※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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64 北の島

 これは賭け、だった。トーリはとても焦っていたのだ。これまで自分に絶大な自信を持たせてくれたサキュバスの魔法が使えない。未だ不快をもたらす右腕の痛みもあった。そのせいで余裕を失ってしまった。

 

 本当はカミラらサキュバス達を信じ、封印が消えるまで助けてもらうべきなのかもしれない。しかし信頼し切れなかった。強い力を振るう姿を見せた以上、自分が持つカリスマというものが失せてしまっているのではないかと考えてしまったからである。

 

 なんとかしたかった。魔竜の言う1年は待てない。枢機卿のタカミ=ジュン。彼と言葉と身体で語り合うことで、信頼できる人だと改めて認識した。この男が聖職者でもあるから、そうさせる力があるのかもしれない。ゆえに白状した。

 

「……エルフの封印を破る方法ですか」

 

 それも並のではない。魔道王国イーガと練り上げたものだ。魔法において凄まじい才能と潜在力を持つトーリでもまだ読み解け無い。つまりは術式が複雑に過ぎる、ということだ。

 

 エルフが作った術式はどれも、確かにややこしい事をタカミは存じていた。例えば、耳長の種族が使う『爆炎弓箭』や『紫電砲』、『凍殺風』などだ。

 

 彼は全く別系統の高度な術式・神聖魔法の使い手である。けれども他の術式もマスターできているというわけではない。せいぜいがムーツとエチウで発展していた魔法術式のみである。

 

「わかりました。調べてみることにいたしましょう」

 

 トーリという潜在的な脅威を再び呼び起こす事になるかもしれない。とはいえ彼女には君臨してもらわなくては困る。ホーデンエーデンの実質的な『王冠を戴く者』としてだ。今のように。

 

 急ぎの用事となれば悠長なことはしない。転移魔法で一気に本山があるカナザワース島へと飛んだ。礼拝堂にいるという教主に会い、事の次第を告げた。

 

「そのような事が……タカミさん、私は北の島に行かなければなりません」」

「そこにですか? 確か……」

「私であれば封印は解けるでしょう。ただ、自分自身にかかった物は、です。他のかたのは物によっては難しい……しかしです」

 

 封印術式はどこにかけたのか。術式が使えなくなったとなれば、魔力を発動する為の源にかかっているはずだ。

 

「サキュバスならば子宮か、卵巣か、あるいは、心臓か……霊体の場合もございますね」

「教主殿、何をおっしゃっている……?」

「まだ『先祖返り』が不完全なものならば、トーリさんは肉体に封印術式を仕掛けられたはずです。しかし、彼女が肉体を一度捨てれば……封印は意味がなくなる」

 

 その度合いがどれ程か、まずは『本物』達に確かめて貰わねば。教主はタカミに告げた。今から戻ってトーリを連れて来てくれ。

 

 翌日、トーリは淫魔の部下やニンゲンの家来を連れずに、タカミと共にカナザワースの本山に来た。

 

 久しぶりに会う教主の、聖なる淫気と呼ぶのにふさわしい気配で発情すると、『法悦』をねだったが「後でです」と断られた。

 

「なんてつれないことをおっしゃるんです?」

 

 いつものトーリならば、ここで教主をも惑わせ、『聖根』をいきり立たせる淫の気を発するのだが、コーザは感じ取れなかった。確かに彼女の魔法は封じられているようだ。

 

「強固な封印をかけられている様ですね。右腕を触ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、かまいません」

 

 トーリは今も痛む右腕を差し出した。骨は治っているようだが動かすだけで辛い。教主はそれを優しく掴んで凝視する。しばらくして彼は知った。

 

(なるほど。これは厄介ですね……)

 

 骨。封印術式は骨にかけられているのだ。それも右腕の折られた箇所から他の骨に。きわめて強力で厄介なやつだ。

 

(骨から身体全体に伝わる様に、ですか。恐ろしい魔法を考えたものです。)

 

 解呪は相当難しいだろう。トーリに事実を告げた。彼女は真っ青になって教主に泣きついた。

 

「そ、そんな! 私には魔法が無いと、やりたがりのスケベな女という価値しか!」

「もっと他にあるでしょうに。ナントブルグの女王の末裔であり、ホーデンエーネンの高貴なる血が……皆からも尊敬されていると聞き及んでおりますよ?」

「そんなもの、ぬるぬるとした海藻のおつゆをつけてあそこのおまめをいじいじする気持ちよさに比べたら、なんてことはございませんよ!」

 

 クリトリス自慰よりも取るに足らないことだ。つまりは今の自分はそんな価値しかない。この告白には計算が含まれていたが、ここ最近抱いていた本心でもあった。

 

 それでも教主は諭した。人脈や魅力というものをうまく利用すれば今の地位を保てるはずだ。それから権威。トーリは王族だ。それがある。

 

 さらに言えばこの厄介な封印魔法も数年すれば消えるだろう。トーリ自身もできるだけ早く解ける様に探っているのではないのか?

 

「そうはいっても、わたしは……わたしは、元はただの平民の女ですよ! アスカウの牧童の村で家畜の世話をしながら、わんこみたいにぽこぽこと子を産むのがお似合いの、取るに足らない好き者のおまんこに支配されている女ですもの!」

 

 そう言いながら教主の股間に手を添えてまさぐった。迫真の自虐芸、と彼女自身では思っている。このなりふり構わぬ、気の毒なほどの醜態を見て教主とタカミは、あきらめざるを得なかった。いや、この強引さにある種の王者の風格さえ感じてしまっていた。

 

「……やはり、会ってもらわなければなりませんね」

「どなたにですか、教主さま?」

「貴方の身体をもっと分析できる方々にです。今からついて来てください」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 カナザワース島の北には離れ小島が浮かんでいる。誰も住んでいない、おおよそ1キロメートル四方の島だ。

 

 古くから住む者は『名も無き島』と呼んでいた。いにしえの時代にこの島々で暮していたエチウ=オーガ達は『クア=フオック』という名前を付けていたが、今の時代には伝わっていない。彼等の言葉では『墓の穴』という意味だ。

 

 とはいえ名も無き島は、パラッツォ教にとって聖地の1つである。ここに教祖・コージュ=ストーンマウントの魔法工房があったのだ。

 

 その島に、1つだけある小さな山の南側にある洞窟の入り口。その先が魔法工房に繋がっていた。教主とトーリとともにそこに立っていたタカミは、深く息をついて檻が施されたそれを見る。

 

「あまり長居はしたくありませんね」

「どうしてです、タカミ様?」

 

 トーリが問うと教主は語った。ここにタカミらが長い間閉じ込められていたのだと。父のコージュにである。

 

「あら、枢機卿様がたは何か悪さをしたのでしょうか?」

「違いますよ。先代様と意見の相違があった為に閉じ込められたのです。我々は」

 

 閉じ込められたのは最深部。なぜか温泉が湧いており、冷たい水をたたえる泉もある。かなりの地中深くなのに外の様に寒くは無かった。むしろ、暗いのを抜きにすれば過ごしやすいと言ってよい。

 

「そこで百年以上も閉じ込められていたのです……コージュ様はいろいろと娯楽を提供してくれましたが」

 

 パラッツォ教の性格上、法悦に関わる供給は滞りが無かった。枢機卿らは毎日たくさんの女達と交わった。めくるめく官能が祈りと学問の時間と共にあった。ただ、外の世界を見れずにそれが続くのはある種の拷問だ。

 

「……わたしなんて、おまんこさえ出来れば1週間は引きこもってもへっちゃらですのに」

「それは貴方がサキュバスだからですよ。信心と思索の徒の気持ちはわからないでしょうね」

「そういう事なのですよ、トーリさん。枢機卿も私も、法悦のみで生きることはできないのです」

 

 では参りましょう。コーザは鉄柵に触れた。いくつもの檻の棒が目の前から消える。魔法で作られた代物だったのだ。コーザは中に案内した。

 

 タカミが灯りで照らす、岩肌の地下道をしばらく歩くと、大きな地下空間に出た。ところどころに古い木の板で作られた家屋の様なものが建っていた。

 

「ここは?」

「トーリさんに会わせたい方々のお住まいですよ。今はほとんどの方が眠っていらっしゃるようですが……」

 

 コーザが見渡しているうちに、いくつかある小屋のうち1つの入り口から何かが出た。重い足取りで、教主達の元にやって来た。

 

 2メートルほどある大きな人型の物体だ。いや、鎧である。頭からつま先まで、何もかもが黒い板金で出来た鎧兜だった。

 

「ごきげんよう。こちらの奥様が昨日お話した、ナントブルグの女王の末裔の、トーリ=カツランダルクさんですよ」

 

 鎧はゆっくりとうなずいた。地響きをたてながらトーリに近づく。見る者を威圧してくる、強い気配をトーリは感じた。

 

「貴殿がだね。お初にお目にかかる」

 

 鎧はひざまずき、深く頭を下げた。声はいかめしいなりに似合わぬ、穏やかでどこか呑気に感じられる優しい響きがあった。

 

「私は魔界の鎧騎士グラットン。この世界の者なら、名前だけなら聞いたことがあるだろう?」

 

 トーリ思い出した。あの伝説に出て来る人物だ。イーズモーの暗黒卿に愛用の剣を奪われた、鎧の魔人。『覇王の剣』のもともとの所有者だったと語り継がれている魔界の騎士だ。

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