※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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幕間㊵:イッツク=シーの戦い 下

(海賊部隊、なかなかやる。)

 

 必殺の『紫電砲』をお見舞いしてやった上に『爆炎弓箭』でやる気のとどめを刺してやったと思っていたのに。敵と切り結びながら、相当に強力な麻薬を飲まされているなとエレクトラは思った。

 

 彼女の剣術はゴブリンの流派だ。装甲の薄いところを素早く斬りつけてうろたえさせたら、別のところを思い切り突く。剣が使えなくなったら死人や相手から奪う。剣は矢じりと同じに見なす、盗っ人剣法でもある。

 

 乱戦でのエレクトラもまた強かった。同じぐらいに強いヴィクトリアが安心して背中を預けられるぐらいにだ。大きく跳躍して破けたスカートを翻し、太ももはおろか生尻も見せながら、エレクトラは剣を振るう。戦場の刃の艶花の様に見えた。

 

「あのねえさん、とっても色っぽいけえのう」

 

 鉄槌で敵兵の頭蓋を兜ごと潰していたウィリアムが笑う。彼の重そうな陰茎はすっかり勃起していた。傍にいたヴィヤーサが女を抱くのは後にしろ、とたしなめた。でも彼も、エレクトラの尻や太ももをちらちらと見て常に露出していた亀頭が充血していたのだが。

 

「でも『ひめさま』にはあの嬢ちゃん、かなわんじゃろう! ひめさまは脱いだらお乳がすごいからのう!」

「卑猥な話は戦っている最中にするもんじゃないちや。ドワーフでも脚をすくわれんからの」

「そうは言ってもなあ! うずうずしてたまらんのじゃよ!」

 

 エレクトラの戦いぶりに鼓舞されて、ウィリアムが果敢に敵兵を攻め立てる。ヴィヤーサがそれに続いた。ロシェや他の傭兵達も誰一人欠ける事無く坂を降っていく。

 

 ヴィクトリアも『覇王の剣』を血まみれにさせながら前に進んだ。十数歩先のエレクトラの戦いぶりは驚嘆に値する。あれほどまでの魔法戦士が、どうしてかよわい側仕え女の真似事を?

 

(それを考える必要は無いか。あの人が良しと言ってくれれば、ずっと手を組みたい。)

 

 彼女には野心があった。お家再興の為に武功をあげる。平和な母国ヒッジランドではその機会が訪れないから、諸外国を旅しているのだ。戦場で名をあげるために。

 

 一団は海賊団の防衛線を突破して、山地の麓にたどり着いた。いよいよゲースティアの陣だ。見る機会が滅多にない連中の姿があった。ムーツのオーガの一団である。

 

 およそ10名。鎖帷子ではなくムーツの鎧である胴丸で身を守っていた。彼等はゲースティアの旗を翻して、スーエイニア兵の死体ばかりの防塁に立っていた。

 

 身体の細い優男だというのに、額の2本のツノと、草摺から先端を覗かせる股間のツノはご立派だ。

 

「ゲースティアの軍か!」

 

 ヴィクトリアが叫んだ。

 

「私はヒッジランドのヴィクトリア=ウラスコー=アルグレイブ! 部下とともにゲースティア軍に降伏しに来た! それからこの先の港にいるハツカッド兵団の長、コジモ将軍にお目通りを叶いたい!」

 

 オーガ達が振り向いた。しかし構えを解かず、ヴィクトリアをせせら笑っていた。

 

「コジモ! あの裏切りもんのコジモだべか!」

「あいつはオーウェン様に呼ばれてこっちにこねえべ!」

「あの雌、まさかコジモと内通していたスーエイニアの間者だっぺ?」

 

 彼等はムーツ語でしゃべっているから、何を言っているのかさっぱりわからなかった。できればサイゴークの言葉で答えて欲しいと頼んだ。一団の中で一番目が細い男が答えた。

 

「コジモ! 裏切者! つかまった!」

「なんですって!」

「オマエ、スーエイニア、俺達の敵! ちがうか!」

 

 敵では無い。そう言おうとした矢先に、背後から矢が飛んできた。ヴィクトリアらに強行突破された海賊団が仕返しに来たのだ。それを見たオーガ達は、ヴィクトリア達に襲い掛かった。

 

 挟み撃ちとなったからには戦うしかなかった。オーガらはヴィクトリアとヴィヤーサとウィリアムとロシェ、それからもう2名のドワーフの戦士達が受け持つ。他はニンゲンの仲間に任せた。

 

 オーガ達は亜人の中ではエルフの次にすばしっこく、ドワーフの次に腕力があった。やせっぽちの身体なのに、ヴィクトリアの様な大剣や薙刀を振るう。素早い。そして動きが読みにくい。

 

「くっ!」

 

 一撃を受け止めたヴィクトリアがはじき飛ばされた。エレクトラが爆炎弓箭をオーガたちの足元に放つ。しかし爆風と炎は彼等を傷つけなかった。風の精霊と炎の精霊の力によるその技は、優れた魔法抵抗を持つオーガ達には通らなかった。

 

「……ぬくい風だべ」」

 

 衣服に移る炎をオーガたちはものともしない。皮膚は強靭。臓腑もニンゲンと比べて頑丈だ。彼等を殺すには強い力か毒しか無かった。

 

 ヴィヤーサとウィリアム達も圧されている。膂力ではオーガ達に有利だったが動きの速さが違った。ドワーフの倍だ。ウィリアム達は受け止める他無かった。

 

 それを見てヴィクトリアが印を切る。エレクトラが驚くほどの勢いで1人のオーガにぶつかった。一撃を弾かれたが、今度はよろめきもしない。身体強化魔法だ。オーガ達が驚愕する。生じた虚はヴィクトリアの目の前の者にもあった。

 

 勢いよく身体をひねり、左下から切りあげた。覇王の剣の刃がまた血で濡れる。1体のオーガの右腕を叩き切っていた。仲間がやられてオーガ達は激昂して、ヴィクトリアに殺到した。彼女は驚くほどの跳躍力で囲いを脱し、落下しながら赤い剣の舞いを演じた。

 

 オーガ達数名がこの死の踊り子に花を投げ続けた。己の死、あるいは不具者として生きる人生が、プレゼントの見返りだ。たちまち5名が。ヴィヤーサ達と戦っていたり後詰めを任されていたオーガ達は怯んで後ずさった。

 

 すごい。エレクトラは驚くほか無かった。ヴィクトリアがここまで優れた身体強化魔法の使い手だったとは。いや、オーガ達を切り裂けたのはあの『覇王の剣』のおかげだろう。あの種族は最も良質な玉鋼の剣で傷つけるのがやっとである。

 

 しかしヴィクトリアの顔には、濃い疲労の顔が浮かんでいた。今まで長い間戦い続けて、その上で自分の身体に負担をかける魔法と突撃だ。彼女はエレクトラに目を向けた。腰に差していた細身の剣を投げた。

 

「そっちはこのでかいのより、もっと切れ味がいい!」

 

 エレクトラは鞘から抜いた。片刃の美麗な剣だった。エレクトラの前世でいうところの日本刀によく似ている。いや、あれよりも細く、禍々しさにあふれた光をたたえていた。

 

「そっちは……『姫竜の牙』は、念じれば風の刃を出せる! 私には無理だったけれど、ブランカちゃんは見せてくれた!」

 

 魔法に優れた才がある者なら扱えるはず。エレクトラは疑いながら念じた。狙うのは呆気に取られている後詰めの連中だ。オーガ相手ならせいぜいが、こけおどし程度にならぬだろう。

 

 エレクトラは深呼吸をして構えて念じてみせる。力んだ身体に少しばかりの脱力感が生じた。魔剣に己の魔力を与えた時だった。標的に向けて空を切る。目の前では何も起こらなかった。が、その先で目を疑う光景が起こった。

 

 オーガ達の目の前に突如として嵐が起こった。彼等の身体はばらばらに切り刻まれた。

 

(この魔剣は……オーガの魔法耐性も無にするのか!)

 

 エレクトラはほくそ笑んだ。背後から矢を射かけて来る海賊達に目を向けた。風が起こり、海賊達は無数の風の刃よって裂かれた。彼女は生き残りのオーガ達に目を向ける。彼等はおののいて逃げ去って行った。

 

 だが、今度はゲースティアの軍勢が近づいて来ていた。エレクトラは剣を鞘に収め、へたり込んでいたヴィクトリアに手渡した。彼女は夢見る様な眼でエレクトラを見つめていた。

 

「あなたは……剣に認められたのね?」

「とんでもねえ魔剣ですね。お返ししますよ」

「でも、この剣をあそこまで扱えるのは……」

「こんな危険な代物を、あっしのような浮ついたやつが持つなんてとんでもない。正直、ものすごい疲れちまっているんです。威力を出し過ぎた」

 

 けれども向かってくるゲースティア軍を圧倒するには『姫竜の牙』の力が必要だ。ヴィクトリアは魔剣をエレクトラに突き返した。彼女はすうっと息を飲み込んだ。

 

「ゲースティア軍を防ぐにゃ、別の方法がありますよ」

「なんだっていうの?」

「……これは使いたくなかったんですが、やるしかないですね」

 

 エレクトラは1人進み出た。それからゲースティア軍に向けて大声で呼びかける。

 

「ゲースティアの皆々様! わたくしはイーガのエレクトラ=ガモーコヴィッツでございます!」

 

 先頭を走る武者達が声に気づいた。弓騎兵らに撃つな、と命じた。

 

「王太子の元愛妾のエレクトラ=ガモーコヴィッツでございます! この者たちは私の協力者です! 私は元夫の頼みで、埋伏としてスーエイニア軍に……」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 エレクトラとヴィクトリアは対岸の街にある牢屋に一緒に入れられた。エレクトラの申し出は一応は聞き届けられた。但し、イーガ王国からの返答を待ってからになった。ロシェ達は島の兵舎にとどめ置かれた。死者を墓穴に埋める作業に従事させられている。

 

「一体、牢屋にはいつまでいるのかしら?」

 

 ヴィクトリアが編み物をしながらつぶやいた。彼女は戦場では荒々しい戦いぶりをみせるが、普段は至っておしとやかだ。人形に着せる服や、触手姫の為の編み物が趣味である。

 

「おおよそ、1か月というところですかね?」

 

 テーブルにサンダル履きの足をかけて、エレクトラが天井を見上げた。牢を脱出するのは難しくはない。問題は取り上げられたヴィクトリアの剣をどう取り返すかだ。けれどもゲースティア軍の保護下に入った以上、荒っぽいことをするつもりは無かった。

 

「そんなにかかるの? 辛いわ。野宿でもないのに風呂も水浴びもできないなんて」

「おやおや。戦場を巡る勇者にしては、えらくおしとやかなことをおっしゃるんですねえ?」

「狭いところにいると、ウラスコーにいる時の性格が出てしまうの。地元では大人しくしているのよ?」

 

 そう告げて笑うヴィクトリアの顔は、育ちの良さがにじみ出ていた。本来の性格はおしとやかなお嬢様のようだ。二面性があるお人だ、と思いながらエレクトラは、ヴィクトリアに身の上話をし始めた。

 

「……貴方は転生人だったのね? ロシアという国の人の血が半分流れている……初代女王のジョナサンもそうだと聞いたことがあるわ」

「ロマノフ王朝のアナスタシア姫、らしいですね。ヒッジランドについて書かれた本にありましたよ。あっしの前世のおふくろさんの、主君筋にあたったんですねえ」

 

 ヴィクトリアがうっとりとする。奇遇ね、私たち。彼女はエレクトラを見つめた。私と手を組む気は無いかしら。何を言い出すのだろうとエレクトラは思った。

 

「貴方には『姫竜の牙』の力を引き出す才能がある。私は今度、ホーデンエーネンに向かうつもりなの」

 

 ホーデンエーネンは宿願としている魔竜サイカノマゴイチの打倒と、それが占拠するアカサカチハヤの地の奪取の為の戦争を始めるという。『姫竜の牙』を扱えるエレクトラがいれば、ヴィクトリアの傭兵団は大きな武功をあげられるだろう。

 

「どう?」

「あはは……あっしはイーガ人ですよ? アカサカチハヤの魔竜と戦う事がどれだけ無謀なことか、他の大陸の人達よりも存じているつもりですよ。それに、小さい頃にエルフやゴブリンの里を巡っていたからもっとわかる。魔竜さまは亜人たちの間じゃ、それこそマハーヴァラさまと同等の神様みたいなもんですよ。恐れ多くて手出しできませんよ」

 

 それから、ホーデンエーネン王国は建国されてから500年近く、何度か魔竜と雌雄を決する大勝負を挑んできた。が、その都度負けた。勝つ見込みはまず無いだろう。

 

「イッツク=シーみたいな負け戦に参加するなんざ、こりごりですよ……あるいはエレクトラさん。あっしのエルフさん達のコネで魔竜様の部下になってみるのはどうですかね?」

「うーん。それはできない相談よ。だって私のご先祖の……姫騎士エリザベスは魔竜と戦って死んだんですもの。つまりはウラスコー家の仇みたいなものよ、魔竜は」

「なるほど。じゃああっしとヴィクトリアさんはこの戦いまでのお付き合い、ということですね」

 

 イッツク=シーを上回る危険な戦いに加わるつもりなど、エレクトラには全く無かった。ヴィクトリアの至極残念そうな顔を見てこう思う。とはいえまた巡り、一緒に戦う機会はあるのだろうか。

 

(きっと縁があるのかもしれないな。とりあえず、ヴィクトリアさんとは『仲良し』になっておこうか……)

 

 そう思った夜、エレクトラは暗がりの中でヴィクトリアの寝床に忍び込んだ。彼女は処女であったけれど、触れ合いは拒絶しなかったし、何よりもとても敏感だった。まさぐればすぐに蜜が溢れて来て積極的に愛撫されようと動いた。

 

 牢屋を出る1週間の間、エレクトラはエルフの里で学んだ術をヴィクトリアの身体に刻みつけた。赦免が出て牢から出された頃には、ヴィクトリアはすっかり、彼女の恋人気分になっていた。

 

 だが、見かけの割りには初心なお嬢様とはす、ぐに別れなければならなかった。エレクトラはアドルフ王子から新たな密書を受け取ったからだ。別れの朝、ヴィクトリアは涙をこぼしながら彼女に言った。

 

「また、会えるよね?」

「はい。魔竜さまとの戦いが終わったらしばらく、ウラスコーにいらっしゃってください。1年ぐらい。そうしてくれりゃあっしは必ず遊びに行きます。いいですね?」

 

 エレクトラは二度とヴィクトリアと会えなかった。この数か月後、彼女は多くの仲間とともに、ホーデンエーネンで散ったからだ。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「……」

「これがあっしとヴィクトリアさんとの出会いと別れの全てですよ。これ以上に語るところはございません」

「貴殿がモナファン海賊団の一件で『姫竜の牙』を奪い取ろうとしたのは?」

「ヴィクトリアさんが死んだと聞きましたからね。なんなら、風の刃を使えるあっしが持とうかと思った次第でして。ま、パラッツォ教団の手に渡ったみたいですけどね」

 

 もったいないことをした。エレクトラは笑ってみせた。イズヴァルトはうなずくだけだった。マイヤの他にも、『姫竜の牙』を扱える者がいたとは。

 

 戦場の師であったヴィクトリアは散った。彼女は『姫竜の牙』を使いこなせなかった。でも、マイヤとエレクトラは違った。

 

(あの剣は、拙者と結びつく女性が扱えるものかもしれぬでござるな、ヴィクトリアどの……。)

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