聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「助けていただきありがとうございます! わたしはイングリ=モングリトゥールといいます! エチゴニア島出身でタカダハッケの村の庄屋の娘でございます! かつてはエチゴニア公の陪臣に連なる家だったそうですが、家には先祖代々の鎧や宝物などがございました!」
イングリと名乗った娘は今年で13歳。金髪碧眼でなかなかの器量よしだった。すらりとした体型であるが、乳もそこそこに膨らんでいた。とはいえ素っ裸だった彼女のお腹は、少女のそれとは違う。どうにも『経験豊か』な生殖の痕があった。
「11の時に1人の子を産んだことがございます! 息子です! 相手は多分……ゲイルかカルルかあの時来ていたヨハンソンおじさんだったと思いますが……でもこのお腹の子はひどいめにあってできた子なのです!」
イングリは言う。1年半前、村に女兵士を集める司祭騎士がやって来た。庄屋の娘であったから出なければならなかった。無理やりに具足を持たされて船でイナーヴァニアに向かい、ある戦いに参加したが武芸がまったくだめな自分は弓をとることもできなかった。
「というわけでわたしはせめて、戦いで散る男の人たちの為にあかちゃんを産む仕事に従事していたのですが、あのヘンリック=イプセンという男がわたしを無理やり寝床に引っ張って、自分だけのものにしたのです……」
それは明らかに教団の教えに叛く行いである、とイングリは批難した。自分はいやいやだったけれど、ヘンリックがあれこれと脅したり甘い言葉をかけてくるものだから仕方なく付き合わされた。彼とだけ情交を続けて子を孕んだ。お腹の中にいる子供である。
「わたしは、解放軍のみなさまを支持します! もう戦いにひきまわされるなんていや! 娼婦でも愛人でもなんでもしますから、だから殺さないで! わたしも捕えられた人もみんな! おねがいだから!」
イングリという娘はどうしてここまで怯えているのか。イズヴァルトとエルフ達はそう思って首をかしげた。連合軍は降伏した信徒への暴行や殺害を一切許していなかったし、やれば本人が処刑されるので兵士達もそういう手の出し方はしなかった。危害はせいぜい、陰湿ないじめをするか女なら『法悦』させろと求めるだけである。
「あはは。このイズヴァルト=シギサンシュタウフェンは、決して貴殿の首をはねるようなことはせぬでござるよ。負けて降れば貴殿らは国元に戻されるか、サイゴークで暮らすかのどちらかでござる」
「そ、そうなのですか! でしたらわたしを、イズヴァルトさまの妾か侍女にしてくださいませ!」
イングリはきれいな顔を紅潮させた。白い顔にばら色の頬である。彼女の美少女ぶりが一層際立った。
「モングリトゥール家はもとはホーデンエーネンの騎士を祖とする家でございます。きっとホーデンエーネン人のあなた様と気性も身体も……」
「特別扱いはだめでござる。ブランカどの」
「はいでち」
ブランカが小さな手をイングリに差しのべる。身請けするでち。イングリはスーエイニアにある『ぷにぷに水産』に送られる事となった。ウラスコー解放後は半分以上の者らが故郷に戻る為、新しい働き手が必要だったのだ。
このイングリは短命の呪いを取り除いてもらってからおよそ50年、死ぬまでスーエイニアで暮すこととなった。暖かい気候と豊かな食生活、ぷにぷに水産特製のふぐの干物によって寒い故郷を懐かしがれなくなったのだ。
触手責めの後、ウラスコーの街は連合軍によって解放された。総大将のヘンリックや幾人かの武将らは逃がしてしまった。イングリの話によればドワーフの戦士達が助けたらしい。散々身体をもてあそんだ自分を置き去りにしてだ。
「弄ぶというのは信用できぬでござるが、一番の標的を逃したことは確かでござるな」
イズヴァルトは町長の屋敷のソファに座ってぼやくように言う。触手達が茶が入ったティーポットとお菓子をもって入って来た。目の前のテーブルに置いて注いでくれたのは、はちみつ入りの甘い物だった。
「ふむ。なかなかによき茶でござる。おいしいでござるよ?」
イズヴァルトは触手達の先端をなでてやった。うれしそうにくねらせるそれらは扉からすっと出ていった。戦勝の触手責めを受けたい連合軍の兵士達に奉仕する為にである。
それを見てにひりを笑うものがいた。年寄りであった。町長の筆おろしを務めた昔は大層な『美人ですけべなおばさん』だったという老婆だ。聞いた話によれば90に近いはずだが背筋をぴんと立て窓の外をのぞいていた。
「きひひ。やっておるのう。どすけべなパラッツォ教徒みたく、触手とさかりおっておるわい」
若い男たちが素っ裸にされてちんぽをいじられ、悶える姿を見るのは健康に良いと笑った。前よりも皺が少なくなり若々しくも見えた。それに気づいてイズヴァルトはぞっとした。
「……貴殿もサキュバスの血を継いでいるでござるか?」
「そうだったけえのう。4代前のばあさまが確か精虫吸い狂いの魔物だったと聞いておるがのう。きひひ……」
60代ぐらいに見えるようになった老婆はこの7年間、ずっとこの街でパラッツォ教徒の男達と存分に交わったと語った。かの教団は年寄りといえど、為せる者には法悦を与えるものである。
「歯がほとんどぬけちまっている口でのおしゃぶりが、たまらなくきもちいいと褒めてくれたけえ」
試してみるか。誘われたイズヴァルトは辞退した。今晩はいい湯に浸かったパオレッタ達に貪られる予定だからだ。それよりもこの老婆を呼んだ理由があった。
「この街に、貴殿のほかにだいぶウラスコーの街の方々がおられたでござるが?」
「わしと同じくたばり損ないばかりじゃがな。しかしわかいもんの半分ぐらいを除いてみんながサートの鉱山町で暮しておるけえ。町長もな」
「なに! オリバーどのが!」
町長だったオリバー=クロームウェル=ウラスコーは、サート銀山でよろしくやっているらしいと老婆は語った。鉱山町の総督である司祭騎士・ジャン=シベリウスの補佐役となっている。
かなり良い羽振りらしい。愛人同然で子供をぽこぽこ産ませていた3人の小間使いだけでなく、パラッツォ教徒の少女やドワーフの美女を妾に囲って子供達と暮しているそうだ。無理やりに改宗されたので、教団に忠誠を誓えば身分は保証されたという。
「ならば、町長どのと内通して内側から切り崩せば……」
「無理じゃろうなあ。町長を含め、あの町のウラスコーのもんは大切にされておるけえよ。鉱山の管理みたいな机仕事ばかりで、鋤や鍬を持っていた手がだいぶ縮んだそうじゃけえ」
しかも男どもみんなが、エチウから来た年若い娘たちに首ったけである。パラッツォ教徒となった彼らは朝昼晩の3度、別々の女と交わっていた。エチウの女はヒッジランド人よりおっぱいがでかい。しかも床上手ときている。ウラスコーの男達は生殖に取りつかれていた。
「すっかり篭絡されたでござるか……ならば、正面からぶち当たるほかござらぬな?」
「そういうことらしいのう……イズヴァルトさん。ばばあのあそこがどうなっちょるか、眺めてみんか?」
イズヴァルトは断った、代わりにウォルターを紹介することにした。言葉巧みに騙した格好で老婆と交わった彼だが、翌日顔を合わせるととても充実した様子であった。
「すごいぜ、あのばあさん。ウラスコーの『筆おろし名人』の異名は本当だったんだ……」
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これから出陣である。イズヴァルトは触手姫とウォルターと共に、ウラスコーの街にあるヴィクトリアの墓に花を供えて呼びかけた。
「戻ってきたでござるよ、ヴィクトリアどの……」
この墓参りにはエレクトラも一緒にいた。彼女はサイゴーク史上最高の合戦と言われるイッツク=シー島の戦いで、敵に囲まれた時にヴィクトリアとその同僚たちに助けられた過去があった。
「ものすごい女剣士だったんですけどねぇ。いずれはサイゴーク一の女戦士と恐れられるだろうと思えるぐらいに」
若くして散ったのが無念極まりない。生きていればホーデンエーネンで、イズヴァルトの子を育てながら聖騎士団で活躍していたかもしれないだろう。運命とはむごいものである。
エレクトラはウォルターとともに墓石に酒を振りかけた。それよりも残念でならないのは、館に奉納したはずのヴィクトリアの形見の剣、『姫竜の牙』が探しても無かったことだ。あの魔剣には強力な風の力があった。
「『姫竜の牙』か。魔剣の中でも秘剣と呼ばれているものだな」
ミレイユがつぶやく。墓の傍の石垣を、触手達が大工道具を持って直しているところを見ながらだ。
「しかし本物はサイカノマゴイチが持っていたと聞いている。ヒッジランドにあったのはその模造品、『魔蜂の突針』ではなかったかな?」
「ミレイユどのは物知りでござるな。さよう。ヴィクトリアどのの形見は『魔蜂の突針』でござる」
触手達が新しく焼いた屋根板や瓦を、周囲の家屋にふくのを眺めながらイズヴァルトはうなずいた。触手達は力持ちで大工仕事も得意だ。ついでながらお菓子も作ってくれる。火を使う仕事は苦手らしいので、そこは人任せになるのだが。
「『魔蜂の突針』でもエルフの間では極上品の秘宝と言われているよ、イズヴァルト。私もコンゴウアミダラデンの修繕工事の指揮を申し出て、サイカノマゴイチに複製品を作ってもらうようにおねだりした」
「ミレイユどのがでござるか?」
「まあな。でもそれは叶わなかったよ。エルフみたいな暴れん坊には物騒なものは渡せまへん、と断られてな。結局、私が貰ったのはこれだ」
ミレイユはベルトの小物入れから妙なものを取り出した。宝石で装飾されたタバコ入れであった。
「ずいぶんとけちでござるな?」
「いや。これを30箱貰ったよ。私は煙草をやらないから残りをニラッサの皆に配った。今はこれを鍵入れに使っている」
「どこの部屋の鍵でござろう?」
「私の研究部屋のだよ。もっとも、鍵は開けっ放しで誰もが持ち出し自由になっているがな。どの書も正確な写しが世に出回っている……興味があったら読んでくれたまえ」
ちなみに写しを1つ買うと書店から代金の1割がミレイユの懐に入るという。ミレイユはすでに金持ちの部類であったがもっと儲けたいと語った。
「そしていつの日か、『魔蜂の突針』を超える剣を得たいのだ」
「なら、アソマリアのビアンカどのに頼んで作ってもらえばよいでござるよ。この鋳物みたくなった覇王の剣も、見た目と違って切れるでござる。大根の皮むきや玉ねぎのみじん切りもできるでござるよ」
「なるほど、アソマリアか。よし、この戦争が終わったら私はアソマリアに向かおう!」
ミレイユの名刀に対する夢はさておき、イズヴァルト達は触手姫にウラスコーの防備を頼み、北へと向かった。
そこにはサート銀山を治めるジャン=シベリウスが待ち構えていた。しかもイワッミーのドワーフの戦士を得ていよいよ防備に身を固めつつある。敵は鉄壁の構えを築き、連合軍は苦戦することとなるがさて、イズヴァルト達に勝利の女神は微笑むのか?
その続きについてはまた、次回にて。
ここで青年編は一旦中断です。
次回からは外伝の『カツランダルク戦記』の第二章となります。