※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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40 盲信者

 アナキン=スカルファッカーは4年前、今は亡きアドルフ=トードヴェル=キョウゴクマイヤーを師とあおいでいた。アドルフはアナキンに目をかけていた。魔道士としての優れた素質を見出したからだ。

 

 彼と付き合う中、アドルフがサキュバスに、文字通りの襲撃を受けているのに出くわした。トーリの部下がアドルフの囚われ者となっていたマイヤの奪還の為にしたことだった。アドルフは魔法剣を使った。イーガ王家に伝わる魔族殺しの剣だった。

 

 襲撃した4名はうち2名を討たれ、2人が囚われの身となった。サミー、ミサ、コニー、ナーミ。アナキンは知らなかったがトーリが派遣した中級のサキュバスだった。アドルフはイーガを狙う遠い国に雇われたらしいとアナキンに語った。

 

「魔剣を君に伝授する。この王国に残り、このような刺客の襲撃をうけるであろう、私の息子を助けてくれるのなら」

 

 アナキンはアドルフに心服していたから受けた。奥義の修行に励んだ。そして伝授の日、捕らえられている3人の魔族の女を処刑する指示を受けた。捕らえているサキュバスをその剣技で斬ることで、習得は達せられるのだ。

 

 彼が最初に斬り殺したサキュバスこそが、ノンであった。最初にアドルフの館に潜入し、メグとマミがアドルフの奥義で討たれていくのを見届けながら、捕虜になった。彼女はあらゆる魔封じを身体に受け、拷問により左乳房が削り取られていた。アナキンは惨いと思ったが、イーガを害する悪の手先には容赦を捨てた。

 

 それを討ち滅ぼした後は魔族殺しの剣の威力を高める為に、もう2人のサキュバスを斬り殺した。その剣を斬り殺した魔族の魔力を吸う効き目もあった。アナキンは3人分のサキュバスの魔力をものにした。だからといって彼女達の魔法は使えなかったが。

 

 そして、北の館に潜入した7人のサキュバスをひっ捕らえた。魔道騎士団の手伝いとしてだ。うろんなサキュバス達が北の館に向かっている、などという情報が警備兵団にリークされ、向かったのだ。吹き込んだのはルッソだった。ある人物からの秘密の手紙でこの計画はできないか、と提案されたからだ。

 

 アナキンはパルパティアとピルリア、それから、ミレイユという褐色肌のエルフ達とともにひっ捕らえた。パルパティアがほとんど片づけてしまったが。アドルフを害そうとしたノンが、トーリの家来であったことをこの後に知った。

 

(まさか、トーリ姫がイーガ王国に仇なそうとしていたなんて……)

 

 ご本家と呼ばれる存在がその様な陰謀を張り巡らしていたとは。アナキンにとって衝撃的だった。しかしピルリアやパルパティアには相談を持ち掛けなかった。魔族殺しの剣や刺客のことは絶対に、自分と腹心以外の誰にも話すな。

 

 アドルフの腹心達。アドルフに絶対の忠誠と盲従するイーガの武者や貴族はまだこの国にたくさんいた。彼等と相談した。アナキンが驚かされたのは、その中の長老格のこの一言だった。

 

「カツランダルクのご本家こそが、まことのイーガのあるじなのです」

 

 ナントブルグの女王の王国に忠誠を誓い、その再興の為にホーデンエーネンと戦うイーガ魔法王国を打ち立てたエルフの将軍こそが初代様。第2王朝の創始者は、その呪いとも言うべき国是を潰し、イーガが独自の道を歩む未来を切り開いた。

 

 ナントブルグの女王の勢力からしてみれば、イーガは裏切者だ。だから襲ってきても仕方が無い。押し返すのみ。特にアドルフはカツランダルクの本家を危険視していたと長老らは語った。

 

「いずれお家再興の大反乱を起こす。その時にはイーガに派兵を求めてくるはずだ、とアドルフ様は常々、おっしゃっておりました」

「カツランダルクのご本家というのは、常に王冠を取り戻そうとするのが本質だ。時代遅れもはなはだしい。あの連中にイーガが巻き込まれぬよう、亡きアドルフ様は苦労なされていたのだ」

 

 いや、第2王朝の歴代国王全員が、カツランダルクの本家筋とはできるだけ距離を置くように務めていた。かの一族は疫病神だ。そして、トーリの元夫であるルッソが語ってくれた今のホーデンエーネンの話を聞いてその考えを強くした。

 

(騙されているんだよ、ルッソ=シュミット。トーリ=カツランダルクはホーデンエーネンだけでなくイーガも取り込む気らしい。そうなったら俺はトーリを許さない。アドルフ様を害そうとしたのだからな、必ず討ち果たすつもりだ。)

 

 その時には兄のケノービも手を貸してくれるだろう。いや、もしかしたら別のかたちで来るかもしれない。天下を得ようとするトーリの勢力とそれに反抗する貴族連合の勢力の内戦が勃発したりも。

 

 その時は先方衆に加わって、トーリの首をあげたいと願っていた。アドルフの命を奪ったのは、実はトーリの刺客ではないのか。アナキンはそう思い始めていたからだ。目の前のルッソには悪いがそうさせてもらう。

 

 この世界に転生して、はじめて賞賛を浴する機会が巡って来るのではないのかとアナキンは考えた。彼もまた異世界に生まれ変わって英雄になる類の漫画やアニメを前世で楽しんだ口だった。少年の時の夢が、よみがえる。

 

(俺も、歴史に名を残す勇者になりたい。)

 

 漫然と留学生としての日々を過ごしていても、優れた魔道士という名とスカルファッカー家の当主の座が舞い込んでくる。スカルファッカー家は江戸時代の大名で言えば、実高が20万石から30万石クラスの武家と同じぐらいだ。統治もよく、反乱が起こる事は無かった。

 

 それから愛すべき女。ピルリアは彼を魅了する可愛い妻だ。生涯の伴侶は彼女以外考えられなかった。浮気も既婚者のたしなみとして大目に見られているこの世界において、彼もイーガの美しい娘達とねんごろになっていたりしていた。

 

 だが、アナキンは忘れていた。幼い頃にいろいろと教えてくれた守り役、家臣団の今は亡き長老の言葉をだ。歴史書と人物史に詳しいその長老は、幼いアナキンにこう語った。

 

『この世界に前世の記憶をもって生れ出た転生人と呼ばれる者達は、才能と富と栄誉を得る代わりに、非業の最期を遂げる宿命にある』

 

 その才が特異であるほど、優れているほどに。波乱の英雄というものである。大きな力を持つ者に、悲劇は付き物なのだ。

 

 アナキンは漠然とした輝かしい未来とそれを夢想しての高揚感に包まれていた。とはいえその根拠なき希望を表情に出さぬように慎んだ。

 

 だが、それに気づいた者がいる。

 

(……なんだ? アナキンさん、妙に嬉しそうだぞ?)

 

 ルッソだ。気づいたのはパルパティアがマレーネの行動計画を語っている時だった。アナキンの目の光が強くなったからだ。気づかれないように印を切る。彼が使うのはサキュバスが交合を介して勝手に身につけさせた心を読む魔法だ。

 

 ルッソは考えていることを人にわからせないケチな特質を持っているくせに、人の頭の中を覗き見るのは得意になっていた。アナキンは強力な魔法抵抗を身に着けていたが、ルッソが得た『凄腕』らの術式はするりと抜けて思考に到達した。

 

(転生? 見返したい? やりなおす? なんなんだ?)

 

 パルパティアの話に適当に相槌を打つ5分間に、ルッソは多くのことを知ってしまった。アナキンはマイヤと同じく転生者で、ニッポンという国で暮していた。マイヤの40年後ぐらい後の時代に生きた。前世は素行が悪くて博打好きの女好き。ピルリアとは正反対の、束縛し過ぎな恋人と辛い仕事のせいで随分と荒んでいたようだ。

 

 そんな前世を送って来た。だからこの人生では英雄と呼ばれたい。イズヴァルトの様な。その為にはトーリの陰謀を暴き、討ち果たせばいいのだ。

 

(な、なんてことを……)

 

 ずる、と言えるようなその魔法は、アナキンの秘密を丸裸にしていった。

 

(魔族殺しの剣? アドルフさま? 君は、アドルフの弟子だったのか?)

 

 信じられない。妄想かもしれない。サキュバスのこの魔法で一番厄介なのは、空想や妄想が激しい人物にかけると『がらくた』ばかりを持ち込まれるからだ。情報の取捨選択が必要となる。話に整合性の有り無しを検証しなければならない。

 

(サキュバスを殺した? ホーデンエーネンにいるマイヤは偽物で、ローザという漁民の娘だって? ばかな!)

 

 信用に足る情報だとルッソは判断した。声を出してしまいそうだった。しかしこらえた。そうしてもアナキンが知っていることや勝手な思い込みがルッソの頭の中に次々と入って来る。

 

 まとめるとこうだ。アナキンはマイヤをアドルフから、瓜二つな漁民の娘・ローザと紹介された。ローザはマイヤとしてホーデンエーネンに潜り込んだ。街づくりに業績をあげたが、それは全てトーリがつけた学者や家来のものだ。ただの漁民の娘がそんなことをできるはずが無い。

 

 とはいえローザは寝たきりのままだったが、アドルフからいろいろと教育を受けていた様だ。ローザはマイヤのことに興味があった。ホーデンエーネン随一のおしゃぶり姫で知性においての麒麟児。四肢欠損のだるま娘はアドルフに引き取られる前は娼婦をしていたから、もっと深い性の技巧を学んだようだ。

 

 マルティン王子の長子であるフェアディナント王子は、『ローザ』が産んだ。マルティン様もあの娘を、ローザという天涯孤独の漁民の娘だと紹介された。アドルフ様は嘘をつかない。それをマイヤ本人だと国を挙げて言い張っているのは、ホーデンエーネンと休戦協定を結ぶ為だ。

 

 本当のマイヤ様の消息については、国元のケノービ兄さんが教えてくれた。彼女はイズヴァルトと共に違う大陸に渡っている。五体満足な姿のままで、イズヴァルトの子を毎年の様に産んでいるそうだ。

 

 そう。本国にいるのは偽物。マイヤの名を騙る影武者、漁民の娘のローザだ。

 

(そんなウソを……いやまて。どうしてトーリは、マイヤに会わせてくれないんだ?)

 

 疑念が生じる。もともとマイヤは知名度が高い。イズヴァルトを捨てたという事で国民から嫌われるようになったが、それでも支持する者もいる。学においては一応、信頼されている。マイヤの有名を利用してトーリは支持者を集めているという側面もあった。

 

 でも、あの和平会談の時に会ったマイヤは、少々くたびれていたけれども本物だった。イズヴァルトにしたフェラチオは彼女の技巧そのものだ。イズヴァルトも彼女に嫌われて絶望しきった顔だった。見ていて気の毒なぐらいに。

 

 遺伝子検査では戻って来た『マイヤ』は本物、と結論がついていたが、あらかじめ用意したものでやったのだろう、と突っ込まれたら自分は反論ができない。できるのはマイヤ本人だ。天下を取ろうとしているトーリなら、その程度の嘘をやりかねない。

 

 それでも、アナキンの思い込みだとルッソは言いたかった。でも、イズヴァルトからの手紙とか、そういった証拠が無い。海外からの手紙というのはなかなか届かないものである。それなりに筆まめだったイズヴァルトが、失意の内にあって筆不精になってしまった、というのもあったが。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「今から違う場所で、ちょっとだけ2人で話をさせてくださいませんか。ピルリアさんのことで……」

 

 話し合いの後でルッソはアナキンに耳打ちをして連れ出した。おまんこをしたいという話なら直接本人に言えばいいのに、とアナキンは思った。しかし不倫の相談とは別のことを相談したいのではないのかと考えて、彼と共に席を立った。

 

 工房の機械や職人の道具の音が聞こえない、外庭にあたりに来るとルッソは切り出した。

 

「マイヤの事についてお話がしたい」

「ピルリアとの浮気の相談、じゃなくて?」

「そちらについては……彼女の実家のお兄さんの名前を教えて欲しいなあ。農家をやらずにぶらぶらしているんでしたら、トーリに手紙を書いて武将に取り立ててもらいますよ」

「その心配はいりませんよ」

 

 ピルリアと同じく拳闘の達人であるその兄は、スカルファッカー家の領主護衛隊で働いている。強くてしかも美男子なのにまだ嫁を取らないそうだ。実の妹とのおまんこがよほど相性が良かったのかもしれない。

 

「それは残念です。トーリは、アスカウ公は強い武者を欲していたのですがね」

「いずれオルフレッド様がそうなられるでしょう。ご子息のお噂は耳にしております」

「では、マイヤ様の事についてのお話は?」

 

 アナキンが切り出すとルッソはこう答えた。まぎれもなく本物。嘘だ、とアナキンは思わず言ってしまった。

 

「アドルフ様からは、ローザという漁民の娘だと。兄からもそっくりさんだと聞かされましたが……」

「だったらマイア=テクニカのホーデンエーネン支部だのナーガハーマの街づくりに携わっているわけがないですよ。鉄砲だって。それと、マイヤらしくあちらの会社では鉄砲以外にも新製品を出しているんです」

 

 発明家、というよりプロデューサー兼ディレクターでもあるこの2年間のマイヤ発案の新商品。水泳用の子供用浮き輪と土木用の新型の手押し車である。手押し車は浮遊魔法を仕込んで軽く持ち運びができる様になり、握りにはブレーキがかかるスイッチがついている。それを押すと下り坂で暴走せずに車輪が止まる。意外と好評だ。

 

「それから魔法による制御機構をつけた、鉱山用の荷運び車も申請中らしいです。ほら、あの、軌道の上で走らせるやつ」

「トロッコのことか……」

「そうそう。そういう商品名だそうです。もともとは異世界の言葉らしいですね。最高級品は軌道にも制御魔法を仕込んで暴走を食い止められるようです。1人を殺すか他大ぜいを殺すかという厄介な話も無くなることでしょう」

 

 ATS機能付きトロッコ車が流行れば、あの難題も解決する。1人のちんぽも5人のちんぽもみんな無事だとサキュバスも大喜び。友愛。それこそがマイヤ=カツランダルクの本質だとルッソは言った。

 

「手押し車とトロッコ車は、ナーガハーマの大工事に携わってマイヤが発明したものです。そりゃあ彼女のことだから前世の世界にもともとあったものをパクっているでしょうけど、それを再現しただけでも素晴らしい」

「……けど、僕はアドルフ様と兄のケノービからは、そのように」

 

(やっぱりケノービのやつ、弟にそんなウソを吹き込んでたのか? くわせものだなあ……)

 

 デブスだが心優しい嫁とは違って、いまいち信用できないと思っていたがやっとはっきりした。思い切って、アナキンにとある話を聞かせることにした。

 

「マイヤには、アドルフ様との間に子供が1人いる、というのはご存じでしょうか?」

 

 アナキンは耳を疑った。しかしルッソの話に引き込まれた。言い返しもせずにじっと耳をそばだてていた。彼は信じていたものを疑わなければならない時に差し掛かっていたのだ。

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