※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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エレクトラの過去エピソードです。


幕間㊳:イッツク=シーの戦い 上

 ホーデンエーネン王国暦339年の1月のことだ。

 

 エレクトラはアドルフの頼みで、スーエイニアに潜り込んだ。他のスパイらとともに僭主・ハースティンの動向を探って欲しい。エレクトラは高級娼婦に身を変えて新興の国に潜り込んだ。

 

 彼女の美貌と床技はたちまち評判となった。右手が無いのが奇妙だが、ハースティンの武将の1人に言い寄られて妾となり、舞踏会にも何度か連れて行かれた。僭主とも会いどういう人物かを知った。

 

「実力や才に不相応な野心を持った、愚かな男」

 

 それがエレクトラによるハースティンの評価だった。戦争は得意だろう。しかし権力を奪取してから何をするのかというビジョンに欠けていた。そのせいで討ち取った夫婦の首と、彼らが遺した男児を、ゲースティアにむざむざと奪い取られたのだ。

 

 ハースティンが謀反を思い立ったのも、スオニア王家の流れをくむ名家の自分こそが、スーエイニアを治めるにふさわしい、と考えたからだった。いや、それだけだった。国を富まそう、サイゴーク最大の軍事王国にしようなどとは考えていなかった。

 

 やることといえば、国中の美女を集めてハーレムに入れ、戯れるだけ。それ以外はスオニアへの救援要請と王子らをかくまい、各国にハースティン弾劾を呼びかける、ゲースティアへの抗議文を書く事ぐらい。エレクトラ達イーガのスパイらは、アドルフに便りを送った。

 

「手を組むことは無い。いずれ滅びるから捨てておけ」

 

 エレクトラに返って来たアドルフの返信。

 

「なんだ、つまらない話だな」

 

 しかし彼はエレクトラあての手紙に、ゲースティアで、着々と僭主打倒の策が動いているというのを伝えてくれた。この一文を添えてだ。

 

「相手は知将と噂高いショージュ=オーウェンだ。どちらが勝か見えている。ではエレクトラ、私や君が面白いと思える展開はなんだろうね?」

 

 相も変わらず性格の悪いことをいう。エレクトラはイーガから閉じ込められて出られない物好きを皮肉った。番狂わせならこれでどうか。

 

 エレクトラはゲースティアを探っている連中から情報をもらった後、閨で身請けした男にささやいた。こんな話をご存じでしょうか。

 

「ゲースティアがこっそりと、亜人の兵士を方々から募っているようです。それと食料も」

「まことの話か!」

「そうらしい、ですわね。でも、もし本当なら先手を打った方がよろしいんじゃないかと思いますわ」

 

 スーエイニアの宮廷で、ゲースティア侵攻作戦が持ち上がった。ホーデンエーネン王国暦の339年7月だ。ハースティンは決断と行動だけは早かった。

 

 殺した国王の宝物庫や、暴きたてた隠し財産を用いて軍を編成。更にゲースティアと海上交通を巡って、いざこざを起こしていたチンゼーの海賊団を味方につけた。

 

 それからすぐ、宣戦布告無しにゲースティアに攻め込んだ。準備を整え切れていなかったゲースティアは、緒戦で連敗した。

 

 勢いに乗ったハースティンは、守備隊をも遠征軍に回して本格的な攻撃に乗り出したが、それからがうまくいかなかった。

 

 陸路は東へ向かえば向かうほど砦がかたくなり、攻めきれないことがしばしばあった。思わしくない戦況に、ハースティンは一発勝負に出る。ゲースティア西側の海軍の最大拠点・イッツク=シー島を奪取するという策だ。

 

 攻略の前、放ったスパイ達から、島はがら空きだと知らされた。海軍は海賊団との戦いで大方で払っている。物資だけが集積されている状態。攻める好機だと。

 

 だが、エレクトラはゲースティアにいるスパイからこうも聞かされていた。どうにも海賊団の動きがあやしい。確かにゲースティアと戦っているが、海戦は小競り合い程度で、双方どちらも被害が少ないみたいだ。

 

(……ははあ。となると。)

 

 エレクトラは閨にやって来た武将に忠告した。この話を聞かせてやれば別の策に出るだろう。武将は彼女の話を興味深く聞いていたが、脚を広げさせてその奥を貫く行いに励んで惚けると、翌日には忘れてしまっていた。

 

 ハースティンに海路からの総攻撃を提案。この戦争、きっと我らの大勝利に終わることでしょう。快楽を貪る為にうさんくさい媚薬や強精剤にまで手を出し、正常な思考が出来なくなっていたハースティンは意を決した。

 

 翌々日、エレクトラは武将の船に乗せられていた。風光明媚なイッツク=シーに、スーエイニアの旗がなびくところを見せてやると言われて無理やりにだ。

 

 武将は軍事の一切を副官らに任せ、船室でエレクトラを貪り続けた。不思議な忠告をしてくれるこの美しい女に、赤子という褒美を与える為であった。

 

 しかし、最初から勝ちいくさ気分で始めた戦争が、上手くいった試しなど古今東西存在しなかった。しかもどの船にも船娼婦を乗せ、博打も行われていた。船員たちは緩み切っていた。エレクトラの膣を陰茎でほじくるのに夢中な、この武将の様にだ。

 

(まるで死ぬ前に楽しめるだけ楽しむ様な航海を。万事休す、か……。)

 

 猛将とうたわれたハースティン直々の指揮のもと、ありったけの船を用い、公称4万の海軍によりイッツク=シー島は1日で制圧された。島には豊富な物資や、ゲースティア軍の慰安婦たちが遺されていた。

 

 が、しかし。そのスーエイニア軍は翌日、島を出られなくなってしまった。夜中の嵐の後にまぎれてやって来た、ゲースティアの精鋭艦隊が島をぐるりと取り囲んでいたのだ。

 

 味方につけたはずの海賊集団らも、包囲に加わっていた。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 この戦いはエレクトラにとって、産まれて初めての絶体絶命の窮地であった。

 

 その武将がついた、島の北側の砦に住まわされていた彼女は15日間もの間、他の船娼婦らとともに砦に運ばれて来る武者達の看護を担わされていた。

 

 ゲースティア軍の勢いは猛烈だった。スーエイニアの船を奪取して沈めて逃げ場を無くすと、船からありったけの投石砲を放って陣地を攻撃し続けた。スーエイニア側に反撃させる為である。

 

 庫には確かに物資はあったが、薪や矢だけで投石砲の弾は無かった。汚い事に弓や弩弓の替えや、切れたのを張る為の弦や補修の部品が無かった。

 

 敵方の矢や弾薬が無くなると、ゲースティア軍は物量的優位を保ったまま砲撃と射撃を見舞い、スーエイニア軍を島の各地にある砦に閉じ込めた。分断して各個撃破する目論みだ。

 

 多忙な中、エレクトラは武将に全軍を集中させて一点突破を試みたらどうかと提案した。しかし武将はやつれた顔に笑顔を浮かべるだけで受け入れなかった。

 

「それができたらとっくの昔にやっている。しかしもうダメなようだ。南の3つの砦が猛攻撃にさらされ、中央のハースティン様の陣も危うい」

 

 この砦ももはや持たない。最後の防塁がそろそろ突破されつつあると告げた。その後は乱戦だ。エレクトラは逃げ切れるか自信が無かった。何せ、武器を持っておらず、武将の妾というか弱い立場だったからだ。

 

「そうではございましょうけど、でも……」

 

 まだ逃げる策はいくらでもあるのにと思った矢先、伝令の女武者数名が、背中に矢を幾本も刺されながら飛び込んできた。防塁が突破されました。出撃のご準備を。

 

「わかった……お前とは美しい1年を過ごせた。礼を言う。ゲースティア軍は降伏する女を決して殺さぬだろう。生きておれ」

 

 武将は死を決した副官や家来に命じた。全軍突撃だ。合図の軍楽をかけろ。太鼓と笛だけの楽師兵が連れて来られた。

 

「我らはこれより最後のいくさに入る。あれを鳴らせ」

 

 真剣なまなざしになっていた楽師達が構えた。エレクトラが聞いたことのある曲だった。この世界の音楽ではない。多分、転生人が持ち込んだものなのだろう。

 

(陸軍分列行進曲……大日本帝国の……。)

 

 たくさんの有望な若者達を、死へと出征させたあの曲だった。テンポは少し早いように聞こえたが、紛れもなくその曲だった。

 

「お殿様、あの曲はどなたがおつくりになられたのでしょう……」

「わからない。しかしこの曲はスオニアの軍歌の1つでもある。暗黒卿との戦争の頃に作られたそうだ」

 

 ハースティンがスオニアの軍歌を楽師たちに覚えさせたのは、彼自身がスオニア王家の支族であったからだ。僭主の忠臣達、この武将も他の武将らも、先祖はスオニア貴族だった。

 

 動ける者を全員引き連れて出撃。エレクトラは彼等を見送った。武将らは矢の嵐を見舞いながら、襲い掛かるゲースティア軍に突撃して果てた。

 

 見送りはしたが、エレクトラは逃げるための準備を為せた。飲み水を貰い、動きやすい靴に履き替え、砦の近くにあった兵士の死体から鎧と兜、剣をくすねて砦を抜けた。

 

 イッツク=シーの山岳は森に覆われていて視界が悪かった。斜面を便りに彼女は麓へと駆ける。ところどころで乱戦が起こっていた。ゲースティア軍と、スーエイニア軍の兵士達の殺し合いだ。

 

 エレクトラは左手で持った剣で飛んでくる矢を薙ぎ払い、右手首で印を切って、己の周りに防護の魔法をかけた。

 

 山を下り始めて1時間が経った。馬に乗ったスーエイニアの武将らが、兵士らに向けて必死に呼びかけていた。

 

「これより総軍を中央に結集し、ハースティン様の為に血路を開く! 皆の者、集え、集え!」

 

 どうやら強行突破して逃げようという策に出たようだ。しかしこの時既に何もかもが遅かった。ハースティンの陣は半ばまで浸食され、彼自身も弩の矢を背中に受けて重傷を負っていた。

 

 戦場に連れて来た彼の側室達は、武将らに促されて自刃の準備に取り掛かっていた。死してハースティンの守り霊になってもらおうというわけだ。

 

 しかし祟り霊になる様な死に方をさせるのだから、たとえ霊の守護というやつがあったとしても、ハースティンを助けるはずが無いだろう。

 

 とうとう負け戦というやつに巻き込まれてしまった。エレクトラにとって貴重な体験だ。そこでの学び方はいかに逃げて生き延びるかに尽きる。騎馬隊が去って行くと、茂みから抜け出した。

 

 が、それはいささか早すぎたのかもしれない。一隊の後方の者が振り返り、エレクトラの姿を見かけた。

 

「おい! そこにいるのは……女兵士か! こっちへ来い!」

 

 エレクトラは構わず逃げた。だが防護魔法をかけなおすのを忘れて飛んできた矢に左腿を刺されて倒れた。騎馬武者達が馬から降り、彼女を取り囲んだ。

 

「我ら、これより最後の決戦に挑む!」

「その前にお前の身体で験担ぎをさせろ。これは命令だ!」

 

 兵士達もわらわらと集まっていた。おやめください。エレクトラは抵抗したが男達は容赦なかった。彼女の美貌に欲情していた。スカートに刃が入った。股下で切り裂かれ、太ももがあらわになった。

 

「この女、よく見れば手首が無い。エラーム様のところの愛妾では?」

「構うものか。エラーム殿の砦も落ちたと聞いた。生きてはおれまいて」

 

 最初は俺が味見をする。この中で一番偉い武将がベルトを緩めた。股間を覆っていた防具を外して勃起した陰茎を出す。両脚を取り押さえられて広げさせられたエレクトラは、強姦を受けた。

 

「や、やめてください!」

「おおっ、たまらんぞ! この穴はものすごい良い物だ! 満足して逝ける!」

 

 武将は8回、9回ほど腰を動かして激しく射精した。その次は彼の副官。その後は騎馬武者達だ。兵士達は叫ぶエレクトラに欲情の視線を向けるだけ。

 

 血路を開くという命令はどうなったのだ。しかしこれが戦場というものだった。この武将も副官も、騎兵や歩兵らは信じていなかった。ハースティンは生きてこの島から出れないだろうし、自分達も無事では済まされないだろう。

 

 この時ハースティンは虫の息だった。背中に受けた矢に毒が塗られており、エレクトラが犯されている最中に死んだ。でもこの様な無様な死に方を、彼の忠臣らは許さなかった。

 

 戦場に連れて来た僭主の妾全員の首が刎ねられた。その首をハースティンの遺骸が収められた輿に並べる。これで死後も共に同じ世界へ向かう事が出来るだろうと皆が涙した。

 

 力自慢たちが輿を持ち上げたら突撃だ。ハースティン本隊の楽団がう後ろに続く。こちらには笛だけでなく弦楽器もあった。勇壮に、しかしもの悲し気に陸軍分隊行進曲が鳴らされる。

 

 しかしこの曲、スオニアではれっきとした名前がつけられていた。『我らは神の国の刃なり』、という名前であった。

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