聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「ちょめちょめちょめの、ちょめーっ!」
ちょめーっ!
ちょめーっ!
ちょめええーっ!
前方を塞ぐ敵兵を槍で蹴散らす掛け声こそ間抜けに聞こえる。だがしかし、王国最精鋭の聖騎士らに並んで槍を振るう少年武者・オルフレッドの武勇は、確かなものだった。
セイン王の小姓。もとい次のアスカウ公である。11の歳だが既に身長は160を超えており、横幅もある。王族衆の男児だという事で、セイン王がつけた武芸の教官や魔道士から、泣きたくなるほどしごかれ続けた。
その代わりに神は彼に麗しき美男子ぶりと、旺盛かつ立派な男性の象徴とを与えた。そのせいか、この歳で幼馴染でおっぱいが大きな年上の正妻を持ち、スカルファッカー公の娘姉妹に好かれて赤ん坊もこさえていた。
更に、幼い頃に預けられたシギサンシュタウフェンの山村には、彼の子と疑わしき幼児が何人もいると噂されている。しかし、これから歴史書に残る彼の子宝歴と比べれば、ほんの些細な事だ。
ちょめえええーっ!
ちょめえええーえっ!!
鬼教官らによるしごきという名の薫陶を受けたオルフレッドは、まさに若き獅子だった。初陣だが震え上がらずに勇敢に戦う。母を殺された怒りもあるが、疲れを見せぬ戦いぶりに古参の聖騎士らは驚きの声をあげていた。
「すげえ気迫だな。槍さばきもなかなかのものだ」
「まるでイズヴァルトの子供だった頃を見ているような……いや、あれほどはすごくないか」
「あれほどの槍術だったら、ナガオカッツェに婿入りしたライナー副団長の側近だと、確か、ベートーベンだったかな」
つまりは、10年前の聖騎士団の、見習い組のナンバーツーぐらいの才能がある。いや、あいつはもっと動きがもっさりしていたぞと別の者が返した。そんな品評をしていても聖騎士団員は、足並みをそろえて目の前の敵と戦う。根っこのところで油断していないからだ。
とはいえオルフレッドは初陣だった。気迫があり過ぎた。ついつい突出して1人だけ前に出てしまった。そこを手練れくさい武者2人が、左右から斬りかかって来た。前方には3人も槍兵が見えているのに。
「オルフレッド、言わんこっちゃない!」
古参の聖騎士らが助けに加わった。おかげでオルフレッドは前方に集中できた。3人を一気に討ち果たして戻ると、助太刀した男らに兜を叩かれた。
「一応は王族さまなんだから俺達と合わせてくれ!」
「はい、すみませんでした……」
「スタンドプレイが許可されているのは、うちじゃイズヴァルトだけだからな! でもあいつは特別過ぎるんだ! いいか、イズヴァルトの真似だけはすんなよ!」」
オルフレッドは頭を垂れた。しかし内心は憤りを感じていた。オルフレッドはあの人物が今も好きになれなかった。
(何かあればイズヴァルト、イズヴァルトだ。国を捨ててマイヤちゃんを捨てたやつなんかに、未だこだわっているのはどうしてなんだ?)
武勇なら、武人としても優秀なセイン王がいるのに。この国には他にもたくさんいるだろうに。その不満をエネルギーに変えて先へと進む。槍が折れると剣を抜いた。槍や棒程ではないが、剣もみっちり仕込まれていた。
オルフレッドはこの戦いで、20名以上の敵を討ち取った。初陣で母親の仇討ちもさることながら、男をあげる為の戦いとなった。この武勇は騎士達を通じて貴族や市井の者に伝わるだろう。
尚武の国、ホーデンエーネンでは皆がこう言う。
「多くの敵を殺せる勇士こそが、多くの女の子宮を思い通りにできるのだ」
女の子達といちゃいちゃし、孕ませてばかりのオルフレッドもとうとう花が咲いた。彼が最初の敵の首を刎ねる以前に彼と性交をしたり子を産んだ女の子達は、自分の目に狂は無かったと自慢げに語れるようになったのだ。
□ □ □ □ □
コリアンナは苛立っていた。戻って来た兄が20人も敵を討ったと語った事に自分の非力さを感じてもいた。安全なところで戦場となった丘を眺めていただけ。ザーチャとディークは長兄の初陣での活躍を他の騎士から聞いて大喜びしていたが、自分は喜べなかった。
(わたしもおかあちゃんの敵を討ちたかったのに。)
女の子だからそれが無理だとは思いたくない。ただ、彼女はそれほど剣には興味が無かった。
(魔道士になっていればな。おかあちゃんみたくサキュバスの魔法が使える……いや、なんかよわっちく見えるからやだ。)
マイヤのコネでイーガの魔道士学校に入れないだろうか。そう考えながらザーチャとディークを抱き上げる兄を羨んだ。何故か自信たっぷりに見える兄の顔に怒りを覚えた。
(にいちゃん、ますます女の子達にちんちんつっこみたがるんだろうな!)
しかしだ。魔道士になろうという思いやヤリチンぶりが加速しそうな兄への敵愾心を忘れてしまう出来事が、オルガスムナの城で待っていた。
セイン王がオルフレッドとコリアンナを従え、内堀の橋を渡った時だった。本丸から、1人の背の高い女が走って来た。
「国王陛下! 奏上いたしますッ!」
オルガスムナ領内にあるマイア=テクニカの工房を任された魔道士、エウレカ=リットフェンテルトだった。彼女は驚くべきことを伝えた。トーリが生きていた。
「なんだって!」
トーリは城の牢の、一番奥の部屋に閉じ込められていた。女囚人用の汚い服を着せられ、足枷をつけられていたのだ。
「かあちゃん!」
オルフレッドとザーチャとディークが駆け寄り、母に抱き着いた。オルフレッドは涙を流して泣いて喜んでいた。けれどもコリアンナは動かなかった。
(おかあちゃん、何か、おかしい。)
それが何かを言葉にできない。けれども母は、今までとはどこか違って見えるように思えた。
トーリは枷を外され、男の子達に介抱されながらセイン王の元まで歩いた。
「トーリ、おめえ殺されたんじゃねえのかよ?」
「親族衆の計略です。彼等は私が死んだと嘘の情報を伝えたようです」
「何のためにだよ?」
王が尋ねるとトーリは答えた。よくはわからない。でも、推測は語れた。この領内にあるマイア=テクニカの鉄砲工房を独占する為にだろう。それが目的でこんな一芝居を打ったんじゃないのだろうか。
「に、しちゃあ随分と乱暴に過ぎる計略と思えるがよ。まあでも、おめえが無事で何よりだ。ルッソの奴に指の1本か2本、詫びでやろうと思っていたんだがな」
「……」
トーリの顔がいささか陰をさした。あまりルッソのことを言って欲しくない。野望を成し遂げた暁にはまた、一緒になるつもりだ。でも今はまだまだだ。
「それで、オルガスムナはどうするよ? もちろん加担した連中は僻地に飛ばすつもりだが、ここを直轄地には、ってのはちょいと難しい。お前が預かっているガキどもが大きくなったら、その中のいいやつを当主にすえるでいいんだが」
「それまではしばらく、私が面倒を見ようと思っております」
期間限定でオルガスムナの当主代理を務めるという意味だ。しかし彼女はもっとやりたいことがあった。カツランダルク統の他の2家、ソーローとスカルファッカーを支配することだ。
(先祖の恨みを晴らしたいの……殺しはしないけれど潰させてもらうわ。ソーローとスカルファッカー。)
しかし、この二家は強引な手を使わなくてはならないだろう。スカルファッカー家は当主が健在。跡継ぎのアナキンは評判がいい。
ソーロー家も面倒だ。当主こそスカルファッカーからの入り婿、猪口才な策を巡らすケノービ=ソーロー。少女の頃にハーフリングらに自分とマイヤを拉致させてから、尻尾を出してくれない。
何よりもソーロー家にいる王国一のブス女、チュバッカはナントブルグとその近郊では評判が高い。彼女と敵対する未来は考えたくなかった。くっさい物好きという事で自分と波長が合う。トーリはチュバッカの『香道』の催しに何度か足を運んだ事もあった。
(どちらも、オルフレッドとコリアンナと通じているわ。)
チュバッカの『香道』の会で、コリアンナはアシスタントとして働いていた。臭い物好きの貴婦人の前でうんちをし、ほかほかの肛門のにおいを嗅がせたり数日履いた靴下のにおいを嗅がせていたのだ。コリアンナはちょっと足クサだった。
そのコリアンナがいたことに、トーリはやっと気が付いた。この少女は曲がり角まで逃げてしまった。恐る恐る顔を出したところで、トーリと目が合ったのだ。
「……コリアンナ」
母が呼びかけるのを聞き、コリアンナは怯えてしまった。背中にぞわっとしたものを感じ、もっと退いてしまう。
「どうしたの? お母さんにかわいいお顔を見せて?」
トーリが歩き出す。コリアンナの身体は震えだす。顔を真っ赤にして叫んだ。
「いやだ! こっちくるな、ばけもの!」
コリアンナは逃げてしまった。
(ばけもの……?)
何を言っているのだろう、あの子は。私は母親なのに。いや、もう普通のニンゲンでは無かったかとトーリは自答する。
(あの子は、私が魔族になり遂げたのを、認識したというの……?)