうひとりイズヴァルトの知り合いが。エルフの築城名人、ミレイユ=キョーライである。オクタヴィアより身体は細いが、レイピアや細槍の達人。武芸も魔法も申し分ない猛者であった。
「ミレイユどのが来られたとは。これは心強いでござる!」
ミレイユは怜悧そうな目を冷たく光らせていた。この女エルフは物静かで滅多に笑わない。笑う顔をイズヴァルトは見たことが無かった。
「ところでなにゆえ、サイゴークに来られたのでござる?」
「参陣がてら、弟子たちが造った砦や城の補修を考えていてな。どこも築いてから数十年、数百年も経っているからところどころ壊れているだろう」
それからトクボン城に対してミレイユは毒づいた。陸側の防備に対して海側の守りが薄い。トクボンも彼女が縄張りづくりを手伝った城市だという。
「周辺の島の狼煙台は伝えた数の半分。砲台もそうだ。5代前のスーエイニア王は資金と資材をどこに注いだのだろうか?」
ミレイユが内務大臣や城市の守将らをにらみつける。その時代の技師らの日記を持ち出して、当時王国だったゲースティアとの戦争で資金難に陥ったことを伝えた。
「そういえばゲースティアにも、ミレイユ様とお弟子様方が築かれた城がいくつもございましたな?」
レーゼ内務大臣の指摘を受けてミレイユは言葉に詰まった。まあ、そうだな。後ろでイズヴァルトらの話をじっと聞いていたショージュ=オーウェンが口を挟む。
「これから向かうイーズモーも、ミレイユ様が築かれた城塞がいくつもあるというわけじゃ。だから儂は頼んだのじゃよ、ミレイユ殿のご参陣をな、イズヴァルト卿」
「……とほほ。骨が折れそうでござるな」
とはいえこれで陣容は揃った。イズヴァルトは強力な仲間とともにスーエイニア軍の客分として北の戦地で向かう。
この頃はすでにイーズモーは雪に閉ざされた大地となっていた。部下のほとんどは慣れぬ気候で四苦八苦することとなるがさて、サイゴークでのイズヴァルトのいくさぶりは、いかなるものであったのか?
その続きについてはまた、次回にて。