※この作品はR-18です。

聖騎士イズヴァルトの伝説【新編】・まとめ   作:CHACOとJAGUAR

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第六十一回

 その姿を見て、オルタンスは呆気にとられた。オクタヴィアは目を見開き歯ぎしりした。ミレイユは舌打ちを。パオレッタとマリアは自分が何を見ているのか、理解することを止めてしまっていた。

 

「なんじゃあ! こいつは!」

 

 ダレンが叫んだ。おそろしくずっしりとした人型の巨体。まるで粘土人形をそのまま大きくしたような、土で出来たそれは初めて目にするものだ。ドワーフの技術や魔法には無かった。

 

「なにぼけっとしておる! こんなもんただのこけおどしじゃ!」

 

 そう叫んだのはダレンとともにイズヴァルトに寝返った、ウィリアムだ。

 

「どうせ土くれの魔物じゃけえ! 破砕術式でどうにかなる代物じゃあ!」

 

 ウィリアムは左手で印を切り、右手に持つ金棒に術式を加えた。30キログラムにも及ぶその破壊槌が薄い赤色の輝きが。

 

「やってやるけえ!」

 

 土くれの巨人は身動き一つしない。ウィリアムが渾身の力を込めた一撃が胴体にぶち当たった。

 

「なにいっ! どういうことじゃあ!」

 

 ウィリアムは驚愕していた。恐ろしく硬く頑丈なはずの金棒が弾かれたのだ。魔物の身体には傷一つつかなかった。ダレンがウィリアムに注意を呼びかける。

 

「ウィリアム! 退け!」

「できるかあッ! うおっ!」

 

 ウィリアムの悲鳴。身動きしていなかった巨人が拳で彼の顔を殴っていたのだ。兜がへこみ鼻血が噴き出すが、頑丈なドワーフはこれしきで死ぬことは無い。

 

 しかしウィリアムは吹っ飛ばされて突っ伏したまま、身動きが取れなかった。それを殺されたものだと勘違いしたドワーフ達がかたき討ちだと息まいて巨人らに襲い掛かった。

 

「ドワーフの衆! そいつはただの造り魔物じゃねえずら!」

 

 叫んだのはオクタヴィアだ。ミレイユが名を告げる。ゴーレムだ。かつてエルフ達が使役した、土や石で造った魔物。本来は荷物運びや子守りをさせていたが、カントニア統一を目論む覇王に悪用された為に製造を禁じていたものだった。

 

「ごーれむ! 聞いたことがあるのう!」

 

 ダレンもかつて話に聞いていた。ドワーフ達も作ろうとして成し遂げられなかった魔法生物だったはず。しかしドワーフは冶金や破砕の魔法は得意でも、高度な術式を施されたからくりを産みだせなかった。

 

「でも、壊せるはずじゃ……!」

 

 武器に破砕魔法を仕掛けた仲間達が、防がれて傷一つ与えられない。ダレンは皆に叫んだ。1対1ではなくて複数人で同時にかかれ。胴体ではなく脚や関節を狙え。身動きさせなければこちらの勝ちだ。

 

「そりゃあ無理ってもんだろうね?」

 

 飛び上がって逃げたはずのマリベーラが、ダレンに襲い掛かっていた。投げ捨てたなまくらの斬馬刀を握り、彼の脇腹に叩きつけた。吹っ飛ばされながらダレンは苦く笑った。すっかりわすれておったわい。

 

 オクタヴィアも動いていた。ミスリルのロングソードを手にマリベーラに襲い掛かる。パオレッタとマリアもそれに加わる。右肩を鋭く斬りつけられ、マリベーラは斬馬刀を落とした。

 

「ちっ。強いの相手と4対1じゃあさすがにやばいね! オクタヴィア、勝負はお預けだよッ!」

「マリベーラさん! おまんは教団にいくらで雇われているずらか!」

「カントニアの相場での倍だよ! ははっ。出せるもんなら出してみな!」

 

 マリベーラの右肩の傷は治っていた。亜人の回復力と治癒魔法によるものだ。匕首を取り出し、オクタヴィアと再び切り結ぶ。カントニア最強の剣士とも言われるオクタヴィアは傷をつけることを許さなかったが、マリベーラのほうが底知れなかった。

 

「あたいはここでずらかるよッ! あとはこいつら、『プラーグのヨッセル』がアンタらのお相手さ!」

「なんずらかその呼び名は! 『ゴーレム』は『ゴーレム』ずら!」

「アタイもそうだと思っちゃいるんだけどさ!」

 

 ゴーレム。エルフの手による同種の造魔は、古代カイロネイア=エルフ語では『やさしい力持ちのおともだち』と言い表されている。この呼び名は転生人によるものだ。

 

 『やさしい力持ちのおともだち』をゴーレムと言い表すようになったのは、オクタヴィアたちエルフらを支配したニンゲンの姦雄、スーワシューロであった。(※注)

 

【ギルバート=カツランダルク注:諸説ある。しかしスーワシューロが転生人だったらしいというのは、最近の研究で有力になっている。前世ではエルフを性奴隷にする絵物語を好んでいたらしい。サガミニアとカイロネイアのエルフの乳の小ささに不満を持ち、割合と巨乳が多い、ミナッカミニアへの侵攻を企図していたという。】

 

 圧政を敷いた支配者の呼び名をエルフたちが使っていたのは、ただ単にそっちのほうが呼び方としてすっきりしていたからである。良いと思えるものはすんなり取り入れる。そうでなければこの世界に、異なる文化や技術をもたらす転生人が活きる場は無いのだ。

 

「それじゃあね、あばよ、南の姉妹たち!」

 

 マリベーラは逃げた。ハーフリングは逃げる時は亜人の中で一番速い。待て、とオクタヴィアが制止するが彼女は、すぐにいなくなってしまった。

 

 ダレン達はあきらめず、『プラーグのヨッセル』などという名前で呼ばれたゴーレムに襲い掛かった。しかし数人がかりでも討ち倒せない。

 

 ミレイユがあきらめろ、と呼びかけるがダレン達はあきらめが悪かった。土くれならば壊せぬわけがない。破砕魔法を込めた斧や槌で打ちかかる。しかし無駄だった。ひび1つつける事が出来なかった。

 

「くそっ。とんでもなく固いけえ!」

 

 破壊の魔法ではなく別の魔法が必要なのだろうか。高温で熱して急激に冷やすのはどうかと1人のドワーフが言った。パオレッタが無理だと答えた。

 

「あんなでかいもんを焼くならできるズラ。イズヴァルトさんがいればな……」

 

 そのイズヴァルトはトールキンとの一騎打ちにとりかかっているままだ。素晴らしい敵に身体が喜んで何度も射精しながら斬り結んでいた。こちらに助太刀するのは難しかった。

 

「たとえ熱しても、冷やすのはどうするズラ?」

 

 マリアが問う。残念ながら氷の魔法は南のエルフはあまり得意では無かった。ミナッカミニアのエルフの得意分野だ。

 

「カタシナシュフの連中にしかできんことずらよ。ただ、こんぐれえのやつらを冷やすとなると……マリベーラさんの妹さんぐらいずらな、できるのは」

 

 オクタヴィアは嘆いた。カタシナシュフ派の大族長・キファニアぐらいの実力者でないと無理だ。苛立ったマリアが紫電砲を右側にいた1体に食らわせた。しかし雷撃は巨大な土くれの生き物の表面に当たると四散した。

 

「だめズラ!」

 

 とにかく逃げた方がいい。ミレイユは高く跳躍する為に印を切り始めた。しかし途中でやめる。自分達とゴーレム達の真上に、光る網目の覆いがいつの間にか現れていたからだ。

 

「……いつの間に!」

 

 叫ぶミレイユ。オクタヴィアがあれを見ろと指さした。北側の建物の屋根の上に人影があった。2人の若い男だ。

 

 両人とも黒髪で、真っ白なローブを身に着けていた。顔は細く整っていたが彫りが浅い。オーガ族の男の様な顔立ちだった。

 

 2人とも首に飾りをかけていた。十字の磔にかけられた長い髪の男の純銀像だった。全裸で、亀頭が剥き出た男性器を露出している。頭には茨が巻き付けられていた。

 

「おまんら、なにもんずら!」

 

 剣の切っ先を向けてオクタヴィアが問う。顔立ちがよく似た2人はうっすらと笑みをうかべ、オクタヴィアに答えた。

 

「我らの神聖魔法はいかがかな? どのようにして打ち破るか、手立てが見つからないだろう?」

「しんせいまほう……? おまんら、どこの魔道士ずら!」

 

 2人のうち右側、左側の男よりも背が頭半分ほど高い男が皮肉めいた笑みを浮かべる。見る相手を逆撫でする様な笑みだった。

 

「フン。お前たちの様な凡愚に教えても理解できぬだろうな。エルフ風情では『きゅうせいしゅさま』が研究し、発展させた神聖魔法を使えぬだろうし」

「たわけ! おらが聞きたいのはおまんらの出身ずらよ! どこのもんずら!」

 

 その2人にはツノが生えていなかった。つまりはニンゲンなのだろう。しかしこの世界にはオーガ男の容貌に近いニンゲンは、オーガとのあいの子しかいない。

 

 オーガとニンゲンが血を混じり合わせる機会が多い大陸ならばある。つまるところはムーツであった。しかしあいの子でもツノは必ず生えるものだ。

 

「ムーツか! オーガとニンゲンのあいの子ずらか!」

「……オクタヴィア。オーガの血が入ると魔法はほとんど使えなくなるのを忘れていないか?」

 

 ミレイユは空を見上げる。魔法の光によるものと思しき網は、広々とした空に張り巡らされていた。エルフでもここまでの規模のものは扱えなかった。

 

「これだけの魔法をオーガ族の混血児が使えるとは思えない……もしかしてお前たちは、魔族なのか?」

 

 ミレイユに2人はあざける様な笑みを返す。ちがう、と背の低い方が答えた。

 

「エルフは長生きと聞いたが、それほど物知りではないのだな?」

「多分忘れたんだよ、兄さん。フン、教えてやろう。俺達は混血児でもニンゲンでも、魔族でもない。れっきとしたオーガ族だ!」

「なにっ!」

「なにもくそもあるか。フン。本当に知らないのだな。ツノが生えずに産まれたオーガがいるのだ! この世には!」

 

 ツノが生えずに産まれたオーガ。それをかの種族は『忌み子』と呼んでいた。オーガ族の特徴である額のツノが無いその子らは、生まれてすぐに里から追い出される習わしであった。

 

 忌み子はニンゲンやゴブリンによって育てられるのが常だった。この突然変異の存在は、倍の生命を得て優れた魔法の使い手となる。魔法が全く使えぬオーガの里では、才能を開花させる事ができなかった。

 

 オーガたちがツノの無い子を嫌うのは、1つの言い伝えがあった。彼等があがめるオーシラ神と敵対する邪神の呪いをかけられ、いずれ里を滅ぼす存在になるだろうだと。オーガ族はその様な昔物語を今も信じていた。

 

「しかし、俺達兄弟はただの『忌み子』ではない!」

「この世界に現れる転生人でもあるのだよ! そしてコーザと共にパラッツォ教の中心となる、枢機の座の者でもあるがな!」

 

 2人は甲高い声で笑い、それから首飾りを手に取った。銀細工の像を口元に寄せ、その男根にそっと口づけた。

 

「主よ、我らを導く救いの預言者よ」

「この者らにも神の御慈悲とお導きを……エイメン!」

 

 この2人こそがオクタヴィアらエルフを。そして、聖騎士イズヴァルトを苦しめる強敵して立ちはだかるのだが、さて、この者達の正体とは?

 

 その続きについてはまた、次回にて。

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