※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第六十回

 油断ならぬ膂力であった。覇王の剣は刃を鳴らし合った大斧からの力に競り負け、後ろへ退きつつある。

 

 イズヴァルトは渾身の力を込めて押し返そうとした。が、相手の身体からこれまでしばらく出くわしたことが無い闘気が漂うと、イズヴァルトは自分から退いた。

 

 大きく飛躍して間を取ろうとする。しかし身体は喜んでいる。強敵に出会えた事で。武者としての本能がたぎり、股間をびきびきと張り詰めさせた。

 

「貴殿! トールキンとおっしゃられていたでござるな!」

「そうじゃ! トールキン=ローリンソン! 覚えてくれたとは光栄じゃ、イズヴァルト=シギサンシュタウフェン!」

 

 鉄板の胸甲を着こみ、あの廃坑で会った時に見た毛織の赤いスカートを膝まで覆っていた男に呼びかけた。トールキン=ローリンソン。

 

「お久しゅうござるぞ!」

 

 オーティア部族出身のドワーフで伝説の戦斧『鬼殺の大斧(オーガ・スレイブ)』を得物として携える、ドワーフの中の剛の者。そもそもは鉱山技師である。

 

 この男はイワッミー全土で名をとどろかせていた。大斧抜きでも最強の戦士と恐れられていた。シマナミスタンの奥地に棲む世界最強の種族・ドラゴンと互角に渡り合えたとも。

 

「いつぞやのこの鉱山での続き、ここでやろうではないかのう!」

 

 トールキンも意気軒高だ。イズヴァルトという好敵手に再会できたことに全身が喜んでいた。もちろん、勃起もしていた。

 

 最初のかち合いでイズヴァルトは見計らっていた。膂力ではトールキンに敵わない。素早く動いての連撃を繰り出すしかない。力ではなく速さで相手を凌駕してみせるでござる。

 

 トールキンが飛び込んできた。胴長短足だがドワーフのジャンプ力は侮ってはならない。大地の精霊の末裔は地面から常に力を得ることができる。踏ん張りを利かせることが出来たのだ。

 

 それをイズヴァルトはくるりと避けた。背後から切り上げの一太刀を浴びせようとする。炎の剣となった覇王の剣に切れぬ肉は無かった。

 

 しかしトールキンは身体をひるがえして戦斧で受け止める。獄炎の刃でも、秘宝を焼き裂く事はできなかった。

 

「甘いわい!」

 

 トールキンが一喝。闘気が烈風となってイズヴァルトを吹き飛ばす。聖騎士は後ろに転がって剣を構え、その切っ先で印を切った。

 

「これはどうでござるか!」

 

 覇王の剣が降り下ろされた。地走りが起こりトールキンに襲い掛かる。しかし浅い。トールキンの脚を取る目論見だ。

 

「小癪なことをやりおる!」

 

 トールキンは飛び上がった。そこをイズヴァルトが突きかかる。戦斧を振り上げるがイズヴァルトはそれをひらりとかわして、トールキンの懐に切っ先を突き立てようとした。

 

 何かが剣にぶつかり成し得なかった。鋼の匕首が転がっていた。これはかわせないと焦ったドワーフは、安堵しながらイズヴァルトに蹴りを入れた。強い一撃だったがイズヴァルトは受け止め、太ももを殴った。

 

「ははは! こりゃあ効くのう!」

 

 しぶとくやられたことにトールキンは絶頂していた。スカートから精液がこぼれていた。こんな時には便利そうでござると、イズヴァルトはつぶやいた。

 

 しかし妨害は誰から? 事態を見守っていたダレン達が叫んだ。屋上にいる。小さな影。まるで10歳ぐらいの小柄な娘の様な。

 

 イズヴァルトも見上げた。確かにいた。半袖の簡素な鎖帷子と、ピンク色の毛織のスカートに身を包む金髪の少女だ。髪は腰まで伸びて風になびいていた。顔立ちは愛らしく美しいが誰かに似ているようにも思えた。

 

 手は手甲つきの手袋で守り、右手で剣をつかみ肩で支えていた。2メートルほどある長さの幅広の大段平だった。斬馬刀とも思える程だ。

 

 重く分厚いが、刀身は鈍色で切れ味が良いとは思えなかった。娘がトールキンに呼びかける。

 

「息まいてたのにえらく手こずってんじゃん、トールキン!」

「うっさいのう。これからじゃよマリベーラ!」

 

 イズヴァルトは娘の顔を凝視した。いつぞやに会ったカタシナシュフ=エルフのキファニアにそっくりだった。いや、あちらよりも愛くるしさに満ちていた。養ってあげたいでござると思わせるような。

 

「隠れているゴールの衆にも伝えておけ! 儂のこの坊との一騎打ちの邪魔立てするなと。他はやってええぞ!」

「アタイの仕事は雑魚狩りかい! トールキン、キンタマを引きちぎられんなよ!」

 

 ひよこの鳴き声みたいな高くて柔らかい声だが口汚い。ただの小娘ではないようだ。それが一瞬、姿を消した。

 

 軽やかに着地する音が後方で。彼女はダレン達の後ろに回り込んでいた。大段平を振り上げて襲い掛かった。ドワーフの1人が金棒で受け止めようとしたが、弾き飛ばされた。

 

「このお嬢、小娘のくせにやけに腕っぷしが強いけえ!」

「あたいはハーフリングだからねッ!」

 

 まさか。ダレン達は気迫を取り戻した。ハーフリングならば十分手ごわい。ドワーフとエルフのあいのこたるこの種族は、膂力はドワーフと匹敵、あるいは凌駕する者が多かった。

 

 とはいえかの種族は恵まれた才能に胡坐をかいて鍛錬を怠るのが多く、なかなかよい戦士は出てこない。しかしマリベーラは違う。身のこなし、膂力。どれをとっても超一流だ。人前で平気で小便をしそうな年頃のなりだというのに。

 

 マリベーラが剣を振る。凄まじい嵐の音だ。自分の体重よりも重そうなそれを軽々と舞わせて、ダレンらを圧倒した。

 

「すごいのう!」

 

 ダレンらは立ち向かった。しかし斬りかかってもよけられて手痛い打撲傷を与えられてしまう。1人のハーフリングに数名のドワーフらがいてこまされた。

 

 強い。トールキンとにらみあうイズヴァルトはマリベーラというハーフリングに驚愕していた。気づけば射精もしていた。あれと戦ってみたいでござる。

 

「……イズヴァルト。マリベーラはやめとけ」

「どうしてでござる?」

「あやつは異性には手加減無しじゃよ。男っちゅうもんが滅法嫌いらしくてのう……儂に抱かれたことはあるんじゃが」

 

 実のところ濡れやすく感じやすいチョロスケで、寝床でちょっと愛撫するだけでも「ひああああん!」と大仰に叫ぶという。ハーフリングの性感はきわめて発達している。サキュバスといい勝負だ。

 

 だが戦場で対峙する時は、可愛らしいからと言って甘くみてはいけない。あのハーフリングはまさに大王サソリだ。その毒針で巨獣を斃し、ハサミで獲物の腕や首を引きちぎる。

 

 それに匹敵する強敵が再びイズヴァルトに襲い掛かった。『鬼殺の大斧』の刃が覇王の剣を砕く事は無かったが、受け止めようとすれば必ず、腕の骨にひびが入る。避けるしかほかはない。

 

 もう1人、ハーフリングのマリベーラもおぞましかった。長すぎる大段平に目を付けたダレンらは隘路に逃げ込んで、彼女の身動きを止めようとするが、良い手とは言えなかった。

 

 しゃらくさい、と吐き捨てたマリベーラは遠慮無しに剣を振るう。そのたびに建物の壁が割れ、骨組みが崩れた。ドワーフの名工による建造物は藁の家のごとくだった。

 

「なんちゅう馬鹿力!」

「ありゃあとんでもない親を持ったあいのこみたいじゃのう! くわばらくわばら!」

 

 しかしダレン達も負けてはいない。狭い道に入ったマリベーラを挟み撃ちだ。もう2人は垂直の壁を駆け上がって屋根に乗り、時を待っていた。壁についた足跡を見てマリベーラは不敵な笑みを。

 

「エルフの真似事をやるんなら、もうちょっと手を加えるこったね」

 

 彼女は左手で印を切り飛び上がった。飛翔魔法とまではいかないがはるか上空まで跳躍し、切っ先を屋根の上に立つドワーフに向けた。

 

「こういうことが出来てから、あたいを出し抜きなッ!」

 

 印を切りながら急降下。俄然勢いがついた。幸いにもそのドワーフは気づいたからマリベーラの直撃を避ける事ができた。

 

 しかし屋根は突き破られたどころか、周囲に衝撃が伝わり壁や柱に亀裂が走った。激しく崩れる音。頑丈な石造りの建物だが瓦解してしまった。

 

「なんちゅうやつじゃ! あの剣、とても重いんかのう!」

「いいや! わしらが得意な破砕魔法じゃよ!」

 

 ドワーフの強化魔法も破ったマリベーラが、瓦礫から飛び出て来た。身体の埃を払って深呼吸。これで戦いやすくなったとうそぶいた。

 

「さあ、続きをはじめようじゃないか?」

 

 ダレン達はいよいよ笑っていられなくなった。もっとしっかり鍛えるべきだった。とはいえそれでも、このマリベーラというハーフリングの小娘に勝てるとは思えなかった。

 

 勝負か決まる予感。それをマリベーラは機敏に察して得物を握りしめる。殺しはしない。しかし倒れてはもらう。先手を常に好むマリベーラが足を一歩踏み出した。

 

 途端、目の前が紫色の光に包まれた。激しい荷電があたりに満ちて、マリベーラは鋭く舌打ちした。

 

 それから瞬きの間に、彼女の周囲に何かが飛んで来た。マリベーラはさっと退いた。それが何かを存じているかの様だった。彼女がいたところで次々と爆炎が起き、瓦礫が吹き飛ばされた。

 

「聞いちゃいたけど、まさかアンタ達だったとは!」

 

 雷撃と爆炎の魔法とが飛んで来たのは坂の下。マリベーラが見たのは褐色エルフの女2人と白エルフの女が3人。オクタヴィアとミレイユ、パオレッタ、マリア、オルタンスであった。

 

「マリベーラさん! そっちに付いちまってたずらか!」

 

 オクタヴィアが呼びかける。彼女とマリベーラは旧知の仲だ。ミレイユとパオレッタとマリアは何も言わずに跳躍し、マリベーラに襲い掛かっていた。

 

「だったらなんだってんだい!」

 

 振り払ってくる大段平をひらりと避けながら、ミレイユがレイピアの切っ先でのどを狙ってきた。

 

「お望み通り戦争をやってやる、ということだ。『山猫』!」

 

 切っ先が喉を突く手前で、マリベーラは顎で固めて防いだ。ハーフリングはドワーフばりに頑丈だ。細い身体だが馬鹿にはできない力があった。ミレイユはそれを引く。

 

 ミスリル製の細剣だからただじゃ済まなかった。マリベーラは首筋を血だらけにしながら、左右から襲い掛かるパオレッタとマリアの剣をしのいだ。

 

 3対1。いや、印を切り次の攻撃を繰り出そうとするオクタヴィアとオルタンスを含めて5対1。ダレン達を加えれば10対1だ。流石に分が悪すぎた。

 

「暴れるのも潮時ってわけだね! ついてない!」

「マリベーラ、なぜ教団についた?」

「金だよ金! パラッツォ教団は意外と金払いがいいからね! それだけさ!」

 

 エルフ達はドワーフよりも素早い。かわし切れない連撃を喰らうのを予期して、マリベーラは大剣を投げ捨てた。腰にさしていた2本の匕首を抜く。湾曲した分厚いミスリル製のそれこそが、彼女の本当の得意武器だった。

 

「パオレッタ、マリア! その小娘を舞わせるな!」

「わかっているズラ!」

 

 2人は決して油断しない。ツックイーでもこのハーフリングの凄腕ぶりは有名だった。いつの間にかマリアはカウンターを喰らい、右手に深い裂傷を負っていた。

 

 3対1の死闘が始まった。得意の戦法に切り替えたマリベーラは、3人を苦しませた。肉薄し多少の皮膚を斬られてもかまわずに刃を潜り抜けて一撃を与える。武芸者エルフ3人は彼女よりも傷を負ってしまった。

 

「やりよるズラ!」

 

 右腿も斬られたマリアがうめく。パオレッタとミレイユは負傷にかまわずマリベーラを追った。そこにダレンらが加わる。

 

 包囲された。でもマリベーラにとっては好機だった。間隔が密になったせいで、オクタヴィアとオルタンスは掩護射撃に出られなかった。自慢の弓矢で狙ったら仲間にあたる。

 

「しゃらくさいずら……」

 

 オクタヴィアが嘆いたその時だった。マリベーラを囲んでいた数名の背後に、いつの間にか大きな影が数体現れ、襲い掛かって来たのだ。

 

 おおよそ3メートル近くのそれは、とても太っていて分厚かった。まさか、とオクタヴィアが叫ぶ。ミレイユ達は包囲の中心から抜け出したマリベーラの代わりに、そいつらと戦う羽目になってしまった。

 

 さて、ハーフリングを追い詰めようとした亜人達の隙をついたのは何だったのか?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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