聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ 作:CHACOとJAGUAR
「お目通りいただけて光栄です、マイヤ=カツランダルク様……経済長官殿とお呼びした方がよろしかったでしょうか?」
「おかまいなく。マイヤでいいですよ。会話の時は気兼ねしなくてもいいからね?」
パラッツォの布教の為に訪れたヨーシデンで、枢機卿のタカミがマイヤとこのように挨拶をかわしたのは、その年の9月の終わりの日であった。
イーガ産の精巧な義手義足をつけ、彼女は屋敷の出来上がったばかりの棟を案内してくれた。どこの生まれなの。エチウの人達はどんな暮らしをしているのかな。屈託ない笑みを浮かべたり、タカミの悪い冗談についついふくれっ面をしてしまう。
(噂に聞いていたが、妹殿は姉上と比べて裏表が無い。)
但し阿呆という意味ではない。屋敷内の工房で見せてくれた魔法道具はなかなかに興味深い。食器を洗浄から乾燥までしてくれる装置やぬいぐるみが考えてしゃべってくれる為に埋め込む部品など。魔法を使っているが常人では考え着かない。
(それと……とても可愛いらしいお方だな。)
18歳との事だが15より下に見えた。歩くたびにぶるんぶるんと動くおっぱいを気にしなければ嫁入り前の少女みたいに見える。絶世の美女、と呼ばれる姉に比べると見劣りするが、人懐っこそうな顔立ちで愛嬌がある。姉がきつねなら妹はたぬきだ。嫁にするならこっちがいい。
ある程度を回り、マイヤの書斎で昼食をとることとなった。オットーという名の女執事が食事を運んで来た。昨今の物流の滞りの影響なのか、小さなパンと芋と根菜のクリームスープという、貴族にしては質素な食事だった。
「ところで、タカミ司祭長さんは……」
タカミは枢機卿ではなく司祭長だと名乗った。宣教の為にやって来たので戦闘員ではない、と説明した。魔法も武芸もある程度はできるが、司祭騎士らに到底かなわないと教えた。まったくの嘘だが。
「ムーツでお生まれになったオーガの『忌み子』さんと聞いたけど、1人だけなのかな?」
「私だけじゃありませんよ。他に数名」
「忌み子さんというのは、そんなにたくさんいるの!」
「ははは……本当の本当にごく一部ですよ」
扉の前で2人の食事をうかがっていたオットーが、面を持ち上げてタカミに視線を注ぐ。それに気づいたタカミは視線を向けると彼女は目をそらした。
(この女、イーガ王家からいろいろと受けているな?)
オットーは美青年にも見える怜悧な美人だ。タカミは一目見た時から、油断ならない人物だと判断した。諜報や監視に携わる者の気配を漂わせている。
オットーもまた、タカミをあまり信用ならぬ奴だと感じていた。どうにも策士くさい。アドルフ殿下と似た気質をお持ちのようだ。その彼女の思考を盗聴したタカミだが、ここはあえて、できる範囲での『洗いざらい』をマイヤに語ることに決めた。
「ただ、私を含めて全員が、ある特徴を持っているんです」
マイヤの瞳がタカミの口を映す。どんな秘密があるのだろうかと期待してだ。
「私と他の10名は、同じ前世の世界の記憶があるのですよ。マイヤ様、あなたと同じく転生人なのです」
但し、違う世界になるだろうと一言添えて。
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タカミの前世の世界は、2つの巨大な宗教勢力が相争っていた。タカミが生まれて過ごしたのは、『救世主派』と呼ばれる片側の支配下にあった国である。
『救世主派』は、500年以上昔に世に現れた伝説の英雄を、真の預言者と崇め、神の化身として祀っていた。
その英雄がいたタカミの世界の500年前というのは、悪徳と乱倫と弱い者いじめのような戦争が繰り広げられる、人類がもっとも腐り果てた時代だったという。
英雄は1人の従者を連れ、突如として世に現れた。炎と氷と風の剣を携え、人知を超えた力でもってこの世の悪を、徹底的に討ち滅ぼした。それから、新たな世を人々に指し示す為、とある教典を譲り渡した。
『復活者の巡礼記』
『神がおわす宮殿の書』
この2冊は『救世主派』を造り、集団にとっての、疑うべからず、侵すべからずの聖典となった。
救世主は世界を変えた。だが、現れてから2年で相棒を遺してこの世を去った。英雄は生前、『救世主派』の者達に、自分の亡骸を聖地と定めた場所に陵を築き、葬れと命じ、造らせていた。
墓の完成の後、英雄は炎と氷と風の剣と共に葬られた。英雄の片割れも墓を守る為、自らを墓に封じ込めた。かくして英雄は人々に、神と同一の存在として崇められていったという。
だが、英雄は1つのとても大きな火種を残してしまった。討ち果たさなかったとある宗教の一勢力がそれだ。西方の砂漠と荒地の国々で信奉されていたそれは、『復活者の巡礼記』を知った。それには彼等を肯定した記述があったのだ。
「神の庇護を受け、不死者となったかの預言者は神の求めを受け、様々な国々をまわり、その土地の神の教えに悩む者達を援ける旅を700年もの長い歳月をかけて続けた。その旅の終わりは、己が愛する『全ての父』の、新たな預言者と会い、後事を委ねる事だった」
その新たな預言者こそが、その宗派の教祖でもあった。これを知ったその勢力は一神の教えではなく、多神の教えへと変質した。英雄が滅ぼした諸々の宗派の生き残りと教典をかき集めて融合し、『救世主派』を遥かにしのぐ勢力となった。
前世のタカミが生きていたのはその末期だ。『救世主派』の最も強い集団がやられ、あまりにも武力が心もとない国々や、タカミが住んでいた、島々が連なる辺境の国を残すところとなった。
その中で一番旺盛で、粘り強かったのはタカミの国。それでも彼が死ぬ間際には、国土の半分を敵対勢力に奪い取られていた。タカミは『救世主派』の篤い信者だった。信奉を同じくする『同志』らが、次々と討たれ、改宗するのを心苦しく思いながら死んだという。
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「……なにそれ? どうして『そうか』というところが『救世主派』の一大聖地で、『みさと』という土地に英雄が葬られていたのかな?」
タカミの話を一通り聞いて、マイヤはえらく顔をしかめていた。どこかで聞いたことがある街の名前、国の名前ばかりだ。タカミは『ぬまづ』と呼ばれる土地でその宗教の聖職に就いていたそうだが、『おおいた』やら『たかつき』やら『せんだい』やら、記憶にある土地の名前ばかりが耳に入って来た。
「ははは。響きが似ているだけで、違う世界ではないでしょうか。マイヤ様は確か、暦はせいれきだかねんごうを使っている世界に住まわれていたようですね?」
「前世の私が産まれたのは、西暦でいうと1963年。昭和だと38年で、死んだのは1985年だから……」
前世の記憶は22年分となる。扉の前に立って聞いていたオットーが、ぷっと笑った。タカミが唖然としてしまう顔だった。怜悧で油断ならない感じだったのに。本性はくだけていてひょうきん、なのでは?
「ん、オットーさん。どうして笑ってるの?」
「……ぷぷぷぷ。いや、済まない」
「タカミさんの前では余計なことを言わないでよ?」
「あの、執事殿は何をおかしがっているのでしょう?」
気にしないで。マイヤは自分の話の続きをしたいからと無理やりに語り始めた。しかしタカミは、オットーが何を思い出してしまったのかを盗聴の魔法で知ってしまった。
(……あかちゃんのふりをして甘えるのか。下の世話の時は特に。)
今の人生と前の人生を合わせれば、都合マイヤは40年も生きて来た事になる。大人として充分わきまえている歳なのだが、マイヤはひどく子供っぽい。乳児や幼児みたいだ。
(いや、私にもそういうところがあるから笑うことはできないな。)
タカミもそうだ。大きなおっぱいを前にすると赤ん坊みたく甘えて吸い立ててしまう。マイヤの胸元を意識してしまった。顔に似合わぬたゆんと揺れる大きなものである。思わず抱き着きたくなるが、己を律して努める事にした。